ゾイドIf √ZERO 作:フィーネ可愛い
背中のロングレンジパルスレーザーライフルを連射しアイアンコングPKの動きを牽制しながらジェノザウラーが脚部スラスターを吹かして突撃する。
アイアンコングPKはコクピットや関節といった重要な箇所や装甲の薄い箇所へのレーザーの直撃だけを避け、突撃を右に飛び退いて躱すとビームランチャーの照準を虐殺竜の背中へと合わせようとして、
「そぉ、らっ!」
ジェノザウラーが急制動、同時に反転。
『ぐっ……こ、のぉ!』
鋭い衝撃。アイアンコングPKの左肩の装甲の一部が砕け内部が露出する。負けじと右腕を虐殺竜目掛けて振り下ろすように殴り掛かる。が、ジェノザウラーは機敏に飛び退いて離脱していて、空振った。
ジェノザウラーはそのままレーザーライフルを照準する、が即座に止めて、バーニアを駆使し右にスライド。回避機動を行った。
一拍遅れてアイアンコングPKから放たれたレーザーがジェノザウラーの真横を通り過ぎていく。
それを横目にカナタはジェノザウラーを再び突撃させた。
『うおおおぉォ!!』
ルーデウス中佐が吼え、アイアンコングPKが四連装グレネードランチャーを全弾発射。迫る虐殺竜の周囲へグレネードがばら蒔かれ空中で爆発。同時に二連装パルスレーザーガンを連射。幾つものレーザーが空を裂き殺到する。
グレネードで逃げ道を塞ぎレーザーで怯ませたところにビームランチャーで痛打を与える、単純で堅実な戦法だがしかし、
「当たるか、そんなもん!」
カナタもジェノザウラーもその程度では怯むことも恐れることもしない。
ばら蒔かれたグレネードの爆風を置き去りにして躱し、レーザーの軌道を読んで間をすり抜けるように進み、十分な加速を伴った突進を見舞う。さらに仰け反るように体勢を崩したアイアンコングPKの胴を蹴り飛ばす。
詰めた距離が再び空く。ついでとばかりに額部のビームガンを三連射して追撃した。
『ぬぅ!?舐めるなぁっ』
アイアンコングPKはその堅牢な装甲でどうにか攻撃を耐え、持ち直すと地を蹴りブースターを全開にして猛然と接近。距離を一気に詰め、太く長い右腕を横に広げてレスラーさながらのラリアット。
しかしカナタはジェノザウラーを素早く、巧みに操り相手の左側に回り込んだ。通り過ぎていくアイアンコングPKのバックパックに
『ぐ、くぅ……』
度重なるダメージに踞るアイアンコングPK。各部で火花とスパークが散り、コクピットの中でルーデウス中佐が呻いた。
ヨロヨロとふらつきながらアイアンコングPKは立ち上がる。並のゾイドでは完全に動けなくなっているはずのダメージの蓄積があってなお立ち上がれるのはオーガノイドシステムの恩恵か。
アイアンコングPKがオーガノイドシステムのリミッターを解放してから既に約五分が経とうとしていた。
その間、一方的に痛め付けられればどんなに茹だった頭も冷える。ルーデウス中佐は己の失策を実感、理解していた。
ひとつ。部下二人を退かせたこと。ルーデウス中佐の一派にとってアイアンコングは貴重な戦力だ。失うのは避けたいが、だからといって消耗も無く弾薬も完全な状態の通常型まで退かせたのは行き過ぎだ。単純に戦力を遊ばせておくのは勿体無い。
ふたつ。最初の奇襲の際、地形の有利を捨てたこと。相手の上を取っていたのに何故、わざわざ同じ場所へと降りたのか。落下の勢いを加えた一撃をお見舞いするためだったが本当に地の利を捨てるに足る攻撃だったか。というか何故、距離が近くなれば使えなくなる戦術ミサイルを接近される前に使わなかったのか。
みっつ。というかすべての元凶、
オーガノイドシステムはゾイドコアを強制的に活性化させることでゾイドに莫大な強化をもたらす。しかしその代償にゾイドの攻撃性、凶暴性をも増大させてしまう。
それらが精神リンクを通じてゾイド乗りの、ルーデウス中佐の冷静な判断力や戦術性、技量を奪っていた。
先に挙げた失策もそうだし、射撃の際に完全に脚を止めてしまっているのもそう。射撃と格闘の切り替えなんてカナタとジェノザウラーのスムーズさに比べれば雑の一言に尽きる。
なにより最悪だったのはルーデウス中佐自身がそういった冷静さの低下をリミッター解放前でさえ、全く自覚出来ていなかったことだ。
後悔先に立たず。覆水盆に返らず。後の祭り。
いずれも気付いた時には遅かった、といったような意味だが正にそれ。オーガノイドシステムによる強化は非常に魅力的だったが、未完成なシステムに頼ることの危険性をもっと考慮すべきだったと自省する。
そして冷静さを取り戻した思考はアイアンコングPKが未だに動ける理由がオーガノイドシステムによる強化だけではないことを気付かせていた。
『な、ぜだ……』
「?」
『何故、
そう、虐殺竜は痛め付けるだけでとどめを、最後の一撃を行わない。
今も、立ち上がったばかりのアイアンコングPKは隙だらけで、ダメージの蓄積もあり万全の動きは望むべくも無い。ジェノザウラーの必殺武装たる荷電粒子砲を使うまでもなく追撃を続けることで完全に破壊することが出来るはずなのだ。
『何故だ、何故……甚振るのが趣味というわけではあるまい?』
「ああ、そんなことか。アンタを殺すつもりはないんだ。
街へのミサイル、アンタだけでやった訳じゃないんだろ?たぶんアイアンコングかな?他にも仲間がいる。ソイツら全員まとめて、ぶちのめして、警備隊に突き出してやる。だからさ。
雑な推測に基づく上から目線の降伏勧告。
見下された事にルーデウス中佐の思考が再度沸騰しかけるが、なんとか抑制した。
オーガノイドシステムの影響は深刻で気を抜けば直ぐに冷静さを持っていかれるが、リミッターを掛け直すことが今は出来ない。それをすればアイアンコングPKは確実に動けなくなるからだ。
既に詰みに近い状況だがルーデウス中佐は気合いを入れ直した。
『……舐めるなよ。勝てなくとも、この状況を切り抜けるくらいは出来る』
「やってみろよ、逃がさない」
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結局、ルーデウス中佐はゾイドを破壊され、遅れてやってきたアクアシティの警備隊によって引っ捕らえられた。
そして街にミサイルを撃ち込んだ下手人を倒し捕縛した英雄カナタ・キャヴァリエは街へと戻り、今。
「なーんーでーだーよーもぉぉぉぉぉお!!」
薄暗く、冷たく、窓に鉄格子の填められ、硬いベットしかない狭い牢に押し込められていた……。
なんで???
いや理由はわかってる。
捕縛されたルーデウス中佐の護送に同行し、聴取するから、と促されてコクピットを降りたのが運の尽き。そのまま取り押さえられあれよあれよと檻の中だ。
まぁ、数年前まで暴れまわって人心を乱してたジェノザウラー乗ってる何処の馬の骨とも知れない旅人のガキと、身分のしっかりした軍人ならそりゃ軍人を信用する。
わかってる。理解してる。納得はしてない。
「ルーデウスの野郎、ここ出たら絶対にぶっ飛ばす!…………ハァ」
「……
「へ?」
怒りを決意と共に叫ぶも今は牢の中、ため息を溢すと向かいの牢から声が聞こえてきた。特に気に留めていなかったが人がいる。収まっているのは同年代ぐらいの少女だった。
不思議な色合いの髪に人形のように整った顔立ち。身長はたぶん、カナタより少し低いぐらい。病院服みたいな貫頭衣を着ている。
可愛い子だな、と素直に思う。
少女は続けて
「アナタ、今ルーデウスって言った?」
「……言ったけど?」
「……何があったか聞かせて?」
カナタは町に来てからの事を搔い摘んで話す。最近街に来たこと。ゾイドのチェック中に攻撃に気付いたこと。捕まえにいってはめられて逆に捕まっていること。
信じてもらえないかも、と思うがそれでも構わなかった。どうせ他にやることもない。
「そっちは?もしかして似たような感じ?」
「……実は―――」
少女もまた話し出す。身の上話。初対面に話すには些か重い話だったが、お互いに気にしなかった。
そこら辺の機微が互いに分かってない、というのもある。
少女の身の上話が終わり、カナタは静かに目を閉じる。深呼吸。
目を開けて大切な事を教え、そして聞く。
「……今さらだけど、オレの名前はカナタ・キャヴァリエ。旅人だ。
キミの名前は?」
「……プレイア。名字は、覚えてない」
「ならさ、プレイア。―――仕返しに行こうぜ」
「……仕返し?」
「そ、仕返し」
ニヤリと笑ってカナタが履いているブーツの靴底、ソールの部分を弄る。一部をスライドさせて粘土に似たモノとコードに繋がれた小さなスイッチを取り出す。
口笛を吹きながら粘土に似たモノを牢の鍵穴などがある部分に張り付けコードの端子を射し込んだ。一歩二歩と離れてスイッチを押す。
ボスッ!という小さな爆発。鍵が壊れ、カナタを閉じ込めていた牢の扉が開く。そのままカナタが脱け出した。
「―――………え?」
呆然とする少女、改めプレイア。
「ちょっと待っててくれー」
カナタが告げてスタスタと歩いていく。一分ほどで戻ってきた。手には鍵の束を掴んでいる。
「ここに入れられる時に確認しといたんだ」
そう言って何本か差し込んで試し、四本目でアタリを引いた。
ガチャリと音がして鍵が開く。プレイアもまた、牢から脱け出した。
鉄格子を挟まずに二人は向かい合い、カナタが手を差し出した。
「さぁ仕返しに行こう」
言い方もやり方も乱暴だ。第一突然のことで、仕返しと言われてもどうすればいいのかもわからないし信用していいのかも判断できない。そこまでの関係がない。けれど。
少年の、カナタの目を見て。警備隊に捕まったとき、はぐれてしまったアインセルという優しい軍人さんを思い出した。
そこに同じものが、目の前の誰かを救おうとする優しさが宿っているように思えたから。
「……うん」
少女は少年の手を取った。
こうして、旅が始まる。
復讐ではない。生涯をかけるようなモノではない。
けれど悔恨を精算するための、ささやかな仕返しの旅が。
それがいつか、世界を巻き込むモノになるとも知らずに。