クレイジー&ジャーニーズ   作:ホワイト・ラム

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さてさて、今回も投稿ですよ。
オルフェーヴル来ましたね。
姉妹の絡みが書きやすくなりますね。


クレイジー&ヘヴィハーツ

「ふふふ、ふーんふーんふーん♪」

下手な鼻歌を歌いながら、ジャーニーのトレーナーが愛車から出る。

時刻は丁度お昼近く、その手にはコンビニの袋。

 

その表情はとても機嫌が良さげ。

それもその筈、彼の目の前にあるのは買ったばかりの新車だ。

 

車に乗る必要を見出す為に、わざわざ歩いていけるコンビニに車に乗って買いに走ったのだ。

完全に手段と目的が逆転しているがそんな物、今のトレーナーには些細な事だった。

 

「ぐふ、ぐふふふ……前のオンボロ中古車とはオサラバだもんね!

俺の『ハイドラー・エージェンスィー』ちゃん、これから末永く頼みますよぉ~」

今後チームを持つ事を考えての8人乗りのミニバン。

実績と伝統の車会社の新型車、その名も『ハイドラー・エージェンスィー』ちまたでは長いのでもっぱら『ハイエース』と略されている車だ。

 

「ぐふ、ぐふふふふ……」

美しいシルバーのボディは見ているだけで口角が上がってしまう。

ニタリ、或いはにちゃりと擬音の付きそうな笑みをトレーナーが浮かべる。

 

 

 

ひそひそひそ……

 

「あれ、ジャーニー先輩のトレーナーさんよ……相変わらず、見た目は変質者よ……」

 

「イヤらしい眼つきをして、車を見ているわ。

ハイエースよ!ハイエースする算段を立ててるのよ!!」

 

「友達の友達が困ってる所を偶然、助けに来てくれたらしいわ……

見た目は怪しい変質者だけど、実は良い人らしいわ」

 

「洗脳されただけよ、それか依存させるだけ依存させて、最後にはカラダを要求してくる気よ!

だって、笑った顔が変態不審者なのよ!」

 

「な、見た目と笑った顔が変態不審者なだけよ、多分話せば、きっと、恐らく、良い人だわ!

絶対に自分のトレーナーになっては欲しく無いけど、良い人だわ!!

見た目が、不審者なだけよ!」

 

うら若きウマ娘たちが言い争うが、そんな事トレーナーは気づきはしない。

次に車に乗る事を考えながら、自身の仕事場へ戻っていく。

 

 

 

先ほども言う様に時刻は丁度お昼時――

ウマ娘たちも、ある者は昼食を取り、ある者はトレーナー室へ向かい、ある者は友人との合同トレーニングに精を出すのだろう。

 

「俺もメシにしますかね」

たてつけの悪いドアを開け、部屋の隅の水の入ったヤカンの中にティーパックを投げ入れ卓上コンロで火にかける。

備え付けの棚から大き目のマグカップを取り出し、上機嫌で口笛を吹く。

 

「ひゅー、ひゅー、ひゅー」

コンビニ袋から焼きシャケのおにぎりを取り出し、包装を外して二つに割る。

マグカップの中におにぎりを投げ込む。

 

「ちょっと豪華にするか」

その言葉と共に、作業用机の中に隠しておいた食べかけのスルメイカを取り出す。

文具入れからハサミを取り出し、スルメを細かく刻んでおにぎりの入ったマグの中に入れて行く。

幾らか前は気合を入れて弁当なども作っていたが、楽という一点においてこちらの方が圧倒的に勝る。

 

「もう良いだろ」

完全に湧ききる前に、火を止めお茶をマグの中に入れる。

熱くなっては食べるのに時間が掛かる。

このトレーナーにとって重要なのは、安い事、早い事、簡単に食べらる事の3つだ。

 

「うっし!俺様特製、豪華茶漬けの完成だ!!」

豪華と名乗ってはいるが、その実態は大きめのマグカップの中に割ったシャケのおにぎりと、適当に刻んだスルメにぬるま湯の茶葉を放り投げただけの代物だ。

とてもでは無いが、豪華とは言えない。

彼の担当バのドリームジャーニーに見せようものなら、凄まじい嫌悪顔を見せてくれるだろう。

だが、そんな事このトレーナーには関係ない。

 

「いただきます」

両の手を合わせ、マグを傾ける。

 

その時――

 

「邪魔するぞ」

ノックも無しに部屋のドアが開け放たれた。

そこに居たのは、威風堂々とした風格のある黄金のウマ娘。

ある者は畏れ、ある者は羨望し、ある者はその才を嫉む。

自らを『王』と称し、その態度を貫き通し、だがその自称が決して伊達や酔狂で無い事を皆が知っている。

彼女の名はオルフェーヴル。

そして部屋の主のトレーナーにとっては自らの担当バの妹に当たる存在。

 

「おっす!オルちゃん!遊びに来たのか?

悪いんだけど、仕事溜まっちゃってさ~

構ってあげられないんだよね」

彼女の噂や性格など一切知らないとばかりに非常にフランクに応対する。

『暴君』を『オル』などの気安い愛称で呼ぶのは彼女の姉か、このトレーナー位の物だろう。

行儀悪く机にもたれて、マグカップの中身を一気に飲み干す。

 

「ふぅ、ごっそうさん」

その時間にしてわずか10秒ほど。

食べるというよりは飲むと言った方が正しい。

毎回コンビニで割りばしを貰うが、終ぞ出番は無し。

作業机の一角で、未だに出番を待っている。

そんな食事と呼べるか分からない食事を済ませ、トレーナーは再びオルフェーヴルに視線を戻す。

 

「一人で来るなんて珍しいじゃん、ジャーニーなら来て無いし、特に来る約束も無いぞ。

まぁ、合鍵渡してるし、気が向いたら勝手に来るだろうけど」

オルフェーヴルがこの部屋に来たのはコレが初めてではない。

ジャーニーの友達とのたまり場として場所を提供すこともあり、オルフェーヴルのその輪の中の一人だ。

友人達で仲良くボードゲームやトランプで遊んでいたのを思い出す。

 

そんなトレーナーの回顧を扉の鍵が閉まる音とオルフェーヴルの声が遮る。

 

「おい、貴様。姉上に何かしたか?疾く嘘偽りなく応えよ」

ギロリとオルフェーヴルが視線を投げる。

気の弱い人ならば一瞬で震えあがるほどの眼光に晒される。

 

「なに……か?」

トレーナーが顎に手を当てる。

王様はご機嫌ナナメの様だ。

一瞬遅れてハッとする。

 

「前どきゅーとの企画が来た時、企業さんが150センチサイズの設計で出してたけど『本物より大きいのはNGでしょ、ガハハハッ!』とか笑ったのがジャーニーの奴にバレたか?」

 

「何をしておるのだ……」

オルフェーヴルが呆れた様にため息を吐く。

 

「アレか!?ジャーニーが取り寄せたお気に入りのコーヒー豆を、興味から2、3粒拝借して齧ってスゲー苦くて吐き出して、その拍子についうっかり零しちゃったからテキトーなコーヒー豆、買って来て混ぜたのに気が付いたのか……?」

 

「何をしておる……」

 

「ええ、じゃあ――」

 

「もうよい!」

トレーナーの言葉をオルフェーヴルが遮った。

 

「アレを見よ」

オルフェーヴルが指さす先、カレンダーが有った。

今は3月の中盤が近づいている。

 

「え、何?まじで分からん」

 

「先月の24日、貴様は何をしていた?」

その声色は酷く冷たかった。

まるで自身の親や親友の仇に当時の事を、問いただすかのような相手を責める声色だった。

 

「平日なら仕事、土日なら寝てた!」

小学生低学年の様な濁りの無い眼をして応える。

 

「はぁ、貴様という奴は本当に……

一体姉上はなぜ、こんな凡夫以下の男を……」

痛くなりつつあるこめかみを押えてオルフェーヴル、眼を閉じる。

 

「んで結論、早く言って。

ファンレターの仕分け有るんだよね」

そんな言葉を発して、デスクの上にダンボール箱を置く。

 

「えーと、手作りのお菓子……悪いけど、何入ってるか分かんないからジャーニーには無し。

手紙OK、ファンアートOK、ちょっと過激なファンアート、うーん、無し」

ポイポイとジャーニー当ての荷物を分別する。

その様子を見てオルフェーヴルが再度ため息を吐く。

 

「先月の24日は姉上の生誕日だ」

ぴくりとトレーナーの動きが止まる。

 

数秒の沈黙――

 

「いや、知らんし。

おっつ!?ジャーニーじゃなくて俺宛てのファンレターだ!!

やりぃ!!」

小さな封筒を掲げて、トレーナーが破顔する。

 

「何も、しておらんのか?」

ジロリとオルフェーヴルがトレーナーを睨む。

 

「なに?パーティーでも開いて、ケーキに蝋燭でも立ててやれって言いたい訳?

友達と騒いでるトコに、俺が居たら空気ダダ下がりでしょ?

俺は大人、生徒とは適切な距離が大事。

誕生日なんて、プライベートなイベントには参加しないのよ」

それはトレーナーという一教員として、酷くまっとうなスタンス。

指導は親身に、しかしプライベートに干渉しない。

 

だが――

 

「姉上は残念がっていたぞ。

友人らに祝われ笑顔を見せていたが、祝祭の後僅かに寂しそうにしていた。

私の眼は誤魔化せぬ」

 

「けど、すぎちゃったモノはどうしようもないじゃ~ん?」

しょうがないね。

と呟き、作業を続ける。

その軽薄な態度は、酷くオルフェーヴルの癪に障った。

 

「うっほ!俺宛てのファンレターまた有った!こっちは手作りマドレーヌまで付いてきてる!!」

ファンから送られてきた小綺麗な箱をトレーナーが掲げる。

 

「チッ、俗物と言ったのは取り消す。貴様はそれ以下だ。

姉上の心を無下にし、何者かも分からぬ送り物に心奪われるとは」

 

「安心しろって、ホワイトデーのお返しなら準備してある」

 

「その言葉、信じて良いのか?」

先ほどまでの態度を見ていたオルフェーヴルが訝しむ。

やれやれと言いたげに手を持ち上げ、トレーナーが部屋の衣装入れに手を掛ける。

 

「くくく……こう見えて恩はしっかり返すタイプなんだぜ?

これを見な!超特大ジャンボマシュマロだ!!」

自信ありげに取り出すのは一抱えもある巨大なマシュマロの袋。

しかも、複数入ってるパターンでは無く巨大なマシュマロが1個という強気思想だ。

 

「この前、業務スーパーで2割引きで売ってたぜ」

 

「却下だ」

 

「なんで!?」

 

「姉上はそこまで甘味を好まぬ。

よって量より質を優先すべきだ。

菓子言葉を加味するのなら、更に不相応。

何より、2割引きの品を渡すな!!」

オルフェーヴが語気を荒立たせる。

 

「なんだよ、菓子言葉って?」

 

「学の無い奴め。

他の物は無いのか?」

オルフェーヴルがジロリと視線を投げる。

一瞬剣呑な空気が流れるが、フッとトレーナーが笑う。

 

「ある、とっておきの奴だ」

その言葉と共に、トレーナーは自身のデスクの一番下の引き出しを開ける。

 

「輸入菓子と言えば、ちゃっちく聞こえるがコイツは違うぞ」

その言葉と共に、現れた金属のエメラルドグリーンの缶には美しい装飾が施されていた。

一目で高級品だという事が判明する。

 

「この香り、焼き菓子か」

 

イグザクトリー(その通り)!洋菓子の本場フランスの、有名職人の作ったクッキーの詰め合わせセットよ!

コレが有るだけで俺のQOLは爆上がりよ!

ジャーニーにやるのは多少、勿体ないが可愛い愛バの為だ。

しゃーねーよな」

キメ顔をし、今度は別の引き出しを開ける。

 

「更に、更に!!」

トレーナーは引き出しの中から上質なメッセージカードを取り出し、同じく大切そうにしまっていた万年筆でメッセージを書くいて行く。

 

「敢えて、ここはシンプルに『forジャーニー』の一言のみ。

余計な言葉は要らない!ただ、心を込めた送り物を……」

お高そうなクッキーの缶詰にそっと、メッセージカードを添える。

 

「ほぅ?」

オルフェーヴルがクッキーの缶を受け取る。ポイっとメッセージカードをその辺に投げ捨てる。

そして――

 

カパッ

 

じゃらららららら!!

 

蓋を開け、中のクッキーを全て己の口の中に流し込んだ。

 

「なにやってんだ、オメェ!!」

 

サクサクサクサクサクサク

 

トレーナーの言葉も空しく、数秒の間オルフェーヴルがクッキーを咀嚼する音だけが部屋にこだまする。

 

「イカ臭い。姉上にこんな物を献上する気か!!」

 

「喰った後に言うなよ……

スルメと同じ場所に、保管したのは俺が悪かったけどよ。

貰ったのは板チョコ一枚だぜ?そこまでやるか?」

 

「姉上の送り物を調べはしないのか?」

オルフェーヴルの無言の「調べろ」という圧力を感じ、自身の携帯で検索をする。

 

「板チョコだろ?たかが――イイっ!?」

記憶を頼りに調べたソレは、決して()()()などと言えるモノでは無かった。

 

「はい、はい、はい……高級チョコレートを細工職人がデザインした、板チョコ?

一種の芸術作品的な存在で、限定品の上、入手困難……

お値段は――ひぇ!?」

トレーナーは自身の携帯を取り落としそうにする。

 

「分かったか?」

 

「お前の姉上、重いわ!!

ヒョイと何気なく渡して良いモノじゃねーじゃん!!

あー、こわ!あー、重っ!どうなってるんだよ最近のJKの金銭感覚!頭おかしなるわ!!」

もっと味わって食べれば、など後悔がトレーナーの中で滲む。

悩むように両手を頭に押し付け、大きく息を吐く。

 

 

 

「――――はぁ、分かってる。本当は分かってるさ。

俺だって、裏方だがファンが付くレースの関係者だ。

ファンレターって形で相手の思いが見えれば、嬉しいし返したくも有るさ。

俺だってそうなんだ、ジャーニーだって何かが返ってくれば嬉しいさ。

高級品のチョコレートってのがジャーニーの気持ちの形ってなら、なおさら嬉しいさ。」

そういいながら、仕分けが終ったダンボールを床に置く。

机の上にはトレーナー宛てのファンレターやプレゼントが置いてある。

それらをチラリと見る。

 

「誰かの『心』や『気持ち』ってのを俺は大事にしたいと思ってる。

オルフェーヴル、悪いがファンレターの確認が終ったら買い物に付き合ってくれ。

妹の方がジャーニーが喜ぶ物に詳しいだろう?」

優しい笑みを浮かべてトレーナーが尋ねる。

 

「貴様、その様に笑えるのだな。

何時もニヤニヤと不愉快な笑みを浮かべていたが――

なるほど、作り笑いが酷く下手なのだな」

初めて見せる穏やかな表情にオルフェーヴルが僅かに驚いた。

 

「はぁー?なんだオメー、俺は何時も世界がうっとりするイケメン爽やかスマイルを浮かべてるだろ?」

 

「知らん、貴様の戯言に付き合うつもりはない。

疾く仕事を終わらせよ。

貴様などにつくファンだ、見る目は無いだろうが『気持ち』は大切にしたいのだろう?」

そんな言葉を聴きながら、トレーナーは自身宛ての手紙を開いていく。

 

「お、熱烈なラブレター!嬉しいねぇ!」

 

「ラブレターだと?」

突如聞こえた穏やかではない単語にオルフェーヴルが、トレーナーの持つ手紙をひったくる。

 

『ワタシ、ミヅキトレーナーがスキ、スキスキスキ好き――』

 

「ヒっ!?」

手紙に書かれた『好き』の文字。小さな字で紙が真っ黒になるほどびっしりと書き込まれている。

 

「お、こっちはファンシー系のラブレターだ。

ストレートな好意も、こういうのも悪くないよねぇ」

今トレーナーが見ている手紙をオルフェーヴルが覗き込む。

 

『愛してる、なぜ貴方は私以外の女を担当してるの?裏切り者、裏切り者、許さない許さない、許さない許さない。約束した、前世で約束した、許さない、許さない、許さない来世、来世、来世で一緒になる。

来世こそ、一緒になる!!』

 

「あ、ちょっと重い。これは――あ、やっぱり!

封筒の中にカッターナイフの刃がはいってる。

文房具はいくらでも使うもんな。ありがたいプレゼントだ」

 

「それは、貢物ではない」

オルフェーヴルが声を漏らすが、そんな事トレーナーは気にしない。

先ほどから見える異常な送り物にオルフェーヴルが小さく震える。

 

「これは、手作りのマドレーヌか!?やったー、沢山ある食べちゃお!」

紙袋を開けて、黄色いお菓子を前に目を輝かせる。

 

「おい、気を付けろ。何が入ってるか分からん!!」

オルフェーヴルがトレーナーの食べようとしていたマドレーヌを奪い取る。

先ほどの手紙などから、嫌な予感しかしない。

 

「むっ!これを見ろ!!」

割ってみると案の定、断面に爪と髪の毛が見えた。

 

「あー、ドジっ子ちゃんなんだな、こっちも入ってたよ」

何時口に運んだのか、口の中に手を入れると同じく爪の髪の毛が出て来た。

 

「おい、この爪。切った破片ではないぞ。

根本だ。根元から爪を剥がして入れた物だぞ。

それが2つもだと?いや、まさか――」

机の上のマドレーヌの数は8個。

オルフェーヴルが割ったのが1つでトレーナーが口にしたのも1つ。

マドレーヌは()()()()()()()()あった。

 

「やめろ!!今すぐ食べるのをやめるのだ!!」

 

「ええ、だってファンからのプレゼントだし!!」

オルフェーヴルの剣幕にトレーナーがマドレーヌの箱を抱きかかえる。

 

「貴様のファンは、全体的に重いのだ!!目を覚ませ!!」

 

「はぁー!?ジャーニーだって重いし、人の気持ちは無下に出来ないでしょ!?」

マドレーヌの箱を奪おうとするオルフェーヴルと奪われまいと必死に箱をトレーナーが守る。

2人が箱を手にもみくちゃになって、床に転がる。

 

 

 

 

 

「トレーナーさん、おや?鍵が……」

 

ドアノブの予想外の感触にジャーニーが小さく声を漏らす。

何時もは開け放たれていたトレーナー室の鍵が閉じられている。

 

「不在だったかな?」

まぁ、いいか。と声を漏らしてポケットの中から合鍵を取り出し扉を開ける。

 

すると――

 

「ヒっ」

ジャーニーが小さく息を飲んだ。

 

「あ、ジャーニー、いらしゃい!

ハッピーホワイトデー!」

 

「む、姉上か。

済まぬ、今、凡夫を教育している最中なのだ」

床に寝転ぶ自分の担当トレーナーの上で、自分の妹がウマ乗りになっている。

二人とも衣服は乱れ、互いに荒い息遣いをしている。

 

「ち、痴情の縺れ……ですか?」

ついさっきまで、ハッスルしていただろう二人にジャーニーが震える。

 

「オルも、トレーナーさんも、私にとっては大事な人だから、大事な人、だか……ら」

酷く混乱した様子ジャーニーが覚束ない足取りでなんとか、トレーナー室に踏み入る。

何時も座っているソファー、その上に2割引きのシールが張られた特大のマシュマロが鎮座している。

その上にはトレーナーの字で書かれた『forジャーニー』のメッセージカード。

 

ひゅッ

 

ジャーニーが息を飲む。

 

「や、やだ、やだやだやだ!!」

うわごとの様にジャーニーが声を上げる。

不都合な事実を否定する様に、願う様に拒絶の言葉を吐き出す。

何時もは冷静さを湛えるその眼にはみるみる涙が溜まっていく。

 

「姉上――」

オルフェーヴルが声をかけようとした瞬間、するりと自身の体の下からトレーナーが這い出す。

 

「やぁ、ジャーニー。よく来てくれたね。

バレてしまっては仕方ないな。

予定日より少し早いが、ホワイトデーのお返しをしようか。

今日はお前がお姫様だぞ?」

優しい笑みを浮かべ、トレーナーがジャーニーの瞳を覗きこむ。

 

「とれ、な」

有無を言わせずジャーニーの体を抱き上げる。

そこからはオルフェーヴルも自らの目を疑った。

 

ジャーニーをお姫だっこしたままソファーに座らせ、コーヒーメイカーからコーヒーとカップを用意し、大き目めの皿、割りばし、卓上コンロを次々とテーブルの上に準備する。

3分も後には、ちょっとしたコーヒーブレイクの準備が整っていた。

 

「さ、焼きマシュマロパーティーの始まりだぞ?」

割りばしを突き刺さしたマシュマロを卓上コンロの火で炙る。

表面が軽く焦げた所で、ジャーニーに差し出す。

 

「甘いのが苦手でも、苦いコーヒーとなら案外イケる物さ」

貰ったマシュマロをジャーニーが恐る恐る口に運ぶ。

 

「ほら、オルちゃんもこっちに来いよ。

ジャーニーもその方が喜ぶだろ?」

 

「あ、ああ、そうだな」

トレーナーから割りばしを受け取りながら、オルフェーヴルが頷きジャーニーの対面の座る。

 

「トレーナーさんも、いらしてください」

ジャーニーが自身の隣を手で叩き、こちらに来いとジェスチャーする。

 

「あ、ああ、そうだな」

奇しくもオルフェーヴルと全く同じ言葉を吐き、ジャーニーの隣に座る。

 

「では、私も失礼します」

その言葉と共にジャーニーがトレーナーの膝の上に座る。

 

「じゃ、ジャーニー!?」

 

「今日は私がお姫様なのでしょう?

これ位のワガママ、叶えてください」

膝の上でジャーニーが甘えた声を出す。

 

「あー、仕方ない……な。

今日だけだぞ!」

トレーナーが吐き捨てた。

 

「トレーナーさんの分も、私が焼きます」

両手に箸を持って、ジャーニーがマシュマロを焼き始める。

 

(姉上も、こんな風に笑うのだな)

オルフェーヴルはトレーナーの膝の上で、楽しそうに笑う自身の姉の姿を見て笑みを零す。

最後に焼けたマシュマロを一つ齧ると立ち上がる。

 

「オル?」

 

「もう良い、私は十分楽しんだ。

後は姉上たちだけで楽しむが良い」

もう一つマシュマロを手に掴む。

 

「盛大に祝うが良い、姉上の生誕祭の分も含めて」

 

「私の誕生日なら、もう祝って貰ったよ?」

ジャーニーがオルフェーヴルの背に言葉を投げかける。

 

「なに?」

 

「私のコーヒー豆をこっそり、高級豆のブレンドに変わってたんだよ。

敢えて言わない所がトレーナーさんらしいね」

ジャーニーが手に持つコーヒー豆の匂いを嗅ぐ。

眼を細めうっとりとする。

 

「ああ、ソレ豆、零したから適当に高い豆買って混ぜただけだぞ。

ジャーニーの誕生日とか知らんし」

無神経なトレーナーの余計な一言。

 

「へぇ?」

さっきまでの甘える様な声色だったジャーニーの声が一気に、絶対零度にまで下がる。

 

「あ”ヤベッ!?」

自らの失言にトレーナーが気が付くがもう遅い。

膝の上のジャーニーが左手と尻尾で、トレーナーの手をソファに押し付ける。

憩いの場所のソファーはジャーニーによって一瞬にして、拘束具へと変化した!

 

「私の誕生日、忘れてたんですか?悲しいなぁー、ショックだなぁー」

唯一空いていた右手でゆっくりマシュマロを口に運ぶジャーニー。

部屋の中、ジャーニーがマシュマロを食いちぎり、咀嚼し、飲み込む音だけがやけに静かに聞こえる。

 

「どうしましょうか?」

沈黙を破ったのはジャーニーの尋ねる様な声だった。

 

「お、オルちゃん助けて!!」

 

「知らぬ。余は何も知らぬ」

耳を絞り、聞こえていないアピールをして部屋を後にする。

 

「オル」

 

「――――――なんだ、姉上」

 

「部屋の鍵を閉めておいてくれ」

ジャーニーがトレーナー室の鍵をオルフェーヴルに投げ渡す。

 

「ああ、わかった」

 

「お、オルちゃーん!!!」

ギギギと錆びた扉が閉まり、ガチャンと鍵が閉じられる。

トレーナーの叫びが聞こえたが、多分気のせいだろう。

 

 

 

 

 

数時間後――

 

「あー、酷い目にあった……」

一人部屋でトレーナーがカップを洗いボヤく。

未だに首筋がヒリヒリする。

 

「よし、おわり」

片付けを終わらせ、一息つく。

そして、作業机の一番したを開ける。

 

「これ、重いよなぁ……」

机の奥に隠す様に仕舞われた、上等な箱から懐中時計が出てくる。

時計についた黄金のチェーンが夕日を反射しキラキラと輝く。

箱の中には『誕生日おめでとう、ジャーニー』のカードが入っている。

トレーナーはその箱を大事そうに、机の奥にしまい込んだ。

 

「重いよなぁ時計って、同じ時間を過ごそうってか?

はぁー、バッカだよなぁ……

相手は学生だぞ?教え子だぞ?

あー俺はロリコン、メインターゲットは小学生と中学生。

俺はロリコン、メインターゲットは小学生と中学生。

ジャーニーは範囲外、範囲外」

自らに言い聞かせる様に声にだす。

 

「――よし」

自らの両頬をたたくと、ニヤリニタリと不気味な作り笑いを浮かべてトレーナーは部屋を後にした。

 




なんか、長い……
上手く纏める人がうらやましい……
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