透き通る世界を照らす赫き星   作:お茶犬大家族

8 / 26

まだだ!まだ終わ(エタ)らんよ!

不定期更新が本領発揮してきましたね……一週間以上も空けて誠に申し訳ございません。
ですが以前にも申し上げたように、プロローグ編が完結するまでは失踪するつもりはありませんので、今後とも宜しくお願い致します。




空は芍薬、大地は紫蘭

 

 

 キヴォトス三大学園の一つ、ゲヘナ学園。『自由と混沌』を校風としているため学園が治める地区は、銃撃戦が絶えないキヴォトスでも段違いに荒廃とした世界である。しかしそんなゲヘナはこの日、今までの出来事が霞んで見えるほどの大事に見舞われている。

 広大なゲヘナの自治区の一角に存在していた閑静な町。その家屋が瓦礫の山と化し、アスファルトは削られ更地へと変貌していた。

 そんな異様としか言えない大地にて、二人の人間が常人離れしたオーラを纏い向き合っていた。

 

 一人は幼子のような見目麗しい外見でありながら、その絶対的な力で万人を震え上がらせるゲヘナの風紀委員長。空崎ヒナ

 もう片方はかつて『銀翼の凶星』と呼ばれ、その時代の者達に畏怖された百戦錬磨の龍。天彗龍バルファルクの生まれ変わりである少女だ。

 ヒナは機関銃を片手にどっしりと構え、少女はファイティングポーズをとる形で睨み合っている。両者共に初動に移ろうとせず互いの目線がピタリと合わさり、瞬き一つも許されない一触即発の状態が永久とも思えるほどに継続していた。下手に動けば命取りになるという事を、二人は本能的に理解しているためだ。

 

 

(まさかこの子、銃を所持していない? 自分の肉体だけで皆を叩き伏せたというの? ……となれば)

 

 

 だが少女の立ち姿をじっと観察し、思案を巡らせていたヒナがついに動き出す。

 

 

「先手必勝」

 

「ぬぅうう!?」

 

(ひとまず距離を取って、出方を伺わせてもらおうかしら)

 

 

 張り詰めた空気を破り、目にも止まらぬ早撃ちをみせる。だが少女も瞬時に反応し、放たれた銃弾の雨を回避するべくサイドステップを取った。

 

 

(出だしがほぼ見えなかった、何発か掠ったな)

 

 

 しかしそれでも完全に避けることは叶わず、直撃こそ免れたものの幾つかの銃弾は彼女の皮膚を削り取る。

 

 

(流石は最強と謳われるだけある。一筋縄ではいかないか……しかし)

 

「それでこそ張り合いがあるというものよ!!」

 

 

 前評判に違わぬ確かな力量。それを一瞬にして彼女は実感し、気分は瞬く間に高揚する。大地を踏み鳴らして瞬時に肉薄し、自慢の剛腕をヒナに振るう。

 

 

「とんでもない風圧ね」

 

 

 しかしその打突をヒナは完璧なタイミングで回避してみせる。だが少女にとってそんなことは想定の内であり、足技も含めたインファイトで再度潰しにかかる。

 

 

「確かに速い。でも言ってしまえばそれだけ」

 

「猪口才なっ……!」

 

 

 だがその猛攻すら彼女に平然と身体を逸らして避け、あるいは受け流すことで攻撃の一つ一つを掻い潜られていく。二人の体格に大きな差があることも相まって、命中する予感は一向にしなかった。

 

 

「捕まえた」

 

 

 更に彼女は連撃の間にあった微かな隙を付き、少女の腕を鷲掴みにすると――

 

 

「大地と抱擁でもしてなさい」

 

「ぐっ!?」

 

 

 なんと自身の体格の一回り以上もある相手を片手で持ち上げ、真下へと投げ落とした。またもや上半身から地面に激突し、うつ伏せの状態となった少女は鋭い目つきでヒナを睨み返す。

 

 

(やってくれるじゃ……っ!?)

 

 

 すると自身の瞳に飛び込んできたのは、断頭台の如く迫ってくる彼女の右足であった。

 

 

「しぃぃ!」

 

 

 少女は即座に転がり、己の首を刈り取らんと振るわれたそれを紙一重で躱す。回避した先ですぐさま体勢を立て直すと、相手に向けて翼を薙ぎ払った。

 ヒナは即座に飛び退く、しかし――

 

 

「づぅ……!」

 

(掠めただけで……まるで鎌鼬だわ。あの翼は特に警戒するべきね)

 

 

 槍翼の先端が腹を掠め、微少の鮮血が舞う。その刃物以上の鋭さに慄きつつも彼女は意識を改め、警戒心を最大限に高めた。

 

 

(さて、次はどう来るのかしら)

 

 

 そうして再び相手との距離が空いたヒナは、改めて少女の挙動を探りに出る。向こうもこちらを凝視しており、先程のように一時の膠着状態が生まれた。

 

 

「……」

 

 

 すると少女は突如バックステップを踏み、ヒナとの距離を更に広げる。同時に翼を鋭く尖った杭状の形から、まるで巨大な掌を彷彿とさせる形状へと切り替えた。

 コウモリの指骨のように三方向に枝分かれした部位。その端にある噴出口を正面へ向けると、何やら空洞付近から電流が迸るような音が鳴り始める。

 そして次の瞬間。

 

 

 

ガガガガツゥンッッ!!

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 無数の赤黒い光の弾が放射状に乱射され、その内の複数がヒナに襲いかかった。即座に引き金を引いて光弾を撃ち落とすも、爆煙によって正面の視界が切られる。更には周囲に着弾した弾も爆発を起こし、巻き上がった硝煙によってヒナの視界は完全に包囲されてしまった。

 

 

(流石に驚いたわ。こんな芸当をする人間がいるなんて)

 

 

 もくもくと上がる黒煙が徐々に晴れてゆき、ヒナは少女のいた方角に目を向ける。だが――

 

 

「いない……さては」

 

 

 ヒナが左斜め後ろへ目を向けると、彼女の読み通り相手は既にそちらへ周りこんでいた。そして高く掲げ大きく広げられた右翼が、ヒナの脳天目掛けて高速に振り下ろされる。

 しかしギリギリのところでヒナは左へ回避。空を切ったその剛翼は地面を強く叩き、僅かな振動を引き起した。

 

 

「私の一丁羅よ、あげる」

 

 

 避けた先で彼女は自身の上着を素早く掴み、少女の頭部に向けて放り投げる。空中に投げ出されたそれは、右へ視線を移していた少女の眼前に広がった。

 

 

「こんな子供騙し、私には――」

 

 

 しかし彼女はすぐさま凶爪の如き翼を斜め上に振り上げ、なんて事ない顔でその紫紺の布を真っ二つに切り裂く。

 

 

「む……?」

 

 

 しかし、ヒナの姿が正面に現れる事はなかった。

 

 

「っ! そちらか!!」

 

 

 直後背中に突き刺さる殺気を感じ取り、彼女は体の向きをそちらへ変える。すると探していた相手は、既に大きく距離を取ったところで愛銃を構えていた。なんとヒナは少女の視界が切れた一瞬の間に、反対側へと回り込んでいたのだ。

 ヒナが機関銃の標準を彼女に合わせると、それに応えるように少女も翼を向けた。そして再び光弾を乱射し、無数の弾がヒナの元に迫っていく。相手もまた機関銃のトリガーを引き、両者の弾がぶつかり合うーーかに思えた。

 

 ヒナは銃弾を放つことはなく、愛銃である『終幕:デストロイヤー』を地面に突き立てると――

 

 

「はぁあああ!」

 

「貴様は大道芸人だったのかぁ!」

 

 

 なんとそれを軸に自身の体をポールダンスよろしく高速で回転させ、気弾を次々に弾き返した。跳ね返った光弾同時が衝突し、空中のあらゆる位置で爆煙が発生する。そうして二人の間を中心に、辺りに大規模な黒煙が漂い、少女は意識を四方に張り巡らせる。

 

 

「そろそろこっちから行かせてもらう」

 

「ぬぅううう!」

 

 

 すると突如ヒナが巻き上がる硝煙を裂き、彼女の真正面から突っ切ってきたのだ。少女は一瞬だけ当惑の色を見せるものの、相手のその端正な顔立ちを穿つべく、左手を金剛石のように固めて高速で突き出した。

 

 

「当たらない」

 

「だろうな!」

 

 

 それをヒナは事前に知っていたかのように避け、彼女の左側へと回り込む。しかし少女もすかさず、伸ばしていた左手で裏拳を飛ばした。

 だがヒナの身体が突如前へと崩れ落ち、その一振りは盛大に空振る。すぐさま目線を下にすると、なんと彼女は仰向けの体勢でこちらを見据えており、手に持つマシンガンの銃口は自身の胸元にピタリと合わさっていた。

 

 ヒナの意図を瞬時に察し、回避を試みるも――

 

 

「ぐうぅううっっ!?」

 

 

 当然逃がしてくれる筈がなく、無数の銃弾が少女の胴体に浴びせられる。衝撃によってその大柄な体格は吹き飛び、今度は背中から地面へと倒れ込む。

 起き上がったヒナは、地に沈んだ標的の元までつかつかと歩みこう言い放つ。

 

 

 

「これが最後の警告よ。降伏しなさい」

 

 

 

 ゲヘナの風紀委員長である厳格さと、空崎ヒナという少女としての慈悲深さが両立した最終宣告。並の人間であればその圧力に怖気づき、素直に従っていたただろう。

 

 

「降伏だと……?」

 

 

 だが少女は緩やかに立ち上がり、自身を見下ろしていた人間を睨み返す。そして――

 

 

 

 

「お断りだ。誰が頭など下げるか」

 

「そう、残念」

 

 

 彼女は依然として否定の姿勢を貫き通した。そんな彼女の答えを聞いたと同時、ヒナは疾風の如き速度でもう一度接敵する。だが少女も然る者、瞬時に迎え討つ態勢に入った。

 そうして今度はヒナによる攻勢の近接戦が始まる。腕や銃身での殴打に銃撃、足技を交えながら少女を追い詰めていく。しかし少女は反撃する素振りを見せず、ただひたすらに攻撃をいなしていた。傍から見れば防戦一方の図に見えるのかもしれない。だが実際には彼女は、猛攻の間にある一瞬の隙を見逃さないべく、物静かにカウンターを画策しているのだ。

 そうしてそんな攻防を延々と続けていると、遂に一筋の光明が見えてきた。

 

 

「もらったぁぁっ!!」

 

 

 ようやく見つけた好機を逃さまいと、即座に腕を引き必殺の打突を神速で突き出す。

 

 

 

 

 しかしそれは擬似餌(エスカ)だった。

 

 

 

「ええ、貴方なら気づいてくれると思った」

 

「なっ……!?」

 

 

 彼女はその一突きを難なく受け流し、少女の体は自身の膂力によって少しだけ前のめりになってしまう。すかさずヒナは彼女の懐へ潜り込み、腹部に渾身の前蹴りを叩き込む。小柄な体格からは考えられないその衝撃に体をくの字に折り曲げ、少女は苦悶の声を漏らす。

 それでも彼女は倒れまいと体を踏ん張り、顔を前へと戻す。だがそれと同時に機関銃の銃口が額に添えられ――

 

 

「まだまだ荒削りね貴女。少しは工夫なさい」

 

「がっ……!」

 

 

 視認した時にはもう遅く、凶弾は既に発砲されていた。間隔が空いているならともかく、この至近距離では反応することができず額に銃弾を諸に食らってしまう。

 ヘルメット団の鈍な獲物とは違い、空崎ヒナ専用の銃としてカスタマイズされたそれは、持ち主と同様にキヴォトスでも最高位の代物。これには流石の彼女もたまらず大きく体を反らせた。

 

 

 

 

 だがしかし奴は、それすらも利用してみせる。

 

 

 

「ぬぅぅんん!!」

 

「なっ!? ぐぅぅ!」

 

 

 なんと仰け反った状態の体勢から、飛燕(ひえん)の如きサマーソルトキックを放ってきたのだ。ヒナもすかさず銃を間に入れ直撃は免れるものの、蹴りの衝撃を殺し切ることができず空中に浮かび上がってしまう。

 無論こんな好機を逃すほど彼女は甘くなく――

 

 

「墜ちろ!!」

 

 

 大地に足を付けると即座に翼を大きく広げ、宙に投げ出されたヒナを斜め下に叩き落とした。空中かつ高速で振るわれたそれを躱す暇はなく、彼女は凄まじい勢いで吹き飛ばされ遠方の瓦礫と衝突した。

 

 

(咄嗟に翼で防いで良かった。ひやひやさせてくれるわね……)

 

 

 しかしヒナはすんでのところで翼で体を包み込み、衝撃を最小限まで和らげていた。一秒でも遅ければ大ダメージを喰らっていただろうと、揺蕩う砂塵の中で彼女は冷や汗を流す。

 

 視線を少女のほうに戻すと相手はすぐ近くまで距離を詰めており、両手を岩のように握り固めていた。ヒナが起き上がると同時に、みたび激しい格闘戦へと発展する。彼女はまたかと内心飽き飽きしながらも、その連撃を冷静にあしらおうとした。

 

 

「ごふっ!?」

 

「おっ、ようやく当たった」

 

 

 しかし突然顎に強烈なアッパーを叩き込まれ、ヒナの顔は上を向く。決して気が緩んでいた訳ではない。むしろこれまで以上に用心深く戦っていたのに、少女はその堅い防御を掻い潜って彼女に一撃を浴びせたのだ。

 

 

「大体掴めたぞ、お前の動きが!」

 

「がはっ……!?」

 

 

 すると今度は脇腹に膝蹴りが入れられ、その尋常ならざる破壊力にヒナはたまらず息を吐き出した。

 

 

(今までのインファイトとは全く違う! 無駄が削ぎ落とされ、精錬されたものになりつつあるっ!)

 

 

 

 

(まさか私の動きを学習し、成長しているというの!?)

 

 

 別の人間と入れ替わったかのように急変し、精密となった彼女の格闘術にヒナは驚愕する。一発一発の衝撃が常人の本気を遥かに凌ぎ、冷静に対処していた時とは打って変わり、焦りを隠せずにいた。

 

 

「さて、そろそろ手数を増やしてみようか!」

 

(それもこんな短時間で!)

 

 

 更に槍翼での突きも攻撃パターンに組み込まれ、より激しくなったその乱舞に彼女はより一層追い詰められていく。機関銃でその斬撃と打ち合うも頬や肩などの肉を徐々に削られ、体の至る所から血を流しながら悪戦苦闘を強いられる。

 するとそんな彼女の迎撃を潜り抜け、神速の一閃がヒナへと迫る。己の心臓を貫かんとするその刺突を、彼女は視認こそしていたものの――

 

 

「ぐっう゛ぅ゛ッッッ!!」

 

 

 躱しきる事ができず、左脇下を切り裂かれてしまった。傷口から灼熱の激痛が走り、土留(どどめ)色の制服がじわじわと赤みを帯びていく。

 痛みによって硬直し生まれた、ほんの僅かな隙。相手はそれを見逃さずヒナの左腕をがっしりと掴む。

 

 

「お返しだ」

 

「うぅっ!?」

 

 

 そして背負い投げの要領で体が持ち上げられ、ヒナは天を見る体勢となってしまう。左腕を掴まれ、右手にはライフルを持っているため受け身を取るのは不可能。

 

 

「舐め……ないで!」

 

 

 しかし彼女とて、キヴォトスにおいて最強格とされている屈指の強豪。ならばと即座に身体を捻って大地に足を伸ばし、背中から叩きつけられるのを防いだ。足にかかる負担は多少あるだろうが、それでも体全体で諸に食らうよりはマシ。

 だと考えていたが――

 

 

「舐めてないさ。それ吹き飛べっ!」

 

「があああっっ!!」

 

 

 ヒナの体がぐいっと引き寄せられ、無防備となっていた彼女の胴体に強烈な蹴りが飛んできたのだ。

 その衝撃によって彼女の体はサッカーボールさながらに吹き飛び、何度もバウンドしては地面を激しく転がった。直線上にあった電柱と激突した事でようやく止まり、ヒナは痛みを抑えつつすぐに起き上がる。

 

 すると彼女の目に映ったのは自身の翼を前へと大きく伸ばし、左右に重ねた少女の姿だった。すると再び、バチバチと火花が散るような音が鳴り始める。

 

 

(また光弾……? いや、何かが違う!!)

 

 

 己の本能が告げた警告を受け、ヒナは咄嗟にステップを踏み出そうとした。

 

 

「づッッ!」

 

 

 しかし先程受けた傷の痛みが突っ張り、一瞬体が硬直してしまう。たかが一瞬されど一瞬。再度回避を試みた時にはもう遅かった。左右に重ねられた翼の間に、巨大な眩い閃光が灯ると――

 

 

 

 

ドシュバァァァァンッッッ!!

 

 

 

 

 なんと噴出口から爆音と共に、赤黒い極太の光線が放出されたのだ。白い閃光が入り混じったその光線は真正面にいたヒナを容赦なく包み込み、大爆発を起こすと散り散りになって消滅した。

 

 

「……」

 

 

 光線の照射を止めた少女は翼を元の位置に戻して腕を組み、今か今かと二の腕を指で叩きながら巨大な爆煙を注視していた。するとその数秒後――

 

 

「やはり来るか。そうこなくてはな」

 

 

 俯いた状態のヒナが煙の奥から、一歩一歩闊歩するように現れた。数歩進んだ所で歩みを止めると、口内に溜まった血液を地面に吐き捨てる。

 それでも彼女の顔は依然下を向いたままであり、その表情は読み取れない。まあなんでもよいと、少女が眼前の好敵手に向かって踏み出そうとしたその時。

 

 

「私はね、周囲からはキヴォトス最強の一角だなんて言われているけれど、実際はそんな高尚な人間じゃないの」

 

 

 小さく吐き出された彼女の声に、少女は思わず足を止める。それを知ってか知らでか、ヒナは言葉を続けた。

 

 

「誰よりも強情な弱虫で、甘たれた意地っ張り。委員会の皆が私を信頼してくれている一方、本人は彼女達に素直になりきれていなかった。先生がいなければ、いずれ私は壊れていたでしょうね」

 

「……それで?」

 

 

 少女がそう問いかけた直後、ヒナはおもむろに頭を上げ――

 

 

 

 

「でも今は違う。皆が私の弱さを受け入れてくれるのなら、私は全身全霊を以って彼女達を守り抜いてみせる。恥も外聞もかなぐり捨ててでもね」

 

 

 

 

(っ! この覇気、今までの物とは比べ物にならん。これが奴の本気か!)

 

 

 声こそ張り上げなかったものの、その断固たる決意には咆哮にも等しい気迫があった。その凄まじい迫力に、少女は自身の肌がひりついている事を実感する。そして獰猛な嗤いを浮かべ腕を構えた。

 

 

「よろしい……ならばこちらも全力でぶつかろう。行くところまで行こうじゃないか!」

 

「上等よ、もう優しくはできないから覚悟なさい」

 

 

 両者の闘気が極限にまで膨れ上がり、再び戦いの火蓋が切られようとしたその刹那。

 

 

(ん? こちらに向かってくる足音が一、二……いやもっとだな、百人以上は確実にいる。それだけではない、何か重機のような鈍い機械音も聞こえる)

 

 

 少女の耳元に、どこか遠くからこの戦場まで近づいてくる複数の物音が届いてきたのだ。

 

 

(なるほど。そういうことか)

 

 

 そうして一つの答えに辿り着いたと同時だった。

 

 

 

『委員長! ついさっき現場まで向かっていた救急医学部のやつらと合流して、患者達を預けてきた! アコちゃんにも今動ける風紀委員会の人間を総動員してもらっている! あと2、3分したらそっちに着けるぞ!』

 

「イオリ……了解」

 

 

 ヒナの耳元に付けていた無線機からイオリの声が発せられる。その内容は彼女にとってはこれ以上ない吉報であったが、その音声は少女の耳にも当然届いていた。

 

 

「ふん……」

 

(この土壇場で増援か。些か面倒ではあるが、然りとて私は遅れをとるつもりは――ん? こいつ……!)

 

 

 鼻を鳴らした少女がヒナに意識を戻すと、その時彼女はとある事に気付く。

 

 

(まあ良い、目的は十分に果たした。今日日はこんなところでいいだろう)

 

 

 勝負はこれからだという時に御預けを喰らい、少々腹立たしいがここは退くしかない。そう決心した彼女はヒナに向けて高らかに笑う。

 

 

「空崎ヒナ。女史は私の期待を遥かに超えていた。有意義なひとときを過ごせたことを感謝する」

 

「何よ、唐突に……」

 

「色々と勉強になった。いずれまたどこかで会おう」

 

「逃げるつもり? ――させる筈がないでしょう!!」

 

 

 そうはさせまいと、ヒナはすぐさま大地を蹴り眼前の敵に飛びかかる。

 

 

「勘弁してくれ」

 

(煙幕弾!? いつの間に……)

 

 

 すると突如爆発音が鳴り響き、同時に周囲を白煙が取り囲む。ヒナは驚きつつも即座に腕を大きく振り払い、煙を吹き飛ばした。しかし――

 

 

「――っ、取り逃した!」

 

 

 彼女が怯んだのはほんの一瞬。だが相手はそんな僅かな間でヒナの元から姿を消してみせたのだ。だが相手は武器や小道具の類は持ち合わせていなかった、ならばどうして? そんな疑念が脳裏に浮かんだが、とある一つの仮説を思い付き自身の腰に手を当てる。

 

 

「随分と、手癖が悪いようね」

 

 

 すると本来ならそこにある筈の物が無くなっていた。恐らく二人が取っ組み合いになっている際、こっそり抜き取っていたのだろう。

 自治区を荒らし仲間を痛めつけた人間をこのまま逃したとあっては、実質的な敗北と言えよう。ヒナは今の状況をそう判断する。自身の不甲斐なさか、あるいは彼女への憎しみからか唇を強く噛み、血が滲み出る。マシンガンを持つ手にも無意識に力がこもり、みしみしと痛ましい音が鳴っていた。

 

 

「まだ遠くには行っていない筈。こうなれば(しらみ)潰しにでも……っ゛!?」

 

 

 彼女を手当たり次第捜索せんと画策した直後、ヒナの体に異変が生じる。まるでピントがズレたかように、自身の視界が段々とぼやけていくのだ。

 

 

(目の前が、暗いっ……! これは、まさか……)

 

 

 なぜなら先程受けた脇の傷、それが深かったのだ。全身を切り刻まれている上にそれが決定打となり、血を流し過ぎた今の彼女は失神する寸前の状態となってしまっていた。それに気づいた瞬間体から力が抜け落ち、彼女は地べたへと倒れ込む。

 

 

(あの子達には、あれだけ言っておき、ながら私は……)

 

 

 

(ごめんなさい、みんな……頼りないリーダーで……)

 

 

 

 微睡にも似た視界の中で仲間達への謝意を唱えると、彼女は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「えらく静かだな……まさか既に制圧したのか? 流石は委員――え?」

 

 

 それとほぼ同時だった。風紀委員会の切り込み隊長である銀鏡イオリが、他の者達より一足早く現場へと戻って来たのは。

 そうして少し走った所で、イオリは見つけてしまう。

 

 

 

「なっ……嘘、だよな……? 委員長……」

 

 

 

 うつ伏せに倒れ、生気を失った自分達のリーダーの姿を。

 

 

 

 

 

「うわぁぁああああっっ!! 委員長ォォオオッッッ!!」

 

 

 

 

 

 イオリはすぐさまヒナの元へと走り、彼女を抱き寄せる。辛うじて息はあるものの、一刻も早く輸血をしなければ涅槃(ねはん)へ逝くであろう状態なのは一目瞭然であった。

 

 

「こんなっ、こんな事があっていいのかよっ……! チクショウッッッ……!」

 

 

 そう理解したイオリは彼女の背中と膝裏を持ち上げ、全速力で仲間の元へと向かう。俗に言うお姫様抱っこの体勢であるが、そんな事はイオリの脳裏に一切浮かんでいない。自分達が絶対的な信頼を置く風紀委員長の、無残な有り様を拒絶するのに頭が一杯だからだ。

 

 

 

 

 そうして二人が現場から足早に去って行く姿を、少女は遠く離れた物陰から覗き込んでいた。

 

 

「奴の全身全霊を見られなかったのは心残りだが……死なれては困るからな、あれ以上長続きはさせられん。致し方あるまい」

 

 

 そう、彼女はヒナの体が限界を迎えている事に気付いていたのだ。湧き立つ闘争心を抑え込み、逃亡を選んだのはそのためである。

 

 

「今次の戦はあいこという事にしてやる。姿形は違えど、この天彗龍が尻尾を巻いて逃げるなど過去に一度も無いのだから」

 

 

 

 

「腰抜けと称したのを訂正するよヒナ。貴様は誇り高き一流の戦闘者だ」

 

 

 

 

 彼女は自身と競り合った英傑を褒め称え、追手が来る前にと自身も戦場から去っていった。

 

 





ヘルメット子みたいに一瞬で終わるわけにはいかないので……戦闘の描写に思案投首していました。
『バルファルク』を下げすぎない、『空崎ヒナ』も弱くしすぎない。「両方」やらなくちゃあならないってのが、「クロスオーバー」のつらいところだな。


ところで……他所様でよく見受けられる掲示板回やプロフィール回は需要があったりするのでしょうか?

おまけ回的な物は?

  • (いら)ないです。
  • かくべき、やくめでしょ
  • ん。作者に任せる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。