パラドックスはアーツか否か   作:霊藻

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「地球舐めるな」とは何か?

 

 

 

 

 

「───思ったより強い。こっちは分散して師団を張り付けてるのに対して、相手は一点集中してきたのは確かだけども……えーと、これは……充足率(人員及び装備数量)が全然削れてないのに指揮統制率(組織的戦闘状態を維持できる時間)だけ一気に削られた感じ……」

 

「相手の戦術は『浸透強襲』?……司令部狙いされた感じかな……戦闘正面幅の割に攻撃力は高め(少数で高い戦闘能力を持つユニット)、それに加えてこっちの師団に移動速度とかペナルティが入ってる」

 

「相手は所謂……特殊部隊的なのかな。ケルシー先生が言ってた奴。確かに、前に見た競技騎士みたいなのを何人も並べて一点突破してきたら防ぎ切れないこともあるかな……多分」

 

「……まぁいいか。とりあえずレム・ビリトン方面に集中しよっと」

 

 

 


 

1月26日 21:00

レム・ビリトン領内ホープ辺境侯領

 

 

 

レム・ビリトンの一角、荒野が殆どを占める彼の国において、随一の豊かさを持つ濃密な森林と波打つ丘陵に囲まれた土地に鎮座する中規模移動都市が一つ…………名を「ボタニーシティ」。

 

その中央に存在するのは、ホープ辺境侯の居城。

かつて植民の為の要塞として築かれた此処は、いまや戦の影などどこ吹く風とばかりに、絢爛豪華な社交の場として飾り立てられていた。

燭台の光が天井の絵画を照らし、金銀の食器が並んだ晩餐の席には、華やかな衣装に身を包んだ貴族たちの笑い声が満ちている。

今宵は、ついに始まった戦役を祝しての宴。

ヴィクトリア本国からも貴族や商人が招かれ、贅を尽くした料理と酒が供されていた。

 

「まったくPARADOときたら、随分と無粋な戦争ごっこをしているようですね」

 

椅子にゆったりと腰かけた男爵が、赤ワインのグラスを揺らしながら言った。

 

「ええ、あのような間に合わせの鉄の箱を地面に這わせるだけで、戦になると思っているのですから」

 

と、別の貴族婦人が扇子をひらひらと揺らす。

 

「戦場とは、地を知り、民を掌握し、在り方をもって見せる威光こそが肝要。力を並べて悦に入るのは、蛮族のすることですわ」

 

「しかしまあ、PARADOの兵など、怖れるに足りませんな」

 

金の装飾が施された襟元を撫でながら、太った男爵が口を開く。

 

「聞けば、彼奴らは剣を振るう力もなく、アーツユニットの扱いもおぼつかないとか。ふん、まるで人のカタチをした獣だ」

 

「しかも、その獣を動かしているのが、あの連合議会とかいう平民の集まりでしょう?」

 

細身の貴族令嬢が、くすりと笑って続けた。

 

「畑を耕すのと戦を指揮するのは違いますわ。きっと、砲声を聞いただけで震え上がることでしょうね」

 

「平民を集めただけの頭に、軟弱な兵士……勝敗以前に、もはや様式美を損なっている」

 

そう言って肩をすくめたのは、ヴィクトリア軍から転身した退役将軍。金の肩章がわずかに揺れる。

 

「ですが──」と若い子爵が口を挟む。

 

「それでも、あの連中が逸ったことで、こちらとしては好都合。奴等を退けた暁には、東方にて新しい鉱山権益を獲得できましょう」

 

「わが家の商会も進出の準備を整えております。資源と交易路………奴等が持て余すのであれば、我々が適切に管理して差し上げるのが道理というもの」

 

「まったく、侯も見事なお手並みですな。ヴィクトリア本国にとっても誇らしい戦果となるでしょう」

 

「侯が勝てば、ヴィクトリアの声が、再びあの荒野に響くのですわ」

 

その中心に居るのが、ホープ辺境侯────銀髪に紫の礼服、翡翠のペンダントを胸元に揺らし、冷ややかな笑みを浮かべる中年の男。

辺境侯は、それらの声に目を細めながら杯を傾ける。

彼は一言も発せずに杯を傾けていたが、皆の賞賛が自分に向いていることには十分すぎるほど満足しているようだ。

満ち足りた静けさの中に、自らがこの戦役の導き手であるという自負が滲んでいる。

賑やかな宴席のざわめきの中で、手にした銀の杯をくるくると弄びながら、誰にも悟られぬように密やかに思索を巡らせていた。

 

 

…………PARADO。

滑稽な国だ、と侯は心の底から思っていた。

あの者たちは、何一つとして国際情勢において指手たる者に求められる資質を備えていない。

力は弱く、ひとたび剣を取らせれば、まともに振るうことすらままならない。

弓を扱う技術もなく、満足に弦を引くことなど望むべくもない。

源石術? 笑わせる。

伝統と血統に裏打ちされたヴィクトリアの術師たちに比べれば、まるで何も知らない素人だ。

 

加えて、文明において頼みの綱であるはずの移動都市すら、各国の本格的なそれに遠く及ばない小規模なものばかり。

艦隊も同様だ。急ごしらえで建造された、ひょろ長い小艦が並ぶのみ。

あれでは、まともな艦隊戦など成立するまい。

 

分不相応に背伸びして着飾っただけの脆弱な蛮族…………それがホープ辺境侯の目に映るPARADOの姿だった。

侯は杯の中の赤い葡萄酒を、ゆったりと傾ける。

この戦役に不安など、微塵もない。

いや、むしろ期待すらしていた。

いずれこの地にヴィクトリアの軍旗が翻るのは確実。

ならば、誰がこの辺境の新たな支配者となるか。

答えは明白だ。

ホープ家こそが、カスター公爵家の庇護のもと、南方の地に新たな版図を築く栄誉を得るのだ。

 

侯はちらりと、宴の中央で賑わう貴族たちを眺めた。

彼らも、皆分かっている──この戦いは、始まる前から決していたと。

あとは、勝利の果実を誰が、どのように手にするか、それだけの話である。

カスター公爵に忠誠を誓った者こそが、その恩恵に浴する。

ホープ辺境侯は、椅子からゆっくりと立ち上がり、卓上に杯をそっと置いた。

周囲の貴族たちはざわめきながらも、侯の一挙一動に注目する。

────さあ、始まりだ……自らの名を刻むための、最初の一歩を。

 

 

「さあ、今宵は我らの勝利に────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、地を割るような衝撃音が屋敷を貫く。

 

 

 

耳をつんざく轟音と共に、会場全体が白く閃き、瞬時に紅蓮の火勢が吹き荒れた。

爆風が壁という壁を砕き、天井が剥がれ落ち、絢爛なシャンデリアごと四散する。

柱は爆音に呑まれて粉塵の中に崩れ落ち、貴族たちの悲鳴も、言葉にならぬ呻き声も、すべてが熱と衝撃の奔流の中でかき消された。

 

会場はまるごと破砕され、かつて豪奢な広間だった場所には、瓦礫と煙が渦巻く地獄のような光景が広がる。

瓦礫の隙間で、苦しげな咳と呻きが微かに響く。

高い身体能力と強靭な肉体、驚異的な反射神経によって、爆風から身を受け流した者もいた…………しかし、彼らとて無事ではない。

裂けた服、煤にまみれた顔、血に濡れた手足。

立ち上がれる者は稀で、多くは瓦礫の中で身を起こすのがやっとだった。

 

屋敷は、完全に沈黙した。

そこに在った筈の貴族社会の縮図は、今やただの焦土でしかなかった。

 

火薬の臭いが立ち込める瓦礫の隙間から、ひとりの男が這い出てきた。

服は焼け焦げ、髪には煤がこびりついている。

肩には深い裂傷があり、顔は血と埃にまみれていた………ホープ辺境侯である。

 

彼の上に覆いかぶさるようにして倒れていた者の亡骸が、全くの偶然で彼を守っていたことを物語っていた。

侯は、ほんの数秒、ほんの数歩、その命運の分かれ目を偶然に助けられたことで、かろうじて生き延びていた。

 

「一体、何が………………………」

 

彼は呻きながら身を起こし、目の前に広がる光景を見て言葉を失う。

先程まで歓談と音楽に満ちていた大広間は、無残な廃墟へと姿を変えていた。

割れた柱、砕けた天井、引き裂かれた絨毯。

誇り高きヴィクトリア貴族達の姿は、いまや瓦礫の一部と化し、呻く声すら次第に途絶えていく。

 

「こんなことが……あって、たまるか……! この私が……こんな………!」

 

呆然と立ち尽くし、半ば崩れた壁にもたれかかった。

理解が追いつかない。何が起こったのか、あの夜会はどこへ消えたのか…………

 

地球で言うところの中世的な制度が色濃く残るこのテラにおいて、貴族は単なる名誉階級ではない。

領地の行政・軍事・司法を担う有力な管理者であり、上位の爵位持ちともなれば殆ど一つの州の主である。

そんな辺境侯が招いた多数の官吏、武官、貴族、資産家が、今、一瞬にして失われた。

それは即ち、ボタニーシティ……ひいては辺境侯領の統治システムが、頭脳と神経を同時に喪失したということである。

ホープ侯自身が生き残ったとはいえ、その領域は今や行政的にも軍事的にも、半ば機能不全の状態に陥った。

 

 

 


 

 

 

『“Hunter1-1, SPLASH two Objective Alpha”』

 

『“Hunter1-1, Good SPLASH”』

 

ボタニーシティ上空。

東方から飛来した2機のPARADO空軍所属戦闘攻撃機(F - 3 5 A 相当)は、爆弾を投下する為に開放していた機体下面の爆弾倉(ウェポンベイ)の扉を閉じ、そのまま反転し離脱していった。

高度4000メートルから投下された計4発の2000ポンドLJDAM(レーザー/慣性誘導爆弾)は、機体から照射されたレーザー光の誘導に従って侯爵邸に直撃。

弾体は運動エネルギーによって屋敷の外壁を貫通し、封入されている430kgの高性能爆薬の炸裂によって邸宅は完全に崩壊した。

 

 

 


21:10

 

 

移動都市ボタニーシティの中枢、巨大な運行管制室は、蜂の巣を突ついた様な騒ぎを呈していた。

 

侯爵邸で爆発が起こったとの報が入った直後から、各地の通信線は怒涛のように接続を要求し、モニターに映る地図のあちこちで赤い警告灯が点滅している。

緊急対応の手順書が引き出され、指揮官たちは相次いで指示を飛ばした。

 

「ま、マニュアル持ってきました!」

 

「そこに置いとけ!」

 

「はいっ!!」

 

その流れの中で一人のコータスが、長い耳を揺らしながら両腕に抱えきれないほどの書類を抱えて駆けていた。

彼女はまだ研修明けの新人だったが、真面目な気質で、上官の叱咤にも黙々と従っていた。

だが、誰もが焦りに飲まれていたその時………ふと、彼女は足を止めた。

 

「……あれ、なに……?」

 

管制室の大窓から外を見上げた彼女の瞳が、遠く空に輝く一点の光を捉えた。

星ではない。鳥でもない。

しかし明らかに、この都市に向けて一直線に迫ってきていた。

 

次の瞬間──

 

轟音と共に、閃光が目の前を包んだ。

それは、PARADO軍の戦闘機が放ったAARGM(対レーダーミサイル)だった。

目標は都市の眼とも言える、多目的複合レーダーアンテナ。

インテグラル・ロケット・ラムジェットの推力で高速突入したミサイルは、アンテナの眼前で正確に爆発し、約1万2000にものぼるタングステン弾片を前方円錐形に放射。

アンテナをズタズタに切り裂き、管制塔の上部をまるごと吹き飛ばした。

 

管制室は一瞬にして阿鼻叫喚の修羅場と化す。

 

ガラスが割れ、コンソールが火花を吹き、何もかもが粉々になって降り注ぐ中、コータスの新人は宙を舞い、一際鋭利な金属片が体を裂いて、壁際に叩きつけられた。

 

「……え……?」

 

炎と煙、警報の中で、彼女の意識はまだ現実を捉えきれずにいた。

目の前には穴だらけになったモニター。

震える手を腹に当てると、そこには熱く、粘つく血の感触。

 

「どうして……?」

 

管制室は無力化され、最早誰も都市の現状を確認する術は無くなった。

 

 

 


21:13

 

 

ボタニーシティの外、広大な空を切り裂き、灰色の巨影が滑るように進攻している。

PARADOの戦略爆撃機(B - 1 B 相当)──低高度を滑らかに巡航するその機体は、まるで空を喰らう獣のように重々しく、しかし正確無比に進路を保っていた。

 

「グランドマップ更新……地形データ入力、目標設定完了」

 

先行して飛び込んだ味方機の合成開口レーダーによって得られた、都市周囲の地形・建造物配置・防衛設備の詳細を精密にスキャンしたデータは、阻隔層スレスレに展開している J-STARS(警戒管制機)を中継し、JTIDS(統合戦術情報伝達システム)を通して全部隊へとリアルタイムで共有されている。

事前に構築した諜報網から吸い上げた情報と併せれば、最早敵の何が何処にあるかは一目瞭然だった。

 

「───発射開始」

 

爆撃機の爆弾倉が静かに開き、内部にある複数の巡航ミサイルが懸架されたロータリーランチャーが顕になった。

円筒形に装填されたミサイルはランチャーの回転に従って下面に露出し、次々に切り離されていく。

 

短く空気を焦がす轟音とともに、エンジンが点火し、巡航ミサイルが次々に加速していった。

ミサイル群は緩やかなカーブを描きつつ加速し、すぐに地形に沿った低空飛行に入る。

彼らの目標は、移動都市の外縁に配された都市防衛砲群だった。

 

各ミサイルには、地形データと目標の座標が入力されており、それに基づいて地形追従飛行を行いながら精密に都市を目指していく。

やがて、目視不可能な遠方の闇夜の向こうで、燃え上がる閃光が幾つも浮かび上がった。

それは何の変哲も無い命中を意味していた。

 

機内に歓声はない。

ただ淡々と、第二波の準備の声が響くのみだった。

 

 

 


21:18

 

都市の空を裂くように、鋭い轟音が木霊した。

市民達がいつものように暮らしていた通りが一瞬不気味に照され、遠くの空が紅く染まった。

 

侯爵邸の次に火を噴いたのは、都市の外周を囲う防衛砲台群だった。

高台に据えられた鋼鉄の砲座が、一つ、また一つと黒煙を上げて爆散し、音速を超える衝撃波が都市の建造物のガラスを打ち砕いていく。

 

「何が起こってるの!?」

 

「こ、攻撃されてるのか!?」

 

爆発と火災を見物していた市民たちの間に混乱が走る。

しかし警報が鳴るより早く、次の災厄が都市を襲った。

都市工業区の巨大な源石機械工場群……黒く煤けた煙突が空高く伸び、蒸気と振動を絶え間なく放つその施設の一角が、突如として閃光に包まれた。

 

「ッ──!」

 

爆音とともに、工場の屋根が内側から吹き飛び、厚い鉄骨が歪んで宙を舞う。

高くそびえる煙突は根元からひしゃげ、蒸気の代わりに赤黒い爆炎を噴き上げながら、周囲の建物を巻き込みつつ無残に倒れ込んだ。

 

 

 

 

同時刻

都市南部、陸上艦停泊地。

鉄骨と桟橋で組まれた巨大なドックに並ぶ艦艇の一隻が、甲板から爆煙を吹き出した。

そこへ更に複数の弾頭が命中し、積込準備中だった補給物資や弾薬コンテナが次々と火を噴く。

 

「艦が……!」

 

「物資に火が回る、逃げろ───!!」

 

炎と爆煙が艦の貨物室を焼き尽くし、乗員たちの怒声と悲鳴が混じる中、積み上げられた木箱が次々と爆ぜ、空に舞う。整然としていた港は、一瞬で業火に呑まれた戦場と化した。

 

 

 


21:30

 

 

夜の帳に紛れるように黒く沈む戦略爆撃機の機影が、静かにボタニーシティ中心部の上空に達する。

その機内では複数のランプが赤く点灯し、機体下部の爆弾倉が機械音と共に開いた。

 

「信号捕捉、照準完了。投下準備」

 

「…………投下」

 

その声と同時に、空から鋼鉄の矢が放たれた。

重力に引かれ、地表を目指して一直線に落ちるのは………細長い弾体を持つ大型誘導兵器、“地中貫通爆弾”。

 

標的は都市の心臓部────動力炉に直結する動力伝達区画。

開戦前に収集された同系列の古い移動都市の図面、そしてPARADOの諜報網が掴んだ断片的な情報を統合し、買収した作業員に置かせた誘導用のビーコンによって導き出された一点。

 

重力加速によって運動エネルギーを得た爆弾が誘導に従って落下していき、着弾。

分厚い地表を貫き、強固な主桁に掠って僅かに軌道を反らしながらも、甲板に激しい火花を散らしながら、さらに下層へ貫入。

都市中層、動力配管や補機群の並ぶ中核施設の天板を貫いた直後、遅延信管により中層フロア内で爆発。

凄まじい炸裂音が内部に響き、振動が都市全体に伝播する。数千本の配管が一斉に断裂し、エネルギー分配機構が停止、制御用の端末が次々にブラックアウトしていく。

 

次の瞬間、都市の灯りがふっと消えた。

 

煌々と輝いていた建造物の光が、一つ、また一つと消えていき、最終的には都市全体が暗闇に包まれた。

管制塔、居住区、軍施設――どこもかしこも、エネルギーを失って沈黙する。

 

「……動力切断!バックアップ系統も応答なし!」

 

「これも攻撃だというのか!?」

 

機能停止した都市の中で、何とか足掻こうとする人員が懸命に端末を叩くが、既に、状況は手遅れだった。

 

 

 


22:06

ホープ辺境侯領内 軍駐屯地

 

仄暗いランプの下、粗末な机に腰掛けたループスの女性…………ヴィクトリア軍第7前線歩兵大隊第2テンペスト特攻隊隊長、リタ・スカマンドロス中尉──コードネーム“ホルン”は、外套を椅子の背にかけ、日誌に筆を走らせていた。

無骨な字が、状況の記録と共に紙を黒く塗っていく。

 

「……駐屯地は依然として通常通り。必然的に亡霊部隊の捜査、およびPARADO軍の動向は依然として不明瞭……ふむ」

 

筆が止まり、ホルンはわずかに眉をひそめて息を吐く。

 

ホルン率いる第2テンペスト特攻隊が辺境侯領の駐屯地に派遣されたのは本来、外敵との戦闘のためではなかった。

発端は、亡霊部隊。

突如として活発化・拡大した亡霊部隊のいくつかの行動に、明確な「支援」が付随していると判明した。

偽装された兵装、充実したと見られる補給網、そして…………不可解なまでに膨大な資金力。

 

「……PARADOの関与があると見て、間違いないだろう」

 

そう結論付けられた時、軍高官の一部は驚愕し、他の者たちは静かに頷いていた。

かくして、精鋭であるホルン達テンペスト特攻隊がその追跡と調査の任を受け、PARADOの隣国であるレム・ビリトンの辺境、ホープ侯の領土へと送られることとなった。

任務の建前は「休暇による旅行」。

その実態は、亡霊部隊とPARADOの繋がりを探る、諜報活動を含んだ極秘調査であった。

 

だが、その最中────戦争が始まった。

 

国境が閉鎖され、擬装入国が事実上不可能となった上に、PARADO領を制圧してから捜査を始めれば良いという判断もあって、ホルン達の任務は宙に浮いた状態となってしまったのだ。

今は、どうすることも出来ずに駐屯地のひとつに居候しているとなれば、彼の「白狼」スカマンドロス家の娘とはいえ溜め息の一つも吐きたくなる。

 

 

 

そのとき、コンコンコーンと、夜間にしては賑やかなノック音が響いた。

 

「隊長、入ってもいい?」

 

その声に、ホルンは自然と口元を緩めた。

 

「……バグパイプ?いいわよ」

 

扉が開き、赤毛から特徴的なヴイーヴルの角を覗かせた女性……バグパイプが、トレードマークの明るさと共に顔を覗かせた。手には湯気の立つマグカップを二つ。

 

「こんな夜更けまでお勤めご苦労さま。差し入れにハーブティー淹れてきたべ。ユーカリとリンデンフラワーがあったけど、どっちが隊長の好みか分からなかったから、適当に混ぜた」

 

「それは……味の保証はあるの?」

 

「ま、飲んでみれば分かるって!飲めないものじゃないよ、多分!」

 

軽口を叩きながら机の端にマグを置くバグパイプ。

ホルンは微かに笑いながらそれを受け取った。

香り立つ柔らかな甘味が、ひと時だけ緊張を和らげる。

 

バグパイプはそっとベッドの端に腰を下ろし、手元の茶葉容器に視線を落とした。

 

「そういえば隊長……これ、茶葉が入ってた缶なんだけど……」

 

そう言って、彼女は缶の底をホルンに見せた。

そこには、小さく刻まれたロゴと、見慣れない英字の刻印。

 

「PARADO製、だって書いてあるよ」

 

表面に刻印された金文字のロゴは、この国のものではない。

幾何学的で無駄のない、どこか独特の美しさを持っていた。

それに、缶の造り自体が高度産業機械の存在を匂わせるものでもあった。

 

「未開の蛮族だなんて皆言ってるけど、それが本当ならこんな物、作れないべ。丁寧で、精密で……」

 

バグパイプは不思議そうに眉をひそめた。

 

「……うちらが思ってるほど、粗野で乱暴な連中じゃないのかもって、思い始めてて」

 

ホルンはしばらく黙ったまま、缶の蓋を指先で回した。

 

「……情報の断片だけで敵を測るのは、戦場じゃ危険な行為よ。でも……」

 

そこで言葉を切り、少しだけマグを傾けた。

 

「……あなたの直感も、大事にするべきかもしれないわね」

 

「……やっぱり、何かあるんだよ。あの国には」

 

「そうね。良くも悪くも、見極めるのはこれからに────」

 

ホルンの目は静かに、だが確かに遠くの地平を見据えていた。

 

 

────次の瞬間、強烈な爆音が駐屯地内を駆け巡る。

 

「……今のは!」

 

ホルンが立ち上がるや否や走り出し、扉を勢いよく開いた。

すぐ後ろにいたバグパイプも、茶葉の缶を放り出して後に続く。

 

「あれは、食糧庫の方向……!」

 

二人が駐屯地の中庭に飛び出した瞬間、轟音と共に舞い上がる土煙が目に入る。

遠くの食糧庫が爆炎を上げ、屋根が崩れ落ちていた。

橙色の炎が夜の帳を照らし、兵たちの叫びが飛び交う。

 

「うわっ……完全に襲撃だよ、隊長!」

 

バグパイプが目を見開き、思わず声を上げる。

ホルンは口元を固く引き結びながら、焼け落ちる建物を凝視した。

 

「襲撃……いや、それならもっと高頻度で攻撃が飛んで来る筈……」

 

その時だった。高空から甲高く唸るような異音が響き、空を見上げたバグパイプが叫ぶ。

 

「隊長、上ッ!! ドローンだ、しかも……でっかい!!」

 

夜に溶け込むような流線型の機体────PARADO製の徘徊型兵器(FPVドローン)が、高速で突入してくる。

ホルンはすぐに叫んだ。

 

「全員伏せて!!」

 

二人が地面に身を投げ出した次の瞬間、彼女らの背後……駐屯地の武器庫にドローンが突入。

地面が揺れ、貯蔵されていた源石爆薬の誘爆によって立ち昇った巨大な火柱が夜空を裂く。

武器と弾薬が空中に弾け、猛烈な熱風が二人を地に叩きつける。

 

「うわっ……前言撤回、PARADOはトンでもなくヤバい奴等だべ……」

 

バグパイプが顔を覆いながら呻くと、ホルンも唇をかみしめ、片膝をついて立ち上がる。

 

「少なくとも、蛮族とは呼べないわね……」

 

燃え盛る駐屯地を前に、ホルンの瞳は冷たく、確かに戦場の色を宿していた。

 

 

 

 

 


 

 

1月26日

PARADOがホープ辺境侯領全域に対して大規模航空攻撃を実行。

領内の主要工業区、資源採掘場、インフラ設備、兵站ライン、軍事施設が同時攻撃を受け、辺境侯領の戦争継続能力が根底から破壊される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




現代戦MODマシマシの速攻ですね。
これでも阻隔層のせいでGPSや偵察衛星が使えない分、現実よりデバフかかってるんですよね。


それで、個人的に考える現代兵器の怖さって、火力でも射程でもなく、同じ土俵に立ってないとそもそもマトモに戦ってくれないところにあると思うんですよね。
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