寄稿・企画もの   作:匕囗

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「初夜失敗アンソロジー(仮題)」に寄稿予定の物語のプロモーションです。
全三話構成の第一話……の、なんとなく雰囲気が伝わりそうなところを抜粋しています。
こちらのプロモーションは全年齢で公開していますが、本編はアダルトコンテンツになるので本編公開時はR18設定にて公開いたします。

サザントス(童貞)とオリ主(処女)が仲良く初夜に臨んで失敗するお話です。

※ルメールのストーリーに触れています。
※続きの方ではサザントスのストーリーにも触れています。


共に迎える夜明け -promotion-

 夕食を終えてそれぞれ自室に戻る頃には雨も風も激しさを増し、嵐と呼ぶのが相応しいほどの天気になっていた。周囲を木々に囲まれているこの家でこれなのだ、町の方はさらに激しい風雨に晒されているのだろう。

 明日は情報収集がてら、町の様子を見に行っても良いかも知れぬな。

 などと考えながら手紙を確認していたら、見覚えのある手紙が1通舞い落ちた。

「これは確か、ミトス宛の…」

 受け取ったあと軽い騒動に巻き込まれたこともあり、渡すのを失念してしまっていたようだ。

 急を要するものだとしたら事だ、渡してくるとしよう。

 そうと決めて廊下から窺ってみれば、彼女の部屋から微かに光が漏れているのが見えた。幸いにもまだ起きているらしい。自分宛の手紙――ロンドからの私信や教会からの定期報告の打診をしまい、灯りを手燭に移して私は部屋を出た。

 と言っても距離にして数歩の隣部屋、雨音に消されなければ私が向かう音なども聞こえていただろう。

「ミトス」

 嵐の音に消されぬよう少々大きく、且つ、もし寝ていたらそれを邪魔せぬ程度の声量で呼びかけながらノックを数回。すると仕切りの奥からブランケットを跳ね除けるような音が聞こえた。

 室内の明かりが揺れ、ぱたぱたと姿を見せたミトスは……寝間着だった。

 普段の彼女はシャツとショートパンツという活動的な格好をしていることもあり、ワンピースのようなゆったりとした寝間着は印象が違って見える。

 レスキア――ミトスが立ち上げた旅団に所属する職人が作ったものだと言うが、彼女の普段抑えられがちな女性らしさが出ていてとても良い。…胸元深くまで開いている所為で、目の遣り場に困るのが難点だが。今もショールを羽織っていなければ肩口が見えていただろう。職人に、何を思って彼女にこんな服を贈ったのか問い詰めたいところではある。

「サザントスさん? どうしました?」

「ああ…、すまぬな。寝ていたか」

「いいえ大丈夫です。雨音すごいなぁって丸くなってただけなので」

「フッ、そうか。では手短に済ませるとしよう。…これを」

「手紙? ……アランさんから?」

 このアランと言うのが今回の依頼主だ。“踊る色彩”の異名を持つ画家・ルメールの絵を扱う画商なのだが、2週間前、何者かに襲われ絵を奪われたのだと言う。

 フラットランドに咲く幻の花と共にミトスが描かれた、“咲き誇るレスキア”という絵画を。

 ルメールの作であることはもちろん、大陸にその名を轟かす旅団の代表が描かれた唯一の絵と言うことが話題を呼び、今でも展覧会への出品や地方権力者から観賞を望まれることがある絵だ、画商としてはどんな手を使ってでも取り戻したいのだろう。

 それをモデルとなった本人に依頼する胆力はさすが……と言いたいところだが、聞くところによるとルメールが旅団に依頼することを提案したらしい。

 『他のどこよりも信頼でき、確実だ』と。

 ルメールは描き上がった絵に執着など無く、ミトスは助けを求める者を見捨てることは無い。他の画家やモデルであれば怒りあるいは落胆を表すところ、2人はどちらも表さなかった。それどころか『君(あなた)が無事で良かった』と画商の生還に安堵を示したことで、画商は2人の優しさと己の不甲斐なさに顔面を汁塗れにしていた。

 私たちが活動拠点としているこの家を提供してきたのも、この画商だ。

 手紙を読みやすいよう手燭を持ち上げれば、ミトスの目が文字を追ってするすると動いていった。

「画商は何と?」

「2日後に様子を見に来るみたいです。…ルメールさんの情熱が他のところに赴かなければ」

「最後の一文が無ければ何も問題なく“そうか”と返せる内容だな」

「ルメールさんの情熱、どこで昂るのか私たちにはわからないですからね」

 ミトスが苦笑しながら手紙をしまった、その時だ。

 昼かと錯覚するほどの強い光が差し、直後に地を揺るがす轟音が響いた。

「ッ……近くに落ちたか」

 この雨ならば火がついたとて燃え広がることは無いと思うが……、様子を見に出た方が良いだろうか。

「…………。」

「ミトス? どうした、顔色が悪いな」

「あ……」

 ハッと顔を上げたミトスが曖昧に微笑む。大丈夫だと告げられるが、手紙を持つ手が細かく震えているのを見落としはしない。

「雷が苦手だったか」

「いえ…雷ではなく――」

 彼女の不安げな声を遮るように、頭上で再び雷が轟く。雨戸ごと窓を叩き割ろうとするかのように雨粒が弾け、家を攫おうと風が吹き荒ぶ。

 ここはヴィクターホロウの北東、ノースリーチへと向かう途中に聳える山脈の麓に広がる森の中だ。西のバーダント海から流れてきた雲が、山を越えられずに雨を降らすのはよくあることなのだが……それでもここまでの荒天は例年にない。

 この家は見た目こそやや古ぼけているが造りはしっかりしている。そう易々と壊れぬだろうが、窓が割れたりしていないか見回っておくのも良いかも知れぬ。家が無事とわかればミトスも少しは落ち着く筈だ。

「私は家の中を確かめて来る。そなたは寝て――」

「ッ、待って…!」

「!?」

 くんっ、と袖を引かれ振り向けば、ミトスがいつになく必死な顔で…

「わ、私も一緒に行きたい、です…」

 と告げてきた。

 

 右に手燭を持ち、左で彼女の手を取りながら廊下を進む。

 ダイニングキッチン、私とミトスそれぞれの部屋、物置と、決して広くはない家だ。ただ見回るだけなら10分程度で終えられる。しかし今は歩調を落としていることもあり、20分経ってようやく物置まで見回れた。

 幸いなことにどこも無事で、この風の強さだと言うのに隙間風すら無かった。腕の良い大工が建てたのだろうか。

 さて……それはひとまず置いておくとして、ミトスだ。彼女は雷が鳴る度、乗せる手に力を込めていた。苦手なのは雷ではないと言い掛けていたが、どう見ても雷を苦手としている者の反応だった。

 彼女の部屋前まで戻ってきて足を止めれば、ミトスも倣って立ち止まる。

「頑丈な家で助かったな」

「あ…、そうですね…。吹き込んでるところとか、壊れたところもなくて、良かったです」

 力のない笑みを浮かべて応えるミトス。無理をしているのは明らかだった。

「…お話、途中でしたね」

「無理に話さずとも良い」

「大丈夫です。それに、気になっているでしょう?」

 否定できず黙る私にミトスが微笑んだ。

「隠されるよりも、そうして正直な反応をしてくれた方が嬉しいです。……私が苦手なのは雷じゃないんです。嵐の音」

「嵐の音…?」

 彼女が頷く間にも、遠雷と風の音が届く。

「昔、私が小さかった頃…ひどい嵐が里を襲ったんです。当時まだ弟が生まれたばかりで、しかも熱を出してて、両親は弟に掛かりきりでした」

 “お姉ちゃんなら大丈夫よね”

 “こんな嵐すぐにどこかへ行ってしまうから大丈夫だ”

 そう言って彼女の両親は、彼女を放置してしまった。

「仕方のないことだって思ってるんですけどね。あの時両親が頑張ったから、弟の熱はすぐ下がったんでしょうし。…でも、どうしても……ひとりで嵐の音を聞くと、あの時の雨と風の音が……食べられてしまうんじゃないかってくらいの嵐の音が、蘇って…」

「ミトス…」

 物わかり良く、両親の邪魔をしないようにひとりで耐えていた幼い彼女は……今と同じく体を震わせていたのだろうか。

 ふと、その姿が過去の自分と重なった。

 拳を強く握り、溢れそうな想いを必死に閉ざして、たった独りで耐える。いつしか耐えることが普通となり、何も思わなくなる。

 ――それを麻痺と呼ぶ。

 ミトスはまだそこまでいっていないだろう、だが……もしあの時の自分と同じなら。そう思ったら手が勝手に伸びていた。

「わっ?」

 柔らかく華奢な体が腕の中に収まる。凍えるほどの寒さではないのに、すっかり冷えきっていた。

 手燭を部屋の入り口に置き、改めてしっかりと抱き締めた。

「……私がいる」

「!」

 それは、かつて私が欲し……諦めた言葉。

「ひとりではない。今のそなたの隣には私がいる」

「で、でもこんなことで煩わせるのは…」

「眠れぬほど怯えるのを“こんなこと”とは言わぬ」

 恋仲となってから間もなく1年。多少は改善されたが、未だに彼女は自分だけでどうにかしようとする癖がある。

 私にも似たところがあると指摘をしたのはミトスの方だ。だから互いに気を付けてゆこうと――相手を信じ、頼ろうと話したではないか。

「それを忘れたとは言わせぬぞ。…私はそなたに頼られると嬉しいのだ、だからもっと頼ってくれ」

「サザントスさん……」

 甘やかな空気が流れるままどちらともなく引き寄せ合い、唇が重なろうとしたその瞬間――

 バン! と音を立て、何かが雨戸にぶつかってきた。それはそのまま風に嬲られたかと思えば、バサリと落ちた。音からして木の枝だろうが……

「…………。」

 風が暴れれば枝が折れることもある。吹き方によっては窓にも飛んでこよう。自然の行いに腹を立てても無駄なのだ、それは理解している。

 だが邪魔をされると腹が立つのが人の性と言うもの。

「…ミトス。そなたが苦手なのは音だけか?」

「そうですね……一番苦手なのは音です。稲光もびっくりしますけど、音ほど苦手意識はありません」

「ならば、こうだな」

 仕切りの陰へと彼女を引き込み、その耳を両手で柔らかく塞ぐ。驚きの目で見上げてくる彼女に『聞こえぬだろう?』と口の動きだけで伝えてみれば、少女のような無垢さでくすくすと笑い、『そうですね』と同じく口の動きだけで返してきた。

 そんなやりとりがおかしく、互いに小さく笑い合う。そして――

「ん……」

「ぅん…、は……んん…」

「は……っ、ん…」

「ふあ、サザ…トスさ――、っ……!」

「んっ……ふ、ミトス……んん…」

 彼女とキスをするのはこれが初めてではない。想いを受け入れられた時にも交わし、その後も何度かしている。しかしいずれも親愛を示すような軽いもので、啄むことはあれど相手を求めるようなものではなかった。

 だが今回は違う。私以外に気を散らされては困る。

「っ…ミトス、口を開けろ」

「ふあ…?」

 私の言う通り僅かに口を開くミトス。雛鳥のようで微笑ましいが――与えるのは、餌ではない。

「んぅ…!?」

 大きな瞳が瞬き、頰が染まってゆくのを見届けた後……。目を閉じ、彼女に集中する。

 忍び込ませた舌をゆるりと絡めると、華奢な肩が小さく跳ねた。

「ぁ、ん……っ! んっ、ふ…、ぅん……」

 熱が出ているのかと思うほど口の中が熱い。しかも触れたところからその熱が移るのか、潤い満たされた口内を一撫でするだけでこちらの胸にも熱が灯る。

 ぬるぬると滑る舌で撫で合い、息を継いで深く繋ぎ直す度に、甘い痺れが背を駆けていく。ただキスを深めるだけでこんな快楽を得られようとは……

 しかし私が耽るわけにはゆかぬ。

「…ふあ…っ! はっ…サザントスさん、待――んん…っ」

 待つものか。今離せば、また外が荒れる毎にそなたの心が連れて行かれてしまう。そなたの心は私のものだと言うのに。

 外など気にならぬほど、そのような余裕を持てなくなるほど――

「私を感じていろ、ミトス…」

「んぅ…っ」

 ショールを押さえていた手が離れ、縋るように私のシャツを掴む。それだけのことにどうしようもなく思考が焼かれ、もっと深く与えたくなる。

 縋るその手を取り、指を絡めて繋ぎ直す。ミトスは続かぬ息に耐えるように…あるいは揺らぐ快楽に抗うように、繋ぐ手に力を込めた。

「ふあ、は……サザントスさん……」

 唇を離し、息ももどかしく再び重ね、そうして待ち焦がれたように舌を絡める度に、ささやかな水音が鼓膜を揺らす。外ではもっと激しい嵐が吹き荒れていると言うのに、私たちの耳に届くのは互いを求める音だけになっていた。

 どれだけの間そうしていたか――長く奪っていた息を許した時、ミトスがついに限界を迎えた。私に体を預け、艶を帯びた荒い息を繰り返す。

 寝間着から覗く細い肩も息に合わせて上下している。それがあまりに目の毒で、彼女を落ち着かせようと背を撫でる間、私は目を閉じていた。

「はぁ……ふあ……、サザントスさんは……あたま、ふらふらしてないです…?」

「私は問題ない。…大丈夫か、ミトス」

「だいじょうぶです……うれしかったので…」

「っ……」

 理性が揺らいでいる今、そのようなことを言われたら一瞬で瓦解しかねない。本来ならミトスにそう伝えるべきであったのに、恐れられたら…などと言う不安が一瞬過り、ただ抱き締めることしかできなかった。

「もし、まだ恐怖が消えぬようであれば添い寝でもしようかと思っていたが、その様子ならば必要なさそうだな」

「え」

 つい口から出た言葉にミトスが顔を上げた。一拍遅れて自分が何を言ったのかを理解し、即座に頭が冷えていく。1つ前、何をどんな理由で噤んだか忘れたのか、私は……!

「……すまぬ、忘れてくれ。今のは――」

「してくれないんですか? 添い寝…」

「!?」

「あなたと一緒に寝たらあったかいと思うんです。……あ、でもベッドが狭いか…。くっつけば大丈夫かな…?」

「待てミトス…! そなたわかっているのか、このような状況で添い寝などしたら……」

「あなたなら、いいですよ」

「――――…」

 その後私は、気付いたら彼女をベッドに押し倒していた。

 

 

(ここまで)

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