〈これより、高等傭兵検定を開始します。これまで培った経験を証明してください〉
オールマインドのアナウンスと同時に仮想空間が展開される。目の前には、MTが数機。まずは、ブーストを噴かせて彼我の距離を詰める。マルチロックで捉えたミサイルで牽制を行った。先制を取られたMTが盾を構えながらライフルで迎撃してくる。距離を詰めたことで、パルスブレードによる自動追尾範囲内まで接近出来た。盾持ちMTの一体をパルスブレードで撃破する。
「次」
ブレードの排熱が終わるまで、残る盾持ちとは距離を離す。周囲にミサイルで援護射撃を行うMTをマルチロックで捉え、ミサイルで反撃する。その合間に、ブレードの排熱が終わる。盾持ちへターゲットを切り替え、パルスブレードを振るった。残るMTをライフルとミサイルで迎撃する。ブレードの排熱を確認次第、近場のMTは切り捨てた。これで、MTは一掃出来そうだ。
「っ!」
アラートが鳴り響く。ブーストを噴かせ、背後に振り向く。そこには、次のターゲットたる四脚MTが背負っているロケットの銃口を向けていた。一発こそは貰うが、戦闘を継続する分は問題ない。ライフルで牽制しながら、四連ミサイルを放つ。パルスブレードの接近推力で届く距離まで詰め、パルスブレードの二撃を振るう。ミサイルとライフルの牽制が効いたのか、四脚の盾が割れると共に体勢を崩した。その間に、ライフルとミサイルを撃ち込む。
後はその繰り返しだ。体勢を立て直した四脚のロケットをクイックブーストで回避し、排熱が終わったブレードを振るいACS負荷限界を狙う。ブレードの排熱が終わるまでライフルとミサイルで負荷を溜めていく。再度体勢を崩れたところで排熱が終わったパルスブレードを振るった。四脚の状況としては、限界が近いだろう。体勢を立て直すまでの時間をライフルとミサイルで遅延させる。排熱が終わったパルスブレードで四脚にとどめを刺した。
「あとは……」
背後を振り向けば、ターゲットが表示されていた。距離を縮めればリニアライフルで先制を取られる。あれは確か、テストモードで相手するトレーナーACだ。最終試験の相手としては申し分ない。ロックオンサイトに捉えたのを確認してミサイルを放つが、四連ミサイルはクイックブーストで回避された。ライフルで牽制を続けていく。
相手のミサイルをクイックブーストで回避したその時、アラートが響く。相手のリニアライフルのチャージが終わっている。再度ブーストを噴かせ、その強力な一撃を回避した。パルスブレードで斬りかかるも、バックステップで簡単に距離を取られた。
ライフルとミサイルによる牽制と細かながらもダメージの蓄積を狙っていく。互いに距離を詰めたり離したりしていく。距離が詰まった瞬間にパルスブレードを振るうも、二撃目は外された。初弾が入っただけでもマシだ。トレーナーACのマシンガンが、カサブランカに微量のダメージとACS負荷を与える。こちらが限界を迎える前に、相手に限界を迎えさせる。ライフルとミサイルの牽制を続け、相手と距離が詰まった瞬間にパルスブレードを振るう。初弾が当たった瞬間に体勢が崩れたのが見えた。そのまま、二撃目を振るう。
ACのACS負荷からの立ち直りは早い。ダメージを与えられる前に距離を離される。だが、先程のダメージで相手とこちらで耐久の差が出来た。ライフルとミサイルの牽制を続け、ブレードによる攻撃タイミングを図っていく。ブレードは空振りさせてしまったが、ライフルとミサイルでどうにかトレーナーACを削り切ることは出来た。
「……」
周囲を見渡す。ターゲットの更新は無い。次第に、仮想空間が形を崩していった。
*
〈通信が入っています〉
カサブランカから降り、ヘルメットを外して一息を付けたその時だった。COMからの通知に、ハンガーの備え付けの端末を操作する。すると、どこまでも透明のような白髪と透き通った碧眼の女性が現れたのだ。
〈高等傭兵検定の突破、おめでとうございます〉
紡がれた声は、オールマインドの物だ。いつもの短い黒髪の女性ではない姿に少々面を喰らった。
〈貴女は全ての教習項目を終了し、その技能を証明されました〉
たおやかな女性が、淡々と言葉を紡いでいく。その姿はあまりにも、美しいものだった。改めて、彼女は人の手によって作られた美であることを思い知らされる。
〈登録番号、Rb23。識別名、レイヴン。オールマインドは、貴女のさらなる活躍に期待しています〉
ぺこりと、いつも通りの挨拶を行うオールマインド。その所作すらも、美しいものとして見惚れていた。
〈……? 如何なさいましたか?〉
「あっ……。綺麗って思ってた」
首を傾げるオールマインドに、621は思ったままの感想を述べた。オールマインドがきょとんとした表情になるものの、自分の姿を見直して、ああと納得したような様子を見せた。
〈ある意味、この姿が本来の私とも言うべきものです。より良い成績を収めた方々には真摯に応えようと、アバターではなくこちらの姿で対応しています〉
「……なるほど」
そういうものなのだろうか。クスクスと微笑む姿は、生物学上は女性を区分される621でも可憐だと思ってしまった。
〈それでは、また〉
微笑みながら、絶世の美女はそのまま姿を消した。
「621、検定は終わったか」
ウォルターに声を掛けられ、やっと現実に引き戻された。
「どうした?」
「……なんでもない」
「そうか。621、仕事だ」
仕事と言われ、渡されたタブレット端末を持つ。少しだけヒビが残ったままの画面を見る。
「ベイラム系列企業から依頼が入っている」
それを聞いて少しだけ音量を下げる。が、最初の時と比べればそんなに音量を絞っていない。なんだかんだで、慣れてしまっているのだろう。
〈
聞こえて来たのはやはりあの青年の声だ。聞いている以上は、立ち直れたのだろうか。あるいは、そう自分を鼓舞しているのかもしれない。
〈我が方は、アーキバスの強化人間部隊、“ヴェスパー”について調査している〉
お互いにお互いの戦力について探り合う。それは当然のことだろう。今回の仕事は情報収集についてなのだろうか。
〈今回の調査対象は……。その第四隊長、ラスティ。対象が壁越えにて侵攻した領域を洗い、撃破された残骸から戦闘ログを回収してもらいたい。〉
指名された対象に思わず目を見開いた。先の壁越えで共に戦った人物。あの戦場の前に、たまたま会ったことのある人。そういえば、半年程でこの地位に昇りつめたという傑物は彼であったか。
〈なお“壁”は現在アーキバスが掌握し、同社MT部隊が駐留する調査拠点となっている。よって本作戦は、連中の主力が配置換えを行う間隙を突いて決行されなければならない。限られた作戦時間内に、十分な件数のログを回収する……。これが、今回の依頼内容だ〉
僅かな時間の中でログを回収する。中々に高望みの要求をする。だが、それが仕事だと言うのであればやるだけだ。それに――
〈
「……621。決めるのはお前だ。断っても構わない」
珍しく、ウォルターから拒否しても構わないと提案を出された。共闘し、危険な役を買って出た上に真相についても話してくれた。そんな彼の懐を探るような真似は確かに気が引けるのだが……
「……大丈夫。ワタシ、ラスティのこと。知りたい」
好奇心の方が上だった。機体構成や戦い方にも、人となりは出てくる。それは、仕事をしてきた中で得た一つの知見だった。
「――そうか。621、そろそろルビコンにも慣れて来ただろう。たまには撃ち合う以外の仕事もしておけ」
こくりと頷き、カサブランカの出撃準備を進めた。
*
〈メインシステム、戦闘モード起動〉
雪が降る夜間。再び、壁と呼ばれる場所に投下される。制限時間は、四分。
〈ミッション開始だ。周辺の機体残骸を探り、
「了解」
マップを確認する。ざっと見渡すだけでも八ヶ所程の反応があるらしい。即座にルートを構築して、近場から回収していく。まずは、着地地点から左に外れたところからだ。建物の物陰にログが回収できそうな残骸がある。ガードメカをライフルで掃討し、アクセスを行う。
〈それだ、621。解析はこちらで行う〉
解析が終わるまでしばらく待機する。映し出された情報は、BAWS第二工廠についてのことだった。が、画像に違和感を覚えるが今はそれを詮索する時間はない。
〈このログは……。コピーを取っておく。企業には必要ないものだろう〉
どうやら、ウォルターにとっては価値にあるログだったようだ。今回の仕事は受けた甲斐がある。機体を翻し、物陰から広い場所へと戻る。警備MTに気付かれる前にライフルで先制を取った。
〈⁉ 侵入者だと⁉〉
ライフルの射撃で体勢を崩し、そのままMTが段差に落下していく。今回は時間がない。ログ解析を行う時間さえ稼げれば良い。すぐさま残骸にアクセスする。
〈ログを解析する〉
幸いにも、解析が終わるまで襲撃を受けることは無かった。映し出されたログは、撃墜された機体の戦闘ログだった。FCSをフル稼働しても尚、機影を捉えきれない。スティールヘイズのスピードに翻弄された、一方的な戦闘だったようだ。ジャガーノートの暴走軌道すら捌き切ったのだ。MTでは分が悪すぎる。
〈
次の場所へと向かう。場所は近い。ガードメカをマルチロックしたミサイルで迎撃し、残骸にアクセスを行う。
〈これで三つ〉
残り時間は三分と一〇秒。適度の被弾も視野に入れれば残る五つを回収する分は問題ないだろう。
映し出されたログは口述筆記のようだった。コーラルを採取する井戸についての言及。解放戦線が、自爆特攻すらも視野にいれるような無茶な行動を行う、切実な理由が書かれていた。
〈……コーラル湧出状況の裏取り程度にはなるだろう〉
少しだけ、ウォルターが言葉を詰まらせる。悪人ぶるが、どうしようもない善人である彼だ。子供が飢え死にをするという状況に、思うところがあるだろう。少しだけ、こちらも堪えるものがある。反撃してくる攻撃を受けたり避けながらも、次の場所へと向かっていく。
〈所属不明AC!〉
〈撃て! 生きて帰すな!〉
残骸付近にMTが数機集まっている。高低差で射角が届きそうな近場の一機だけをライフルで撃破し、解析を行う。
〈解析していくぞ〉
アラートが響くも、周囲の地形が盾となる。回避しなければという焦りを堪え、耐え続ける。そして、情報ログが映し出される。
〈有用な情報だ。調査対象の機体構成が見て取れる〉
これはスティールヘイズの映像記録だ。鮮明に映されたそれは、先日のブリーフィング以上に機体構成の情報が多く得られる。読み込むのを後にしてアサルトブーストを噴かせて次の地点へと向かう。MTが三機と、壁越えで相手取ったジャガーノートと思しき残骸。彼は、あの場に来るまでに既にジャガーノートを相手取っていたことになる。改めて、実力の差を見せつけられる。MTをライフルで牽制しながら、中破した残骸へとアクセスする。
〈これで五件〉
これは、解放戦線の会話ログだった。ヴェスパー上位を相手取らないといけないことへの絶望と、この場にいない誰かに対する安堵、願いだった。
〈……価値のないログだ〉
絞り出すようなウォルターの言葉は、まるでそう自分に言い聞かせているようだった。ジャガーノートの残骸に進路を進める。残り時間は二分。
〈貴様! ここで何をしている!〉
〈解析する〉
報せを受けただろう輸送機に吊られたMTが数機。アクセスを始めたタイミングで投下されてしまった。なんとか、解析が終わるまで耐える。
「……なにこれ」
映し出されたのは奇妙なログだった。スティールヘイズと交戦中に、通信の接続を試みていた形跡がある。命乞いというよりは、まるで、訴えかけるような……。ACS負荷限界に機体が揺れ、COMの報せに合わせてリペアキットを使った。
〈……興味深い内容だ。高値が付く可能性がある〉
確かにこの情報はより詳しく分析する必要があるのかもしれない。だが、まずは生き残って帰還することだ。MTたちから逃げるように大穴へと飛び込んでいく。ここに、残る二件のログがあるのだ。
「……あった」
〈七件〉
残骸にアクセスを行う。残り時間は一分と五〇秒。あと一件を探る分は問題ない。何もなければ、だが。ロケットによる攻撃を受けつつも解析を待つ。映し出されたのは、残骸の捜査状況だ。この機体のパイロットは、作戦開始と同時に脱出レバーを引いたらしい。
〈売れる情報ではないな〉
最後の地点へと向かっていく。追撃を回避しながら、残骸にアクセスしようとしたその時だった。
〈そこのAC! 私たちの同志じゃないね……!〉
突如としてレーダーに反応が出る。見上げれば、崖上から滑り落ちながらグレネードを発射していく機体。データを照合すると、AC名ユエユー。その乗り手は、リトル・ツィイー。……先程のログで、普遍的な幸あれと願われていた女性の名前だ。
〈お前か……。お前がみんなをやったのか⁉〉
〈……解放戦線の生き残りか。相手をするなら時間はかけるな。目標達成を優先しろ〉
残り時間は一分と三〇秒。彼女の命を奪って、安全を確保するか。激昂した彼女の猛攻に耐え忍ぶか。
〈恥知らずの……、企業の狗め! 出ていけ! この
〈……残り時間を意識しろ。戦闘は回避するか、手早く終わらせることだ〉
構わず突貫してきたところをクイックブーストで回避する。ライフルとミサイルで牽制を行っていく。なるべく、ユエユーが握る火器に狙いを定めていくが、肩のパルスバックラーに弾丸が防がれる。そうなれば、接近戦を行うしかない。
バズーカの発射で足を止めた瞬間に彼我の距離を詰め、パルスブレードを――。ユエユーの肩腕を切り落とすように振るった。片腕を破壊され、ACS負荷限界でユエユーが体勢を崩した隙に、ウォルターには悪いが通信状態の設定を変更する。
〈私だって、コーラルの戦士だ。腕の一本取られたところで、負けるわけにはいかないんだよ……! “灰かぶりて、我らあり”だ!〉
設定を書き換える前に不屈の精神でユエユーが突貫してくる。グレネードはクイックブーストで回避するも、BAWSが開発した旧型ACの重量に任せた蹴りが、カサブランカの胴体に命中する。次のACS負荷を与えたタイミングが最後のチャンスになるだろう。ライフルとミサイルでACS負荷の蓄積を狙う。
〈欲に塗れた傭兵とは……、違うんだよ!〉
切実なる叫び。彼らは、今日を生きることすら必死なのだ。明日のことは考えられない、昨日は最早意味を成さない。それを、なんとかするために戦っているのだと。慣れぬ動きにグレネードの直撃を何発か受ける。パルスブレードの排熱が終わるのを確認し、彼我の距離が詰まった状態でパルスブレードを、コクピットを外すことを意識して振るう。ACS負荷限界と共に、大きくユエユーが後退する。これならば、すぐには立ち直れまい。途中だった設定の書き換えも、間に合った。
〈まだだ、まだ――!〉
「こちらには、これ以上の戦闘意志はない。アーキバスのMT部隊が来る。引いた方が良い」
〈なっ……⁉〉
〈待て、621……!〉
まだ尚、立ち続けようとする彼女に向けて、言葉を紡ぐ。少女の声に動揺を見せたのか、ユエユーの動きが止まる。ウォルターから、聞いたことのない焦る声が聞こえた。
〈女、の子……? そんな、私より小さい子が……?〉
「もう一度言う。ワタシに戦う意志は無い。それより、アーキバスのMT部隊が戻って来る。このまま、犬死するつもり?」
あからさまな動揺が見える。このような声は、戦場で聞こえるものではないらしい。そして、レーダーには配置換えしてきたMT部隊が映し出される。雪原に向けて、乱雑にライフルとミサイルを放って雪を舞い上げさせる。
「行って。あなたが死ぬことは、ここに散ったものたちは望んでいない」
〈っ……!〉
ユエユーの反応が遠ざかっていくのが見える。雪が舞い上がっている間に、残骸にアクセスを行う。
〈これが最後だが……。まさか、説得するとはな〉
「無力化しただけ。逃げたのは相手の判断」
解析が進んでいく。相手を倒すより、生かすことに時間をかけすぎた。ログの解析が終わり次第、撤退した方が良さそうだ。
〈解析が終わったぞ。目ぼしい残骸は全て調査した。621、仕事は終わりだ。帰投しろ〉
「了解」
ブーストを噴かせ、すぐに作戦領域から離脱する。指定された輸送ヘリとの合流ポイントへ向かう。
〈……621〉
ウォルターから呼ばれる。勝手なことをしたのだ。叱責の一つは覚悟している。
「勝手なことをしたのは、分かっている」
〈それについては俺から言うことはない。相手を逃がすということは、ツケとなって回って来るか思わぬ形で戻って来るかだ。それより、これを見ろ〉
叱責を覚悟していたが、そうではないらしい。ウォルターから送られたのは通信記録だ。これは、ラスティの暗号通信を解析しようと試みたものだ。読める単語は、時、ファーロン、エルカノ、技術、隠す――。ファーロンは星外企業のファーロン・ダイナミクスのことだろう。エルカノは確か、このルビコンが発祥の星内企業だ。誰にでも商売をするBAWSとは真逆の性質だった記憶があるが……
〈……621、このログは高く売れるぞ〉
まるで、仇敵の急所を掴み取ったとばかりの口調。初めて、ウォルターが悪人らしいことをしていると思った瞬間だった。
*
〈新着メッセージ、二件〉
帰投すると、COMから通知が入る。ヒビが入ったままのタブレット端末を操作して確認する。
〈
開幕の一声から、慌てて端末の音量を絞る。突然の大声は、やはり心臓に悪い。いや、この義体に心臓は無いのだが……
〈貴様の働きで、
情報の売買はウォルターが行った。集めた戦闘ログのいくつかはベイラムに売り渡されたのだろう。ウォルターの口調から、最後に拾ったログは間違いなく売り捌かれたのが見える。
〈もう一点! 改めて、自己紹介をさせてくれ。俺はコールサイン
改めて、この青年が
〈これからも使い倒してやるから覚悟をしておけ! ……ヴォルタ先輩のこと。本当に、ありがとうな〉
感謝を最後に、レッドからのメッセージは終了した。次のメッセージを確認する。
〈登録番号、Rb23。識別名、レイヴン。貴女の実績情報が更新されました。機体OSに対する強化権限が付与されます〉
オールマインドからの連絡だ。機体OSの強化権限が付与されることの通達だ。これがあれば、一度考えた戦い方を再現することが出来る。
〈もう一点、オールマインドは、貴女を戦闘技能検証プログラム“アリーナ”へと招待することを決定しました。アリーナは登録傭兵の技能向上支援を目的とした、仮想戦闘シミュレータです。ルビコンにおける傭兵の格付け、それを測るひとつの指標となるでしょう。奮ってご参加ください〉
アリーナを確認すれば、621を除いた総勢二十九名がアリーナに登録されている。そして、勝利報酬にはOSチップが配布されるようだ。機体OSを強化するためには、このアリーナをクリアする必要がある。アリーナを踏破していけば、より多くの機能の解放や強化を望める。
(まずは……)
解放する項目は既に決まっている。これから広がる戦略幅を考えながら改めてアリーナやOSチューニングの項目を見つめ直した。
*
「おや。ホーキンスさんにペイターくん。そこ、良いかな」
「ラスティくんか。どうぞ」
アーキバス駐屯地のカフェテリアエリア。数少ない職員たちの憩いの場所。そこには、金色の髪を持つややくたびれた壮年の男性――、
「ペイターくん、それは?」
「ああ。先日、我々が攻略した壁に不審なACの目撃情報がありまして。恐らくは、独立傭兵レイヴンのものです」
ペイターが端末を操作し、ラスティに画面を見せる。夜間の雪原、ラスティが侵攻したルートで白い機体が残骸から情報を引き抜いている様子が映し出された。その機体は間違いなく、壁越えの際に共に戦ったレイヴンの機体。カサブランカの姿だった。
「戦友が、ね」
「たった一戦、共にいただけですよね?」
「いいじゃないかペイターくん。実際、彼の助力が無ければ壁が落とせなかったのは事実だ。それに、独立傭兵はそういうものだ。昨日の味方も今日は敵となる。そのまた逆も然りだよ」
ペイターの遠慮ない発言を宥めるようにホーキンスが言葉を並べる。レイヴンは独立傭兵だ。ベイラムやアーキバス、ましてや解放戦線にすら所属していない。仕事とあれば、どの勢力にも一定の利益を齎し、損失させる。そういう存在だ。
「そういえば、レイヴンって何者なのですかね」
ペイターがぽそりと呟いた。
「おや? ペイターくんは知らないのかい?」
「はい。私がよくお話するのは、レイヴンのフィクサーです。その方は男性には違いありませんが、レイヴン本人とはコンタクトを取ったことはありませんね」
「つい彼と言ってしまったが、彼女かもしれないということか……」
レイヴンとは何者か。一人の銀髪の少女の姿がラスティの脳裏を過ぎっていく。だが、実際のレイヴンの戦い方は機械的で危険を顧みないものだった。引き際こそは弁えてはいるものの、常に攻め続ける狩りをする猟犬といった具合だ。あのような可憐な少女がして良い戦い方ではない。少女が戦場にいるということ自体、あまり考えたく無いものだが……
「しかし、これまでの仕事では敵対するならば容赦無く撃破していましたが……。どういう風の吹き回しだったのでしょうね」
ペイターが次の映像を見せてくる。それは、解放戦線の生き残りとおぼしきACとの戦闘映像だ。解放戦線のACは、性能もさながら乗り手も練度不足が見られる。レイヴンとカサブランカの性能、技量ならば十分に落とせるほどだ。だが、レイヴンはそうしなかった。それどころか、ACの片腕を損壊させた後に戦闘不能ギリギリまで追い詰め、弾丸で雪を煙幕に仕立て上げて解放戦線のACを逃がしたのだ。確かにこれは、今までの戦い方とは異なるものだった。
「名前の通り、自由気ままなワタリガラスということじゃないかい」
「疑問ばかりが増えますね……。レイヴンもそうですが、フィクサーもどのような個人なのかすらも……」
独立傭兵レイヴンとそのフィクサー。疑問は確かに増え続けるだけだ。
だが、ラスティは知っている。ハンドラー・ウォルターとその猟犬がフィクサーとレイヴンの正体だ。これは、オキーフに裏取りしてもらったこともある。
ならば、ハンドラーと共にいたあの少女は何者か。消去法で行けば、彼女こそがハンドラーの猟犬たる強化人間にして、独立傭兵レイヴンとなる。だが、これはあくまで状況証拠だ。確証はない。彼女が戦場にいるということを否定したいだけかもしれないが。
「そうだ、ラスティくん」
「なんです? ホーキンスさん」
「この駐屯地には、独立傭兵や外部とのコミュニケーションとして解放されているエリアがある。飲食店もあるし、酒の提供もあったはずだ。誘ってみてはどうだい? レイヴンを」
予想外の提案に思わずラスティは驚愕した。確かに、壁越えのことがある。落ち着いた頃に酒のひとつでも奢りたいと考えてはいたが、見透かされていたようだった。柔らかな雰囲気は、つい油断してしまう。それが、ホーキンスの恐ろしいところでもあった。
「そうだな……。彼には酒の一杯は奢ろうと考えていたところだ。こちらも落ち着いて来たし、ちょうどいい頃合いかもしれない」
「彼か彼女か。話を楽しみにしているよ、ラスティくん」
まるで、他人の恋路の報告を楽しみにしているかのような。にこやかなホーキンスの雰囲気にもう逃げることは出来なくなっていた。