透き通る世界を照らす赫き星   作:お茶犬大家族

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 今回のお話で()()の正体がほぼ明かされます。




再臨果たして銅鑼を鳴らす

 

 

 FOX小隊が立ち去った後、ここに長く留まる理由はないと私達は子ウサギ公園まで戻った。現在の時刻は17時20分。雨も止みはしたものの、空は依然として鉛色のまま。そんな微かに蒸し暑い天候の下、RABBIT小隊の皆から事情を改めて聞いていた。

 

 

「"そう、やっぱりあの日シャーレにいたのはFOX小隊だったんだね"」

 

「はい。黙っているつもりでしたが、逆にご心配をおかけして申し訳ありません……」

 

「私達が原因で先生を危険に晒したなると忍びなくてな……」

 

「"謝らないで、皆が悪い訳じゃないから"」

 

 

 かたじけないといった面持ちのミヤコとサキに謝罪されるが、彼女達なりに私の事を気遣った上での行動だとこちらも理解している。だから過剰に自分を責めないでほしい。

 

 

「だけど私達はそんな事もつゆ知らず、公園でのほほんと焼肉を楽しんで……。先生にお詫びをしようにも……たとえ私達の全財産でもお肉の価格には到底及ばないでしょうし……。こうなったらもう……毎日の廃棄弁当を先生に渡すしか……!」

 

「いらん。お前達でとっておけ」

 

「とにかく――今の私達が先生に対してできる最大の贖罪は、彼女達がシャーレから持ち帰った()()を取り返す事です。……FOX小隊の先輩方を相手にそれができれば――の話ですが」

 

「それなんだが、結局のところ先輩達はオフィスから何を持ち出したんだ? 映像を見た限り、そこまで大きな物ではなさそうなんだが……」

 

 

 首を傾げ悶々とするサキに続き、各々がその何かについて考察を始めていく。

 

 

「極秘の部屋に通じるルームキーなどでしょうか?」

 

「高級レストランの優待券、とか……?」

 

「ん〜、先生秘蔵の18禁雑誌とか?」

 

「分かった。生徒の盗撮写真だな?」

 

「"なんか段々酷くなってない?」

 

 

 特にホムラは私の事をなんだと……。せいぜい生徒の足を舐めたり、生徒に首輪を付けて散歩させたり、温泉で生徒と混浴した事があるくらい――

 

 

 うん、やることやってるね。

 

 

「"まあそれは置いておいて……よかったらFOX小隊について教えてもらっていいかな?"」

 

「そうですね、一言で言えば彼女達は――」

 

「SRT特殊学園で――いや、キヴォトスで最も秀でた特殊部隊だ。個々での戦闘力なら彼女達以上の実力者は少なからず存在するだろうが、集団戦においてFOX小隊を上回るような部隊はいないと言い切れる」

 

「特殊部隊は通常の交戦のみならず、いかなる状況下でも作戦を遂行できるよう訓練されています。中でもFOX小隊はまさしく、SRT特殊学園が求めるような特殊部隊の理想形と言える方々でした。必要でしたら、彼女達の大まかな説明もしますが――いかがされますか?」

 

「"うん、お願いするよ"」

 

 

 自分達にとって信頼できる大人だと認められた時のためにも、少しでも彼女達の人物像を把握しておきたい。私の要望にミヤコは「分かりました」と一言だけ返し、四人はFOX小隊についての解説を一人一人行なっていった。

 

 

「例えば副小隊長のニコ先輩は、頼れるお母さんって感じだったかな。その面倒見の良さは小隊の中だけじゃなく、作戦前の部隊にいなり寿司の差し入れをする事が多かったよ」

 

「うん……私もSRTに入学したての頃はニコ先輩によく助けられたな……。私だけじゃなく、他の小隊員の子達もよく相談に乗ってもらったみたいだし……」

 

「しかしその優しさの裏には、乱戦の中でも的確な判断を下せる冷静沈着な一面も秘めていた。噂によれば、戦闘で消費した弾丸や支給品の数を正確に記憶しているとか。そういった意味では、うちのオペレーターにも見習ってほしいんだがな」

 

「余計なお世話じゃい。ただ基本は温和なニコ先輩とは対照的に、クルミ先輩はカリカリしている事が多かったよね」

 

 

 サキの粘りつくような視線を受け、モエはむっとした表情を浮かべながらもクルミという少女の話題に逸らす。

 

 

「だがその気難しさも、常に緊張感を持っているという意味の裏返しでもある。戦場では少しの油断が命取りになるからな。ポイントマンの鑑だよ」

 

「それに加えて、彼女はあらゆる状況に柔軟に対応できる決断力がありました。緊急の事態が起きようが決して狼狽えず、速やかにその場の地形を利用して地形を確保できるのだとか」

 

「あれだっけ? 作戦中に銃がお釈迦になっちゃった時、相手の武器をひったくって敵陣を強行突破したって話」

 

「すごいな……私のような人間からすれば、ただ即応力があるだけでも羨ましい限りだ。私なら教範通りの行動をして、たとえ上手く進んでいた計画でも水の泡にしかねない」

 

 

 クルミの逸話を聞いたサキは腕を組み、うんうんと頷きながら思案に耽る。

 

 

「そこまで自分を卑下する必要はありませんよ、サキ。――とそれは一旦置いておいて、次はFOX小隊の狙撃手であるオトギ先輩ですね」

 

「私自身多く関わる事はありませんでしたが、他の小隊の狙撃手とは異なる雰囲気がありました……」

 

「まあ隅っこで息を殺しているような孤高の戦士って感じではなかったよね。むしろ結構目立つ事の多い人で、学内ではいつも話題の中心だったかな〜」

 

「"だけどスナイパーにとって目立つ事は悪手なんじゃ?"」

 

 

 オトギの人物像についての疑問を投げかけると、サキは首を横に振った。

 

 

「いいや、そうとも言い切れないぞ。ただ一人を狙い撃つだけならいざ知らず、集団戦において敵兵の足止めをするには一定の存在感が求められる。過去にオトギ先輩がいるチームと模擬戦をした事があるが、いつどこから弾丸が来るか分からないという緊張感で心がいっぱいだった」

 

「優れた狙撃手は一つの弾丸で複数人を制圧できると言います……。また偵察状況を利用するには、仲間との連携が必要不可欠ですから。まあ……敵はおろか仲間にも存在を忘れられるスナイパーも中にはいますが……」

 

「いやいや、どっちかと言えば仲間の数も数えられないポイントマンのほうが問題じゃない? ねぇサキ」

 

「やかましい!」

 

 

 先程のお返しと言わんばかりにモエは嫌味を吐き、それに向かってサキも声を荒らげる。その直後、ミヤコが咳払いをして二人の注意を引き話を戻した。

 

 

「そしてリーダーであるユキノ先輩ですが……」

 

「……あの人は完璧すぎるからか、むしろ語れる話が少ないよね〜」

 

「ああ、なんでも小隊員の動きを秒単位で統制できる辣腕の持ち主だとか」

 

「仲間からも絶対的な信頼を得ているようで……彼女の命令なら、FOX小隊は物言わず従うらしいです……」

 

 

 

 

 

「――以上が、FOX小隊のおおまかな解説です」

 

「"なるほど。かなり高く評価されているんだね"」

 

「ええ、それに先輩方は私達の夢でした。目指すべき目標であり、憧れの存在。……FOX小隊はどのような面でも、RABBIT小隊以上の成果を収めますから」

 

 

 そう唱えるミヤコの表情には憧憬の念が伺えるが、同時に劣等感に苛まれているようにも見える。だから私ははっきりとこう伝えた。

 

 

「"世の中に完璧な人なんていないよ。それにミヤコ達にしかできない事もきっとある"」

 

「そう言って下さる事に感謝します。ただそれにしても……あの頃のユキノ先輩は太陽のように輝いて見えたのに、今日出会った彼女の目は深海の如く一切の光がありませんでした。もしかすると私の知らない間に、何かがあの人を変えてしまったのでしょうか……」

 

「"ミヤコ……"」

 

「未熟な子供である私達は先輩に全ての責任を委ね、言われた通りに従うべきなのでしょうか……。三人は、どう思いますか?」

 

 

 ミヤコはRABBIT小隊の三人にそう呼びかける。しかし彼女達も言葉を詰まらせ、即座に答えを出すというのは難しいようだ。

 だがそんな時、彼女の一言が空気を一変させる。

 

 

 

「憧れ……目標……か」 

 

 

 

 

「確かにそう言っている内は、お前達は永遠に子兎のままだろうな」

 

 

 

 これまで口数の少なかったホムラがそう言い放った瞬間、周囲の空気は一気に張り詰めたものとなった。そしてサキとモエが牙を剥いた獣のような眼光で睨み付ける。

 

 

「随分と言ってくれるじゃないか。思うがままに空を飛べるが故の上から目線か?」

 

「それに言っておくけど、あんただけが特別って訳じゃないからね? 我が物顔で飛びまくって、その内BEETLE小隊に目を付けられる事になっても知らないよ」

 

「二人とも、気持ちは分かりますが落ち着いてください」

 

「「……ラジャー」」

 

 

 次第にホムラに突っかかろうとするサキ達だったが、比較的冷静であったミヤコが二人を宥める。彼女の言葉によってサキとモエは溜飲を下げ、私はモエの一言のある部分が気になっていたため問いかける。

 

 

「"ところで、その……BEETLE小隊って?"」

 

「聞き逃していなかったのか、別に隠すつもりもないが。BEETLE小隊はFOX小隊と同じ三年生の部隊で、他の小隊との合同任務では人命救助などのサポートに回るのが大半だった。そしてなんといっても最大の特徴は、各々が生まれつき持った翼で自由自在に空を駆け巡る事だろう」

 

「なに……空を?」

 

 

 眉を寄せ聞き返すホムラに、ミヤコは静かに頷く。

 

 

「部隊の構成は私達と同じように四人編成。私達RABBIT小隊やユキノ先輩率いるFOX小隊が、街中や施設内での任務を充てられることが多かったのに対し、BEETLE小隊は険しい山岳地帯や広大な樹海といった自然界での活動が殆どでした」

 

「キヴォトスでは羽が生えてる人自体は珍しくもなんともないけど、その上で飛べる人間がいるってのはあんまし聞かないからね。だから一層、あの人達は重宝されてたんだ」

 

「だがいざ戦闘部隊としての一面を出した時には、ありとあらゆる空撃部隊が地に沈んだ。『キヴォトスの空はBEETLE小隊の支配下にある』と言っても過言じゃないだろう」

 

 

 BEETLE小隊という少女達の数々の評説を聞くや否や、ホムラは目をギラつかせ前のめりの姿勢になった。

 

 

「ならそのBEETLE小隊について、もっと聞かせてもらおうか」

 

「ええ、勿論です」

 

 

 先程の緊迫した空気から一転、彼女が食い気味に迫るとミヤコは毅然とした様子で返答し、先程のようにBEETLE小隊の詳細を語り始めた。

 

 

「まず副隊長のコガネ先輩は、常に礼節を重んじる武道家だった。なんでもサフ・ラン・キンポーという武術家の末裔らしく、幼少期から武の技術を叩き込まれていたんだと。その英才教育にSRTでの訓練が合わさったことで、肉弾戦においてあの人の右に出る人間は存在しなかったな」

 

「しかし彼女は時に、学内の生徒達に恐れられることもありました」

 

「"それはどうして?"」

 

 

 私がそう聞いた途端、彼女達は苦虫を噛み潰したように顔を強張らせる。

 

 

「実は……学内の人間が何かしらの不手際を起こせば、彼女の磨き抜かれた拳が脳天に叩き込まれるんです。それは部隊の内外問わずの制裁であるため、特に後輩達は皆真面目に学業に励むようになりました」

 

「あの人の拳骨って本当にヤバいんだよ……なんなら鉄パイプで殴られるほうがマシだと思えるくらいにはね。私も爆薬を無駄遣いしちゃう度に喰らってさ、最早どれだけもらったか覚えてないや」

 

「むしろなんでお前は全く反省してないんだ? あれで大多数の問題児は大人しくなったんだぞ」

 

「爆発は私の生き甲斐にして芸術! 直すつもりは毛頭ない!」

 

「……大したやつだよお前は」

 

 

 ふんすと鼻を鳴らし大威張りするモエに対し、サキは呆れた目付きを送る。すると今度はオドオドした様子でミユが口火を切った。

 

 

「でも……私からするとセツカ先輩のほうがずっと怖かったかな……。あの三本角を見るだけで全身がすくみ上がったし……失神なんてもっぱらだったし……」

 

「完全にトラウマを植え付けられているな」

 

「ああ。彼女の場合、もはや敵にまで異常者呼ばわりされた闘争心の持ち主だったからな……内気なミユにとっては最悪の相性だろう。無理もない」

 

「銃火器での交戦がもっぱらのキヴォトスで、ナイフでの白兵戦を好むほどに猟奇的な人でさ〜。あの人が現れると現場は瞬く間に血の海と化したもん」

 

「"それは凄まじいね……"」

 

 

 などと言いはしたものの、これまで好戦的な生徒には少なからず出会ってきている。すぐ隣にいるホムラもその類いであるため、もしかするとセツカと馬が合うかもしれない。

 

 

「それだけではありません。彼女は部隊の中で最も足が速く、更には飛行速度も秀でていた。あの悪魔のような人がとんでもないスピードで迫ってくる光景はスプラッター映画さながら……。それでも昔よりは大人しくなっているらしく、幼少の頃は手がつけられない程の荒くれ者だったようです。つまり育ち方によっては殺人鬼になっていた可能性もある。強いて言える長所など、料理が上手い事くらいのサイコパスです」

 

「ミヤコ、何か先輩に恨みでもあんの?」

 

 

 彼女らしからぬ毒舌にモエはツッコミを入れる。そこから数拍置いた後、正気を取り戻したミヤコは次の人物の解説に入った。

 

 

「失礼しました。さて次はBEETLE小隊のスナイパーであるミナト先輩ですね。彼女は少々――というより大分変わったお方でした」

 

「ああ……あの人ねぇ……」

 

 

 ミナトという少女の話題になった途端、今度はモエが顔を引き攣らせる。

 

 

「"もしかしてミナトも結構癖があったり?"」

 

「うん。言い表わすならトリックスターというか? ニヒルな言動がやたら目立つ人でさぁ、先の二人とはまた別のベクトルで後輩に怖がられてたんだ」

 

「中でも印象的だったのはやはり、タロットカードでのお告げめいた言い回しでしょうか。その大半が捻くれた解釈ばかりでしたが、彼女の代名詞でもありましたね」

 

 

 荒法師、野武士に続いて今度は道化師か。BEETLE小隊――中々の色物揃いだね……。

 

 

「だけど……先輩の狙撃者としての技術も本物だったよ……。上空3000mなんて高所にまで飛んで一方的にターゲットを撃ち抜いたり、高速移動中の列車内の標的を正確に狙い撃ったこともあったなぁ……。更にはIQ170という高い知能で跳弾の軌道を正確に計算できる上、空間把握能力も飛び抜けていて……そんな人に比べたら私なんて……」

 

「"いいや、ミユだって負けてないさ。約2km先の標的を大嵐の中狙い撃つなんて芸当、君くらいにしかできないよ"」

 

「えぇ!? あ、ありがとうございます……」

 

「……『正義(ジャスティス)』の逆位置。すけこまし」

 

 

 ミユを誉めそやした途端、何故か彼女は顔を赤らめ下を向く。か細い声でモエに糞味噌に言われたような気もするけど、気のせい……だよね?

 

 

 

「そして最後に小隊長のツキノ先輩ですが――

 

 

 

weeeeeeee-wooooooo!! 

 

 

っ、これは……?」

 

 

 そうしてミヤコが最後の一人らしき少女の説明に差し掛かろうとした時だった。街灯に設置させられていたスピーカーが突如、けたたましいサイレンを公園中に鳴り響かせたのた。

 

 

「"連邦生徒会の……緊急アラート?"」

 

「くそ、今度は一体なんなんだ……」

 

 

 突然の出来事に私達は唖然としながら吐露する。すると今度は無機質な自動音声がスピーカーから発せられた。

 

 

『キヴォトスの皆様にお知らせ致します。間もなくキヴォトス連邦生徒会より、緊急声明が行われます。市民の皆様は直ちに連邦生徒会の公式チャンネル、もしくはクロノスチャンネルをご視聴ください』

 

 

 

「連邦生徒会からの緊急声明だって? 少し待っていろ、今すぐスマホを繋げて――」

 

「わざわざそんな事しなくてもいいよ、サキ。あそこ見て」

 

 

 モエが指差す方角の上空を見上げると、そこには一つの飛行船が浮かんでいた。船体の側面にある広告ビジョンは連邦生徒会と現在中継が繋がっており、演台に立つ一人の少女が映し出されている。

 彼女は確か――

 

 

 

『親愛なるキヴォトスの皆様、こんにちは。私、連邦生徒会防衛室長の『不知火(しらぬい)カヤ』と申します。唐突にこのような会見を行い、市民の皆様に不安をおかけすることをお詫び申し上げます』

 

 

 

 そうだ彼女は以前、ヴァルキューレ警察学校で出会った連邦生徒会所属の生徒だった。連邦生徒会とは元々リンちゃんが行政官として務める『統括室』と、財務室や交通室などの11つの部署を纏めた『行政委員会』と呼ばれるグループから成り立っており、それら全てを管轄する存在こそが連邦生徒会長という人物だったのだ。

 そして現在こうして演説をしている彼女も、行政委員会を構成する組織の一つ。防衛室の室長であるカヤという生徒であった。そんな彼女がどうして、一切の前触れもなくこのような事を……?

 

 

『しかし昨今、キヴォトスは度重なる未曾有の災禍に曝されてきました。中でも空から降りてきた正体不明の建造物により都市部の機能が麻痺し、ひいてはキヴォトス全土が混乱に陥った出来事は皆様の記憶にも新しいかと思われます』

 

『あのような危機的状況にも関わらず、連邦生徒会は事態の解決をシャーレと各自治区に丸投げし、D.U.地区の復旧作業にのみ力を入れていたのです。これは直ちに猛省すべき痴態であると私は考えました。とはいえこれらの問題は全て、最高決定者である連邦生徒会長代行の七神リンが事件当日にその姿を消し、自身の責務を放棄した事に起因するでしょう』

 

 

 カヤは淡々と言ってのけたが、そんな事はない。むしろリン達は事件解決のためにキヴォトスを奔走し、最前線でシャーレと共に戦っていたのだ。だがその反論は当然届く筈もなく、それどころか私はこの直後、自分の耳を疑う事になる。

 

 

 

『この事を受け、我が防衛室では彼女の責任問題を追及し、保留中であった不信任決議案が可決され――本日を以って七神リン行政官をその役から解任。また連邦生徒会長の代行につきましてはこの私、不知火カヤが新しく務めさせていただく運びとなりました』

 

 

 

「"リンちゃんが更迭……!? ホムラ、何か聞いてる?"」

 

「いいや、私も何一つ伝えられていない。向こうで一体何が……」

 

 

 やはりホムラにとっても青天の霹靂な出来事のようだ。未だ気持ちの整理が付かない私達を置き去りにするように、カヤはそれでも演説を続けていく。

 

 

『そしてシャーレの先生、貴方もきっとどこかでこの映像をご覧になっている事でしょう。この放送の終了後、連邦生徒会のレセプションルームへどうか()()()()お越しくださいませ。連邦生徒会一同、貴方のお越しをお待ちしております。それでは――』

 

 

 彼女が締め括った数秒後、臨時放送は終了した。それにしても私一人で……か、それはつまり。

 

 

「私はお呼びでないということか、連邦生徒会一同などと(のたま)っていながら。聞く必要はない、私も――」

 

「"いいや、ホムラはシャーレで待機していて"」

 

「……何故だ、罠だと見抜けない貴様でもないだろうに」

 

「"私なら大丈夫だから。お願い"」

 

 

 私は彼女の瞳をじっと見返す。それでもホムラは最初こそ、何か言いたげな表情であったが――

 

 

「……分かった。だが何かあれば即座にアロナ達を介して私を呼べ、すぐに駆けつける」

 

「"うん、ありがとう"」

 

 

 彼女はただそう言い、私の意思を汲みとってくれた。ミヤコ達にも事情を理解して貰えたため、彼女達に断りを入れて今日のところはひとまず解散となった。

 

 こうしてホムラは私の頼み通りにシャーレに戻っていき、自分はカヤの目的・真意を確かめるべく連邦生徒会に向けて足を運ぶ。

 

 

 だがこの時の私の選択こそ、思いもよらぬ展開を生む事になる。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「ええ、シャーレの先生に送迎車の手配を。――はい、ではそのように。失礼致します」

 

 

 そう相手方に締めの言葉を送り、電話を切る。後ろを振り向けばそこは連邦生徒会長の執務室の中。しかし当人は現在消息を絶っているため、この部屋は彼女の代行として選出された者に授けられる。

 そして今、その座に着いているのはこの私、不知火カヤだ。

 

 

「ふふ、ようやく――ですね♪」

 

 

 やっとだ、やっとこの日を迎えられた。憎き七神リンを、連邦生徒会長代行という座から失脚させる事に成功したのだ。先述したように本来であればこの部屋は、連邦生徒会長(超人)がおわす王の間。その彼女が行方不明となった後、最初に代行に抜擢されたのは私ではなくリン行政官であった。

 連邦生徒会長の目を疑っている訳ではありませんが、率直にいえばリン行政官は彼女の代行としての器があるようには思えなかった。現に彼女はその責務を果たしきれておらず、第一に超人の意志を継ぐべきは同じ超人たる私であるべきなのだ。彼女の偶像としか成り得なかった七神リンが、連邦生徒会長の玉座に居座る日々は苦悶でしかありませんでしたが、その気苦労も今日で終わり。

 

 今一度、全面ガラス張りの窓を見上げる。晴々とした気分に満たされている今、出来ることなら光り輝くお日様を浴びたかったものの、本日のキヴォトスは生憎の曇り空。文字通りの晴れ舞台とは奇しくもなりませんでしたが、こんなものは些細な事。

 

 

(いずれ彼女のような完璧超人となる者が、小さな不満程度で地団駄を踏んではいけません。大事なのはこれからどうするかという意気込みですよ、カヤ)

 

 

 そう自分に言い聞かせた時でした。背にしていた出入り口のドアが何者かによって開かれる音がしたのです。

 

 

「よお、カヤちゃん。代行就任おめっとさん」

 

「おや、アルティスさん。早々に祝いに来てくださるとは嬉しい限りです。いや――今は()()()()()とお呼びしたほうがよろしいですか?」

 

「別に好きなほうでいいさ。()()()()()()()()()()()()しな」

 

 

 そう言いながら部屋に入ってきたのは、見上げるほどの巨躯を誇る褐色肌の少女――『大黒天(だいこくてん)ハジメ』。その体格はただ高いだけではなく、筋骨隆々という言葉の体現者と言えるほどマッシブであり、かの『伝説のスケバン』に勝るとも劣らない肉体美だ。

 そして異様とも言える最たる特徴は、肩から手首にかけて無数に生える乳白色の棘でしょう。それと同じものが翼や尻尾にも生え、頭部の棘はもはや角とまで形容できるほど野太く、左右に一対伸びていた。

 アルティス――正しくは『アルティスピナクス』 ラテン語で『高い棘を持つ者』という意味である恐竜から名付けられたようですが、その名に恥じない圧巻の出立ちですね。

 

 

「しかしこんな所で油を売っていて大丈夫なのですか? 他所様からの斡旋で与しているとはいえ、カイザー内での立場は研修生となっているのでしょう? 随分と暇なのですね」

 

「その言い方は心外だな、これでもちゃんと仕事はしてるんだぜ? 今日もとある目的のために雷雲の中に突っ込んだしよ」

 

 

 私の嫌味を意にも介さず彼女は飄々と受け流し、応接用に設けられた革製のソファにどかっと座る。彼女はさらっと言ってのけましたが、雷雲の中でも生身で活動できるなど、キヴォトスの人間から見ても常軌を逸していますよ。

 

 

「そんで雨でずぶ濡れになっちまったから、ここのシャワールームを借りてたんだわ。挨拶しにきたのもそのついでだよ」

 

「そういう事でしたか。こちらも施設の利用くらいで一々目くじらを立てたりはしませんので、これからも気兼ねなく使ってくださいな」

 

「有難いねぇ。そんで、こいつが手土産だ」

 

 

 そう言うとハジメさんは袂をまさぐり、取り出した物体をテーブルに置く。その金色に煌めく鱗は明らかに一般的な生物のソレではありませんでした。

 

 

「この鱗、今まで拝見した物とはまた異なりますね。更なる外来種ですか?」

 

「ああ、『煌雷竜(こうらいりゅう)レ・ダウ』ってんだ。久々に歯応えのある相手とやり合えて、俺としても大満足さ」

 

 

 歯応えのある相手……ですか。彼女がそう言うほどの生物となると、以前BEETLE小隊が討伐したドスファンゴなど赤子に等しいのでしょうね。前にハジメさんがカイザーの軍隊に挑む演習を観させていただきましたが、私でも彼らが可哀想に思えるほど一方的な殺戮劇でしたもの。いえ、死者は出ていませんが。

 言うなれば強さの底が知れない。むしろ進化し続けている――といった所でしょうか。

 

 それはさておき、この後も私達は軽い雑談を10分ほど続けました。するとふと、彼女は壁に掛けていた時計を一瞥するとハッとした顔を浮かべる。

 

 

「あ、そうだった。カヤちゃんはこの後、新たな代行としての挨拶があるんだろ? それなら俺はもう帰るわ、お疲れ〜」

 

「ええ、ご苦労様でした」

 

 

 すると彼女は「よっこらせ」という台詞と共に立ち上がり、そのまま背を向け部屋から出て行きました。一見ぶっきらぼうにも思える人ですが、なんだかんだで色々な事を教えてくれたりする人当たりの良さはありますね。

 

 ただ……星流ホムラさんという人物についても何か知っているような節はあるものの、彼女の情報は一切寄越してくれないのが気掛かりですね。

 

 

 あの二人に一体、どんな因縁があるのでしょうか……

 

 

 

 






実はアルティスのイメージ声優を誰にするか悩んでおりまして……候補は数人にまで絞れたものの全員魅力的で捨て難いため、だったら読者の皆様と決めよう!と思い立ち、今回のアンケートを実施致しました。

是非とも皆様の意見をお聞かせください。

彼女に合うと思う声優さんはどなた?

  • 松本梨香
  • 竹内順子
  • 朴璐美
  • 正直どれもしっくりこない
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