パラドックスはアーツか否か   作:霊藻

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開戦

1097年1月初頭

チェルノボーグ事変における主要な戦闘がほぼ終結。

チェルノボーグ中枢区画が停止。

 

 

1月9日

ウルサス第3軍が国境線付近の主要交易路に展開。

同日、ウルサス第6、7、12軍が南部国境方面に移動を開始。

 

 

1月10日

PARADO第1軍集団第二軍(山下奉文将軍)の24個師団約32万人がウルサス国境外縁部、東西約3000kmに渡る戦線を形成。

 

 

1月12日

ウルサス、炎国、リターニア、ヴィクトリアの四国が連名でチェルノボーグに調査団を派遣。

 

 

1月22日

チェルノボーグ事変調査団が「感染者による重大事件」とする一応の見解を発表

同時に炎国以外の三国により、それに乗じたPARADOによる破壊工作が行われた可能性があると表明される。

炎国は見解を明らかにしていない。

 

 

同日、チェルノボーグへの攻撃は実質的な宣戦布告だとしてウルサス第3軍約8万人が協定ラインを越境。

 

 

 


 

 

「────代表、チェルノボーグ近郊のウルサス軍師団規模部隊が南下を開始……今、協定ラインを越えました」

 

 

この場で代表と呼ばれる彼女は、ロドスにとっての協力者であるが、チェルノボーグでの当事者ではない……そんな彼女に一人の副官が歩み寄るとそっと耳打ちする。

代表も、話を聞きながらそっと空中に何らかのホログラム映像に似た何かを出した。

 

 

「うん、確認。第一艦隊を待機させて……頃合いを見て敵先鋒梯団を横合いから殴打、と。空軍は第一防衛ラインに敵歩兵が張り付き次第、敵後方梯団および兵站線を攻撃。前線空域内のすべての都市が目標……うーん……」

 

 

ホログラム映像を素早く操作しながら、確認するかの様に“戦争の予定”を口ずさむ代表。

その表情に、焦りは微塵も感じられない。

 

 

「動いてるのは…半分くらい?」

 

「はい。現在何らかの動きを見せているのは全ウルサス軍のうち約半数程。旧守派もしくは主戦派貴族に近い部隊のようです」

 

「グリファーブルクの皇帝陛下にこっちの意図は伝わった……けど、戦場で負けるつもりは無いって感じ……か」

 

 

そうして代表は、忙しそうにしているロドス職員に背を向けて、副官たちと共に歩き出す。

 

 

「──そういえば、他国に何か動きは?」

 

「今のところ大きなものは何も。しかしリターニアおよびヴィクトリアに関しては、此方が不利となれば便乗して動くことは確実かと」

 

「今動かない……様子見を決め込んで、一番利が大きそうな所で参戦…?よし、そう来るのであれば──」

 

 

やがて艦の出口にたどり着くかとしたところで、背後から走り寄る音と共に声が掛けられる。

 

 

「────市長さん!」

 

 

その声を聞いた代表は、唐突に立ち止まる。

声の主は、哀しいような、縋るような顔をしたコータスの少女。

そして代表は、ゆっくりと振り返りながらも、困ったような……ばつが悪いような笑みを浮かべた。

 

 

「あー……うん。ごめんね、アーミヤ」

 

 

 


 

 

1月23日

主要路上に展開したPARADO第15歩兵師団が、戦陣を形成し南下してきたウルサス第3軍先鋒と接触。

 

 


 

 

第15師団の前面に兵力を集中させたウルサス軍先鋒は、堂々たる陣形を保持したまま進撃を開始。

重装盾兵を前方展開させ、広く展開した前衛および射手を主軸に、術師による支援体制を構築。

随伴する砲兵と補給部隊も整然と続き、まさに古典的とも言える重厚な軍事行動であった。

 

相対するのはPARADO第15歩兵師団、約1万3千人である。

8万のウルサス軍に対して局所的な兵力は劣勢だったが、戦線の後方に布陣した72門の野戦砲に加えて師団司令部直属の重砲12門を備え、敵陣形全面に対して精密かつ苛烈な砲撃を加える能力を有していた。

 

 

午前10時20分

ウルサス軍先鋒との距離が約10kmを切った時点で、偵察隊からの情報を元に第15師団砲兵連隊が全力砲撃を実施。

砲弾の散布界は先頭の重装兵から後方の術師部隊までを満遍なく捉え、陣形を包み込むような広範囲に渡り着弾。

最初の5分間で投射された砲弾はおよそ800発を超え、彼我の距離感から未だに本格的な戦闘体勢をとっていなかったウルサス軍の前衛部隊1万人はほぼ壊滅。

隊列は混乱し、進軍が完全に停止した。

 

 

「何が“輪無し”だ!輪がある奴らよりご機嫌じゃねーか!!」

 

 

ウルサス第3軍の前衛は、砲撃の奔流によって一瞬で陣形を崩され、混乱の渦中に叩き込まれる。

戦列は切り裂かれ、通信は断たれ、先導の指揮官たちは次々と戦死し、残された兵たちは自らの判断で行動する他なくなっていた。

 

 

「各個に突撃しろ!」

 

 

密集したままでは砲弾の餌食になると悟った兵士たちは、やむなく小隊以下の単位に散開し、地形の窪地や岩陰を利用して前進を試みる。

しかし、その先には想定を超える抵抗が待ち受けていた。

第15師団はすでに縦深のある防御陣地を完成させており、第一線の塹壕からは緻密に設置された機関銃座が、お互いの死角をカバーするように射線を展開していた。

分散したウルサス兵は、塹壕に接近する数百メートルも前にその火線に捕らえられ、次々と倒れていく。

 

盾兵は、分厚い金属製の盾を前に掲げ、強引に突進を試みる。

先民の身体能力に沿うように強化された戦闘盾は、確かに一部の機関銃弾を弾き返し、わずかに前進の余地を与えた。

しかし、機関銃座は一つではない。

左右から浴びせられる十字火線にさらされ、次第に盾が揺れ、歩みが鈍り、ついには立ち往生を余儀なくされる。

 

 

その時だった。

砲撃が一瞬、間を置いたように弱まり、戦場にわずかな静寂が差し込んだ。

 

 

「な、なんだ……?」

 

 

砲弾孔の中、一人のウルサス兵が泥まみれの顔を上げる。

視界の向こう、黒煙の合間を縫ってゆっくりと現れたのは、異形の戦士達だった。

重厚な戦闘服に身を包み、分厚いガスマスクからは複数のチューブが後背の装置へと接続されている。

全身を黒衣で覆うその姿は、もはや人かどうかさえ判然としない。

不気味なガラスのアイレンズを備えたマスクから微かに呼吸音が漏れ、足元には煤けた黒い霧が漂い始める。

 

 

皇帝の利刃────ウルサスに仕える、悪魔の処刑人。

 

 


 

 

午前10時50分

第15師団司令部を1個小隊規模のウルサス帝国近衛兵が強襲。

師団は指揮統制能力を喪失し、順次撤退を開始する。

 

 

同日午後3時

第一防衛ラインを突破されたPARADO第二軍、第1軍集団指揮官バーナード・モントゴメリー元帥の指示によって総撤退を開始。

前線より約100km後方に展開するPARADO第一軍(ヴァルター・モーデル将軍)24個師団が第二防衛ラインを構築。

 

 

1月24日朝

PARADO第一艦隊(戦艦6、軽空母4、軽巡洋艦8、駆逐艦40)がウルサス領内へ逆侵攻を実施。

ウルサス第3軍を援護しようと南下を開始していた高速軍艦艦隊(戦艦1、突撃艦4、砲艦14)を強襲、PARADO航空隊総数240機の先制航空攻撃と艦砲射撃によってウルサス艦隊は壊滅。

第一艦隊は反転南下し、同日中にウルサス領内から離脱する。

 

 


 

 

代表は、椅子に深く腰掛けたまま、静かに前方の虚空に片手を伸ばした。

指先が何もない空間をなぞると、すぐに光の粒が浮かび上がり、HoIの地図が宙に展開される。

薄い光が部屋の壁を照らし、そこに描かれたのは、刻々と変化する戦場の全容だった。

PARADO第二軍が、前線から緩やかに後退を始めている……まるで計算されたような動きで。

 

地図上のウルサス第3軍は、獲物に群がる獣のように後退するPARADO軍の後を追って進み出ていた。

 

 

「そりゃ追ってくるよね……普通に」

 

 

視線を地図の端に移す。

レム・ビリトン──その片隅に配置された複数のヴィクトリア軍が、押取り刀で行動を始めていた。

そして…………宣戦布告のポップアップ。

代表は息をひとつだけ整え、両手を膝に置いたまま、満足そうに呟いた。

 

 

「それでは、名付けて……ルーシの鉄床作戦、開始!」

 

 

その声は、誰に向けられるでもなく。だが、静謐の中に鋭く響き、まるで世界そのものへと命令を下したかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





PARADO陸軍戦闘序列

陸軍長官:ドワイト・D・アイゼンハワー
└軍最高司令部:ゲオルギー・ジューコフ

第一軍集団:バーナード・モントゴメリー
├第一軍:ヴァルター・モーデル
├第二軍:山下奉文
└第三軍:ダグラス・マッカーサー

第二軍集団:コンスタンチン・ロコソフスキー
├第四軍:クロード・オーキンレック
└第五軍:オマール・ブラッドレー

機甲軍集団:ハインツ・グデーリアン
├第一機甲軍:ジョージ・パットン
└第二機甲軍:エルヴィン・ロンメル


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