透き通る世界を照らす赫き星   作:お茶犬大家族

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バルファルクとブルーアーカイブのクロスオーバー小説には先駆者様がいらっしゃいますが、先方にコンタクトを取り、その合意のもと掲載しております。予めご了承ください。



vol.SE 銀翼の凶星編「恐れ見よ、赤き厄災の彗星を」
凶星への贈りもの


 

 

 とある世界の一角には、雄大な山々が並び立つ『遺群嶺(いぐんれい)』と呼ばれし領域が存在する。山々の中には雲を割るほど巨大なものも複数あるのだが、桁違いに高い主峰がそそり立つせいで他の全てがちっぽけに思えてしまう。

 それは雲をいくつも貫いて遥か上空まで伸び、まるで世界中を見下ろさんとするかように天高く聳える塔の如き山。その頂はあまりにも標高が高く、ほぼ全ての生物が辿り着く事を許されない禁足地である。

 

 

 しかしそんな禁忌の場所に今、この私『天彗龍(てんすいりゅう)バルファルク』は足を踏み入れている。

 

 

 先程生物のほぼ全ては辿り着けないと言ったが、その例外の一つが私だ。数多の生物を超越した力を持つから降り立つことができ、下界の有象無象と一々寝床を求めて争う必要もなく、なんといっても頂上から眺める雲海や星々は実に美しい。それ故、この場所を自身の縄張りとして暮らしているのだ。

 高位たる存在である私だからこそ棲まう事を許されるこの地は、誰にも明け渡さん。何者であろうと。

 

 そう、たとえ親や黒龍であってもな。

 

 

 サッ……サッ……

 

 

 だがそう上手くいかないのが、世の常というもの。山道から微かに何者かの足音が鳴り、耳に届く。

 

 どうやらまたお客さんがやって来たようだ。

 

 

 

「やっぱりここにいたんだね、バルファルク」

 

 

「もしかして……いや、きっと君にとって特別なんだろう。この場所は」

 

 

 音の鳴った方向に目を見やると、一人の人間が立っていた。一見すると狩人とはとても思えないような、整った顔立ちをしている優男が。

 なんだ、気配がするかと思えば貴様だったか小僧。今まで散々痛めつけてやったというのに、それでも尚私に歯向かってこようとは。

 まさかとは思うが、そのような嗜好を持ち合わせているわけではあるまいな?

 

 なんて冗談はさておき、これで何度目になるだろうか、貴様とこうして一戦を交えるのは。獲物を断つ鋭利な牙や爪を生やしているわけでも、敵の猛攻をものともしない堅牢な外殻を有しているわけでもない。その身に纏った装甲がなければ私はおろか、草食竜にすらも一蹴されるであろう貧弱な生物であるはずの貴様と。

 

 

「だけど、ごめん。僕は今日こそ

 

 

 

ここを君から奪うことになる」

 

 

 そう言いながら男は己の背に携えていた刀を手に取り、その煌々と研ぎ澄まされた刃の切先を私に向けた。

 

 先述したバルファルクという名も、元々はこの人間という生物達に付けられた名前である。それもそうだ、本来野生で過ごす種族である我々には子に名を与える習慣など存在しないからな。だからひとまず、このバルファルクという呼び名を採用させてもらっている。

 ただその他にも『大地を絶望に染め上げる凶兆』や『決して抗えぬ運命の証』、『絶望と災厄の化身』などと敬称し、どうやら私のことを人類の敵だの何だのと囃し立てているようだ。

 そんな言い伝えを間に受けてか、あたかも私が諸悪の権化とでも思っているような面持ちで、数多の狩人達がこの命を刈り取りに訪れた。

 

 まあやってくる度、その全てを殲滅してやったのだがな。どいつもこいつも実力・精神共に未熟者ばかりだった。憤怒・殺意・怨嗟といった邪念雑念に囚われているばかりでは、一生かけても私に追いつくことは不可能だ。多少骨のある輩も稀にいたが、その末路が変わることはなかった。

 

 そんな日々を続けていたある日、私の元にひょっこりとやって来た目の前の小僧は、何かが違った。こいつの瞳からは戦意こそあれど、そこに畏怖や憎悪などといった(よこしま)なものは感じとれず、むしろ博愛に満ちたものが流れているように思えたのだ。

 この時はただ「なんか変わった奴」程度にしか考えておらず、結果として他の連中同様呆気なく蹴散らしてやったよ。

 だがとどめは刺さなかった。いや、刺せなかった。戦う前に見せたあの顔が、頭を過ってしまったのだ。そこで私は、この人間に興味を抱いていることを自覚した。あんな馬鹿みたいな目をした奴は生まれて初めて見たからだろう。

 

 こいつと初めて対峙したのも、確かこの山の頂だったな。最初の頃は私に翻弄されっぱなしの青二才で、その後も数度にわたって挑んできてはお約束の様に伸してやった。だがそれでも奴は決して折れることなく、この私に挑み続けてくる。

 しかし幾度もそれを繰り返している中で、着実に私と拮抗するようになっているのが腹立たしいようでいて楽しくも思え、いつの間にか奴と戦うのが私の生き甲斐になっていた。無限の命にも近いほどの長寿の私が、この変わり映えしない退屈な日々を潰せる方法を、やっと見つけることができたのだ。

 ああ、やはりあの時に葬っておかなかったのは正解だった!

 

 ただ先程の奴の言葉を聞く限り、人間達にとってあまり猶予は残されていないのだろう。

 なんとまあ残念だ。長い年月をかけてようやく手に入れた趣味と呼べるものが、こうも早くあっさりと無くなることになってしまうとは。貴様が老体となってもなお、私と戦い続けている日々を思い描いていたのだがな。そんな虫のいい話は無かったようだ。

 

 だがこちらも黙って殺されるつもりは毛頭ない。お前達人間が今度こそ私を討とうとするなら、全身全霊を以って貴様らを返り討ちにしてやる。

 

 独白を言い終え、改めて奴と向き合う。向こうも覚悟を決めたのか、武器を構え直し臨戦体制に入った。

 ほう……いい目をするようになったじゃないか。構えた姿勢にも無駄が一切ない。

 貴様、本当にあの馬鹿みたいな目をしていた青二才と同一人物なのか?

 

 なんて、そんな事はこの私が一番よく知り尽くしているんだがな。

 さあお喋りはここまでにしようか。

 

 

「僕らの因縁も、ここで終わらせよう」

 

 

 無論だ。決着をつけよう、人間。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 頭が、割れるように痛い……四肢も言うことを、ほとんど聞いてくれやしない……。朦朧とする意識の中、なんとか冷静に状況を把握しようとする。するとどうやら私は、己が流した血を全身で浴びながら大地に伏しているようだ。そして掠れた視界からは、こちらを見下ろす狩人の姿が確認できる。

 

 そうか……私はとうとう敗れたのか、この男に。

 

 ただその私を討ち取った張本人である優男の面持ちは、なぜかあまり浮かばれないように窺える。 

 

 

 

どうした?

 

 

 

お前達が恐れる悪しき存在を討ち果たしたのだぞ?

 

 

 

もっと良い顔をするべきじゃないのか?

 

 

 

「……すまない、バルファルク。君は何も悪いことを考えたりしていないだろうに、僕たちの都合で死なせてしまうだなんて」

 

 

「だからっ、本当に……すまないっ……」

 

 

 まったく……やはり貴様は、笑えるほどお人よしな男だな。私の為に涙を流してくれる人間が存在するなど考えもしなかったぞ。

 古龍たる私を穿つ怪物のような力を持つ者が、仏の如き精神の持ち主でもあるという矛盾。少々理解し難い。

 世の中にはまだまだ私の理解が及ばないこともあるのだな……。そんな事をもっと色々知りたかった、本当に残念でならない。

 

 そう言っている内にまた、意識が少しずつ遠のいて行く。

 

 

「君の事は、絶対に忘れない。どうか安らかに眠ってくれ」

 

 

 幾星霜(いくせいそう)を経ていく傍ら、様々な屈強な生物達と何度も戦い、そのすべてをねじ伏せてきた。そんな私の最期を看取るのが、まさかの人間というこんな矮小な生き物になるとは。

 でも何故か、貴様に討ち倒されるなら悔いは無いのだ。知らず知らずのうちに、私とあろうものが絆されてしまっていたのか……。

 

 案外……悪くない気分だが、そろそろ限界が来たようだ―― 

 

 

 

 

 

 

 

『ところで君ってさ、人間は好き?』

 

『随分妙なことを聞くんだな。別に大した興味は持っていないが、そういう貴様のほうこそどうなんだ』

 

 

 これは……走馬灯というものだろうか

 

 

『僕はそうだなぁ……好きというか、忘れられない。あの子のことが』

 

 

 私と同じように世界中を廻っていた者との記憶……

 

 

『この間言っていた新米のことか? 相も変わらず貴様を追いかけ回しているとはな、さぞや鬱陶しかろう』

 

『最初はそうだったけど、今となっては悪い気はしないよ。なんというか、会う度にお互いが強くなれている気がしてね。だから最近の僕、なんだか活き活きとしてるんだ!』

 

『ふぅん……』

 

 

 ……あの時は馬鹿げた話だと思っていたが

 

 

『よしっ、それじゃあ僕は帰るよ。邪魔したね』

 

『なんだもう行くのか?』

 

『うん、あの子との決着もつけないといけないから。ちょっと名残惜しいけれど』

 

 

『まあでも、()()()()()()()()()()()()んだもん。最期くらいはしっかりと目に焼き付けておかなくちゃ』

 

『はっ、物好きなやつだな。あの様なちんけな生物に惹かれるとは』

 

 

 

『ふふっ、君にもいずれ分かるよ』

 

 

 

 ああそうだな、人間も悪くない。

 

 

 

 私の意識は、そこで途切れた

 

 

 

 

                

*

 

 

 

 

 ……

 

 

 ……

 

 

 ……?

 

 

 閉じられていた筈の瞼が、自ずとゆっくり開かれた。依然ぼやけてはいるものの、少しずつ意識も取り戻している。

 走馬灯まで見たというのに、死にきれなかったのだろうか? と一瞬考えたが、周辺は先ほどまでいた山の風景とはまるで異なっていた。

 

 木々や草花に囲まれた少し大きめの湖が、天から差し込んだ太陽の光により、煌びやかに照らされている幻想的な光景。その湖の(ほとり)に、私は寝そべっていたようだ。

 恐らくここが死後の世界と言うものなのだろう。世界のほぼ全てを飛び回っていたが、私の知る限りこのような場所は存在しなかったからな。ひとまずはそう納得しておこう。

 そうこう言っている内に大分意識がはっきりしてくると、身体が水分を欲しているのを脳が受け取る。丁度いい、ここで摂っていくか。

 

 しかし死して尚喉が渇くとは……なんとも不便というか、少し不思議な感覚だな。そんな事を考えながら湖に顔を近づけ、水面を覗きこんだ時だった。

 

 

「……うん?」

 

 

 水面に映っていたのは頑強な甲殻に覆われた流線型の頭部などではなく、人間の小娘のような丸々とした頭。更には頭上に奇妙な発光体がぷかぷかと浮いており、困惑している私に追い討ちをかける。

 

 一体なんだこの人間は? いや、恐らく今の声からして――

 

 

「私、のようだな……」

 

 

 ――理解できぬ。

 




三周年から始めた新任教師である上、小説を書くのは今回が初めてです。にわか知識や拙い箇所が所々あるか思われますので、その際は気兼ねなくお申し付けくださいませ。

 また更新のペースは不定期ではありますが、次回はなるべく早く投稿して原作キャラを出す腹積りです。
 でなきゃ現時点でのブルアカ要素がヘイローしかないで候……

 今後とも、どうかよしなにお付き合いください。
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