グリッド〇八六侵入
〈通信が入っています〉
アリーナの最後の一機を踏破する。仮想空間が暗転し、元の画面へと戻っていく。コクピットから降りれば、COMから通信が入る。ヒビの入ったタブレットを操作して通信を確認する。
〈Eランク帯の突破、おめでとうございます〉
通信を繋げれば、画面には短く切り揃えられた黒髪の女性の姿のオールマインドの姿があった。
〈貴女の傭兵としての成長、その案内ができていれば幸いです。オールマインドは、全ての傭兵のためにあります〉
いつもの締めの挨拶をした後、ぺこりと女性は頭を下げて通信が終了した。
『リハビリとしては、上々ではないでしょうか』
『うん。感覚が鈍って無くて良かった』
ふう、と息をつく。先日のウォッチポイント襲撃の際のコーラルの逆流現象。それに巻き込まれて生死をさまようことになった。ウォルターに厳重に休めと言われ続け、シミュレーションすら触れることがままならなかった。ウォルターに隠れて悪い事をしている、という感覚が拭えないものの、ウォルターがいない今だからこそアリーナの仮想訓練というリハビリを行うことが出来た。カサブランカに乗ることすら離れていたが、身体は覚えていたらしい。アリーナ程度であれば問題無かった。
『レイヴン、休憩の合間にブリーフィングを確認しますか?』
『……そうだね。お願い』
傍らに立つ黒髪の女性――。エアの提案にこくりと頷いた。
『それでは――』
そっと、エアの細く柔らかな指がタブレット端末に触れる。画面に触れていないと言うのに、タブレット端末の操作が行われていく。
『ベイラム・インダストリーからの依頼です。ウォルターが同社に持ちかけた中央氷原におけるコーラル集積情報。その確証を得るため、あなたに先行調査を依頼したいとのことです』
中央氷原に向かうのはパトロンが付いてからだと、ウォルターの姿が脳裏を過ぎる。企業からすれば、突然、フィクサーからコーラルに関する情報を売りこまれたという状況だ。その真偽を確かめたいというところだろうか。
『広大なアーレア海を越える手段ですが……』
エアが端末を操作して様々な候補を割り出していく。輸送ヘリでは限度がある。途中、補給ポイントが海上に存在すれば違うだろうが、そんなものは存在しない。企業がこれから制作作業に取り掛かるにしても、必要な距離間隔や資源の目途が立っていないのだろう。航海用に船を作るにしても同じだ。
『……どうするの?』
『はい。グリッド〇八六の上層区画に備え付けられた大陸間輸送用カーゴランチャー。これを使い、中央氷原へと向こうことを提案します』
大陸間カーゴランチャーが映し出され、射出ルートが示される。文字通り、一飛びで中央氷原に到着する。氷原への第一歩という目印さえあれば、各企業も空路なり海路を即座に割り出して進行を行うだろう。
『グリッド〇八六……』
『グリッド〇八六は“ドーザー”と呼ばれる、コーラルを向精神薬として扱うならず者の巣窟です』
『ドーザー……』
先日の光景が浮かび上がる。薬物中毒者だろう荒くれ者たちに絡まれたことがある。非力な生身では、彼らを相手取ることは出来なかった。ラスティがいなければ、どうなっていたことか……。そういえば、あの時の礼をしっかりと言ってなかった気がする……
『中でも“RaD”を名乗る一派は非常に好戦的な武器商人でもあり、道中は危険を伴うでしょう』
『RaD……? 今の機体のパーツを作った……』
RaD。これは、このルビコンに密航した際の機体に使われているパーツ。これらを作ったのも確か、RaDであったはずだ。気に留めたことは無かったが、RaDはドーザーの一派だったのだろうか。あるいは、グリッド〇八六に滞在している彼らもRaDの一部と考えるべきか。
『私があなたをサポートします、レイヴン』
考え込むこちらを気遣ってか、そっとエアがこちらの手に手を添えていく。その姿で気遣われるというのは、どこか懐かしい感覚を覚えた。
『わかった。ありがとう、エア』
『はい、レイヴン。グリッドへの侵入方法はお任せください。システム解析や改竄には多少の心得があります』
『うん、お願い』
ブリーフィングが終わる。カサブランカの最終チェックを行い、グリッド〇八六へと向かっていくのだった。
*
『これよりグリッド〇八六に侵入します。そのまま進行してください、レイヴン』
エアが指し示したルートを辿っていく。グリッドの真下は、彼らにとっても目が届かないところらしい。探知されることなく進んでいく。彼女が示した先にあるのは、大型の垂直カタパルトだ。カサブランカを乗せて、待機する。
『システムにバックドアを作成。垂直カタパルト、ロック解除』
カタパルトのロックが外れる音。いつでも、飛び出せるように姿勢を低くする。
『スチームシリンダー接続、射出します』
一気にGが降り注がれる。カタパルトが上昇を始めた。高度の数値が一〇〇〇へと昇っていく。
『今です、レイヴン』
エアのタイミングに合わせ、垂直カタパルトから飛び出していく。廃れたグリッドの隙間から差し込む日の光は、どこかノスタルジックが漂い、幻想的で美しかった。ブーストを吹かせて調整し、グリッドの足場に滑り込むように着地する。
『さあ、レイヴン』
ゆっくりと、正面を向けば高度二〇〇〇にも関わらずより上へと伸びていく建造物が広がっている。
『仕事を始めましょう』
「了解。行こう、カサブランカ」
〈メインシステム、戦闘モード起動〉
だが、この鉄塊の山を登頂していかなければ目的地へと辿り着けない。ここからは彼らの領域だ。カサブランカを戦闘モードへと移行させる。アサルトライフル、リニアライフル共に異常なし。パルスブレードも問題ない。今回は、四連ミサイルではなく多くの敵への殲滅力とダメージ相性を考えた三連プラズマミサイルだ。
『マーカー情報を送信しました。上層に繋がるリフトを目指しましょう』
「了解」
カサブランカを前進させていく。警備用だろうか、独特な形状のMTが徘徊している。アサルトライフルで先手を取っていく。アサルトライフルとリニアライフルの射撃でMTを撃破していく。
「次」
前進を続けていく。三体のMTに対してマルチロックで捕捉し、プラズマミサイルを放つ。青と紫の軌跡が三方向へと向かっていき、着弾したMTはプラズマの爆発によって撃破されていく。
『ここから上です、レイヴン』
エアの示されたマーカー地点に到達する。更に上に出入口とおぼしき隔壁があった。
〈なんだあ? 見ねえツラだな。ここが誰のシマだか分かってんのか?〉
広間の奥、そこには周囲の金属たちと同系統の配色で紛れていたACの姿がある。敵意と共に向かってくるACに、アサルトライフルとリニアライフルで応戦する。相手の武装は、チェーンソーとショットガン、にしてはあまりにも砲身が短い珍妙な射撃武器だった。
「あれ、確か……」
『はい。アリーナ登録情報から、機体名“マッドスタンプ”と識別。ランキング、最下位です』
「……通りで」
アリーナに登録されているランカーACとなれば、見たことがあるのも納得がいく。それでも、アリーナに登録されている以上は、登録外のAC乗りよりも強者である。アリーナもあくまでシミュレーションだ。実物とは異なる可能性がある。油断は出来ない。
〈ボス、見ててくださいよお。この“無敵”のラミーが、客人をもてなしてやりますんで〉
アサルトライフルとリニアライフルによる射撃戦を継続していく。相手の武器の射程上、近距離戦闘はACS負荷限界を迎えた以外は避けたい。中距離の射撃戦ならば優勢に動ける。チェーンソーを掲げて刃を回転させることで、実弾を弾いているのが見える。合間にプラズマミサイルを放っていく。ACS負荷限界にパルスブレードを振るうも距離を見誤り、外してしまった。
(鈍ってるところは、あるか……)
〈俺とマッドスタンプに、勝てるもんかよ〉
迫りくるチェーンソーを後退で避けていく。追従性能はそこまで高くないらしいが、逃げ遅れた際の回転する刃による攻撃の恐ろしさは、想像に難くない。
『レイヴン、相手は重度のコーラルドラッグ中毒者のようです。動きも乱れが見えます』
「安定していないの、そういうこと……」
ランカー最下位もあるだろうが、動きが不安定なのは薬物中毒者もあるのだろう。近づいて来たマッドスタンプをブーストキックで蹴り返していく。
〈クソッ……。ビジターにしちゃあ、やるな〉
「ビジター……?」
『恐らくは、部外者に対する彼らの呼び名かと。ビジターという単語にはそのような意味も込められています』
「なるほど……」
知識を得つつも、キックから後退したマッドスタンプに向けて追いかけるようにパルスブレードを振るっていく。壁に追い詰められた上にACS負荷限界を迎えたマッドスタンプに追撃の蹴りを入れ、持てる銃火器の弾丸を叩きこんでいく。
〈おっ、俺のマッドスタンプがあーっ⁉〉
断末魔と共に、先程になって酔いが覚めただろうドーザーの機体が爆炎を上げた。
『敵ACを撃破。隔壁にアクセスを――。これは……⁉』
エアが驚愕する。広間の上部に位置する隔壁が、ひとりでに開いたのだ。
〈ビジター! 好き放題やってくれているようだね〉
同時に、広域放送による声が聞こえる。女性の声だ。
〈私らRadは、来る者は拒まないのがモットーだ。せいぜい歓迎しようじゃないか〉
『……なるほど。せっかくです、招待に応じましょうか。レイヴン』
「……わかった」
そう答えはするものの、隣にいるエアの幻影が端末を操作する動作を行う。あの女性について情報を集めているのだろう。こちらはこのまま、カサブランカを奥へと進めていく。
『レイヴン。広域放送の人物について、情報を集めました』
ウィンドウが展開される。映し出されたのは、赤が混じった黒髪に黒い肌を持つ琥珀色の瞳の女性だ。
『ドーザーの有力な一派、RaD。その頭目……、カーラ。ジャンク技師とハッカー集団を引き連れて、RaDに加わったのが三年前。その後わずか半年で実権を奪い、組織を急激に成長させています』
『侮れない人、なんだね』
『あなたのカサブランカのフレームパーツを製造した腕前、それは確かなようです』
情報を確認しながらも、マーカー情報へと向かっていく。グリッドの外部に出たのだろう。目の前には外の風景も混じり始めた。目標は、まだまだ上。改めて、このグリッドの広大さに息をのむ。
『レイヴン、撃破に応じた報酬が支払われるミッションです。出来る限り、撃破していきましょうか』
『そうだね』
マーカー情報を見失わないように、されど多少は寄り道しつつも、グリッドの本棟へとアサルトブーストで飛び移っていく。目の前のガードメカをマルチロックで捉え、プラズマミサイルを放っていく。ガードメカが一掃されたのを確認して突き出た金属に着地する。周囲の敵を掃討しながらマーカーへと向えば、隔壁が降ろされた入り口に到達する。隔壁にアクセスを行い、開錠を試みようとしたその時だった。
〈待ってたよ、ビジター〉
瞬間、アラートが鳴り響いた。アラートの方向へと振り向けば上から振ってきただろうタイヤ状の物体がそこにあった。数発、射撃武器で応戦するも硬い外装に弾丸が弾かれる。
〈約束通り、歓迎しよう〉
外装が展開され、独特な形状へと変形する。そして、両手のガトリングから弾丸の雨が注がれる。変形したことで、ダメージが通りやすくなった。こちらも射撃武器で応戦し、なんとか高い火力を持つ重MTを捌いていく。追加されたもう一機も、変形してダメージが通りやすくなったところで攻撃していく。
〈へえ、やるじゃないか〉
カーラと思しき女性の声。不意打ちでこちらを撃退しようとしていたのだろうか。
『……進みましょう、レイヴン』
『うん』
彼女に誘われるまま、カサブランカを奥へと進めていった。
*
「……しかし、これは一体どういうことなんだか」
トランシーバーのマイクを切り、適当に組み上げた椅子に深く座り込みため息をつく。映るモニターには、配備したMT達を破壊しながら進む純白のACの姿が映されていた。ACの蹂躙に、我が子たちが粉砕されていく姿にカーラは頭痛を覚える。
(ウォルターは確か、企業への売り込みをしている最中だ。621が勝手に動くこと自体が、あり得ない……)
純白のAC、カサブランカ。当初はLOADER 4としてウォルターの猟犬達に作り与えたAC。それを駆るのも、ウォルターの猟犬。第四世代強化人間の、言わば欠陥品のレッテルを貼られた男女だ。侵攻しているあの機体もまた、ウォルターが買い取り、回帰させようとした人間の一人が乗っている。621番デバイスを埋め込まれた少女の状態は聞いている。とても、自発的に活動を行えるような状況ではない。第三者の手によって、ここに進もうと仕向けられたと考えるのが自然だ。
では、その第三者とは誰なのか。情報を売られた企業共がその確証を得ようとして動いた。考えられる道筋ではあるが、それがどうしてこのグリッド〇八六への侵入へと繋がるのか。そこが、推測出来ないところだった。
「……ボス、あのビジターはどうする?」
背後から青年の声――。正確には、肉声によく似た人工音声だ。見上げれば、短い黒髪に気だるげにも無表情にも見える金色の瞳の青年の姿があった。
「スマートクリーナーの起動準備をしておきな、チャティ。あんたが本体で出る必要はない」
「了解した」
指示を出せば、青年は管制室から出て行った。あのまま、少女がくたばることが無く進めば――
「まさか、カーゴランチャーが目的じゃないだろうね……?」
グリッド〇八六。この場所で目玉ともなり得るのは、世間では廃れ、このルビコンでは資源も人材も難しいとされて継承されなかった航空機の技術。それ故に、滅茶苦茶な設計をしたものの、確かに使われていた大陸間カーゴランチャーがあることだ。これを使えば、中央氷原へ向かうことは出来るだろうが……。間違いなく、ウォルターの発案ではない。
「まさか……」
ウォッチポイント襲撃の際に、コーラルの逆流に巻き込まれたとも聞いている。それもあり、近々621の義体のメンテナンスをして欲しいとウォルターから頼まれていた。
もし、もし彼女が。素質のある人間だとしたら――
「笑えないね……」
侵攻を続ける少女に、カーラは頭を抱えることしか出来なかった。
*
グリッド内のMTを蹴散らし――道中、迷い込んだとおぼしき借金王をついでに撃破しつつも、隔壁をアクセスして開錠していく。
〈どいつもこいつも、不甲斐ないね。あんた一人を雇った方が、安く付くんじゃないかと思えてきたよ〉
呆れたかのようなカーラの声。それでも、どこか余裕のある雰囲気は別の何かを企てているようにも聞こえた。
『レイヴン、気を付けて』
『わかってる』
次の棟へと向かってブーストを吹かせていく。途中に点在するログハント対象も撃破していく。マーカーへと向かって行けば開けた場所に出る。
『MT多数。慎重に行きましょう』
MTを相手取るべく、広間に降りた瞬間だった。
〈歓迎の花火が、まだだったね〉
『⁉ レイヴン! 上です!』
「っ!」
クイックブーストで機体を即座に反転してMTの大群から離れて行く。上からの落下物。それは、地に接した瞬間に大爆発を起こしてMTたちを巻き込んでいく。アレを喰らっては、ひとたまりもない。生き残っている四脚MTと一対一となる。MTから放たれる三連バズーカを回避しつつも、こちらもアサルトライフルとリニアライフル、プラズマミサイルで応戦していく。盾を構えた突撃はクイックブーストで回避した。
〈なるほど……。今度のビジターは、一筋縄ではいかないようだね〉
パルスブレードを振るい、四脚MTに二撃を与える。ACS負荷限界までにはまだ足りない。蹴りを入れつつも背後に回り、二丁の射撃武器で負荷を溜めていく。負荷が入った瞬間、排熱が終わったパルスブレードを振るう。大きく後退した四脚MTをアサルトブーストで距離を詰め、ブーストキックでトドメを刺した。
〈分かった。あんたの実力は分かったよ、ビジター〉
MTたちを全滅させると、またカーラの放送が入る。
〈降参するよ。これ以上は割に合わないからね。通してやるよ、行きな〉
その放送が終わると同時に、RaDのエンブレムが刻まれた巨大な隔壁が開き始めた。
『次は……、どういう魂胆でしょうか』
『分からない。でも、行くしかない』
『そうですね。進んでみましょう、レイヴン』
次はどのような罠が待ち伏せているのか。エアが手配してくれただろう補給シェルパで補給しつつも、警戒しながら奥へと進んでいく。
〈ビジター、あんたは向こう見ずだね。嫌いじゃないよ〉
放送と共に、最後の隔壁が開いていく。そこは広い倉庫のような一室だ。中央に、何かが佇んでいる。
〈でも、さよならだ〉
佇む何かが起動する。両腕と言うべきか、その箇所が赤熱し、熱を持った巨大なチェーンソーのようなものが向かってくる。巻き込まれないように上昇して回避した。
『やはり罠でした。流石はドーザー、評判どおりです』
エアの幻影がタイピングを始める。あの機体の解析を始めたようだ。
『スマートクリーナー。解体作業を行う無人重機のようですが、性能は侮れません。破砕アームに巻き込まれたら終わりです。……気を付けて』
『ありがとう、エア』
まずは、相手の動きを観察する。赤熱した破砕アームを振るいながら、溶鉱炉から熱を持った鉄の塊が放出していく。炎の怪物というよりは、溶岩の怪物の方が近い。
『レイヴン、上部の溶鉱炉及び底部の開口部分が比較的鋼材に覆われていません。狙うならそこでしょう』
『わかった。やってみる』
底部の開口部は破砕アームに接触するリスクが高い。ならば、こちらは機動力と射程を活かして上部を位置取る。ブーストで上昇させながら、上部の溶鉱炉に向けてアサルトライフルとリニアライフルを撃ちこんでいく。プラズマミサイルも機体が向いている下方向へと軌跡を描いていく。エネルギーが限界を迎える前に着地をしてエネルギーを回復させる。滞空と着地を繰り返して、溶岩をまき散らす怪物の攻撃を避けながらダメージを与えていく。
〈やるねえ。聞いていた以上だ。だが……〉
カーラの放送が入る。その瞬間、スマートクリーナーが破砕アームを折りたたみ始める。
〈クリーナーが笑えるのはこれからさ〉
『行動パターンが変わった……? 危険です』
破砕アームが回転を始め、上部の溶鉱炉から鉄塊が射出され降り注ぎ始めていく。鉄塊の雨をなんとか潜り抜けていく。鉄塊の雨の中、上部への攻撃を続けようとして破砕アームに接触してしまう。接触だけで制御が効かなくなったところに振り下ろしてきたアームの攻撃を受けてしまう。
『大丈夫ですか⁉ レイヴン!』
『直撃じゃない、大丈夫』
スマートクリーナーと距離を取り、上部へ向けての攻撃を再開する。行動パターンが変わったとしても、弱点が変わった訳ではない。ならば、こちらは冷静に弱点を攻撃し続けるのみだ。だが、天井の低い地形は梁によって上部の溶鉱炉へ近付けなくなる。それでも、ACS負荷を狙うために硬い鋼材に覆われた部分にも銃弾を撃ち続ける。スマートクリーナーの間近に着地し、破砕アームの根本をクイックブーストで通り過ぎれば、突撃を回避できた。
『ダメージは与えています。行けます、レイヴン』
エアのアナウンスにゆっくりと一呼吸を入れる。残りのリペアと残弾数を確認する。このまま一気に攻勢に持っていくには、上部ではなく底部に狙いを切り替えた方が良い。上部では、パルスブレードの刃が当たりにくい。ターゲットを上部の溶鉱炉ではなく底部の開口部へと切り替える。スマートクリーナーの正面に位置取り、開口部に向けてアサルトライフルとリニアライフルを撃ちこんでいく。振り回される破砕アームは、こちらの機動力で十分に避けきれる。プラズマミサイルの軌道も開口部へと向かっていく。銃弾を撃ちこんでいく内に、スマートクリーナーが大きく体勢を崩した。リニアライフルをパルスブレードに切り替え、開口部へ向けて二撃を振るう。体勢が崩れている内にアサルトライフルを撃ち続け、切り替えたリニアライフルのチャージショットを撃ちこんだ。
『もう少しです、レイヴン!』
上部へとターゲットを切り替え、距離を保ったまま溶鉱炉に向けて二丁の弾丸を撃ちこんでいく。最後に撃ったリニアライフルが溶鉱炉に直撃し、スマートクリーナー全体に爆炎が奔り始めた。
『……敵機システムダウン。完全停止です』
爆発が収まったスマートクリーナーから距離は保つ。そして、周囲への警戒を続けていく。
〈……ビジター、私たちは不幸な出会いだった。あんたとは仲良くした方が、賢明みたいだね〉
どこか演技がかってはいるものの、敵意を感じない。これで、本当に終わりのようだった。
〈上層に行くんだろう? 案内しようじゃないか〉
部屋の一部の扉が開く。人間用の出入り口のようだ。カメラをズームすれば、トランシーバーを片手に持つ赤が混じった黒髪の褐色肌の女性の姿があった。
〈この、“灰かぶり”のカーラがね〉
眼鏡をかけ、その奥には金色の瞳。荒っぽくもどこか理知的な印象を持った女性が、ニヤリと口紅のついた唇で弧を描いていた。