パラドックスはアーツか否か   作:霊藻

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テラ・ジャーニー・ダイアリーズ

 

1090年

レム・ビリトン国境付近 ティモール新市街

 

荒々しい砂と岩、そして源石クラスターが無限に続く、タルガンギルス主鉱脈の外れの荒野。

その中に、ぽつりと現れた街があった。

その名は「ティモール」……採算の取れない小鉱脈以外は何も無かった乾燥地帯だが、突如としてサウスリムからの移民と市街造成が始まり、今では遠くからでもそれとわかるほどの存在感を持つようになっていた。

 

周囲の景色は無骨で、厳しい環境が街を取り巻いている。

街の外に一歩足を踏み出せば、視界は一面の砂と岩、風が巻き上げる砂粒が肌を刺す。

時折、乾ききった風が吹き抜け、街の建物や装飾を薄く撫でていっていくようだった。

砂と風が舞い焼けつくような日差しが容赦なく照りつけるこの荒野は、普通ならば誰もが敬遠する厳しい土地だ。

しかし、その地に新たに生まれたティモールには既にしっかりとしたインフラが整えられており、植民や交易等で数百人を超える人が集まって来て尚今も人口は増え続けている。

 

街の中心部では、サルカズやその他の種族が集まり、共に市場を形成している。大小の店が立ち並び、数々の産物が並べられている。

露店には見たことのない異文化の装飾品も並び、それらがサルカズたちの“平和な世ならばあり得たかもしれない文化”を垣間見せていた。

旅人や交易商、近隣を航行する艦船の乗組員もここを訪れ、荒野に必要な物資を買い求める光景が日常となっている。

建設中の区域では、各々の種族の特性が大いに活かされていた。

建材を運ぶ者、足場を組む者、細かな作業をこなす者…………彼らはそれぞれの持つ特性を活かしながら互いに協力し合い、この荒野に街を築き上げている。

 

 

 

 

 

ここでは、小さいながらもテレジアの理想は確かに実現していた。

 

 

 

 

 

そのティモールの街が見渡せる広場に、三人組が佇んでいた。

偶々街を視察していた関係で、案内役を引き受けた青髪のリーベリ…………通称「市長」は少し先に立ち、目の前の荒野と街の光景を一望できるその場で三人の様子を見守っている。

風が砂と共に吹き抜け、遠くで市場のざわめきが微かに聞こえる中、彼らは思い思いに広がる風景に目を向けていた。

 

 

「まさか……こんな場所に、こんなに大きな街が出来るなんて」

 

 

そう言葉を溢すコータスの女性……サベージの声色には、純粋な驚きと感動が滲んでいた。

彼女にとって、ここは今まで打ち捨てられていたような未開の区画だった。

故に、そのような所に突如として街が出来上がるのは驚くべきことに感じられたのだろう。

 

 

「……この街なら、もしかすると……」

 

 

そう呟いたのは、黒いフードの人物…………皆に“ドクター”と呼ばれる人だった。

長い眠りから目覚めたドクターからして、この世界はかつての姿とはすっかり変わっていた。

その変化を直に感じるため、旅をしながらあちこちを訪ね歩いている。

黒いフードを深く被ったその姿は、何かを隠そうとしているようにも見えるが、目の奥にはどこか遠い時代を見つめるような静かな光が宿っている。

 

 

「わぁ…………」

 

 

その隣で広がる街の風景を目を輝かせながら見つめているのは、小柄なコータスの少女…………アーミヤだ。

その耳は風にそよぎ、彼女の幼さと愛らしさを強調していた。

つい最近、事故に遭った彼女は家族を失い、ただ一人荒野に取り残された。

偶然にもドクターに助けられたアーミヤは、それ以来ドクターに連れられて旅をしている。

ドクターを少しでも支えようと、彼女なりに一生懸命その足で歩き続けてきた。

 

 

「ここなら久しぶりにゆっくり休めそうだね!」

 

 

そう言ってサベージは微笑んだ。

彼女のその明るく朗らかな性格からは、年齢や立場を超えた親しみやすさが感じられる。

サベージはあくまでもレム・ビリトンの一公民であり、ドクターやアーミヤと関係があった訳ではないが、旅の途中で二人に出会い、今では旅仲間として家族のように一緒に行動している。

 

 

ドクターは案内役である市長に、街の地理を教わりつつ、ふと気がかりだったことを尋ねた。

 

 

「市長……この街に、鉱石病の治療施設はあるかな?」

 

 

ドクターがそう尋ねた瞬間、隣を歩いていたアーミヤは、一瞬だけ眉を寄せ、少し顔を伏せた。

その様子を見たサベージが優しく肩に手を置き、彼女を気遣う。

アーミヤは例の事故からか、鉱石病に罹患していた。

市長は、ドクターの問いに少し考え込むような表情を浮かべ、やがてゆっくりと口を開いた。

 

 

「鉱石病、ですか。一応、ティモールにも診療所はありますが…………鉱石病に対応できる医者が居ないんですよね……」

 

 

市長は手に持っていた街の地図を広げ、指で街の診療所の位置を示す。

その指先が示す場所には、街の中心部から少し離れたところにある小さな医療施設が描かれていた。

 

 

「ここが診療所ですが、まだ医療人材の充足までは手が回っていないんです。そもそも、我々には鉱石病対応のノウハウがありません。ですので、現段階で鉱石病関連のアレコレはバベルに頼らざるをえないのが現状です」

 

 

そう言うと、市長は肩をすくめるような仕草をし、少しばかりの無力感を滲ませた表情でドクターを見た。

 

 

「外部の専門機関に丸投げ、という形ですね。情けないことですが。専門に受け入れられる準備がないので、街で対応できることはごく限られた処置しか…………街がさらに成長していけば、医療面も充実させていく予定ではあるのですが、ね」

 

 

市長の口ぶりには申し訳なさと現実的な限界が入り交じっていた。

ティモールやサウスリムが札束で各所を殴ろうとも、バベルの人材が揃うにはまだまだ時間がかかる。

市長もその課題は痛感しているのだろうが、現状の範囲内で最善を尽くすしかないようだった。

ドクターは彼女の説明を聞きながら、少しだけ険しい表情を浮かべたが、すぐに静かに頷いた。

ドクターの様子に、市長は少し考え込んだ後、慎重な口調で話を続ける。

 

 

「一応、サウスリムの病院に搬送すれば、バベルと提携している所で治療はできますが…………」

 

 

そう言うと、市長はアーミヤの顔をそっと見た。その目には、彼女の体調を案じる静かな思いやりが感じられた。

しかし、アーミヤは微かに目を伏せ、無言のまま視線を落としていた。

何かを考えているようで、その小さな手はドクターの服の裾をそっと掴んでいた。

彼女の指が少しだけ緊張したように震えており、まるで“ドクターのそばから離れたくない”と、静かに伝えているようだった。

 

 

「…………どうやら、その子はそれを望んでいない様子ですし」

 

 

市長は軽く微笑み、もうそれ以上話を広げなかった。

アーミヤはそっとドクターの服の裾を掴んだまま隣に寄り添い、まるで守られるように小さく後ろに身を隠していた。

彼女が求めたのは、ただ安らぎと共にいられる瞬間だったのだろう。

 

 

「ごめんなさい、ドクター……」

 

 

彼女はその小さな体で、自分の病を周囲の負担にさせまいと、懸命に耐えようとしている。

その姿にドクターは静かに頷き、サベージも彼女の肩を軽く叩きながら微笑んだ。

 

 

「ありがとう、市長。街の案内と説明、助かったよ」

 

 

ドクターは最後に礼を言い、市長に軽く頭を下げた。

市長もまた、柔らかな笑顔を浮かべて三人を見送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




【ある日の某所】

テレジア「私としては、このペースで教育施設を───」
市長「現状の人口増加からすれば、食料の安定供給に──」

(政治・経済的なアレコレの話し合い)

市長「──ふぅ、まぁ私はサルカズではありませんし……やっぱり市井の意見を聞くべきでしょうね」
テレジア「そうね、私達だけでは視点が偏るわ」
市長「…………」
テレジア「…………」
市長「………………。えーと、そこの方、少し意見を聞いてみたいんですけど、良いですか?」

W「──!!」

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