パラドックスはアーツか否か   作:霊藻

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局部壊死ー苦難揺籃


火種

哨戒部隊旗艦

ユーフラテス級陸上軽巡洋艦「メコン」艦橋

 

 

強化ガラスと装甲板に覆われた艦橋の窓から、進行してくるチェルノボーグ中枢区画を見据え、哨戒部隊の指揮官である大佐は静かに命令を下した。

 

 

「停船勧告を送れ。目標はウルサスの識別コードを発信しているが、ウルサス政府から公式な回答は一切確認されていない。まずは、こちらからの呼びかけに応じるかどうかを確認しろ」

 

「了解。通信開始します」

 

 

通信士が迅速に作業を進め、全周波数帯域で停船要請が送信される。

 

 

「こちらはPARADO艦隊、哨戒部隊旗艦『メコン』。チェルノボーグから分離した移動都市区画に告ぐ。貴艦の進路上には、チェルノボーグの難民を収容しているキャンプが存在する。直ちに停船、もしくは変針せよ。繰り返す────」

 

 

何回か繰り返してメッセージを送るが、返答はない。

ただ黙々と、中枢区画は轟音を響かせながら進み続けていた。

 

 

「……応答なし。繰り返しますか?」

 

 

大佐は短く息を吐き、言葉を選んだ。

 

 

「いや、威嚇射撃に移る。警告射撃を実施せよ。弾着は目標進路前方に設定」

 

「了解!警告射撃準備!」

 

 

前方にある主砲……152mm三連装砲が回転し、照準が定められる。

 

 

「…………撃て」

 

 

重低音が轟き、一つの砲口から閃光が走る。

弾丸は空を裂き、移動都市の前方の地面に着弾。

砂煙が巻き上がり、爆風が土片を撒き散らす…………しかし、区画はなおも停止する気配を見せなかった。

 

 

「目標の進路、速度共に変化なし、進行を継続しています」

 

 

大佐は静かに頷くと、短く言い放った。

 

 

「ならば…………攻撃だ」

 

 

 

 

 

「全艦攻撃開始」

 

「主砲、撃ち方始め」

 

大佐の指示が飛ぶや否や、「メコン」の152mm三連装砲が唸りを上げた。

巨大な砲塔が火を吹き、発射された砲弾が空を切り裂く。

続いて、随伴する陸上駆逐艦「ラドフォード」「オーシオ」も砲撃を開始。

駆逐艦の127mm連装砲塔が素早く旋回し、続けざまに砲弾を撃ち込んでいく。

 

チェルノボーグ中枢区画に次々と着弾する砲弾。

炸裂する鋼鉄と爆薬が周囲に火花を散らし、区画の外板に爆発の閃光が弾けた。

しかし…………

 

 

「命中確認!目標、速力依然変わらず!」

 

 

観測員の報告が無線越しに響く。

確かに砲弾は側舷に命中し分厚い外板を貫通、飛び込んだ弾頭は区画内部を破壊していた。

しかし、それでも都市区画は止まらない。

 

 

「……やはり軽巡と駆逐艦の砲撃で、あのサイズを削り切るのは難しいか」

 

 

敵は、移動都市の一区画。

巨大な建造物が持つ膨大な体積が、砲撃を受けても致命的な部位への損傷を防ぎ止めてしまい、区画は勢いを削がれないまま進み続けた。

哨戒部隊の152mm砲や127mm砲では外装を打ち抜けても、致命的な損傷を与えるには至らない。

しかし、ここで止めなければ、難民キャンプとの衝突は避けられない。

大佐はすぐに判断する。

 

 

「各艦、砲撃を継続。足回りを狙え、何としても足を止めるんだ」

 

 

 

 


 

 

 

難民キャンプの近傍、地平線の先にうっすらと砂煙を棚引かせながら迫る巨大な影。

ウルサスの移動都市区画が、その威容をもって進行していた。

 

その進路上には、PARADO軍第一艦隊の主力が展開している。

戦艦六隻、軽空母四隻、それを護衛する巡洋艦と駆逐艦が戦列を組み、まるで動く要塞地帯のように待ち受けていた。

 

艦隊の旗艦たる大型戦艦「エウロパ」の艦橋で、一人の老練な提督が静かに双眼鏡を構える。

アンドリュー・カニンガム提督…………現実では歴戦の海軍指揮官であり、冷静沈着な戦略家として知られる人物だった。

 

彼は目の前の光景を慎重に観察し、短く息を吐いた。

 

 

「……やはり、止められてはいないか」

 

 

前方では、哨戒部隊がなおも砲撃を加えている。

あれら艦艇の主砲は、HoI4技術ツリーでも最終版のものであり、自動装填装置が追加された強力な火砲である。

しかし、軽巡洋艦や駆逐艦の火力では、移動都市の前進を阻むには至らない。

ならば、ここで戦艦の出番というわけだ。

 

カニンガムは即座に決断し、手元の通信機に向かって指示を下した。

 

 

「戦艦戦隊を前に出せ、彼奴の頭を押さえて進路を曲げる」

 

 

その号令とともに、六隻の戦艦が一斉に動き出した。

装甲を軋ませながら前進する鋼鉄の巨体から溢れ出る威圧感は、移動都市区画のそれにも引けを取らない。

彼らの主砲は、都市の装甲すらも貫通し得る大口径砲。

今度こそ、この闖入者を止められる筈だった。

しかし…………

 

 

「目標変針!」

 

 

突然、観測員の声が艦橋内に響く。

カニンガム提督が再び双眼鏡を覗き込むと、驚くべきことに、移動都市区画は進路を変えつつあった。

これまで一直線に難民キャンプへ向かっていたその巨体が、緩やかに旋回し始めたのだ。

 

 

「……何のつもりだ」

 

 

進路を変えた移動都市は、難民キャンプから外れるように迂回し、そのまま通り過ぎていく。

まるで、最初からそこを目指していたわけではないかのように。

艦橋内が一瞬、静寂に落ちる。

 

 

「此方の戦力に臆したか…………?」

 

「提督、追撃致しますか」

 

「いや、あのルートでは炎国との協定ラインに近付きすぎる。そうだな……アレが何処に向かっているかは分かるか?」

 

「おそらく……龍門と思われます」

 

「ならば、龍門に伝言を送れ。迎撃を逃れた都市区画がそちらへ向かったとな」

 

 

移動都市区画は彼らを嘲笑うかのように、その巨体を揺らしながら去っていく。

カニンガム提督はその背を見送りながら、何かしらの違和感を拭えずにいた。

 

 

 


 

 

 

龍門の高層ビル群の一角、この都市の主の執務室へと続く広々とした廊下を、二人の人物が並んで歩いていた。

 

一人は、ケルシー。

ロドスの医療責任者であり、同時にその影で数多の計略を巡らせる知将でもある。

彼女の表情はいつも通り冷静沈着で、歩調は決して速くも遅くもない。

 

その隣を歩くのは、PARADOの諮問代表、クローナ。

彼女は歩きながら、手元の携帯端末を操作していた。

画面には、第一艦隊からの報告内容が映し出されている。

ケルシーは視線を向けずに口を開いた。

 

 

「……そちらで判明している状況について、共有してほしい」

 

 

クローナは視線を画面から離し、軽く息を吐いた。

 

 

「こちらの艦隊が、ウルサスの移動都市区画を阻止するために進出。哨戒部隊がまず停船勧告を行いましたが、応答がなかったため攻撃を開始…………ですが、都市区画はキャンプへの接触間近で突如進路を変更。今は、速力を落としながらも真っ直ぐ龍門に向かって来ています。衝突までは推定32時間」

 

 

ケルシーがわずかに目を細めた。

歩みを止めぬまま、低く、しかし鋭い声で問いかける。

 

 

「君は…………いや、PARADOの連合議会は、あの都市区画への攻撃が何を意味するのか、本当に理解しているのか?」

 

 

代表はすぐには答えなかった。

ただ、僅かに視線を巡らせ、壁にかけられた控えめな装飾の意匠を一瞥すると、まるで日常会話を続けるかのような調子で口を開いた。

 

 

「ええ、把握しております」

 

 

軽やかで、何の衒いもない口調だった。しかし、その言葉がただの無頓着から来るものではないことを、ケルシーは容易に察した。

 

「それに」 と、クローナは淡々と続ける。

 

「あの場面で行動を控えれば、果たして我々の立場というものがどのように見られるか…………我が国の鼎の軽重が問われかねません」

 

 

ケルシーは横目でクローナを見たが、表情から読み取れる情報は無い。

沈黙が流れる。

やがて、ケルシーは歩を緩めながら、静かに息を吐いた。

 

 

「…………ウルサスは、これを開戦の口実とするかもしれない」

 

「それは、何時だろうと変わりません…………つまり、彼の国で戦乱の価値を信じる者たちが権勢を誇る限り、こうした事態は何時かまた訪れる…………ならば、いっそ根本から断つことを考えなければならないでしょう」

 

 

まるで、掃除の際に不要なものを処分するかのように、ごく自然な語り口だった。

ケルシーはほんの僅かに目を細める。

そして、絞り出すような声で静かに呟いた。

 

 

「代表、もしや君は……最初から────」

 

 

クローナはその言葉に、ふっと口元を緩めた。

そして、まるで結論を確認するように、簡潔に言い添えた。

 

 

「要するに、ケルシー先生が200年前にやったことと同じですよ」

 

 

 


 

 

 

ウェイ長官との面会は、初めから波乱でしたね。

とりあえず私とケルシー先生は、彼の執務室に行って、都市区画の動きについて話をしました。

あれは明らかに龍門を狙っている動きで、もしかしたら、レユニオンの背後には、龍門に何らかの因縁を持つ者がいるかもしれないと。

そんなことを言ってたら、なんかいきなり…………黒蓑?とかいう黒装束のオジサンが乱入してきたと思ったら、怒りに満ちたチェン隊長がヒートアップしてウェイ長官と親子喧嘩を開始。

チェン隊長は刹那の間に鞘走ったかと思えば、スピード退職からの最後のガラスをぶち破って逃走。

その後、フミヅキ女史が前に出てロドスに都市区画の阻止を依頼────と、なんだか訳の分からない事態になっていました。

 

 

 

「ウェイ長官、我々としても彼の国の歴史的に強硬な対外姿勢は問題視されています。もし、ウルサス帝国の魔の手がここ龍門に伸びた時、我が国が助力する事を約束しましょう」

 

 

代表の言葉に、ウェイ・イェンウはわずかに目を細めた。

 

 

「なるほど。それは心強い申し出だが……貴国が求める見返りは何か?」

 

「求めると言うほどのものではありませんが……我々は、貴方が独自に持っているウルサス帝国議会への連絡ルートを使わせていただきたい」

 

 

ウェイは一瞬目を伏せ、考え込むように指を組んだ。

 

 

「私の持つルートは、確かにヴィッテ議長と繋がっている。しかし、今の混乱した状況では、確実に届けられる保証は無い」

 

 

そう言いながらも、拒否の意思は見せなかった。

 

 

「それについては心配いりません」

 

 

代表が穏やかに微笑む。

 

 

「移動手段はこちらで用意します。必要なのは書簡を一通、目的地まで届けることだけです」

 

 

 


 

陛下の御治世におかれましては、ウルサス帝国がますますの繁栄を遂げんことを、我々PARADO連合議会一同、心より願っております。

 

さて、昨今の情勢に鑑みるに、我々の国と貴国との間にいくつかの不幸な誤解が生じていることは、誠に遺憾であります。

本来、両国が平和的かつ建設的な関係を築くことこそが、両国民の幸福につながると確信しておりますが、一部の不穏な動きがその道を妨げていることもまた否定できません。

 

貴国では以前、古き歴史のように戦の栄光を追い求め、力による支配を良しとする向きもあるように見受けられていました。

しかし、現代の国際社会においては、こうした考え方がむしろ国家の安定を損なうことは、陛下におかれましても、その寛大な統治からして、ご承知のことと存じます。

我々としても、こうした不安定な状況が国家の統治をいかに困難なものとし、陛下が平和の為にいかなる重責を背負っておられるかを深く理解するところでございます。

 

ゆえに、もし不幸にも両国に不和が生まれるのであれば、我々はこの混乱の原因を排除することを厭いません。

ひいては、それが陛下の御政道の円滑な遂行を助ける結果となるのであれば、我々としても本望でございます。

もし陛下の御心に背く者が居るとして、その者は貴国の名誉を損なうような行動に及ぶことの責を問われることになるでしょう。

陛下の、ひいては偉大なるウルサスの御意思に背く者達が然るべき末路を辿るだろうことは、賢明なる陛下におかれましては既にご理解のことと存じます。

そうして不和の芽が取り除かれれば、両国の不幸なすれ違いも、いずれは解消されると我々は信じております。

 

我々はなおも両国の最終的な平和を望んでおります。貴国がこの機会を活かし、より安定した未来への道を共に歩むことを期待しつつ、我々は今後の貴国のご決断を静かに見守る所存であります。

 

陛下におかれましては、どうか御健勝にて国政に励まれますよう、心よりお祈り申し上げます。

 

PARADO連合議会一同

 


 

 

 

 





エウロパ級陸上戦艦
全長:285m
全幅:38m
武装:
・45口径46cm三連装砲 3基
・54口径127mm連装砲 12基
・4連装40mm機関砲 16基
・12.7mm重機関銃 多数
同型艦:
1番艦 エウロパ
2番艦 オリエント


アケメネス級陸上戦艦
全長:275m
全幅:34m
武装:
・50口径406mm三連装砲 3基
・54口径127mm連装砲 12基
・4連装40mm機関砲 16基
・12.7mm重機関銃 多数
同型艦:
1番艦 アケメネス
2番艦 マケドニア
3番艦 ローマ
4番艦 元
5番艦 インカ
6番艦 ムガル


ユーフラテス級陸上軽巡洋艦
全長:180m
全幅:21m
武装:
・47口径152mm三連装砲 4基
・54口径127mm連装砲 6基
・4連装40mm機関砲 8基
・12.7mm重機関銃 多数


テルース級陸上駆逐艦
全長:130m
全幅:15m
武装:
・50口径127mm連装砲 4基
・4連装40mm機関砲 4基
・12.7mm重機関銃 多数



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