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1097年1月22日
ウルサス・炎国中間無主地域
ロドスアイランド号艦内
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「────代表、チェルノボーグ近郊のウルサス軍師団規模部隊が南下を開始……今、協定ラインを越えました」
先日の事件……誰にとっても大きな爪痕となったチェルノボーグ事変が一段落つき、次の目的地へと移動する為に慌ただしく動く職員達であふれるロドス製薬の本社艦。
そこに、その青髪のリーベリは居た。
代表と呼ばれる彼女は、嘗ては“市長”と呼ばれていた。
ロドスにとっての協力者であるが、チェルノボーグでの当事者ではない……そんな彼女に一人の副官が歩み寄るとそっと耳打ちする。
代表も、話を聞きながらそっと空中に何らかのホログラム映像に似た何かを出した。
「うん、確認した。第一艦隊に準備させて。頃合いを見て敵先鋒梯団を横合いから殴り付けてもらうから。空軍は第一防衛ラインに敵歩兵が張り付き次第、敵後方梯団および兵站線を攻撃させる。前線空域内のすべての都市が目標だね」
ホログラム映像を素早く操作しながら、確認するかの様に“戦争の予定”を口ずさむ代表。
その表情に、焦りは微塵も感じられない。
「動いてるのは…半分くらいかな」
「はい。現在何らかの動きを見せているのは全ウルサス軍のうち約半数程。旧守派もしくは主戦派貴族に近い部隊のようです」
「グリファーブルクの皇帝陛下にこっちの意図は伝わった……けど、戦場で負けるつもりは無いって感じかな?」
ホログラムウィンドウに光る彼我戦力の表示は、2万人近いウルサス軍第一陣の戦力を赤色のアイコンとして映し出す。
その中には“特殊部隊”の表示も幾らか存在した。
「北の悪魔に対処できる程度には力を残して欲しいし……あんまり勝ち目当てに突っ込んで来てほしくはないけども……」
“2~3万人くらい死んだ辺りでさっさと降参してくれたら良いな”と聞く限り物騒なことを口走りながら、やがてもう一人の副官が連絡機の準備が終わった事を伝えてくる。
「よし、じゃあ以後の指揮は旗艦から取るよ」
そうして代表は、忙しそうにしているロドス職員に背を向けて、副官たちと共に歩き出す。
「例の“汚染”への対策は?」
「サーミの専門家から協力を取り付けています。研究船も待機させている為、汚染の実例があれば直ぐにでも研究を始められます」
「オーケー。そういえば、他国に何か動きは?」
「今のところ大きなものは何も。しかしリターニアに関しては、此方が不利となれば便乗して動くことは確実かと」
「んー、じゃあ核攻撃機を待機させとこう。もし手を出してきたら都市の一つでも蒸発させれば脅しにはなるでしょ」
──結局、頭中世国家相手には一発ぶん殴るしか効果ないよね──
歩きながらも副官とやり取りする代表。
やがて艦の出口にたどり着くかとしたところで、背後から走り寄る音と共に声が掛けられる。
「────市長さん!」
その声を聞いた代表は、唐突に立ち止まる。
声の主は、哀しいような、縋るような顔をしたコータスの少女。
そして代表は、ゆっくりと振り返りながらも、困ったような……ばつが悪いような笑みを浮かべた。
「あー……うん。ごめんね、アーミヤ」
代表のホログラムウィンドウには、数百隻の陸上戦闘艦と、万を超える空軍機、数十万人以上にも上る完全武装の歩兵達…………それら代表の兵力、恐るべき破壊力で大地に死を振り撒く戦争機械の存在が、単なる四角いユニットアイコンとして表示されていた。
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1080年代後半
カズデル、スカーモール
魔都カズデルの奥深く、サルカズ達の闇の一番深い部分を煮詰めたようなそこには、数多の仕事を求める傭兵や、売り飛ばされた哀れな奴隷が犇めいていた。
そのような退廃的な光景の中で、そのリーベリは一際目立つ存在だった。
カジュアルだが上質な服や、青みがかった髪は汚れ一つなく、どこか貴族的な気品すら漂わせている。
その端正な姿は、荒れ果てた地下の傭兵市場にはあまりに異質であり、その場のすべての視線を一瞬にして引き付けた。
「何だ何だ……?」
「おい、あれって──」
両脇を護衛のサルカズ傭兵に守られながら傭兵達の波を割って奥へと歩くその姿は、当然の如く傭兵達の衆目を集める。そのリーベリは、まるでどこかの要人のように、無造作に歩を進めながらも、どんな無礼な視線や言葉にも動じることはなかった。
スカーモールの薄暗い広場の一角。
粗雑に積まれたコンテナの間を何人もの傭兵たちが無遠慮に歩き回り、煙草や酒の匂いが充満していたが、そのリーベリの進路上が徐々に開いていく。
その先から、ここスカーモールを体現するかのような存在がゆっくりと現れる。
「まさか、本当に来るとはな。」
粗い含み笑いのような声を出しながら、大柄なサルカズの一人がリーベリの前に出た。
スカーモールのボス、スカーアイである。
彼の態度は決して他者には気取られないものの不信の色を帯びており、普段の彼が見せる余裕とはかけ離れている。スカーアイは、スカーモールの主として幾多の裏取引を取り仕切ってきたが、遠見による予知を含めて、こういったタイプの人物がこの場に降り立つことは、サルカズの王2人を除けば初めての経験だった。
「はじめまして、スカーアイさん。ようやくお会いできましたね」
目の前のリーベリ───サウスリム市長は丁寧に一礼し、穏やかな笑みを浮かべた。
その礼儀正しさと、上品な物腰が、まるでこの殺伐とした空間を無視しているかのように映る。
整った服を纏い、凛とした姿勢で立つ彼女の姿は、この場にいる誰よりも清潔で、洗練されていた。
その一方で、その無垢に見える笑顔の奥には、どこか計算高さを感じさせる冷静さが伺える。
「市長ほどの身分の者が、まさかこんな所まで足を運ぶとは……予知でもなきゃ考えたこともなかったぜ。とはいえ、あんたみたいな子供が『市長』とはな…」
スカーアイは仮面の下で口元に苦笑を浮かべつつも、どこか油断のならない様子で市長を見据えていた。
「子供……あー、まぁ子供といえば子供ですからねぇ…」
市長は軽く肩をすくめて、品定めするように向いているスカーアイに答える。
「まぁ、リスク承知で来てはいますよ。それでも…大きいビジネスを進めるなら一回直接お会いして話を進める方が、効果的な場合もあるかと思いまして」
「まぁ、それはありがてえ話だ」
スカーアイは粗雑な口調ながらも、目の前の少女がただの「市長」ではないことを瞬時に察していた。
無垢な少女のように見せかけているが、その背後には確固たる意図があり、その意図が自分の領域に影響を及ぼそうとしているのだ。
「此処じゃ、あんたみたいな綺麗な奴が立ってるのは場違いすぎてな。だがまぁ、あんたみたいな上客は大歓迎さ。合うかは分からねぇが、精一杯のおもてなしはさせてもらうぜ?」
見る人が見れば「恐ろしい」市長であっても、彼女が持ち込んでくるビジネスの話は常に魅力的であり……そして金払いも悪くなかった。
スカーアイは微かに口元を緩め、商談へと話を移す態勢に入った。
「ありがとうございます、スカーアイさん。じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
市長は愛嬌をたたえた表情で応えたが、その瞳にはどこか冷徹な光が宿っていた。
狭いながらも無骨なこの部屋は、彼がこの闇の世界で築き上げた力の象徴でもある。
傭兵たちの斡旋、武器の売買、地下でのあらゆる重要な判断がここで決定されてきた。
そして今日は、いつもとは少し違う「客」が、その椅子に座っている。
「新市街の造成と拡張か…なかなか大きく出たな」
スカーアイは粗雑な笑みを浮かべながら、目の前に座る市長を眺めた。
彼女は身なりを崩すこともなく、スカーモールという“汚れた”場にも動じない様子で、落ち着いて話を進めていた。
「人が集まれば街が出来て、新たな市場となって経済が活性化する。そしてその経済という木は実に良い実を付けます。とはいえ開拓には人手が要りますし、護衛や物資の調達も必要ですから」
市長は相変わらず穏やかな微笑を浮かべながら、当たり障りのない口調で言った。その柔らかい声と表情には、どこか計り知れない余裕が感じられる。
…………市長的には全部自分で完結できるものの、既存勢力には色々便宜を図っておいた方が物事がスムーズに進む事は、既にVictoria3で学習済みだというだけなのだが、それは一旦置いておく。
「ここでは奴隷も扱っていると聞きましたので、そちらも欲しいですねぇ」
「どんな奴を、どれくらいだ?」
「────誰でも、沢山。」
スカーアイは市長の言葉を聞きながら、心の奥で不快感にも似たざわめきを覚えていた。
この少女は確かに、開拓のための物資と人手を求めている。
彼にとって、傭兵としてもそこまで有能ではない者たちにまで仕事を回せるという点で、彼女は利益をもたらす好都合な客だ。
ただ、それだけなら今までの「上客」と変わらない。
しかし…何かが違う。
「まぁ、腕が立たねえ奴や、いくらでもいる使い捨ての連中まで、仕事を回せるのはありがたい話だ。あんたが頼んだ護衛や物資も、すぐに用意できるだろうよ」
スカーアイは一見余裕のあるように言ったが、内心は落ち着かない。
彼女の言葉ひとつひとつに、どこか底知れない「得体の知れなさ」を感じていた。
市長は一見してただの少女にしか見えない。
しかし、この目の前の「市長」が持つ何かは、彼の長年の経験で培った直感を掻き立て、警戒を促している。
それは、まるで目の前の少女が先民の皮を被った別の何かであるかのような錯覚に陥らせるほどの異質な感覚だった。
「それにしても、だいぶ早いペースで開拓を進めるつもりだな。金を増やすにも結構リスキーじゃねぇのか?」
スカーアイは様子を探るように尋ねた。
只でさえ市長のような一国一城の主であり、両殿下にも気に入られている立場の人間が、経済政策に躓いてドミノ倒しに破綻するリスクを抱えてまで急速な拡張を必要とする理由がいまいち分からない。
だが、彼女はその質問にも、まるで予定していたかのように微笑んで答えた。
「いえ、ただの備えです。世の中にはいろいろな脅威が潜んでいますから、用心するに越したことはありません。それに、昨今の情勢……サウスリム自身も無防備でいるわけにはいきませんから」
市長は柔らかく答えるが、その言葉の裏には、どこかぞっとする冷たいものがあった。
スカーアイはそれ以上質問を投げかけることを控えた。
彼はこの闇の世界で生き残るために、時には残酷な判断を下し、多くの人間を欺き、利用してきた。
しかし目の前の市長には、そんな彼の「習慣」が働かない。働かせてはいけない。
むしろ、自分がこの少女に触れることを避けたいという奇妙な感覚すら感じる。
「分かったよ。アンタの要望にはきっちり応えさせてもらうさ。それがビジネスってもんだ」
スカーアイは慎重に言葉を選びながら、再び粗雑な笑みを浮かべた。
────だが、その仮面の下の笑顔の、更に奥では、いつか見た「予知」の内容が頭をよぎる。
市長はその彼の反応をまるで見透かしているかのように、優雅に一礼をしながら微笑を浮かべた。
その計算された礼儀の裏に、今現在の彼女が何を考えているのかは、スカーアイの能力でも見通すことができなかった。
その瞬間、スカーアイはふと実感した。
目の前にいるのはただの「市長」という肩書きを持つ、簡単に害せるような脆弱なリーベリではなく「何か他のもの」…………人畜無害そうな顔の裏に潜む、恐ろしい正体を垣間見たかのような久しく覚えていなかった錯覚に、彼の背筋は冷たく凍りついた。
市長が去った後、スカーアイはゆっくりとソファーに深く背を預け、さきほどの商談を反芻するように目を閉じた。
その穏やかな笑顔に秘められていた底知れぬ威圧感は、今なお彼の頭の中にこびりついて離れない。
彼女の「市長」としての表の顔は、裏の一切を知らないただの少女に見えたかもしれないが、スカーアイにはそれが到底そうであるとは思えなかった。
やがて、部屋に入ってきた部下が控えめな声で尋ねた。
「…ボス、ひとつ聞いてもいいですか?」
「ああ、なんだ?」
部下はしばし迷いながらも、思い切って口を開いた。
「ボスはやけに、あの市長に協力的ですよね。普段のボスなら、相手が何者であろうと対等な取引をして、それでも無理があれば拒む。なのに、なんであの市長だけにはあそこまで気を遣うんです?」
スカーアイは少し黙った後、微かに笑いながら視線を他へ向けた。
「…………お前もそう思うか?そりゃ、確かに妙に協力的に見えるだろうな。」
部下は首を傾げて続けた。
「正直なところ、俺にはあの市長がそこまでの“大物”には見えませんよ。確かに内政の腕はあるんでしょうが、ただの『若い開拓者』じゃないですか。傭兵や物資を買ってくれるって話ですし、そりゃ悪い話じゃないですけど…なぜあそこまで?」
スカーアイはその言葉を聞くと、再び口を閉じ、静かに目を細めた。
彼の頭の中には以前、予知能力がふと見せたある未来の「光景」が鮮明に蘇っていた。
炎、瓦礫、はっきりとした「破滅」の警告…………
「あの市長はただの“客”なんかじゃねぇ。下手に敵対すれば、俺たちも巻き込まれて消し炭になるだろうさ」
部下は困惑した表情で聞き返す。
「消し炭、ですか?そこまで…?」
スカーアイは仮面越しに冷たい目で部下を見据え、部下は息を呑んだ。
スカーアイがその未来を信じるほどの何かを感じているならば、それがどれだけ異常な未来なのかが察せられる。
「敵対、いや、奴の味方以外はみんな破滅するしかねぇ。俺たちはできる限り市長に協力する。それがこのスカーモールが生き残るための道だ」
スカーアイは最後にそう言うと、再び冷ややかな笑みを浮かべた。
あの可愛らしい笑顔の裏に隠された「何か」。
それを無視することができるほど、彼は無謀ではなかった。
「────それに、上手くやれば市長が起こす“大戦争”のお零れに預かれるかもしれねぇからな」
ドクターというプレイヤーにとっての戦争の勝ち方が「オペレーターの有利不利や能力を考えて的確に配置・運用する」のだとすれば、
市長……パラドゲープレイヤーにおける戦争の勝ち方は「コスト回復速度を爆速にする、編成・配置可能人数を何倍にする、再配置時間やコストをほぼ無にする、敵出現ポイントを自体を減らす」という考え方で例えることができます。