適応能力ダブル持ち(なお宝の持ち腐れな模様) 作:マコ×OR
ゴールまでもう少しなのに……ゴールテープが遠いっす…
「大丈夫っす。キミはきっといいヒーローになれるっすよ」
自分のオリジンは何か、と問われれば、お兄さんの言ってくれたこの一言がそうだろう。
幼稚園に通うぐらいの年齢の頃、僕達は一つの決断を強いられる。ヒーローを目指すか、諦めるかだ。幼い頃に抱いた淡い夢を、抱き続けたまま生きることを許されるか、それを決めるのがあの検査だ。
僕達の大部分は、個性検査という、人生における一大イベントを済ませてから小学校に入学する。そこで明かされる個性がより強ければ強いほど、ヒーローになれる可能性は高まるだろう。本人が望み、適切な努力を積むのならヒーロービルボードチャートJPだって思いのままだ。
だけど、自分はそもそも土俵にすら立てていなかった。自分には当然あると思っていたから、個性を得られる8割だけに注目して、そこから外れた残りの2割に自分がいるなんて考えたことすらいなかったのだ。
そう。自分にはオールマイトのような超パワーも無ければ、エンデヴァーのような炎を出すこともできない。だってそもそも個性がないのだから。そういった超常は個性を持つ人たちの特権だ。
この超人社会においてはしばしば、無個性とはもはや一種の障害であるとも言われる。自分以外の周りのすべての人間が超常をその身に宿しているのに、一人だけ普通である……いや、ある意味周りの人と違うというのは、幼い自分にとっては苦痛だった。
どんなに些細な個性でもいいから欲しかった。首が伸びるだけとか、左腕がめちゃくちゃゴツゴツして硬くなるだとか、それでも十分だった。みんなと同じ場所に立ちたい。それができなくてもせめて、同じ方向を向いて歩いていたい。だが現実は非情で。表ではみんなを助けるヒーローになりたい、と無邪気にはしゃぎつつも、裏ではいつかその夢から覚めて絶望する自分まで想像してしまい、眠れない夜を過ごした。
そうして泣く僕のところに
お兄さんと初めて出会ったのは四歳の頃、東京行きの新幹線の車内でだった。その時の僕は自慢げに、お兄さんが眺めていた静岡限定小学生用防犯ポスター(ver,オールマイト)についてのウンチクを披露していた。するとお兄さんは困った顔を浮かべつつ、そのポスターを僕に渡してくれた。
お兄さんに言われてお母さんの方を見ると、なんとも言い難い微妙な顔をしていた。どうにも僕は、自分の知っている面白い知識に関連するモノや場所を見つけると、それにまつわる知識なんかを伝えたがる、所謂ナードという人種に分類されるみたいだ。それをハッキリ自覚したのはこの時が初めてだった。
オールマイト事務所の前で会ったときには、方陣を回しつつもにこやかに話してくれた。帰りたくないと駄々をこねる自分に妥協案を示して、納得させて帰してくれた。あの職員さんはオールマイトにメッセージを伝えてくれただろうか。今となっては確かめる術などないが、届いていたら嬉しく思う。
検査の結果を受け入れられなかった上、いつも優しくしてくれる母親の泣き顔を見てしまって、家の中ではないどこかに行って何もかも忘れてしまいたかった自分の下に来てくれた時は、ただ現実を受け入れられずにぐずるだけだった僕に、夢を諦めない自分のままでいてもいい可能性を示してくれた。
泣き止まない僕をなだめる為に話してくれた内容は、当時の僕にとってあまりにショッキングな内容だったため、今でもハッキリと覚えている。途中『石を投げる』の部分でドン引きしたのもいい思い出だ。
そのあとに見せてくれた『未来のNo.1ヒーローコスチューム案』は、拙い絵ながらもちゃんと要点を捉えており、幼い僕を大いに興奮させた。公園のベンチでヒーロー談義をしながら未来を語り合ったことも一度や二度ではない。
ヒーローになるために始めたトレーニングも、考案してくれたのはお兄さんだ。『自分はトレーナーの資格とか持ってないっすからねー?』とは言っていたものの、なんだかんだで身体全体をまんべんなく鍛えるトレーニングであったため、身体能力もメキメキ伸びた。
もちろん体格もよくなった。五年生に上がるころには身長も160㎝を超えていたし、そのころには筋肉もさらに付いてきていたから、同じクラスの同級生たちには少し怖がられていたかもしれない…
初めてのファン(ファンと呼んでいいのかは分からないけど)になってくれた子を連れてきたのも、やっぱりお兄さんだ。
その時お兄さんが連れてきた女の子……渡我ちゃんとは、結果的に長い付き合いになった。ごっこ遊びの域を出ないものの、自分が初めてヒーローとして救った人も渡我ちゃんだった。涙ながらに打ち明けられた、彼女の生きる歪な家庭環境を、どうにか改善するべく奮闘した。
渡我ちゃんの家族にとって僕は無関係な赤の他人だったから、当然怒鳴られたし口にするのも憚られるような暴言だって言われた。でもやると決めたからにはどうにかして変えてあげたくて、最後にはもう訳も分からず土下座だってした。
その時の自分にできることなんて、頭を下げて渡我ちゃんと向き合うよう促すぐらいだった。彼女は来年中学生になるらしい。将来は雄英高校に通いたいと楽しげに語ってくれた。花が咲くようないい笑顔だ。自分たちはきっと、彼女を救えたのだろう。
思い返せばお兄さんは本当に不思議な人だ。ある時急に僕と同じぐらいの子供になったかと思えば、同級生になって自分と同じ学校に通いだすし。こちらから頼んでもいないのにオールマイトの写真を贈ってくれたりもする。中には明らかに無茶だと思うような写角から撮られたようなものも散見されるが、あれはどうやって撮っていたのだろうか。
明らかに年上の筈なのに同級生になった件について、お兄さんは『戸籍関係で色々ゴタゴタしちゃったからっすよ…』と微妙にぼかしている。あれでごまかしきれていると思っているのだから本当におちゃめな人だ。
本当に、不思議な人だ。かっちゃんと同じぐらいに隣にいることが当たり前で、飄々としていて掴みどころがない。まるで幻のように。
―――本当に。なんで今、液晶の向こうにいるのだろうか。僕には理解できない。
うおー、自分もついにテレビデビューっすか!念願叶ちゃうっすねー。有名人っすよー