ゾイドIf √ZERO 作:フィーネ可愛い
翌朝、といっても殆ど昼前。
カナタは宿を出てジェノザウラーを預けた整備場へと向かっていた。
その足取りは軽く、弾むようですらある。
旅をする中、各地方の名物に舌鼓を打つのはカナタの数少ない楽しみだ。
夕飯に提供されたルーシィのオススメ。
カレーは二種類。青菜を入れたサグカレーと芋と鶏肉を入れたマッサマンカレー。
二等辺三角形の大きなパン(後で聞いたがナンというらしい)を浸けたり掬ったりして食べるのだが、それ自体が単体で十分に旨かった。
ナンに練り込まれたバターの匂い、サックリモッチリとした独特の食感、噛む毎に出てくる小麦の仄かな甘味とバターにも負けない香り。
そして二種のカレーに共通したピリリとした強い辛味、その奥にある野菜の甘味。サグカレーに入った青菜特有の嫌ではない青臭みやマッサマンカレーの芋の崩れるような食感と鶏肉の旨味。
それらをどっしりとナンが受け止め互いを邪魔しない、どころか引き立てあう。
更にタレに漬け込まれこんがりと焼かれた鶏肉。タンドリーチキンというらしいそれも実に旨かった。
使っている香辛料の一部はカレーと同じはずなのに、配合を変えればここまで変わるのかと驚くほど。
パリパリとした歯触りの楽しい表面、なのにかぶりつくと中から肉汁が溢れてくる絶妙な焼き加減。
サービスとして出してくれた乳製品で作られたジュース。ラッシーという名前のそれは、とろみのある見た目からは意外な程さっぱりした飲み口で香辛料の辛味に痛む舌を優しい甘さで流してくれた。
用意された部屋は少し手狭だがキチンと整えられたベッドは清潔、夜襲警戒の必要性が殆どないことも相俟って久しぶりにぐっすりと睡眠を取ることが出来た。
そして朝食に出された穀物と複数の野菜を煮込んだスープもーーー、と。
そこまで思い返してやめる。考え事をしながら歩くのは危険だが、時間の流れが早く感じる。
もう目的地に着いていた。
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外周の防壁にほど近い場所にある、見上げるほどに大きな建造物。
墜落し廃棄されたホエールキングを買い取り、更に拡張工事を行って作られた大都市でも見ない規模のゾイド整備場とその隣に併設された小さな受付兼事務所。
ルーシィから紹介された整備場である。
受付を済ませ、事務員の案内を受けたカナタが中に入るとゾイドが所狭しと並び、その周りを作業員たちが忙しなく行き交っていた。
ざっと見ただけでもコマンドウルフにサーベルタイガー。レッドホーンにシールドライガーなんかもいる。
キャラバンに護衛として雇われた傭兵達のゾイドだろうとカナタは予想しながら通り過ぎていく。
広い整備場の一番奥。自らのゾイドの整備や調整に立ち会うべく訪れたゾイド乗りと各々に割り振られた作業に集中している筈の作業員の視線をチラチラと浴びながら佇む愛機が居た。
その足下に一人の男性が立っている。
筋骨隆々とした身体に無精髭。ツルリとキレイに剃られた頭部。
こんがりと黒く日焼けした肌は元々大きな体格をより大きく感じさせる。
ダン・クラウド。この【
「おはようございます、ダンさん。
「おうカナタ、おはようさん。弄ったこと無ぇゾイドなんでな。手探りだが、貴重な体験させて貰ったぜ。
で、不具合出てた左腕のクロー。アレな、たぶん治ったぞ」
「早っ!?」
ジェノザウラーを預けたのは昨日の夕方過ぎ。今が昼前なので、十二時間くらいしか経っていない。
流石に深夜に作業するわけもなく、ダンの腕が良かったとしても、いくらなんでも異常だった。
「ほとんど何もやってねぇよ。
夜通しで全体のチェックと火器類の整備だけやって今朝とりあえずで内部回路弄ってみたら直ぐに、だ。
人間で言えばツボを押した程度のことさ。ジェノザウラー自身の生命力が高かったんだ」
深夜に作業してた。
「夜通しって……スイマセン、無理をさせて」
「やりたくてやっただけだ。オレも他の連中も気になってロクに寝れやしねぇのよ。
ただ、モノが
何か違和感があったら教えてくれや、調整する」
言うだけ言って、数人掛かりとはいえ一晩で初見のゾイドの整備、ある程度の調整、修理を仕上げた凄腕メカニックは去っていった。
残されたカナタは放心しつつ愛機を見上げる。表情なんて分からないがなんとなく、上機嫌そうに見えた。
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「はぁ、はぁっ、はぁっ……!」
後頭部で纏めた長い金髪が乱れる。頭を振って直し、荒れた息を整える。
地元の人間でもなかなか通らない路地裏で、栄えあるガイロス帝国の名門バラッド家の長女にしてガイロス帝国軍少尉にして現在は
アインセルの所属する小隊が、辺境にあるガイロス帝国軍基地の視察に訪れたのは数日前のこと。
基地責任者であるルーデウス中佐に掛けられた物資資金横流しの嫌疑を調べるためだった。
嫌疑といっても根も葉もない噂程度。軽く調べて晴らすだけの、こう言っては何だが軽い仕事の筈だった。
ところが出てきたのは基地が丸ごと私物化されている実状とそこで行われる危険な実験、研究の数々。
その“証拠”となるモノを確保、保護した矢先に気付かれた。
時間稼ぎのために基地に残った部隊の仲間達は捕縛され、アインセルだけは“証拠”と共に乗機のヘルキャットで逃げ出すことに成功。
追跡を光学迷彩と“証拠”の協力によってなんとか切り抜け、アクアシティへと逃げ込んだのが昨日のこと。
街の警備隊に事情を説明し、通信施設を借りて本隊へ報告すべく詰所へと向かっていたのだが。
敵もさるもの、まさか自分たちが襲撃犯として手配されているとは思いもしなかった。
捕まればすぐにルーデウス一派へと引き渡される。アインセルたちは警備隊からも逃げることを余儀なくされた。
「ふぅー……ふぅ……」
「大丈夫……?」
未だ呼吸の整いきらないアインセルを心配して声が掛かった。
毛先に向かうにつれ赤みの入る不思議な白髪を肩甲骨ぐらいの長さまで伸ばした十代半ばの少女。
幼さを残しながらも整った顔つきは凪いだ表情と相俟って作り物のようですらある。
少女の名前はプレイア。
アインセルが保護した“証拠”であり、ヘルキャットと共に別の場所に隠した……というか隠れて貰っているもう一つの証拠の主だった。
「大丈夫大丈夫、これでも軍人ですから。
むしろプレイア、貴女のほうが大、丈……」
「? 何?」
「……夫、そうね…」
迫る警備隊から走って逃げること約二十分。
ようやく撒き今は身を潜め、小休憩をとっているところだ。
息を荒げているアインセルと多少息は上がっていてもケロリと涼しい顔をしているプレイア。
軍人として訓練を欠かしたことはないが、根本的な体力に差があるように感じられてアインセルは地味にショックだった。が、ショックごと焦る心を抑える。
表情が極端に薄いので分かりづらいが、プレイアも相当に不安なはずだ。
ーーー軍人が、気遣うべき人に気遣われてどうする!
パンパンと両の頬を叩き、気合いを入れ直す。そのまま目をつむり、思考を巡らせる。
最初に考えていた自警団詰所の通信施設を使った
指名手配犯の言うことなぞ信用されず、施設に忍びこむことも難しい。
なら別の通信施設を使えれば、と思うがそれも難しい。そもそもそんなものが有るのかどうかもわからない。
定期連絡が途絶えたことで別の部隊が確認に来てくれる可能性もあるが、自警団とルーデウス一派による捜索が迫っている。
先刻はうまく撒けたが土地勘のない状態でそれが何度も続けられるわけもない。
最早この街で救援を呼ぶことも潜伏することも出来ない。
ルーデウス一派の研究のひとつはほぼ完成している。重要なピースであるプレイアたちをアインセルが奪ったことで止まっているが、取り戻せばすぐにでも再開するはずだ。
そして、それを完成させるわけにはいかない。
なにせアレはーーーと、そこまで考えて。
「ーーー?」
プレイアが不思議そうに空を、正確にはある方向の空を見ていることに気付いた。東、つまりはアインセルたちが逃げ出してきた基地のある方角だ。
どうかしたのかと、そう問おうとして。
ヒュゥー、と。小さな音が聞こえた。
「プレイアッ!」
その音が聞こえた瞬間、正体を把握したアインセルがプレイアを押し倒す。そのまま覆い被さって耳を押さえた。
次瞬、閃光。一拍遅れて、ドッッッッッガァ!!!!!!という轟音が連続した。
「くっ、ぅ……!」
「きゃぁぁぁ!」
強い衝撃波に大地と周囲の建物が揺れ、震えた。
アインセルが歯を食い縛って堪え、プレイアが悲鳴をあげる。
閃光、轟音、衝撃。
その正体はーーーミサイル。
アクアシティは、今、ミサイルによる爆撃を受けている。