クレイジー&ジャーニーズ   作:ホワイト・ラム

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10月初投稿です。
貴重な秋の時間を、この作品の為に使ってくれた皆さまに感謝を。


クレイジー&ノイズ

気だるげな午後の太陽光に、僅かな夏の色味を感じる今日この頃……

激動の5月、6月を終えウマ娘たちは実に様々な様相を見せていた。

有る者は『次』を目指し更に研鑽を、有る者は自らの未熟を受け入れ更なる躍進を目指す。

 

しかしレースの勝利者は常に一人、打ちひしがれ立てなく成る者も当然出て来る。

それ以前に、未だトレーナーが付かず思い描いていた理想と現実とのギャップに諦めてしまう娘も出て来る。

兎に角この時期は『躓き始める者』が数多く出てしまうタイミングなのだ。

 

そんな日の午後……

 

何時に無く、真剣な雰囲気をドリームジャーニーのトレーナーが醸し出している。

緩み切った彼にしては珍しく、その眼の鋭さは触れれば切れてしまう日本刀の様ですらあった。

 

夜空に浮かぶ月の如き鋭い眼が、一瞬にして開け放たれる――!

 

「今だ!」

気合は十分、しかしその動きは機械の様に正確。

 

じゅっ、と音がして目の前の鉄鍋からピンポン球ほどの大きさの球体が取り出される。

キッチンペーパーで余分な油を落とし、雪の様な純白の粉糖の上で転がせば――

 

「俺、特製ドーナツの完成だ」

きつね色でまん丸なドーナツを掲げる。

爪楊枝を差して、早速一口――

 

「はふ、はっふ、美味っ、揚げて10秒のドーナツには神が宿る……」

感極まり、目じりから涙の線が一筋……

 

「もう一個、作るか」

そう言って、傍らのボウルから生地を掬うと再度油の中に落とす。

じゅわぁああっと、音がしてドーナツが揚がっていく。

 

「…………なぜ、トレーナー室でドーナツを揚げているんですか?」

じっと黙っていたジャーニーがトレーナーに尋ねる。

今日の練習が終わり、クールダウン、シャワーの後の一杯のカフェタイムを過ごそうと、トレーナー室に入るとそこには既にいい香りの油が温めて有った。

トレーナーは何時ものソファーに腰を下ろし、卓上コンロの上、鍋の中の油を真剣に見ていた。

 

「そりゃあ、昨日出かけた先でホットケーキミックス粉が半額だったからだよ。

なら俺特製のお手軽ホットケーキミックスドーナツを作るしか無いって思った訳よ?

あ!言っておくが『お手軽』は『簡単』って意味じゃないんだぞ?

揚げ物特有の温度管理とこのドーナツが最もおいしい瞬間を見抜き、油から引きあげる技術が必要なんだからな?」

 

「……自分の職業をお忘れですか?」

ジトッとした眼をジャーニーがぶつける。

確かに仕事の時間はもう終わっているだろうが、今からドーナツを揚げる辺り、やはり自らのトレーナーは個性的(精いっぱいのオブラート)だとジャーニーは思う。

 

「まぁ、アレだよ。やる事も大体終わったし、ちょっとした息抜き?

ジャーニーも食ってみろよ、飛ぶぞ!」

ジャーニーの目の前にたった今揚がったドーナツが差し出される。

今なお小さく油の跳ねる音と僅かに立ち上る湯気に、思わずゴクリと喉を鳴らしてしまう。

ジャーニーの心情の様に、刺さったつまようじが小さく揺れる。

 

「トレーナーさんは、ひどい人ですね。

アスリートの天敵である揚げ菓子を自分の担当に勧めるなんて……

本当に、ひどいトレーナーだ。

けれど、いただきます」

両手を合わせて、つまようじを掴み口の中に頬張った。

 

「ッ!?」

 

「熱いに決まってるだろ!?冷まさずに、行く奴が有るかよ!!

ほら、ミルクティー!!冷たいヤツ!!」

顔を歪めるジャーニーにトレーナーが自らのカップを差し出すが、ジャーニーはそれを手で制する。

数秒の後、ジャーニーは口の中のドーナツを胃に収める事に成功した。

 

「すこし、驚いただけなので、ご心配は不要ですよ。

思った以上に美味しかった事にも驚きました」

ジャーニーの言葉にトレーナーの顔がぱぁっと明るくなる。

それほどまでに、ジャーニーの言葉はトレーナーにとって嬉しい物だった。

 

「おうよ!!揚げる時の温度と取り出すタイミングにコツがあんのよ。

大学時代に暇な時間で、極めた俺の一品よ」

すっかり気を良くしたトレーナーは次のドーナツを揚げ始める。

 

「オルちゃんに持って行ってやるか?

初レース出走記念で、甘いモノ好きだろ?」

 

「残念ながらオルは……」

トレーナーの言葉にジャーニーの顔が曇る。

 

「ええー?まだ拗ねてるの?」

 

「負けない事も姉の役割だと思ってたんですが……」

レースのラッシュの中でジャーニーとトレーナーの両名は、オルフェーヴルとレース場で競い合う事となった。

結果としてはジャーニーの勝利で終わり、オルフェーヴルの初めてのレースは苦い思い出が残る事と成ったのだ。

 

「負けを知る事も、強くなる必須条件だ。

ジャーニーだってそうだった……

いや、本当にそうか?俺がもっと、上手くやってればもっとジャーニーを勝たせて――」

自らの言葉にトレーナーが俯き始める。

 

「トレーナーさん、ドーナツ焦げちゃいますよ?」

 

「え、あ、そうだな」

そう言って慌てて、ドーナツを掬いあげる。

 

「あちゃー、若干だが、焦げてしまった……気がする。

食べれなくは無いが、一番おいしいタイミングでは無いなぁ」

僅かに色が濃くなったドーナツを眺める。

 

「それよりトレーナーさん」

ジャーニーがトレーナーの横に座る。

 

「覚えています?レースに『もしも』は無いと。

どんな天気だろうと、どんな体調だろうと、どんな理由が有ろうと結果のみが全て。

『もしも』も『ひょっとしたら』も意味なんてありません。

レースはそういう物だ、とご自分で言ったでしょ?」

 

「ああ、そうだったな。

負けの数より、勝ちの数を見るべきだよな。

俺の愛バは十分すぎるくらい、優秀なウマ娘さ」

 

「はい、担当トレーナーが優秀だった物で」

目配せし合って、両者が小さく笑った。

 

 

 

机の上には揚がったドーナツとコーヒーとミルクティー。

2人は夕焼けが沈むまでの、自分の時間を思い思いに堪能する。

トレーナー室の壁には、いくつかのトロフィーが光を浴びて誇らしげに輝いていた。

 

「おっ」

スマフォを見ていたトレーナーが動きを止める。

それに反応し、机にノートを広げていたジャーニーも耳をピクリと動かす。

 

「ジャーニー、今度の休み暇か?」

その言葉にジャーニーは努めて平静を装い、ノートから顔をあげる。

 

「はい、特に予定は埋まっていませんよ。

仮に埋まっていたとしても、トレーナーさんからのお誘いならば、開けますとも」

冷静な顔を保ち、後ろ手で今にも暴れだしそうな尻尾を無理やり押さえつける。

 

「本当か?良かったぁ!

隣町でラブキュアのトークイベントが有るんだよね」

 

「行きません」

ぴしゃりとジャーニーが告げる。

さっきまでの春の様なウキウキ気分は、一瞬で永久凍土に閉ざされた。

隠されたニヤケ顔は一瞬にして能面の様に成る。

 

「頼むよぉ、キラリンスィーツラブキュアの10周年イベントんだよ。

オーディオコメンタリーも有って、当時の裏話が聞けるっぽいんだよ」

このとーり、と言って顔の前で手を合わせて頭を下げる。

 

「行きません」

 

「マジで、KSL(キラリンスィーツラブキュアの略)は神作で!!

お菓子を作る事で相手を幸せにすることを目指しているんだけど、敵の組織がその幸せな人間からエナジーを吸い取るって奴らで、自分達のしてる事は正しいのか?って葛藤するのが、大人相手にも響いて――

いや、ストーリー自体もかなり良く出来た方でさ」

熱く作品の良さをトレーナーが語りだす。

 

「行きません」

 

「ほんっとう、お願いします!

転売ヤーが群がってせいで、大人一人だと会場に入れて貰えないんです。

どうか、どうか、ついて来て下さい!!」

背筋を90度に曲げて頭を下げる。

 

「イヤです。

それに、高等部だから無理です」

ジャーニーの言葉にトレーナーが顔を上げ、壁のタンスを開けてピンクのフリフリの女児服を持ってくる。

記憶が正しければ、現行放映されているラブキュアのプリントされた物だった。

トレーナーは柄をジャーニーに見せたあと、丁寧にたたみ机の上に置き――

 

「どうか、どうか、ラブキュアの服を着て『ちょっとおしゃまなJSですが何か?』的な空気を出して一緒に来てください!!

ジャーニーなら、バレない。

大丈夫!絶対バレないから!!どうかお願いします!!」

トレーナーが遂に土下座を慣行する。

 

「絶対に無理です」

 

「先着でオリジナル小説冊子が配られるんです!!

基本、今しか手に入らない超限定モノなんです!!」

尚も床に額をこすり付けて懇願するトレーナー。

 

「……うわぁ」

女児服を着せ、自らが欲しいグッズの為に、子供をメインターゲットにした会場へ向かおうとするトレーナーの姿。

それを見て、ジャーニーは小さく声を漏らす。

 

「ついて来てくれたら、何でもするから!!」

 

「なん、でも?」

トレーナーの言葉にジャーニーが反応する。

 

「トレーナーさん」

ジャーニーの呼びかけに、床にこすり付けていた額をトレーナーが持ち上げる。

 

「なんでもしてくれるというのであれば、私に忠誠を誓ってください。

レース後も、私の卒業後も、私の為にずっと働くと誓ってください。

死が二人を分かつ――いいえ、もしもあの世が有るのなら、そこでも私の傍にいてもらいます」

酷く真剣な様子で、ジャーニーが片方の靴下を脱ぎ、足先を差し出してくる。

 

「つま先へのキスは忠誠の証、それを以て契約の締結といたしましょう。

どうします?トレーナーさん」

試すような視線がジャーニーの視線が投げられる。

 

「おいおい、そんなんで俺がビビると思ってるの?

欲しい物の為にはどんな事でも惜しまないぜ?

しかも、足フェチの俺にはむしろご褒美だぜ!」

ジャーニーに向かい挑発的な視線を投げ返す。

 

「…………」

 

「…………」

トレーナーの手がジャーニーの足の甲を掴む。

当人たちは知りえない事だが、2人の心臓が同時にドキリと高鳴った。

トレーナーが唇を近づけ、触れる瞬間――

 

「にゃあ?」

 

「!?」

 

「!!」

突如聞こえる声に、二人が驚く。

声の先は、机の上。

開いた窓を背にし、一匹のネコが佇んでいた。

 

「おお、ジャーニー遊びに来たのかぁ」

 

「にゃ~ん……」

トレーナーがネコを抱き上げる。

さっきまでの空気が霧散した瞬間、2人の頭が冷静さを取り戻す。

 

「あー、ジャーニー?さっきのは無しにしてくれ。

嫌がるジャーニーに変な服着せて、出かけさせるのは不味かったよ。

それに本当は高等部だし、バレたら色々不味いからな」

 

「そ、そうですね、私としてもトレーナーさんを諦めさせる為にだした条件だったので、実際にされたらこっちの方も困るというか……」

あせあせと、2人同時に言い訳がましい理由を並べ始める。

 

「そ、そろそろ、帰る時間じゃね?

オルちゃんに持って行ってあげな、そろそろ機嫌直す頃だろ?」

ドーナツを手早く、ビニール袋に詰めジャーニーに押し付ける。

 

「ありがとう、ございます、では失礼します」

努めて冷静にふるまうが、分かる者が見れば簡単に分かるぎこちなさで、逃げる様にジャーニーが部屋を後にする。

 

 

 

 

 

「姉上、戻ったか」

寮の自室に戻るとオルフェーヴルが、レースも無いのに勝負服を身に着けていた。

豪奢な作りで正に王者の貫禄と呼ぶにふさわしい。

 

「ああ、素敵な勝負服だね。前々からオーダーしていた物が届いたんだね。

お前の偉大さを現す一助に成れば良い――」

 

「姉上」

オルフェーヴルがジャーニーの言葉を遮った。

 

「先日は不覚を取った、だがこれ以上はそうは成らん!

私と私のトレーナーの2人で、姉上を超えて見せる。

今、この時を以てこの勝負服に誓う」

 

「いいよ――やってみると良いよ。

けど、一つ訂正が必要だね。

オルがオルのトレーナーさんと走る様に、私も私のトレーナーさんと2人で走ってる。

私を超える事はオルには出来るさ、けど()()を超える事は出来るかな?」

ニヤリと笑い、オルフェーヴルを挑発する。

 

「王の前に立ちふさがるなら、姉上だろうと凡夫であろうと容赦はせぬ。

それよりも――何を持っているのだ?」

オルフェーヴルが小さく鼻を鳴らし、ジャーニーの下げている袋に視線を送る。

 

「これはドーナツだよ」

揚げたてさ、と補足する。

 

「良い。献上せよ、姉上」

 

「温めは、不要かな?今お茶を淹れて来るよ。

その間に服を着替えて置いてくれるかい?

勝負服に油染みはつけたく無いだろう?」

そう言って、ジャーニーが部屋を後にする。

 

 

 

 

 

「もともと、変わり者だと思っていたけど、思った以上に重症だったみたいだ」

ジャーニーが自室のベットの上で腕を組み、顎に手を当て試案する。

 

「姉上、どうしたのだ?

遂に凡夫と別れる決心が着いたのか?」

ドーナツを平らげ、すっかり機嫌を良くしたオルフェーヴルが尋ねる。

 

「オル、言って良い冗談とそうで無い冗談が有るんだ。

覚えておくと良いよ?」

優しい笑みを浮かべて、それとなく注意を促す。

もっとも、その眼は一切笑ってなど居なかったのだが……

 

「さて、いつものラジオを聴くか」

 

「またか」

しかし机の上のラジオの電源を入れるが音が出ない。

 

「壊れた?」

ダイヤルを変えるが普通のラジオ音声は聞こえる。

 

「録音部分を再生してみるか」

 

『にゃー、カリ、カリ、なー、カリ』

ネコの鳴き声と何かを引っ掻く音。

 

「ネコの声か?」

 

「トレーナーさんの部屋に遊びに来るネコだよ。

コバエと違って、すこし処理に手間取りそうでね」

 

そして――

 

『あーあー、そんなの弄るなよ。感電するだろ?あっぶねーな、要らないし捨てるか』

ブツンと切れ、その後の音は一切聞こえてこない。

ジャーニーの眼が大きく見開かれる。

 

「すてられ、た……?」

酷く落ち込んだ様子でジャーニーが膝を着く。

 

「あ、姉上?」

 

「もう、聞けない?『おやすみ』も『お仕事やだー』も『ジャーニー可愛い』も!?」

ジャーニーがそのまま、コテンとベットに横に成る。

 

「おる、きょうは、もう、ねるよ」

この時期、偶に居る燃え尽き症候群のウマ娘の様にジャーニーが力尽きた。

 

「真っ白に燃え尽きておる……」

 

 

 

 

 

次の休み――

 

「はい、配布の小説となります」

ラブキュアのイベント会場でスタッフが、小さな女の子に一冊の薄い本を渡す。

 

「あ、俺が受け取ります、無くさない様にカバンに入れますから」

横から男がヒョイっと受け取って大切そうに自身のカバンに入れる。

 

「さ、行きましょう。早めに行かないと良い席、埋まっちゃいますよ」

トレーナーが話しかける幼女は、無言で扇子を開いて見せる。

そこには『了承!』の文字が躍る。

 

 

 

「いやー、結構埋まってるなぁ。

けど、明らかに人数が少ない、やっぱり子供優先に成ったのがデカいんだな。

やっぱ、持つべき物は見た目幼女な上司ですよ」

 

「珍しく君から頼みが来たと思えば、コレか……?」

ジトッとした目で理事長がトレーナーを見上げる。

 

「どーしても欲しかったんです、コレ……理事長にご足労頂き本当に感謝です」

隣に座ったまま、トレーナーが頭を下げる。

 

「不問!君にはいつも個人的に助けてもらっているからな、偶には此方からも褒美が必要だろう?

君の様に身を粉にし、他者の助けに成る者こそ我が学園に必要な人材だ」

キリっと子供の顔を捨て、『理事長』の顔に変わる。

 

「あ、けど、理事長も見れば気に入ると思いますよ?

なんていうんだろ、日常で疲れた時や落ち込んだ時、応援してくれる人がいると力になるでしょ?

ラブキュアだったり、ネコだったりするんですが――」

その時、理事長の眼がカッと開かれる!

バッと扇子が開かれ、そこには『霹靂!』の文字。

このアイディアは学園のウマ娘たちの幸福の向上に使えるかもしれない。

 

「どうしたんです、理事長?」

 

「解決!とまでは、行かないがひょっとしたら私の悩みが一つ消せるかもしれない。

君にはまた役に立ってもらう事に成りそうだ。

頼むぞ、()()()()()()よ」

何かを思いついた理事長が扇子で口元を隠す。

 

 

 

 

 

数日後――

 

「ねぇ、アレ聞いた?」

 

「聞いた聞いた」

 

カフェテリアのウマ娘たちが、何か噂をする。

姦しい女学生たちだが、それはやはりウマ娘で有っても変わらない様だ。

練習終わりに、テラス席での話をジャーニーが耳に挟む。

記憶が正しければ、あの子たちはすっかり気力を無くしていたハズだったが。

 

「え、なになに?何の話?」

そこに会話に入れないもう一人が口を開く。

 

「えー、アンタ知らないの?」

 

「最近、学園が生徒向けに出してる公式音声!」

スマフォの画面を、話しかけてきた娘に見せる。

盗み聞きする気は無かった、だが何かイヤな予感がしてジャーニーは足を止める。

 

「こーしきおんせー?それがなんだって言うのよ?」

 

「所謂シチュエーションボイスって言うの?

架空のトレーナーが、トレーニングを付けてくれるのよ」

 

「はぁ?本物のトレーナーが付かないからって、偽物に頼るワケ?」

 

「まぁまぁ、そう言わずに……

実際、基礎トレーニングのやり方を指導してくれるし、実用的なのよ?」

 

「それにぃ、コレ、ボイスのパターン意外と多くて」

一人の娘が再生ボタンを押す。

 

『やぁ、こんにちは。早速だが僕と一緒にトレーニングを始めよう。

と、その前に軽くストレッチだね、忘れるトコだった、イケないイケない……

君は僕の担当なんだから、怪我なんてしてほしくないんだよ?

じゃ、ストレッチ開始!』

 

「うわ、少し気弱な小動物系トレーナー……」

 

「パターン、一個な訳無いじゃん?」

 

「え?」

 

『おい、5秒遅刻だ。

何してるんだオマエ?俺様のトレーニングは何が起きても遅れるんじゃねーって言ってるだろ?

ッチ!使えねーヤツの担当に成っちまったな……

あ”あ”!?ボサッとしてねーで、さっさとストレッチ始めるぞおら!』

 

「うひぇ!?オラオラ俺様系トレーナーだ!!こういうの大好物!!」

 

「トレーナータイプはまだまだ増えるって噂だよ?

んで、受注生産限定で商品化して、自分の名前呼んでくれるサービスまで有るんだって」

 

「な、名前じゃなくて豚って呼んで欲しいブヒぃ……」

 

「あーあ、すっかりトリップしちゃってるじゃん……

まー、確かに声は良いよね。

聴いた感じ、全部同じ人が演じてるっぽい?

声の人は未発表だけど、声優さんじゃなくてウチの学園のトレーナーが演じてるって噂だよ?」

 

「えー、トレーナーが付いたら、この人の可能性もあるって事!?

俄然、トレーニング頑張んなきゃ!!」

3人がワイワイ話すが、その時既にジャーニーはそこに居なかった。

 

 

 

「焼きそば、焼きそばー、カップ焼きそばってなんか偶に無性に食べたくなるのなんでなんで?

焼いてないー、麺買った方が安いー、シンクがゴン言うー、けど食べたーい、不思議ー、不思議ー」

自作の適当な歌を歌いながら、カップ焼きそばのお湯をシンクに捨てる。

 

「トレーナーさん!!」

その時、背後から扉がすさまじい勢いで開け放たれた。

勢いに驚き、焼きそばの蓋が外れ、シンクにダイブする。

 

「焼きそばぁああああ!!!」

悲鳴を上げるトレーナーを他所に、ジャーニーがつかつかと詰め寄る。

 

「この音声、トレーナーさんですよね?」

スマフォの画面をトレーナーに見せる。

 

「は、はぁ?ちげーし、守秘義務有るから俺じゃねーし」

露骨に目を逸らし、口笛を吹いて見せる。

 

「半分、白状した様な物じゃないですか……

なんでこんな、事を……

いや、多分理事長が関与しているとして……

問題は、この声を聴いた結果大量のコバエが発生する可能性が……」

トレーナーを締め上げたまま、ジャーニーがぶつぶつと何かを話す。

 

「ジャーニー?ジャーニーさん?くび、クビ、微妙にしまって来てる!!

チョット苦しく成って来てる!!離して、放して!!」

 

 

 

 

 

同時刻

「トレーナー君!君は1/Nの揺らぎを知ってるかな?」

白衣を着たウマ娘が手の中のCDケースを弄ぶ。

 

「知らない」

もう一人の男が端的に答える。

胸にはトレーナーで有る事を示すバッチが輝いていた。

 

「だろうねぇ。まぁ、分かりやすく言えば()()()()()()()()()()()さ。

稀に声でこの喋り方をする人間も居る。

わざとか天然かは、知らないけどね。

だが、この音は上手く使えば心の中にスッと入って相手の心を掌握する事さえ出来てしまうのさ」

 

()()()()そうだろう」

 

「おいおい、この私が音声の調整と合成する程度の事が出来ない訳ないだろ?

この洗脳――もとい、応援音声を聞けば、皆ヤル気アップ、絶好調間違いナシ!

そして、私はデータの取り放題で皆が幸せになるという事だよ。

これは正に、学園自体を一歩進歩させる発明なんだよ。

いやー、素晴らしい物を学園はプレゼントしてくれたねぇ!」

ウマ娘がケースからCDを取り出し、男に渡す。

2人が話すその場所は、学園全体の放送室の中だった。

 

「良し、やってみよう」

 

「あ、待て、まだ私が耳栓をしていな――」

ウマ娘が止める間も無く、男が放送室の機械にCDをリピート設定で再生させた。

コレが後のトレセンに伝わる7大厄災事件の一つ『集団洗脳強制耐久模擬レース事変』の始まりであった。

 

余談だが、この事件後、トレーナーボイスは危険と判断されデータから削除。

個人でダビングしたボイスが学園の闇市場で高値で取引されたという噂があるが定かではない。




やっべ、パソコンのサポート切れる……
漫画喫茶で書くしか、無いか……?
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