パラドックスはアーツか否か   作:霊藻

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「銀河規模戦争」

深い青に包まれた海中に、その都市はあった。

 

「ミリアリウム」

 

高度な技術力の結晶であり、海洋国家ならではの知恵と工夫が詰め込まれた、真に異世界のような光景が広がっている、エーギルに属する都市群のうちの一つだ。

街を覆う巨大なドームは、厚い透明素材でできており、外の海を一望できるようになっている。

暗い水中で一際目立つように都市自体が発光し、海底に幻想的な光景を描き出していた。

 

そんなミリアリウムの中心部、都市ネットワークを管理する統合制御室。

数多くのモニターが一面に並び、都市内のネットワークインフラやセキュリティを一元的に管理しているこの場所は、エーギルの技術力を象徴する一つと言える場所だ。

 

制御室の中央にはホログラフィックで投影された都市全体のリアルタイムマップが浮かび上がっており、それを囲むように多数の技術者達が忙しなく手を動かしていた。

その緊張感ある雰囲気が一瞬にして混乱に変わったのは、突然に警告音が響き渡った瞬間だった。

 

 

『警告、ネットワークに不正アクセスを検知。通信プロトコル異常を確認────』

 

 

制御室全体に響く無機質なアナウンスと同時に、モニターのいくつかが赤い警告画面に切り替わる。

その内容は見たことのないプロトコルや、不明なデータの流入を示していた。

 

 

「なんだこれ……外部からの介入?まさか、ルートは全て恐魚に寸断された筈じゃ……」

 

 

若い技術者の一人が慌てた声を上げ、指先を素早くコンソールに走らせる。

しかし彼の目の前に表示されたログには、見覚えのない膨大なデータが流れ続けていた。

 

 

 


 

 

物理学【疑似次元反転】

現実世界で警報を作動させるリスク無く、隣接現実からデータにアクセスする。

 

社会学【地域超空間通信】

超空間/超光速通信に関する研究。

 

 


 

 

 

「侵入経路を特定しろ!発信元を辿れるか?」

 

 

責任者らしき男性が、鋭い声で指示を飛ばす。

しかし、技術者たちの表情は次第に焦燥感に染まっていった。

 

 

「無理です!侵入ルートが見当たりません!まるでどこからともなく現れたかのように……」

 

「送られてくるデータの解析もできません。形式が全く不明です……」

 

 

別の技術者も冷や汗を滲ませながら答え、制御室内の緊迫感は瞬く間に頂点に達しつつあった。

 

 

「セキュリティはどうなっている?遮断できないのか!」

 

 

責任者はさらに声を荒げたが、その問いに返ってきたのは技術者たちの沈黙だった。

やがて一人が恐る恐る口を開く。

 

 

「すべて……無効化されています。いや、正確には“無視”されている、と言うべきでしょうか……セキュリティプロトコルが迂回されるどころか、そもそも、相手はそれを存在しないものとして扱っているようです……」

 

「そんな馬鹿な……!」

 

 

責任者の顔が青ざめる。

エーギルの技術は陸上国家を遥かに凌駕しており、ここテラにおいては最高峰の筈だ。

それが、あまりにも簡単に侵入され、制御不能に陥っている現実が信じられなかった。

 

 

「発信元は?ログを遡れ!」

 

「やっていますが……駄目です!発信元の痕跡が全くありません。送られてくるデータの方も、一方的に送り込まれているだけで、こちらから干渉する手段がないんです!」

 

 


 

物理学【遡時性暗号鍵】

物理学上の奇妙な現象を利用する暗号鍵。

未来に生成される現時点では存在しない鍵の入力を、過去において要求する。

 


 

 

「そんな…これじゃ幽霊……」

 

 

誰かが呟いたが、誰もそれを否定することができなかった。

エーギルの誇る完璧なネットワークセキュリティが何者かによって無力化され、一方的に情報を送り込まれるだけの状態に陥っているのだ。

 

 

「発信元が分からない以上、対策の打ちようがないぞ……」

 

 

そんな責任者の呟きに、誰も反論することができなかった。

 

 

 

 

ほどなくして、統合制御室の状況はミリアリウムの技術執政官、クレメンティアにも緊急で伝えられた。

クレメンティアは全体の状況が映し出されるホログラフィックマップをじっと見つめていたが、その眉間には深い皺が刻まれている。

 

 

「このデータ……技術者チームではどういった見解を?」

 

「……不明です。解析を試みていますが、使われているプロトコルやコードは他都市の物とも、陸上国家のそれとも一致せず…………完全に未知のものです。それに、このような大規模なデータ送信を防ぐどころか、セキュリティの迂回が完璧すぎて……現時点で、どこから送られてきたのかすら特定できていません」

 

 

責任者が苦々しく説明すると、クレメンティアの顔が険しくなる。

 

 

「つまり……我々の知る、いかなる既知勢力とも違うと。しかし、陸上国家がこれを可能にするとは到底思えない以上……」

 

 

彼女は腕を組み、モニターに映し出されているデータ群を凝視した。

その時、突然ホログラフィックマップが明滅を繰り返し、画面に大量の情報が展開され始めた。

未知の侵入者が送り込んできたデータのファイル群が自動的に解凍され、それらがグラフィック上に投影されていく。

 

 

「……何だこれは?勝手にデータが展開されてる……!」

 

 

技術者が驚きの声を上げると、その場の全員がモニターに目を向ける。

そこには未解読の文字列や、見たことのないコードが次々と並んでいた。

しかし、全員の視線を釘付けにしたのは、その次に表示されたビジュアルデータだった。

 

都市のホログラフィックマップが切り替わり、詳細な海図が浮かび上がる。

大陸の南岸と、エーギルの都市が存在する領域を中心にした地図。

その一角……大陸のとある沿岸部に、ペンキで塗り潰したかのような赤いエリアが広がっている。

赤く塗り潰された範囲は本領域からは離れており、エーギルの都市の存在するエリアを避けるように縁取られながらも、広大な一つの海域を完全に覆い尽くしていた。

 

その後、また新たなメッセージが表示された。

自動翻訳されたと思しきテキストが、次々とスクロールされていく。

 

 

「……退避勧告……?対象海域に存在する敵対的な水棲実体群を駆除する為、作戦開始時刻までに表示された危険域から退避せよ………!?」

 

 

 

 

 


 

 

「全艦、目標座標への照準完了。エネルギー流路安定。量子加速器、システムオールグリーン」

 

「────作戦時刻0アワー、全門照射開始」

 

 


 

 

その瞬間、軌道上の艦隊から一筋の光が放たれた……いや、正確には光そのものではない。

特殊量子の加速投射により生じた発光現象は、視覚的には極めて穏やかなものだった。

淡く、柔らかい輝きが宇宙空間に広がり、広い森の中に差し込む木漏れ日のような神秘的な光景を生み出していた。

 

その「光」は一見穏やかに見えたが、実際には膨大なエネルギーを内包した特殊量子の集束体だった。

投射された量子エネルギー束は、明確な指向性を与えられて軌道上から海中の目標へ指向性を持って一点を目指して進む。

 

特殊量子が進む道筋に、物理的な制約は存在しなかった。

テラを包む高エネルギー大気層──いわゆる阻隔層──テラの地上と宇宙を切り離しているその層すら、特殊量子にとっては無意味だった。

惑星を封じ込める阻隔層を、量子の集束体は存在しないかのように、音もなくすり抜けていく。

 

大気に侵入する際にも何の干渉も受けることなく進む特殊量子は、阻隔層の下端を越え、海面へと到達した。

そして、水という密度の高い媒介物すらも、特殊量子にとっては何の抵抗にもならなかった。

通常のエネルギー投射が発生するであろう波紋や衝撃波のようなものも生じず、特殊量子は静かに、しかし正確に海底を目指して進む。

 

海面下、深く冷たく暗い海底にその「光」が届いたとき、初めて周囲の環境に異変が発生した。

特殊量子が到達した瞬間、その周囲の物質が見えない力で変性し、構造が変わり始めたのだ。

特殊量子は触れた物質を崩壊させ、亜原子レベルで分解していく。

まるで海底そのものが、何か巨大な存在に飲み込まれるような不気味さを伴いながら、その「光」は静かに目標を侵食していった。

 

 


 

 

物理学【位相ディスラプター】

標的の構成物質を保持する結合を弱め、破壊する高エネルギーを発射する。

これはシールドや装甲をすり抜けて、敵の船体や乗組員に直接ダメージを与えられる。

 

 


 

 

最初の変化は、海中の温度と光だった。

恐魚の巨大な群体が潜む領域一帯で、急激に水温が上昇し始める。

通常の環境熱放射ではあり得ないスピードで、深海特有の冷たい環境がみるみるうちに変わっていく。

周囲の海水が気泡を生じ、蒸発するような高温へと達しつつあった。

そして、やがてそれは肉眼で見える異変に姿を変えた。

 

群れを成していた恐魚の大群が、一斉に光り始める。

美しくも不気味なそれは、チェレンコフ光────放射線の影響で生じる青白い輝きだった。

特殊量子が恐魚の体内に到達し、その構造を破壊し始めると、分子の結合が次々と崩壊し、エネルギーが解放される。

それはまるで、恐魚自身が原子炉内の燃料棒に変貌したかのようだった。

 

恐魚の肉体はただ単に溶けるのではなく、細胞や組織のレベルを越えて、素粒子そのものが崩壊していった。

ディスラプター(構造崩壊兵器)で投射された特殊量子は、恐魚の体を通過する過程でそれらを構成するゲージ粒子に影響を与え、素粒子間の相互作用を脆弱化させた。

その結果として誘発されたのは、同時多発的な自発核分裂。

原子核が砕けるたびに発生する莫大なエネルギーが、膨大な熱放射を引き起こし、悪夢のような破壊の循環を作り上げる。

 

深海に広がるその光景は、一言で言って終末的だった。

エーギルの持つ第Ⅲ級兵器と呼ばれる物が、重力特異点による潮汐力…………つまり力ずくで対象を引き裂く力学的破壊兵器なのに対して、ディスラプターは形あるものが形である理由そのものを奪い去る、量子論的破壊兵器。

そして恐魚の群れは、その内の誰一匹として何が起きているかを理解できなかった。

その為に必要な情報は全て、阻隔層のベールがテラの外へと隠し去ってしまっていたからだ。

 

恐魚の体が次々と青白い光を放ちながら崩壊し、その破片すらも粒子単位で消えていく。

かつては圧倒的な存在感を誇っていたその群れは、破壊の連鎖の中で徐々にその姿を失い、最終的には痕跡すら残らない。

崩壊の進行に伴い、海域全体に熱エネルギーが拡散する。

海水は激しく沸騰し、巨大な蒸気の泡が海面に達して破裂。

その振動は、深海のどこかで巨大な火山が噴火したかのような衝撃だった。

その中心では、大群が静かに、そして確実に消え去っていく。

 

 

「ディスラプターは強力な破壊兵器であるが、決して万能ではない。特に、同程度の技術力を持つ文明の戦闘艦を相手にした場合、その攻撃効果は不安定さが目立つ、が…………」

 

 

……此処で、そのような仮定は無意味だ。

 

そんな博士の呟きをなぞるように、軌道上の艦隊が次の行動を開始する。

全艦のミサイルポッドが一斉に開かれ、その内部から複数のミサイルが発射された。

鋭い光を放ちながら艦船を離れたミサイル群は、次々と主推進器に点火し、加速して大気圏へ突入。

 

 

ミサイルは、精密に設計された弾殻をまとっている。

その素材と構造は特殊で、戦闘艦の防御シールドをすり抜けるように作られている。

原理は公表されていないが有効性は証明されており、空気抵抗や熱に晒される大気圏突入も、電離気体が充満する阻隔層も何ら問題にはならなかった。

 

プラズマの尾を曳く数十発ものミサイルは、軌道上から次々と誘導装置の軌道修正を受け、計算通りの速度と角度で海面へと進んでいく。

ミサイルの制御中枢には、高度なAIによって判定された正確な相対座標が次々と入力されていった。

ターゲットは恐魚の群れが棲息していた海域、そして彼らの巣穴とされる海底構造物だった。

 

 

「全弾、目標へ突入。起爆まで残り5秒」

 

 

オペレーターの冷静な声が通信回線を満たす。

 

 

「4、3、2……」

 

 

カウントダウンが進む中、ミサイル群はそのまま大気層を抜け、さらなる加速を受けながら海面へ突入し、高速で海水を貫徹しながら深い底へと落下していった。

 

耳鳴りすらも途切れた静寂を打ち破るように、海底にミサイルが突き刺さる。

営巣地の奥深くで、辛うじて生き残った恐魚がその様を発見した。

恐魚は本能のままに細切れにされた大群のネットワークから“同胞達”へと情報を伝えようとする。

 

 

次の瞬間────閃光が生まれた。

 

 

 

 


 

工学【量子ミサイル】

零点真空からエネルギーを引き出す圧倒的威力の弾頭を搭載したミサイル。

 


 

 

 

海底の深淵、その最も暗い領域を切り裂くかのように、ゼロ・ポイント・フィールドから抽出された膨大なエネルギーが全方向へ向かって解放。

弾頭の真空チャンバーに封入されていた11次元時空連続体膜が拡張を始め、空間そのものを押し広げながらエネルギーの奔流を形成。

爆心地に位置する恐魚の営巣地を中心に、圧倒的なエネルギーが人工真空から生じ、全てを飲み込んでいった。

一瞬の光球が現れたかと思うと、初期宇宙のインフレーションとビッグバンを再現するかのように周囲の既存空間が押し退けられ、圧縮され、そして……相転移した。

真空エネルギーの急速な抽出による反応が連鎖的に広がり、営巣地を中心にして周囲の海域全体が球形にくりぬかれるように消滅していく。

その範囲はプランク時間単位で瞬時に拡大し、固い岩盤も、海中の生命体も、そこに存在した水すらも分解されて物質未満の煩雑なエネルギーと化していった。

 

エネルギーは空間そのものを侵食するように広がり、球形の境界線を現出させながら絶対的な破壊を描き出していく。

海水が押し寄せる間すら与えられない速度で空間が削られ、営巣地そのものが無に置き換えられていく。

その後、くり貫かれた海から湧き上がるような巨大な残光が、露出した海底を照らし出した。

それは放射状に拡散する青白い輝きであり、零点フィールドによるエネルギー放出の余韻が生み出した光の芸術だった。

しかし同時に、恐魚たちが完全にエネルギーの残滓へと還元され、最早この領域に存在していないという証明でもあった。

 

 

 

恐魚の大群は、恐怖した。

自然現象か攻撃かも解らぬ内に、大海を満たす同胞の一角が根こそぎ消え去ったのだ。

故に、大群は“存続”の為、生物として最も普遍的な反応を示す。

それは…………「危険域からの逃避」という極めて基本的な反応だった。

 

 

 

 

海域は静寂を取り戻していく。

ただし、それは自然な静けさではなかった。

かつて営巣地と呼ばれた場所には完全なる虚無が生まれ、球形の空間がぽっかりとくりぬかれたまま残された。

切り取られた空間に流れ込む海水が、完全にそこを満たすまで、いましばらくは時間が掛かるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




人に向けて撃ちますか?コレ……


一部技術の解釈はス○ートレックなんかから引っ張って来てますが、Stellaris自体そういった有名SFからのネタも多く、フレーバーテキスト的にも大きな的外れではないと思います。


攻撃した結果として、まぁ海洋の影響が気候変動という形でテラ全体に影響を与えるのは確実でしょうね。
特に第一次産業、農業を中心に大打撃を受け、その影響で低所得者層なんかも混乱に巻き込まれるかもしれません。
ポデンコちゃんとかGGちゃんとか。
GGちゃん?……不憫で可愛いね♡
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