守矢の亡霊巫女   作:飛煙

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第六話「日常の始まり」

 「(子供たちの笑い声が聞こえる。)」

 

 肌にあたたかな空気を感じながら朧気な意識が曖昧な風景を映し出す。遊んでいる子供たち、それを笑顔で見守る人々。人々は一枚絵で描かれたかのように動かない。そんな情景が川のように並んでいるのを華扇(かせん)は開ききらない目で眺めていた。

 

「(......あぁ。私は寝てたのか。これは......歴史?)」

 

 夢の中で夢を自覚して自由に思考する。華扇(かせん)にとっては他愛もないことだった。

 

「今回は下ってみようかしら。」

 

 華扇(かせん)は情景の川を降りていく。顔が見えない人たちはきっと幸せなのだろう。そんなあたたかな空気が華扇(かせん)を包み込んでいた。しかし、いつまでもそれが続くようなことはなかった。

 

「(大人がいない。)」

 

 子供たちは変わらずに遊んでいる。ただそれを見守る大人たちの姿がいつの間にか消えていた。華扇(かせん)は衝動的に振り返った。

 

「っ!」

 

 するとこちらを無言で見つめる大人たち。そこには何の感情も乗っていない。ただこちらを見つめていた。少し気圧されて後ずさると腰に何かが当たった。

 

「!?」

 

 それは子供だった。先ほどまで遊んでいた子供たちがどこか不思議がるような空気を出しながら棒立ちでこちらを見つめていた。

 

「......」

 

 華扇(かせん)は無言で情景の川を下っていく。視線を受けながらも更なる変化を求めて()を進めたのだ。

 

「あれは......火?」

 

 華扇(かせん)は駆けた。炎の中で何かが動いているように見えたからだ。

 

「ちょっと......!?」

 

 黒い大蛇(だいじゃ)が炎の中でのた打ち回っていた。華扇(かせん)大蛇(だいじゃ)の顔を見て困惑した。

 

「(苦しんでいるわけじゃない?)」

 

 大蛇(だいじゃ)から他の意志を感じ取った華扇(かせん)だが、その詳細までは分からなかった。だが大蛇(だいじゃ)をよく見ると何やらおかしな動きをしていた。上半身はやたら動いているというのに、尾の方へいくにつれて動きが硬くなっていたのだ。華扇(かせん)は尾の方へと急いだ。

 

「タマ!?」

 

 驚愕の連続。しかしそれも仕方のないことだろう。大蛇(だいじゃ)の尻尾で腕ごと巻かれたタマがそこにいた。タマの(かかと)は浮いていた。体が斜めに傾いていたのだ。華扇(かせん)は地面に転倒しそうなタマを大蛇(だいじゃ)が止めているように思えた。不思議な光景はそれだけには留まらない。華扇(かせん)はタマが見慣れない服装をしていることに気が付いた。そして何より、雰囲気がタマより少し大人びていた。

 

「(地面に何かあるの?)」

 

 華扇(かせん)はここまで来ても大蛇(だいじゃ)の意図もタマの意図も分からなかった。何故タマの転倒を大蛇(だいじゃ)が必死に止めようとしているのか。タマの体は何故地面を向いているのか。地面をもっとよく見るために華扇(かせん)はしゃがむことにした。

 

 ぺちっ。

 

 軽い音が鳴った。タマの転倒を防ぐように、誰かが華扇(かせん)の手首を掴んだのだ。

 

「あなたたちは......」

「......」

 

 華扇(かせん)は自分を止めたものを見た。縦長の光の集合体から小麦色の光に包まれた腕が華扇(かせん)の手首まで伸びていた。

 

 一本の腕しか見えていないが、華扇(かせん)は目の前から複数の存在を感じ取った。しゃがむのをやめると光は霧散していった。

 

「冷たっ。」

 

 急に冷えた足元を見ると、先ほどまでは無かった雪が積もっていた。そして降りてくる水の気配。一斉にザーッと轟音が鳴り出したところで華扇(かせん)は目を覚ますことになった。

 

「はっ!......はぁ、はぁ。」

「うぅ、ひっ、うぅぅ......!」

 

 次は何事かと声の方へと目を向けると、自分の胸元で顔をくしゃくしゃにして泣いている少女がいた。

 

「......タマ?」

 

 少女の体はぶるぶると震えながら華扇(かせん)の服をきゅっと力強く握りしめている。

 

「(......喜び、幸せ、困惑、恐怖。一度にたくさんの感情が押し寄せて来て分からなくなってるのね。)」

 

 少女の様子からなんとなくその心情を察した華扇(かせん)(おもむろ)に少女を抱きしめた。

 

「抑えなくたっていい。今全部出しちゃいなさい。私がいるから大丈夫。」

 

 頭を撫でながら華扇(かせん)は少女をあやすが彼女の震えは(おさ)まらない。

 

「あぁ、こっちのほうが好きだったわね?」

 

 撫でていた手で少女の頭にぽん、ぽん、とリズムを伝えた。

 

「うぅ、ぅ、ぅん.......!」

「ふふ、やっと話せた。」

 

 華扇(かせん)は少女に焦らなくていいと伝え、彼女が落ち着くまでこのままでいることにした。

 

 

 

「ふーっ!ふーっ!」

 

 神奈子(かなこ)は火の番をしていた。こうなったのには深いワケがあった。

 

 

『うーむ。』

『なにしょうもないことで悩んでるのさ。』

『悩みの種が何か分からないうちからしょうもないと吐き捨てるのはどうなんだ?』

『どーせあの子のことでしょ?』

『うっ。』

『どーせ印象良くするためにどうすればいいのかとか考えてたんでしょ?どーせどーせだよ。』

『大事なことだろう!いや、目が覚めたら汗をかくと思ってな。風呂でも準備したらいいんじゃないかと思ったんだが。』

『いつ目が覚めるか分からないから準備時に悩んでたって?やっぱりしょうもないじゃん。』

『最適な時を見極めるのはいつだって難しいことなんだっ!』

『ま、悩んでるくらいなら早くお風呂沸かしてくれない?私入るから。』

『......いいだろう。』

『え、(まき)なんて用意してどうしたの?もしかしてそこから火をつけてやるつもり?』

『そうだ。』

『いいじゃん適当にぽっと沸かしちゃえば。』

『変に(ちから)を使って安眠を妨害したらどうするんだ!』

『えー、いいよ。どうせ夜になったらまた眠るでしょ。いくらでも機会はあるよ。』

『だめだ!!』

『これじゃ時間かかるよー。濡れたからさっさとさっぱりしたいよー。』

『それこそ適当にぱっと乾かせばいいじゃないか。』

(ひと)仕事の後はお風呂じゃないと。ま、いいや。よろしくねー。』

 

 

「ふーっ!ふーっ!コホっ、コホっ。ここくらいは改修してもいいかもしれないな。いやしかし、ウチだけ設備を整えてしまうとタマが嫁に行った時に一般的なやり方を知らず恥をかくことになってしまうか?それは婿入りさせれば問題ないか。」

 

 神奈子(かなこ)の頭はタマを思うことでいっぱいだった。まだタマには友人すらいないというのに、嫁に出す覚悟まで完了している有様だ。そこまで思える神がタマに良い印象を持ってもらうためにすることは自ら風呂を沸かすことだった。早苗(さなえ)が居ぬ()にできることはしておきたいという心情だったのだ。タマの好感度レースでは職場の関係上関わりが最も少なくなり不利を背負うのは自分だろうと神奈子(かなこ)は思っていた。神奈子(かなこ)は劇的なスタートダッシュをするためになんでもするつもりだった。対して諏訪子(すわこ)は、仲を深める早さなど競ってもしょうがないだろうという考えのため特別何かをするつもりは無かった。ただ空回りする神奈子(かなこ)を見るのは面白いので、その考えをわざわざ神奈子(かなこ)に言うことはなかった。早苗(さなえ)に対しても同様の対応をするつもりである。

 

「ふふ、これはチャンスだ。これは親しみやすさについて知るチャンスだろう。威厳との両立の前に私はこれをよく知る必要がある。」

『まだー?』

「あいつめ。私が()を澄ませていることを面白がっているな?」

 

 タマがいつ起きてもわかるように神奈子(かなこ)は無駄に人間離れした(ちから)を使っていた。受動的な(ちから)なら安眠に影響することはないだろうと考えての使用だった。それを諏訪子(すわこ)が度々茶化していた。

 

「ふふ、今の私は非常に寛容だ。別の言葉にするならそう、母性だ。私は母性に溢れている。ちょっとやそっとのことでは顔をしかめやしないぞ。」

 

 

 

「じゃ、服も洗っといてねー。」

「いや、洗っている間に起きたらどうするんだ。」

「そんな早く起きないって。夜泣きする赤ん坊じゃないんだから。」

 

 神奈子(かなこ)は顔をしかめた。顔にはいつでも手が空いている状態にしておきたいと書いてあった。

 

「これから下心でしか他人(ひと)によくできない姿を見せていくつもり?」

「こ、これは下心ではない!うーむ。」

 

 

『ちょうど私が風呂を沸かしたところだ。入るといい。服も洗っておくさ。』

『わぁ!ありがとう!かなこ、すきー!』

『ふふ......こらこら。』

 

 

「まぁ、一理あるか。仕方ない。」

「......」

 

 諏訪子(すわこ)は新たな下心が生まれた瞬間を目撃して半目で神奈子(かなこ)を見た。

 

「(面白がって放置してると引き返せないところまで行っちゃうかなこれ......)」

 

 それもいいか。いや、どうだろう。そんな問答が諏訪子(すわこ)の中で始まった。

 

「(小さい頃の早苗(さなえ)を持ち出したのが効きすぎてるなー。)」

 

 急ぎ足で服を洗いに行く神奈子(かなこ)の背中を見ながら諏訪子(すわこ)は反省点を挙げていた。

 

「お風呂で考えよ~。」

 

 今は一人で入るには少し大きい風呂場を独占できる楽しみを堪能しようと、諏訪子(すわこ)は考えを切り上げて風呂場へ向かった。

 

 

 

「ぁ、ありがとう、ございます......」

「ん、落ち着いたようで結構。」

 

 神奈子(かなこ)が洗濯に(いそ)しんでいる頃、タマは一旦の落着きを取り戻していた。

 

「あ、あの。」

「ん?」

 

 華扇(かせん)は何か言いたげなタマの目を見た。

 

「えっと、その。」

「あぁ。私は華扇(かせん)っていうの。これで話せそう?」

「はい......!えっと、華扇(かせん)さん。ありがとうございました。」

「いいえ。律儀な子ね。もう大丈夫?歩けそう?」

「んー......」

「おっとと。」

 

 タマは立とうとしてすこしふらついたが、華扇(かせん)が転ばぬようタマを支えた。

 

「まだぼーっとしてて。」

「起きたばかりだものね。そうねー、顔でも洗えたらいいんだけど。」

 

 他人(ひと)の家にいるためあまり自由に動けない華扇(かせん)だったが、その問題はすぐに解決する。

 

「起きたか!」

「?」

 

 タマが体半分を華扇(かせん)の体に隠しながら声のした方を見た。怖がっているからではなく、安心感を求めての行動だった。

 

「(タマにとっての一番は華扇(かせん)なのか!)」

「(この子が行方不明なのにゆっくりしてた人と同一人物とは思えないわね......)」

 

 神奈子(かなこ)がどんな気持ちでこの時を待っていたのか、華扇(かせん)はすぐに察した。

 

神奈子(かなこ)じゃない。ちょうど良かったわ。顔を洗いたいんだけど......いいかしら?」

「もちろん。だが顔だけではなく体も洗ってくるといい。私が沸かしておいた。」

 

 神奈子(かなこ)は手で自分の服を指した。華扇(かせん)たちの服が濡れていることをそれで指摘したのだ。洗濯(おけ)を片手で抱えた神奈子(かなこ)がこの動作をすることで、自分が服を洗おうかと暗に提案したのである。華扇(かせん)たちの服は濡れていた。わざわざ口で伝えればいらぬストレスをタマに与えてしまうだろうという神奈子(かなこ)なりの配慮だった。

 

「じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ。いきましょ?」

「うん......!」

 

 華扇(かせん)は自信に満ち溢れた神奈子(かなこ)の若干行き過ぎている配慮に心配半分、感謝半分で甘えることにした。

 

「......神奈子(かなこ)?」

「え?いや、なんでもない。ごゆっくりな!」

 

 自信に満ち溢れていた神奈子(かなこ)だったが、一瞬それがなくなったため華扇(かせん)神奈子(かなこ)に声をかけた。しかし、神奈子(かなこ)はそれをはぐらかして洗濯へ向かってしまった。

 

「どうしたの?」

「んーん、なんでもない。行こっか?」

「うん!」

「(今更自分が一緒に入れないことに気がついて固まってたんでしょうね......)」

 

 洗濯を後回しにして一緒に入るか、タマがお風呂に入っている間に洗濯を終わらせるか。神奈子(かなこ)は苦渋の決断で後者を選んだ。あの様子だと途中参加はしないつもりだろうと、華扇(かせん)は一連のやり取りから変に誠実な神奈子(かなこ)の性格を読んだ。

 

 

 

「ん、お先~。」

「あ、どうも。失礼します。」

「し、失礼します。」

「おかまいなくー。」

 

 お風呂には諏訪子(すわこ)が浸かっていた。さて、軽く紹介をするかそのまま体を洗うか華扇(かせん)が少し迷っていると、

 

「話は浸かりながらしよー?」

 

 と諏訪子(すわこ)から助け舟が出された。華扇(かせん)とタマは大人しくその言葉に従うことにした。

 

「......」

「......」

 

 華扇(かせん)が頭を洗っていると、タマが華扇(かせん)のほうをじーっと見ながら同じ動きをしていた。

 

「(体の洗い方を忘れてたりするのかしら?)」

 

 子供の可愛い行動で済ませるほど鈍感な華扇(かせん)ではなかった。竹林の医者の診断結果は華扇(かせん)も知っていた。

 

『この子の波長は体に反してかなり小さい子供の波長と似ています。まだ記憶が定着し始めて間もない幼児のよう。幼児と違うところがあるとすれば、違う種類の波長が出たり消えたりしているということです。表現が難しいですが、()()()()()()()といった感じでしょうか。』

 

「(起きた時に記憶喪失である確率は高いと思ってた。どこまで分からないのかはまだ知らないけれど......)」

「よい、しょ。よい、しょ。」

 

 洗い方を覚えるように必死な顔をして髪を洗うタマを見て、華扇(かせん)は洗い方も覚えていないのだろうと結論付けた。

 

「いい?ここはこうやって......」

 

 であれば教えるだけだ。華扇(かせん)はタマに体の洗い方を教えた。

 

 

 

「ふぅー。」

「......」

 

 諏訪子(すわこ)とタマに挟まれる位置で華扇(かせん)は湯に浸かっていた。タマはもちろん華扇(かせん)のすぐ隣にいる。

 

「おつかれさまー。」

「全然よ。それで?話があるんだったかしら?」

「特にないよー。」

「名前くらい教えてあげたら?」

「あー。そうだったそうだった。ねぇ君、自分の名前は?」

「私の、なまえ?」

「そう。それはタマだ。おまえはタマという。」

「タマ......」

「そしてその呼び名の名付け親があたしだよ。」

「おー......」

「私のことは諏訪子(すわこ)様と呼ぶといい。」

「スワコさま?」

「ん、それでいい。」

「......カセンさま?」

「私は華扇(かせん)でいいわよ。」

「カセン?」

「そう。」

「カセンさま、だめ?」

「だめではないけれど......」

「カセンさまー、ふへへ。」

「(......まぁいっか。)」

「カナコ?」

「それは本人に聞くといいわ。」

「カナコでいいと思うけどなー。」

「立場ってものがあるでしょう?」

「どうかな。神奈子(かなこ)は親バカだし、タマはうちに住むし。」

「ちょっと詳しく聞いてもいいかしら?」

「別に攫って来たわけじゃないからそんな緊張しなくてもいいよ。」

「いえ、疑ってるわけではないのだけれど......」

「簡単な話だよ。この子は私の(ちから)で起きた。でも(ちから)が尽きるとまた眠りつく。どんな事情であれ、守矢(もりや)にいた方がいいってこと。」

「なるほどね。あなたが助けたのね。」

「助けたというより応えただけ。ちょーっと贔屓しちゃったからこれから頑張ってもらうけどね。」

「頑張る......?」

「この子記憶がないみたいだけど、思惑通りにいくのかしら?」

「留守番に記憶はいらないから大丈夫だよ。」

「留守番?この子ひとりで?」

「そ。」

「さすがにまだ無理だと思うわ。」

「大丈夫大丈夫。子どもの成長は早いんだから。」

「申し訳ないのだけれど、あなたたちに預けるのが一番の心配よ。その、普通ではないから。」

「ひどいなー。特に熱心な人が二人もいるのに。」

「その二人が心配なのよ。」

「タマの成長とどっちが早いんだろうねー。」

「あなたねぇ。」

「あ、そうだ。タマ、神奈子(かなこ)はどんな人だった?」

「カナコ......?うーん。」

「ちょっと、悪いわよ。」

「まだこたえが返って来てないのに酷い言い草だなぁ。」

「カナコ......は、お手伝いさん?」

「ぷっ、あはははははは!」

「えっ?ちがう?」

「あはは!......はぁー。まぁ、お手伝いさんみたいなものだよ。」

「違うでしょ。あんまり偏らせると後で怒られるわよ?」

「今ならそれでも喜びそうだけどねー。ふぅ、いいものが聞けた。私はもう出るから、ごゆっくり~。」

「ちょっと!もう、気ままというか自由奔放というか。」

「?」

 

 諏訪子(すわこ)が風呂を出た後も、華扇(かせん)とタマはお風呂でゆっくりとしていた。

 

 

 

 一方。

 

「目先の欲望に打ち勝ち、やるべきことをやる。きっとこれが正解のはずだ。」

 

 タマからお手伝いさんと思われていることなど知らず、好印象のために洗濯をしている神がここにいた。

 

神奈子(かなこ)様!ただいま戻りました。タマちゃんはどうですか?あ、私がやりますよ。」

「一緒にやろう。早苗、タマは目を覚ましたぞ。」

「え”っ!?」

華扇(かせん)と一緒に寝た後に起きてな。今は一緒にお風呂に入っている。」

「お、お風呂も!?」

 

 タマが目を覚ます前から、初めての添い寝、初めてのお風呂、初めてのご飯を自分と一緒にすると想像して疑わなかった早苗(さなえ)からすれば神奈子(かなこ)の言葉は衝撃的であった。

 

「あぁ、早苗(さなえ)。」

「な、なんですか?」

「多分、タマが今一番懐いている相手は華扇(かせん)だ。」

華扇(かせん)さんですか!?」

「そうだ。そしてその次が諏訪子(すわこ)だ。何故か最初から懐いていてな。」

「あー。おんぶしてたから、ですかね?」

「残っているのは私たちだ、早苗(さなえ)。」

「そ、そうですね。」

早苗(さなえ)、共に頑張ろう。」

「は、はい!」

「あぁそうだった。伝えておかなければならないことがあった。」

「なんでしょう?」

「タマはうちで預かることにした。」

「えっ!?」

 

 突然の告白に驚愕と嬉しさが混ざった感情が早苗(さなえ)を襲った。

 

「細かいことは風呂にでも浸かりながら話そうじゃないか。」

「お風呂で浸かりながら話すことなのでしょうか?」

早苗(さなえ)には悪いがほぼほぼ決定事項なんだ。それに、今日は朝から飛び回って少し疲れているだろう?疲れをとりながら話せるのは一石二鳥だと思うのだが。」

「たしかにそうですね!申し訳ありません。」

 

 神奈子(かなこ)早苗(さなえ)が風呂場でぼーっとしている時に丸め込もうと画策していた。タマに関しては味方が欲しかったのだ。こんな手は今回だけだと神奈子(かなこ)は思っていたが、神奈子(かなこ)早苗(さなえ)によるお風呂場会議は今後も度々開催されることとなる。

 

 

 

「タマちゃん!目が覚めたんですね!!お風呂どうでしたか?」

「ぁ......カセンさま、この人、だれ?」

「な”っ!?」

「あちゃ~。」

早苗(さなえ)、話してないんだから当然だろう?」

「お手伝いさん......?」

「ぬ”っ!?」

「ちょっと?ちょっと!ねぇってば!こんなところで固まらないでよ!......もう、前途多難だわ。」

「?」

 

 この時の衝撃が深く刻まれた神奈子(かなこ)早苗(さなえ)の慰安風呂は長くなってしまった。その結果、タマと共に過ごすはずだった遅めの昼食の時間を逃してしまうこととなった。二人にとっては踏んだり蹴ったりの半日である。残り半日での挽回が難しそうなのは明らかだった。

 

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