「(子供たちの笑い声が聞こえる。)」
肌にあたたかな空気を感じながら朧気な意識が曖昧な風景を映し出す。遊んでいる子供たち、それを笑顔で見守る人々。人々は一枚絵で描かれたかのように動かない。そんな情景が川のように並んでいるのを
「(......あぁ。私は寝てたのか。これは......歴史?)」
夢の中で夢を自覚して自由に思考する。
「今回は下ってみようかしら。」
「(大人がいない。)」
子供たちは変わらずに遊んでいる。ただそれを見守る大人たちの姿がいつの間にか消えていた。
「っ!」
するとこちらを無言で見つめる大人たち。そこには何の感情も乗っていない。ただこちらを見つめていた。少し気圧されて後ずさると腰に何かが当たった。
「!?」
それは子供だった。先ほどまで遊んでいた子供たちがどこか不思議がるような空気を出しながら棒立ちでこちらを見つめていた。
「......」
「あれは......火?」
「ちょっと......!?」
黒い
「(苦しんでいるわけじゃない?)」
「タマ!?」
驚愕の連続。しかしそれも仕方のないことだろう。
「(地面に何かあるの?)」
ぺちっ。
軽い音が鳴った。タマの転倒を防ぐように、誰かが
「あなたたちは......」
「......」
一本の腕しか見えていないが、
「冷たっ。」
急に冷えた足元を見ると、先ほどまでは無かった雪が積もっていた。そして降りてくる水の気配。一斉にザーッと轟音が鳴り出したところで
「はっ!......はぁ、はぁ。」
「うぅ、ひっ、うぅぅ......!」
次は何事かと声の方へと目を向けると、自分の胸元で顔をくしゃくしゃにして泣いている少女がいた。
「......タマ?」
少女の体はぶるぶると震えながら
「(......喜び、幸せ、困惑、恐怖。一度にたくさんの感情が押し寄せて来て分からなくなってるのね。)」
少女の様子からなんとなくその心情を察した
「抑えなくたっていい。今全部出しちゃいなさい。私がいるから大丈夫。」
頭を撫でながら
「あぁ、こっちのほうが好きだったわね?」
撫でていた手で少女の頭にぽん、ぽん、とリズムを伝えた。
「うぅ、ぅ、ぅん.......!」
「ふふ、やっと話せた。」
「ふーっ!ふーっ!」
『うーむ。』
『なにしょうもないことで悩んでるのさ。』
『悩みの種が何か分からないうちからしょうもないと吐き捨てるのはどうなんだ?』
『どーせあの子のことでしょ?』
『うっ。』
『どーせ印象良くするためにどうすればいいのかとか考えてたんでしょ?どーせどーせだよ。』
『大事なことだろう!いや、目が覚めたら汗をかくと思ってな。風呂でも準備したらいいんじゃないかと思ったんだが。』
『いつ目が覚めるか分からないから準備時に悩んでたって?やっぱりしょうもないじゃん。』
『最適な時を見極めるのはいつだって難しいことなんだっ!』
『ま、悩んでるくらいなら早くお風呂沸かしてくれない?私入るから。』
『......いいだろう。』
『え、
『そうだ。』
『いいじゃん適当にぽっと沸かしちゃえば。』
『変に
『えー、いいよ。どうせ夜になったらまた眠るでしょ。いくらでも機会はあるよ。』
『だめだ!!』
『これじゃ時間かかるよー。濡れたからさっさとさっぱりしたいよー。』
『それこそ適当にぱっと乾かせばいいじゃないか。』
『
「ふーっ!ふーっ!コホっ、コホっ。ここくらいは改修してもいいかもしれないな。いやしかし、ウチだけ設備を整えてしまうとタマが嫁に行った時に一般的なやり方を知らず恥をかくことになってしまうか?それは婿入りさせれば問題ないか。」
「ふふ、これはチャンスだ。これは親しみやすさについて知るチャンスだろう。威厳との両立の前に私はこれをよく知る必要がある。」
『まだー?』
「あいつめ。私が
タマがいつ起きてもわかるように
「ふふ、今の私は非常に寛容だ。別の言葉にするならそう、母性だ。私は母性に溢れている。ちょっとやそっとのことでは顔をしかめやしないぞ。」
「じゃ、服も洗っといてねー。」
「いや、洗っている間に起きたらどうするんだ。」
「そんな早く起きないって。夜泣きする赤ん坊じゃないんだから。」
「これから下心でしか
「こ、これは下心ではない!うーむ。」
『ちょうど私が風呂を沸かしたところだ。入るといい。服も洗っておくさ。』
『わぁ!ありがとう!かなこ、すきー!』
『ふふ......こらこら。』
「まぁ、一理あるか。仕方ない。」
「......」
「(面白がって放置してると引き返せないところまで行っちゃうかなこれ......)」
それもいいか。いや、どうだろう。そんな問答が
「(小さい頃の
急ぎ足で服を洗いに行く
「お風呂で考えよ~。」
今は一人で入るには少し大きい風呂場を独占できる楽しみを堪能しようと、
「ぁ、ありがとう、ございます......」
「ん、落ち着いたようで結構。」
「あ、あの。」
「ん?」
「えっと、その。」
「あぁ。私は
「はい......!えっと、
「いいえ。律儀な子ね。もう大丈夫?歩けそう?」
「んー......」
「おっとと。」
タマは立とうとしてすこしふらついたが、
「まだぼーっとしてて。」
「起きたばかりだものね。そうねー、顔でも洗えたらいいんだけど。」
「起きたか!」
「?」
タマが体半分を
「(タマにとっての一番は
「(この子が行方不明なのにゆっくりしてた人と同一人物とは思えないわね......)」
「
「もちろん。だが顔だけではなく体も洗ってくるといい。私が沸かしておいた。」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ。いきましょ?」
「うん......!」
「......
「え?いや、なんでもない。ごゆっくりな!」
自信に満ち溢れていた
「どうしたの?」
「んーん、なんでもない。行こっか?」
「うん!」
「(今更自分が一緒に入れないことに気がついて固まってたんでしょうね......)」
洗濯を後回しにして一緒に入るか、タマがお風呂に入っている間に洗濯を終わらせるか。
「ん、お先~。」
「あ、どうも。失礼します。」
「し、失礼します。」
「おかまいなくー。」
お風呂には
「話は浸かりながらしよー?」
と
「......」
「......」
「(体の洗い方を忘れてたりするのかしら?)」
子供の可愛い行動で済ませるほど鈍感な
『この子の波長は体に反してかなり小さい子供の波長と似ています。まだ記憶が定着し始めて間もない幼児のよう。幼児と違うところがあるとすれば、違う種類の波長が出たり消えたりしているということです。表現が難しいですが、
「(起きた時に記憶喪失である確率は高いと思ってた。どこまで分からないのかはまだ知らないけれど......)」
「よい、しょ。よい、しょ。」
洗い方を覚えるように必死な顔をして髪を洗うタマを見て、
「いい?ここはこうやって......」
であれば教えるだけだ。
「ふぅー。」
「......」
「おつかれさまー。」
「全然よ。それで?話があるんだったかしら?」
「特にないよー。」
「名前くらい教えてあげたら?」
「あー。そうだったそうだった。ねぇ君、自分の名前は?」
「私の、なまえ?」
「そう。それはタマだ。おまえはタマという。」
「タマ......」
「そしてその呼び名の名付け親があたしだよ。」
「おー......」
「私のことは
「スワコさま?」
「ん、それでいい。」
「......カセンさま?」
「私は
「カセン?」
「そう。」
「カセンさま、だめ?」
「だめではないけれど......」
「カセンさまー、ふへへ。」
「(......まぁいっか。)」
「カナコ?」
「それは本人に聞くといいわ。」
「カナコでいいと思うけどなー。」
「立場ってものがあるでしょう?」
「どうかな。
「ちょっと詳しく聞いてもいいかしら?」
「別に攫って来たわけじゃないからそんな緊張しなくてもいいよ。」
「いえ、疑ってるわけではないのだけれど......」
「簡単な話だよ。この子は私の
「なるほどね。あなたが助けたのね。」
「助けたというより応えただけ。ちょーっと贔屓しちゃったからこれから頑張ってもらうけどね。」
「頑張る......?」
「この子記憶がないみたいだけど、思惑通りにいくのかしら?」
「留守番に記憶はいらないから大丈夫だよ。」
「留守番?この子ひとりで?」
「そ。」
「さすがにまだ無理だと思うわ。」
「大丈夫大丈夫。子どもの成長は早いんだから。」
「申し訳ないのだけれど、あなたたちに預けるのが一番の心配よ。その、普通ではないから。」
「ひどいなー。特に熱心な人が二人もいるのに。」
「その二人が心配なのよ。」
「タマの成長とどっちが早いんだろうねー。」
「あなたねぇ。」
「あ、そうだ。タマ、
「カナコ......?うーん。」
「ちょっと、悪いわよ。」
「まだこたえが返って来てないのに酷い言い草だなぁ。」
「カナコ......は、お手伝いさん?」
「ぷっ、あはははははは!」
「えっ?ちがう?」
「あはは!......はぁー。まぁ、お手伝いさんみたいなものだよ。」
「違うでしょ。あんまり偏らせると後で怒られるわよ?」
「今ならそれでも喜びそうだけどねー。ふぅ、いいものが聞けた。私はもう出るから、ごゆっくり~。」
「ちょっと!もう、気ままというか自由奔放というか。」
「?」
一方。
「目先の欲望に打ち勝ち、やるべきことをやる。きっとこれが正解のはずだ。」
タマからお手伝いさんと思われていることなど知らず、好印象のために洗濯をしている神がここにいた。
「
「一緒にやろう。早苗、タマは目を覚ましたぞ。」
「え”っ!?」
「
「お、お風呂も!?」
タマが目を覚ます前から、初めての添い寝、初めてのお風呂、初めてのご飯を自分と一緒にすると想像して疑わなかった
「あぁ、
「な、なんですか?」
「多分、タマが今一番懐いている相手は
「
「そうだ。そしてその次が
「あー。おんぶしてたから、ですかね?」
「残っているのは私たちだ、
「そ、そうですね。」
「
「は、はい!」
「あぁそうだった。伝えておかなければならないことがあった。」
「なんでしょう?」
「タマはうちで預かることにした。」
「えっ!?」
突然の告白に驚愕と嬉しさが混ざった感情が
「細かいことは風呂にでも浸かりながら話そうじゃないか。」
「お風呂で浸かりながら話すことなのでしょうか?」
「
「たしかにそうですね!申し訳ありません。」
「タマちゃん!目が覚めたんですね!!お風呂どうでしたか?」
「ぁ......カセンさま、この人、だれ?」
「な”っ!?」
「あちゃ~。」
「
「お手伝いさん......?」
「ぬ”っ!?」
「ちょっと?ちょっと!ねぇってば!こんなところで固まらないでよ!......もう、前途多難だわ。」
「?」
この時の衝撃が深く刻まれた