パラドックスはアーツか否か   作:霊藻

35 / 42


チェルノボーグ阻止作戦最中


三国と一国

 

 

石造りの壁に囲まれた重厚な会議室。その天井にはヴィクトリア伝統の燭台が吊され、碧色のカーテンと金装飾が空間に厳粛な空気を添えていた。

長い楕円形のテーブルを囲むのは、ヴィクトリア貴族の中でも指折りの影響力を持つ大貴族……その中央、重厚な椅子に掛ける者こそが、ヴィクトリアの権力階級の頂点たる大公爵が一人、カスター公爵であった。

 

年齢を感じさせぬ鋭い視線を持つ公爵は、卓上の報告書に目を落としながら低く口を開く。

 

 

「……PARADOが反逆を企む者達へ肩入れを強めている。これは確定事項と見て良いでしょう」

 

 

会議の出席者たちはざわめいたが、公爵はそれを手で制し、落ち着いた口調で続けた。

 

 

「だからこそ、対処が必要よ。我々は秩序を取り戻さねばならない。それが貴族としての矜持というものなのだから」

 

「しかし、奴らの本拠地はレム・ビリトンの向こう側……ここからはちと遠いですな」

 

 

そこでふと、公爵の目が細められ、声がわずかに含みを持つものに変わる。

 

 

「先日、ウルサスの一部筋から興味深い話が寄せられたわ。名指しは避けられていたけれど、あの帝国が我々の懸念を十分に共有できると。そして……“共同で対処する必要がある”……とも」

 

 

出席者の間に、再び緊張が走る。

しかし、公爵は静かに、決然とした口調で続けた。

 

 

「────この件は……ホープ辺境侯に任せましょう」

 

 

ホープ辺境侯。

本国より遥か東、レム・ビリトンの一角に領地を持つ、カスターの郎党に連なる貴族である。

飛び地となる彼の領地は、ヴィクトリアの権力が地理的な連続性を持たずしてレム・ビリトン内部へと伸びるための結節点となっており、その影響力を維持するための要衝だった。

数年前、PARADO加盟国の一つ、サウスリムにて混乱が発生した際、ホープ侯は「人道的保護」の名に形式を整えた上で、国境沿いの幾つかの街を実質的に併合。

最終的には黙認に近い形で既成事実化された。

つまり……この件においてもその「手腕」を期待されたのである。

 

 

「しかし、ホープ侯の力が徒に増すとなれば、不和の種になるやも知れません」

 

 

卓の一角から控えめながらも声が投げかけられる。

カスター公爵は静かに、ゆっくりと視線を持ち上げた。

 

 

「サルゴンをご存知でしょう? 未だ社会権力が確立されていない未開の部族が入り乱れ、互いに血で領分を塗り替える地。PARADOもまた辺境の連合……あのような場所を下手に統治しようとすれば、心身をすり減らされることになりかねない……」

 

 

彼女はそう言い終えると、淡く笑みを浮かべる。

 

 

「美酒もまた、度を越せば毒となる。甘露に酔いしれ、気付けば足元を崩されているかもしれない。そのような土地であるからこそ……ホープ侯の手腕に期待するとしましょう」

 

 

 


 

 

 

ヴァッサー選帝侯領……中核国家たるリターニアの一角を預かる一人の男は、古びた樫の机に肘をつき、執務室の高窓から差し込む薄い光に目を細めた。

手元には分厚い報告書の一角に挟まれた写真。

そこに写るのは、茶色がかった大地を蹴立てて進む陸上艦艇の姿だった。

ティグリス級陸上重巡洋艦──それは、辺境の連合国家PARADOの保有する戦闘艦の一隻。

金属の外殻は無骨で、ほとんど無遠慮に砲塔を敷き詰め、優雅さや美的感覚など微塵も感じさせなかった。

張り詰めた鋼鉄の線と直線的な輪郭。溶接痕すら露骨に見て取れる装甲板の継ぎ目。

 

 

「……なんと醜いことか」

 

 

選帝侯は鼻を鳴らし、写真を指先で弄んだ。

口元に浮かぶのは薄ら笑い。

だがそれは、見下すようでいて、何処かで己が領域を侵す気配を嗅ぎ取った時の目でもあった。

 

 

「矮小で、細く、余裕のない体。甲板には儀礼の場もなければ、舞台のような広がりもない……ただ考え無しに武具を載せただけの代物」

 

 

彼は静かに言葉を続けた。

 

 

「まるで牙を剥き出しにする飢えた爪獣のようだな。ただ牙を向け、獲物に飛び掛かることしか知らぬ。そういった連中の艦………刃を見せびらかして舞い上がるだけの、野蛮人共の発想だ」

 

 

リターニアの高速戦艦……600m級にもなる巨体にして芸術の域に達した装飾と、悠然とした余裕を持つ艦と比べれば、PARADOのそれはあまりにも粗野で即物的だった。

選帝侯は写真を無造作に机に放り、椅子の背に体を預けると、冷ややかな眼差しを天井へ向ける。

 

 

「獣が分を弁えず牙を剥くなら、我らも剣でそれを鎮めるまで。ウルサスの連中の話、一つ乗ってやろうではないか」

 

 

 


 

 

 

重厚な石材で築かれたウルサス皇宮、その奥深くにある謁見の間は、今日も冷え冷えとしていた。

玉座に鎮座するのは、帝国の至高たる存在…………ウルサス帝国皇帝。

まだ若いその眼差しは、支配者としての鋭さを残しながらも、泥沼のような帝国の統治で削がれた鈍い疲労を滲ませていた。

 

彼の手には、一通の書簡があった。

封蝋を割って読み進めたその内容に、無言のまま時間が過ぎる。

やがて、玉座の下に控える一人の男が静かに口を開く。

 

 

「陛下……私としては、彼等の提案に乗るべきだと思います」

 

 

声の主はヴィッテ議長。ウルサス議会を束ね、皇帝の忠臣として帝国を支えてきた智者である。

その慎重かつ現実的な言葉に、皇帝の眉がぴくりと動いた。

 

 

「なんと!卑劣極まりない蛆虫のような連中とはいえ、余の臣下を差し出せというのか?」

 

 

雷鳴のような怒声が謁見の間に轟く。

皇帝は手にした書簡を握り潰すかのように拳を握り、身を乗り出して問うた。

ヴィッテは一瞬沈黙し、しかし微動だにせず言葉を紡ぐ。

 

 

「陛下、遺憾ながらも、臣下の内にも愚かにして耳を貸すべきではない輩が多くございます。旧い貴族の者たちが今も皇帝陛下のお名前を盾に、ウルサスの名を地に堕とそうとしているのです」

 

 

PARADOの意図は明白だった。

帝国の中で最も厄介な者たちを排除し、その後で穏健派である皇帝を中心とした新たな秩序を『対話可能な相手』として据える。

その為に、戦争を望む旧貴族の勢力を、その権力の源泉………すなわち軍事力ごと破壊したいという意図だ。

 

 

「私は、鮮血による警告以外に、奴らを大人しくさせる方法はないと思います。

他者を恐怖に陥れようとする者は、更なる恐怖で押さえつけるしかありません……………………たとえ私が、こうした手段に強く反対する立場であろうとも」

 

 

皇帝はその言葉をじっと聞き、深く息を吐いた。

眼差しに宿るのは怒りか、苦悩か、あるいは悲哀か。

長く続いた沈黙の末に、ゆっくりと背もたれに体を預けた。

 

 

「ヴィッテ、帝国に確実な忠義を誓うであろう貴族らに書状を………ただし、余は奴らの手で掃除される玉座ではなく、我々自身の手で帝国を立て直すつもりだ。忘れるな、これは屈服ではない」

 

「……承知いたしました、陛下」

 

 

 


 

 

 

 

 

 

────さて、現在のところ我がPARADOと大きな利害関係が存在する国は、ウルサス、リターニア、シラクーザ、ヴィクトリア、レム・ビリトン辺りですね。

そのなかで……こちらに実際に牙を剥いてくる可能性が高いのは、ウルサス、リターニア、そしてヴィクトリアでしょうか。

 

ウルサスは言うまでもなく、テラにおいて軍事大国として有名ですね。国土は広大、多数の兵や大砲を持ち、国民も戦争慣れしてます。

兵の質はまちまちらしいですが、数に任せた圧力は多分世界一ですね。

 

リターニアは、地政学的にウルサスとヴィクトリアという大国の狭間にありながら、いまだ独立を保っているという点で他両国に準じる実力を持ってると考えていいかもしれません。

特に源石術や巫術とか言われる方面に秀でていまして、過去には巫術でガリアの先遣隊を殲滅したとのことで、侮るべきではないですね。

 

それで、まぁ────いちばん厄介なのは、ヴィクトリアでしょうね。

豊かな資源と経済力はともかく、何より面倒なのはその陸上艦隊の規模です。

 

兵力という点に関しては、確かにウルサスの方が多いことは多いのですが……………軍事力というのは結局のところ、どれほど効果的に運用できるかが肝心です。

 

そういう意味で、ヴィクトリアの陸上艦隊は質・量ともに厄介ですね。

インフラの乏しい荒野と平地に囲まれたテラの陸地で、ヴィクトリアの陸上艦隊は高い機動性を発揮します。

ある種の移動基地でもある艦隊で容易に国境を越えて、こちらの本土への直接攻撃を仕掛けられる長距離侵攻能力を持っているという点で、最も差し迫った脅威であると言って良いでしょうね。

 

 

ウルサス軍は、つまり全身を甲冑で包んだ重装の兵士です。

強固な防御力と揺るがぬ質量で、敵の攻撃を受け止め、地を這うようにして着実に前進してくる。

接近されれば脅威ですが、その足取りは鈍いですね。

 

対してヴィクトリア軍は、疾駆する馬に跨がる弓騎兵でしょうね。

一気に遠くから迫ってきて、矢を射かけ、必要とあらば距離を取り、また別の角度から攻撃してくる。

戦略的に考えれば、兵力を効果的に活用できる程度の高い機動力を持つヴィクトリア軍の方が厄介なんです。

 

 

あぁ、ちなみに機動力というのは「俊敏性」ではないですよ。

とある観点から見た機動力の場合、ジャンボジェット機は戦闘機よりも機動性が高いと言えます。

だって、戦闘機が何千kmごとに一々着陸して燃料補給と整備を受けないといけないのに対して、ジャンボジェット機は一回の補給で簡単に1万km先に行けるじゃないですか。

つまり、そういうことです。

 

 

 

────それはともかく、実際にやり合うとして……同時に戦うとなった場合、ヴィクトリアはレム・ビリトンを拠点に攻めてくるでしょうね。

 

であるならば、先ず狙うはレム・ビリトン。

ウルサス軍が荒野をエッホエッホと歩いてくる内に、さっさとそちらの方を片付けてしまうのが一番良いかもしれませんね。

 

 

 

戦争目標は………Vic3でいう「認識の強要」です。

 

 

 


 

 

 

後日、チェルノボーグ事変の調査において、当事者のウルサスや炎国の他、公平性を保つ為としてヴィクトリアおよびリターニアが事後調査への参加を表明することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





機動力の強さは、ゲーム本編で言えばコストや再配置時間が超絶バフを受けて、キャラを考え無しにどんどん配置できるようになること……と言えば強さが伝わりますかね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。