パラドックスはアーツか否か   作:霊藻

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鶏前の牛刀

 

 

ロドスの一行は会議室を後にし、龍門の官庁舎の広々としたロビーで待機していた。

高い天井と整然とした柱が並ぶ空間は、厳格な官僚機構を象徴するかのようだった。だが、そこに立つドクター、アーミヤ、ケルシーの誰もが、ロビーの装飾などには目もくれず、それぞれ思索に耽っている。

 

会談は、紆余曲折を経ながらも一応の合意に至った。

ロドスと龍門は、一定の条件のもとで協力体制を敷くこととなり、少なくとも形式的には契約が結ばれた形となる。

 

 

「あの方……クローナ代表……」

 

 

アーミヤは、小さく呟いた。

其の人物を見た瞬間、心の奥で何かが揺れ動いた。

幼い頃に見た記憶が、かすかに蘇ってくる。

 

 

「ケルシー先生……」

 

 

小さく問いかけるが、ケルシーは腕を組み、視線を上階へと向けたまま沈黙を守っていた。

アーミヤはそれ以上何も言わず、自らも静かに待つことにした。

 

しばらくして、エレベーターの扉が音を立てて開く。

 

降りてきたのは、先程会ったリーベリの女性────代表だった。

 

庁舎のロビーに降り立った代表は、一行の様子を見回しながら穏やかに微笑んだ。

 

 

「待たせてしまいました?」

 

 

軽やかな足取りでロビーへと向かいながら、そう言った。

 

 

「まずは契約成立、おめでとうございます。お互いにとって、実りあるものになることを願っています」

 

「……君がこのタイミングで戻ってきたのは、単なる偶然なのか?」

 

 

ケルシーは腕を組んだまま、じっと代表を見つめていた。

問いかけに、クローナは肩をすくめる。

 

 

「はい、ただの偶然ですね。あくまで連合議会の仕事でこちらに寄っただけで、偶然先生の姿を見かけたもので」

 

 

その答えにケルシーは視線を逸らし、何かを考えるように瞳を細めた。

 

実に上手い話だったが、この偶然というのは真実だった。

2年前から代表が進めていた「第一次艦隊拡張計画」は何事もなく完遂され、連合陸上艦隊では戦艦8隻、空母10隻を中心とした艦隊戦力の実戦配備が完了していた。

この艦隊の配備によってPARADOの軍事力は、テラ諸外国の軍とあらゆる領域で渡り合う事が可能となり、武力を背景にした交渉も容易となったことから、積極的な外交に舵を切ったのが丁度原作開始の時期だったのだ。

 

 

「それと────」

 

 

代表は次に、ドクターへと向き直る。

 

 

「ドクターも、お久しぶりですね」

 

 

ドクターはわずかに頷いた。

 

 

「ケルシー先生の手紙に、長期療養が必要だと書いてましたけど……もう大丈夫なんです?」

 

 

その問いに、ドクターは言葉を失った。

長期療養……確かに目覚めた時は療養施設の様な所に居たが、断言はできなかった。

そもそも、ドクターに過去の記憶がほとんどない以上、答えに窮するのは当然だ。

 

 

「それは……」

 

 

戸惑いながら言葉を探していると、アーミヤが慌てて口を開いた。

 

 

「クローナ代表、ドクターは……その、記憶を失っているんです……」

 

 

その言葉に、クローナは目を見開いた。

 

 

「記憶を……?」

 

 

言い淀みながら、改めてドクターを見つめる。

 

 

「じゃあ…………旅先でシャーロットの姐さんと過ごした熱い一夜のコトも───!?」

 

 

アーミヤが一瞬フリーズし、ケルシーが魔王ねこちゃんになりそうだったので、代表は口を閉じた。

 

 

 


 

 

 

そして次に、アーミヤの方へ視線を移した。

 

 

「えっと君は……もしかして、アーミヤ?」

 

 

代表は、驚いたように呟いた。

あまりに成長していたせいで、最初は分からなかった。

身長なんかは、もうそろそろ代表に届きそうな位である。

しかし、よく見れば、面影が残っている。

アーミヤもまた、その言葉を聞き、確信を得た。

 

 

「……やっぱり。あなたは……市長さん?」

 

 

アーミヤは驚きと戸惑いを隠せずにいた。

 

 

「……でも、ケルシー先生が、市長さんは亡くなったって……」

 

 

彼女の言葉には、長年信じてきた事実が崩れる動揺が滲んでいた。

代表は、そんなアーミヤの反応を予期していたかのように、静かに息をついて答えた。

 

 

「まぁ、色々大変な時期だったからね、混乱を防ぐために、表向き死んだ事にしたの……おっと、これ一応秘密の話ね」

 

 

軽く流すように言う代表の姿に、アーミヤは、自分の胸の奥から湧き上がる感情をどう言葉にすればいいのか分からなかった。

 

市長────代表は生きていた。

 

それはあまりに予想外で、信じがたいことだった。

それでも、目の前に立つ彼女の姿は幻ではない。確かな存在感をもってそこにいた。

 

 

「……市長さん……本当に、生きていたんですね……」

 

 

自分でも驚くほど小さな声だった。その言葉に、代表は静かに微笑む。

その微笑みに、アーミヤの気持ちがほんの少しだけ軽くなった。

チェルノボーグで、ロドスは多くの犠牲を払い深い悲しみの中にいた。

だが、今は前を向くしかなかった。

 

それでも、今、死んだと思っていた人が、こうして生きている。

それが、どれほどの安堵をもたらすものなのか。

 

 

「……良かった……」

 

 

小さな呟きが漏れる。

代表は何も言わず、ただその言葉を受け止めるようにアーミヤを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………が、唐突に代表が疑問を覚える。

 

 

「そういえば、何故アーミヤが此処に?」

 

 

代表の認識では、アーミヤは未だ荒野で保護した子供の一人に過ぎず、このような交渉事の席には似つかわしくない。

その疑問に答えたのは、ケルシーだった。

 

 

「アーミヤは、ロドスの現CEOだ」

 

 

代表の表情が、一瞬だけ強張る。

 

 

「…………CEO!?」

 

「そうだ」

 

「はい、CEOです!」

 

 

 

 


 

 

 

「市長さんは、これからどうするつもりなんですか?」

 

 

アーミヤが、代表を見たまま問う。

代表は軽く首を傾げ、少し考える素振りを見せた。

 

 

「そうだね……龍門商業連合会のパーティーに招待されてるし、それに出なきゃだけど、その前に……」

 

 

一度、視線をドクターとアーミヤに向け、少しだけ口元を緩めた。

 

 

「久しぶりにロドス本艦に行きましょうかね。数年ぶりになりますし」

 

 

アーミヤが驚いたように瞬きをした。ドクターも反応こそ薄いものの、微かに興味を示しているようだった。

 

その時、足音が近づき、場の空気がわずかに引き締まる。

 

 

「代表、車の用意ができました」

 

 

低く落ち着いた声が響いた。

現れたのは、血の濃いウルサス────まるで二足歩行の熊のような風貌をした屈強な男だった。

その男は無言のまま代表の後ろに立ち、無意識を装いつつ周囲の状況を観察していた。

代表は軽く手を上げ、男を指し示した。

 

 

「……紹介しておきましょう。彼はヴォイテク、今は私の秘書兼護衛を務めています」

 

 

その言葉に、ロドスの一行が改めてヴォイテクへ視線を向ける。

見上げるほどの大柄な体躯、鋭い眼光、そして隙のない佇まい。

見た目だけでも只者ではないことが明らかだったが、彼自身は特に気にした様子もなく、落ち着いた態度を崩さなかった。

 

 

「……よろしくお願いします」

 

 

短く、それでいて低く響く声。

その一言だけで、無用な言葉を省く実直な性格がうかがえた。

 

 

「種族としてはウルサス……?ですが……ルーツとしてはカジミエーシュの方が近いですかね……とりあえず、今後はロドスの現場との協力を取り纏める役になるかもしれません」

 

 

アーミヤは少し緊張しながらも、小さく頷いて応じる。

ドクターは無言のままそれを観察し、ケルシーは特に驚いた様子もない態度を取っていた。

 

 

「代表、ひとつ確認したい」

 

「はい?」

 

 

代表が、ケルシーへ視線を戻す。

 

 

「過去に君と私の間に結んだ協定は……今もまだ有効か?」

 

 

その問いに代表は、一瞬だけ表情を変えた。

だが、すぐに元の柔らかい笑みを浮かべ、あっさりと答える。

 

 

「もちろん。あれを無かったことにする理由はありません」

 

「……感謝する」

 

 

ケルシーはその返答を受け、一度だけ静かに頷いた。

 

 

 


 

 

 

『ウェイ長官から、計画の詳細が開示された』

 

『現在策定されている計画では、レユニオンに対して陽動を行い、龍門の注意が外部へ向いていると見せかけた上で、龍門内部に潜伏しているレユニオンの部隊を一斉に掃討する。龍門当局はすでに潜伏組織の動向をある程度把握しているようだが、詳しい規模や所在地までが割り出されている訳ではない。だからこそ、こちらから陽動を仕掛けレユニオンの目を龍門の外へ向けさせる。そして、市内が手薄になったと思い込み活動を開始した潜伏部隊を、龍門側が殲滅するとの事らしい』

 

『計画の中でロドスに求められた役割は、その「陽動」だ。レユニオンが我々に注目せざるを得ないように、適切なタイミングで目を引き付ける。それで、龍門内の隠れた敵をあぶり出し一掃するというのが、ウェイ長官の計画だ』

 

 

 

『しかし、それでは龍門の市民が危険に晒されるのでは?』

 

 

 

『ウェイ長官には抑え込む自信があるようだ…………だが、その前段階として、ある人物を保護する必要がある』

 

『ミーシャ────チェルノボーグ要人の娘。彼女は現在、龍門内の難民の中に紛れている。詳しい理由は不明だが、レユニオンも彼女の身柄を狙っている。先手を取らなければ、彼女が敵の手に落ちる可能性が高い。よって、我々が先んじて彼女を確保する』

 

 

『こちらは、ケルシー先生との間で結ばれた協定の延長線上で、サウスリム市を通す形でロドスと鉱石病関連活動において提携する用意があります。先ずは、無主地帯に人道支援キャンプを設営して、周辺地域から難民を吸収したいと考えてます。よって、ロドスに医療スタッフ派遣等の要請を────』

 

 

 

 

 

スカルシュレッダー関連事案において、代表がロドスの現場に対して直接的な支援を行うことは無かった。

本国との距離的に地上部隊の展開は間に合わず、航空戦力は「人探し」を前提とした場合あまりにも“過剰”すぎる。

そもそも、事案は殆どが龍門/炎国主権領域内での出来事であり…………いくらPARADOが大国であろうと、交戦状態に無い他国の領内で軍を動かすにはそれなりの根回しが必要となる。

少なくとも、大抵のパラドゲーではそのようになっている。

 

 

とは言え、後日に破損したガスマスクを抱えて憔悴しきったアーミヤを見た代表は「1個航空師団くらい貸しておけば良かった」と後悔したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





アーミヤの感情ジェットコースター


ちなみにヴォイテクはHOI4ポーランドにて一定の条件を満たすと将軍として雇用できる熊です。
ポーランド王政復古ルートの更に隠しルートに行くと国王にもできます。
MODの話じゃないです、原作仕様です。



だから、ドクターとサベージは、幼いアーミヤが寝静まったことを確認した後、熱い一夜を過ごしたんだよ!
昼間は元気なウサギ娘も、ドクターのアニメイケボで耳元で「シャーロット」なんて囁かれたら即座に腰砕けさ!
それがよう!危険だから荒野に置き去りと来たもんだ、その上やっと再開したら記憶喪失と来やがる!
そりゃ「えぇっ!ドクター何も憶えてないの!?そんなぁ!!」にもなるだろうよ!まったく、罪な野郎だぜドクターはよ!(※独自解釈です)
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