幻想郷は夜を迎えていた。月も隠れて光が消えた森の中に、迷える霊が今消えようとしていた。
「あぁ......消える、消えちゃう.......!」
どうやら消滅はこの霊が望んだことではないらしい。
『消える、消える。』
『死ぬ、いなくなる。』
「な、に......?」
幸か不幸か霊の周りに
『嫌だ、死にたくない。』
「うぅ......こわいよぉ!」
『こわいよぉ、こわいよぉ。』
その霊が選ばれたのは偶然だったのかもしれない。誰かがその霊に取り憑いた。
『からだ、みつけた。』
「い、いやっ!出てって!!」
『からだ?』
『おうち、みつけた。』
『かえろう、かえろう。』
「来ないでぇ!やめて!やめてよぉ......!」
ひとり憑けばまたひとり。
憑けば憑く程存在感は強くなっていた。
「嫌ぁ......入って来ないでよぉ......」
ただこの霊にとってはそんなことはどうでもよかった。消滅の恐怖から、異物が入るという恐怖が襲ってきただけである。
『おうち、どこ?』
『またかえらなきゃ。』
皆が皆憑け入ることができているわけではなかった。未練同士が意味もなくぶつかり合い、弾き出されてしまう者がいたのだ。
「ぐぅ......!嫌だ、私の中から、わたしが、でていく......!」
その対象には憑かれている霊も含まれていた。
霊は必死に自我を保っていた。
『あぁ、どこ?』
『かえらなきゃ、かえらなきゃ。』
『また、もどらなきゃ。』
そんな努力を汲む者などこの場にはいなかった。ただの未練は霊に取り憑く機械となっていた。
出ては入って、出ては入って。
どれだけ繰り返しても安寧が訪れないことに、未練達は不満を募らせていた。それは時間が経つ程積み重なり、取り憑き合戦の苛烈化がそれを示していた。
「あ......う、うぅ......おぁ......」
もはや言葉を発することすらままならない。自分の中で異物が混ざり合って、どれが自分の自我なのか曖昧だった。
取り憑かれる程存在感だけは大きくなり、周囲の未練をすべて取り込むことができる程度の器は完成していた。
ただ、すべての未練が居座るだけで満足するわけではない。明確な自我を欲し、乗っ取ろうとする者同士で争いが続いていた。
「......」
霊はただ耐えていた。同時に消えることすらできなかった。存在は器として、自我は器の底にぎゅうぎゅうと押し込められてこびりついてしまったのだ。
終わりの見えない争いは噂を生んだ。どうやら森の中、ある場所に、未練を晴らせる場所があるようだ。
噂は新たな未練を呼び、未練は新たな争いを生み、争いは新たな噂を生んだ。
消えたのは霊でも未練でもなく、【終わり】だった。
とにかく、この神社の周りに妖怪がいることはそれほど珍しいことではなかった。
神社の巫女である
「巫女さんは幽霊退治とかするのか?」
「幽霊退治、ですか。妖怪退治には手を出しましたが、幽霊はあまりないかもしれません。」
幽霊は妖怪ほど存在が強いものでもないため、自ら進んで関わることもなかった。
「へー、意外とやること少ないんだな。」
「人間の信仰を集めることにあまり繋がりませんからね。人間が霊に関わることは意外と少ないのです。」
「自分たちの成れ果てなのにな。」
「そういえば、急に幽霊の話なんてどうかしたんですか?」
「いやなに、最近心霊激熱スポットという噂を聞いてね。巫女さんが興味あるなら話そうかと思ったんだが......」
「超興味あります!教えてください!!」
話によると、霊、
願いを叶えるなぞ神の
幻想郷最先端(自称)の神社の巫女として、先手を取りたい事柄だった。
話を聞いた限り、心霊激熱スポットがどんな場所なのかは定まらなかった。巨大な
当然、探し当てようにも時間がかかった。霊を追跡しようにも真昼間から
一度探索を打ち切るには丁度良い時間だ。しかし、その必要はないだろう。
「......?」
「......ぇ」
「......(声?)」
「...ぁ......たすけ......」
「女の子がっ!?」
「今行きます......っ!?」
近付く
「待ちなさいッ!!」
声を上げるも
たった今、化け物が誕生した。
化け物は浮遊し、空を目指す。
「待ちなさいと、言っているッ!」
それらを処理して化け物を見るが、爆散したはずの部位が復活していた。そして、化け物の注目は空から
『死にたくない。』
『こ、殺される!』
『あぁ!家に空きができた!』
『かえろう、かえろう。』
「一体幻想郷のどこにこれほどの霊がいたのでしょう?」
未練が未練を生んでいるのだが、
「一気に削れば、霧散するでしょう。食らいなさい!」
早苗は蛙を模した炸裂弾を放つ。が、それは悪手だった。
『ぉぁああああ__!』
「っ!これは、まずいです......ねっ!!」
未練は未練を生む。有限の塊であれば
派手に爆散した部位は
「鎮まりなさい!」
あの明らかに頭ですといった場所はコアではないようだ。コアを見つけようにも消耗しない相手に対して持久戦をするのは分が悪い。
「やっぱり、パワーが最強の解なのですっ!」
__
激しい爆発が化け物を襲う。蛙が爆発し、爆発から蛙が生まれ、生まれた蛙が爆発する。未練など抱く間もなく、化け物は蛙の輪唱に飲み込まれていった。
が、
「止まって!」
化け物は充分に崩壊し、女の子は化け物から切り離された。散った
「よい、しょ......間に合いました。」
地面に降りて、抱きかかえた女の子の顔を見る。
だからだろうか、
「ぅ......うッ!」
「わわっ!」
女の子が目を覚ましたかと思うと、急に
「あぁ......あっ......ぅぁ」
「離れなさいッ!!」
すべてが入り込む前に
「大丈夫ですか!?」
「ふっ......うぅっ、あ、あっ」
「落ち着いて下さい。大丈夫です。もう大丈夫ですから。」
「あ、あ......あり、が......と。」
「っ!」
女の子はもう未練がないと言わんばかりにぴくりとも動かなくなってしまった。
いや、そんなことはない。ここは幻想郷、あらゆる怪奇が起こる場所。そして、私が奇跡を起こす場所でもある。
「大丈夫、きっと大丈夫......まだ大丈夫ですから......!」