クレイジー&ジャーニーズ   作:ホワイト・ラム

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夏休みは楽しんでいますか?
このお話も、皆さまの夏の思い出に1つになれたら幸いです。


クレイジー&フラッシュバック

からりと気持ちよく晴れた、初夏のトレーナー室でその部屋の主を押し倒し、一人のウマ娘が自らの機嫌を見せつける様に尻尾を振るう。

歳の頃は10歳程度、桃色と言うには濃すぎる色の髪と尻尾を持った娘だった。

 

「パパ、パパ♪パァ~パ♪愛してますわ!ラヴィちゃんはパパに会いたくて、会いたくて来てしまいましたわ!」

下敷きにした男に愛をささやき、なんどもなんども自らの唇を相手の身体に振り下ろす。

顔を上げれば濃いピンクの長い髪がそれにつられて空を撫で、顔を下げれば自ら所有を主張するように男の顔に降り降りては床に広がる。髪と同じ色の尻尾が彼女の上機嫌さを表している。

 

「ラヴィちゃん、ラヴィちゃん!」

 

「なんですの?」

下敷きにされた男が、髪の間から手を這い出させジャーニーを指し示す。

 

「あ”」

ラヴィちゃんと呼ばれた、ウマ娘が気まずそうにトレーナーの上から降りる。

 

「ん、んんっ!()()()()お久しぶりですわ」

仕切り直す様に咳払いをする。

 

「ジャーニー、紹介するよ。この子はラブオアヴァレット。

俺の()()の子だ」

 

「ご紹介に預かりました。()()()()()()()のラブオアヴァレットですわ。

よろしくお願いいたしますわ」

何処かの上流階級の令嬢がするように、スカートの裾を掴み持ち上げるカーテシーをする。

幼いながらもその堂々とした佇まいは慣れたモノが有る。

 

だが――()()()()()()は良くないモノだ。

ジャーニー勘が告げている。

 

「ジャーニー?」

自らの勘の声に耳を傾けていたせいで、一瞬反応が遅れ、トレーナーが怪訝そうな顔をする。

 

「あ、いえ、突然の事で呆然としてしまいました。

ドリームジャーニーです。よろしくお願いします」

何時もの、穏やかな笑みを浮かべ、内情を瞳の奥にしまい込みジャーニーが柔和な笑みを浮かべた。

正直に言うと呆然としていた。もっと言うと、きちんと笑みを浮かべて居れたかも自信が無い。

 

「うわっ……」

その顔を見て、トレーナーが小さく顔を顰めた。

どうやら、取り繕うのは失敗だったようだ。

 

「ジャーニー、ごめんな?親戚の娘が来たから今日は――」

 

「お気になさらず。お休みを利用して遊びに来てくれたんですよね?

私の方こそ、お約束も無くお邪魔して申し訳ありませんでした。

では、お先に失礼いたします」

トレーナーが何かを口にする前に、ジャーニーはその部屋を後にした。

 

「…………」

トレーナーがジャーニーの出て行ったドアを眺める。

 

「パパー」

 

「しっ!」

じゃれつくラブオアヴァレットの口先に、人差し指を突き出して静止する。

彼女の口先から指を放し、ドアを開いてジャーニーの姿を探す。

 

「……ふぅ、流石にドアの向こうで聞いてるとかは無いか」

部屋を出て行く時に、見せたあの納得のいっていない眼を思い出しながらトレーナーがため息を吐いた。

胸を撫でおろす彼の背後。窓枠の向こうから1対のウマ耳がひょっこりと姿を見せたが、慌てた様に引っ込んだ。

 

「じゃ、待たせたね、ラヴィちゃん!」

 

「パパッ!パパぁ!会いたかったですわぁ!!」

振り返り腰をどっしり落として、トレーナーが対ショック体制を取った瞬間、ラブオアヴァレットが飛び込んでくる。

片膝を付きながらも、全身の力でウマ耳の突進を何とか受け止める。

 

「はぁ、はぁ……ラヴィちゃん、すっかり力が強く成ったね」

 

「勿論ですわ!わたくし、ウマ娘ですのよ?」

トレーナーの胸の中で、笑みをほころばせた。

 

「よし、じゃあ、早速だが――お勉強道具は持ってきたな?」

 

「も、持ってきましたわ……先にお勉強ですのね……

パパは何時も言っていましたわ『遊びは常に全力!!やる事が残っていたら本気の遊びは出来ない』ですわよね」

若干すねた様な顔をして、背負っているリュックを地面に下ろす。

 

「そうだぞ、遊びは常に全力、全力だからこそ遊ぶ意味があるんだ。

んじゃ、こっちは食器を洗うからラヴィちゃんはしばらくお勉強ね。

そうだな時間は大体、長い針が――」

 

「1時間程度で、良いですわね?時計位、もう読めますわよ?」

 

「さっすが、ラヴィちゃん!天才!!秀才!!世界一!!」

 

「きゃー!」

ラヴィちゃんを抱きしめ、トレーナーが笑みをこぼす。

 

「チっ」

何処からか、ちいさく舌打ちが聞こえた気がした。

旧トレーナー寮を出て、裏手側にある木。そこにとあるウマ娘が姿を隠していた。

自分のトレーナーの部屋のすぐ近くまで行き、中の様子を伺うジャーニー。

当然ジャーニーは今回の事を納得などしていない。

 

(不自然なまでに、連呼した親戚という言葉――いえ、それよりもパパ呼びの方が……)

気になる事があるのなら、ジャーニーは調べる事を躊躇したりなどしない。

たとえ、それがどんな手段だったとしても――

 

(中の声が思った以上に聞こえない……やはり、盗聴器の一つでも仕込んでおくべきだったか)

木の間からジャーニーが眼を凝らし、室内を覗く。

中央のテーブルに座って、ラブオアヴァレットが何かをノートに書きこんでいる。

さっきまで食事をしていた食器が無く、奥からカチャカチャと洗う音が聞こえる。

どうやらトレーナーは死角となる部分に居る様だ。

 

30分後に、トレーナーが戻ってきてラブオアヴァレットの真正面に座る。

2人は何か小さく会話を挟み、再度机の上のノートに眼をやる。

 

(……宿題?)

その様は、まさに宿題をする娘とその様を見守る()()

 

「まさか、本当に父親?」

ジャーニーの脳内で簡単な計算が始まる。

あの娘の見た目の年齢はおおよそ10歳程度、低く見積もっても8歳。

本当に父親ならトレーナーは学生、しかも10代で子供を授かった事になる。

 

(父親()()()()、という事にしなくてはならない関係?)

ジャーニーの内心の焦りを示す様に、太陽がジリリと熱を帯びて行く。

更に1時間と15分程度、疲れたようにラブオアヴァレットが背伸びをしてソファに倒れこむ。

何かを話して、トレーナーが頭を撫でて彼女が嬉しそうに応える。

 

 

 

「よし、今日の分は終わり!全力で遊ぶぞ!ラヴィちゃんは何がしたい?」

トレーナーの問にラブオアヴァレットが若干顔を赤らめながら応える。

 

「こ、コショコショがしたいですわ……」

 

「よし、しよう」

トレーナーが立ち上がり、部屋の鍵を閉める。

そして、ソファに座るラブオアヴァレットの膝に寝ころんだ。

 

「気を付けるんだぞ?」

 

「はいですわ!!」

若干興奮しながら、ラブオアヴァレットがポケットから愛用の耳かき棒を取り出す。

 

「コショコショですわー、コショコショですわー」

そして上機嫌になりながら、トレーナーの耳の中を掃除する。

 

「むっ!?テクニシャン!!ラヴィちゃん、また腕を上げたな?」

 

「パパに気持ちよくなって貰いたくて、たくさん練習しましたわ!」

コリコリ、コリコリと耳の穴を掃除していく。

 

「楽しいですわー、楽しいですわー」

恍惚の表情を浮かべるラブオアヴァレットを、窓の向こうでジャーニーが見ていた。

 

(耳かき……私も、私もまだ、トレーナーさんにしていないのに……!)

捕まる木の枝からミシミシと悲鳴が聞こえるがジャーニーには関係の無い事だ。

それよりも――

 

(一般人とはずれた趣向……はやり、トレーナーさんの血縁?)

笑った顔も何処か、似ている気がする。

顔と言うよりも笑い方だが、それはジャーニーに血を感じさせるのは十分だった。

ふと、視界を戻すと今度はトレーナーが耳かき棒を持って、自身の膝にラブオアヴァレットを寝かせていた。

楽しそうに耳の中を掃除していく。

 

「…………あの調子なら、しばらくこのままですね」

若干、不機嫌になりながら、喉の渇きを覚えたジャーニーはその場を後にする。

ひょっとしたら、幸せそうな2人を見ているのが辛くなったのかもしれない。

 

 

 

「よぉーし、お昼にするか!ラヴィちゃんは何が食べたい?」

 

「カニカマか、カニの甲羅に入ったグラタンですわ!」

 

「はっはっは、それはパパの好物じゃないか。

けど、今日はラヴィちゃんの好物のお寿司にするか!」

 

「お寿司?お寿司ですの!?」

 

「しかも、回らない方だぞ?」

 

「やりましたわ!!」

ラヴィちゃんが立ち上がって、感涙の涙を流しながら拍手する。

 

「それじゃ、早速――」

 

「行きますわ!!」

2人が意気揚々とその部屋を後にする。

 

 

 

「おや?あの2人は何処へ――?!」

僅かに視線を離した5分も無い時間で、二人の姿は消えていた。

木を降りて慌てて、周囲を探し始めるジャーニー。

キョロキョロと周囲を見回す中、白い唾広の帽子が眼に留まった。

 

「こんにちは。理事長先生」

ジャーニーの見下ろす先に、理事長が地面に倒れ、白目をむいて口から泡を吐きながら、ぴくぴくと痙攣していた。

取り落としたと思われる扇子には『パパ活!?』の文字が有った。

 

「トレーナーを見かけませんでしたか?」

 

「…………回らない、寿司屋……へ……」

ぴくぴくと震えながら、理事長が指さした方向へとジャーニーが走りだす。

 

「話していたのは、回らないお寿司屋といフレーズ。

この辺で、回転寿司じゃないタイプのお店は――」

ジャーニーの頭の中で、周囲の高級寿司屋のリストが絞り出される。

その中から、トレーナーが好みそうな店と、子供を連れて行ける店と、一般トレーナーの給料で行ける店とを次々と候補に出し、ラブオアヴァレットという不確定要素を計算に入れる。

 

「有力なのは4件。後は店の駐車場に車が止まっていれば確定!!」

はじき出される弾丸の様に、校門を飛び出し道路へと走り出す。

 

1件目、車無し。

 

2件目、同じく。

 

3件目、4件目も同じく車無し。

次々と外れる、自身の目論見に焦りつつもジャーニーはひたすらに走る。

 

 

 

その頃――

 

「ただいまー」

 

「ただいまー、ですわ」

2人がトレーナー室に戻って来る。

手に持っているのはビニール袋で、その中には――

 

「よぉし!お昼にする……あ、お味噌汁作んなきゃ!」

 

「パパのお味噌汁ですわ!」

 

「パックの寿司でもやっぱり、要るよな?」

スーパーで買ったパック入りの回っていない寿司をテーブルに広げ、手早く味噌汁を作り食事を始める。

和気あいあいとした、笑顔で2人はちょっと早いお昼を楽しみ始める。

必死に走るジャーニーの事など、知りもせずに2人の時間が過ぎて行く――

 

 

 

食事が終われば、もう一度遊びの時間が始まる。

ラブオアヴァレットがライブの録画を見ながらダンスを踊る。

ラブキュアのなりきりドレスを着れば、気分は既にウイニングライブの主役だ。

「アンコール!アンコール!」

 

「もう一曲ですわ!」

 

「おう、良いぞ良いぞ!」

トレーナーがアンコールを入れると、気分上々で別の曲を踊りはじめる。

 

 

 

数時間後

「はぁ、はぁ……疲れましたわ……」

 

「お疲れー!ラヴィちゃん最高だったぞ?」

疲れてソファに倒れるラブオアヴァレットにスポーツドリンクを差し出し飲み干す。

 

「レース終わりのライブって、とっても素敵ですわね……」

ラブオアヴァレットがTVに映るライブの映像を見てこぼす。

これはトレーナーが持つ映像、当然そのセンターは彼の担当ウマ娘。

その姿を見て、ラブオアヴァレットが眼を細める。

 

「パパ」

 

「ん?」

力なく立ち上がったラブオアヴァレットが、ゆっくりとトレーナーに歩み寄る。

そしてたった今まで、自分が横になっていたソファーに押し倒した。

自身の目下に有るトレーナーの姿を見下ろす。

 

「ラヴィちゃん、大きく成ったな……すっかり、重くなって」

感慨深そうにトレーナーが呟く。

 

「そろそろだと思った。()()、シテ欲しいんだろ?」

 

「ラヴィちゃんを弄んでくださいまし」

ラブオアヴァレットが顔を、自らの下に敷くトレーナーに近づける。

 

 

 

「た、ただいま、もどりました!!」

ドアを激しく開き、ジャーニーが姿を見せた。

あの後、すし屋からすし屋を走り回り、念の為にと学園に戻り、トレーナーの車が戻ってきていたのを見つけ部屋の中へ再度走って来たのだ。

散々走り回り、度々失望を感じた今日一日。

その果てに有ったのは、トレーナーを押し倒して自らの顔を押し当てるラブオアヴァレットだった。

 

「な、なななななな、なななんあなななななな!?」

ジャーニーにしては珍しく、動揺した姿をして力なくこちらを指さす。

その様に気が付いたトレーナーがラブオアヴァレットを抱き上げながら、上半身を持ち上げる。

 

「おーす、ジャーニー。どした?そんな慌てて」

 

「ふっふぉ!ふぉっふぉ!もふぇふぁそんふぇふははい!」

起き上がったトレーナーは、ラブオアヴァレットの舌を摘まんでいた。

舌先を指で振るわせたり、左右から押したり、逆に横に潰したりとラブオアヴァレットの舌を弄ぶ。

そして何かに合点が行った様に――

 

「ちっちゃい頃からの、クセでさ……人前ではやらない積りだったんだけど」

誤魔化す様にトレーナーが説明する。

 

「もっと!もっと、弄んでくださいまし!!」

トレーナーが舌から指を放すと、不満げにラブオアヴァレットが舌を突き出しながら顔を突き出してくる。

 

「な、な……な……」

パクパクと口を開いたジャーニーが停止する。

どうやら、頭の中が完全にフリーズ状態の様だ。

その様を見て、トレーナーがため息を吐く。

 

 

 

「さてと、もう十分かな?」

 

「十分、とは?」

尋ねるジャーニーの言葉を背に、トレーナーがラブオアヴァレットを抱き上げる。

 

「ぱ、ぱ?」

突然の行為にラブオアヴァレットが眼を白黒させるが、トレーナーはそんな事は気にはしない。

 

「さぁ、ラヴィちゃん、お昼寝の時間だよ~?」

 

「お、お昼寝ですの!?」

トレーナーの言葉に顔を青くするラブオアヴァレットだが、ベットに転がされトレーナーと共に布団が掛けられる。

 

「ま、まだ、眠くはありませんわ!!まだパパと――」

 

「はぁ~い、ラヴィちゃん、ねんね~ん、ラヴィちゃんねんね~ん」

抗議の声をあげようとするラブオアヴァレットを無視して、トレーナーがポンポンと布団越しに彼女の胸に触れる。

 

「あ、ひ、ひきょ、う、です、わ……これ、は……」

トレーナーに数度、囁かれポンポンされるとラブオアヴァレットの眼がトロンと力を失う。

そして数秒後には、小さく寝息が聞こえ始めた。

 

「……よし、良いな」

小さく確認して、トレーナーがベットから這い出て来る。

 

「…………」

 

「寝かしつけただけだぞ?」

説明を求めるジャーニーの視線を受けながらトレーナーが話を始める。

 

「布団に寝かしてから、身体の胴体に近い方が効果があるっぽいんだけど、特定のリズムでポンポンして、耳元で優しく声をかけると寝かしつける事が出来るんだ。

俺の必殺、スキルの一つだぜ。

さぁーてと、そろそろお迎えの時間だな。

んじゃ、ちょっと出かけてくるわ」

ラブオアヴァレットを抱き上げて、トレーナーが部屋を出て行く。

 

 

車に乗って15分の最寄り駅で、1人の女性が手を振っている。

その横にトレーナーが車を止めて、眠るラブオアヴァレットを抱き上げる。

 

「ラヴィちゃん、確かに返したぞ?姉貴」

 

「あー、急にごめん。なんか、学校で『働く家族』っていう作文の宿題が出たらしくて。

お年玉引き出して、急に行っちゃったのよ」

頭上のウマ耳を、困ったように揺らしながらその女性がため息を吐く。

 

「なんというか、向こう見ずというか、猪突猛進というか……」

トレーナーがため息を吐く。

 

「寂しがってるわよ、この子。盆と正月くらいは帰って来なさい」

 

「どの面下げて帰るって言えるんだよ?俺は錦の旗を掲げるまでは故郷には帰らねーの」

 

「…………アンタもアンタで、大分メンドクサイわよ。

担当の子、十分結果出したじゃない。

まぁ、良いわ、月に1度は電話してやりなさい」

ぶつくさ言いながら、その女性はラブオアヴァレット背負いながら駅の中に入っていった。

トロンとした顔をしたラブオアヴァレットが手を振るのに気が付き、トレーナーも手を振り返す。

 

 

 

「ん、で――と」

トレーナーが、駅の壁の影に向かって歩を進める。

 

「よ!」

 

「おや、奇遇ですね」

影に隠れていたジャーニーが姿を見せる。

 

「おう、奇遇――な、訳ねーだろ!お前、後追って来てたろ?

車のミラーに見覚えのある尻尾の毛先がチラチラ見えていたぜ」

 

「っ」

バツが悪そうに、ジャーニーが自身の尻尾を背後に隠す。

 

「いつもは準備万端のジャーニーさんらしくないミスだなぁ?

ま、気にするなって方が無理だよな。パパ呼びする娘が出て来たんだし……

その様子じゃ外出許可も出さずに出て来ただろ?

バレた時に庇ってやるから、一緒に帰るぞ」

親指で背後の自分の車を指し示す。

 

バタン

 

「…………」

助手席に座るジャーニーの視線がトレーナーに刺さり続ける。

 

「…………」

尚も睨んでくるジャーニーを視界の端に捉えると、誤魔化す様に自らの頬を指で掻く。

そして、観念した様に口を開く。

 

「ラヴィちゃんは俺の姉の娘だ」

 

「姪っ子という訳ですね」

ようやく口を開いたジャーニー。

彼女の視線がトレーナーの次の言葉を促す。

 

「良いか?他のヤツには絶対に口にするなよ?

理事長やオルちゃんそれとラヴィちゃん本人にも内緒だからな?」

何時にもなく真剣な、それこそジャーニーですら初めて見た鬼気迫る表情で念押しする。

 

「さっきも言った通り、ラヴィちゃんは俺の姉の娘だ。

娘、なんだが……父親の顔を知らないんだ」

丁度赤信号で車を止めるトレーナー。

 

「まだ、俺の姉貴が17、8、位だった頃に、デキた娘だ。

父親は知らない。よく居るサイテー野郎でな、妊娠が分かった時点で雲隠れした。

姉貴は一度決めるとテコでも動かない性格なんだ。

『父親は探さない』、『娘は産んで育てる』って高らかに俺の両親に宣言してよ。当然両親大激怒。

いやー、あの頃は地獄だぜ、地獄!

オレ、高校受験の直前なのに毎晩毎晩ギャンギャン家族が喧嘩してさ。

けど、結局両親が折れて育てる事にした、姉貴は産んだ後仕事探して、昼間はラヴィちゃん実家に預けて仕事って感じ……想像できるか?ジャーニーとほぼ変わんないくらいで娘いて、仕事してたんだぜ?」

チラリとジャーニーに視線を投げる。

 

「ま、シリアスな話はこれ位。

なんとなーく、分かってるとおもうんだけど、高校生の俺が家族で一番時間ある訳で――

となると、俺がラヴィちゃんの面倒見る事が多く成って来るじゃん?

んで、自分でもらしくないとおもうんだけど、なーんか父性っての?湧いてきちゃってさ」

 

「赤ちゃんのお世話、出来るんですか?」

 

「はぁ?出来るに決まってるじゃん、オムツ変えた回数だって絶対姉貴より多い自信あるし、お風呂だって入れてあげたし、ミルクなんて俺が作ったヤツが家族の中で一番食いつきが良かったんだぞ?」

すこし自慢げにトレーナーが話す。

 

「ま、ラヴィちゃんが俺の事を好きだの愛してるだの言うのは、小さい女の子特有のアレだよな。

後3~5年もすれば、思い出してベッドの上でのたうち回る事になるだろうな。

女の子の成長、特にウマ娘は思春期頃からのヤツはあっという間だし、何時か社会に出て、なかなか会えなくなって、何時かお嫁さんに行っちゃうのか……

ううっ、今は俺と結婚するって言ってるのに……他の男の所に行っちゃうのか……」

自らの言葉に気分を落としたのか、トレーナーが脱力していく。

 

「すっかりパパのメンタルですね……

しかも、娘を溺愛する……タイプの……」

ジャーニーの意識が、溶けてゆく。

昨日は良く眠れなかったのに加え、今日は木を登ったり、車を探して走ったり、再度トレーナー室へ行ったり、再度車を追いかけたりと、精神的にも肉体的にもクタクタ。

ジャーニーが眠気に負けてしまうのも、無理はなかった。

 

「しかし……多少……形が変わっていて……も、しっかり……と血の繋がった……家族ですから……離れ離れになる……事は……ありません……よ」

血の繋がったの部分を意識しながらジャーニーが言う。

 

(そう、たとえあの子が本気で有ったとしても叔父と姪ならば3親等以内。

つまり結婚することは出来ない)

内心でほっとしながら、靄の掛かる頭でジャーニーがほくそ笑む。

 

「あ?血?ラヴィちゃんと俺は繋がってねーよ?

てか俺、自分の家族とは誰も繋がって無いし。

父親の高校時代の親友が結婚してたんだけど、その妻が間男と不倫&妊娠して、その女が育てられないって置いてったのが俺。

いやー、今の親父が拾ってくれなかったら、施設送りだったわー。

んあ?ジャーニー?」

トレーナーが視線をやると、ジャーニーは小さく寝息を立てていた。

シートベルトに引っ掛かりながら体制を崩し、運転するトレーナーの肩に寄りかかる。

 

「ジャーニーももう少し、ラヴィちゃん見たいに甘えても良いんだぞ?」

眠っている事を知りながらトレーナー、ジャーニーの頭を撫でて席に戻してやる。

意識の無いハズのジャーニーの口角が少しだけ、上がった。

 

「トレーナーさん……が……子煩悩……パパ……安心……しました……」

ジャーニーの言葉を聞いて、困った様にトレーナーが自身の頬を掻く。

 

 

 

 

 

後日――

 

「はぁ、ダリィ……夏とか、季節で一番嫌いだわ……暑さのキャンセル出来ねーのか?」

両手を頭の後ろで組んだトレーナーが、ジャーニーを伴って歩いている。

 

「私は嫌いでは、ないですね。

夏の思い出はとても尊い物ですから、ふふふ」

肌に感じる暑さに、片方は辟易としもう片方は思いを寄せていた。

そんな2人の視界に、学内の掲示板のポスターが止まる。

 

『学園内でのパパ活を禁止する!学生の内は節度の有るお付き合いを!!』

厳しい顔をした理事長が『厳禁!!』の文字が書かれた扇子を突き出してくる。

昨日までは無かった新しいポスターだ。

 

「うわ、なんだコレ!なんで学園内でのパパ活を禁止するポスターが有るんだよ?

はぁー、天下のトレセン学園の風紀もここまで落ちたか……

実績さえ出せば良いという考え方が、悪い方に振り切れたな」

嘆かわしいぜと、トレーナーがやや大げさにリアクションする。

その様を見ていた、ジャーニーが小さく口を開く。

 

「コレ、トレーナーさんの件なのでは?」

 

「はぁ!?なんで、俺が……あ!あ、あ……あー、なるほど……」

自らの言葉の途中でラブオアヴァレットとの事を思い出す。

見慣れぬ幼女を連れ歩き、『パパ』と呼ばせるその所業はまさしくパパ活その物であった。

 

「あー、やっちまった……か?」

 

「あくまで遠回しの警告の様ですし、理事長に根回ししておけば大丈夫でしょう」

 

「ジャーニー!?」

自らの相棒から聞こえた不穏な単語にトレーナーが頬を引きつらせる。

夏向けのデザートとして、以前食いつきが良かったコーヒーゼリーを大量に作って、理事長に差し入れしようとトレーナーは内心、決意した。




キャラクター紹介

ラブオアヴァレット
トレーナーの姉の娘のウマ娘。10歳程度。
濃いピンクの髪と尻尾を持ち、いずれも先端が赤い。

思い込んだら、盲目で一途で、向こう見ずで、一直線で、他人の話を聞かない暴走系。
正に『愛の弾丸』あるいは『愛か死か』。

因みにトレーナーの事は性的に好きだし、血が繋がっていないのも、ほんのり気が付いている。
今回の一件で、ジャーニーは自分の前に立ちふさがる存在だと確信した。
彼女の殺人的な愛はトレーナーに届くのか?
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