透き通る世界を照らす赫き星   作:お茶犬大家族

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プレナパテスをラスボスとするなら、今のバルクさんは裏ボスという立ち位置になりますかねぇ。
最終編を終えたばかりの状況で、敵か味方かも曖昧な正体不明のバチクソ強い謎生徒の登場。

当ブルアカをプレイしている先生方の情緒はいかほどか……。

そして以前の話の誤字を報告していただいた読者様、誠に有難うございました。




破られた平穏

 

 

 目を覚ました私が最初に見た物は、ゲヘナ学園の医務室の天井だった。救急医学部の部員達が部室として使っている部屋であり、そこに設けられたベッドに私は寝かされていたようだ。

 あれから私は4時間程意識を失っていたらしく、部長の『氷室(ひむろ)セナ』によると、後1時間でも遅ければあの世に逝っていた可能性があったとか。再度現場まで急行していたチナツを始め、医療面で腕に覚えがある生徒達の応急処置により、なんとか命を繋げられたようだ。

 目立った外傷は脇下の裂傷くらいで、輸血等の適切な処置を施された私は、なんとか動く分には問題ない程度に回復できた。

 

 そうして現在はゲヘナ学園の生徒会にあたる『万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)』に訪れ、今日あった出来事を報告している。既に太陽は沈みかけている頃ではあるけれど、今は四の五の言っていられない状況。多少無礼なのは承知の上。

 

 

「――と、これで報告は以上よ。何か言いたい事はあるかしら?」

 

「ああ、あるとも。ゲヘナの風紀委員長ともあろうものが、まんまと捕縛対象に逃げられてしまうという醜態を晒したなんて話を聞き逃すはずがない! キキッ、こんなザマでは風紀委員会が離散するのも時間の問題――」

 

「……何も言い返すつもりはない。いっそのこと、そんな風に笑い飛ばしてくれたほうが嬉しいわ」

 

 

 瞳を閉じ淡々と話を聞いていた目の前の人物。万魔殿の議長にして、この学園の生徒会長でもある『羽沼(はぬま)マコト』は、やはりというかいつも以上にこちらを挑発し始める。椅子と一体化するようにもたれながら、私を見下ろすかの如くけたけたと扱き下ろした。

 だけど私が失態を犯したのは事実であるため、否定する気には到底なれない。彼女を捕まえてみせると豪語しておきながら、結果的にはこのザマなのだから。

 

 

「……ふん、面白くないやつだな。にしても、それほどまでの強さだったのか。件の生徒は」

 

 

 しかしそんな私の反応がつまらなかったようで、にやついていた表情が消え、張り詰めた面持ちへと変わる。そして椅子と同化するかのように倒していた体を起こすと机に両肘を突き、両手を口元に寄せてこちらを見据えた。正直意外だったわ、もう少し執拗に揶揄ってくると予想していたのだけれど。

 曲がりなりにも、ゲヘナの生徒達を束ねる生徒会長といったところかしら。そんな彼女の振る舞いに、少しだけ救われたような気がした。

 

 

「ええ。彼女は恐らく――いや、このキヴォトス全土の人間を含めても、最上位に位置付けられる実力者だと断言できる」

 

「貴様がこうもあっさり言い切るとはな。具体的にはどのような戦い方をしていたんだ?」

 

「そうね、第一に彼女は銃を使っていなかった。自分の肉体だけで、風紀委員会の皆を蹂躙できる力があった。ただ荒削りというか、戦い慣れていないような印象を受けたわね」

 

「……にわかには信じがたいな。銃を持ち合わせておらず、肉弾戦のみを執る輩が存在するなど。しかし貴様が言うには真実に違いないのだろう。ところで実力は備わっているのに戦い慣れていないとは、どういう事だ?」

 

「ポテンシャルは凄まじいけれど、それを上手く使いこなせていないと言ったところかしら。まるで高性能の新車に乗り換えたばかりの人間が、そのじゃじゃ馬っぷりに翻弄されて制御しきれていない。そんな不安定さがあった」

 

 

 私は自身が受けたありのままの印象を述べる。ただ彼女はそんな発展途上の状態でありながら、キヴォトスの大半の人間を凌駕できるであろう実力を持っていた。

 それが意味する事は――

 

 

「しかし言い換えれば、今後次第で彼女はこれから大きく化ける可能性があるということ。事実として序盤は素人の戦い方に近かったけれど、徐々に動きに磨きがかかり、私は防御に徹するのに必死だった。もし悪意を宿した状態で成熟しようものなら、空が紅く染まったあの日と同等の天災になり得る。本当にそうなる前に、なんとしてでも捕えないといけない」

 

「なっ……! そんな奴を尚更野放しに、それどころか経験値を与えてしまっただけだと言うのか!? 将来取り返しのつかない事態になってしまったらどうする!?」

 

 

 私の言葉にマコトは声を張り上げ、椅子から立ち上がった。その際机を強く叩いたことで、卓上の電気スタンドや書物が僅かに振動する。

 挑発を一切含まない、真に私を糾弾する台詞。まごう事なく彼女の言う通り、だからこそ私は全てを捨てる覚悟でここに来たのだ。

 

 

「ええ、だからこうして万魔殿に直接頭を下げに来たのよ。腹を切る覚悟だって既にしてある」

 

 

 そう言い終えた私は一歩踏み出し、マコトとの距離を縮める。

 

 

 

「ゲヘナ風紀委員長として願い出るわ、羽沼マコト。不審生徒の捕縛のため、貴方達にも協力してほしい」

 

 

 

 そして深々と頭を下げ、彼女に協力要請を申し出る。私がこんな行動をとるとは予想だにしなかったのか、マコトは驚愕の表情を浮かべ長身の体が少し退いた。すると――

 

 

「……ふん。不本意だが、私の野望を邪魔立てする可能性のある存在を放ったらかしにはできんからな。その要求、受諾しよう」

 

 

 マコトは再び椅子に腰をすっと下ろし、私の懇願を受け入れてくれた。彼女達の優れた情報網を得られるのは非常にありがたい。

 

 

「感謝する。ただ幸いにも彼女は現時点においてはゲヘナ、もといキヴォトスに対する明確な敵意は無いと窺える。見たところ、ただ強者と戦いたいだけの傍迷惑な人間止まりね」

 

「そうか……分かった。もう十分だ、行ってもいい」

 

「邪魔したわね。イロハも、いきなり押しかけてごめんなさい」

 

「別に気にしておりませんよ。何やらよろしくない状況だというのは、部屋へいらした時の顔付きからそこはかとなく感じられたので。それも委員長がそんな痛手を負わされる相手となると、我々も気を引き締めなければならないようですね」

 

「ええ、申し訳ないけどよろしくお願いするわ。では失礼」

 

 

 そう言って踵を返して出入口まで近付き、扉を開閉して万魔殿の執務室を後にする。

 夕日に照らされる薄暗い廊下をある程度進み、窓ガラスから覗く黄昏の空を一瞥した。この広大な空と同等の規模を持つキヴォトス。そのどこへ逃げようが、決して逃しはしない。

 

 

「絶対に捕まえてみせる」

 

 

 この空崎ヒナに二度の敗北は許されない。けじめはきっちりと彼女に取らせてもらう。

 そう決意した私は、夕焼けの光が差し込む仄暗い廊下を再び歩いていった。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 ヒナ委員長が退出し一時の静寂が流れたその数秒後、私こと『(なつめ)イロハ』はとある疑問を議長に問いかけた。

 

 

「議長、貴方がこうもすんなりと彼女の要求を受け入れるとは思ませんが……。一体どういう風の吹き回しなんです?」

 

「キキッ、考えてもみろイロハよ。こうして奴らに恩を売っておけば、後々我等のやる事なす事に介入するのが容易でなくなる。それに件の生徒の捕縛に成功し我が傘下に収める事が出来たとすれば、万魔殿はさらに盤石な組織となるだろう! つまりはこのマコト様の天下が訪れる日も近いというわけだ!」

 

(ああ、やっぱりこうなるか……)

 

 

 やはり裏があったようだ。仮に件の少女の捕縛に貢献したとして、今後の活動にその事を引っ提げても「それはそれ、これはこれ」と片付けられるのが関の山だろうに。

 下卑た高笑いをする彼女に対し、精々上手くいくといいですねと心の中で呟いた。

 

 

「……まあ、色々言ったがそれ以上に――」

 

 

 しかしそれに付け足すように吐き出されたその言葉に、違和感を抱いて再び耳を傾けようとした時だった。何やら扉の向こうから、とたとたと軽やかに鳴る靴音が近づいてくるのだ。大方あの子だろうと考えていると、音は扉のすぐ手前まで着いた時に鳴り止んだ。

 その直後、扉はばぁんと豪快に開けられた。すると――

 

 

 

「マコトせんぱーい! お仕事終わり? イブキとあそぼ〜♪」

 

 

 

 やはり足音の正体は彼女、私達と同じ万魔殿に所属するゲヘナ学園の一年生『丹花(たんが)イブキ』だったようだ。

 

 

「おおおぉぉイブキぃぃ! いいぞ〜♪ 今日は何をして遊ぼうか!」

 

「お絵描きしたい! さっき教室でね、すっごいの見たからそれ描きたいの!」

 

「凄い物? なんだそれは」

 

「真っ赤なお星さまがびゅーんって飛んでたんだ! ちゃんとお願い事もしてきたんだよ!」

 

 

 イブキは11歳でありながらその優秀さを評価され、高等部へ飛び級をするほどの生徒だ。しかし根っこは年相応の無邪気な女の子であるため、万魔殿におけるマスコット的な存在となっている。

 厳格な雰囲気を纏わせる議長でもイブキには頭が上がらないようで、日常的に彼女を可愛い妹のようにあやしている。それがなくても強面な外見とは裏腹に、ゲヘナ生の中では比較的真面目な生徒なのに、どうして風紀委員会が絡むとあんなに陰湿で性悪になってしまうのか……。

 

 

「ほほう、一体どんな願いをしたんだ? ああ、分かったぞ。このマコト様ともっと長い時間を過ごした――」

 

 

 

OPEC(石油輸出国機構)での会議で原油価格が最適なものになりますようにって!」

 

「急に現実的過ぎやしないか?」

 

 

 

 まあ、ああだこうだと考えるのも仕方ない。私はやるべき事を一刻も早くやり終えて、ぐうたら過ごせたらそれでいいのだ。

 そんな事を考えていると、議長がこちらへ再び意識を向けた。

 

 

「――と、話の途中だったなイロハ。風紀委員会がどうとかそれ以上に、其奴がもし実際に天災と成り果て、キヴォトスを征服するという私の障壁として立ち塞がるなら。もっと言えば私達のイブキに害を成そうとするのなら、こちらは一切の慈悲を与えない」

 

(……ふむ)

 

「頭首たる私が言うのもなんだが、我が万魔殿は奴ら程の優れた戦力は有していない。今回空崎ヒナの議案を可決したのも、奴らの戦力が惜しかった故だ。双方にとって都合がいいならそうするまでとな」

 

 

 なるほど。彼女も彼女なりに、今回の事態を重く受け止めているということだろう。ちょっとだけ見直しましたよ、マコト議長。

 

 

「マコトせんぱ〜い? お絵描きは〜?」

 

「おっとすまない、そうだったな。では休息を取れる部屋へ移動するとしようか」

 

「ふふ、せっかくですし付き合いますよ。ですがイブキ、あまり遅くならないようにしてくださいね」

 

「はーい!!」

 

 

 確かに、この無邪気な笑顔を奪い兼ねない存在を見過ごす事はできませんね。私達はこの子のため、キヴォトスのために出来ることを最大限に尽力するとしましょう。

 

 





万魔殿のルビ長すぎてスペースできてんの草。

実は今回の話と次回の話は一纏めにして投稿するつもりだったのですが、平均の文字数に鑑みて小分けする事に致しました。何卒ご了承ください。

しかしその分、次話は早めに更新できるかと思われます。乞うご期待ください。

おまけ回的な物は?

  • (いら)ないです。
  • かくべき、やくめでしょ
  • ん。作者に任せる。
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