基地内は静かな緊張感に包まれていた。
砂塵が微かに舞う荒野の空気の中、仮設の前線基地にはサウスリムが有する正規軍の装甲車両やトラックが整然と並び、兵士たちは慌ただしく各々の作業を進めていた。
手際よく運び込まれる弾薬の箱、音を立てながら稼働する軍用機材、遠くで定期的に響くエンジン音。すべてがある種のリズムを持ち、この基地を機能させている。
一人歩くフェリーンの女性……ケルシーは、その様子を横目で確認しながら司令部官舎に向けて足を進めていた。
周囲を行き交う兵士たちは、ある種場違いな格好の彼女に視線を送るものの、誰一人として話しかけることはない。
ここの兵士たちが使う火器や兵装、臨戦態勢の装甲車両は、テラではあまり見られない特異なものだ。
白兵戦武器や弓矢、そして源石術を中心とした戦闘が主流のテラにおいて、サウスリムの兵器は異質そのもの。
彼らが扱う銃火器はラテラーノの「守護銃」や、一般的な「銃」に形こそ似ているが、明らかに異なる思想のもとに作られている。
遠くでトラックのエンジン音が唸りを上げ、緑色の車列が奇妙な気配の渦巻く漁村へ向けて出発していく。
整然としたその動きは一見すると頼もしくも思えるが、彼らが直面する敵に対しては、それでも準備が十分ではない可能性が高いことは否めない。
理想的な対処法を提案したところで、状況を根本的に変えることはできないかもしれない。
今の彼女の役目は、可能な限り最悪の事態を防ぐための手段を模索することに限られていた。
そうして歩いていると、司令部官舎が見えてくる。
仮設のテントや施設に囲まれた中で唯一、まともな造りをしている建物だ。
彼女は正面入口に向かいながら、ちらりと周囲を見渡す。
兵士たちはその目の色に若干の緊張を抱えながらも、秩序を保って作業を進めていた。
多少の混乱はあるが、サウスリムの将兵は皆、効率よく動いているように見える。
建物内に足を踏み入れると、ひんやりとした空気がケルシーの頬を撫でる。
荒野の乾いた風とは一線を画したこの場所は、緊張感と秩序が漂う空間だった。
直線的に並べられた机や椅子、壁にかけられた戦略図、行き交う士官たちの足音が控えめながらも忙しさを物語っている。
ケルシーは迷うことなく奥へと進んだ。
周囲の兵士や将校たちは視線を送るものの、誰も彼女を止めることはない。
廊下を進み、彼女はある一つの扉の前で立ち止まる。
木製の重厚な扉の向こうからは、低く抑えられた男性たちの声が聞こえてきた。
何人もの人物が交錯する情報を交わし、意見を出し合っている声だ。
ケルシーは軽く息を整え、数回ノックしてから、その扉を押し開けた。
部屋の中では、数人の幕僚たちが机を囲み、戦略図を指差しながら論を交わしていた。
彼らの声が扉の開放とともに一瞬止まり、その視線が一斉にケルシーへ向けられる。
しかし彼女はその視線を躱し、部屋の奥に立つ一人の男の方へと歩み寄った。
「お会いできて光栄です、山下将軍」
ケルシーは短い言葉とともに右手を差し出した。
その動きは無駄がなく、実に洗練されたものだった。
机の奥に立っていた総司令官……山下奉文は彼女の姿を品定めするように見た。
その鋭い目つきと、深く刻まれた皺が、彼の豊富な経験と指揮官としての威厳を示している。
彼はややゆっくりとした動作で手を挙げ、ケルシーの手を力強く握り返した。
「お越しいただき感謝します、ケルシー女史」
山下将軍の声は低く落ち着いていたが、その中に確かな信頼が込められていた。
「市長からは、貴殿の助言を最優先で受け入れ、全面的に協力せよと命じられています」
ケルシーは微かに頷いた。
その目には何の動揺もなく、内心では思った以上に協力的な姿勢に少しばかりの驚きを感じている。
「感謝します。私の目的は、海の脅威に対する助言を行い、貴国の対処能力を高めること。それが結果的にサウスリム…ひいてはテラそのものの被害を最小限に抑えることにもつながるでしょう………つきましては、状況の詳細を伺いたいのですが……」
将軍はうなずき、机の端に置かれた地図を指さした。
指先は、サウスリムが最近になって発見した海の、その海岸線に作られた漁村を示している。
「まず最初に……現在、敵性生物に占領されている村の放棄が、正式に決定されました」
その言葉にケルシーの表情は変わらないが、その背後にある緊張感が増す。
山下将軍は言葉を続けた。
「敵性生物の襲撃は予想を遥かに上回る規模で、現在我が軍が村の全周を包囲していますが、奪還はもはや不可能と判断。よって、機甲師団と航空隊が到着次第、砲爆撃によって焦土作戦を実行します。しかし……問題が一つ」
将軍は地図に描かれた小さなマークを指した。
それは漁村の少し外れに位置する建物だった。
「この“教会”に多くの村人が避難し、籠城しているとの情報が。総攻撃開始前に、彼らを救出する必要があります」
ケルシーは地図に目を落としながら、静かに問いかけた。
「教会について、何か詳細な情報はありますか?」
山下将軍は眉を寄せ、特に情報がないのか首を振る。
「最近建てられたものだと聞いています。避難した村人の話では、漁村にやって来た流れ者の宗教家が利用していたと。村人達は胡散臭いと感じていたらしく、あまり関心を持っていなかったようで……詳しい背景はわかりません」
ケルシーはその答えを聞き、内心で深海教会の可能性を疑った。
恐魚やシーボーンを呼び寄せる信仰者たちの影が脳裏に浮かぶ。
しかし、彼女は未確定なその考えを口にすることはなかった。
あくまで冷静に、理性的に次の言葉を紡ぐ。
「村人を救出する作戦について、我々……バベルのチームに任せていただきたい」
山下将軍はしばらく彼女を見て何かを考えていたが、やがて静かにうなずいた。
「分かりました。救出作戦はそちらに一任します。しかし、我々も可能な限りの支援を提供しましょう」
ケルシーは一礼し、地図を見つめた。
焦土作戦が始まるまでの時間は限られている。
迅速かつ的確な判断が求められる状況だ。
彼女は“敵”の情報を将軍達に共有しながらも、思考を一時たりとも止めず、既に次の行動を思考の中で組み立てていた。
暗雲が荒野を薄暗く染める中、漁村の外れに配置された12門の155mm榴弾砲が戦場の沈黙を破った。
士官の「発射」の号令と共に鳴る最初の砲声は、地平線を震わせる雷鳴のように響く。
弾道計算に基づいて正確に放たれた155mm榴弾は空を引き裂き、不気味に発光する根を広げた村の入り口付近へと降り注いだ。
瞬間、閃光と共に爆風が巻き起こり、地面を抉り取った破片が周囲に飛散。
TNTを主成分とする炸薬の威力は凄まじく、爆発地点から数十メートル以内のものを強力な爆風とフラグメンテーション化した弾殻によって凪払う。
砲兵たちは、息を合わせ次々と装填作業と発砲を繰り返す。
発射速度は一分間にせいぜい3~4発というペースだが、それが12門集まれば容易く分間数十発の単位に達する。
連続する爆発が漁村の入り口を覆い尽くした。
砲撃の衝撃で空気が震え、荒野に響く轟音は、まるでその場自体が歪むかのように感じられる。
彼方に見える漁村の外では、援護の砲火を目印に突入準備を整えるケルシーとオペレーター達の姿があった。
彼女たちは、軍による強大な火力の援護を背に、村人の救出作戦へと進もうとしている。
攻撃によって恐魚の注意が逸れた隙を縫い、教会へと向かうつもりだった。
「……まるで戦争だな」
漁村の入り口が濃い灰色の煙と舞い上がる土埃で覆われる姿を一瞥し、バベルのオペレーターチームの古参であるAceが呟く。
榴弾の炸薬が解放する爆風が広がる度、衝撃波と破片が無差別に周囲を薙ぎ払い何もかもを粉々にした。
家屋が裂け、石畳が崩れ、狂気に満ちた鳴き声を上げる異形達は、砲火の嵐の中で次々と消え失せる。
だが恐魚も千差万別か、それでも尚耐えている異形も存在する。
「弾幕をさらに前方にシフト、村の入り口を完全に破壊する」
指揮官の命令に応じ、砲兵たちは砲門の角度を調整し、射撃範囲を前方に広げた。
榴弾砲が一斉に火を噴き、噴火のような風景が広がる。
発射音、装填音、隊員たちの指示が入り混じり、砲兵隊はまさしく一つの巨大な戦争機械のように動いていた。
砲撃は予定通り数分間続けられた。
砲兵たちは疲れを見せることなく手を動かし続け、時間の限界ぎりぎりまで砲弾を撃ち続けた。
そして最後の砲声が響き渡り、爆発の余韻が空気を震わせる中、砲撃は一時停止した。
村の入り口は完全に瓦礫の山と化し、恐魚の群れは大幅に崩れているように見えた。
巨大なクレーターと粉々に砕け散った建物の残骸が広がり、その間を黒煙がうねるように漂っている。
恐魚の群れは大きな打撃を受けたようだが、完全に消え去ったわけではない。
爆風で吹き飛ばされた数体の恐魚が、瓦礫の隙間からゆっくりと体を起こし始めているのが見えた。
「総員、これより突入を開始する」
ケルシーは冷静に言い放ち、突入準備を終えたオペレーターたちに目を向けた。
恐魚の狂気の群れを掻い潜り、教会にたどり着くのは容易ではない。
だが、援護射撃で生まれた一瞬の隙こそ、彼女たちの唯一の突破口だった。
榴弾砲は現実のM114相当品です。
あと山下将軍ですが、これは日本人贔屓とかではなくhoi4だと山下将軍の初期能力値かなり優秀なんですよね。
能力測定で言うと、他の将軍が大抵1、2項目は標準が混じっているのに、山下将軍は全部卓越か優秀になってる感じです。
市長に追加する能力
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MOD
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コンソールコマンド