目を覚ました時、まず感じたのは意外なほどの静けさ……でした。
最後に記憶している喧騒や、頭を覆い尽くすような不安とは無縁の、不思議な静けさです。
全身の感覚がぼんやりと重く、天井の白さに目を凝らしながらも、私は妙に冷静でした。
確実に終わったと思ったのですが、どうやらこの世界は、そう簡単に逝かせてくれないみたいですね。
何がどうなってるのか分からないままぼんやりしていると、ドアがそっと開いてケルシー先生が入ってきました。
それで、あの無表情のままケルシー先生は言いました。
「このままでは、君の存在自体がさらなる混乱を招く。市長………申し訳ないが、ここは……しばらく表舞台に立つべきではない」
そう告げるケルシー先生の声音は冷静でしたが、その言葉が持つ重みは否応なく私を現実に引き戻します。
暴動、襲撃、そして内乱の危機…………
すべてが私の目の届かないところで進行し、目を覚ました頃には既に手遅れとなってしまっていた訳です。
まあ、普通はショックを受けるんでしょうが、私もほら、パラドゲーとかで長いこと政治ごっことかやってきてますから。
「ああ、そういうことね」ってすぐに納得しました。
あの時のケルシー先生の提案は明快。
このまま公に姿を現せば、私が新たな混乱の火種となる。
だから、「死んだこと」にするべきだと。
表向きには事件後の混乱に巻き込まれて死亡したと発表。
私が姿を消し、表向きには死亡したことにすれば、サウスリムの火種を少しでも抑えられるかもしれない、と。
たとえそれが短期的な効果に過ぎなかったとしても、事態を悪化させないための一手としては必要だと、まぁこの手の状況で採りうる手段としては妥当ですね。
その時はもう、色々面倒になっていた感はありますね。
今回の襲撃が突発的にしろ計画的にしろ、私が生きていると知ったらまた襲ってくる可能性も十分あります。
それを考えたら、ケルシー先生の庇護下でゆっくり隠居するのも悪くないかな~って。
で、カズデルの内情がとうとう最悪の方向へ動き始めたのは、それから少し後。
軍事委員会とバベルが本格的に火花を散らし始めたなんて話が、耳に入ってきてました。
いやまあ、耳に入ったというか、ケルシー先生がわざわざ状況を説明するために手紙を寄越してくれたわけですが。
軍事委員会のテレシス閣下は、まぁこの内戦は本意ではないでしょうね。
でもまぁ……民意ってやつは怖いもので、結局抗いきれなかったと見えます。
どれだけ権力を持ってようとも、どれだけ賢者だろうとも、大衆の不満っていうのは簡単には無視できないのですよねぇ……
どんな独裁者でも、民意の大半を敵に回したら政敵に追い落とされて失脚するのみなのは、地球の歴史が何度も証明しています。
その間、私はというとケルシー先生が用意してくれたセーフハウスで、いい感じに快適な生活を送っておりました。
資金面ではバベルが援助してくれますし、物資は潤沢。
周囲には一切の危険なし……なにせ私が生きている事を知ってるのは、ケルシー先生とテレジア殿下くらいですからね。
表向き死んでる人間がこんな恵まれた生活を送ってるあたり、なかなか皮肉な感じはしますね。
そんな中で届いたのが、あの手紙です。丁寧に封をされた手紙を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは「テレジア殿下暗殺」という衝撃的な一言。
あの瞬間の心情をどう表現すればいいんでしょうね。
怒り、悲しみ、驚き…………まぁ、よくわかりません。
でも、それ以上に「ああ、ついにここまで来たか」という妙に冷めた感情が湧いてきたのを覚えています。
結局のところ、カズデルとサルカズは最初から詰んでいて、何れはこうなるような感覚はあったんですよ。
テレジア殿下────バベルの長であり、一部のサルカズ達にとっては希望の象徴のような存在だったタイプの人物。
そんな彼女が命を奪われたとあっては、もはやバベルの崩壊は確定的でしょう。
それでも彼女は最後まで戦ったんでしょうね。
殿下はそういう方でしたから。
とはいえ、他人事ばかりでは片付けられません。
援助元であるバベルが崩壊するとなれば、私もこのセーフハウスを引き払う必要がありましょう。
「やっぱり、安全保障を他人任せにするのは正気の沙汰じゃないねぇ……」
ベッドの上で呟いた言葉には、どこか自嘲の響きが混じります。
サウスリムの安全の多くを、カズデルの力とサルカズの『良心』に委ねていた形になっていた事を、今さらながら自覚した次第です。
…………その手紙を読んでしばらく、私はぼんやりと天井を見上げてました。
静かな部屋の中で、頭の中だけが喧しい。
これまでのこと、これからのこと、ぐるぐると考えが巡って止まりませんでした。
でも、結局最後に辿り着いた結論は一つ。
「振り上げた拳は、振り下ろさなきゃ意味がない」
そう呟いた時、私はもう覚悟を決めてましたね。
まぁ、大部分が個人的な感情によるものなんですが……
逃れてからも色々と考えて細々準備はしていたのですが、結局やる気も起きずに放置していました。
どうせですから、盛大に使ってしまいましょう。
このままやられっぱなしで終わるとか、パラドゲーの能力を持ってるのに、あまりに愚かじゃありませんか。
もうどーにでもなれー、という賭けです。
どうなるかなんて分かりませんけど、まぁ、やるしかないですよね。
少なくとも、私をこんな目に合わせた世界のこと、只では済ましませんよ。
ケルシー先生の手紙をそっと畳むと、私はふっと一つ息を吐きました。
付随被害について考えるのはやめました。
ただ、出来る限りをやるだけです。
それがどんな結果を招こうとも…………ね。
サウスリムからほど近い某市街。
この市街は、先の混乱で一度軍事委員会に占拠されたものの、バベル側の奮闘で辛くも奪還されていた。
しかし、その勝利は一時の安堵をもたらしただけだった。
市長が公的には死亡した少し後から、発電所は突如として不安定な挙動を見せ始めた。
送電量に異常があり、地域全体の電力供給が揺らぎ始めたのだ。
それ以来、発電所の電力供給量は上下しつつも低下の一途を辿っている。
「……まさか、このタイミングで問題が起こるとは……」
発電所の制御室に足を踏み入れたケルシーは、いつも通りの冷静な表情を浮かべながらも、その言葉には僅かな不安が混じっていた。
ここ最近になって、セーフハウスから市長が失踪したとの報告が送られてきた。
同時期に、電力供給量の低下速度が加速し始めており、明らかに偶然とは思えなかった。
彼女の隣にはバベル古参の技術者、クロージャが小さなタブレットを手に制御パネルを見つめている。
「パニック映画でよくあるよね、こういう時って大体もっと悪い事が起きたりとか」
クロージャが軽口を叩きながらも、その表情は明らかに険しい。
「制御系のログ、もう読み込んでるけど……いや、これはおかしい。こんなふうに最終出力だけ低下するなんて聞いたことないよ」
ケルシーは黙ってクロージャの操作を見つめていたが、彼女が一瞬だけタブレットの画面を凝視し、声を上げた。
「出力低下……?いや、違う……」
クロージャが指を止めた。
「これ、出力が落ちてるんじゃない……生産したエネルギーが、どこかに転送されてる……でも、一体どこに……?」
クロージャの言葉にケルシーの眉がわずかに動く。
「エネルギーの転送?座標データの記録は?」
「それが……どのログも記録が改竄されてるみたいだよ。完全に都市外部への転送みたいだけど、転送先の情報が……satellite orbit……?」
クロージャはタブレットを操作し続けながら答えたが、その声には焦燥感が滲み始めていた。
「
ケルシーは短く呟いた後、制御室の窓から見える都市の景色に目をやった。
ビル群の向こう、霞んだ地平線の上には目に見えない“星のさや”が広がっている。
灼熱の陽光が降り注ぐ荒野の中心で、市長は遮蔽物のない環境にも関わらず、涼しげな顔で通信機を握っていた。
小さな指令車両の中には、簡易的な通信設備が整えられており、窓からはどこまでも続く赤茶けた大地が見渡せる。
風が乾いた大地を舐め、砂埃が遠くの地平線に霞む。
そんな指令車両の背後……どこまでも続く赤茶けた大地にそびえるのは、明らかに過剰な規模の原子力発電所群と核融合炉。
その数は、数十を優に超える。
青白い煙を放つ冷却塔が立ち並び、蒸気と熱が空気を震わせている。
発電所を中心にして、異様な規模の施設が建てられつつあった。
その中心にそびえ立つのは、天を突き抜ける為に用意されたロケット発射場と、1本の太いワイヤーが目立つ宇宙エレベーターだ。
用意されている発電能力は21世紀の地球の先進国一つを優に賄え、市長の能力から考えてもやり過ぎと言うべきだった。
宇宙施設に関しても、阻隔層の影響でうまく稼働するかは分からない。
しかし、それらはあまり問題にはならない。
重要なのは、この施設の建造を以てサウスリム────ひいては市長が「宇宙時代」へ突入したと判断されたことである。
市長はわざとらしく咳払いを一つしてから、通信機を軽く叩いた。
「博士、そちらの進捗状況はどういった感じですか?」
通信機の立体投影装置に映ったのは、静かだがやや疲労感を含む女性だった。
「進捗は良好です。恐魚と呼称される水棲実体群の分布と群生地、それに非接触型情報ネットワーク構造の割り出しはほぼ完了しました。恐魚の行動パターンや意思伝達の進行状況はほぼ把握できると言っても問題ありません」
1094年 惑星“テラ”低軌道上
広大な研究スペースを有する“Stellaris”の研究船の窓越しには、テラの青黒い海と赤い大地が見えている。
その研究船の背後には、薄明るい惑星を背景に、40隻近い宇宙戦闘艦艇が整然と配置されていた。
黒に塗装されたその艦隊は、まるで空を滑るように静かに浮遊し、その全てがテラの地表に大口径の砲門を向けている。
「……まだ星系拡張もしていないのに戦略資源が手に入るとは思いませんでしたね」
市長の感心したような声が、通信機から漏れる。
博士は少し間を置いて答えた。
「この惑星は希少資源の宝庫でしたからね。源石は“クリスタル”にも“揮発性粉末”にも加工できますし、惑星極地にある未稼働の『短距離ゲートウェイ』近辺からは“ダークマター”も採取できました」
そうしている間にも、先程、星系造船所で艤装が完了した戦闘艦が2隻、主星軌道からテラ軌道上に遷移し艦隊に加わった。
「艦隊を整えるのに必要なもの全てが揃っていて、資源の面では苦労しませんでしたが…………しかし、コルベット主力とはいえ単一惑星内のエネルギー生産能力で、よくもまあ恒星間超光速航行可能な1個艦隊を賄えましたね」
「…………いやぁ、実のところ賄えてないですよ」
市長は肩をすくめるように笑う。
「これを維持するのに、新設した発電地域に加えて、残ったサウスリム都市圏のエネルギーを全部つぎ込んでるのが現状です。おかげでサウスリムの居住性はガタ落ち、これは住人も沢山流出するかもですね…………まぁ、どうせ半分失ったようなものでしたので、いいんですけどね」
「………………」
博士が通信機の前で一瞬黙り込むが、やがて、静かなため息とともに市長が言葉を続けた。
「とはいえ、あんまり知り合いにとばっちり飛ばすのもアレなので、この攻撃が終わったら宇宙艦隊は即解体する予定です」
静謐を湛えつつも不気味な海を眺めていたのは、市長だった。
荒野を離れ、沿岸部の高台に一人で立つ彼女の姿は、青く広がる大海の前で小さくも威圧感を伴っている。
海は危険と何度も言われたが、市長は気にした様子もなく、吹き抜ける海風をただ受け止めていた。
その瞳は水平線に向けられ、険しくも、どこか笑みを含んだものだった。
「とりあえず、炎国~レム・ビリトンライン以内の海域から恐魚を駆除して…………最低限、背後の安全を確保しますかね!」
市長の声は風にかき消されることなく響き、彼女の決意の強さを示していた。
海の向こう…………その視線の先に、何を見ているのか。
その真意は、彼女だけが知っていた。
cities:skylines、何故か宇宙エレベーターが建設できる。
Stellarisのコルベット、1隻のエネルギー通貨維持費が基本値0.3とかなんですよね。
因みに宇宙進出前惑星文明が産出するエネルギー通貨ってどのくらいだと思います?
だいたい3です。