ワタリガラスにカサブランカの花束を   作:櫻木ゆすら

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小話。人の死と、その影響を間近で見る621の話。レッドガン食堂のババアが出ます


間章三

〈621、ミシガンと連絡が取れた。……丁度、G4(ガンズ・フォー)の弔いを行うところだそうだ。来るのであれば、構わない。だそうだ〉

「わかった。行こう」

 自室に待機してしばらくしてから、ウォルターが伝えて来た。来ても構わないとなれば、行くまでだ。部屋全体が僅かに振動する。ヘリが離陸したのだろう。普段通りのブラウスとスカートを纏い、到着の報せを待つ。タブレット端末には、キャノンヘッドのログをいつでも送信出来るようにした。

「……」

 両手を合わせ、指を交差して折り曲げていく。組んだ両手を胸元に寄せ、静かに瞼を伏せる。ウォルターから教わった、簡易的な弔いの方法。自分たちが戦う度に、必ず誰かが死んでいく。それが、たまたまヴォルタだっただけのこと。あまり自覚出来ていないが、怒りの感情のままに解放戦線の人たちもこの手で屠ってしまった。少しずつ、仕事をこなす内に仕事に対して違和感を覚えるようになっていく。この違和感とは、どう折り合いをつけるべきなのだろうか。

(これが、感情だと言うのなら……)

 伏せた瞼をゆっくりと開いていく。“普通の人”は、このような違和感を苛まれながら戦場に赴くのだろうか。だとしたら、あまりにも不快で理不尽だ。こんなもの、戦場において最も負荷がかかるものだ。こんな違和感を抱きながら戦うなぞ、気が知れない。

(要らない。感情なんて……)

 兵器たるC4―621には、こんなものは不要だ。いずれ、限界を迎えて使い物にならなくなってしまう。戦えなくなった自分なぞ、想像したくなかった。そんな自分に、何の価値があるのだろうか。ただ生きるだけなぞ、苦痛以外の何物でもない。

「……?」

 ただ生かされるだけは苦痛である。なぜ、そう思い立ったのだろうか。何も出来ず、ただ生かされているだけの環境に身を置いたことがあるような。深くそれについて考えようにも、霞がかったような、焼き焦げたものを読むような。もう、情報を取得出来ない残骸から情報を取得するような感覚。これ以上、考えるのは無駄だ。大人しく到着を待つことにした。

 

 

 ベイラムの駐屯地にて、一機の輸送ヘリが降りてくる。独立傭兵レイヴンのものだ。ヘリの降下先では、一人の男が立っていた。礼服を纏ってはいるが、あれはミシガンだ。

「悪いな、ミシガン」

「構わん。こっちだ、G13(ガンズ・サーティーン)

 あの大きな声は鳴りを潜め、淡々と言葉を紡ぐミシガン。なんとなく、この静かながらも獰猛さを隠すことをしない姿が本来の彼なのだと621は感じ取った。ミシガンの後を、ウォルターと共に着いていく。

 少しずつ、人だかりが増えていく。礼服を纏っているのはレッドガン隊員なのだろう。荒くれ者という雰囲気は隠しきれてないが、誰もが皆、散った仲間を想っているというのは伝わってきた。

「総長、どこへ――。おや、なるほど。この可愛らしいお嬢さんがG13(ガンズ・サーティーン)ですか?」

 黒髪の細い黒目の男が話しかけてくる。少しだけ身体を屈んで、じっと全身を見つめられた。

G3(ガンズ・スリー)G13(ガンズ・サーティーン)を献花台に連れて行ってやれ」

「ああ、ヴォルタくんに。わかりました。さあ、お嬢さん。こちらですよ」

 胡散臭いという言葉が脳裏に過ぎった。思わずウォルターを見上げる。着いていけと頷かれ、G3(ガンズ・スリー)と呼ばれた男に着いていくことにした。

 

 

「私は、レッドガンにてG3(ガンズ・スリー)を拝命させて頂いています五花海(ウー・フアハイ)です。以後お見知りおきを」

「……」

 自己紹介をしてくれたが、どうしても名乗る気にはなれなかった。警戒されて当然かと、五花海も答えない621に対して言及することはしなかった。

 ただ、静かに廊下を歩く足音だけが響いていく。微かに、泣いた声、惜しむ声が聞こえてくる。彼は、余程信頼されていたことが伺える。そして、礼服を纏った細身ながらも屈強な黒髪の男が立っていた。

「五花海、ソイツは……」

G13(ガンズ・サーティーン)ですよ、ナイル。ヴォルタくんに、花を手向けに来てくれたそうです」

「こんな子供が――、いや。あのハンドラーが連れているのだったな。これを添えてやってくれ」

 ナイルと呼ばれた男が驚愕の表情を浮かべながらも、すぐに表情が戻る。そして、白い花を手にしたかと思えば、621と目線が合うように屈んで白い花を手渡した。

「……ありがとう」

「礼を言うのはこっちだ。わざわざ、来てくれて感謝する」

「では、行きましょうかG13(ガンズ・サーティーン)

 五花海に先導され、奥へと進んでいく。しばらく歩けば、開けた場所に出る。簡素だが、弔いの場なのだろう。献花台の前に、以前にも見かけた黒髪の青年が一人嗚咽を上げていた。

「ヴォルタ、先輩――」

「レッドくん。次の子のために少しいいですか?」

「五先輩? す、すみま――。G13(ガンズ・サーティーン)!?」

 レッドと呼ばれた青年が驚愕する。涙でぐしゃぐしゃになった顔を礼服の袖でゴシゴシと拭った。

「――そうか、G13(ガンズ・サーティーン)。ヴォルタ先輩に手向けに来てくれたのだな」

「……無理、しないで」

「っ……。貴様に、情けをかけられるとはな……」

 声や喋り方で、彼が依頼の斡旋をしていた青年であることはすぐに分かった。レッドが数歩離れたところで、621はゆっくりと献花台へと足を進める。渡された白い花を、同じように添えていく。胸元の前で両手の指を互いに絡め、瞼を伏せる。安らかに眠れるように、と祈りを捧げる。伏せた瞼を開いてゆっくりと献花台から離れて行く。

「……ありがとうございます、G13(ガンズ・サーティーン)。レッドガンは見ての通りですから、あなたみたいな見目麗しいお嬢さんとは無縁でして。あなたのようなお嬢さんに花を手向けられるなんて、ヴォルタくんの人徳が成したことでしょうかね」

G13(ガンズ・サーティーン)、改めて感謝する」

 五花海とレッドが礼を言う。礼を言われるようなことなのだろうかと戸惑いつつも、621は辺りを見渡した。この駐屯地で、見ていない人物がいる。

「……イグアスは?」

「あ、イグアス先輩は……」

「今は、そっとしてあげてくださいG13(ガンズ・サーティーン)。言伝があるなら聞きますよ?」

 言い淀むレッド、何かあるなら自分にと言う五花海。友を失うという影響力は、凄まじいものらしい。これは、こちらが無遠慮が過ぎた。

「……ごめんなさい、失礼だった。ただ、渡したいものがある」

「渡したいもの?」

「キャノンヘッドのログ。壁越えの時、回収できた」

 二人の表情が強張る。ベイラムは、先の作戦で敗退した側だ。壁越えはアーキバスと独立傭兵レイヴンが成し遂げた。彼らからすれば、複雑な心境になる。

 三人の沈黙を破壊する物音がした。三人が振り返れば、そこには形が崩れた礼服を纏ったイグアスの姿があった。驚愕の表情から、段々と怒りに満ちた表情へと変わっていく。

「イグアス――」

「てめえ、野良犬! 何をしに来やがった!」

 大きく足音を立て、イグアスが621の胸倉を掴む。掴まれた拍子に、621が手にしていたタブレット端末が落ちた。

「あっ、イグアス先輩! G13(ガンズ・サーティーン)は――」

「笑いに来たのか……⁉ おめおめと逃げ帰った俺たちをバカにしにきやがったのか⁉」

 レッドがなんとかして激昂するイグアスを宥めようとする。胸倉を掴まれた少女は、少しだけ驚いた表情をしていた。怒りと、後悔の混ざった赤い瞳がじっと感情が薄い空色の瞳を睨みつけている。

「イグアス、やめなさい。ヴォルタの前ですよ」

「っ……!」

 五花海がそっと、イグアスの腕に手を添えた。そのまま、乱暴に突き放して621を解放させる。慌ててレッドが突き放されてバランスを崩した621を支えた。ありがとうとレッドに礼を言った後に、621は落としたタブレット端末を拾う。画面に多少ヒビが入ったが見る分は問題ない。電源を入れて画面をイグアスに見せる。

「なんだよ……」

「……キャノンヘッドのログ。このデータを、渡しに来た」

 怒りの色は鎮まることはない。だが、驚愕と戸惑い、思案するかのように視線が泳いでいく。意を決したのか、621からタブレット端末をひったくった後、再生アイコンに指を乗せた。

〈たく……。俺も、ヤキが回ったな……〉

 それは、もう聞くことが出来ない声だった。

〈イグアス……、ミシガンの言うことは聞いとけ〉

 まるで、諭すかのような。優しくも真剣な声音だ。

〈あいつは、本社のボケどもとは違う。クソ親父だが、俺らを切り捨てるような真似はしねえ……〉

 静寂となった献花台。誰もが、この残されたメッセージを聞いていた。

〈この作戦を考えたゴミ野郎を、殺してやりたいぜ。おめえは、上手いことサボッたな……。俺も――〉

 ノイズが走る音。これが、撃墜された音だと言うのは言わずとも分かることだった。

「……、ヴォルタ……」

 絞り出したかのような、震えた声。イグアスが、膝から崩れ落ちる。そのまま、タブレット端末を強く抱えた。ヴォルタ先輩と、レッドの嗚咽が混じった声が聞こえる。ヴォルタくんと、五花海の悲しみが混ざった声も聞こえた。

「……」

 悲しみに暮れる彼らに、寄り添うことは出来ない。G13(ガンズ・サーティーン)と呼ばれるようになっても、自分が部外者であることに変わりないからだ。そして、誰かを失う悲しみというものに、実感が湧かない。失って欲しくないというのはなんとなくではあるが、分かる。だが、失ったに対する感情が分からないのだ。

(やっぱり、感情なんて――)

 あんなにも、彼らは苦しんでいるのだ。そんなもの、無い方が良いに決まっている。そして、分からない自分に対してどうしようもない無力感に苛まれる。

 感情なんて、無い方がいい。だが、感情が無ければ彼らに寄り添うことなぞ出来ない。

 必要以上に彼らと慣れ合う必要なぞ無いというのに、どうして寄り添えないことに対して言葉に出来ない何かがあるのか。ただひたすら、悲しみに暮れる三人を621は眺めることしか出来なかった。

 

 

 友を失う悲しみ。死者を想う若者たちを、ミシガンとウォルターは見守っていた。

(友を失う、か……)

 621には、まだ喪失の経験がない。いや、あんな痛みや苦しみなぞ、彼女に経験させたくない。だが、喪失を知らない人間なぞ存在しない。いつかは、この痛みと苦しみに向き合う時がくる。喪失の痛みを覚える程の人間と、出会えていればいいのだが……

「……621だったか。ちゃんと教えておけ、ウォルター。優しさは、時には暴力になるとな」

「……そうだな」

 データを渡すという彼女の意志を尊重し、今回の行動に出た。それは間違いなく、僅かに彼女の中に残っていた人間性の発露とでも言うべき行動だ。どんな形であれ、先立った者のメッセージを渡すということは、様々な感情と意味が生まれる。それを、彼女は理解しきれていないようだった。

「……ミシガン。ベイラムは――」

「言われずとも分かっている。上は、俺たちを潰す気だ」

 ベイラムが壁越えを失敗した。あのG4(ガンズ・フォー)ヴォルタの技量とキャノンヘッドの性能を考えれば、敗退こそはあれど彼が戦死することはまずあり得ないことだった。ベイラムが行ったとされる作戦の記録を洗い直し、ウォルターは考察した。ミシガンの戦略、ナイルの知略、投入されていた戦力の数と質――。辿り着いた仮定は、レッドガンを使いつぶす運用をベイラムが行っているということだった。

 ベイラムからすれば、レッドガンは目の上に出来たたんこぶだ。有能だが、それ以上にはた迷惑な愚連隊。このコーラル争奪戦にレッドガンを投入したのは、ある意味では上層部にとっても好機なのだろう。木星戦争の英雄、未だ健在の歩く地獄たるミシガンを消費させることに。そのついでにコーラルが手に入れば良いというのが魂胆だろうか。

「……ウォルター。つくづく、お前が企業に飼われていないことに気が休まる。猟犬共より先に、お前が真っ先に潰れるのが目に見える」

「……そういうお前こそ。真面目過ぎだ、ミシガン。見限ろうと思えばすぐに出来るだろうに」

「ウチには、食わせてやらないといけない、役立たずが多いからな」

 それが、ミシガンの答えだった。レッドガン全員を率いて、このルビコンⅢから脱出し、ベイラム上層部に一矢を報いることだって出来る。だが、そうすれば全員が無事では済まない。なにより、ベイラムに使われる以上に生き残った後が修羅の道となるだろう。そうさせるくらいならば、隷属を選ぶ。ベイラムの思惑通りに、ミシガンがこの星で倒れたとなればベイラムは撤退するだろう。それまでは、ミシガンは戦い続ける。兄代わりの彼は、将来的に敵になると確定した瞬間でもあった。

「……そうか」

「そろそろ、役立たず共のケツを叩きに行く。ヴォルタのこと、改めて感謝する」

「ああ……」

 だが、彼が敵となるのはもう少し後のことだろう。今は、使い使われの間柄で各々の目的のために戦い続けるだけだ。それが、ミシガンのためでもある。

「ウォルター、戻る前に食堂に寄れ。アラカワにも、顔を見せてやってくれ」

「……わかった。立ち寄ろう」

 アラカワ。このレッドガン部隊で彼らの食事を切り盛りしている女性隊員のことだ。レッドガンにおいては、ミシガン、ナイルに並ぶ最古参とも言える存在だ。若い頃には、彼女の食事に世話になったことがあった。ミシガンがイグアスに叱咤激励する姿を、ウォルターは遠くから眺めていた。

 

 

 途中からミシガンが入ってきたが、当初の目的通りにレッドガンにキャノンヘッドのログを渡すことは出来た。ヘリに戻る前に寄る所があると、歩を進めるウォルターに621は着いていく。先に戻ると言って、着いてこいと言われたからだ。無言で見慣れぬ施設の廊下を歩いていく。

「……ウォルター」

 先に沈黙を破ったのは621だ。先を歩くウォルターの袖を手袋で覆われた義手が掴む。袖を掴まれて、ウォルターは足を止めた。

「どうした? 621」

「……分からなくなってきた。感情というものが」

 621は事あるごとに自分は兵器であると言っていた。このルビコンでの仕事を通して、様々な人間と出会って、確かに彼女の中で変化は出て来た。壁越えは、彼女の価値を示すのと同時に、彼女の人間性の刺激となったようだった。

「ワタシには、要らないモノ。要らないはずなのに、分からないが、嫌になる」

 袖を掴む手に力が入る。彼らが悲しみの中にいるというのは、すぐに分かることだった。だが、それに対して自分がどのようにすべきかが分からない。それが、今621が混乱していることなのだろう。

「……全てを理解しようとするな。特にお前は機微に疎い。それが分かっただけでも上々だ」

「……」

 621の袖を掴む手にそっとウォルターは手を添える。悲しみに寄り添うことは、最も難しいことだ。それが分からないからと言って、自責するものではない。今の彼女に必要なのは、経験と時間だ。こればかりは、早急に解決できるものではなかった。ゆっくりと、621が袖から手を離していく。それを確認してから、ウォルターは再度歩き始める。歩き続けた先にあるのは、この駐屯地の食堂だった。中に入ると、一人の白髪を結んだ屈強な女性が礼服を纏って座っていた。

「誰だい。今は――。懐かしい顔だねえ、ウォルター」

「ああ。久しぶりだ、アラカワ」

 ゆっくりと女性が立ち上がる。ウォルターの顔を見たあと、ウォルターの後ろに隠れていた621の顔を見る。相互の顔を見比べていく女性に621は少し戸惑っていた。

「この子が、新しいG13(ガンズ・サーティーン)かい?」

「そうなるな」

「そうかい……。一回しか会ってない男に会いに来てくれるたあ、ちょいとばかしいい子が過ぎないかい? アンタに似たのかねえ」

「アラカワ、コイツは――」

「分かってる。アンタの新しい猟犬だろ? 顔を見せに来てくれたんじゃ、しょうがないねえ……。賄いでいいかい?」

 アラカワと呼ばれた女性が礼服の上着を脱いでいく。そして、厨房の奥へと向えばエプロンを身に着け始めたのだ。

「アラカワ、顔を見せに来ただけだ」

「だったら尚更さ。お嬢ちゃんもちと顔色が悪い。こういう時こそ、美味い飯を食わなきゃね」

「……量は減らしてくれ。それと、俺一人分でいい。コイツは食が細い。取り分けで十分だ」

「たく。分かったよ、ウォルター」

 注文のやり取りから、アラカワが調理を始めていく。食材を刻む包丁の音と火にかけられ鍋から徐々に水が沸騰していく音が静かな厨房に響いていく。空いている席にウォルターが座り、その隣を621はおずおずと座った。

「ウォルター、あの人……」

「アラカワか? レッドガンに所属している――、まあ、見ての通りのやつだ。元々はAC乗りだったが、今はああして厨房を戦場としている。昔、世話になったことがあるだけだ」

 アラカワに視線を戻していく。調理をする音は、ウォルターがやっている時に聞いたことはある。だが、彼女のそれは凄まじいものだ。音だけでも、最低でも二品を同時進行で彼女は調理している。音的には、汁物と炒め物の音だろうか。食事も必要性が見いだせていないことの一つだが、何故か調理の音は聞いていて懐かしさを覚える。

「安心しろ、621。アラカワの腕は確かだ。……俺も、彼女から教わっている」

 それは少々意外だった。ウォルターのことだ、必要とならば独学で様々なことを習得する。彼の料理は、味覚の認識が鈍い(味蕾は機能しているらしい)621でも美味しいと認識できるものだ。彼に技術を教えた人、となれば自然と彼女の腕も信頼が出来るものになる。そういうことならば、待ってみるのもいいだろう。何より……

(懐かしい音がする……)

 彼女の料理は、多くの人間に手早く行き渡るようにする技術だ。複数の品を同時に作っていく。それでいて、多くの量を作るものだ。それほど過酷な物ではないが、調理の音と言うのは霞がかったところから何かが浮かび上がりそうになる。以前にも聞いたことがあるような、自分でも行っていたことがあるような。そのような感覚だった。

「ほら、お待ち」

 出された品は、鮮やかに黄色く炒められた米類と茶色のスープだった。取り分け用の皿も用意されている。そして、二人分の白く柔らかそうな食べ物もあった。

「懐かしいな、炒飯と中華スープか」

「杏仁豆腐はおまけだよ。可愛いお嬢ちゃんのね」

 ウォルターが炒飯と呼ばれし料理を取り分けてくれる。レンゲと呼ばれるスプーンで掬って口にしてみる。程よい塩味と、べたつかない米の食感。あまり口にしたことの無い風味だが、美味しい、のだと思う。

「お嬢ちゃんの口に合うかい?」

「……おいしい、と思う」

「なら良かった。ちゃんとメシを食いな、お嬢ちゃん。折角、かわいい顔してるんだ。若い頃のアタシにそっくりだよ。でっかくなるには、メシを食ってよく寝ることだよ」

 この義体が成長することはない。そして、食事もまたそう必要されることではない。これは、ただの真似事だ。ただ、悪い印象は抱かなかった。

「アラカワ……」

「美味い飯を食って、寝る。何事でも、それが一番だよ。……、遅くなっちまったがヴォルタに花、手向けてくれてありがとうな」

 戦場に出ること無く、彼らの出撃を見送り、帰還を待つ。それが、彼女の現状。残される側、というのも応えるものがあるのだろうか。感情の複雑怪奇さに、どんどん混乱してくる。

「悪い、年を取るとどうもしみったれになっちまう。さあ、残さず食いな。残したら許さないからね!」

「分かっているさ、アラカワ」

 ウォルターと二人で炒飯と中華スープ、杏仁豆腐をしっかりと食べきった。

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