透き通る世界を照らす赫き星   作:お茶犬大家族

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 久方ぶりの更新兼、生存報告。

 実に一ヶ月近くも間を空けるというこの体たらく……誠に申し訳ありません。次回も更新がいつになるかは不明瞭ですが、中途半端な所で失踪する事はないと誓います。心待ちにしている読者の皆様に応えるべく精進して参りますので、今後とも応援よろしくお願い致します。


 それでは本編へ




庭園ラビットダンス

 

 

 放課後。それは長丁場の労働・学業を終えた学生達が安息をとる時間であり、本来ならば皆こぞって気分が沸き立つものだ。ある者はショッピングモールに出掛けて色々な商品を見て回ったり、またある者はもう外にいたくないと自宅でだらだらと寛いだりするのだろう。

 

 だがしかし、我らが『SRT特殊学園』においては形式的には世間と同様に休まる時間とされているものの、常在戦場の心構えを義務付けられた私達には安息など許されない。いついかなる時でも質実剛健の精神を怠らず、武器の手入れや自主訓練に励むよう教えを受けているのだ。

 かく言う私もBEETLE小隊の先輩にコンタクトをとり、今日は近接戦の鍛錬に付き添ってもらう予定。だったのだが――

 

 

 

 

 

「あー、だっっっりぃ……」

 

「もっしー? あぁ、あたいだけど――」

 

 

 

 いざ相対した人間はいかにも怠そうに首を鳴らす者と、私達をそっちのけで誰かと電話をし始める者がいるだけだった。いや、それだけならまだ許容できたのだ。問題なのは――

 

 

 

「SRTが誇る三年生の格好か? これが……」

 

「どうしたんだいサキくん。何か言いたい事でも?」

 

「いや、文句も何も! 貴方達Tシャツ姿だし武装もしていないじゃないか! というか後一人は――「サキ、コガネ先輩ならあっち」ん?」

 

 

 

三花聚頂(さんかしゅうちょう) 天花乱墜(てんからんつい)――」

 

 

 

「瞑想、していますね……」

 

「この状況で!?」

 

「あっ、ちなみに訓練に付き合うのは3人だけだよ。僕はこれから推しのVtuberのライブが始まるからね」

 

 

 この人に至っては配信者優先!? だったらなんで来たんだ!?

 

 

「よし、それじゃあトップバッターは誰かな?」

 

「……ならまずは私からだ。貴方達流のCQC、ぜひご教示願おう」

 

「OK、お相手はそうだなぁ。セツカ、君に決めた!」

 

「隊長のご指名なら仕方ねぇか。分かった、面倒見てやるよ」

 

 

 何はともあれ向こうもやる気は出したのか、肩や首を回して体を解すと私と向き合う。

 

 

「『節制(テンパランス)』の逆位置。時間の無駄だしさっさと終わらせなよ」

 

「ああ、アタシもVery hangry*1だからな。手間はかけねぇよ。後輩ちゃん、お前は自由に武器とか使ってくれていいぜ。それくらいのハンデはなきゃな」

 

 

 しかしへらへらとした態度は抜け切っておらず、完全に私達を下に見た発言ばかり。それに先程も言ったようにSRTの生徒は常在戦場の精神であるべきにも関わらず、目の前の人間達はその教義も矜持もあったもんじゃない。

 だからまずはその鼻っ柱をへし折ってやろうと、私は心の底から意気込む。

 

 

「始め!!」

 

 

 スタートが切られた瞬間、最短の動作で腰に付けたタクティカルナイフを抜き、大地を踏み抜き眼前の人間に肉薄する!

 

 

「「「噴ッッッ!!」」」

 

「メガソマッッ!?」

 

 

 しかしその瞬間、三方向から同時に脇腹・背中・こめかみに蹴りや拳を入れられ私は地面にひれ伏してしまった。

 

 

「おぉ゛!? そんなもんか一年坊主!!」

 

「ほらほら、もっといくよぉ♪」

 

「南無阿弥陀仏……」

 

「ちょまっ、話が違っっ!!」

 

「ん〜? 僕は1on1でやるとは言ってないじゃないか。些細な騙しを経験するのも一つの成長だよ、サキくん」

 

 

 絶え間なく襲い掛かる蹴りの応酬に私は起き上がる事もできず、ただ一方的に集団暴行を受け続けるのみ……!

 

 

「ねぇ、あれって本当に正義を重んずるSRTの生徒? チーマーにしか見えないよ?」

 

「というよりコガネ先輩、つい先程まで私達の後方にいましたよね? どうして今目の前でリンチに加担しているんですか?」

 

「サ、サキちゃん……」

 

 

 

(いやもう、本っ当にいい性格してるな……!)

 

 

 厳格に指導されているSRT生徒の中でもそうだと前々から聞いているし、今までも何度か交流があったから体感してはいたが、どこまでも悠々自適な人達だ!

 ただし戦場に立った時の彼女達の場合はその意味合いが異なる。重力という楔に縛られず縦横無尽に空を舞い、敵を殲滅する姿はまさしく自由の象徴と言えるだろう。

 

 

 厳正な世界の中で異彩を放つ先輩達の姿は私にとって、少々憎たらしい存在でいてそして――

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「……眠ってしまっていたのか。最悪の寝覚めだが」

 

 

 

 そう愚痴をこぼし、目を覚ました彼女の名前は『空井(そらい)サキ』。かつては『SRT特殊学園』と呼ばれる教育機関に籍を置いていたのだが、学園を管轄する連邦生徒会の最高責任者が行方不明になった事に伴い学園は解体されてしまい、現在は子ウサギ公園にて野営生活の日々を過ごしている。

 今日もいつものように朝食用の食材を調達しようと林の中を散策していた筈だったが、どうしてか気を失ってしまっていた。サキはその原因を探るべく未だ覚束無い思考の中、ひとまず右手首に着けた腕時計を眼前に翳す。

 

 

「0612。それほど長い間気絶していなかったのは不幸中の幸いだな。しかし何故――」

 

 

 気を失う前の出来事を必死に思い出そうと横に目を向けたその刹那、自身の側に横たわる一つのキノコに気がつく。

 

 

「もしやこいつの胞子を吸い込んだからか? その可能性はあるな」

 

 

 それはつい先程まで物色していたものだった。色合い的には問題が無いように思え、その近くに生えている同じ見た目のキノコには虫に齧られたような痕跡があるため、食用にするかどうか悩んでいたサキだったが――

 

 

(いいや、やっぱりやめておこう)

 

 

 そう決断した彼女はひとまず回収だけしようと起き上がり、それを食用とは別の袋に放り込んだ。ちなみに昆虫と人間とでは神経系がまったく異なるため、虫喰いのキノコは食べられるという話は迷信なので要注意。*2

 

 

 

 こうして遥々ベースキャンプへと戻ってきたサキ。するとテントの前で三人の少女が会話しているのが目に入った。

 

 

「なんだミヤコ、起きていたのか。いいタイミングで来てくれたな」

 

「ええ、おはようございますサキ。食材の調達をしていてくださったそうですね」

 

「まあな」

 

 

 サキとそうやり取りを交わしたのはRABBIT小隊長である『月雪(つきゆき)ミヤコ』。彼女は昨日の夜間における見張りの番であったため、他の三人よりも長く眠りに就いていたのだ。

 

 

「でも今日はいつもより遅かったね、なにかあったの?」

 

「実はいつも散歩ルートの脇道にここらでは滅多に採れないキノコがあったんだ。だから奥のほうにも何かしら生えていないか探索していたんだが、訳あって気を失ってしまってな……」

 

 

 続けてRABBIT小隊の狙撃手である『霞沢(かすみざわ)ミユ』がサキの安否を気遣い、サキは事の顛末を説明する。

 

 

「ははっ! 流石マリ◯の娘、キノコに目がな――」

 

 

 その瞬間、彼女を小馬鹿にする声がしたが言葉は最後まで紡がれることはなかった。

 

 

「痛っっっだ……」

 

「痛くしたからな。あの人直伝の拳骨だよ」

 

「ああね。ほんっと、頭でっかちな所ばかり似ちゃって……」

 

 

 目に涙を浮かべ、物草いいながら自身の頭をさするのがRABBIT小隊の最後の一人、オペレーター担当の『風倉(かぜくら)モエ』である。そんな彼女の文言を聞き流し、サキはこほんと一息つく。

 

 

「まあ訳は朝食をとりながらでも話そう。まずは準備だな」

 

「そうですね、では私は調味料の用意をしてきましょう。お二人にも手伝いをお願いします」

 

「う、うん……!」

 

「はいはい、隊長の仰せのままに〜」

 

 

 かくして彼女達は朝食の支度のをするため、各自の役割を始めていった。やがてその準備もほぼ完了してきた頃、自分達の元に近付いて来るとある一組の男女にモエが気付く。

 

 

「ん? あれって先生じゃない?」

 

「あっ、本当だ。こんな朝早くからどうしたのかな……」

 

 

 

「"おはよう皆。見たところ朝ご飯の時間らしいけど、邪魔しちゃったかな?"」

 

「いいや、先生ならいつでも歓迎してやるぞ」

 

「まだ済ませていないようでしたら先生も食べていかれますか? 食材は十二分にありますので」

 

 

 そんな一定のやり取りを終えると、ミヤコは先生の隣で静観していた一人の少女に目を向ける。

 

 

「ところで先生、そちらの女性はもしや……」

 

「"ああ、紹介するよ。彼女は星流ホムラ。つい先日、シャーレの専属として入部した生徒だ"」

 

「只今ご紹介に与った星流ホムラだ。不束者だが、今後ともよろしく頼む」

 

 

 先生の紹介を受けたホムラが一歩踏み込んで手を差し出し、ミヤコもそれに応えて彼女の手を握る。

 

 

「ご丁寧にどうも。私は元SRT特殊学園所属のRABBIT小隊長、月雪ミヤコと申します。こちらこそ、本日貴方にお会いできたことを光栄に思います」

 

 

 当たり障りのないファーストコンタクトを終えると、今度はモエがミヤコの背中にのしかかりながらホムラの顔をまじまじと見る。

 

 

「お〜、巷で話題の人間戦闘機さんじゃん。実際に見ると中々に美形だねぇあなた」

 

「モエ、開口一番にそんな無礼を……あと重いです」

 

「なんだとぉ? 私はまだまだ健康的だぞ!」

 

 

 ぷんすこ訴えながらもモエは彼女の背中から離れ、開放されたミヤコも息を入れ直す。

 

 

「その……出会って早々つかぬ事をお伺いしますが、二人はどういったご関係で?」

 

 

 「あんたも人の事言えないじゃん」とモエは心の中で毒づくが、内心自分でも気になっていたため口には出さなかった。それはサキとミユも同様であり、四人はその回答を今か今かと待つ。

 

 

「簡単に言えば、いい名付(なづ)けにされた仲だな」

 

「「「「許嫁(いいなずけ)ッッ!?」」」」

 

「"違う、そうじゃない"」

 

 

 あらぬ誤解を受けそうになる前に先生はそれを否定する。適当な理由も付け加えた事で勘違いも解け、RABBIT小隊の面々は胸を撫で下ろした。

 

 

それはよかった……。ところで、本日はお二人揃って何用で来られたのですか?」

 

「"ああ、それは――"」

 

 

 ミヤコの疑問に対し、先生はその理由を説明する。

 それはキヴォトスの空が紅く染まった事件の日、シャーレは『カイザーPMC』と呼ばれる組織によって占拠されてしまい彼は囚われの身となったのだが、その奪還作戦において大きく貢献してくれたのがRABBIT小隊であった。彼女達の奮闘が反撃の狼煙となり、ひいてはキヴォトスの危機を打破する事に繋がっていったのだ。

 

 

「"皆がいなければ、反撃なんて夢のまた夢だったから"」

 

「私は当時キヴォトスにはいなかったからな。こちらからも礼を言わせてほしかった」

 

「いいえ、私達はただSRTの生徒としての矜持のままに動いただけですから」

 

「ああ、いついかなる時でもSRTの正義は揺るがない。それだけだ」

 

 

 誇らしげな顔でミヤコとサキはそう答えると先生もまた微笑み、肩に掛けていたクーラボックスを置く。

 

 

「"だから今日はお礼の品にと、これをね"」

 

「ん、何かの差し入れか? そこまで気を使わなくたっていいんだぞ、今やすっかり野営生活に慣れ親しんだ私達だからな」

 

「サキの言う通り食料なら私達でも確保できますので、お気持ちだけ受け取らせてください」

 

「"いや、でもこれ――"」

 

 

 彼はそう言うと箱を開き、経木と呼ばれる用紙で包まれた何かを取り出す。そして包みが開けられた途端、ミヤコ達は目を見開いた。

 

 

「なっ! これは……!」

 

「老舗の精肉店にて購入した特上牛ロースだ。そしてこちらはイベリコ豚のサーロイン、それもベジョータのな」

 

「いや、サラッと言ってるけどベジョータって最高ランクのやつだよね!? 牛肉も霜降りだし!」

 

「わ、私達にこんな高級品を……!? 流石にその畏れ多いといいますか……」

 

 

 最高級の肉を前にして困惑する彼女達の反応を受け、先生は渋々といった表情でそれをしまう。

 

 

「"皆がいらないなら仕方ない……カップ麺にでも入れて――"」

 

 

 しかし彼がその発言をした瞬間、ミヤコ達の眼光は一気に鋭いものとなった。

 

 

「先生、今なんとおっしゃいました?」

 

「"え? だからカップ麺の具にしようと――"」

 

「お……お言葉ですが先生、それは最早金塊をガンジス川に投げ捨てるが如き暴挙です!」

 

「だいたい、これだけの肉を二人で消費しきれるのか? 今ここでなら、食べる人間はいくらでも……」

 

「"大丈夫だよ。ホムラはかなり食べるほうだから、持て余す事はないさ"」

 

 

 頑なにカップラーメンの具にしようとする彼により肉の運命はこれまでか、と思われた時だった。

 

 

「……すまんが、私はここ最近小食でな。誰か食うのを手伝ってくれる者達がいればいいんだが」

 

「って、言ってるけど?」

 

 

 

「"じゃあ、みんなで食べようか"」

 

 

 はにかんだ笑みでそう言った彼に続き、RABBIT小隊の四人も歓喜に包まれる。

 

 

「それでは網の準備は私にお任せください」

 

「私も二人の分のお皿取ってくる……!」

 

「ほいじゃ、私は火力の調整でもしますかね〜」

 

「中々お目にかかれない高級肉なんだ。それ相応の付け合わせを用意しなくては……」

 

 

 それぞれが竣敏な動きで食事の支度を進める光景を前に、先生とホムラはひそひそと会話していた。

 

 

「"なんとか上手くいったね。口裏も合わせなかったのに"」

 

「貴様の考えくらい想像つく。しかしこんな回りくどい真似をする必要があったのか?」

 

「"うん、ミヤコ達なら遠慮して受け取らない可能性もあったから。……ところでカップ麺って言うほど駄目かな?"」

 

「……それだけは本気だったんだな」

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 こうして青空の下、緑豊かな公園にてバーベキューにありついた彼女達。普段は味わえる事のないリッチな食事に舌鼓を打つRABBIT小隊の姿に、先生もまた朗らかな気分となっていた。するとある時、ホムラがぼそっと呟き始める。

 

 

「しかし肉と偏に言っても、サーロインやロースなど様々な呼び名があるものだな。以前までは深く考えた事がなかった」

 

「深く考えた事がない……どことなく気位の高さを感じますし、もしかしてどこかの富裕層だったり……?」

 

「そういう訳ではない。人より少し変わった生活を営んではいたがな」

 

 

 自己肯定感が著しく低い自分とは正反対の空気を纏う彼女にミユはそう考えるが、本人はそれを嘘にはならない程度で否定する。

 

 

「食べるのは勿論ですが、独特な部位の名称の由来を覚えるのも焼肉の楽しみ方の一つですよ。ちなみにサーロインの語源はフランス語名の『surlonge』。*3ロースは『ロースト用肉』から派生したものですね」

 

「へぇ、それは知ら――「あっ、この小さい肉美味しい! なんて部位だろ?」んっ」

 

 

 ミヤコの論説に感銘を受けたその時、ホムラの台詞を遮る形でモエの声が響く。

 

 

「そいつは確かドテと言ったな。滅多に入荷しないとのことで肉屋の店主に薦められた物だ」

 

「ドテ、ですか? とても牛すじには見えませんが……」

 

「実は焼肉ではとある部位の肉もドテと呼ぶそうなんだ。曰く()()()()()()()()()()()だとか」

 

 

 その解説をされた瞬間モエは何かを悟り、体も石像のように硬直した。

 

 

「え、それってまさか……」

 

 

 

 

「ああ、つまりは肛門だな」

 

「ブフォォヴヴェェ!!」

 

「モ、モエちゃぁぁぁん!!」

 

「なんだ、たかが肛門程度で騒ぎ立てて。選り好みなんてしていたら自然界で生き抜くのは厳しいぞ。骨や臓物といった至る所まで食っておかねば、次いつ飯にありつけるのか分からんのだからな」

 

 

 凄まじい勢いで口の中の物を吹き出すモエ。その有り様に絶叫するミユとは対照的にその元凶は堂々としていた。

 

 

「私はホムラの言う事にも一理あると思うぞ。サバイバルにおいて、どんなゲテモノにも臆さない不動の精神は持っておくべきだ」

 

「ほほう、話が分かるじゃないか」

 

「ああ、だがさっきチラッと見えていたリンゲルだのボーデンだの、何やら()()()()()()()()()()は間違ってでも焼こうとするなよ?」

 

「……」

 

 

 同意してもらえたと思った矢先、サキにそう釘をさされたホムラは分かりやすく気を落とす。その光景に先生とミヤコはたまらず苦笑いを浮べる。

 

 

「ホムラさん、どうやら思っていたよりもずっとワイルドなお方のようですね……」

 

「"ま、まあね……"」

 

 

 その後も彼らは談笑を交えながら焼肉を楽しんでいった。やがて腹も八分目まで満たされた頃、サキはとある事を思い出す。

 

 

「そうだ、焼肉で忘れるところだったがお前達に聞きたい事があったんだ」

 

 

 するとサキは茶色い袋を手に取り、その中に入れてあった物を取り出す。それは今朝、目を覚ました彼女の横に転がっていたキノコであった。

 

 

「このキノコなんだが、私は見たことのない品種でな。眠ってしまっていたのもこいつの胞子を嗅いだのが原因と踏んでいるが、何か知らないか?」

 

 

 彼女は仲間達にそう問いかけるが三人ともピンと来ていない様子であった。先生も微妙な反応を見せたその時――

 

 

「こいつは……」

 

「"ホムラ、知ってるの?"」

 

「ああ、こいつは『クタビレタケ』。私がいた世――国に存在するキノコであり、本来ならキヴォトスには発生しない種類。つまるところ外来種だ」

 

 

 ホムラの口から語られた情報により、彼女を除いた全員の表情が一気に険しくなる。

 

 

「新種かと思っていたがまさか外来種とはな。そんなキノコがどうして公園に……」

 

「と……ところでこのキノコって、やっぱり毒キノコなんですか?」

 

「ざっくり言えばそうだ。死に至ったという話は聞いた事がないが、こいつを捕食した生物はたちまち強い倦怠感に襲われる。だがそれでも、世の中にはそんなキノコをも平然と食らう者も存在するが」

 

「少なくとも人間が食べられるような代物じゃないって訳ね。サキ、あんたなんてもの持ってきてるのさ」

 

「私はこいつを食えとは一切言っていない! 事実、焼こうとしたキノコとは別々の袋に分けていただろう!」

 

 

 そう言い争うサキ達を他所に、ホムラは頭の中で一つの仮説を立てていた。

 

 

(以前あの男が見せたウチケシの実や、今回発見されたクタビレタケ。もしかすると元の世界に戻る糸口になるやもしれん)

 

 

 

「サキ、其方さえ良ければそいつを引き取りたいのだが」

 

「扱い方を碌に知らない私には無用の長物でしかないからな、特に問題はない」

 

 

 そう言ってサキは袋ごと手渡し、ホムラも「恩に着る」と一言だけ返す。すると今度はミヤコが何かをはっと思い出し、先生に問いかける。

 

 

「ところで先生、カイザーPMCの一件にて紛失した物はございませんか?」

 

「"いや、特になかった気がするけど……どうして?"」

 

「いえ、シャーレには連邦生徒会関連の重要な資料等が沢山あるでしょうから少し気掛かりで……」

 

「"うーん、それならまた時間がある時に確認してみるよ。気にかけてくれてありがとう"」

 

 

 先生が彼女に一言礼を添えて一旦その場を流そうした時、モエが口を開く。

 

 

「ああ、だったら私が今から確認してあげるよ。監視カメラをハッキングしてその記録を遡れば何か分かるかもしれないし」

 

「"いいの? ごめんね、わざわざ"」

 

「焼肉奢ってもらえたからそれくらいはね〜」

 

 

するとモエは機材を取り出し、キーボードを叩く音を小刻みに鳴らしながら手筈を進めていく。その作業が完了するのに時間はさほど要さなかった。

 

 

「繋がったよ、これが事件当日の映像」

 

 

 画面が点灯したと同時、RABBIT小隊の四人は身を寄せ合いながらディスプレイを覗き込む。

 

 

「ん、こいつらは確かカイザーお抱えの兵隊だったな。ご大層な武器を持ってたわりには大した事なかったが」

 

「事が上手く運んだのも、ミユが狙撃で敵兵を撹乱させたお陰ですよ。彼女の援護がなければこちらも一定の被害を受けていた可能性は否めません」

 

「私だって、ミヤコちゃん達がそれぞれの位置関係を伝えてくれなかったらスムーズに狙撃できなかったよ。二人がいたから――」

 

「お三方、武勇伝に浸るのもいいけど奴らの持ち物をちゃんと見といてよね。んーと、この辺り以降は私達が見張ってたから少し巻き戻して――ん?」

 

 

 画面を凝視していたモエが突然怪訝な面持ちを見せたため、先生は彼女に呼びかける。

 

 

「"モエ、何か分かったの?"」

 

「映像を見てたら変な覆面姿の兵隊が映ってさ。カイザーPMCの所属でもなさそうだし、それにこいつら、入ってくる時には持ってなかった何かを手にしてる」

 

「"それがどんな物かは特定できる?"」

 

「それが……画質が粗くてはっきりとは分からないなぁ」

 

 

 彼らがそんなやり取りを交わす中、今度はミヤコとサキが眉間に皺を寄せる。

 

 

「サキ、この傭兵達の装備……」

 

「ああ、間違いない」

 

「ど、どうしたの二人とも……?」

 

 

 小声で話す二人の様子を受けてミユも自然と声が小さくなり、彼女達は先生に聞かれない程度の声量で話し出す。

 

 

「こいつらが手にしている装備、これは――」

 

「っ、本当だ! なんで――」

 

「……恐らく、以前私達が――」

 

 

 

 

「ミヤコ達、何だか怖い顔をしてるけどどうしたのかな?」

 

「……さあな」

 

 

 次第にモエとミユの顔も強張り、彼女達の並々ならぬ雰囲気に先生も不安な表情を浮かべる。やがて話もある程度纏まったのか、四人はおもむろに散開した。

 

 

「"ねぇ皆、一体何が――"」

 

「二人には関係ない事だ。事あるごとに心配される筋合いはない」

 

「"そっか。ところで皆もお腹いっぱいなら、もうお肉片付けちゃうけど……"」

 

「ええ、お願いします」

 

「"分かった。じゃあまた後でね"」

 

 

 そう頷いた彼は残りの肉をクーラーボックスに戻し、それを担ぐと自身の職場へと運ぶべく立ち去る。次第に彼の影が見えなくなった時。

 

 

「いやしかし、まさかの事態って感じだね……」

 

「もしかして私達、お礼してもらうどころか先生に大変な迷惑をかけちゃったんじゃあ……!?」

 

「まさしくだな。そうとなれば、こうして悠長に一服している場合じゃない」

 

「はい。ホムラさん、申し訳ありませんが――「みなまで言うな、事態は把握している」え?」

 

 

 ホムラに事情を説明しようとした刹那、彼女に制止されミヤコは呆気にとられる。

 

 

「全部聞こえていた。流通する筈のないSRTの武器が、何故かシャーレを襲撃した傭兵の手に渡っていたと」

 

「……なるほど、随分と耳がよろしいようで」

 

「なら話は早い。止められる謂れはないだろう」

 

「私は別に止めはしないが、いいのか? 奴に一言入れなくて」

 

「ええ。先生は勿論のこと、ホムラさんもシャーレのお仕事で忙しいでしょうから」

 

「余計な心配事をさせて業務を滞らせてはいけないからな。私達だけで解決できる事案は私達だけで片付ける」

 

 

 

 

「それではホムラさん、先生によろしくお伝えください」

 

 

 そう締め括ったミヤコは一礼し、装備を整えるとその場から立ち去る。隊の仲間も彼女に続きぞろぞろと退散していった。

 

 

「"ただいま――ってあれ、ミヤコ達は?"」

 

「急用が発生したと言って出掛けた。心配には及ばんと一言添えてな」

 

「"……そう"」

 

 

 彼は納得したような反応を見せるものの、胸中に抱く懸念は顔にも現れていた。

 

 

「やはり、気になるか」

 

「"うん。もし私の為に生徒が危険を冒そうとしているのなら、指咥えて待ってる訳にいかないから"」

 

 

 どこまでもお節介な奴だとホムラは心の声でこき下ろすも、重たい腰をゆっくりと上げる。

 

 

「分かった。幸いまだ遠くには行っていないようだ、追い付くのに時間はかからないだろう」

 

「"そういえばホムラは嗅覚も優れていたね。もしかしてミヤコ達の臭いを?"」

 

「ああ、あの者達の臭いは独特なので覚えやすかった。とはいえ、猟犬のように頼られては困るがな」

 

 

 そう言いながらも彼女は不適な笑みを見せ、先生もにやりと笑い返す。

 

 

「"いいや、猟犬とは比較にならないくらい百人力だよ。じゃあ行こうか"」

 

 

 彼に対してホムラは無言で頷き、二人はRABBIT小隊の行方を追っていった。しかし彼だけでなく天彗龍というイレギュラーの介入により、本来回る運命の歯車は変則な動きを徐々に見せていく事になる。

 

 

 

*1
誤字ではない。『Hangry』は『Hungry』と『Angly』が組み合わさった造語もといスラングであり、英語圏では度々見受けられる単語。意味としては『腹が空いてイライラしている』というニュアンスになる。

*2
無毒の種でも他の毒キノコの胞子が付着している可能性があるため、野生のキノコの水洗いは必須。

*3
「美味しさのあまり王様が爵位を〜」というのは俗説






 発売からそれなりに日が経っているとはいえ、ネタバレが苦手な方々のためにある程度抑えた上でWildsの感想を一つ。



 正直レ・ダウやアルシュベルドよりドシャグマのほうが体感的にずっと強いっす()

FOX小隊の中で最推しは?

  • ユキノ
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  • オトギ
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