透き通る世界を照らす赫き星   作:お茶犬大家族

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その翅は伊達じゃない

 

 

 

「もうじき19時か……」

 

 

 坊と離れてから数時間が経過し、日もすっかり落ちて地上は人工の光でまばらに彩られている。今や慣れつつあるその夜景を横目に見ながら、私はシャーレの執務室にて資料の整頓などの立ち作業に徹していた。室内には私以外誰もおらず、本来いる筈である人間も現在は連邦生徒会に向かっている。

 

 連邦生徒会長の代行を務めていた七神リンが突如の解任。そして新たに代行となった元防衛室長の不知火カヤ。防衛室はカヤが着任する以前より、悪徳企業と呼び声の高いカイザーコーポレーションとの強い繋がりがあるとされているらしく、カイザーはこれまでシャーレと何度も激突しているようだ。

 故に、今や地雷原とも言える場所に坊を単独で送り出すような真似はしたくなかったが、奴の真剣な眼差しを受けては引かざるを得なかった。だが私は一切の警戒を怠らない。ずっと立っているのも即座に出撃できるようにするためで、窓も一部を全開にさせてある。

 

 するとふと、そこから冷風が流れ込み私の髪をふわりと撫で上げた。夏に迫っている時期ではあるが、この時間帯はまだまだ冷えるようだと物思いに耽る。

 

 

 

「どうも、N◯Kの集金でーす♪」

 

 

 

 

 そんな風に風情に浸っていた時、何者かのえらく剽軽な声が室内で小さく反響した。瞬時に周囲を見渡したが、テーブルやソファといった普段と変わらないオフィスの光景があるだけだ。

 

 空耳だったか? と思ったその刹那。

 

 

 

「こっちだよ、シニョリーナ」

 

 

 

 空耳などでない、今度ははっきりと聞こえた。しかもその声の発生源は、頭上からだった! 確信したと同時にすぐさま飛び退き、先程までいた位置の真上へと顔を向ける。

 本来ならば空調機や照明、火災報知器などの小ぢんまりした機器といった物しか存在しないはずの天井。

 

 

 

「素晴らしい反応速度だね。行動に移すまでの時間がほぼ無かった」

 

 

 

 しかしそこには、私より長身の黒髪の女が両足を天井にぴたりとくっ付け、まるでコウモリのようにぶら下がっていたのだ。ただし長い髪だけは重量に逆らえずにさらりと垂れ下がっており、途中から先端にかけて淡い青色のグラデーションが施されているのが確認できる。

 警戒態勢の私を見下ろすその女は、くすりと笑いだす。

 

 

「初対面の子にこれをやるとね、大抵は驚いたり怒ったり色々なリアクションを見せてくれるから面白いんだ。でも君のように冷静に対処した人はごく僅かだった……。ははっ! 益々興味が湧いてきたよ!」

 

 

 こいつ……軽快な態度でいるくせして、その本性は卓越した戦闘者なのが見てとれる。それも自身の気配を一切悟らせず、相手の頭上を容易く取ってみせる程だ。これほど高度な隠密技術の持ち主など、これまで数えるほどしかいなかった。

 

 

「あー、もしかして簡単に頭上を取られたこと気にしてる? そんなに気を落とさなくていいよ。僕の隠形は学園全体で比較しても断トツだったからね」

 

 

 なんて自己評価を述べると女は天井を軽く蹴り、宙で一回転をしながら「よっ」という言葉と共に床へと着地する。

 

 

「だ・け・ど、窓を開けっぱなしにするのはいくらなんでも不用心すぎるよ? 僕のように空からも難なく侵入できる存在がいる、という可能性も考慮しておかなきゃ」

 

 

 崩れた髪を手で整えつつ、ブーツで床を踏み鳴らしながら奴はこちらへと歩む。そうして目の前までやってくると左手で私の右腕を引き寄せ、右手を腰の後ろに回して密着状態にさせてから耳元でこう囁いた。

 

 

「でないとこんな風に、怖ーい人にどんなことされるか分かったもんじゃないからね」

 

「……」

 

「ん〜、終始シカトされるとちょっと傷付くなぁ。少しはうんとかすんとか言ってくれないと」

 

 

 なら一言だけ言ってやる。

 

 

「鼻毛、出ているぞ」

 

「ゑ?」

 

 

 その瞬間、奴は目を丸くさせ慌てふためき、私から手を離す。辺りをキョロキョロと見渡し、手鏡を発見した女はそそくさとそれを手に取り、鏡を見ながら自身の顔を撫で回す。

 

 

「うわ本当だ、いつから出てたんだコレ? 朝に鏡で見た時は無かった筈だけど……。それにしてもひどいなぁ君。女の子なのにデリカシーとかないの? そんなドストレートに言わなくたっていいじゃん」

 

「会って早々女を抱き寄せるような輩に、デリカシーだの何だの言われたくはないな」

 

「うーん……それを言われちゃ何とも……」

 

 

 そんなやり取りをしている内に身繕いも済ませたのか、手鏡で念入りに自身の顔を確認すると上機嫌にこちらに振り返った。

 

 

「よしっ、完璧♪ それじゃあ気を取り直して――」

 

 

 

 

「気を取り直して、なんですか? ツキノ隊長」

 

 

 すると突然、また別の人間の声が発生する。それも本来なら聞こえる筈のない方向から。

 

 

「げっ、コガネ……つけてたの……」

 

 

 ツキノと呼ばれた女が目を向けた先には、一人の金髪の女がいつの間にか開けた窓の枠に()()()()足を掛け、奴を睨みつけていた。少女の背中には虫のような大きい翅が左右に一枚ずつ生えており、その金色の飛膜はとても鮮やかに透き通っていてまるでステンドグラスを彷彿とさせる美しさだ。

 ツキノが彼女のほうに振り返った事で気づいたが、こいつの背中にも似たような翼が備わっているようだ。扇子のように細長く折り畳まれた空色の翅は、彼の青電主の如く半透明に煌めいていた。そんな奴に視線を突き刺したまま、コガネはシャーレオフィスの中へと侵入する。

 

 

「まさかとは思いますが、いつものようにそちらの女性を口説いていたのですか? 答えようによっては……」

 

「いや別に!? 何もやましい事はしてないけど!?」

 

「では本人からも聞いておきましょうか。そこのお方、どうでしたか実際」

 

「身体中をベタベタと触られた。それと耳元で息を吹きかけられた」

 

「いや、間違ってはないけど言い方!! ……あっ」

 

 

 己の失言に気が付いた途端、ツキノの首は壊れた扇風機の如くぎごちない動きでコガネのほうに向く。すると相手は満面の笑みを浮かべながらドス黒いオーラを解き放っていた。

 

 

「なるほど、分かりました。セツカさんにミナトさん、この無礼者を拘束なさい」

 

「「あいよ」」

 

「あ、二人も来てたの……ってかちょっ、待って。謝るから待って!!」

 

 

 また新たに現れたセツカとミナトという二人の小娘によって、ツキノはなす術もなく両腕を拘束される。すると奴は一か八かと、うるうるとした眼差しでこちらを見据えた。

 

 

「ねぇ、お願いだから助けてくれない? あの子の鉄拳制裁ってシャレにならないんだから……」

 

「それ程に凄まじいのか。是非見てみたい」

 

「あっ、オワッタァ」

 

 

 蜘蛛の糸が切られた事を理解するや否や、ツキノの瞳から光が消える。コガネは指の関節を鳴らしつつ、低い体勢にされている彼女の正面に立つ。

 

 

「何か言い残す事はありますか?」

 

 

 自身を見下ろす断罪者の宣告を受け、下手人はしばしの間黙考する。そして何かを閃いたような笑顔を浮かべ、奴が吐いた言葉は――

 

 

 

「アリジゴクは排泄をしないという定説を小学生がひっくり返したって話があるけど、研究者達は前々から知ってたんだよね、それ」*1

 

 

 

 これだった。なんだその豆知識は、今言う必要あったか?

 

 

「夢を壊すような事を言わないでくだ、砕ッッッッ!!」

 

「ア゛ア゛ア゛イイイッ゛ッ゛ッ゛ダアアァァァ!!!」

 

 

 コガネの拳が奴の頭に振り落されると、鐘でも鳴らしたのかと思わせるほどの重たく鈍い音が部屋中に木霊した。なんなら離れていた筈の私にも骨の髄まで振動が伝わってくる。噂に聞いた剛拳、まさかこれ程までとは……。

 これにはツキノもたまらず床に崩れ落ちる。尻は突き上がり、頭には蒸気が昇る大きな(こぶ)が膨らんでいた。

 

 

「我が拳は臨激拳の教え。その拳は鋭さと鈍さを併せ持つ、己が流派の真髄よ」

 

「ぃ……っ……。ねぇ、僕の頭……平気? 割れてない?」

 

チッ。ええ無事ですよ、やはり隊長は丈夫で羨ましい」

 

「今さりげなく舌打ちしたよね!? やっぱり叩き割るつもりだった!?」

 

 

 喚くツキノを尻目にコガネはこちらへ向き直り、左拳と右の掌を胸の前で合わせると深々と頭を下げた。

 

 

「改めてお詫び申し上げます、星流ホムラ様。何を隠そう私共の隊長は無類の女好きでして、気になった女性は手当たり次第口説こうとするのです」

 

「大して気にしていない。というよりその言い方からして、そちらも日頃から奴の悪癖に悩まされているようだな」

 

「ええ、まあ……」

 

 

 そう苦笑いを浮かべながら、今一度コガネは隊長のほうに振り返る。当人は未だ激痛に苦しみ悶え、それをお仲間の二人が見下ろしていた。

 

 

「今回の仕置きはsimpleに拳骨だったか。その前はなんだったけ?」

 

「飛礫よろしくビール瓶のガラス片を浴びせたんだよ。アンタもノリノリだったじゃないか」

 

「そうそれ! 確か男装バーに派遣された時――」

 

 

 

『お姉さん、貴女の好きなお酒はなんですか? 僕は断然わかめ酒です!』

 

 

 

「――なんて言ったんだっけ?」

 

 

 それは制裁を喰らうのも納得できる。わかめ酒の意味は悪いが各自で検索してくれ。

 

 しかしこの状況……少々拙い。目の前の四人組は得体の知れない存在である上に、今いるこの場所はシャーレの敷地内なのだ。キヴォトスの要とも言える此処では、向こうはいざ知らずこちらは好き勝手暴れる事はできない。更に言うと私にとって屋内での戦闘は経験不足なのに対し、奴らは確実にその道に長けているだろう。

 即ち私に不利な要素が多すぎる。今のところは戦意を感じられないが、いつ牙を剥いてくるかは分からない。せめていつでも対処できるよう臨戦体制は敷いておくべきか。

 

 などと思案を巡らせている内にツキノはふらふらと起き上がり、こちらを宥めるような仕草を取り始める。

 

 

「まあまあ、そう身構えないで。今日ここに来たのは本当に挨拶だけだから。いきなり事をおっ始めるつもりはないよ」

 

「それは本心と見ていいんだな?」

 

「ああ。君は前戯も無しに突っ込むのかい? 違うだろう?」

 

「おい、もっと他にいい例えはないのか」

 

 

 隙あらば猥談に持っていこうとするとは、確かにこいつの色情狂は筋金入りのようだ。そしてこの四人の生気を間近で体感した事で、ようやく()()()()の正体も理解できた。

 

 

「廃墟にいる私達を遠くから監察していたのも貴様らだろう。大方ミヤコ達を奇襲するべくずっと尾行していたのだな」

 

「あらら、やっぱりバレてた? 本当に凄いよねー、あれだけ離れていながら僕らの存在に勘付くなんてさ」

 

 

 

「まぁ……本気の隠形を探知するのには、まだまだ時間が必要みたいだけど」

 

「ほざけ」

 

 

 事実、向こうがその気なら私は既に討ち取られていた可能性は十分にある。故に言い訳も反論も思い浮かばず、そんな単調な言葉しか返す事ができなかった。

 

 

 

「"ホムラッッ!! 大丈夫!?"」

 

「坊……!」

 

 

 自分の未熟さに嘆いていた矢先、連邦生徒会に向かっていた筈の坊が執務室内に飛び込んできた。かなりの全力疾走をしたのだろう、彼は酷く息切れしている。

 

 

「おっと、王子様が蛮族に襲われしラプンツェルを助けにきたか。思ったよりも早いご帰還だったね」

 

「"一階のエレベーターホールまで来た時、上層から凄まじい地響きが聞こえたから急いで上がってきたんだ。というより君達は……"」

 

 

 呼吸を整えながら坊はそう答える。それにしてもあの衝撃、建物全体にまで伝わっていたのか……。コガネの剛拳につくづく圧倒されているのも束の間、ツキノは彼の問いに対し不適な笑みを返す。

 

 

「僕達が誰か……だって?」

 

「私達は、連邦生徒会長の御力(みちから)の化身」

 

「醜悪を打ち払う者」

 

「義を行使する者」

 

 

 

「ツキノ」

 

「コガネ」

 

「セツカ」

 

「ミナト」

 

 

 すると奴に続けてコガネ、緑髪、紫髪の順に言葉を繋いでいくと再びツキノに戻り、今度は一人ずつ自分の名を名乗った。

 

 

「僕達こそ、SRT特殊学園の精鋭なる空撃部隊!」

 

 

 そしてツキノの掛け声に全員が一斉に息を合わせ――

 

 

 

 

「「「「BEETLE小隊!!」」」」

 

 

 

 

 四人は決めポーズを取り、声高々に宣言した。……どう反応をすればいいんだこれは。時が止まったかのような静寂した空気が流れ、どこかでカラスの鳴く声がしたようにも思える。

 

 

「あの、お二人とも固まってしまわれているのですが……」

 

「っ! だからやりたくないって言ったんだよあたいは! どうしてくれるのさこの白けた空気!」

 

「えー? 悪くないと思ったんだけどなぁ」

 

 

 やいのやいのと騒ぎだす連中の口振りから察するに、どうやらあの女の思いつきに付き合わされていたらしい。彼女達も気の毒である。

 そら、坊のやつも現に呆然として――

 

 

 

「"かっ、かっこいい!!"」

 

「え」

 

 

 違った。ただ感激に浸っているだけだった。

 

 

「おい、意外にも一人のaudience爆誕だぞ」

 

「おっ、ぶっつけ本番にしてはいい収穫だね。今後もやる?」

 

「「「断固拒否」」」

 

「即答かい。さてと、おふざけも終わりにして真面目にやりますか」

 

 

 するとツキノは今一度身嗜みを整え、坊の正面まで歩み寄ると左胸に手を当て軽く頭を下げる。

 

 

「お初にお目にかかります、シャーレの先生。私達はSRT特殊学園所属のBEETLE小隊。そして私はその隊長を担っている蒼鶏ツキノと申します。以後、お見知り置きを」

 

 

 そう挨拶する奴の雰囲気は先程までのおちゃらけたものとは違い、極めて紳士的な振る舞いであった。正直に言うとその中性的な容姿も含め、外面だけなら非常に整っていると評しても過言ではない。

 その頭に瘤を作っていなければ尚良かったのだが。

 

 

 

「"君達の事はRABBIT小隊の皆に大体聞いてるよ。学内でも名の通った飛行部隊だと"」

 

「それは話が早い。なら細かい自己紹介は一旦省きましょうか」

 

「"そうだね。ところで、さっきの地響きってもしかして……?"」

 

「えぇ……うちの副隊長の所業です」

 

 

 ツキノは顔を引き攣らせ、コガネのほうを横目に見る。全員の意識が自分に向けられている事を悟ると彼女は軽く会釈をした。

 

 

「あれは実に素晴らしい鉄拳だった。確か名うての格闘家の後胤(こういん)だそうだが、さぞや血の滲むような鍛錬を積んだと思われる」

 

「お褒めの言葉をありがとうございます。ですが大した経歴ではありませんよ」

 

 

 コガネがそう謙遜したと同時、他の三人は呆れたように眉を顰める。

 

 

「……それじゃあコガネ。今までどんな格闘技を学んできたか具体的にどーぞ」

 

 

 

 

「ええと……空手三段、柔道三段、剣道二段、他にムエタイ、少林寺、サンボ、骨法、ブラジリアン柔術など。カポエラも少々も嗜んでいますね」

 

「"……大したことないって本気で言ってる?"」

 

「本人は至って本気だよ。しかもこの子、近頃テコンドーも始めたからね?」

 

「紛うことなき武術家の血筋か」

 

 

 武の道を邁進するあまり、自身の経歴が微々たるものに見えるほどになるとはな。常識人ぶっているが、小隊の中で一番頭の螺子が緩んでいるのはもしかすると彼女じゃないのか?

 

 

「"だけど厳格なイメージの強いSRT特殊学園の隊長の一人が、これほどにフランクなのは意外だったかな。事実ミヤコやユキノは結構落ち着いた印象があるから"」

 

「はは! 確かに二人ともクソ真面目なタイプだよねぇ。僕みたいなお気楽人間こそむしろ珍しいよ」

 

「自覚があるのでしたら、もう少し節度というものを覚えて頂きたいですね」

 

「はーい。善処しまーす」

 

 

 坊は温和な雰囲気でツキノに話しかけ、対する彼女も友好的に受け答えをする。だが私としては一つ、確かめなければならない事がある。彼の護衛を任されている者として。

 

 

「ちょいとばかし、質問してもいいか?」

 

「いいよ、なんでも聞いて!」

 

「元、と言っていたが今はどこに属しているんだ? 大半のSRT生徒のようにヴァルキューレに転入したなら、そちらでも大なり小なり噂になっていても可笑しくない筈だが、カンナ達の口からは一切聞いたことがない」

 

 

 これは以前、『ヴァルキューレ警察学校』という機関に顔合わせをした際の事だ。まずヴァルキューレ警察学校とは何かというとキヴォトスの警察組織に相当するらしく、特定の学区を持たない代わりに全国各地に拠点を置き、キヴォトスで起きるありとあらゆる治安問題に関わっているという。似たような体制を取っているためか、SRT特殊学園の閉鎖に基づいて多くのSRTの人間がヴァルキューレに異動されたのだとか。

 そんなヴァルキューレにて、公安局所属の『尾刃(おがた)カンナ』や生活安全局所属の『中務(なかつかさ)キリノ』を始めとした生徒達に様々な話を伺い、実際に自分も元SRTの人間だったという生徒にも少なからず出会ってきた。だがエリートと名高いBEETLE小隊の話題は一度も上らなかったのだ。

 

 その疑問を問いかけた途端、ツキノの目付きが鋭利なものと化す。

 

 

「……疑い深い性格も考えものだね。まあいいや。いっそのことだし、バラしちゃおうか」

 

 

 

 

「今は不知火カヤ室長――いや、カヤ代行に従事しているよ。FOX小隊と共にね」

 

「……やはりか」

 

「やだなぁ、そんな怖い顔しないでよ。さっきも言ったけど今ここで敵対する気はないから。先生との面談も済ませたし、今日はこの辺で御暇(おいとま)するよ」

 

「いいのか? こんなあっさりと白状しちまって」

 

「いいんじゃない? 遅かれ早かれ知ることになっていただろうし、どこでカミングアウトしようが大して変わらないでしょ。――あっ、そうだ。お二人さん、一つだけお願いをしてもいいかな? 大丈夫、変な頼みはしないから」

 

 

 私は坊の顔色を伺う。すると彼は何も言わずに首を縦に振った。

 

 

「……聞くだけ聞いてやる」

 

「ありがと。まあお願いと言っても、僕たちBEETLE小隊が帰還しているという事をミヤコくん達には内緒にしてほしいだけさ。僕らも可愛い後輩達にサプライズしてあげたかったんだけど、FOX小隊に先を越されちゃって出る暇が無かったんだよね。だから作戦を練り直して、後日に回すつもりなのさ」

 

「"それぐらいならお安いご用だけど、できるだけ皆に不安を煽るような真似はしないでほしいな"」

 

「了解。それじゃあ長居するのもなんだし、今度こそ退散しようかな!」

 

 

 

 

「ただ、次に会う時は敵同士かもしれないけど」

 

 

 双眸をギラつかせ、口角を上げるツキノの覇気はまさしく猛者のそれである。それは同時に、私に己の愚鈍さを改めて痛感させた。

 

 

「それではお二方。本日は失礼いたしました」

 

「戸締りはしっかりとね〜!」

 

 

 そしてそんな捨て台詞を吐き、BEETLE小隊一同は一人一人順に背を向け、開けた窓から飛び去っていった。彼女達の影が次第に小さくなっていった時、坊が再び口を開く。

 

 

「"なんだか、RABBIT小隊やFOX小隊とはまた違った雰囲気だったね"」

 

 

 確かに彼女達とは異なり、一癖も二癖もある連中だった。ただし全員共通して一つだけ言える事がある。

 

 

「だが四人ともに敵意こそあれど、邪気は感じなかった。FOX小隊同様、話がまったく通じない相手ではなかろう」

 

「"うん。ひとまずそれが知れただけで何よりだよ"」

 

「お前らしいな。それと坊、話は変わるが連邦生徒会で不知火カヤに何かされなかったか」

 

「ううん、特に何も。ただ少し取り引きを持ちかけられたぐらいかな」

 

「取り引き?」

 

 

 坊は軽く頷き、連邦生徒会で起きた事を語っていった。奴曰く今回の七神リンの解任は、FOX小隊がシャーレの地下室にて発見した『連邦生徒会長の残した手紙』とやらに従ったものであるらしい。幸いにもリンは寮にて謹慎中との事で、新たな代行となった不知火カヤもシャーレと敵対する意思は微塵も無いという。

 それどころか、シャーレの労働環境の改善案を持ちかけられたとか。確かに私が此処に着任する以前を考えると、シャーレに降りかかるその業務と責任は、人一人に負わせるには少々重すぎるような気もするが――

 

 

「"まあ、丁重にお断りしてきたけどね!"」

 

「……そうか」

 

 

 なんて言って奴は笑い飛ばす。その笑みは信念からの勇気か、痩せ我慢からの蛮勇なのか。一体どちらなのだろうな。

 

 

「さて、腹でも空いている頃だろう。すぐに夕飯に取り掛かるが、希望はあるか?」

 

「"なんでもいいよ。君が作る物なら"」

 

「それが一番困るのだが。そうだな……野菜が余っていたはずだからポトフにでもするか」

 

 

 それと坊、発言には少し気を付けたほうがいい。私だから問題ないが、その無自覚な言葉一つ一つが初心な小娘を堕とし兼ねんぞ。

 そんな小言を心中で呟き厨房に向かおうとした刹那、ひんやりとした風が再び頬を撫でた。その出所は未だに開きっぱなしの窓。

 

 

『戸締りはしっかりとね〜!』

 

「……ふん」

 

 

 私はそれをぴしゃんと音を立てて閉める。脳裏に浮かぶ、どこかのお調子者の言葉を掻き消すように。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マエストロ、彼女達は仲良くやっていますか?」

 

「ああ。これといった大きな問題もなく、日々誰が一番強くなれるか熾烈な争いを続けている。先日カイザーに送り込んだアルティスも、その知識を活かして彼らに様々な物品を製造させているようだ。木の実や野草を用いた弾丸を始め、医薬品などの再現にも成功したらしい」

 

「それはそれは目覚ましい進捗で。それはそうと貴方――蠱毒(こどく)はご存知ですよね?」

 

「無論。東方の国にかつて存在した言い伝えだろう? 究極の毒を作り出すための」

 

「その通り。それを作るためにはまず、数多の毒虫を一つの壺に入れる必要がある。やがて毒虫は互いに喰らい合い、最後には最強の一匹だけが生き残る。蠱毒はこうして生まれるのです」

 

「言うなれば、極限の中から最高の種を選ぶということ」

 

「ええ。それこそが、極限の奇跡を引き起こすために必要不可欠なのですよ」

 

 

 

 

「そしてこのキヴォトスという極限の世界にて、神秘の力を得た古龍がどのような進化を遂げていくのか――想像するだけでも気分が昂揚するでしょう?」

 

 

 

 

 

(貴女方は一体どんな極限の奇跡を見せてくれるのですか? 愛しのマルザンナにアルティス、そして『カラボス』よ)

 

 

 

 

 

*1
以前から論文も発表されており、マスメディアの大袈裟な報道が「小学生が新発見」という誤解を世間に齎した。






話を更新する間に百花繚乱編の二章がアップロードされ、そのまま終結してるッピ……。ネタバレ防止としてある程度伏せますがコクリコ様、貴方マジですか……。

あ、ハタテさんのイメージCV、未だ受付中です。

彼女に合うと思う声優さんはどなた?

  • 松本梨香
  • 竹内順子
  • 朴璐美
  • 正直どれもしっくりこない
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