ワタリガラスにカサブランカの花束を   作:櫻木ゆすら

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合併回。初見は花火師アセンで行った思い出。シールドバッシュニキを許すな。


大型ミサイル発射支援/執行部隊殲滅

〈なるほど。ザイレムの現状は大方把握できたよ、ウォルター。これで、私らは奥の手が使えるという訳だ〉

「……」

 少女が持ち帰ったザイレムの情報をカーラに報告する。これで、奥の手――。増殖したコーラルの対応策が見つからなかった場合の最終手段、二度目のアイビスの火を起こす材料が揃った。後は、コーラルを見つけることだけだ。

〈ECMが無くなった今、ホルスの目も届くようになる。しばらくは、あの子に見て貰うように頼んでみるさね〉

「ああ……」

 カーラは既に、増殖したコーラルに対する手段が決まっている。破綻を起こす前に、火を点ける。例えそれが、厄災をもう一度起こすことになるとしても、だ。

〈……ウォルター〉

「分かっている。俺たちで、ケリをつける」

〈あの子には関わらせたくないって?〉

「……あいつには、そこまで付き合わせるつもりはない」

 ただ、施術を受けた少女。これが、自ら志願したものなのか、強制されたものなのかは分からない。それでも、この惑星(ほし)を、星系そのものを焼き払う災禍を起こした大罪人にさせたくなかった。

〈相変わらずだねえ……。そんなんだから617――、クロエたちも、あんたのためならって平気で命を投げ捨てるんだ。あんたの優しさは、捨てられたモノたちには眩し過ぎる。あの子も、同じだよ〉

「……どうだろうな。あいつには、俺以外の存在がいる」

 少女の心の拠り所。少女には、こちらが知覚出来ない存在と、V.Ⅳ(ヴェスパー・フォー)に関心を寄せている。知覚が出来ない存在に関しては、少なくとも少女にとって悪いものではない。それぐらいしか判断が出来ない。だが、あの男に関しては……、得体の知れない男に少女を預ける気にはとてもなれない。なにより、少女の心というものがそこまで取り戻せていない。

「やるつもりは、ないが……」

〈ちょっと過保護じゃないかい? おとうさん?〉

「そういうものではない」

〈まあいいさ。ちょいと話がズレちまったが、報告は分かった。次に、私からちょっと頼みがある。あの子を借りたい。RaDにも封鎖機構が絡んで来ているもんでね。もちろん、依頼として小遣いくらいは出すさ〉

 カーラの方にも、こちらに要件があったようだ。隠れ蓑のRaDを失うということは、今のカーラにとっては痛手だ。彼女には、昔から世話になっている。ならば、こちらから出来る助力はして然るべきだった。

「わかった。621に仕事を回せ。あいつも、懐いているようだからな」

〈ああ。女同士、コイバナをした仲だからね。ああいうのがタイプとはねえ〉

「なんだと……⁉ カーラ、それはどういう――」

〈と、ビジターへ回す依頼の準備をしないと。それじゃあ〉

 とんでもない発言を残した後、嘲笑うように彼女は通信を一方的に切った。

 

 

(今日は……)

 何か仕事が届いているか。確認を行ったその時だった。タイミング良く通知が入って来る。通信先を確認すれば、それはカーラからのものだった。

「……カーラ、どうしたの?」

〈久しぶりだね、ビジター。元気そうでよかったよ。あんたに、ひとつ仕事を頼みたい〉

『カーラからですか?』

『そうみたい』

 ヒビが入ったタブレット端末を操作し、ブリーフィング画面を開いていく。

〈惑星封鎖機構の実力行使だが、いよいよ私らのビジネスにまで影響が出はじめた。コヨーテスのアホどもが、封鎖機構を恐れて軍門に下りやがったのさ。後ろ盾を得て調子付いたんだろうね。RaDのシマにもまたちょっかいを出してくる始末だ〉

 ドーザーにも、そのような知性を回す健全な脳があったのか。どちらにせよ、カーラ達もまた、封鎖機構によって圧を受けているということなのだろう。

〈そんなわけで、コウモリ野郎がお星様になれるよう打ち上げ花火をプレゼントすることにした〉

「……なんて?」

〈ビジター、喧嘩売って来る相手は無視してもいい、が時にはその喧嘩を買って痛い目に合わせるのも大事さ。あんたみたいな可愛い女の子なら特にね。ナメてかかってくるやつには分からせてやるのが一番さ〉

「……わかった」

〈よろしい。連中もそこまでは馬鹿じゃない。発射する時には当然妨害に来るだろう。分かるね? あんたの仕事は連中の迎撃と、ミサイル防衛だ。コウモリ野郎と封鎖機構に、RaDの花火を見せつけてやろうじゃないか〉

 要は、襲撃を仕掛けてくるジャンカー・コヨーテスの本拠地に向けて、ミサイルを放つというかなり手荒な手段で報復をするということだろう。防衛となれば、武装を見直さなければならない。ウォルターにも連絡し、彼女が指定した花火会場へと向かった。

 

 

『そろそろ作戦時間です。ドーザーたちがコーラル酔いで、遅刻などしなければ良いのですが……』

『そこは、大丈夫だと思う』

 レーダーは指定された作戦エリア――、ウォッチポイント・デルタに近付いてきているのを示していた。今回の武装は、垂直プラズマミサイルとパルスブレードはそのままに、右手には単発威力が高いバズーカ、左手には爆風による範囲攻撃を得意とするグレネードを装備している。

〈メインシステム、戦闘モード起動〉

〈先に始めてるよ、ビジター! 配置につきな!〉

『時間どおりに来たはずですが……。血の気の多い人たちです』

『……今更』

 RaDもまた、ドーザーとして気性が荒いのは同じだ。もう始まってしまっているものはしょうがない。急いで交戦地点へと向かう。右手のバズーカで一機、左手のグレネードは避けられた。垂直プラズマミサイルで追撃しつつ、反対側のMTたちを殲滅していく。やはり、撃ち方も異なる使い慣れない武器は扱いが難しい。

『敵勢力、第一波の殲滅を確認』

〈ボス、準備完了だ。ミサイル発射シーケンスに入る〉

「え?」

〈紹介がまだだったね、ビジター。チャティはうちのシステム担当だ。無口だが、仕事はできる奴さ〉

 聞き覚えの無い声に思わず動揺する。それを見越したかのように、カーラが彼について説明した。

『アリーナで確認できました。彼、と言えば良いのでしょうか。高度にプログラミングされ、人間の性格に近い思考を可能としたAIのようです』

〈さて、あんたにはその調子でコウモリどもを蹴散らしてもらおうか。まったく……、長いものに巻かれようとはね。ドーザーがまともな判断しやがって。第二波が来る。近寄らせるんじゃないよ!〉

『正面左手方向から増援です。迎撃してください』

「了解」

 ブーストを噴かせて新たに現れた一グループへと向かう。垂直プラズマミサイルをマルチロックで放ち、増援のある左手側へと向かう。ヘリからMTが投下される前に、バズーカとグレネードを交互に撃ちこんで撃破していく。間に合わず投下された三機には、リロードが終わった垂直プラズマミサイルのマルチロックで捉えて放つ。

〈手際がいいねえ、ビジター。コウモリ野郎が不憫になるよ〉

 レーダーを確認する。左側から水上を走りながらMTが近づいてくる。垂直プラズマミサイルで対処をする。また、新しいグループの確認。反対側の右手側へと向かう。

『正面、ブリッジ方向から来ます』

〈コウモリ野郎がぞろぞろと……。数が多いよ、注意しな!〉

「了解」

 右手側のグループの中央の機体に照準を合わせてグレネードを放つ。着弾した爆風が周囲の機体をも巻き込む。エアに示されたブリッジ方向へと急いで機体を反転させる。MTを積んだヘリが四機。バズーカとグレネードを交互に撃ちこみ、辛うじて投下される前に撃破していく。

〈分かるかい、ビジター。待つ時間も花火の内だ。お客さんを楽しませてやろうじゃないか〉

「防衛が仕事、でしょ?」

〈相変わらずの真面目ちゃんだ。ウォルターにそっくりだよ。少しは遊ぶことを覚えるといい。そうだ、V.Ⅳ(ヴェスパー・フォー)辺りに遊びについて話しをしてみればいいさ〉

「ラスティに……?」

 なぜ、カーラまでラスティについて言及するのだろうか。ウォルターもエアも、二言目にはラスティが関わって来ると言いたげなもので。謎が謎を呼ぶ状況になってしまった。目の前にいるグループの中心のMTにグレネードを撃ちこみ、とにかく仕事に意識を切り替えていく。反対側にも機体反応。水上を走って、グループの中心の機体にグレネードと撃ちこむ。

『ブリッジ方向から第三波、これまでとは異なる機体です』

「なに……⁉」

 ブリッジに向けて機体を反転させる。宙から落下する飛来物。展開されたそれは、グリッド〇八六で見た独特な形状のMTだ。

〈うちのトイボックスじゃないか……。火力は洒落にならないよ、優先的にやりな〉

「了解……!」

 トイボックスに向けてバズーカを撃ちこむ。次にグレネードを撃ちこむが、移動で回避されてしまう。急いでトイボックスの正面に立ち、リロードが間に合ったバズーカを撃つ。トイボックスに続くMTグループにグレネードを撃ちこみ、撃ち漏らしを垂直プラズマミサイルで薙ぎ払った。

〈ミサイル発射シーケンス、五〇%完了〉

〈チャティは順調なようだね。ビジター、あんたもやられるんじゃないよ〉

『再び正面。三方向から同時に来ます』

〈トイボックスのおかわりだ。撃ち漏らすんじゃないよ!〉

「多い……!」

 正面ブリッジから現れるMTのグループに垂直プラズマミサイルを放ち、すぐさま機体を反転させる。被弾しているサブミサイル側のトイボックスにバズーカとグレネードを撃ちこむ。反対側のトイボックスにすぐさま向かう。足を止めている場合じゃない。アサルトブーストからのパルスブレードでトイボックスを破壊する。背後の銃撃音に振り向けば、ブリッジを侵攻するトイボックスの姿。すぐさまバズーカを撃ちこみ、ウェポンハンガーで構えなおしたグレネードで破壊する。

『……敵の増援が、追い付いていないようです』

〈加減してやりな、ビジター。花火会場がこれじゃ盛り上がらないよ〉

「……カーラの言うこと、時々わからなくなる……」

 どうも、ギリギリの瀬戸際というリスキーなものがカーラの好みらしい。彼女の遊びという単語の基準が分からなくなる。右手側のMTグループを垂直プラズマミサイルとグレネードで一掃する。中央の高低差でバラバラなグループをバズーカ、グレネードを交互に撃ちこむ。再び現れた右手側のグループを垂直プラズマミサイルで捉え、撃ち漏らしをバズーカで撃破した。

〈抵抗する不法勢力に告ぐ。武装解除の意思なき場合、その勢力は例外なく排除対象となる。繰り返す、例外はない〉

「強襲艦、まで……⁉」

 これは半ば、ドーザー同志の小競り合いだ。封鎖機構が介入するほどではない。それとも、強襲艦を投入するようなものが、ジャンカー・コヨーテスにあるのか。それとも、RaDを敵視しているのか。どちらにせよ、こんな巨大な物までくればミサイルはただでは済まない。中央ブリッジから現れるMTグループを垂直プラズマミサイルで撃破しつつ、強襲艦へとアサルトブーストを噴かせていく。

〈強襲艦だと……⁉ 親玉自ら咎めに来たかい……〉

『照射レーザーによる攻撃を受けています、注意を!』

〈任せたよ、ビジター! 船を落とすのは得意なんだろう?〉

「任せて……!」

 あの強襲艦の倒し方は知っている。艦に取り付くことが出来ればこちらのものだ。パルスブレードを振るい、バズーカを撃ちこんだ。爆炎をあげる強襲艦から離れて行く。

『惑星封鎖機構強襲艦の撃墜を確認』

〈やるじゃないか、ビジター。いい余興を見せてもらったよ〉

〈ボス、ミサイル発射シーケンスが完了した。いつでもいける〉

〈上出来だ、チャティ。ビジターもよくやった。さあ、派手に打ち上げるよ!〉

 どうやら、チャティも素早く仕事が終わったようだった。これで最低限の仕事は果たした。後は、ミサイルが打ち上がるだけ。

〈星になりな! コウモリ野郎ども!〉

 ミサイルが点火する。多少の損耗こそはあるものの、ミサイルは徐々に上昇していく。

〈ビジター、着弾予測地点を表示しよう〉

「……、あり、がとう……?」

 チャティによってマーカーが示される。その方向にカメラを向けば、ジャンカー・コヨーテスの本拠地と思しきグリッドに向かって、ミサイルが炎の軌跡を描いていく。そして、グリッドに着弾したミサイルが遠い場所からでも見える程の爆炎をあげていった。

〈……ちょっとずれたか? まあでも、大体計算どおりかね〉

 多少襲撃を受けていたこともあってか、どうやら予測よりズレていたらしい。どちらにせよ、相当な火薬が詰められたミサイルの爆炎はグリッド全てを覆いつくしていく。

『レイヴン』

『なに?』

『綺麗な花火ですね』

『……そう』

 花火というのは、彼女らなりの例えの言葉遊びだ。それを、エアは真に受けているようだった。

 

 

〈通信が入っています〉

 帰投した直後、COMからの通知が入る。ヒビが入ったタブレット端末を操作して通信を確認する。そこに映し出されたのは、気だるげな表情をした黒髪に褐色の肌、金色の瞳を持つ青年の姿が映し出された。

「……あなたは?」

〈RaDのチャティ・スティックだ。花火会場では世話になったな〉

「チャティ……? でも、あなたは……」

〈ああ。この姿はお前と同じだ、ビジター。俺にも、人間サイズの義体と言うものがある。気にするな〉

 AIであるはずの彼にも、どうやらカーラは義体を与えているようだった。少しだけ、チャティにも親近感が湧く。

〈ボスはお前とつるんでいると楽しそうだ。これからも相手をしてやってくれ〉

「カーラは……。少し、困るけど、頼りにしている」

〈それならばよかった。用件はそれだけだ、じゃあな〉

 あっさりとチャティとの通信が終わる。その切り替えの早さはプログラミングされた存在であるのだと気付かされるが、それ以外は今の自分よりよっぽど人間らしい。

『また、変わった知り合いが出来ましたね。レイヴン』

『そうだね。でも、チャティとは仲良くなれそう』

『確かに、彼とあなたは波長が合いそうです』

(チャティなら、怒らないんだ……)

 相手が男性だから、エアとウォルターが変な反応をしているのか。と考えていたが、どうやらその予想は違うようだった。

 

 

「621、企業からも依頼が入っている。ブリーフィングを確認しろ」

 花火大会から数日後。ウォルターからの連絡にヒビが入ったタブレット端末を操作する。

G13(ガンズ・サーティーン)レイヴンに伝達! これは、ベイラム本社より承認された軍事作戦だ〉

 依頼主はベイラムのようだ。レッドがブリーフィングを説明していく。

〈アーキバス占領下にあった“壁”を巡り、解放戦線が動いたようだが。結局は両者とも惑星封鎖機構に制圧された。それが目下の状況だ〉

『ダメ、だったみたいだね』

『むしろ、スウィンバーンが失われたことによって出来た隙を突かれたというべきでしょうか。これは、彼らにとっても痛手でしょう』

 アーキバスの優勢を崩した元凶から見れば、指揮官を失ったタイミングで解放戦線も動いた。だが、それより早く封鎖機構が来てしまったということなのだろう。

〈だがこれは、我が方にとってアーキバスから漁夫の利を取り返す好機とも言える。貴様には当該地点へと侵攻し、配備途中の封鎖機構執行部隊を殲滅してもらいたい。敵方戦力には新型HC機体も含まれているという。この手の作戦は貴様が適任だ。G13(ガンズ・サーティーン)レイヴン! 確実な遂行を期待する!〉

 レッドによる元気の良い締めが入る。ようやく、彼の声量にも慣れて来た。気がする。

「ベイラムは前回の壁越え失敗に固執しているようだな。まあいい、俺たちは状況を利用するまでだ」

「うん。わかった」

 企業や解放戦線が何を考えどう動こうとしても、こちらには関係が無い事だ。仕事を依頼されたのならば、仕事を行う。それだけだ。依頼を受託し、出撃準備へと向かった。

 

 

〈メインシステム、戦闘モード起動〉

〈ミッション開始だ。“壁”を制圧した執行部隊を全て排除しろ〉

「了解」

 投下された場所は、ラスティの戦闘ログを回収した方面の“壁”だ。初めて大規模な作戦に参加したことも、彼と出会ったことも、なんだか遠い昔のように思えてしまう。マルチロックでMTを捉えて垂直プラズマミサイルを放っていく。

〈コード15、AC単機〉

〈独立傭兵か。排除する〉

 MTの火線を受けるが、先立って放った垂直プラズマミサイルが、前衛の三機を破壊していく。

『SG高火力型です。気を付けてください、レイヴン』

『わかった』

 次は高台に位置するMTを狙う。ロケットを避けつつ、アサルトライフルとリニアライフルで一機ずつ処理を行っていく。

〈数が多い、正面突破は危険か〉

「大丈夫、やれる」

 アサルトライフルとリニアライフルの弾丸はまだ問題無い。確実に、一機ずつ落としていけばこの数ならば問題にならなかった。それだけ、技量が身に着いたと言うべきなのだろうか。

〈コード31A、被害が広がっている〉

〈応援を要請する、コード78!〉

〈ベリウス地方のSG回線を間借りしているようだな。それであれば細工は可能だ。……621、外部からの増援は防いでおいた。あとはお前の仕事だ〉

 さすがの手腕と言うべきだろう。仕組みさえ分かってしまえばこちらのものとばかりにウォルターはあっさりと通信網を封鎖した。後は、現存戦力を叩くのみ。壁の方へと侵攻を続ける。

〈コード5、排除目標と接敵。対処する〉

『兵装の異なるLC……、高火力型です!』

 壁に近付けば、二つの光が飛び出してきた。二体のLCを相手取る状況になったが、落ち着いて彼らから距離を取り、一体に狙いを定めて、垂直プラズマミサイルを織り交ぜつつ、アサルトライフルとリニアライフルを向けていく。こちらの機動力に対し、発砲の際に動きが止まるLC。一体を撃ち落とすのに時間はかからなかった。一体さえ落としてしまえば、残る一機を相手取る分は問題無い。距離を保ちつつ、射撃戦を行っていく。

「今……!」

 距離が近づいた瞬間、ブーストキックで蹴り上げればACS負荷で止まるLC。ウェポンハンガーでパルスブレードに切り替え、LCを斬り伏せた。

〈この辺りは片付いたようだな。続けろ、621。“壁”内部にも機体反応がある〉

「了解」

 リペアキットでAPを回復させつつ、壁へと向かっていく。出入口は開いたままではあるものの、やはりと言うべきか、隔壁にはロックがかけられている。

『屋内に入ります。新型HC機体もおそらく内部に……』

『その前に――』

 隔壁が開くと同時に後退する。待ち構えていたMTと距離を取る。狭い通路と入口を利用して、一機は落とした。

〈コード15、排除目標が侵入した!〉

〈歩哨部隊は何をやっている?〉

〈各員に伝達! どうやら外部通信が妨害されている。現有戦力で対処、HC起動まで持たせろ!〉

 マシンガンを撃ちこむ機体、電熱カッターを振りかざす機体。落ち着いて射撃戦を続けていけば、損耗を抑えたまま撃破が出来る。すぐにこの場は鎮圧が出来た。

(次は……)

 二枚目の隔壁にアクセスを行う。隔壁が開いた先にはMTが三機。恐らく、ここに新型HCがいるのだろう。

〈コード5! 敵はAC単機!〉

〈迎撃するぞ!〉

 先行してくる二機のMT。垂直プラズマミサイルで捉え、先立って放っていく。アサルトライフルとリニアライフルで応戦している間に、プラズマミサイルの着弾と着弾によるプラズマのダメージエリアがMTを撃破する。後は一機のみ。

〈コード21! 現着した!〉

 MTに近付いた瞬間、奥の隔壁が大きな音を立てて蹴破られた。すぐさま、残るMTを二丁の弾丸で撃破する。この閉所で、新型機を相手するのは少々不利だ。

〈AC……、独立傭兵だな。排除執行する!〉

『敵機を解析します。惑星封鎖機構、HC型執行機。ACと異なり、あのシールドは常時展開を可能とします。気を付けて』

〈新型だ。油断するな、621〉

「了解……!」

 アサルトライフルとリニアライフル、垂直プラズマミサイルを放っていくが、いずれも展開されたシールドに弾かれている。ブーストキックによる蹴りすらも、あのシールドは衝撃を吸収する。逆に、あのシールドを用いたバッシュに押し返され、ACS負荷限界を迎える。

「この……!」

 すぐにクイックブーストを噴かせて、なんとか強制的に機体を動かす。盾を構えつつ放つレーザーやミサイルも手痛い。新型というのは伊達ではないようだった。機動力に制限がかかった閉所による堅実な戦い方はこちらを消耗させる。攻勢に出て、無理矢理相手のACSに負荷をかけるしかない。垂直プラズマミサイルを放ち、ブーストキックを繰り返して放っていく。

〈AP、残り五〇%〉

 リペアキットで機体をすぐに修復し、隙を伺っていく。チャージされたレーザーライフルの一撃に再度こちらがACS負荷限界に追い詰められる。クイックブーストを無理矢理噴かせて、すれ違い様に接近を避けていく。アサルトライフルとリニアライフルで撃ち続け、なんとか相手をACS負荷限界に向かわせる。ウェポンハンガーでパルスブレードに切り替え、二撃を与えた後にブーストキックで蹴り上げていく。

〈外部通信を妨害したのも貴様か。やってくれたな……! 企業も傭兵も……、秩序を乱す危険因子は排除する!〉

 クイックブーストですぐさま後退し、垂直プラズマミサイルを放つ。だが、相手の多段ミサイルを回避できず全弾の直撃を受ける。急接近するHCをクイックブーストで避け、最後のリペアキットを使う。これ以上の損耗を抑えるためにパルスアーマーも展開した。リペアキットの残数が尽きたと、COMが淡々とした口調で伝えていく。

(後はない、でも……!)

 一呼吸を入れ、HCにアサルトライフルとリニアライフル、垂直プラズマミサイルの射撃戦を続けていく。HCが縦横無尽に移動したせいか、周囲の施設が破壊されて若干広くなっている。広くなって伸びた距離を利用して、HCから離れる。放たれた垂直プラズマミサイルがACS負荷限界を向かわせたのは見逃さなかった。

〈チッ……! システムにさえ繋がりさえすれば……! 舐めるなよ……、傭兵!〉

〈押しているぞ、畳みかけろ、621〉

 言われるまでも無い。距離を詰めてパルスブレードの二撃を振るう。だが、後一手が足りない。ブーストキックで追撃をするもまだ壊れない。HCが離れる前に、無理矢理に脚を動かして最後の蹴りを叩きこんだ。

『敵機システムダウン。HC型執行機を撃破しました』

〈……周辺に敵影なし。全て片付いたようだな。621、仕事は終わりだ。帰投しろ〉

 いつものウォルターの言葉に、ようやく詰まっていた喉に息を入れることが出来た。

 

 

 少女のミッションを見届けた後、通信が入って来る。相手はV.Ⅱ(ヴェスパー・ツー)スネイル。先日に送った“提案”に、乗る気になったのだろう。

〈また貴方ですか? 駄犬の飼い主と違って、暇ではないのですよ〉

 相変わらずの高圧的な態度での挨拶。だが、こちらにも握っている情報がある。どこにも所属していない中立の立場だからこそ、現状を俯瞰することが出来る。少女が戦っている合間にも、こちらは、こちらが出来る戦い方をしている。

「……ヴェスパー副長ともなれば心労が多いようだ。とりわけ、今の状況では」

〈何が言いたい?〉

 やはり、相手は若造だ。このような多忙な状況で無ければ、こんな安っぽい挑発には乗らないだろうが。相手の心の平穏を乱すという意味では、まだラスティの方が上手のようだ。

「惑星封鎖機構に対する急襲作戦。手駒が足りていないのだろう」

〈……なるほど。浅ましくも涙ぐましい営業努力です〉

 こうして、通信に応えている時点でスネイルの答えは決まっているようなものだ。いくら神経質な性格といえども、どうでも良い羽虫には微塵も興味を示さないだろう。それだけ、少女はしっかりと実力を付けて来た。手を貸すと言う言葉に、皮肉交じりで答える分には。だが……

〈いいでしょう。貴方の駄犬も戦力として計算に……〉

「もうひとつ。駄犬呼ばわりは止めてもらおう」

 これだけは、どうしても耐えられないことだった。

「旧世代型にも、尊厳はある」

 人形のようなあの少女も、列記とした一人の女性で、人間だ。実力を証明してきた彼女を尊重しないということは、最も許せないことだった。無言で切れた通信を、肯定として捉えることとする。

「っ……」

 ピリッと、脊椎端子が痛む感覚。今まで、このような不気味な痛みが走ることは無かった。まるで、妖精や幽霊と言った非科学的なものに悪戯されたかのような。そんな感じだった。

(一体、誰だ……)

 自分が管理するデータを確認するも、異変は何も見られなかった。それがなぜか、とても不気味に見えてしまった。

 

 

〈通信が入っています〉

 帰投した直後にCOMからの通知。この間もこんなことがあったような。タブレット端末を操作すれば、そこにはレッドの顔が映し出されていた。

G13(ガンズ・サーティーン)レイヴン! “壁”での殲滅遂行、ご苦労だった。まだ生き残っている貴様に対し、ひとつ俺から助言を送ろう〉

「助言……?」

〈ああ。貴様は、独立傭兵にしておくには惜しい。正式にレッドガンに入隊すれば、より上位の番号を狙えるだろう〉

「……そう?」

 レッドガンに正式に入隊する。それは、あまり考えたことがないことだった。自分はあくまで、ウォルターの手足となる兵器だ。他の誰かの傘下に入るということは、発想すら至らない。これは、ラスティに言われたとしても、同じように考えてしまうことだ。

〈レッドガンは実力主義だ。実力でねじ伏せれば、イグアス先輩も、五さんも何も言わん。……そのナンバーは縁起が悪い。付けつづけていると、ロクなことにならんぞ〉

「ミシガンは、ラッキーナンバーって」

〈そ、それは皮肉を込めたジョークだ! あの方が、十三番目のタロットカードのことを知らないわけがない!〉

『レイヴン、今調べました。古い世代の占いと呼ばれる独特な学問があります。タロットカードは、占いに用いられる道具の一種。番号が割り当てられた中で、十三番目のカードは死神。あまり、良い意味を示さないようです。ちなみに、G6(ガンズ・シックス)レッドの機体名、ハーミットも九番目のカードに同名のものがあります』

『なるほど……』

 元々、十三という数字自体がよろしくないものだと聞くが、教養があるミシガンがそれを知らないはずがない。かなり、皮肉が込められたブラックジョークだったのだろう。生き残るかどうかも分からない初見相手ならばこそ、発言することが出来たジョークだったが。

〈っ……。すまん、取り乱した。以上だ。これからも使い倒してやるから、覚悟しておけ〉

「……心配してくれて、ありがとう」

〈ち、違うぞ! 正式に入隊されれば百人力となり得る有力株を失いたくないだけだ! べ、別に貴様が妹と歳が近いとか、そういう訳ではないからな!〉

 動揺をみせたまま、通信は一方的に途切れてしまった。あれは、素直に感謝を述べるところではなかったのだろうか。

『何か、間違えたかな……』

『いえ、何も間違えていないと思います』

(レッドにも、怒らない……)

 レッドの反応も不可解だが、エアの怒りの沸点もより分からなくなってしまった。

 

 

「……かはっ!」

 意識が戻って来る。すぐに感じた感触はこの寒冷化した惑星(ほし)において、ほぼ自殺行為に等しい氷が入った水の突き刺す冷たさ。こちらの意識が戻ったのを確認してか、浴槽の傍らに立っていた、己の愛機に似たバイザーを身に着けた黒髪の女性がすぐにタオルを持って氷風呂からこちらを抱き上げた。衣服を着用しての入水は避けて正解だった。

「それだけ、手強い相手だった? ハンドラー・ウォルターは」

「さすが、一時的でも、封鎖機構の通信網を妨害するだけのことは、あるわ……」

 重いはずだろうに、こちらを横抱きにしたまま、彼女が歩を進めて行く。用意してくれただろう暖炉の側に寝かされ、暖かい飲み物を渡された。

「まあ、オリヴィアに匹敵するランナーなんていないでしょうけど」

「それでも、出る時には気付かれたわ。もう少し若いか、経験があったら私も捕まっていたでしょうね」

 ネットランナーの宿命とは言え、体内のコンピュータ冷却のために入水しなざるを得ない氷風呂はかなりキツイ。かじかんだ手に暖かい飲み物が入ったカップは手を暖めてくれる。こちらの体調を気遣ってか、すぐに報告を聞くこともなく、追加のタオルや着替えも持ってきてくれた。

「でも潜った甲斐はあったわ。データを送る」

 ハンドラー・ウォルター。旧世代型強化人間を用いる愛好家。そして、例外なく彼らを使い潰した冷酷なる男。そんな彼と彼の猟犬がルビコン入りを果たした。それまでなら良い。その先が問題だ。彼らが奪った身分だ。傍らにいる彼女の端末に、危険を冒して手にしたデータを送る。真人間である彼女には、直接のデータ送信を行うことは出来ないからだ。

「それが、ハンドラー・ウォルターの猟犬。あなたの偽物の正体よ、“レイヴン”」

 偽りの名義を手にした彼らについて、こちらは知る必要があったのだ。

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