パラドックスはアーツか否か   作:霊藻

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一人称地の文みんながケルシー構文みたいになって分かりにくいので市長の地の文のテイスト変えてみました。




小康状態

 

 

結論から言うと、私はバベルが“難民”としてサウスリムに入ることを黙認しました。

ケルシー先生との問答で逃げ道を塞がれたことはあるけども……勿論それだけではないです。

そもそも、テレジア殿下は見た目からは想像できないくらい強いらしく、先の戦争の英雄と祭り上げられているとか。

ほとんど傭兵のサルカズ達にとって強さは正義。

その英雄の信奉者……つまりテレジア殿下のファンは、両派閥内はおろか無党派層にも広く存在しているということですね。

 

軍事委員会との対立は避けたいですが、全方位から薄ら敵意を買うのもそれはそれで不味い……

バベルがカズデルから出奔したからか、暴動は最初に比べて小康状態に落ち着いてきたっぽいですし、バベルに恩を売りつつテレシス閣下の顔を立てる算段もついたので、最終的に受け入れを決めました。

 

 

 

 

…………実は、理由はもう一つだけあるんです。

私が勝手に考える、極めて根拠に乏しく論理的ではない理由。

 

それは……“展開に殺される可能性”……ですね。

 

考えてもみて下さい。

バベルと言えば、心優しいテレジア殿下に、クール猫ケルシー先生を初めとして士気と理想の高いスタッフ達。

対して軍事委員会を見てみれば、悪魔に吸血鬼に魔女その他……魑魅魍魎の百鬼夜行。

 

さて、ここで質問。

この二つの勢力の内、「主人公側」はどっち?

もしくは、「主人公補正」が掛かりそうなのは?

 

笑い事じゃないんですよこれが。

だって既に転生だ能力だ~なんて実にフィクショナルな出来事がわんさか起きてるじゃあないですか。

では、その中で主人公補正だけ例外かと言われると、私に断言する自信はありませんね。

主人公補正に「ここで退場させとくか」とかいって雑に殺されるなんてたまったものじゃないですからね。

故に、どうしても頭の片隅に引っ掛かり続ける訳です。

 

そんな訳で、今ここはまたしてもカズデルの中心地。

テレシス閣下とテレジア殿下の仲を良い感じに取り成してなんとかできないか探る会談の為に来ています。

サマラは別室に待機させて、私一人、閣下の居る部屋へと長い廊下を歩いている訳ですが…………

 

 

「──おや、羽獣が迷い込んでいるようですが?」

 

 

突然耳に届く声。

背筋に冷たいものが走る感覚に、鳥肌が立つ。

ゆっくりと声のする方向に視線を向けると……

 

 

「た、大君殿……ご機嫌麗しゅう」

 

 

ブラッドブルードの大君。

鮮血王庭の支配者にして、すべての血裔の君主。

…………よりにもよって一番遭いたくない部類の魑魅魍魎じゃないですかーーー!!!

 

 

「ああ、思いだしました。以前に小うるさく囀っていた羽獣でしたね」

 

 

「アッ…その節はどうも……」

 

 

おっそろしい雰囲気を纏いつつも、表情は何も思っていないかのように此方に向かってくる。

えっ、なんで近付いて──

 

 

「多少自由を赦されたからと、あまり思い上がらないことです」

 

 

大君の冷たい掌が私の細首に伸び、片手のみで掴まれると同時に、その鋭利な親指だけで顔を無理矢理大君の方に向けられ…………要するに顎クイされました。

 

 

「ヒエッ…………」

 

 

クッソ顔だけはとんでもなく良いなこの暴君!!

気分は捕食寸前!

瞬間的に冷や汗が流れて、全身縮み上がってしまいますね。

 

大君が掌に多少力を込めたら私の首がポッキリ逝ってしまうところ、僅か数秒ながら永遠にも感じられてしまいそうな間。

 

 

「ふむ…………奇妙な、血?」

 

「何を、やっている」

 

 

大君が顔を近付けていよいよ喰われるといった所で…………大君の背後から新たな声が。

 

 

「テレシス……そうでした、貴方の飼っている羽獣でしたね」

 

 

大君の手が私の首から離れる。

テレシス閣下!!!!ナイスタイミング!!!!

 

 

「まぁ、せいぜい飼い主の不興を買わぬよう努めることです…………私も羽獣を飼ってみる、というのも偶には良いかもしれませんね…………」

 

 

大君は去り際にそんな感じの言葉を残して歩いていきましたが……将来のリーベリの誰か、御愁傷様です。

でも私は悪くないので。

 

 

 

 


 

 

 

…………そういう訳で、テレシス閣下に救出されて無事会談へと進むことができました。

閣下との会談自体は特にこれといった問題もなく、スムーズに進んだことに一先ず胸を撫で下ろして、具体的な内容を語っていくとします。

 

簡単に纏めると、サウスリムがバベ…………難民を受け入れる代わりに、カズデル向けの農産物や建材、鋼材輸出量を増加させることで話がつきました。

大抵のパラドゲーにとって人口増加はそのまま国力増加に繋がります。

なので、難民による急な人口増はある意味チャンスでもありました。

そういうことで、難民受け入れ用の街区を新たに造成するのと同時に、特化産業区……つまり農場や牧場、鉱山とそれに付随する加工工場を大幅拡張。

無職難民の受け皿を作ると同時に、街の産業力を向上。

増産された産物はカズデルに運ばれていくことになります。

 

バベル側は衣食住と職が保証され、テレシス側は出ていった筈の人材を使って豊富な物資が手に入る、サウスリムは双方に良い顔が出来ると三方良し。

 

…………まぁ、この時の私はサルカズ達の理屈を超える感情と、予想以上の纏まりの無さについて全くの無知だったのですが。

 

そういえば、それとなくテレジア殿下について話題に乗せてみたのですが、見た限り兄妹感情は未だ悪い訳では無さそうでしたね。

少なくとも、破局に至る程では無かったかと。

妹君に伝言でもしましょうかと尋ねたものの、そちらはやんわりと断られました。

 

兄妹に和解の余地があるのならば、内紛状態もさっさと終わらせて欲しいというのは率直な感想ですが…………お互い勢力の頭を張る身分。

トップが握手をしただけで下が無条件に着いてくるかというと、勿論そう言う訳もなく、果てしなく面倒な事ですね。

 

 

 


 

 

 

 

「サマラ~帰るよ~」

 

 

無事にテレシス閣下との会談を終えまして、別室に待機しているサマラを迎えに来ました。

無駄に重厚な扉を開きながら中を見ると、そこには座って何か本を読んでいるサマラと…………その隣に金髪オールバックの偉丈夫。

 

 

「市長!」

 

「む、来たか」

 

「…………マンフレッド将軍?」

 

 

そう、その方はサルカズ軍団若手のホープ、マンフレッド将軍でありました。

なぜその将軍がサマラと一緒に居るのか、なぜサルカズの戦史本で盛り上がってるのかは諸々気になる所ですが、とりあえず将軍が私に相談したいことがあるそうなので、話を聞くことにします。

 

 

 

 

 

「────武器を作って欲しい、ですと?」

 

「そうだ、頼めるか?」

 

 

マンフレッド将軍の相談、それは、武器の量産でした。

なんでもこの将軍、軍政改革に意欲を示しており、その為に質と量を両立した武器・兵器が必要なのだと。

 

 

「そうですね…………装甲車両ならともかく、正規軍並の武器を大量に揃えるのは難しいかもしれません」

 

 

流石に、この世界に地球の銃器を持ち込んでしまう危険性は把握しています。

トップ層にこそ通用しにくいものの、あれの真価は“そんじょそこらの農民兵を1日にして術師並みの戦力に仕立て上げてしまう”ことに尽きます。

白兵戦が主流を占める故に、強ユニットのぶつけ合いという中世的戦争に終始しているテラにおいて、これは劇薬になりましょう。

私としても、サウスリムの奥の手にしたいという考えもありますし。

 

となれば、ルネサンス~近世を舞台とするEU4の建造物「武器工場」に頼ることになりますが…………こちらは地球近世相当ですので、大体が古き良き木製+鉄の武器となってしまいます。

テラのような、最新素材の剣や弓などといったチグハグで器用な真似はできません。

 

源石兵器にしても、今のところ私の能力ではなす術無く…………いや、一個はあるのですが、それは今使用中なので…………将軍のお眼鏡に叶う武器を作れるかどうかは未知数なのです。

車両の方は、石油供給が少ないせいか、勝手に源石動力になってるっぽいんですけどね。

以上の旨を能力のことを隠しながら伝えると、多少残念そうにしながらも、とりあえず一部隊分作ってみて欲しいと要請を受けました。

 

 

 

そうして、私はようやく帰路に着くことができたと云う訳です。

どこもかしこも戦争の足音ばかり、まったく嫌になりますねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

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