魔法少女観察記 作:ジン
西地区における怪人の暗躍を知った有紗は、対抗手段を考えるため現状を整理した。怪人の目的は
・西地区にある反社会的組織の掌握、合併
・魔法薬物の大量生産と流通
であることが判明している。では、これを頓挫させるための方法としては
・反社会的組織の壊滅or弱体化
・魔法薬物の生産拠点を破壊
が考えられる。怪人討伐事態は魔法少女に任せる必要があるため、魔法少女を西地区に誘導する方法も考えなければならないが、それはまだいいだろうと一旦先に置く有紗。
次いで、使い魔に調べさせた西地区の情勢に目を通す。そこに拠点を構える組織は十。内三つは既に怪人によって籠絡されており、現在は四つ目の取り込みにかかっている。つまり方針としては、掌握されていない七組織の取り合いを行ないながら、同時に三組織の力を削る必要がある。そう結論した有紗は早速動き出した。
姿隠しの魔術を使いながら西区に入った有紗は一つの考え事をしていた。それはこの戦いにおける警察の立ち位置である。当然のことながら西地区にも管轄の警察は存在している。しかし実のところ警察はこの地区に対してあまり介入しない。何故かというと、この地区は反社会的組織の集まる場所として地元では有名であり、一般人が近付くことは殆ど無い。そのため、何か事件が起きたとしても一般人が被害者になることは滅多に無く、危険を冒してまで手出しすることを躊躇した警察は静観の態度をとった。また、そのことを良く理解している反社会的組織側も一般人への手出しを固く禁じているため奇妙な秩序が形成されているのだ。……だがそれは一般人に手出しをしてしまえば警察も動かざるを得ないという事を表している。怪人の目的は明らかなライン越えであり、そこを上手く突けば警察も巻き込めるだろうと有紗は考えた。
「着いたわね」
そうこうしている内に一つの建物の前に辿り着いた有紗。ここは怪人によって陥落させられた組織の一つが拠点としている場所である。近くの路地に身を潜め、様子を
(見た感じ、下っ端のようだけれど……仕込みにするには問題無いわね)
しばらく男を追っていると、やがて小さな店に入っていった。ビールなどの酒類やつまみ、煙草を大量に買っているのを見るに、上の人間から使いっ走りにされているのだろうか。買い物を終えて帰ろうとする男を中心点として、人払いの魔術を発動させる有紗。十分に人の気配が離れた事を確認し、姿隠しの魔術を解いて男に声をかける。
「ちょっと良いかしら?」
呼びかけに反応して振り返る男。そのまま有紗の姿を見て少し驚いた様子になる。それはそうだろう、ここは危険地帯として敬遠される土地なのだ。他所から来た人が誤って迷い込みそうになっても誰かが制止するような場所に、高校生くらいの、それもしっかりと着飾った女子が居るのは明らかに異常なことだった。
(かかった)
そして当然、そのような意識の空白を有紗が逃す筈もなく……次の瞬間には男と視線を合わせて催眠系統の邪視を複数重ねがけする。無防備な状態の精神に強力な呪いをぶつけられた男の意識は、瞬く間に縛り上げられ有紗に支配される。懐からボイスレコーダーを取り出し、録音の準備を終えた有紗は男に命じる。
「あなたの入っている組織について、全て話しなさい」
虚ろな表情をした男が垂れ流す情報を記録していた有紗。しかし下っ端の男に重要な情報を握らせる訳もなく、怪人に関わる情報も得られなかったため少し落胆した様子で男に命じる。
「今はもう良いわ。また何かあったら連絡するから、それまではいつも通りに動きなさい」
そう言って踵を返し、再び姿隠しの魔術を纏う有紗。少しして意識を取り戻したのか、ハッとした様子の男は頭を振って立ち上がると、組織の拠点へと戻っていった。