適応能力ダブル持ち(なお宝の持ち腐れな模様) 作:マコ×OR
最後の方の記憶は殆ど無いが、なんとか最初に宣言した通りに、すべての行程を一週間以内に終わらせることができた。いや、正確にはまだ放火事件の後始末に関するごたごたのせいでヒーローや警察のお世話になっているため、まだまだ全然忙しいのだが、一週間以内にいずくくんへの顔見せするという約束は守ったので…
…いずくくんにはもう三日ほど待ってもらう事になる。そう伝えるとすごく渋い顔をしつつも、強引に作った笑顔で答えてくれた。こんな風に険しい顔をする理由はなんとなく察しが付く、きっととがちゃんの悩みについてだろう。
透明化の能力を手に入れた自分は、人のプライベート空間にも難なく侵入することができる。とがちゃんの持つ悩みだの業だのがどんなものだろうと、まあ事前に知っていれば動揺せずに接することができるはずだ。だが、自分はそういうことをしなかった。
それをやってしまうと自他共に認めるストーカーになってしまうからだ。いずくくんの一件もあったが、自分の中ではまだストーカーではないつもりでいるので、そこの一線は越えたくない。
犯人と被害者が同一人物かつ、被害者が記憶喪失な事件など解決するわけがない。結果即座に戸籍を得てどこかの孤児院にぶち込まれて解放……とはならず、かなりごたごたしてしまった。
まず尋問の最中に戸籍がないことを知らせると、予め考えておいたカバーストーリーを説明した。『どこかのヴィラン組織から逃げてきた実験体じゃないか?』といった話だ。自分は読んだことが無いが、なんとなくアメコミによくありそうな設定で良いと思わないだろうか?どうやら彼らもそのような予想を立てていたようで、なんとも都合がいいバックボーンだと思いながらそれに飛びついた。
産まれは謎の液体が入ったカプセル―――映画で人造生命体が浮かんでそうなアレ―――の中だし、名前なんてものはなく番号で呼ばれていたと説明すれば、言っているこちらが気を使いそうになるぐらい雰囲気が落ち込んで、さながら通夜のような空気感だった。雰囲気を変えるため、そんなにヤバ目の人体実験が行われていたわけではないと伝えると、まだ顔色がマシになった。この世界の人たちちょっとちょろすぎないか?
さて、ここで問題が起きた。そんな実験動物な自分がなぜあんな山奥で燃やされかけていたのかという点だ。
そこまでどうやって行ったのか、はまだいい。なんとか研究員の隙を突いて逃げ出した、必死になって走っていたので研究所の場所とかよく分からないと言えば、曲がりなりにも幼児の外見な自分がたどたどしい様子で喋れば納得してもらえた。
ではあの老人はいったい誰だったのか。メチャクチャ怪しまれたが……自分には分からないの一点張りで通した。だって幼児だからね。しょうがないね。
そんなこんなで尋問を突破し、胸をなでおろす自分だったが、さらなる問題が待ち受けていた。そう、簡単な検査である。
くどいようだが自分の肉体はORTと魔虚羅の間の子、外見こそ一般人類だが、人類の技術で作られた注射針なんか刺さらないだろうし、万が一検査されたら困る。地球上のいかなる生命体とも一致しないDNAを持つ生命……いやそもそも、DNAを持つかどうかすら怪しい存在だ。彼らの尺度に落とし込まれるととんでもないことになる。マジの研究所送りは勘弁してほしい。
そんなことを考えて、もういっそのこと逃げてもう一回作戦を練り直すか、と諦めかけたその瞬間。なんと方陣が廻ってくれたのだ!
土壇場で適応した能力は、あえて名付けるなら『構造変化』。血液、身体の構造などといった肉体の各要素を、現在の外見をベースに作ってくれる能力だ。つまり例えば、美容整形したら初めからそういう顔だったように身体構造や遺伝子が組み変わる能力ということ……なんだかもっと分かりにくくなっているような気がする。
ともあれ、無事人間の血液を提出し検査を終えた自分は、晴れて児童養護施設に入ることができた。長かった戸籍問題もこれでクリアだ。
……まあヒーローの監視付きではあるが。
養護施設の大人たちの隙を見て抜け出していつもの公園に行くと、これまたいつも通りいずくくんがトレーニングをしていた。ただ、とがちゃんのいずくくんを見る目が心なしか熱を帯びているような気もする……自分がいない間に何があった!?もしやいずく君が解決したのか!?すごいないずくくん!
今すぐ15歳形態になって事の顛末を聞いてみたいところではあるが、まずやるべきことを済ませておかなければならない。そう、口裏合わせだ。
現在の自分にはどっかのヒーローによる監視がついている。本当はいらなかったのだが、『キミのいたヴィラン組織が、キミを捕まえに来るかもしれないんだぞ』と言われると、幼児の身としては断ることもできず…
まあなってしまったことは仕方がない。ジャングルジムを昇り降りしているいずくくんに声をかける。
「ぉっ。あ、お、おにーさん!そこのジャングルジムでなにしてるんですか?」
「え?あ、ああ!キミもしかして使う?ごめんね!今降りるよ!」
「あっ、あはは……いいですよーホント…」
「―――え?もしかして……―――お兄さん?」
えっ何いずくくん怖ッ
いずくくんの超能力のおかげで考えていたプランが一気に吹っ飛んだため、手短に要点だけ伝えた後は公園で一緒にキャッチボールをしていた。そうしたらそれを見ていたヒーローにしこたま怒られた。まあ残当である。幼児特有のトンデモ行動の一つということで…
生&至近距離で見る憧れのヒーローの姿に大興奮しかけたいずくくんだったが、そんなヒーローの前で急にカマトトぶり始めた自分の姿を見て急に冷静になり、以降ずっと自分のことをうさみちゃんみたいな顔で見つめ続けていた。
ずっと何か言いたげに口の端をひくひくさせていたが、それでも我慢してしゃべらずにいてくれたので、今度何か埋め合わせをしておこうと思う。それはそれとして、いずくくんの中での自分の評価がグーンと下がった気がするのは気のせいだろうか。
施設に戻った後死ぬほど詰められた自分は、そのまま自分の部屋に戻っているように言われた。今日やることも、監視の目も無くなったので、布団に包まりながら考えていたプランを実行する。
「布瑠部由良由良―――」
さらっと布瑠の言を唱えると、布団の中に真っ白な肌のクソデカい大男が出現した。そう、この大男こそかの有名な八握剣異戒神将魔虚羅である。というか魔虚羅が重すぎるせいで自重でベッドが変な音を立てている。急いで透明にさせてベッドから追い出し、公園に向かわせる。途中で造形を15歳形態に整えてやれば、万が一見つかっても怪しまれることもないだろう。
これでいずくくん&とがちゃんの監督役問題も解決だ。いざとなれば向かわせた魔虚羅も自分の好きに操ることができるので、何か不測の事態が起こった時も安心である。実はこの世界では初となる、しっかりとした造りの布団に身を包んで、自分はそのまま眠りについた。
気付いたらなんか分裂してるっす…怖…