パラドックスはアーツか否か   作:霊藻

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暴動発生!


終わりの始まり

1086年、突如としてカズデルは燃え上がった。

いや、長年火種として燻っていたものが、遂に大火になったと言う方が正しいのか……

 

 

「──市長!」

 

「サマラ、即行で準備して。自警団と協議しにいくよ!」

 

「分かりました!」

 

 

 

切っ掛けは些細な事件だったらしいが、暴動の嵐と共に情報が錯綜してしまい、詳しいことは既に炎と瓦礫に埋もれてしまった。

ただ一つハッキリ分かっている事は、今やカズデルという国は、テレシス閣下が率いる軍事委員会を支持する派閥と、テレジア殿下が代表を努めるバベルを支持する派閥に別たれてしまったという事のみ。

Hoi4の能力でカズデルの情報を見てみれば、国民精神の欄に「政治的準内戦」と「政治的暴力」のデバフ二種が燦然と輝き、安定度も既に末期国家並みに急降下している。

 

たった今トランスポーターが急を要して届けてくれた情報では、カズデル内で大規模な暴動が発生し、バベルの事務所が暴徒に襲撃されたとのことだ。

 

サウスリムにも多くのカズデル出身サルカズが存在している。

最悪の場合、カズデルから始まった暴動がこっちにまで飛び火することも十分有り得た。

能力を使って警察予算を増やしてみたものの、それで大規模な暴動相手に対応できるという確証も無い。

 

サウスリムの人口はようやく2万人を越えたところであり、出来るかぎりの徴兵を行ったとしても用意できる兵士は500人程度(限定的徴兵:総人口の2.5%)である。

とはいえ何もしない訳にもいかないので、今のサウスリムの工業力と人材で賄える中で一番強力な部隊である「装甲車大隊」ユニットが一つだけ配置された、名目上は師団という名であるだけの1個大隊を編成する。

後は、ユニットの訓練終了が早いか、それとも決定的な破局が早いか…………これはもう運だろう。

 

まだ正確には内戦状態には陥っていない……が、しかし……

はっきり言ってしまうと私は、この時点で既に内戦勃発を既定事項として捉えている。

そして………現状のパワーバランスは軍事委員会側に傾いている。

 

 

「…………バベル向けの物資搬入を一時中断。あと、手紙持ってきて。テレシス閣下に親書を書く」

 

 

バベルと比較的関係が深かったらしいトランスポーターの人が、目を見開いて絶句している。

私は、それに罪悪感を感じながらも、歩みを止めることは無かった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ケルシー士爵!サウスリムから、物資搬入を一時中断するとの連絡が!安全上の問題だそうですが……」

 

「……わかった」

 

 

やはり、そうなったか。

とある事件を切っ掛けにして発生した大暴動。

暴徒達は多少の時間が経っても収まる気配を見せず、ただただ被害を拡大させていく。

もたらされる破壊、混乱の中で決して少なくない命が喪われていく中で、テレジア……そしてバベルは、カズデルから離れる事を決定する。

一つの都市に二つの派閥。

これ以上、バベルがカズデルの中に居ても、徒に被害を増やすだけだという、苦渋の決断。

 

カズデルという基盤から離れ、荒野にて放浪の身となるバベルが今、身を寄せられる唯一の木陰。

それは、協定を結んだサウスリムだけだ。そこだけだった。

しかしサウスリム……あの市長の意思は、我々バベルとは相反する方に傾いている。

 

 

「ケルシー……」

 

「サウスリムに向かう。政情が予断を許さないとはいえ、交渉程度なら……受け入れてくれるだろう」

 

 

私にとって、己の存在意義を疑うことは、既に良くある一つのことでしかない。

大地に芽吹いた命はどれも強く、それ故に私がいくら流れを変えようと足掻こうとも、それは往々にして徒労に終わる。

──我々の還る場所はどこにあるのだろうか?

気が滅入るような事が続けば、そのような思考が頭を過る。

しかし今は、少なくとも、偽りでも、僅かな時間でも良い。

暫しの間だけ、サウスリムを“帰る場所”としなければならない。

バベルの、その理想の為に。

 

 

 

 


 

 

 

 

「自警団の方の統制は問題ない。だが、移住してきた奴らの一部が浮き足だってる。まだ詳しいことが知られてないからその程度で済んでるが……この先、どうなるかは分からんぞ」

 

 

市庁舎の会議室にて、サウスリムのサルカズ自警団を取り纏める元傭兵アーセルさんが、難しい顔をしながら椅子の背もたれに体重を掛ける。

その横で、サウスリム直属のトランスポーター組織の代表が手を挙げる。

 

 

「物資の移送取り止めに関して、バベル側が説明を要求してきています」

 

「安全上の理由……で納得する人は流石に居ないよね、まぁ……」

 

 

もしテレシス派とテレジア派で内戦が勃発する場合、サウスリムは最低でも中立を維持するつもりだった。

と言うより、多少無理があろうと中立を維持しなければ、サウスリムは破滅するしかない。

 

主体的に動けるだけの軍事力が存在しない以上、両派閥にサウスリムが「破壊の危険を侵して奪うよりもそのままにしておいた方が良い相手」と思わせるしか、無事に切り抜けられる路は無いのだ。

故に、私はバベル側から距離を取るつもりだった。

 

サウスリムはバベルと協力協定を結んでおり、テレシス派にバベル側と見なされる可能性は高い。

そして、両派閥のパワーバランスと、バベルという組織の性質から鑑みた場合……もし怒らせるならバベル側の方が被害を少なく抑えられる。

そこに、良心の呵責が介在する余地は無い。

 

 

「カズデルから脱出してくる難民が殺到してくる可能性もあります。今のうちに対策の方を……」

 

「難民……それもあったね」

 

 

難民に暴動を持ち込まれたらある意味一貫の終わりである。

かといって難民をシャットアウトすれば、それが原因の暴動が起こるだけだろう。

 

 

「市長、どうぞ」

 

 

サマラが差し出すペットボトルを開け、ミネラルウォーターを喉に流し込む。そうすることで、思考が僅かでもクリアになることを祈る。

 

 

「……バベル側には、暴徒と化した難民に作業員が巻き込まれる危険性を説明して、もう一度安全上の理由ということで納得してもらって……自警団は街の入り口に検問を作って、難民が流入するペースをなるべく遅くするようお願いします」

 

 

しかし、状況は私が思考を整理するまで待ってはくれなかった。

 

 

「市長、バベルのケルシー士爵が面会を求めています。どうされますか……?」

 

 

 

 


 

 

 

 

サウスリム市内中心部、カズデルではまず見ることが叶わないようなビル群の中に立つ市庁舎。

その一角に存在する部屋に通されてから数分。

机と椅子のみが用意されている部屋で待っていると、小さく足音が聞こえてきて、次にドアが開く音が乾いた室内に響く。

 

 

「ケルシー先生……」

 

 

そこに現れたのは、私が目的とした交渉相手……サウスリムの市長である。

彼女の表情は固く、なんとか平静を取り繕おうとしているものの、苦虫を噛み潰したような雰囲気は否めない。

これは、“重要な交渉”だ。

気まずい空気の中で、私は率先して口を開く。

 

 

「市長…………いえ、まず今回の面会を受け入れて頂いたことに感謝します、サウスリム市長」

 

「……っ。このご時世の中、ご足労頂き恐縮です、ケルシー士爵」

 

 

市長が椅子に座り、私もそれに続く。

冷静な表情の仮面を張り付けながら市長の目を真っ直ぐ見ると、市長は僅かに目を反らした。

 

 

「先ずは、今起こっている物資の搬入停止という協定違反については、一旦置いておきます。市長もご存知の通り、現在カズデルでは暴動が発生しています。離れた二つの都市とはいえ、ここサウスリムはカズデルと情報的にも近く……暴動が飛び火する可能性は高いと言えます」

 

「それは……把握しています。続けて下さい」

 

「サウスリムはこれまで、街中で発生した暴徒集団に対処した経験はあるのでしょうか?警察警備の強化による対策だけでは、差し迫る暴徒の驚異に対抗できません。サウスリムが現状の警備状況を維持するだけであれば、暴動によって甚大な被害を被ることになるでしょう」

 

 

黙り込んだ市長は横に立っている助手、サマラにアイコンタクトを送る。

しかし、サマラは力なく首を横に振るだけだった。

それを見た市長は、視線をこちらに戻して続きを促す。

 

 

「我々バベルは、これまで暴徒と対峙した経験則から助言をしに参上した次第です」

 

 

「…………そうですね。確かに我々は大規模な暴徒集団と対峙した経験は足りないです。しかしサウスリムでも既に、十分な戦力を持った部隊を用意することは可能です。あまり人の流入があれば警備に差し障りが出ると考えられますし、バベルの皆さま方の方も手薄になるという危険もあります。なので、助言を頂けるとすれば、少数のアドバイザーの派遣で構いません」

 

 

嘘ではないが、本質的でもない。

その「部隊」自体は存在するのだろうが、実戦投入には準備不足だといった具合か。

そして、バベル側の安全を口実に、サウスリムにバベルの人員が流入するのを最小限に抑えようとしている意図も。

 

 

「確かに、市長の懸念も最もです。難民を受け入れて体制が飽和し、そこから暴動が発生してしまうのは、我々としても本位ではありません。よって、バベルからも難民対応支援を提案させて頂くことも可能です。これならば、都市の外で行われるので、警備への影響は最小限に抑えられるかと。その関連の話なのですが、我々も途中でここサウスリムを目指す“難民”を保護しています。難民保護に関しては、我々が一部費用を肩代わりすることもできます。受け入れて頂けますか?」

 

 

 

 

 







政治の時間だ✨
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