次回から晴れてチャプター3です。
『カサブランカの整備が終われば、そろそろですね。レイヴン』
『そうだね』
カサブランカの整備を格納庫で見上げながら、621はエアと会話する。
『概要をおさらいしておきましょう、レイヴン。引き続きグリッド〇八六を進行し、大陸間輸送用カーゴランチャーを目指します』
『そこまであと一歩、だね』
『はい。カーラから、約束どおり案内をすると連絡が入っています。ドーザーの言うことを、どこまで信用して良いかはわかりませんが……。情報を得る意味でも、まずは話に乗ってみましょう』
『そうだね』
仕事が早いと思うと同時に、気さくな雰囲気で誤魔化されてしまうが彼女の根っこは容赦ない職人気質なのだろうと621は考える。仕事となれば、妥協しない。そして、敵対するならば加減はしないと。故に、エアも警戒をし続けているのだろう。
『……ところで、レイヴン』
『なに?』
『彼女の二つ名“灰かぶり”ですが……』
『それが、どうかしたの?』
『これはルビコニアンの間で、“アイビスの火”の生き残りを指す言葉になります』
『それって……』
『……あの災害が起きたのは半世紀も前のこと。ドーザー特有の、与太話の類でしょうか』
エアが警戒し続ける理由がようやく理解した。ルビコニアンである彼女からすれば、半世紀――。五〇年も前の災害の生き残りを自称するカーラ。そんな彼女の外見年齢が一致しないことなのだろう。彼女はどれだけ高く見積もっても、三十代くらいの女性だ。だが、彼女は“こちらと似たような身体”とも言っていた。考えられることとしては、彼女もまた、義体を用いているということ。それならば、若い外見にも納得がいく。
「おし! 整備が終わったぞ!」
技師の声に目の前に意識を戻していく。すると、カツカツとヒールの鳴る音も聞こえた。
「ビジター、身体の調子は?」
「大丈夫」
「それなら良かった。あんたの相棒も、あいつらの仕事は保証しよう」
「……ありがとう」
「しかし……」
じっとカーラはカサブランカを見上げる。技術者として、アセンブリに何か申し出があるのだろうか。
「……なに?」
「いいや。あんたは随分と真面目な性格だねえって。遊びが足りない」
「戦場は、遊びじゃない……」
「ああ、知っているよ。堅実な戦い方も大事だが、それだけじゃ戦い抜けない。例えば、一発で高火力が出る武装とかね」
「高火力……」
少し考えてみる。今の戦い方でも十分に渡り合えている、気がする。だが、リニアライフルやパルスブレード以上の火力を求めるとなると……
「……一旦、こちらのガレージに戻る。新しく武装を買ってから行く」
「そうかい? 楽しみにしているよ」
『レイヴン? なにを?』
一度カサブランカに搭乗し、一旦輸送ヘリへと戻っていった。
*
輸送ヘリで武装を購入し、スマートクリーナーと戦った広間へと戻って来る。ここまでの道中で機体動作も確認したが、支障はなかった。彼らの技術力は、本物だ。
『あなたと出撃するのは、これで三度目ですね。少し慣れてきました、レイヴン』
『ワタシも、エアと一緒に戦うのに慣れてきた』
〈へえ、随分と面白い玩具を持ってきたじゃないか。嫌いじゃないよ。始めるよ、ビジター!〉
カーラの感嘆の声が上がる。と言うのも、今、カサブランカにはカーラに言われて用意した新武装を持たせている。パルスブレードの代わりにウェポンハンガーに収容された近接兵装――。大型の鉄杭と大筒が組み合わさった武装、ベイラムが開発したパイルバンカーと呼ばれる武装だ。バズーカやグレネードも候補として考えたが、カーラが望みそうな武装はこれだろうと選択した。
〈伝えたとおりだが、案内は任せな。あんたには恩を売っておくのも悪くない。先に進みな〉
「わかった」
〈メインシステム、戦闘モード起動〉
カサブランカを戦闘モードに切り替える。マーカーに示された場所へと向かう。巨大な隔壁が開いた先は、上層へと向かうリフトのようだった。リフトにアクセスして起動する。
〈リフトで上がった先はグリッドの天辺。外郭に当たる区画だが……、残念ながら、そこは私らの縄張りじゃない〉
「……どういうこと?」
リフトが起動し、上昇を始める。リフトが上がりきる待機時間に、ぽつりとカーラが話始める。
〈簡単なことさ。封鎖機構が、衛星軌道から睨んでやがるのさ〉
「……封鎖機構の、制空領域ってこと?」
〈そういうことだ。ドーザーってのは、総じて頭のネジが緩い。度胸試しに向かう奴もいたが……、結果はお察しさ〉
リフトが大きく揺れる。どうやら、上層に辿り着いたらしい。ここから先は、封鎖機構の勢力圏だ。真上から、狙われる。
『上層に到達しました。マーカー情報を送信します。カーラの言うとおり……。この高度は、封鎖衛星の狙撃圏内になっているようです』
リフトから外へと出てみる。カーゴランチャーはすぐそばにある。だが、そこまでの道のりは遠い。封鎖衛星の狙撃の中を掻い潜るか、遮蔽物を使って凌ぎながら進んでいくしかない。
(途中までなら、凌げるか……)
グリッドの空洞部分に向かってブーストを吹かせて移動する。すると、広域放送が流れ始めた。
〈立入禁止区域への侵入者を検出、対象を排除します〉
なんとか封鎖衛星に狙撃される前にグリッドの隙間に潜り込む。だが、このような隙間も、封鎖機構が見逃すはずはない。ふわふわと滞空する機雷のようなものが浮いている。
『……封鎖機構の警備システムのようです』
『こっちに来るのなら、倒すだけ』
こちらに軌道を向けてくる浮遊機雷に向けて、アサルトライフルを放つ。弾丸の一発で沈む機雷を、リニアライフルも交えて一つずつ処理をしていく。機雷を処理しながら進めば、遮蔽物の無い通路が目の前に広がった。
〈……ここからは隠れる場所はなさそうだね。焼かれるんじゃないよ!〉
『極めて出力の高いレーザーです。注意を、レイヴン』
「了解」
一呼吸を入れる。鋼材を強く蹴り上げて飛び上がる。そのまま、アサルトブーストを噴かせて直進する。ウィンドウに特別警戒を示すアラートが表示される。アラートの間隔に合わせて、横軸にズラして衛生砲を回避する。途中の通路で着地し、エネルギーを回復させる小休憩を入れる。そして、エネルギーの回復を確認した後、再度アサルトブーストを噴かせて目的地へ真っ直ぐに飛んでいく。ギリギリではあるものの、なんとか封鎖機構の狙撃エリアを突破する。
〈……まさか機体ひとつで、封鎖衛星の狙撃をからす奴がいたとはね。やるじゃないか、ビジター〉
カーラの素直な称賛に、少しだけ感情が高ぶる感覚を覚える。そのまま、カーゴランチャーの貨物エリアへと向かう。
『カーゴランチャーまであと少し……』
〈侵入者が衛星狙撃地点を突破。脅威レベルを引き上げます。封鎖施設に接近する侵入者を検出〉
〈……せっかくだ。ついでに掃除を頼もうかビジター。気に入らない上の住人には、退去してもらおう〉
「……了解」
貨物エリアには、浮遊機雷が大量に設置されている。アサルトライフルとリニアライフルで一機ずつ撃ち落としていく。こちらに軌道を向けて特攻してくる機雷に巻き込まれないように、三次元に動きながら対処していった。
〈……片付いたみたいだね、カーゴランチャーを起動しようか〉
『あれです。コンテナにアクセスしてください』
「わかった」
後は、カーゴランチャーを起動させるだけ。エアに示して貰ったコンテナにアクセスする。
〈あとは、あんたがそいつに乗り込んで……〉
『……待ってください、敵性反応! 上です!』
「なに……⁉」
アクセスを中断して上空を見上げる。カーゴランチャーからこちらを見下ろす何かがいた。飛び降りてくるそれに巻き込まれないように、急いでその場から離れた。
『っ⁉ この機体は……』
「なに、アレ……」
飛び降りて来たのは六本脚の、生物のような機械だった。こちらに銃口を向けて、真っ赤なレーザーを発射していく。
〈……あんた、まずいのに絡まれたよ〉
レーザーを回避しながら、敵機の様子を見る。カーラから、データが送られてくる。
〈C兵器、シースパイダー型……。ろくでもない技研の遺産が……、こんなところに配備されていたとはね……〉
アラートが鳴り響く。クイックブーストで出力の高いレーザー砲を回避する。アサルトライフルとリニアライフルで牽制射撃を撃ち、プラズマミサイルを発射していく。何はともあれ、アレを倒さなければ死ぬのはこちらだ。襲ってくるならば、相手をするまでだ。
『ジェネレータから、コーラル反応……。主砲、副砲、ミサイル、脚部武装……。武装の全てにコーラルが用いられています。確かに通常の機体ではない……。レイヴン、注意を』
〈ビジター、そいつを作った技研はアイビスの火で滅んだが……。連中は研究に取り憑かれた狂人の集まりだった、油断するんじゃないよ〉
「カーラ、それって――。っ!」
六脚の怪物、シースパイダーの二本の前脚が上がり、コーラルを纏ったブレードが展開される。振り下ろされる前に、クイックブーストでシースパイダーに飛び込んで回避した。
(今は、こいつを……!)
なぜ、そこまでこの兵器について詳しいのか。その疑問を投げかける余裕はない。この兵器は、本格的にこちらを“狩り”に来ている。アサルトライフルとリニアライフルの牽制が効いたのか。ACS負荷限界はすぐに狙えた。
〈ビジター! 早速、その玩具をブチ込んでやりな!〉
リニアライフルをパイルバンカーに換装し、大きく体勢を崩したシースパイダーにアサルトブーストで密着する。アサルトブーストの慣性に身を任せ、パイルバンカーを装備した左腕を大きく引く。撃鉄を起こし、炸薬を共に鉄杭を怪物に叩き込んだ。独特な動きとチャージ攻撃は大きな隙を産むパイルバンカーだが、これだけ大きい的ならばそのデメリットも無いに等しい。ACすらも一撃で粉砕する破壊力を叩き込めた。
リニアライフルに換装し、滞空しながらアサルトライフルとリニアライフルの牽制射撃を始める。コーラルを纏ったブレードは滞空ならばあまり脅威ではない。気を付けるべきは、副砲のガンと主砲だ。ミサイルは動いていればほとんど当たらない。
『敵機損耗、効いています! レイヴン!』
『そうでないと、困る……!』
パイルバンカーの一打が効いたのか、想定以上にダメージを与えることが出来ている。このまま、ACS負荷限界を狙い、パイルバンカーを撃つ。大きさに見合った大掛かりな攻撃はカサブランカの機動力で避けることが出来る。それを、相手が壊れるまで集中を途切らせることなく続けるまでだ。二度目のACS負荷限界、大きく姿勢を崩したシースパイダーに先程と同じようにアサルトブーストで距離を詰め、パイルバンカーのチャージ攻撃を撃ちこむ。姿勢を立て直したシースパイダーに、二丁の牽制とプラズマミサイルの追撃を行う。
だが、ここで変化がおきた。シースパイダーが飛び上がると同時に、脚部を展開する。展開された脚部から赤い炎が噴き出し、シースパイダーが四脚ACのように滞空し始めたのだ。
「なっ……⁉」
〈おいおい……。飛んだよ、ビジター!〉
『敵機からコーラル反応……! 危険です!』
「っ……!」
なんとかブーストを噴かせて、追い詰められて発狂しているかのような、コーラルを用いたレーザーの雨を回避していく。上空のアドバンテージを取られたままはまずい。こちらも相手と同じ高度を取らなければ、本格的に“狩られる”。ブーストを噴かせ、シースパイダーと同じ高度を保ちながらアサルトライフルとリニアライフルの弾丸を浴びさせていく。
〈……うちの製品開発ヒントにもなりそうだ。久々に工房に籠りたい気分だね〉
「楽しそう、だね……!」
ACでの滞空には、限界がある。着地をして、エネルギーを回復する隙がどうしても生まれる。滞空している間も危険だが、地上いる方が危険度は高い。冗談めかしく言うカーラに、思わず毒づいた。調子の変わらないカーラに口答えをする余裕があることに、自分でも驚いた。地上にいる間も、上空のシースパイダーへの攻撃は続ける。エネルギーの回復を確認し、一気に上昇して距離を詰める。上昇しきったのと同時に、シースパイダーが宙に浮いたまま一時停止をする。その隙を逃さず、リニアライフルを換装し、パイルバンカーを撃ちこむ。
『敵機、損傷拡大。あと一息です、レイヴン……!』
〈やっちまいな、ビジター!〉
リニアライフルに換装し直し、射撃攻撃を続けていく。エネルギーが尽きたカサブランカが地上に着地する。地に落ちたカサブランカを追うように、シースパイダーも高度を下げて来た。
「行ける……!」
エネルギーは回復した。ブーストを噴かせ、シースパイダーの上空を取る。そのまま、シースパイダーの上部に着地し、排熱が終わったパイルバンカーを真上から突き刺していった。
『敵機、システムダウン……! ジェネレータが爆発します! 距離を!』
通常の爆炎とは異なる、真っ赤な光。ブーストを噴かせて後退し、距離を取る。宙をも舞う、六本脚の怪物は炎を上げて地に墜ちた。
『……』
『エア?』
まるで、信じられないものを見たかのように息を吞むエアに、思わず問いかける。あのような兵器はこちらも見たことが無い。動揺しているのは、同じだ。
『コーラルを、動力に使うなんて……』
『エア……』
ぽつりと、エアが言葉を零す。ルビコニアンのエアからすれば、コーラルを兵器転用するのは信じられないと言った感じだろうか。ルビコニアンからすれば、コーラルは日常生活に使われるもの。それが、兵器となってしまうのはショックを受けてしまうのかもしれない。
〈面白いものを見せてもらったよ、ビジター。大人しい顔して――って、それは私が作った顔か。まあいい。そんじょそこらの野郎共より、度胸のある子だよ。良い女になるね、あんたは。……さて、本来の目的に戻ろうか〉
「あ……」
カーラに言われて気付く。目的はカーゴランチャーだ。シースパイダーはあくまで乱入者だ。一息をついている場合ではない。
〈さっさとコンテナに乗り込みな。操作はこっちでやる〉
「わかった」
マーカーが更新される。ブーストを噴かせ、示されたコンテナへと向かう。コンテナへとアクセスすれば、扉が開いた。
〈よし、始めるよ〉
カーラの合図と共に、コンテナの中にカサブランカを収容する。あとは、カーゴランチャーが起動するのを待つだけだ。夕日すら入らない密閉された暗い空間に、少しだけ怖気がする。
〈しかしまあ、本当にあんたは運が無い。あのウォルターに飼われているんだからね。主人を選べる犬はいないが……、まったく同情するよ〉
「カーラ……!」
例えウォルターの知人であり、この義体の製作者であったとしてもその言葉は聞き捨てならなかった。彼がいなければ、今もこうして人間の真似事をしながら、自分は生きていないのだから。
〈っと、そいつは悪かった。……ああ、それからひとつ〉
ガコンという音と共に振動。カーゴランチャーが起動し、コンテナが移動しているようだった。
〈こいつは、あくまで物資輸送のための代物だ。有人で打ち出されるのは、あんたが初めてになるだろうね〉
「……え?」
ウォルターを侮辱した怒りが吹き飛んでしまった。そして、ようやく何かを言いたげなウォルターの反応に合点がいった。
大陸間輸送用カーゴランチャーで、中央氷原を目指す。確かにそれは、“手段”としては上げられるものだろう。だが、真っ先に却下されるものだ。なぜならば――
〈不運なあんたの、幸運を祈るよ〉
その言葉と同時に、強力なGが全身に襲い掛かる。大陸間輸送用カーゴランチャーは言わば、大陸と大陸の間の海を越えるための大砲。勢いよく射出されたものがどうなるのか。いくら無知な621でもすぐに想像がつく。安全性が度外視された、大馬鹿者が取る手段だ。射出された勢いに乗せたまま、更に軌道修正のためのブーストが噴かされる音が聞こえる。五感も意識も、全てが途絶えかけたその時だった。
『あれ……?』
夕日が見える。否、夕日にしては赤すぎる。キィン……という耳鳴りのような音共に、赤い水流のようなものが見えた。
『レイヴン……? ああ……。あなたには、見えているのですね』
宙を浮いているような感覚。その隣に、エアがいた。
『このルビコンを対流する……、コーラルたちの声が』
『コーラルの、声……?』
声が見える。というのも不思議な表現だが、この水流のようなものが、音の波である。そう解釈すれば、声が見えるということに繋がるのだろうか。具体的にどのような言葉を、音を発しているのかは掴みかねてしまうが……
『……ウォルターの見立ては、当たっています。コーラルは……、あの捨てられた極地のどこかに』
『……』
このコーラルたちの流れも、確かに今飛ばされている中央氷原へと流れている。ような、気がする。コーラルは、より多くのコーラルたちの下へと集まるというウォルターの言葉を思い出す。
『これで、ウォルターの――』
凄まじい衝撃。どこかぼーっとしていた意識が一瞬で現実に戻ってきたが、すぐに消し飛んでいく。レイヴン⁉ しっかりしてください! レイヴン! と、エアの悲鳴が遠くに聞こえたのと同時に意識が途切れた。
*
「1……、621……、621……!」
『大丈夫ですか、レイヴン』
聞き慣れた声に、ゆっくりと瞼を開けていく。医務室の天井と、こちらの顔を覗き込むウォルターとエアの姿があった。
「うぉるたー……? えあ……?」
「気が付いたか、621。幻聴は、収まっていないか」
身体を起こそうとすると、ウォルターが背中を支えてくれる。パイロットスーツではなく、部屋着としているキャミソールとショートパンツだった。
「ワタシ――、さむ……」
「中央氷原だからな……。寒さはより厳しいものとなる」
「中央、氷原……」
先日に購入した上着を渡され、すぐにそれを着る。この部屋着そのものを変えねば、義体でも寒さという感覚に参ってしまう。
そして、中央氷原という言葉にようやく記憶の整理がついた。大陸間輸送用カーゴランチャーに射出され、なんとか中央氷原に到達できたらしい。らしいが、そこからの意識がない。
『本当に申し訳ありませんでした、レイヴン……。気絶したあなたを、ウォルターが回収し、介抱してくれていました』
『危ないことなの、考えればすぐにわかることだった。それに、それしか無かったなら仕方ないよ、エア』
あの時、自分だったらどうするのか。自分だけでは考え着かなかった。エアの提案が無ければ、先行調査はもっと時間がかかったのだろう。そう考えれば死にかけたとはいえ、カーゴランチャーで飛ぶというのは間違った手段ではない。間違っては、いないだけだが。
「……ウォルター、状況は……」
「ああ、俺の方も野暮用は片付いた。アーキバスは別ルートで現地入りし、調査部隊を展開しようとしている。ベイラムもお前の先行調査を受け、追いついて来たらしい……。ベイラムはあくまで、お前のルートに沿うように補給基地を展開しながらだが」
「……あの人たちまで、飛ぶようなことが無くてよかった」
ウォルターが、ホットコーヒーの入ったマグカップを渡してくれる。一口含み、冷えた身体に暖かさが染み渡る。少しだけ、レッドガンの彼らがカーゴランチャーに飛ばされる光景を思い浮かべる。間違いなく、イグアスとレッドが叫び散らし、あんな着地をしても尚、ミシガンは五体満足で立っていそうな。そんな光景が浮かび上がった。
「場所が変わっても、企業たちのやることは同じだ。俺たちは、それを利用するまでだ」
こくりと頷いていく。このような場所になっても、彼らは変わらない。いや、場所が変わっただけだ。コーラルを得るため、互いに互いの腹を探り、出し抜き、潰し合う。だが、そんな彼らから仕事を受け続ければ自然と彼らが得る情報も入ってくる。どちらにも付かず、どちらにも手を貸す独立傭兵ならではの立場。それが、こちらが持てる最大の武器。企業よりも早くコーラルに辿り着くためには、それが最適解だった。
『レイヴン、オールマインドからも通達があります。アリーナのDランク帯の仮想戦闘が解放されるそうです』
『そう。それなら、そっちも頑張らないと』
アリーナが解放されるということは、OSチューニングの幅が広がるということだ。拡大できる戦力は拡大させるべきだ。機体の性能は引き出せるだけ引き出した方が良い。
「聞いているか、621」
「……え?」
ウォルターの声に思わず振り向く。ウォルターが深いため息をするのが見えた。
「……カーラに、整備をして貰ったのだったな」
「……うん」
「……621、仕事を始める前に買い物だ。お前の衣服を一新させなければならない」
「……?」
思わず首を傾げた。あの衣服は、ハウンズたちが遺した贈り物だ。衣服として、あれ以上に愛着があるものはない。
「……衣服は、あれだけでいい」
「違う。人工皮膚を保護するためにも、……下着類が必要だろう」
「……」
そんなものなぞ、すっかり頭から抜けていた。人工皮膚にも、感触はある。確かに、キャミソールが素肌を掠めるのは少々不快感が伴っている。そういう意味では、もう一枚が必要となる。
「わかった。……ウォルター」
「どうした、621」
「下着は、どういうものがいい?」
瞬間、ウォルターが固まった。