適応能力ダブル持ち(なお宝の持ち腐れな模様) 作:マコ×OR
小学校に入学した自分は、パソコンの変換に甘えっぱなしでめっきり書かなくなってしまった漢字に苦戦しつつも、平穏な学生生活を送っていた。
二度目の小学生生活の中で特に辛いのは、出久くんも、彼をいじめていたかっちゃんくんも含め、周りにいる子が全員幼いから話が合わない事だ。唯一合うものといえばヒーロー関連……まあ楽しそうに話している彼らを見るだけでも楽しいからいいんだが。
それでも授業の時間は退屈で仕方がない。何せ勉強とか学習はORTの得意分野、大学までの知識は書店での立ち読みで押さえている。
さすがに東大のような難関校を目指すなら、もっとしっかり適応しておかないといけないだろうが、今の自分は小学生。四則演算なんて適応せずとも余裕で解ける。というかぶっちゃけ難しさよりも懐かしくて涙が出てくるほうが問題だ。太郎くんと花子さんに再び会う日が来るとは…
そんなこんなで授業時間がまるまる空き時間になった自分は、出久くんのモチベを上げるため、ヒーロー活動中のオールマイトの写真を盗撮するようになった。
……論理が飛躍しすぎだって?いや、待ってほしい。たしかに自分はストーカーだ。だがこれには出久くんのモチベ向上以外のちゃんとした理由がある。オールマイトが『平和の象徴』で無くなってしまうような大事件……例えばオールマイトの死亡事故などを未然に防ぐための苦肉の策なのだ。
正直病気で引退するとかであれば、自分にはもうどうしようもない。だが不慮の事故であったり、急にエンカウントしたゲキ強ヴィランとの戦いで致命傷を負うとかであれば、自分が防げる。なんて言ったって自分はこの世界で最も強い生命体、死亡フラグなんて簡単に折れる。
そんな言い訳をこねくり回しつつ写真を撮ることはや数年。
出久くん家のアルバムが二冊三冊十冊と増え、オールマイト一色に染まってしまい、本人からも『気持ちはスッゴい嬉しいしもっと欲しいんだけど、スペースが無いからできればデータで送ってくれないかな…?』などと言われるぐらいには熱心な追っかけを続けていた。
初めの頃には何度か捕捉されそうな場面もあったが、今では一切気づかれることなく盗撮できる。これも、絶え間なく廻り続ける方陣のおかげだ。
今の自分であれば、やろうと思えば自宅にだって潜入できるだろうが……もうそこは保証外ということで諦めてほしい。
そんな生活を続けて五年生になった頃、オールマイトの顔の画風(信じられないかもしれないが、オールマイトは日本人離れした、非常に彫りの深い顔をしている。昔アメリカでヒーロー活動していたからだろうか?)がいつにも増して濃くなってきた頃。彼の引っ付き虫と化していた自分は興味深い場面に出くわした。
ある時からオールマイトを含め、彼の周りのヒーローや警察までもがピリピリし始めた。ふつうヒーロー、というか社会人は仕事のやり取りをパソコンやメール、電話などを用いて行うものだが、その時には紙媒体でやり取りが行われた。
決まった時間になると係の人が手紙を直接渡しに来る。その中身を見る時オールマイトは決まって渋い顔をするのだ。そして読み終わったら当然のように指パッチンで火を起こして、文書の始末まで行うという徹底っぷり。
というか、電子化の進んだこの平成の時代に江戸時代みたいな文書のやりとりを行う場面を見ることになるとは、まったくオールマイト様々である。
……なんとかその手紙の内容を覗き見ることもできた。どうやらヒーローと公安両方が参加する大規模作戦の指令書のようだ。なんでも『裏社会にて絶大な影響力を持つ伝説的ヴィラン』を討伐するのにオールマイトの力が必要でそのためには云々…
(―――いや絶対コレが死亡フラグっす)
自分の過去読んだラノベの知識から推察するに、おそらくオールマイトはこの作戦に参加することによって物語から退場……平たく言えば死亡するのだ。
そんな……『裏社会にて―――伝説的ヴィラン』などという、シャーロック・ホームズの冒険におけるモリアーティみたいな立ち位置にいる存在とこちらの
こういう戦いの中で、主人公といい関係を築いていたキャラクターたちが悪の親玉にバッタバッタとなぎ倒されていくのだ。自分は詳しいんだ……じゃあ阻止しなければなるまい。
濃い顔をさらに濃くさせて、もはや真っ黒になるんじゃないかというぐらい険しい表情をしたオールマイトの座る椅子の後ろで、自分もこの決戦に介入する決意を固めるのだった。
悪の親玉を誘き出し、罠に嵌めるまでの過程には、きっと凄まじいヒューマンドラマがあったのだろう。まあ自分は見てないが。
書簡のやりとりは何度も、しかし情報漏洩のリスクをなるべく低くするため、頻度は最低限に行われた。そして作戦決行日、巨大な列柱を幾本も有する放水路の中に、件の伝説的ヴィランと、その周囲をズラリと取り囲む精鋭ヒーローたちの姿があった。彼らが武器を向けるのは一人の老人。
だが彼を侮ってはいけない。作戦書によれば彼は間違いなくヴィラン。これまで自分も半信半疑だったが、たしかに、いかにも悪のカリスマといったような雰囲気を纏う壮年の男だった。
「フッフッフ!美味しそうな個性の匂いに釣られて顔を出してみれば、随分とお熱い歓迎だねぇオールマイト?いったいどうしちゃったのかな?キミはこんな小細工を嫌うタイプの人間だったと思うんだけど」
「黙れ!今日こそ、今日こそお前との因縁に決着を着けさせてもらうぞ!AFO!」
両者共に睨み合うだけの時間が続いていたが、そのセリフを皮切りに、それまでの静寂が嘘だったかのように戦闘が始まった。
広大な地下空間はそれ故に位置関係を誤りやすい。だが今回の場合に限っていえば迷う心配もないだろう。絶え間なく連続する戦闘音がビリビリと肌を叩いているからだ。
オールマイトの戦い方は非常にシンプルだ。その磨き上げられた肉体で敵をぶん殴る、シンプルだが、だからこそ分かりやすく強いタイプだ。
一方でオールマイトと殴り合っているヴィラン……オールフォーワンと言っていたか?……わ、ワンフォーオールだったか?は、複数の個性を同時に扱うトリッキーなタイプだ。
(やっぱりいたっすね、ワンピースの黒ひげタイプのキャラクター……しかもそれが悪の親玉の能力……個人的には『個性打ち消し』だと思ってたんすけど)
なんとなく予想はしていた。能力バトルものの定番といえば『能力複数持ち』とか『能力打ち消し』、次点で『能力みたいな小細工一切なしのフィジカルギフテッド』なんかが挙げられるし、それらの特殊能力はジッサイ強いのだ。
一人一個しか能力を持たない世界で、二個も三個も能力を持っているやつがいたら当然強いに決まっているし、その能力を打ち消すやつも強キャラだ。フィジカルギフテッド?言うまでもないだろう。
さて、そんな物語の中でも最強格であろう二人が戦うと、打ち合いのたびに発生する衝撃波だけで分厚いコンクリート製の柱にヒビが入るほどで、そこに他のヒーローが入り込む余地はほとんどない。
遠距離攻撃手段を持つヒーローは背後からペシペシ攻撃を試みているようだが、それもほとんど意味がない。結局、最終的にはオールマイトとヴィランの一騎打ちになってしまうのだった。周りのヒーローは……被害が大きくならないよう努めている。
……そういえば、先ほどから度々、あのヴィランが周囲で待機しているヒーロー達の方に行こうとしているのを、オールマイトが阻止する展開が起こっている。たぶんあのヴィラン、個性を奪うのに何らかの条件があるらしい。触るとか、目を合わせるとか、少なくとも近づかないといけないといった類の条件が課せられているようだ。
(―――おっ、と。危ない危ないっす。時々流れ弾が
「な、なんだ今の…!こっちに飛んできたコンクリが勝手に砕けた!?」
『ソチラモカ!ヤハリ気ノ所為デハナイナ…』
(げ、やばいっす)
誰からも認識されないのを良いことに、危なそうな攻撃が飛んでくるのをコッソリ防いでいたのだが、これ以上やると普通にバレそうだ。
戦闘は丸一日続いた。その途中で幾人かのヒーローが、自分の防ぎきれなかった流れ弾に当たりリタイア。隅の方に寄せていた彼らもかなりの数になったので一度引き、纏めて病院の前に置いて戻ってくると、いよいよ決着がつきそうな雰囲気が漂っていた。互いに満身創痍といった状態だが、両者共に致命傷になるような傷は負っていない。
ヴィランは戦闘中何度も逃走を試みているようだが、その度にオールマイトに阻止されている。始めからまともにやり合うつもりは無く、適当にヒーローの個性を二、三個奪えればそれでよかったのだろう。
「キミってヤツは本当にしつこいな。帰ろうとしているお客さんを引き止めるなんてさぁ、愛しのお師匠サマにマナーとか習わなかったのかい?」
「黙れ!!」
「おっと……僕としてはもう満足なんだけど、それでも」
(SHIT!これでは千日手じゃないか!あと一手、何かしら決め手になるものがあれば―――)
「いい加減個性の一つぐらい頂きたいものだ、ねッ!」
「なッ。しまっ―――」
そう言って偶然孤立していたヒーローの一人に狙いを定める。ヴィランは突然のことに戸惑うヒーローの首元を掴もうと手を伸ばし―――
次の瞬間、幾層にも重なり合った頑丈な鉄筋コンクリートを貫通し、思いっきり地上に打ち上げられた。何十メートルにも及ぶ地層を穿き、伝説的ヴィラン『オール・フォー・ワン』は高度11,000m付近まで吹き飛ばされる。
「ッ゛カッ゛ッ゛―――は?」
全くの意識外から繰り出された一撃は、ヴィランにとって致命傷になった。ぶっとい配水管やら鉄棒があちこちに突き刺さり、大小様々な鉄屑が身体を貫き血を流しながら空を舞う彼の姿は、見る者が見れば醜いハリネズミのようだと言うだろう。
それだけではない。地下数百メートルの所からB29が飛ぶぐらいの高度まで、コンマ1秒にも満たない時間で移動させられるというバグじみた挙動をリアルでさせられたら、尋常な人間でなくとも身体に堪えるものだ。というか普通に人の姿を保っていられるだけでもおかしい。音速なんて軽く超えているようなスピードで移動しているから人間なんて卒業して、ぐちゃぐちゃの肉塊になっていてもおかしくはないはずだ。
それでも辛うじて生きているのは、闇の帝王としての意地だろうか。
(い、いったい何が!?いや、それよりこの傷を癒さなければ!)
「奇襲成功、っす。じゃあ伝説のヴィランさん」
「―――ッ、オマエが!」
「さよならっす」
そして伝説は、怪物に見えた。
巨大な蒼銀の円盤が天蓋を覆うように出現した。円盤の中央は青緑色の光を湛えており、このような状況でなければ、思わず見とれてしまうほどに美しかった。それを背にして手を伸ばす異形の人影がある。背中にオブジェとヘイローを浮かべた人型がこちらに別れの挨拶を告げると同時に、僕は結晶と化した。
だが、地上にいる人間たちの心境は、決して穏やかなものではない。その時東京は真昼時で、太陽が燦然と輝いていた。道行く人々は皆強い日差しに愚痴を吐きながらも、力強く各々の務めを果たしていたのだが、急に辺り一面が真っ暗になった。
彼らは皆一様の空を見上げていた。すると、見よ。銀の円盤が空を覆っているではないか。円盤の中央では蒼い炎が煌々と燃え盛り、どこか異星人の侵略兵器を思わせるような風体だった。
異星人の侵略が起こったら、ふつう人々はパニックを起こすものだ、と考えるだろう。実際私もそのように考えていた。だが、動けなかった。実際には一歩たりとも、指の一本でさえも動かせず、ただこの身を貫く恐怖と絶望に身を任せ天を仰ぐだけだった。自分の周囲にいる人々もみなそうだったろう。一人、また一人と地面にへたり込んだ。中には泡を吹いて気絶してしまう者もいた。
まるで牙を剥く獅子に睨まれたかのような……いや違う。この世界に存在する生命では到底太刀打ちできないと魂で理解させられるような。生物としての格が違う上位存在。霊長の完全上位互換に、この場にいる全ての生命が魅入られていた。
「お、おい見ろ!あそこに人がいる!何だあれ!な、何なんだよ!?」
誰かが叫ぶ。だがよく目を凝らして見ても何も見えない。横を見れば、どうやら目が望遠レンズのように変形する個性の持ち主のようだった。
―――次の瞬間。銀の円盤も、彼の言う人影も、跡形もなく消え去っていた。
静かだった。
誰も、何をする気も起きなかった。けたたましく鳴いていた蝉の声も、人や機械の出す音も、一切ない。ただ音の無い街が広がっていた。脂汗がじっとりと滲んで、髪が張り付いて気分が悪い。太陽が目を刺すように輝いて痛くて仕方がない。それでも上を向いたまま動くことができなかった。
やがて、テレビ越しに聞くような有名ヒーロー達の声が響く。
「みなさーん!!あ、あの怪物はもういませーん!!安心してくださーい!!」
怯え、震え、恐怖で心の底からすくみ上がり、裏返ったような声で懸命に人々に呼びかけるヒーロー達の醜態を、いったい誰が責められようか。彼らの勇気ある言葉のおかげでようやく、私たちは身体の自由を取り戻すことができた。