広「ままならないね」   作:羊の脚

1 / 3
広「ままならないね」

p「ままならないですか」

 

広「うん。もう動けない」

 

p「それなら休憩を挟んでから、最後までトレーニングを終わらせましょう」

 

広「…」

 

p「15分後に再開です」

 

広「プロデューサーの、鬼」

 

p「これが好きなんでしょう」

 

広「うん」

 

 

p「ですが、見違えるほどの成長ですよ。準備運動すらままならなかったあの頃と比べればね」

 

広「ふふ。今でも、体力の半分を持っていかれる」

 

p「このままではライブのやり方が限られます。しっかりしてください」

 

広「プロデューサーは、いつだってわたしを元気にする言葉を知ってる」

 

p「学習したので」

 

広「プロデューサーの得意分野」

 

p「あなたが言うと皮肉に聞こえる。不思議ですね」

 

広「そんなつもりはないよ」

 

 

広「プロデューサーはこうして、休日までわたしの面倒に、費やしてくれる」

 

p「そういうものですよ」

 

広「それでも芽の出ないわたしに、苛々しない?」

 

p「そうすればあなたはもっと喜びますか?」

 

広「…どうかな」

 

p「性分ですので。気にせず、励んでください」

 

広「うん」

 

p「といいますか、それがあなたの強みでしょう?周囲の評価を気にせず自分の道を突き進める度胸こそが」

 

広「それ、皮肉?」

 

p「どうでしょうか」

 

 

広「…昔のわたしを、知ってる人たちからは、今でも連絡が来るよ。今となってはもう、恨み言に近いかな」

 

p「鮮烈な才能だったのですね」

 

広「あなたも、間違ってるとは思う?」

 

p「何が?」

 

広「わたしがここにいること」

 

p「さあ。ただ、逆の立場で考えれば、彼らに同情すべきでしょうね」

 

広「…そうかな?」

 

p「そうですよ」

 

 

広「わたしの進路なんて、他人事なのに?」

 

p「…他人事だからかもしれません」

 

広「わたしの、勝手」

 

p「…」

 

広「そう言ったら、プロデューサーはわたしを軽蔑する?」

 

p「いえ。まさにその通りなので」

 

広「そうだよね」

 

p「はい。性癖は人それぞれですし」

 

広「わたしのことマゾだと思ってる?」

 

 

p「どうしたんですか?」

 

広「プロデューサーは、わたしのことを理解してくれてると思ってたのに」

 

p「なんのことですか?」

 

広「辛いことは、楽しい」

 

p「標語のように言われても」

 

広「意地悪しないで」

 

p「嬉しくないんですか?」

 

広「試行錯誤してる?」

 

 

p「辛いことが楽しい人間は、一般的にマゾと分類されるのでは?」

 

広「それはマゾの人に失礼」

 

p「それもそうですね」

 

広「プロデューサーはそんな簡単に、人を分類してしまう人種?」

 

p「それが、あなたの括りですか?」

 

広「…混ぜっ返し」

 

p「そういえば」

 

広「なに?」

 

p「まだ一人でも交流が続いているのですか?」

 

広「…」

 

 

広「一人でもって?」

 

p「はい」

 

広「…連絡は来るって、さっき言ったけど?」

 

p「そうですね」

 

広「何その質問」

 

p「言葉通りです」

 

広「…」

 

広「…そういえば、そろそろ15分経った?」

 

p「あと7分あります」

 

広「…プロデューサーは、わたしの答えに何を期待していたの?」

 

p「期待なんてしてませんよ。そんなもの、あなたにするだけ無駄でしょう?」

 

広「…」

 

広「ねえ。プロデューサーは、わたしが間違ってると思うの?」

 

p「そんなこと、気にするんですか?」

 

広「わたしは間違ってるのかな?」

 

p「全然。あなたはあなたの好きなようにすればいい」

 

p「あなたへ無理強いすることこそが間違いだ」

 

 

広「…そうだよね」

 

広「…わたし、実は、そこまで人とずれてることをしてるつもりはない」

 

p「はい」

 

広「苦しい壁を、不可能だって思うような崖を、登り続けて得られるものがある。途中で落ちようが、落ちまいが。結果を、重んじる人は、いるけれど」

 

p「はい」

 

広「わたしが求めるものは、そこにはない。わかるでしょ?」

 

p「まあ、そうですね」

 

広「…それとは、別の話?」

 

p「どういう話だと思っているんですか?」

 

広「…」

 

p「突き詰めて言えば、あなたの言うことは間違ってないように思えます。理解はあまり得られませんが」

 

広「どうして怒ってるの?」

 

p「怒ってませんよ。どうしてそう思うんですか?」

 

広「…」

 

p「…おっと。もう時間ですね。トレーニングを再開しましょうか」

 

 

広「待って」

 

p「なんでしょう」

 

広「もっと話そう。まだ再開したくない」

 

p「珍しいですね。まあ、構いませんよ」

 

広「…」

 

p「…何をそこまで焦っているんですか?」

 

広「そんな、顔してる?」

 

p「はい」

 

広「…今日のプロデューサーのことが、わからないから?」

 

p「なるほど。では、何をお答えすれば疑問が解消されて、トレーニングに戻れますか?」

 

広「…」

 

 

広「プロデューサーは…」

 

広「プロデューサー…」

 

広「…」

 

広「わたしのこと、嫌い?」

 

p「はい?どうしてそうなるんですか…それが、質問ですか?」

 

広「…いや…」

 

p「…」

 

p「というか、意外ですね」

 

広「え?」

 

p「あなたにとって俺は、好きとか嫌いとか言う関係性上にあるんですね」

 

広「…どういう意味?」

 

p「あなたに必要なのは理解者でしょう?期待をして評価する人間ではない」

 

広「…評価されることは嫌いじゃないよ」

 

p「現状を把握し、叱咤激励を繰り返し、あなたの望む苦しい道を提供する者こそが、あなたの求める人間だ。違いますか?」

 

広「…違わ、ないけど」

 

p「それならむしろ好きでいられても、邪魔じゃないですか?」

 

広「そんなこと、ないよ?」

 

p「そうですか?しかし、それこそが、あなたが振り払った人たちだ」

 

広「…」

 

広「…わたしの能力が、好きな人たちでしょ?」

 

p「ええ。ですから、そう言っています」

 

広「そうでしょ?」

 

p「あなたは本質的に、自分が作り上げたものに興味がない。それをどれだけ愛する人がいたとしてもね」

 

広「…」

 

広「…それ、は、悪い、こと?」

 

p「あなたが気にすることでは、ありませんよ」

 

広「…プロデューサー」

 

p「なんですか?」

 

広「わたしのこと嫌い?」

 

 

広「…」

 

広「…あれ?」

 

広「…」

 

広「…プロデューサー、いない?」

 

広「夢…?」

 

広「夢だった」

 

広「…」

 

広「はーっ」

 

広「…それは、そう。プロデューサー、怖かったし」

 

広「すごい汗…」

 

広「…」

 

広「…夢?」

 

 

p「もしもし」

 

広「おはよう…プロデューサー…」

 

p「…何かありました?」

 

広「事故とかじゃないから、安心して」

 

p「…はあ。驚かさないでください。いいですか?段差に気をつけて歩いてくださいね?」

 

広「わたし、おばあちゃん?」

 

p「今日のレッスンのことで懸念事項でも?」

 

 

広「プロデューサー…」

 

p「…」

 

広「プロデューサーは…」

 

p「…はい」

 

広「…わたしのこと、好き?」

 

p「はあ?」

 

広「こわい」

 

p「す、すみません…いえ、ですが、何を言ってるんですか?」

 

広「…」

 

p「…寝ぼけてます?」

 

 

広「わたしのことが嫌いな人はね、たくさんいるよ」

 

p「…?」

 

広「お世話になった人とか、元同僚とか、ここにくることで縁を切った人たち」

 

p「…」

 

広「どうして怒ってるのか、よくわからなかったけど」

 

p「…」

 

広「わたしに問題があったのかもって、今になっては思う」

 

p「そうでしょうか」

 

広「わたしは、本当に、アイドルに向いてない」

 

p「…それはまあ、あなたほど向いてない人もいないでしょうが…だからこそ選んだのでは?」

 

広「そうじゃない」

 

p「なにが」

 

広「…どんどん怖くなる」

 

p「何がですか?」

 

広「…だから、ね」

 

広「…」

 

広「わたしの中で満足して、ある日ふっと、みんなと、あなたの前から消えてしまう」

 

広「そういうこと」

 

 

p「それでもいいですよ」

 

広「…今、それでもいいって言った?」

 

p「はい」

 

広「いいわけなくない?」

 

広「だって」

 

広「ファンの人たち、がっかりするよ?」

 

広「プロデューサーのことも、裏切ってる」

 

広「許せないよね?」

 

広「ずっと自分の夢よりも、わたしを、優先していたのに、勝手に飽きられて」

 

広「あの」

 

広「全部、無駄になった気分に、なるんじゃない?」

 

p「…」

 

p「ファンが惹かれたのは、あなたが道を歩んできたからだ。あなたが歩く姿をずっと見てきた」

 

p「結果だけが全てじゃない。俺は…」

 

p「…」

 

p「…だから、あなたが、いいんですよ」

 

広「………」

 

p「まあしかし…現実問題としては、ファンの間で騒ぎになるでしょうね。そういった面をサポートするのもプロデューサーの仕事です」

 

広「…」

 

p「くれぐれも消える前に声をかけてくださいね」

 

広「…」

 

p「わかってますか?」

 

 

 

広「…プロデューサーは、本当に、優しいね」

 

p「そうですか?」

 

広「…」

 

広「わたしみたいな脆弱な命にまで」

 

p「命は平等ですから」

 

広「ひどい」

 

p「他に吐き出したいことは?聞きますよ」

 

広「ううん。もう大丈夫」

 

p「そうですか」

 

広「プロデューサー」

 

p「なんですか?」

 

広「大好きだよ」

 

p「俺も嫌いじゃありませんよ。それでは」

 

 

広「ふふ…照れ屋さん」

 

広「…ふ」

 

広「…」

 

広「…」

 

広「…わたし、は」

 

広「好きでいられるかな?」

 

広「好きでいたいな」

 

広「あなたと一緒に、ずっと」

 

広「…」

 

広「大好きだよ、本当に」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。