クレイジー&ジャーニーズ   作:ホワイト・ラム

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7月中の投稿が出来なかった。
申し訳ありません。

つ、次こそは……!


クレイジー&リトルタイフーン

トレセン学園 栗東寮の一室にて一人のウマ娘が腕を組み窓の外を気だるげに眺めていた。

金色の髪に豪奢な私服。

トレセン学園の2000人を超える生徒の中でも、様々な意味で有名なウマ娘。

 

オルフェーヴルが彼女らしく無い、ため息を吐き何かを試案する様に右手の指でコツコツとこめかみを指で突く。

 

何時もは自信に満ちた表情が僅かに重い。

その原因が彼女の姉、ドリームジャーニーとそのトレーナーだった。

 

降りしきる雪が春を強制終了させられた日の夜、姉のドリームジャーニーから一本の連絡があった。

 

曰く――『トレーナーさん宛ての手紙が、なぜか学園に配達されたから住所を確認して届けに行ってくるよ』とのこと。

 

「またか」オルフェーヴルの脳裏に過ったのはこの言葉。

 

不思議な事に、姉のドリームジャーニーは自らの専属トレーナーに夢中なのだ。

平々凡々な量産型に身をやつした様な男。

指導力は新人にしては頑張っている方、容姿は普通だが作り笑いを浮かべると兎に角、良からぬ事を考えている様に見える、口調や態度はまるでイキった未成年の様で良いとは呼べず。

 

姉曰く『声が格好良い』らしい。

 

まぁ、言われてみれば確かに否定はしない程度には良い声だ。

しかしその事を加味しても、結局はオルフェーヴルからしたら、やはりなぜ姉が夢中になるか理解出来ない程度には『凡夫』と呼べる男だった。

 

手紙を届けると出かけた、その日の夜、姉は帰って来なかった。

 

 

心配に成ったオルフェーヴルはまだ太陽も昇らぬ早朝の寮の門の前で姉を待った。

どれ位、待っただろうか?

何処か、呆けた様な表情で姉は帰って来た。

朝陽に照らされ、人もまばらな道をジャーニーとトレーナーの2人で歩いてくる

 

「トレーナーさん、次に今朝の様な事をしたら、()()ですからね」

そう言ってジャーニーは自身の左手の甲を相手に向けて、右手の人差し指をきゅっと薬指に巻いて見せる。

その様を見たトレーナーが顔面を青くし、何度も頷いた。

 

「おや、オル。お迎えに来てくれたのかい?

朝が弱いお前が自ら出向いてくれるなんて、うれしいよ」

寮の入口に立つオルフェーヴルに気が付きジャーニーが笑みを零す。

 

「姉上――っ!?」

オルフェーヴルの全身が僅かに強張る。

ジャーニーは全身に凡夫の匂いを染み込ませ、逆にトレーナーからは姉の匂いが漂って来ていた。

まるで2人して互いの匂いを染み込ませ合い、交換し合い、混ぜ合った様な匂いだった。

 

「どうしたんだい、オル?

さぁ、寮に帰ろうじゃないか、モーニングティーを用意してあげるからね」

そんな、事実を誤魔化すようにジャーニーがオルフェーヴルを寮に誘う。

最後にトレーナーに振り返り、クスリと笑い再度、人差し指を左手の薬指にリングの様に巻き付けた。

相も変わらず、トレーナーは青い顔をしていた。

 

 

 

「何が有った姉上……いや、何か有ったのだろうが……」

オルフェーヴルはこめかみを再度押さえて、今日も未だに部屋に帰らぬ姉の事を想った。

 

 

 

 

 

ギシ、ギシッ

 

古ぼけた階段をダンボール3つを抱えて、ジャーニーのトレーナーが上っていく。

 

「うっし、うっし……」

小さく声を漏らし、段ボールで視界を遮られたまま進んでいく。

3段重なったダンボールの一番上が、階段を上る揺れでズレるがトレーナーは気づきはしない。

 

「っ、っ」

小さく声を漏らし、その声に連動するかの様に最上部のダンボールが前後に揺れる。

前にズレ、反動で後ろにズレを繰りかえす。

階段に荷物をぶちまければ大惨事、頭の上に落ちて来てても大惨事。

そのどちらかが、トレーナーの辿る運命だった。

 

そして、遂にダンボールが前にすべり落ち――

 

「こんばんは、トレーナーさん。

前が見えないのは危ないですよ?」

ジャーニーが落ちるダンボールをひょいっとキャッチする。

 

「おお、その声はまさしく、我が愛バドリームジャーニー!」

芝居かかった口調で笑みを浮かべた。

 

「もちます」

ジャーニーがひょいッと、3つ分のダンボール箱を肩に抱えて歩き出す。

 

「やはり、こうなりました?」

眼だけを此方に向け、ジャーニーが言葉を投げる。

 

「4月過ぎたら引っ越しシーズン終わりだし、この辺の良い場所は全部入居済だし……

仕方ない面も多いよなぁ」

ため息を吐くトレーナー。

彼の借りていたマンションは、厄介ファンに住所が特定され遂に凸まで喰らってしまい、安全観念的な意味でも周りの住人の事を考えたとしても同じ場所に住み続ける事は出来なくなってしまった。

そこで――

 

 

 

 

 

「特例!現在、君の使用しているトレーナー室もとい、旧トレーナー寮の部屋を居住空間として使用する事を許可する!」

バッと扇子を広げちびっ子理事長がジャーニーのトレーナーに告げる。

 

「え、あそこに住めと!?

ボロ――もとい味があるし、トイレは廊下の突き当りだし、部屋シャワーはあったかくなるの遅いし、湯舟無いし、シンクは汚れてるしで、仕事部屋として使うには広いけど、住むにはボロすぎるあそこを!?」

 

「無論、新しい部屋が用意できるまで、好きなだけいてくれて構わない。

此方としても、何時も学園にトレーナーが常駐している方が都合が良い!」

 

「トレーナーさんはまじめな方なので、理事長も信頼していらっしゃるのですね」

ちびっ子理事長の隣に佇む緑の服の女も笑みを零す。

柔和な優しい笑みなハズだが、有無を言わせない圧力を感じるのはなぜだろうか?

 

「夏の前に、エアコンを買い替える事をオススメしますよ」

 

「君のこれからの、ますますの活躍を期待している!!頑張ってくれ()()()()()()

2組の張り付いた笑みを受けながら、トレーナーは引きつった笑みを浮かべた。

 

それが昨日の事だった。

 

 

 

トレーナー室のドアを開け、ジャーニーと荷物を招き入れる。

 

「公私混同、極まれり……職場で寝泊まりとか、ブラックの香り濃厚すぎでしょ……」

トレーナーの使っているトレーナー室は、既にいくつかのダンボールが置かれていた。

机の上には『特例!』と書かれた手紙。

 

「理事長が許してくれて、良かったですね。

トレーナーさんに甘いのは、実は親戚だったりします?それとも弱みを握っている、とか?」

 

「ち、ち、ち、ちげーし!

寧ろ厄介ごとを押し付けられる側の存在だし!

まぁ、その事も有って、便宜を図ってくれたんだろうけど……」

トレーナー室の荷物は全てトレーナーのマンションに有った私物。

 

「チームを持った時にメンバーを乗せる為、大きい車にしたけどまさかこんな風に使う日が来るなんて思って無かったよ……」

部屋に入りきらない私物は車の中に乗せたままとなっている。

 

「早く荷ほどきしちゃいましょう」

 

「なんか、機嫌よくない?」

心なしか、何時もより声が高い気のするジャーニーをトレーナーがジト目で見る。

 

「いつでも会える様になったのは、素直に嬉しい事なので」

明るいジャーニーに対してトレーナーの表情は暗い。

 

「はぁあ……結局あの厄介ファンの事も音沙汰無いし、不安だけが増えてくよ」

 

「ああ、それでしたら――」

ジャーニーがカッターナイフを使い、ダンボールのガムテープを切断する。

 

「もう彼女は、トレーナーさんの前に現れる事はありませんよ。()()()ね」

カッターの刃を振ると本を縛った紐が一瞬でバラバラになる。

 

「きっと大丈夫ですよ」

 

「……そっか」

あまり聞いてはいけないと思い、トレーナーは作業に集中する事にした。

持って来た家具を組み立て、部屋の中に並べ、以前よりある古びた備え付けの道具を、用具入れに仕舞い……

 

コロン

 

「タバコ、吸うんですか?」

箱の中から転げ落ちたジッポライターを拾う。

銀色のライターで側面には、羊の角と蝙蝠の羽――悪魔をイメージさせるデザインがされているが、その半分は何かで擦られて削れてしまっている。

今の今まで、トレーナーからタバコの匂いがした事など無かった。

 

「昔、吸ってた。

アレはコレクションだよ。

未成年喫煙なんて、子供(ガキ)のする事さ。

第一、コレ壊れてるんだよね」

ジャーニーから取り上げて、ジッポをするが一瞬だけ火花が出るだけだ。

 

「私達はメディアでの露出も有るので、イメージも大切ですからね」

昔は少しヤンチャだった匂わせを聴いて、ジャーニーが耳をピクリと震わす。

 

「よし、解散!月曜から練習再開だ!

門限前に帰るぞ。

寮は学校の目の前だからって油断するなよ?」

 

「はい、では失礼します」

 

「あ、待って、寮の前までは見送るから」

トレーナーが財布と携帯を持って、走ってくる。

その様を見て、ジャーニーはフッと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

栗東寮のジャーニーとオルフェーヴルの部屋。

 

「今、帰ったよ。オル」

 

「ああ、見ていた」

ずっと窓から、外の様子を伺っていたオルフェーヴルは、自身の姉がさっきまでトレーナーと一緒だった事も今戻った事も知っている。

 

()いのか、貴重な休みをあの男に尽くす事に使って」

 

「トレーナーさんは、私の思いどりに動かない事には定評が有るからね。

こうやって少しでも理解を深めてあげれば、何を考えているか分かるかな、っておもってね?

契約してもう1年以上だけど、未だにあの人の事は知り切れない。

もっともっと、知りたくなるんだ。

オルもトレーナーさんが出来れば、きっと分かるよ」

優しい笑みを浮かべて、自身の机の上におかしなパーツが散見するラジオを置く。

 

「珍しい、何か聴くのか?」

 

「そんな、所かな」

ジャーニーがラジオの電源を入れ、ダイヤルを回す。

聞こえてくるのは砂嵐の音ばかりだ。

 

『ザ……そろ――ざざ……ける――か……ざざ……』

 

「ふむ、まだチューニングが必要かな?」

尚もダイヤルを弄りながら、ジャーニーが首を傾げる。

砂嵐の中、僅かに人の声の様な物が聞こえる。

 

「――まて、その声は」

 

『明日……パンと牛乳……あと……銭湯……たい……行く……か』

ラジオから聞こえてくるのは、紛れもないジャーニーのトレーナーの声の物。

理解した瞬間、オルフェーヴルの尻尾がピィンと伸びる。

 

「姉上、これは盗聴では――」

 

「違うよオル。

なぜか偶然、ラジオからトレーナーさんに似た声が聞こえてくるだけだよ。

いやぁ、不思議な事も有るものだね」

ニコニコしながらラジオのチューニングをしようと再度、ダイヤルを回し始める。

 

(休みの日を使ってまで、片付けに行った理由が分かったな)

窓の外、学園の方から見えるオンボロの建物をオルフェーヴルが眺める。

電波送信器が有れば、ここまで飛ばすのは十分な可能な距離だろう。

 

 

 

 

 

トレーナーが夕方の河原沿いをコンビニ袋片手に歩いていく。

袋の中では、新作のプリンが揺れている。

 

「オンボロ寮生活に成ったが、コンビニが近いのは前より良い点だな。

うんうん、前向きに考えよう」

そんなトレーナーの前に、一人の女の子が膝を抱えて泣いている。

 

「どうした、怒られたか?」

しゃがみ込んでその子の顔を覗き込む。

 

「この子、拾ったの……けど、お母さんが飼っちゃダメって……」

その子は膝にダンボール箱を抱いてた。

 

「拾った?」

箱の中には一匹のネコ。

 

「一人はかわいそうだよ……」

女の子はポロポロと涙を零し続ける。

その様はトレーナーの心を酷く揺さぶった。

 

「職場じゃ、流石に飼えな……理事長に無理を言えば……いや、一匹位なら隠れて……」

トレーナーの脳裏に理事長の姿が浮かぶ。

ちっちゃい身長、漢字の書かれた扇子、そして白い帽子――の上のネコ。

 

「あ、イケるわ」

 

「飼ってくれるの!?」

トレーナーの言葉を意味を勘違いしたのか、女の子の顔がぱぁっと明るくなる。

 

「あ、えっと……」

チラリと見ると、女の子は今にも泣きそうな顔に戻っている。

 

「いや、飼うよ。丁度ウサギ用の道具有るし、ネコにも使えるだろ」

その顔を見たら、飼わないと言う事は出来ない。

 

「本当!お兄ちゃんありがとう!」

女の子はダンボールを押し付け走って帰って行った。

残ったのは箱の中で蹲るネコ。

 

「貰っちゃったな……どうするかな……名前」

箱の中のネコが起き上がる。

長く黒い毛に白い毛が混ざり、そこに僅かに黄金色とも取れる黄色い毛が入る。

その様は、彼の担当バの姿を思い起こさせた。

 

「ジャーニーカラーだな」

 

「なぁーう?」

 

「うわっ!?声もジャーニーに似てる!!」

 

「にゃーぅ」

ジャーニーにのネコを抱き上げ、顔を見る。

何処となく顔もジャーニーに似てる気がする。

 

「とりあえず、ジャーニーって呼ぶか、似てるし」

 

「なぁう」ゴロゴロ

トレーナーの胸に頭をこすり付けながら、喉を鳴らす。

そうして、トレーナーの秘密の飼い猫生活が始まった。

 

 

 

 

 

翌日、放課後

 

「ふぅ……」

自主練を終え、オルフェーヴルが自室でゆったりと自分の時間を楽しむ。

その時ふと、自身のスマフォに姉からの通知が来ているのに気が付く。

 

「ふむ、『委員会が忙しく帰るのが遅く成る』か。

あの男の所ではないだけ、良しとするか」

紅茶を淹れてオルフェーヴルがベッドに腰かけ背伸びをする。

 

『ジャーニー、こっちに来い』

 

「!?」

突如聞こえる、男の声にオルフェーヴルが起き上がる。

姉の机の上に、昨日のラジオが置かれている。

どうやら、電源が入ったままに成っていた様だ。

 

「いや、そんな事は些末事、それよりも今の話は?!」

 

『お前は本当に可愛いなぁ』

 

『にゃー』

オルフェーヴルの背中に寒気が走る。

聞こえてくるのは自らの姉とそのトレーナーの声。

 

「姉上、委員会ではなくトレーナー室に居るのか……?」

『密会』の言葉が脳裏をよぎる。

 

「やはり姉上があ奴の家に泊った時に……」

ぞっとする想像に鳥肌が立つ。

オルフェーヴルは自身の妄想を振り払う様に頭を振る。

 

『ジャーニー、構って欲しいのは分かるが俺はまだ仕事があるんだ。

後でたっぷり相手してやるから、先にベッドで待ってな』

 

『なぁーう……!!』

 

『はっはっは、嬉しいか!お前は本当に可愛いヤツだなぁ』

ラジオから聞こえる言葉に、オルフェーヴルの顔面は真っ青。

 

『ガチャ』

 

『来訪!新しい、寮の調子はどうだ?』

ラジオから聞こえてくる声に新たな人物が加わる。

オルフェーヴルはその声に覚えがあった。

 

「この声、理事長か!ふっ、凡夫め。姉上との関係も此処までだな」

オルフェーヴルが密かに拳を握る。

理事長の前で生徒に手を出したとあらば、懲戒は免れない。

姉のは苦い思い出になるだろうが、この方が結果的に姉の為に成るとオルフェーヴルは考える。

 

『むむ!その子は!』

 

『あ、理事長、えっと、この、これはですね……』

理事長の声と誤魔化すようなトレーナーの声。

 

『黙認!私は何も見ていない。

私は構わないが、他の者にバレない様に上手くやる事。

では、お楽しみの所、邪魔した』

ドアの閉まる音がして、理事長の声が消えた。

 

「も、黙認されておるのか……」

震える手からティーカップが倒れ、受け皿を溢れた紅茶が床にシミを作る。

ラジオから流れてくるのは、姉の声と男の頭の痛くなる様なイチャラブなヴォイス。

 

「もう、聞きたくない……」

オルフェーヴルがふらふらと立ち上がり、ラジオの電源を消した。

 

 

 

「おら、ジャーニー!腹見せろ腹ァ!」

 

「…………」

トレーナーの言葉にネコのジャーニーが「仕方ないな」と言わんばかりの表情で、寝転びハラを見せる。

 

「うぇえええぃ!かわええなぁ!かわええなぁ!」

わしゃわしゃとお腹を撫で、抱き上げ腹に顔を埋める。

 

「なぁー……」

ネコのジャーニーが不満そうに鳴く。

 

「すぅー、すぅー」

ネコのお腹で深呼吸をするトレーナー。

 

「ジャーニーは可愛いなぁ……」

顔にネコを乗せたまま呟く。

 

「面と向かって言われると、恥ずかしいですね」

 

「うえぇ!?」

突如聞こえる声に、トレーナーが震え顔からネコを取り落とす。

 

「じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、ジャーニー!?」

 

「ウサギ用の道具、役に立ったんですね」

部屋の隅に置かれたキャリーケースや、マットや餌箱に視線を投げた。

 

「私と同じ名前のネコ、ですか……」

 

「えっと、その……」

見た目でつい、同じ名前を付けてしまったと言え、本人を前にすると気まずい物を感じてしまうトレーナー。

眼鏡が光を反社、ならぬ反射してしまいその表情は読み取れない。

説明してもらえますね?の無言の圧力が怖い。

 

「い、良いトコに来たな!丁度引っ越しの荷物もひと段落したし、引っ越しソバを食べに行く所だったんだ!

時間あるなら、お前も来いよ!」

咄嗟に取ったのは懐柔行為。

 

「おごりですか?」

それに乗るのはジャーニー。

 

「し、仕方ねーな!」

懐柔が上手く行った事で安心する。

 

「では、一番良いモノを後、エビは2本でお願いします」

 

「え!?」

 

「お嫌、ですか?」

有無を言わせぬ圧力。

 

「い、いいともさ!」

トレーナーはそう答える以外の選択肢を持たなかった。

 

 

 

 

 

「美味しかったですね」

 

「ああ、そうだろ?ネットで有名な店なんだ……」

夕焼けの帰り道、ジャーニーが上機嫌で先を征き、その背後を財布を軽くしたトレーナーが力なく歩く。

 

「あー!お兄ちゃん!やっと、見つけた!」

トレーナーの背後、先日のネコを抱いていた少女が走り寄ってくる。

 

「おお、嬢ちゃんか。

ネコならちゃんと家でお留守番してるぞ?」

しゃがみ込んで視線を合わせて穏やかな笑みを浮かべる。

 

「ママと相談したら、飼って良いって!

私お世話頑張る!!」

瞬間、トレーナーの顔が凍りつく。

 

「そっかぁ、良かったな!

い、いま、ネコを連れて来るよ……

キャリーケースとかベットとか一式あるから、持ってってくれよ」

錆びた金属の様にぎこちない動きで、トレーナーが立ち上がった。

その様をジャーニーは、気の毒そうに眺めていた。

 

 

 

 

3日後……

 

夕日がトレーナー室を照らす。なにも変わらないハズなのになぜか部屋の中がガランとしてしまった気がする。

理由はもう既に分かっている。

 

「ジャーニー……」

今、ここに居いないネコの事を想い、トレーナーが小さく呟く。

たった数日だと言うのに、心に大きな穴がぽっかり開いてしまった様だった。

 

「に、にゃー……」

 

「ジャーニー!?」

聞き覚えのある声に振り返ると、そこに居たのはネコではなく担当の方のジャーニーだった。

 

「にゃー……」

ジャーニーは手をネコの様に曲げる。

 

「わ、私で良ければ、ネコの代わりに……その、かわ、可愛がって……も」

その顔が赤く見えるのは夕焼けだけのせいでは無いだろう。

 

「ジャーニー……」

ふらふらとトレーナーが立ち上がる。

誘われる様に歩き出す。

無意識に呼んだ名は、ネコの物か担当の物か……

 

『次やったら、『こう』ですからね』

脳裏に浮かぶのは、ジャーニーが左手の薬指の根元をきゅっと締める動き。

 

「ゆ、指2本バイバイは、嫌だぁ!!」

トレーナーが叫び、その場所から飛びのく。

 

「ふぅ、あぶねーぜ……ヤの付く自営業の怖いオジさんスタイルで、ケジメをつける所だった!」

額の汗をぬぐい、トレーナーが自身の頬を叩く。

 

「……荒療治に成りましたが、元気になった様ですね」

何処か残念そうに、ジャーニーが言う。

 

「うっし!切り替えていきましょう!

学校イベントにレースにやる事はまだまだ有るぞ!

あと、新しい家も探さんとな。

ここ、実質プライバシーゼロだし」

ホイホイと勝手に入ってくる理事長やジャーニーの見た目ちびっ子軍団の事を思いだす。

 

カリカリ

 

部屋の窓が、外から引っ掻かれる。

窓の外の枝。

そこに、見知ったネコがこちらの窓を叩いていた。

 

「おー、ジャーニー、来てくれたのか!!」

 

「なーぅ」

窓を開けると同時にネコが部屋に転がり込み、定位置と言わんばかりにベッドで丸まった。

 

「遊びに来たのか?ネコは人より、家に憑くって言うからなぁ」

ベット腰かけ、ネコを撫で始める。

可愛い、可愛いと文字通りの猫なで声を発する。

 

「……私の名前、ですか」

じとっとした目をジャーニーが向ける。

 

「なるほど、毛色が似ているからですか」

ジャーニーがベッドで寛ぐ、ネコに手を伸ばす。

 

「ああ、あと、声も似てるんだ――」

 

「ふしゃああああああああああ!!」

ネコのジャーニーが毛を逆立て牙を剥き、手を差し出してきたジャーニーを威嚇する。

 

「えぇ……おまえ、そんな顔するの……?」

 

「ごろにゃ~ん」

初めて見るネコの態度にトレーナーがやや引く。

そんな事お構いなしとばかりに、ネコが膝の上で甘える。

 

「…………同じか」

眼を細めネコを見る。

トレーナーの膝の上、そのネコは先日の厄介ファンと同じ眼をしていた。

 

「トレーナーさんは、こういうタイプに好かれるんですね」

ジャーニーが皮肉を込めて話す。

 

「ネコにモテてもなぁ~?」

 

「にゃ~」

ネコを持ち上げ、互いに視線を合わせる。

 

「ん~、ジャーニーはジャーニーそっくりだな!

毛色もそうだし、声も似てる。

けど、一番似てるのは()だな」

 

「は?」

予想外の言葉にジャーニーが呆けた声を漏らす。

 

「色とか形よりも、眼付というか……不思議と似てるって感じるんだよな」

笑いながらネコのジャーニーをウマ娘のジャーニーの方に向ける。

先ほどと変わらぬ、厄介ファンの眼。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言った。

 

つまり、自分も厄介ファンと同じだと――

 

「違います。私は違います。似てません」

 

「え、どうしたのジャーニー!?」

突然のかしこまった声にトレーナーが困惑する。

 

「絶対に同じ眼なんかしてません!!」

珍しくジャーニーが強く否定した。




厄介ファンは怖いですね。
自分は違うと思ってる所が特に怖いですね!
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