パラドックスはアーツか否か   作:霊藻

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地獄の道も善意から

「……あのリーベリ」

 

「あぁ、サウスリムの市長だな」

 

「サウスリムか……聞いたことあるか?サウスリムじゃあ毎日食う物がたんまりあって、毎日上物のベッドで寝られるんだとよ。俺たちが戦場で泥にまみれてる間にもな」

 

「ああ?まぁ、確かに。最近はサウスリムで作ってる製品が沢山カズデルに入ってきてるし、こんなに有るんならそりゃあサウスリムにはもっと大量にあるんだろうな」

 

「奴らは俺達に入ってくる筈の利益を掠め取ってるんだ、でなきゃあれだけ繁栄できる筈がないんだ」

 

「おいおい、そいつは考えすぎじゃないのか?」

 

「絶対そうに違いない!前に噂になってただろ?食糧庫を吹っ飛ばした青いリーベリのこと。サウスリムの奴らは俺達が困窮してたのにつけこんで荒稼ぎしていったのさ!」

 

「わかった、わかった。話は後で聞くから、まず飯にしようぜ」

 

 

 


 

 

 

「あ、市長。そういえば……カズデルで建造していた輸送艦、ほぼ完成したそうです」

 

 

帰り道、助手のサマラから資料を手渡されながらそんな報告を受けました。

 

遂に、遂に…………!

 

これには私も内心大喜び。

貨物輸送という分野において、今も昔も効率で船舶輸送以上のものはありません。

意外かもしれませんが、投入コストと運べる物量の比において鉄道輸送もトラック輸送も、船舶には到底太刀打ちできないのです。

海の「う」の字も見えないテラ、諸外国との貿易は超長距離トラック輸送に頼るしかないと思っていましたが…………なんと、この世界には陸上艦とかいう便利存在が有るというじゃないですか!

地球じゃどう考えても地盤や建材の機械的強度のおかげで実現可能性の低いそれが、ここテラでは普通に存在できる!

運用コストにおいても、未だ中世的な政治・経済システムを残すテラ諸国家および企業でも十分運用できる点から、そこまででもないと考えられますし……これは何としても取得しなければ……とのことで、カズデルで1号船を建造していました。

 

クルビアから高給で専門チームを呼びまして、雑務作業員はカズデル在住サルカズ達を大々的に雇いました。

こうすることで、給与支払を受けたサルカズ達がカズデルでお金を使い、そうやってカズデル経済も回っていきます。

カズデルの経済が好転すれば現地購買力も向上し、サウスリムとの貿易も活性化しますので一石二鳥とも言えます。

それが完成したとあって、いよいよ貿易効率もうなぎ登りになりましょう。

 

 

「(まぁ……それだけじゃないんだけどね)」

 

 

もう一つの目的、それは…………陸上戦艦!

大口径火砲を搭載した地を走る要塞。

もしそれが実現できるとしたら、見せ札の抑止力としては十二分な効果が期待できますでしょう。

何よりロマンですし。

とはいえ、そんな重要そうな軍事技術をすんなり購入できる訳もありませんし、とりあえずは輸送艦や移動都市区画の建造を通して…………大型陸上車台とでも呼ぶべきなんでしょうかね?…………の建造ノウハウを得られないか試行錯誤していたのです。

 

……その努力は、直ぐに実ることになりましたが。

 

 

 

パラドゲーには大抵、諜報システムと呼ばれる機能群があります。

文字通り自国や他国で諜報活動を行うシステムでして、人員を送り込んで諜報網を構築したり、それを使って妨害工作や情報収集を行ったりできる機能です。

その中で、特に有用なとある機能が存在します。

それは……“青写真の奪取”。

 

青写真、つまり設計図なのですが、これの奪取ということは即ち、相手国の保有する技術を奪ってくるということですね。

特にHoI2では“相手国が持っており、尚且つ自国が研究していない技術”を奪って自国技術に組み込める機能なので、これを使わない手はありませんでした。

 

相手国はクルビアおよびヴィクトリア。

技術力でブイブイ言わせてる国に諜報員を送り込んで暫く、ようやく十分な諜報網が構築されてきたので奪取作戦を発動して少し…………見事に作戦は大成功を収め、能力で見れる研究ツリーには新しい枝が存在していました。

 

今回奪取した「テラ式陸上移動区画」

から派生する

「陸上駆逐艦船体」

「陸上巡洋艦船体」

「陸上戦艦船体」

「陸上空母船体」

「陸上輸送艦」

 

それに加えて源石エンジンの研究・改良を進めるツリーも加わりまして、いよいよ役立たないと思っていた海軍関係研究に日が当たるかも……となった訳です。

まぁ、艦艇は製造も維持もかなりコストが掛かるので、ようやく3万人を超える一都市でしかないサウスリムじゃ大艦隊どころか駆逐隊を持つのも今のところ厳しいのですがね。

 

 

「市長?」

 

「うーん、よし、サマラ!帰ったら記念にパーティーするよ!」

 

「ええっ、いきなりですね……」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「これは…………」

 

「あら………」

 

 

ここはサウスリム市庁舎の一角。

あのケルシーが、丸い目をしていた。

その隣に居るテレジアも驚いた表情を見せている。

 

 

「あっ、来~た~な~ケルにゃんこ~~~!!!」

 

 

それもそうだろう。

何故なら、市長に謝罪しに来たと思ったら、目の前でホームパーティーが開かれていたのだから。

 

……サウスリムは、バベルを難民として受け入れることを黙認した。

しかし、例え黙認したといっても、政治的に相当な綱渡りだっただろう事は容易に想像がつく。

その証拠に、市長はここ数日間で忙しく両都市を行き来していた。

サウスリムを寄る辺にしなければ、荒野を彷徨うことになっていただろうバベルにとっては致し方無い判断なのだが、それでもサウスリムや市長自身を危険に巻き込んだのは事実だった。

 

 

「市長……」

 

「まったくもー!いきなりビジネスモードで圧掛けられたら受け入れざるをえないですって!もう少し情勢を見てからとかでも……あ、コレですか?これは輸送艦完成記念パーティーです」

 

 

正式な完成式典は別に有るので身内だけのささやかなパーティーですけどね、と付け加えた市長は、唐突に表情を輝かせてケルシーへと詰め寄る。

 

 

「と・こ・ろ・で!今日は難民の件で謝罪しに来たという認識で良いんですよね!」

 

「あ……あぁ、そうだ。あの件は全て私の判断だ。従って、すべての責任は私にあると言えるだろう」

 

 

私に出来ることであれば是非とも協力しよう、そう言うケルシーに対して市長は、足下の箱からゴソゴソと何かを取り出した。

 

 

「じゃあ…………今日は1日、これでご奉仕してもらおうかな!!!」

 

 

その手に掲げられていたのは………フリフリのフリルとスカートが目立つ可愛らしい衣装…………メイド服だったのだ!

市長の顔が愉悦に歪む。

それは、常日頃澄まし顔の士爵の表情が恥辱にまみれる様を想像してか。

 

 

「ケルシー、ここは私も一緒に────」

 

 

あまりの惨たらしさに見かねたのか、横にいたテレジアがケルシーの肩に手を置くが、ケルシーは優しくそれを制した。

 

 

「いや、これは私の責任だ……任せてもらいたい」

 

「ケルシー……っ」

 

 

そして、テレジアはケルシーの覚悟を見届ける覚悟を決めたのだった。

 

 

 

 

 

────数分後、そこには床に項垂れる市長と、メイド姿で完璧にティーを注ぐケルシーの姿が!!

 

「この手の仕事には多少心得がある」

 

「バカな……私の……完敗だ…………」

 

 

 

 


 

 

 

 

市庁舎のベランダからサウスリムの街中を見れば、今現在の政治的混乱が嘘のように平和を謳歌している様が見て取れる。

ここで当たる夜風は、源石粉塵の欠片も感じない心地よいものだ。

 

そうして視線を下げれば、今自分が着用しているメイド服の裾が目に入る。

それと同時に、それを着用するよう要請してきた市長の顔も思い出された。

 

そういえば、あの市長は何時か言っていた。

「情勢に流されるだけではなく機先を制して大胆に動き、状況の主導権を握り続けるくらいの気概を持つべき」と。

あまりにも後先を考えない、ある意味爽快な姿に思わず笑みが零れる。

 

 

「…………そうだな。そういう手段が必要になるときもあるだろう」

 

 

バベルを取り巻く情勢は依然として悪い。

だからこそ、我々は状況に対して機先を制さなければならない。

 

全くもって合理的ではなく、当初の計画からも大幅に逸脱している。

だからこそ、状況の主導権を握る気概を持つべきなのだろう。

 

 

 

 

 

悠久の時を見届けた彼女の思考には、今まさに南の荒野にて発掘している“船”と……………

 

………「棺」に眠る彼の人物が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








パラドゲー=パラドックスインタラクティブのゲーム
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