パラドックスはアーツか否か   作:霊藻

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サルカズの魂

 

 

結論から言えば、市長襲撃事件の首謀者はヴィクトリア貴族で、実行犯はサルカズ傭兵である。

 

サウスリムやバベルの視線が全て“海”の脅威への対処に投入され、尚且つサウスリム都市圏の奥の奥で発生した事態である為に、カズデルの軍事委員会も事前の関与はできなかった。

 

 

そして、ヴィクトリアの貴族連中が事に及んだのは、サウスリム市長が独自に進めていた、ある「接触」が原因だった。

 

サウスリムが急成長を遂げる中、その影響力はカズデルだけに留まらず、テラ全土へと浸透するのにそう時間は掛からない。

特に、その自由で平等・公平主義的な社会構造は、階級社会や差別を前提とした貴族支配が色濃く残る諸国の上流階級にとって大きな思想的脅威となり始めていた。

故に、ヴィクトリアの貴族たちは早い段階でサウスリムへの諜報活動を活発化させ、排除するにしろ取り込むにしろ、何かしらの糸口を探るべく多くの諜報員を送り込んでいた。

 

しかし、サウスリムの防諜システムはその動きを見逃さなかった。

 

市長はその能力によって、各国の諜報員たちが市内に潜入し始めていることを感知していた。

そして、サウスリムを害する可能性がある各国の動きに対抗するため、政治的な一手を打つ。

 

 

……それは、ヴィクトリア国内において歴史的に差別を受け、抑圧されてきたターラー人系組織への接触だった。

 

 

ターラー人は、ヴィクトリア国内で長年にわたり抑圧されてきた民族であり、差別的な同化政策を受けている存在だった。

しかし、彼らはその境遇から結束力が強く、地下組織を通じて独自のネットワークを形成していた。

市長はその潜在的な影響力に目をつけ、ターラー人の組織との対話を進めるつもりだった。

 

市長の計画は、ターラー人を支援する事でヴィクトリア内部の不満分子として同国の対外影響力を削ぐ、もしくはヴィクトリア上層部に報復能力を見せつけ牽制とする……というものだった。

これは単なる防御策に留まらず、ヴィクトリアの支配構造に直接的な干渉を試みる大胆な動きだったことは言うまでもない。

 

この動きを知ったヴィクトリア貴族達は激怒し……そして恐怖する。

一連の市長の動きは、ヴィクトリアにとってあまりにも冷徹で的確だった。

それは、サウスリムが単に経済的な競争相手であるだけでなく、中核国家筆頭である筈のヴィクトリアに対して効果的な政治戦を企図し、実際に仕掛ける能力も持っている事の証左である。

 

噂を聞き付けたターラー人達の活動が俄に盛り上がり、市長が本当に自らの領域に手を伸ばそうとしていることを察した彼らは、焦燥感のまま迅速に……そして拙速に報復を決断した。

市長の采配するサウスリムが、まだ発展途上の小規模都市国家であることも、攻撃を正当化する格好の理由となった。

 

 

「このまま放置していては、いずれ重大な脅威となる」

 

 

そうして動き出したヴィクトリア貴族達は、サウスリムで手足となる傭兵を集め始めた。

 

確かにサウスリム、ひいては市長の存在によってサルカズ達の生活水準は向上したが、それは全てのサルカズが市長に好意的であることを意味しない。

 

サウスリムという国家は建国からわずか数年で驚異的な成長を遂げ、その経済的繁栄は周辺地域に大きな影響を与えていた。

その中でも隣国カズデルは、サウスリムの富と影響力を目の当たりにすることで、自国の停滞ぶりを突きつけられる形となった。

その結果として、サウスリムへの嫉妬や敵意を抱く者たちが少なからず存在していた。

 

さらに、襲撃された市長の種族もまた、事件を語る上で無視できない要素だった。

市長はリーベリでありながら、サルカズが圧倒的多数を占めるカズデルにおいて高い地位を築いていた。

それは市長のもたらした成果によるものだったが、種族的な偏見を完全に取り払えるほど、カズデルという国は成熟していなかった。

要するに、サルカズ達はカズデルで異族が大きな顔をする事に不満を感じていたのだ。

 

 

「なぜ異族がカズデルで我等に口出しするのか?」

 

「カズデルはサルカズの都市だ。異族に出しゃばられるのは不快だ」

 

 

両殿下とスカーモールのお墨付きもあり、そうした不満が表に出ることは少なかったものの、裏では燻り続けていた。

そしてそれは、サウスリムへの嫉妬や敵意と結びつくことでヴィクトリアの諜報員につけ込まれる心理的な隙となり、事件を引き起こす素地となった。

 

 

 

ターラー人へと実際に資金が流れていることを確認したヴィクトリア貴族達は、ただちに強硬策を講じることを決定した。

その策は、サウスリム市内で混乱を引き起こすことで市長を孤立させ、彼女の権威を失墜させるとともに直接的な暴力によって抹殺を試みるものだった。

 

ヴィクトリアの諜報員は、カズデルの不満分子となる勢力に目をつけた。

特に非主流派に属するサルカズ傭兵や、貧困層に属するカズデルの住民達はサウスリムへの羨望、ひいては不満を抱いており、潜在的な不安定要素となっていた。

彼らの間で密かに「サウスリムの繁栄はカズデルに入る筈だった財貨を掠め取ることで成っている」との言説がまことしやかに流布していたことも大きい。

 

ヴィクトリアの諜報員達は、これらのサルカズ達に「サウスリム政府を打倒し、富を奪還する正義の闘い」と称して扇動を行った。

彼らはまた、大金を用意してスカーモールを通さず一部のサルカズ傭兵を買収し、市内に小規模な武装勢力を形成させた。

さらに、武器や爆薬を密かに供給し、同時多発的な暴動と市庁舎への襲撃を計画した。

ここら辺の手際の良さは、ヴィクトリア特有のものと言える。

 

 

 

襲撃当日、市内は突如として混乱に包まれた。

サルカズ傭兵部隊が街路で無差別に攻撃を行い、一般市民を恐怖に陥れた。

貧困層の一部が暴動に便乗し、物資の略奪や放火が発生した。

これにより、サウスリム市内は一時的に無政府状態となり、治安維持部隊は対応に追われて混乱が収拾できなくなった。

 

この混乱を背景に、計画の中心人物となっていたサルカズ傭兵が指揮する襲撃部隊が市庁舎に向かった。

武装したサルカズ傭兵たちは、市庁舎の警備を突破し内部に侵入。

市長は少数の護衛とともに激しい抵抗を試みたものの、数の力に圧倒された。

同じくサルカズ傭兵で構成されたサウスリム自警団が間一髪で市庁舎に到着したものの、市長は既に襲撃者によって重傷を負い、意識不明の状態で官邸内に倒れていた。

 

 

襲撃後、ヴィクトリアの諜報員達は即座に現場を離脱し、傭兵や暴徒に責任を押し付ける形で証拠を隠滅。

サルカズの暴徒たちは報酬を受け取ることなく放置され、捕縛されるか、混乱の中で命を落とした。

 

 

 

 

サウスリム市長襲撃事件とそれに伴う暴動は、周辺地域を短期間で未曾有の混乱に陥れた。

暴徒や傭兵たちによる破壊行為は都市中枢部を中心に拡大し、交通インフラが破壊されたことでトラックおよび鉄道輸送が停止。

物流が途絶えたことにより、サウスリム国内で培われていた複雑なサプライチェーンは崩壊した。

 

カズデルは、サウスリムを利用することで経済を維持していたが、サプライチェーンの破綻によりその依存関係が逆に足枷となり、恐慌の余波がカズデル経済を直撃。

カズデル国内でも工場の停止や食糧不足、失業率の急増といった混乱が発生し、市民の間には不安と動揺が広がった。

 

この混乱に乗じたのが、カズデルとサウスリムの周辺諸国だった。

特にヴィクトリアやリターニア、シラクーザは、近年のサウスリムの成長に危機感を抱いていた。

彼らは暴動の混乱に乗じ、サウスリムの外郭都市に進駐を開始した。

表向きは「治安維持」や「人道支援」を名目とした介入だったが、実際にはその地域を事実上併合し、自国の支配下に置く動きだった。

地理的には少し離れている炎国やウルサスまでもが動きだし、カズデルの周辺は俄に慌ただしくなる。

特にレム・ビリトンを矢面にしたヴィクトリアの動きは迅速で、サウスリムとレム・ビリトンの間に点在する交易拠点を次々と奪取していった。

 

この火事場泥棒とでも言える所業に対して、カズデル国内の排外意識が一気に高まることとなる。

 

加えてこの混乱は、単なる経済恐慌だけでは済まなかった。

事件以前、カズデルは経済的な繁栄とともに、国民間の対立をある程度抑え込むことに成功していた。

特に、融和派である「バベル」の主導のもと異族との共存を目指す政策は、急成長する経済とそれによる恩恵が支持を後押ししていた。

しかし、暴動と経済の崩壊によってその安定基盤が崩れると、サルカズの間で再び排外主義的な思想が台頭し始めた。

 

排外主義的なサルカズ達は、今回の混乱を市長をはじめとする異族に責任を転嫁。

バベルの融和政策を「サルカズに混乱をもたらす裏切り」と断じ、両派閥の対立は瞬く間に激化した。

かつての対立の記憶が薄れつつあったカズデルだったが、襲撃事件をきっかけに、一瞬にしてその混乱に逆戻りしてしまう。

 

 

襲撃事件の混乱の中で、重傷を負った市長の身柄は迅速にバベル側の手に渡った。

これは、当事者達にすれば当然の事だった。

サウスリム内の施設は暴動による破壊でほとんどが機能を失っており、市長を適切に治療できる設備を有する組織はバベル以外に存在しなかった。

特に、バベルの旗艦である「ロドス・アイランド号」は、医療技術と設備の先進性において他を圧倒しており、市長の命を救うためにはここに搬送する以外に選択肢はなかった。

 

しかし、この決定はすぐに新たな火種となる。

 

一部のサルカズは、市長の身柄がバベルの元にあることを、バベルがサウスリムの支配権を完全に握るための策略だと捉えたのだ。

市長は経済成長の中心的人物であり、彼女の存在はサウスリム-カズデル都市圏の経済的繁栄そのものを象徴していた。

彼らは「市長を扶翼するという名目で、バベルがサウスリムの富を独占しようとしている」との疑念を抱き、プロパガンダとしてこの主張を広め始めた。

 

 

また、この疑念を助長する背景には、バベルがかねてからサウスリムの主要な活動に深く関与していたことがあった。

排外主義的なサルカズは、バベルの事を異族に阿る裏切り者と批判する事が多かった。

元々、カズデルから追放されたバベルが逃げ込んだ先がサウスリムである。

サウスリムにおけるバベルの経済的成功と医療技術の優位性は、ある種の外部支配者としての不審感を排外主義者達に植え付けていたのだ。

 

そのため、市長の搬送が報じられるとすぐに、一部の排外主義的勢力は「市長の身柄はサウスリムの象徴であり、バベルによる独占は許されない」と声高に主張し始めた。

彼らは市長の奪還を訴え、さらに混乱を煽ることとなった。

……元はと言えばサルカズ傭兵が発端で、サウスリムに叛意を抱いていた者にとってはダブルスタンダードにも等しい考えなのだが、その事を理解するには一定の教育が必要であり、尚且つそれはカズデルにおいて最も不足している物の一つだった。

 

この状況は、バベルと排外主義勢力の対立を一層激化させ、カズデルの分裂を決定的なものにした。

 

新たな内紛の火種は、周辺諸国の侵略行為とも絡み合い、サウスリム……ひいてはカズデルを再び動乱の渦中に引きずり込むことになる。

経済的繁栄と安定という夢のような時代は終わりを告げ、次に訪れるのは、かつての歴史のような血塗られた争いの予兆だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




パラドゲーあるある:初プレイ国家でチキンレース失敗


MOD入れるとすれば、出来ることの多さや市長を強化する目的であるという点から「MillenniumDawn(現代~近未来MOD)」でほぼ一択なんですよね。
ただ、このMODだと軍隊規模が経済による制限を受けることにもつながるんですが。
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