パラドックスはアーツか否か   作:霊藻

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ローリングサンダー

 

ここは龍門から程近い、荒野に放棄された移動都市の一つ。

 

都市に放たれた火はすでに消え、荒れ果てた街並みが静寂に沈んでいた。

かつて人々が行き交っていたはずの大通りと広場は、今や急激な冷気に飲み込まれ、霜と氷があたり一面に張り巡らされている。

舗道は滑るほどの氷に覆われ、街灯の残骸にはつららが垂れ下がり、ひとたび踏み込めば足元が凍りつくほどの寒気が支配していた。

 

氷に支配された異様な静けさの中、突如として響く芝居がかった声が広場にこだまする。

 

 

「さて、君たちに新しいお友達を紹介してあげよう。この舞台での真の主役をどうか拍手で迎えておくれ」

 

 

メフィスト。

彼はレユニオンの部下を多数引き連れ、その中で悠然と腕を広げてみせる。

その口元には狂気じみた笑みが浮かび、指揮棒のように腕を振りながら、

芝居がかった調子で続けた。

 

 

「西北凍原の悪夢と呼ばれた、スノーデビルのお姫様───フロストノヴァだ!」

 

 

その瞬間、より重い冷気が周囲を包み込んだ。

ロドスの偵察隊は反射的に後退し、背筋に走る悪寒を感じ取る。

霜の舞う大通りの奥から、ゆっくりと姿を現す影…………レユニオンの幹部、フロストノヴァだ。

 

彼女の背後には、スノーデビル小隊の兵士たちが数多く控えていた。

しかし、何よりも彼女自身の存在が、場を支配するに足るものだった。

純白の髪が氷の光を帯び、足元に広がる氷の道を踏みしめながら、一歩一歩と進んでくる。

冷気が彼女の周囲を旋回し、呼吸するだけで肺が凍りつきそうなほどの寒さが満ちていく。

 

 

「まずは……獣よりよほど残酷な殺人鬼であるお前から、雪原に放り出して殺すべきだと思うがな」

 

 

フロストノヴァは静かに言い放った。

だが、その言葉には尋常ならざる殺意が込められている。

 

ロドスの偵察隊の面々は緊張を隠せなかった。

アーミヤはわずかに息を飲み、ジェシカは手の震えを抑えようと必死だった。

フロストリーフは静かに獲物を構える。

 

しかし…………メフィストとフロストノヴァ。

レユニオンの幹部二人が集ったこの場において、ロドスの偵察隊の戦力はあまりに小さく思えた。

 

 

 


 

 

 

 

広場の片隅、廃墟の影に身を潜めながら、ドクターとヴォイテクは静かに様子を伺っていた。

渦中からは多少離れている筈なのだが、周囲に漂う冷気が肌を刺すように痛く、吐息すら白く凍りつくほどの寒さだった。

 

ヴォイテクは静かに柱から頭だけを覗かせながら、鋭い視線で敵の配置を観察していた。

 

 

「……これで、大体の戦力は釣り出せたと思われます」

 

 

低く抑えた声で、ヴォイテクがドクターに伝えた。

その言葉を裏付けるように、無線からケルシーの冷静な声が響く。

 

 

『こちらケルシー。君達以外の全偵察隊の帰還が完了した。ドクター、そちらの状況は?』

 

 

ドクターは無線を握りしめ、小さく息を吐いて応じる。

 

 

「こちらも…………そろそろ動く」

 

『了解。では手筈通りに』

 

 

無線が切れ、ドクターは再び視線を戦場へ向けた。

ヴォイテクも同じく、冷静に敵を分析している。

 

 

「この場で最も脅威度が高いのは、あの……フロストノヴァと考えても?」

 

 

ドクターはわずかに逡巡したが、すぐに肯定した。

 

 

「ああ、間違いない」

 

 

フロストノヴァはその場に立っているだけで、周囲の気温を下げ、戦場そのものを自らの有利な環境へと変えている。

彼女が本気で動き出せば、広場一帯が氷に覆われ、瞬く間に戦況は覆されるだろう。

 

ヴォイテクはその返答を聞くと、無言で腰のポーチから一本のスモーク弾を取り出し、ピンを外す。

 

 

「ならば、そちらを優先しましょう」

 

 

そう言うや否や、ヴォイテクは腕を振りかぶり、狙いを定めてスモーク弾をフロストノヴァの足元へ向けて投げつけた。弾は鋭い弧を描きながら、冷気漂う戦場の中心へと飛び込んでいく。

 

スモーク弾は煙を噴出しながら転がり、広場の中央に濃い黄色の煙が広がっていく。

冷気と混じり合ったその煙は、瞬く間に周囲の視界を遮った。

 

そして──

 

 

 

 

 

 

『スモークを確認した……味方に近すぎないか?』

 

『ここはテラだぞ、デンジャークロース!』

 

 

廃都市上空、25mmガトリング砲が火を吹き、閃光と共に砲弾が広場に降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

毎秒30発の勢いで機関砲弾がスノーデビル小隊の隊列のど真ん中に着弾。

小爆発が連続して起こり、衝撃波が吹き荒れる。

吹き飛ばされたスノーデビルが地面を転がり、周囲には爆風に巻き上げられた塵と煙が舞い上がる。

 

 

「な、なんだ……!?」

 

 

メフィストが思わず叫び、状況を理解しきれずに後ずさる。

フロストノヴァもまた、予想外の方向からの攻撃に目を見開いた。

上空を見上げた彼女の瞳に、旋回する飛行ユニット(ガンシップ)のシルエットが映る。

 

 

「……空からの攻撃?」

 

 

一瞬の驚愕。

しかし彼女は即座に冷静さを取り戻し、素早く行動に移った。

 

 

「っ……させるか!」

 

 

冷気が手元に収束し、次の瞬間、分厚い氷の壁が広場に立ち上がる。

砲弾が次々と氷壁に着弾し、激しい衝撃で氷の破片が飛び散った。

 

 

「皆さん、今です!撤退します!」

 

 

アーミヤの指示が響く。

ロドスの偵察隊はこの一瞬の混乱を逃さず、計画通り撤退を開始した。

 

 

「ちっ……!」

 

 

フロストノヴァは撤退していくロドスの影を睨みつける。

 

 

「逃がすものか……!」

 

 

氷の壁を維持したまま、彼女の周囲に冷気が収束する。

次の瞬間、鋭く黒い氷槍が彼女の周囲に複数形成され、切先が視線の先を向いた。その狙いは、撤退を開始したロドスの隊列、そして先頭を走るアーミヤだった。

 

 

「アーミヤ!」

 

 

ドクターの警告が響く。

しかし、氷槍が放たれる寸前。

 

 

轟音と共に、ガンシップから発射された105mm榴弾が炸裂した。

 

 

榴弾がフロストノヴァの氷の壁に直撃し、強烈な爆風が広場を飲み込む。

氷の壁が砕け散り、氷槍も爆発の衝撃に呑まれて軌道を逸れ、アーミヤの頭上をかすめていく。

 

 

「っ……!」

 

 

フロストノヴァは爆風に耐えながらも、攻撃の機会を奪われたことを悟る。

 

 

「航空戦力……ロドスが、こんな戦力を……」

 

「姐さん!ここは危険だ!狙い撃ちにされる!」

 

 

撤退していくロドスの一行を睨みつけながら、彼女は奥歯を噛みしめた。

 

 

「せめてヤツだけでも……!」

 

 

彼女の手元に、瞬く間に数十本もの氷槍が形成される。

壊死を思わせるかの如き黒い結晶が、次の瞬間、空を切り裂くように一斉に飛び出した。

狙いは上空を旋回するガンシップ。

 

 

『うおっ……なんだ、ヤツら対空砲持ってたのか!』

 

 

氷槍が鋼鉄の機体に突き刺さり、ガンシップの外板が一部弾け飛んだ。機体はバランスを崩しながら旋回し、煙を引いて離れるように方向を変える。

しばらく後、攻撃航程を離脱するように飛び去っていった。

 

 

「ふん……」

 

 

空の脅威は退けた、それで形勢を立て直せる……そう思った瞬間。

 

 

「ゴホッ……! ゴホッ……!!」

 

 

胸元を押さえながら、激しく咳き込んだ。

アーツの使用による鉱石病の急性症状、それが彼女の体を蝕む。

フロストノヴァはわずかに歯を食いしばり、ぐらつく膝を無理やり支える。

 

 

「姐さん!」

 

 

スノーデビル隊員も急いで支えにはいるが、そのとき────

 

 

ゴォォ……

 

 

地響きのような低い音が遠くから響いてきた。

 

 

「……何?」

 

 

彼女が顔を上げた先、雲の切れ間から新たな影が迫る。

それは、大小様々な飛行物体の群れ。

代表の送り込んだ航空師団が、まるで死神の群れのように空を覆っていた。

 

 

「……なるほど、誘い込まれたのは我々だった、ということか」

 

 

フロストノヴァは空を睨みながら、小さく息を吐いた。

 

まだ、ここで倒れるわけにはいかない。

 

思わぬ状況に逸る精神を抑え込み、次の戦いに備えるのだった。

 

 

 


 

 

 

 

龍門へと続く荒野の道を、龍門近衛局の車列が砂煙を巻き上げながら疾走する。

レユニオンの目を欺く為に廃都市へと出撃していた督察隊だったが、龍門内部にレユニオンの部隊が出現したとの報告を受け、当初の作戦通り龍門内外からの挟み撃ちによってレユニオンを撃滅する為に龍門へと急行していた。

 

装甲車の中、隊長のチェンと副官のホシグマが、各々助手席と運転席に並んで座っている。

二人の視線の先には、遠く龍門の街が見えていた。

だが、いつもと異なり街の上空には黒煙が立ち上り、風に流されながら不吉な影を作っている。

ホシグマは怪訝そうに眉をひそめた。

 

 

「当初の予定では、被害は抑え込めるはずだと聞いていましたが……」

 

 

チェンも険しい表情でそれを見つめる。

 

 

「……もしかしたら、ウェイ長官が珍しくヘマしたのかもしれないな」

 

 

皮肉めいた口調ながらも、彼女の目には緊張が浮かんでいた。

そのとき、車両の無線機が突如としてノイズを発し、次いで通信が入る。

 

 

『こちらPARADO軍第1近接支援航空団、コールサイン“ハンマー03”。前方2km地点に敵勢力の集結を確認。レユニオンの部隊が車列を狙って配置についている。直ちに停車されたし』

 

 

チェンとホシグマは同時に顔を見合わせる。

 

 

「……待ち伏せだと?」

 

 

ホシグマはすぐに車列の通信チャンネルを開き、各車両に停車指示を出す。ブレーキ音と砂埃が舞い、隊列が次々と減速していく。

チェンは無線機に向かって低く問いかけた。

 

 

「敵の戦力は? どの程度の規模だ?」

 

『おおよそ1個小隊規模だが、地形を利用している。待ち伏せの可能性が高い』

 

「レユニオンも陽動作戦を採っていた、という訳か……」

 

 

チェンが思案しようとした、その瞬間だった。

 

 

『ハンマー03、敵集結地点を攻撃する』

 

 

無線からの冷静な報告とほぼ同時に、空の上で唸るような重低音が響き渡る。

チェンとホシグマが顔を上げると、遠くの空を旋回するガンシップの姿が見えた。

 

次の瞬間、地上に閃光が走る。

 

小気味良い爆発音が続き、遠方の荒野に噴煙がいくつも上がる。

着弾点から巻き上がる土煙が、レユニオンの待ち伏せ地点を瞬く間に呑み込んでいく。

さらに、別方向から侵入した低空飛行する攻撃機の編隊から次々と爆弾が投下され、地表に花火のような爆発を咲かせていった。

待ち伏せしていたレユニオンの兵士たちの姿は、もう煙と炎の中に消えている。

 

 

「……冗談みたいな攻撃だな」

 

 

チェンは半ば唖然としながら、目の前の光景を見つめた。

あれほどの、都市防衛砲とも見間違うような爆撃を浴びせられれば、常人は耐えられるはずもない。

 

 

「ホシグマ、アレの銃口がこちらを向いたとして、耐えられるか?」

 

「命令とあらばやりますが……正直、自信はないですね」

 

 

苦笑混じりの言葉だった。

チェンは腕を組み、深く息を吐く。

 

 

「まったく、これなら我々の出番はないかもな……」

 

 

爆煙の向こうでは、まだ爆発の余韻が荒野に響いている。

 

 

『こちらハンマー03、攻撃終了。目につく敵戦力は完全に殲滅した』

 

 

少し間を置き、続けて通信が入る。

 

 

『ここから先は炎国の領空にあたる。我々の援護はここまでだ、幸運を祈る』

 

 

ガンシップは旋回しながら、ゆっくりと後退していく。

攻撃機の編隊も高度を上げ、地平線の向こうに消えていった。

 

 

「とはいえ、あれだけ派手にやられたら……残りの敵がまともに戦おうと思うとは思えませんが」

 

 

ホシグマが呟き、チェンは空から地表に目を向けた。

荒野には先程まで、レユニオンの待ち伏せ部隊がいたはずだった。

今や焼け焦げた瓦礫と炎の残骸が広がるだけだ。

 

 

「……全車発進、急ぎ龍門に戻るぞ!」

 

 

 

 

 

 




hoi4は第二次大戦が舞台ですが、技術ツリーは一部戦後まで延びてるので、航空機に関してはギリギリ50年代にも足が届くので…

【様子見で取り敢えず出してみた戦力】
大型攻撃機(AC-130相当,現代戦MOD):25機
近接航空支援機(SAAB32~F-100相当):100機
戦術爆撃機(B-45相当):100機
戦略爆撃機(B-47E~Victor相当):100機
大陸間爆撃機(B-36相当):100機

尚、爆撃機達は大抵の場合暇を持て余す模様。
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