パラドックスはアーツか否か   作:霊藻

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2話です。


店が出た

 

 

 

『cities:skylines』

 

 

 

 

……おおん?

あまりにも唐突で場違いなそれに、思考が止まりかけた。

いやいや、疲れておかしくなりでもしたのか私は。

しかしながら、私の視界には確かにそれがあった。

例のゲームのウィンドウ。

空中に投影されたそれはまるでゲーム画面に映っているもののようで、ちょうど私の視線の位置辺りにあり、逐一視界の邪魔にならないような位置取りがされていた。

私は幻覚でも見るように、しかしそこに確かに存在するそれを目だけで追っていた。

定番の異世界チート能力はハード無しでゲームする能力だったとか……??

 

無視しようかとも思ったが、どうせもう死に逝く身だ、最後に都市開発するのもいいかもと思い直して見つめる事にした。

 

「新しい街を作るとこから……か」

 

基本的にゲームのUIとの違いは無いように見える。

 

 

cities skylinesは都市開発ゲームであり、最初は温帯や熱帯、砂漠、寒帯など様々な気候帯をモチーフにしている幾つかのマップから一つを選び、そこに道路や施設を建てて街を大きくしていく。

今目の前に見えるのは、その最初の画面……所謂マップ選択画面なのだが、デフォルトで選ばれているのは『テラ・ウェイストランド』

 

 

 

見たこと無いマップだ。

温帯マップで、建設に適したエリアはやたら広いものの、資源は鉱石しか見当たらない。

水源も無い。

 

その下の都市名入力欄にはデフォルトで『ノース・カズデル』と入っていた。

 

こっちも初めて見た。

いつもならスプリングデールとかサンタ・クルスとか当たり障りのないデフォルトネームがランダムで入ってるのに。

……まぁいいや、取り敢えず始めよう。

 

 

えーと……次は初期設定で……

『全マイルストーン解除』『資金無限化』『石油と鉱石の無限化』『土砂の無限化』

全部オンだ。どうせ死にかけでプレイする身、今さら縛っても仕方ない。

ランダム災害発生もオフにしとこう。

 

そうして初期設定を終えて、マップを作成する。

いよいよマップが開いて、俯瞰視点の視界に最初に飛び込んできた光景は……

 

 

「うわ、趣味わる……」

 

 

荒野のど真ん中で仰向けに転がっている青髪の少女……つまりは私だった。

何故ゲームでまで現実を見せてくるのか。

そう思いつつ、私は転がっている“私”の隣に一般的な二車線道路を敷設する。

 

 

 

 

ボン!

 

 

 

 

画面内で道路が出来るのと同時に、本体の私の隣でも似たような大きい音がした。

一瞬だけ、煙が顔の前に漂う。

 

 

「な、何……??」

 

 

顔だけ動かして音のした方を見た瞬間に、私は反射的に上半身を起こしていた。

 

 

「…………道路だ」

 

 

そこには、一般的な二車線道路が敷設されていた。

きちんと舗装された路面に、広い歩道付き。途中で途切れている両端は、丸く切り取られている。

ついでに街頭と消火栓も設置されている。

 

 

「これって、ゲームと同じ……」

 

 

それは、まさしくたった今ゲーム内で敷設した道路だった。

 

 

「!!……もしかしたら……」

 

 

ふと、あることに気がつき、ゲーム画面に意識を戻す。

 

このゲームでの住宅地や商店街、産業地区は基本的に、需要に応じてランダムに建物が建造されていく。

プレイヤーがやることは、地区の道路を引いて区画を指定するだけである。

しかし、プレイヤーが好きなタイミングで好きな位置に設置することができる建物が存在する。

それは、都市運営に関わる施設……インフラ関係や警察、消防、学校、公園などに加え、ユニーク施設や特殊施設と呼ばれる都市の価値や住民幸福度を上げる様々な施設である。

美術館や図書館、重要文化財などの文化施設やエッフェル塔、自由の女神など現実の有名処をモチーフにしている建造物が多いが、その中には当然、他の娯楽施設も存在する。

 

 

「…………出た」

 

 

今出した道路に接続するように出現させたのは、ほぼ立方体のような箱型の建物に、ゴテゴテと宣伝用の看板なりを取り付けた、駐車場付きの建物…………ショッピングセンターである。

 

 

「あ……あ……」

 

 

現れたそのショッピングセンターに、最後の力を振り絞って歩いていく。

入り口は鍵が掛かっていたが、2日前に拾ったドライバーを最後の力を以てして刺すように自動ドアのガラスに叩きつけ、破る。

電力が来ていないので当たり前だが、警報は成らなかった。

 

 

「入れた……」

 

 

店内は薄暗く、人は居ない。

当たり前だろう。

何せそもそも街が無いから店員も客も居ないのだ。

内装も、開店準備中の店の雰囲気だが、探せば、確かにそれはあった。

 

バックヤードに積まれている段ボールの蓋を無造作に破る。

中に入っていたのは、ミネラルウォーターのペットボトルだった。

 

 

 

 

 

 

 

「んんっっ!!んっ!んっ!ん──ゲホッゴホッ!!!」

 

 

次の瞬間、反射的に蓋を回してペットボトルを開け放つと、中の水を一気に喉奥に流し込む。

冷蔵保存もされていないそれは温かったが、今の私にとってその程度はどうでも良かった。

 

 

「はぁっ…はぁっ…んっっ!!」

 

 

ヨーロピアンなデザインのラベルが付いている500mlペットボトルを二、三本空にした私は、次の段ボール箱を引きちぎりながら開ける。

そして、中に詰まっていた魚の缶詰をプルタブを引っ張って開けると、獣の如く貪り尽くす。

 

 

「はむっ!あむっ!んんーーー!!」

 

 

食事の喜びに歓喜しながら、パイナップルの缶詰を開けて千切りとった蓋を投げ捨て、詰まっている輪切りのパインにドライバーを突き刺すと、そのまま口に運ぶ。

中にあるシロップの一滴まで残さず啜り取った。

 

 

「はぁ……はぁ…………フゥー………」

 

 

本能のままに満足するまで食物を貪った私は、急な眠気に襲われてそのまま床に転がった。

 

もしかすると、これは死に際に見た夢なのかも知れない。

だとしても、まぁ、死ぬ前に少しでもいい思いを出来たのだから、よしとしようかな。

 

 

そうして私は、瞼が重くなるに任せて、意識を手放した。

 

 

 

 

───

───────

 

 

『─おい─!───は──』

『なん──』

 

 

 

 

「……はっ!」

 

 

唐突に目が覚めた私は、固い床から起き上がり、辺りを見回す。

そこには、空になったペットボトルや缶、汚く破り開けられた箱が散乱していた。

 

 

「もしかして夢、じゃない……?」

 

 

意識を失う前に貪った空ペットボトルを掴みながら、その確かな感触によって現実感を得る。

 

 

「あ、あははは……」

 

 

私は、乾いた笑い声を上げる。

それは、唐突に掴んだ生の実感と、未だ残る混乱によるものだった。

しかし、そのような思考も外的要因によって強制的に止められる。

 

 

『───おーい、そっちは──』

 

「!?」

 

 

人の声。

体感的には久しぶりに聞いたであろうそれに、私は反射的に声を返しそうになったが───寸手の所でそれを抑えた。

特に確固たる理由があった訳ではない、ただ何となく、こんな荒野に居るのが殺気立つ遭難者か野盗くらいしか想像できなかったからだ。

 

 

「(……取り敢えず、様子を伺ってみよう)」

 

 

そうして、私は足音のしない鳥形態になってから、声のする方へと飛んでいく。

どうやら声の主は、小型店舗が立ち並ぶモールの方に居るようだ。

商品棚の陰を経由しながら、そっと目だけを出す。

 

 

「(あれは……)」

 

 

そこでは、屈強な男達が店内を荒らしていた。

人数は3人ほど、全員が剣やら何やらの武器を持っていて、頭には2本の角が生えている。

うわコワ……。

 

どう考えても、アレに助けを求めていい結果に繋がるとは思えない。

か弱い容姿の人間形態で出ていったら十中八九慰み物にされそうだし、鳥形態なら暇潰しのトロフィーハンティングされる気がする。

 

 

「(しかし困ったな……ああいうのが居るとしたら、迂闊に建物は出せない……)」

 

 

取り敢えず、ここは一端離れて───あっ。

 

 

次の瞬間、身体に当たって落ちたインテリアのガラス瓶が、甲高い音を立てて割れた。

 

『なんだ!?』

 

その音で、角付きの男達は一斉に振り返る。

いつでも剣を振れるように握りながら向かってくる男達。

狭い店内に隠れられそうな場所は意外と無い。

 

 

「(しょうがない、一か八か!)」

 

 

私は、人間形態に戻ると、力の限り走り出した。

少なくとも、走る方が鳥形態で飛ぶより多少速い。

 

が、当たり前だが男達の方がもっと速い。

 

 

「何かないか、何か!」

 

 

走りながら他にもいい感じの能力に目覚めてないか、目の前のゲーム画面を弄くる。

どうやら色々と“モード”を切り替えられるらしいそれを使おうとしてみたものの………

 

 

 

『Hearts of Iron』

パラドックスインタラクティブ発売の第二次世界大戦を舞台にした戦略SLG。

しかし、自分の国どころか街すら持ってない私には徴兵できる人的資源も備蓄してある武器兵器も無い!!

 

 

『Europa Universalis』

パラドックスインタラクティブ発売の15~19世紀初頭、いわゆる近世を舞台にした戦略SLG。これも同上!!!

ついでに資金無限化はcities skylinesの資金だけっぽいので傭兵団も雇えない!!!

 

 

『Victoria』

パラドックスインタラクティブ発売の19~20世紀初頭、いわゆる近代を舞台にした戦略SLG。

同上!!!

 

 

『Stellaris』

パラドックスインタラクティブ発売の西暦2200年以降の銀河を舞台とした4Xグランドストラテジーゲーム、つまり探索ありの戦略SLG。

なんかこの星はタロス星系に属するテラとかいう惑星みたいだけど……前FTL(超光速)文明というか前宇宙進出時代だから星系基地も宇宙艦艇も無い!!!

あと惑星特性「阻隔層」って何だろう。

 

 

──と、今すぐ役立ちそうなものは存在していなかった。

 

 

「それなら……!!」

 

 

瞬時に意識をcities skylinesに戻して、建造物解体モードで今居るショッピングセンターを解体。

 

『──!?』

『────!!?』

 

急に建物が消えたことに驚き立ち止まった男達。

 

よし、好機!!

私は、右手を伸ばして男達に振り返った。

 

 

…………cities skylinesには、DLCをダウンロードすることで面白い機能が追加される。

それは、自然災害をモチーフにした各種建造物やシナリオ、システムのDLCなのだが、その中にとある追加機能が存在する。

 

 

──自分で自然災害を発生させる機能だ。

 

 

地震や津波、竜巻等を狙って起こせるのだが、選べる災害の中に、特に破壊的なものが存在する。

私は遠慮無くそれを選択して、最小規模に設定。

俯瞰視点で遠くに照準を合わせて、発動。

そして、数秒後。

 

 

遥か上空から、超高温を纏って火球となった高速落下物体が、大気を切り裂きながら遠くの地面へと突入。

瞬時に熱転換した運動エネルギーによって凄まじい熱と轟音、衝撃波による爆発的現象が引き起こされ、粉煙と共に特徴的なキノコ雲が立ち昇った。

 

つまり、“隕石落下”である。

 

 

「次は、当てますよ!」

 

 

明らかに動揺している男達に向かってそう叫ぶと、私はすぐに別の操作を実行し、すぐ近くに自動車を出現させる。

cities skylinesのCS版には作った街を歩き回って見物できるモードも存在しており、そこでは車を使って街中を走り回ることも出来る。

これは、それの応用だ。

 

 

「(よし、今のうちに!)」

 

 

素早く、召喚した4ドアセダンに乗り込んでエンジンを始動する。

ゲーム内の車だからか、燃料の有り無しとかを考える必要が無くて助かった。

 

そのままアクセルを踏み込み、未だ右往左往している男達を尻目に砂埃を上げて道無き荒野を走り出した。

 

 

 

 

……………………これからどうしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







主人公の能力で出したものは完全にゲーム的性能ではないものの、完全に現実的性能というわけでもなく、いい感じに折衷したものになってます。

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