突然の盗賊回
「サウスリム」
カズデルの南に作った私の街。
そこで手堅く都市運営を続けていたら、いつのまにか人口が3000人を超えていた。
現実世界なら驚異的発展と言われるだろう。
「産業も順調に回るようになってきたし、そろそろ新市街でも作ろうかなぁ」
中心地とした商店街の中の一つの店、カフェテリアのテラス席に座り、コーヒーの香りを楽しみながら街中を見渡す。
今のところ街の発展は順調であり、些細な操作ミスを除けば特に問題もなく人口は増加している。
このまま大都市を作ったら、もっと南の未踏破地域を探索してみるのもいいかも……なんて、残り少ないコーヒーを啜りながら考えていると、それは起こった。
ドゴーーン!
「!?」
何々!何事!?
突如として、街中に爆発音が鳴り響いたかと思うと、悲鳴やらパトカーのサイレン音やらが響いて来た。
私は慌てて能力を発動すると、俯瞰視点で騒ぎのあった方の様子を見に行く。
するとそこには、攻撃を受けたのか半壊した町外れの店と、そこに集うパトカーのパトランプの点滅が見て取れた。
「盗賊……!?」
警官達が臨時の隊伍を組んで発砲するその先には、先ほどの爆発音を引き起こしたのだろう犯人…………角の生えた男達、いわゆる野盗に堕ちたサルカズ傭兵の集団が続々と街に侵入している。
「不味い、まだ戦力が……」
警官隊は必死に応戦しているものの、この世界の住人はいわゆるホモサピエンスよりも色々と強靭頑丈らしく、旗色はかなり悪い。
総人口3000人程度だと、その中で徴兵可能人数は数十人程度にしかならない。
(Hearts of Iron4の場合、志願兵のみに限れば総人口の1.5%なので45人)
Age of Wondersという中世ファンタジーモノなら数人単位からの部隊を組めるし、実際に大剣を装備したヒーローとそれに付き従う十数人の槍兵を作ってみたものの、それだけだとテラの大地では余りにも非力に過ぎる。
十分な戦力を養うまで襲われるか襲われないかは当初から賭けに近かったものの、今私はその賭けに負けつつある。
「市長!俺たちも出るぞ!」
「任せた!」
住民にしたカズデルドロップアウト組のサルカズ達も武器を手に野盗共に立ち向かっていくが、病み上がり故か、それでもまだ戦況はこちらが押されていた。
「隕石は……ダメ、ここまで乱戦だと味方を巻き込む……!」
剣や槍をぶつけ合う原始的な戦いの中で、私が発揮してしまう火力はあまりにも大きすぎた。
街の非常時に役立てない自分が腹立たしい。
その時、ふとあることを思い出す。
「…………そうだ、今なら“アレ”が使える!」
急いで能力を発動すると、指先で大がかりな操作を実行し…………以前は使えなかった「とあるシステム」を発動した。
『警官隊およびサルカズの皆さん、無理に野盗を撃退しなくてもいいので、できる限り遅滞させてから防御を固めて下さい!!』
「──よーし、お前ら!今の無線は聞いたな!」
サルカズ同士で相争う戦場と成り果ててしまったサウスリム市内に、市長だという青髪のリーベリの声が無線越しに響く。
それを聞いたサルカズ達は手慣れた様子で撤退戦の役割を決め、遅滞戦闘に移った。
同時に、サンクタでもないのに銃を使うサウスリム警官の負傷者の回収まで行っているのは、流石に場馴れしていると言えるだろう。
「追撃は緩い……所詮は盗賊、戦いよりも略奪の方が好きだという訳だ」
街の中心部まで後退し、有り合わせの建材や家具で防御陣地を構築するサウスリム勢の前で、野盗らは占領した街のブロックの建物に押し入り略奪を楽しんでいた。
「くそっ、好き勝手しやがる……」
その光景を見て歯噛みするサルカズ傭兵。
彼らがサウスリムに来てまだ日が浅いものの、労働の対価に衣食住が保証されている環境は何物にも代えがたく、ここでの生活は大変気に入っていた。
しかし、今の戦況では街の奪還のために打って出ることも危うい。
そうした膠着状態の中で、段々と時間だけが過ぎていった。
「……どうするんだ市長。奴ら、今の略奪に満足したら新しい獲物を求めて中心部までやってくるぞ」
『大丈夫です。そろそろ援軍が来る筈なので、いつでも反撃に移る準備を』
援軍とは初耳だ。
サルカズ傭兵はそう呟くも、警戒は緩めない。
目の前では、略奪に満足した野盗達が、市街中心部を狙ってバリケードの前に集結し始めていた。
「寝てるヤツも起こせ!来るぞ!」
次の戦いは近い。
両者の緊張が最高潮に達した頃合いにて────
野盗らに攻撃を仕掛ける“第三勢力”が、戦場へと乱入した。
「何だ、味方か……!?」
『来た!皆、あの援軍……“バベル”に合わせて反撃して!』
サングラスを掛けて厳ついシールドを持った男がハンマーを振るうと、野盗の一人が吹き飛んだ。
たまらず野盗も反撃するが、それは彼のシールドによって容易く防がれる。
その後方から、ライフル状の得物を持ったサルカズの男や、杖を持ってアーツを使うリーベリの女性が支援して突破口を開いていった。
そうして、野盗の形勢が崩れた。
「よーし、俺らも行くぞ!!」
それを見たサルカズ傭兵達も、バリケードを踏み越えて野盗目掛けて突撃を始める。
戦況は逆転し、好き勝手していた野盗は一転して狩られる獲物へと成り下がった。
「よし、これなら行ける……!」
優位になった戦場を見て、一息ついて安心した。
何故、いきなり第三勢力であるバベルが現れたのか…………それこそ、能力を使ったからだ。
“Europa Universalis”(以下EU)
ルネサンス期~近世を舞台にしたパラドックスの戦略SLGだ。
このゲームでは大抵の場合、侵略や防衛の為に軍備を整えることになるのだが、その手段の一つとして「傭兵の雇用」が存在する。
方法は単純、雇用画面を開けば近場に本拠地を構える傭兵部隊が一覧表示され、あとはそれを選ぶだけでいい。
都市運営が上手くいっていた為か、EU内で使う資金も徐々に蓄積されており、それは小規模な傭兵団を雇うのに十分な額になっていた。
その中で最初に目についた部隊、カズデルからやってきたサルカズ達も噂していた集団「バベル」を選択して場に展開。
現実でどのような段取りが踏まれていたかは分からないものの、普通の傭兵団よりもかなり速く戦場に到着したバベルの部隊は、その噂に違わぬ力を発揮した。
何はともあれ、これで街の危機は脱した……ということで、これは十分なお礼を尽くさないといけない。
失礼に当たらないように服装を整え、私はバベルの面々に挨拶する為に街へと歩き出した。
「それでは、以後宜しくお願いします」
「こちらこそ、サウスリムはあなた方を歓迎いたします」
淡緑色のクールビューティーフェリーン、ケルシー女史と握手を交わしている私は、端的に言うと機嫌が良い。
何故か?
それは、バベルと協力協定を結ぶことに成功したからだ。
我々がサウスリムにおいてバベルの事務所設立を認め、物資などの面において彼らの活動に便宜を図る。
その代わりに、バベルはサウスリムの安全保障に協力するのと同時に、カズデルとサウスリムの橋渡しとなる。
未だ発展途上のサウスリムにおいて、外界に繋がるバベルとの協力関係は極めて魅力的。
さ・ら・に…………バベルはカズデルの女王とも深い繋がりを持っているらしく、サウスリムの事も口利きしてくれるとのこと。
これでサルカズの盗賊に悩まされる事からも解放されるかもしれない……!
地政学的には自分より強い隣国に保護を求めることなど傀儡化の第一歩なのだが、今のサウスリムじゃ下手したらその前に滅亡しかねない。
ならば、取り敢えずは保護を受けて、もし併呑されそうになったとしても、サウスリムの成長力でゆっくり逆転すればよい。
長期的に見て、この協定は得にしかならない。
野盗に襲われたのは不幸だったけれども、バベルと関係を結べたのは不幸中の幸い。
もしかすると、ようやく運気が向いてきたのかもしれない。
広いテラに息づく街並みは、古くに成立して未だ残っているものもあれば、時代の変化によって新しく生まれた新興のものもある。
そして、各々の理由で手放されたものも。
それら街の在り方は、一つの国の中であったとしても多種多様であり、同じものは二つと存在しないだろう。
しかし、どれほど様相の違う街であったとしても、その成長の過程では、皆等しく外界との繋がりを必要とする。
「サウスリム」
この街は、そういった観点から見れば異様としか言えないだろう。
ここは、テラの既知領域の端。
それは即ち、人や物の物流からは切り離された隔絶の地という意味であり、そこに街を築くのに必要な労力は少なく見積もっても多大と言える。
その上で、サウスリムが成立、成長するにあたって残される筈の痕跡は、異様な程に少ない。
まるで雑多な草のように、ひとりでに街が出来上がったかの如く。
我々、バベルがサウスリムの存在を知ったのは、カズデルの交易相手として商人達の話題の俎上に登ってからであり……その時には、サウスリムは既に端正な街並みを揃えていた。
貿易商に紛れこませて偵察に赴いたオペレーターからは、十分な設備と治安の整った街だとの報告が幾つも上げられた。
そのサウスリムから、バベル宛に救援要請が発せられたのは、幾ばくの時間も経たない内だった。
そうして全てが終わった後、我々はサウスリムと協定を結んだ。
バベルが武力と繋がりを、サウスリムが資金と物資を。
不安定化するカズデルの他に、新たな基盤を欲していたという側面もあるが……その上で、サウスリム市長のリーベリは、逃げ出した盗賊を排除するという名目で、我々に力を見せつけた。
天災と見紛う程の破壊を発揮したその力は、逃げた盗賊を相手にするとしては過剰である。
“相互確証破壊”…………約束を違えれば、容赦はしない。
人畜無害な笑顔の仮面の下から、我々への明確なメッセージだった。
隣国の女王とコネが出来たよ、やったね!