ワタリガラスにカサブランカの花束を   作:櫻木ゆすら

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書きたかったスティールヘイズへの相乗り回です。
差し込めそうな場所がここだった。


間章六

 ブリーフィングから数時間。現場に出るチームによる軽い打ち合わせも終わり、後は決行を待つだけとなった。ガレージには、アイスワーム撃破に必要な装備。スタンニードルランチャーが搬送され、カサブランカへの搭載も終わっている。後は、本番で問題無く撃てるように決行までの時間を使って、練度を重ねるのみだった。演習用に送られたアイスワームとの仮想戦闘シミュレーションを起動する。

「……」

 アイスワームの独特の挙動。レーダーは敵を捉え、アラートが出現の予兆を知らせてくれる。氷床から飛び出してくる、三つの掘削機が並ぶ顔部。この顔部に向けて、スタンニードルランチャーを撃つ。砲台の肩武装は、二脚タイプのカサブランカでは、発射までにタイムラグが発生する。そのタイムラグの差が、スタンニードルランチャーの命中精度を落としていく。

(慣れないと……)

 スタンニードルランチャーを当てなければ、この撃破作戦は始まらない。最初の一打を与えなければ、次へ繋がらない。この一打が当たらなければ、ただ時間と弾薬が消耗するだけ。現場に出ている僚機の損害も免れない。

 当てなければならない、当てなければならない、当てなければならない。静かな焦りは、ケアレスミスを増やしていく。アラートに振り向けば、アイスワームの顔部が迫ってきていた。

「っ……!」

 データが告げる。あの一撃にカサブランカは耐え切れなかった。シミュレーションの画面が静かに暗転する。これでは、作戦にならない。

『……レイヴン。シミュレートを始めてから、かなりの時間が経っています。それに、ウォルターからも連絡が……』

『大丈夫。間に合わせないといけないから……。ウォルターには、まだ続けるって代わりに返事をして』

 回数を重ねなければならない。本番は待ってくれない。初めて触る兵装に慣れなければならない。大勢が関わる作戦で、手が必要だと言われることはあった。だが、成し遂げなければ話にならない大きく重大な役割というものは、初めてのことだった。

〈テストモード再開。シミュレーション、開始〉

 もう一度、シミュレーション上の怪物と向き合い始めるのだった。

 

 

「621……」

 少女が愛機に乗り込んでから数時間。渡された兵装に慣れるため、決行に向けたシミュレートを繰り返し続けている。どれだけ呼びかけても、少女からは大丈夫だとメッセージが返って来るだけだ。淡々と冷静にミッションを行う少女であっても、緊張というものがあるのだろう。

 大きな作戦では、壁越えや旧宇宙港襲撃がある。そのどちらも、少女があの場で敗北したとしても、あの男が成し遂げていただろう。

 彼女一人に重荷を背負わせたウォッチポイント・デルタへの襲撃。あれは、個人で完結していたものだ。自分のミスは自分の被害として形となるだけ。

 だが、今回は違う。少女のミスが、少女が手こずれば全体に影響が出る。V.Ⅱ(ヴェスパー・ツー)G5(ガンズ・ファイブ)。両者共に実力者だ。チャティもカーラが一からプログラミングされている。彼女の作品に、失敗作はあっても劣化品というものは無い。そして、彼女が最も心を寄せているだろうV.Ⅳ(ヴェスパー・フォー)……。カラスの一打に、オオカミが狩る。この二人が成し遂げなければ、あの怪物は倒せない。かかるプレッシャーというものは凄まじいものだ。前線に出ることが出来ないこちらでは、その苦悩に寄り添うことは出来ない。前線に出る少女と、その後ろでオペレートをする立場の溝は、決して埋めることの出来ないものだった。

(どうしたものか……)

 少女が頑なであることは、分かっていたはずだ。こうなってしまっては、こちらから少女を動かすことは出来ない。だが、このままでは本番を迎える前に少女が力尽きる。それでは本末転倒だ。同じ女性であるカーラに相談するか。彼女も今、オーバードレールキャノンの最終調整に向かっている。ならば、第四部隊のオペレーター達は。ベルタもまた、オーバードレールキャノンのチームに向かっている。モニカは強襲艦隊側のオペレーターとして回されている。手が空いているとなれば、本番まで待機しているパイロットたちだけだった。

「……」

 連絡を取ろうとして、手が止まる。寂しさが混ざる怒りは、究極の自己満足だ。割り切れ、彼女がこのままである方が問題だ。苦渋の決断は、ようやくコールのアイコンを押した。

〈……あなたの方から連絡をするとは珍しい。何があった、ハンドラー・ウォルター〉

 コールをかけた相手──、ラスティが答える。周囲の音を拾っているのか、金属音とカーラや技師たちの大声が聞こえてくる。

「……時間はあるか?」

〈ああ。こちらの方は、ほとんどカーラ女史とシュナイダー(ウチ)の開発部が進めている。私自身は手が空いている〉

「ならば……。──レイヴンと、話をしてやってくれ。周囲に影響を与える大規模作戦を前に、気負っている。直接戦場に立つことが出来ない俺では、言葉が届かない。お前の言葉なら、あの子も聞く耳を持つだろう」

 あちらも精度や出力の調整が必要であることは重々承知だ。だが、頑なである少女を動かす方法に思い浮かぶものは、この男に頭を下げて頼るということだった。

〈……わかった、そちらに向かおう。少しだけ、あなたの猟犬を私に預からせてくれ〉

「ああ。無用な手出しをすれば、分かっているな?」

〈無体は働かないさ。必ず、あなたの元に帰そう〉

 通信が切れる。後は、あの送り狼に任せるしか無かった。

 

 

(ミスが増えてる……)

 画面が暗転する。シミュレートのログを読み返すと、悪い記録ばかりが続いている。焦りや緊張が、ここまで悪影響が出るものだったとは。

『レイヴン、一度休憩しましょう。これでは、あなたの身体も心も持たない』

『……』

 ここまで悪い記録が続いてしまっては、こちらから何も言うことは出来ない。外部からの通信の通知。ウォルターからの連絡を再三無視してしまっている。気まずいが、なんとか通信に出る。

「ウォルター、その……」

〈悪いな、ハンドラーではなく私だ。戦友〉

「ラスティ……?」

 聞こえてきた声に思わず驚愕する。彼は確か、オーバードレールキャノンの調整に現場にいるはずだ。

「どうして……?」

〈ハンドラーに頼まれたんだ。気負っている君と話をして欲しいとね〉

「……」

 理由は分からないが、ウォルターはラスティを警戒し、敵視していたはずだ。ウォルターが彼に頭を下げる程、こちらも、かなり様子がおかしい状態なのだろう。ウォルターが動いたとなれば、大人しくするしか無かった。

〈まずは、カサブランカから降りられそうか? 戦友〉

「……大丈夫」

 操作を行う前に、カサブランカの降機作業が始まる。聞いていたエアがやってくれているのだろう。脊椎端子が外れるのを待ち、コクピットが開いていく。タラップには、ラスティの姿があった。コクピットから身体を乗り出してカサブランカから降りるも、足元が覚束ない。バランスを崩したところを、大きな腕に支えられた。

「……顔色が悪い。ブリーフィングが終わってから、ずっと?」

「……」

 優しい光を宿す橙色の瞳が、鋭い物になっている。思わずその目から視線を逸らしてしまい、言葉の無い肯定をしてしまう。だが、これ以上叱責するような言葉が続くことは無かった。

「……戦友」

「……なに?」

「少しだけ、君の時間を私に使わせてくれないか?」

「……? わかった」

「なら、身支度を整えてきてくれ。防寒はしっかりとな」

 意図は掴めないが、少なくともパイロットスーツである必要は無いようだった。覚束ない足取りに、転ばないよう見守られつつ自室へと向かった。

 

 

 パイロットスーツから、普段の服装に着替える。なんとなく、そのままは嫌だとシャワーで汚れは落とした。防寒はしろと言っていたことを思い出し、外出時に使うケープも身に着ける。身支度を整えて自室から出ると、整うまで待つと廊下で待っていたラスティと目が合った。

「それでは、行こうか。戦友」

「うん」

 覚束ない足取りを心配されつつも、ラスティに着いて行く。ガレージを通り過ぎ、輸送ヘリから外に出る。より、寒さが厳しい中央氷原の夜は人工皮膚に寒さが突き刺さる。暗がりで見えにくいが、スティールヘイズの姿があった。

「スティールヘイズ……?」

『確か、オーバードレールキャノンの接続調整を行っていたはずです。それが、どうして……』

 慣れた足取りで、ラスティがスティールヘイズのコクピットへと入り込む。パイロットスーツではなくヴェスパーの制服姿のままもあり、スティールヘイズに乗り込むという行動は予測が出来なかった。緑のライトカラーが灯り、武装は解除されている片手が目の前に差し出された。

「どうぞ、レディ」

 恐る恐ると、差し出されたスティールヘイズの手の上に乗る。ゆっくりと、スティールヘイズの腕が動き、開いたままのコクピットへと近付く。差し出されたラスティの手を取れば、そのままコクピットの中へと引っ張られていく。こちらがしっかりと中に入ったのと同時にコクピットが閉じていった。

「少し狭いのは勘弁してくれ。戦友、前の方に座れるか?」

「……うん」

 軽量機であるスティールヘイズのコクピットは、カサブランカより少し狭く感じる。二人で乗っているというのも大きいのだろう。密着しなざるを得ない状態に、心拍数が上がる。なんとか、ラスティの両脚の間に収まるように座ることは出来た。

『また、だ……』

『ラスティとの物理的接触、あなたの心拍数や体温が上がる現象……。ウォルターに相談した方が良いと思います』

『そう、だね……』

「少し揺れるぞ、戦友」

 スティールヘイズが動いたのだろう。連動してコクピットの中も少しだけ揺れる。モニターに映る視界も、膝を付いていたスティールヘイズが立ち上がったものなのだろう。跳躍の振動と共に、ブーストを噴かせる音がした。

「……どこに?」

「ベリウス地方に一度戻る。スティールヘイズの機動力なら、作戦時間には間に合うさ。中央氷原では、寒さが厳し過ぎる」

 話をするのに、わざわざベリウス地方まで向かう必要があるのか。彼がやろうとしていることの意図が掴めない。素早く過ぎていく風景は、彼が常に見ている光景なのだろうか。中央氷原とベリウス地方の間は道が整備されている。時間はかかってしまうが、アーレア海を越えての移動には問題が無かった。

『一体、何を考えているのでしょうか』

『……わからない』

 操縦に集中しているだろうラスティの顔を見上げる。ラスティは強く、優しく、真っすぐな人だ。実力は折り紙付きで、誠実である人。他者への気遣いを忘れず、人当たりの良い人。今になって思えば、彼自身のことはほとんど分からない。どうして、企業にいるのか。何のために戦っているのか。どういう食べ物が好きで、どのような音楽や風景が好きなのか。戦友と呼ぶ人の、戦士ではない姿をほとんど知らないままだった。

(知りたい、この人のこと──)

「この辺りでいいか。戦友、降りるぞ」

 気付けば、目的の場所に到着出来たらしい。アーレア海が見える海岸のようだった。スティールヘイズが膝を付き、乗り降りをし易いようにコクピットと地面の中間に手が添えられる。コクピットが開き、冷たい風が入り込む。その冷たさは中央氷原よりはマシなものだった。

「寒さは大丈夫か? 戦友」

「大丈夫……」

 コクピットから身体を乗り出し、スティールヘイズの手に降りる。その後からラスティも降りてくる。先に地面へとラスティが着地し、差し伸べられた手を頼りにゆっくりと降りた。

「ラスティ、話って──」

「その前に。戦友、紙飛行機は知っているか?」

「かみ、ひこうき……?」

 初めて聞く単語に思わず首を傾げた。かみ、とはタブレット端末やインターネットが普及される前の記録媒体、紙のことなのだろうか。記録媒体だけでなく、折ることで簡易的ながらも様々な用途に変化するとも。ひこうきとは、滅多に見ることが減った空を飛ぶ乗り物のことなのだろうか。

「……知らない」

「丁度いい、見ていてくれ。なに、材料はシュナイダーの開発部が快くくれたさ」

 数枚の紙(かなりの貴重品であると聞く)を取り出したかと思えば、手慣れた仕草でラスティが紙を折り始めていく。ただの一枚の四角が三角形に姿が変わっていく。折られた紙は、確かに飛行機のような形状へと変化する。折り重ねられた紙をつまみ、風の流れを確認する。大きく腕を引いたかと思えば、真っすぐに飛ぶように放り投げる。折り重なった紙は、放り投げられた方向に空を飛んで行った。

「……」

「君も、やってみるか?」

 こくりと頷けば、ラスティが折り方を教えてくれる。折り目に合わせる、絶妙な角度で折る。中には、重ねて折ると言った馴染みの無いものに悪戦苦闘する。難しいところは、大きな手が添えられて補助してくれる。不格好ではるものの、なんとか飛行機の形にはなった。

「あとは、風が吹くのを待つんだ。風に流されるのではなく、風に乗るように風上に向けて飛ばすんだ」

 紙をつまみ、ゆっくりと時間を待つ。ふわりと、前髪を揺らす冷たい感覚に向かって紙を放り投げる。先程ラスティが作ったものと比べれば、あまり長く遠くには飛ばない。それでも、不慣れな自分が折ったものが暗い夜空を舞うという光景は、とても印象深かった。

「……飛んだ」

『これは……、もう少しオリガミの精度と風の計算が分かればより遠くへ長く飛べるものですね。探求のし甲斐があります』

「開発部がよくやるリフレッシュの方法でね。紙飛行機を折って飛ばす。ただそれだけだが、それを眺めるだけでも雁字搦めになっていたものが解けるらしい。少しは、気は紛れたか? 戦友」

「……うん」

 こくりと頷く。すっかり、紙飛行機を折ること、飛ばした飛行機を眺めることに意識が向いていた。先程まで感じていた、スタンニードルランチャーを当てなければならないことへのプレッシャーが薄れてしまっていた。

「……戦友」

 冷たい風が、こちらの髪と彼の髪を揺らす。彼の瞳は、ある方向。東側へと向いていた。

「自分が外す訳にはいかない。その気持ちや焦りというものは分かる。私も、同じ立場だからな」

「……あ」

 オーバードレールキャノン。セカンダリシールドを破壊する威力こそは保障されているが、命中精度には難がある。目の前にいる男性は、自ら射手として立候補したのだ。こちらには、イグアス、チャティ、スネイルが補佐してくれる。彼は、現場から離れた遠い場所で、一人だ。

「こちらにも、レールキャノンの整備のためにカーラ女史を始めとしたスタッフがいる。スティールヘイズに無理をさせるからと、開発部の連中も出向してきてくれている。アイスワームの座標やタイミングを知らせるために、ベルも来て貰っている。完全に、一人という訳ではない」

 ラスティの右腕が上がる。親指を立て、人差し指を伸ばす。一点を、更に遠い場所を見定めているような。鋭くも真っすぐな横顔。その表情に、思わず息を呑んだ。

「引き金を引くというのは、今でも緊張する。この一射を外せば、悪影響を及ぼす。この一射を決めなければ、次へとバトンを渡せない。……この緊張を抱いているのは、私も同じだよ。戦友」

 先程までの鋭さが嘘かのように、慣れ親しんだ優しい光を宿した笑みがこちらに向けられる。この緊張を抱えているのは、一人だけじゃない。それを知るだけでも違う。

「ワタシ、自分のことでいっぱいだった……」

「緊張するのは仕方がないことだ。私と君にかかる責任というものは、とても大きい。むしろ、現場から離れる私を臆病だと思ってもおかしくない」

「あなたが保身で立候補したなんて、思ってない」

 思わずかぶりを振った。他の三名が現場から離れた場所に向かう彼をどう捉えているかは知らない。少なくとも、こちらは臆病だとは思っていない。

「……、ラスティは違うって思っていた……。緊張や不安を、していないって……」

「君には、私がそんな傑物に見えるのか。少し、悪いことをしてしまったな。この弱音は、カッコ悪いところを見せてしまった」

「そんなこと、ない」

 己の弱いところを見せるというのは、それこそ勇気を要する行動のはずだ。そんなことが出来る人を、弱いやカッコ悪いとは思えなかった。

「……優しいな、君は」

「それは……、わからない」

「……そうか」

 目の前の男が膝をついて視線を合わせる。橙色の瞳を見るというのも、いつしか緊張に似たものを抱くようになっていた。

「……エイヴェリー」

「あっ……」

 名前を呼ばれる。621でもレイヴンですらないものに変わってしまうような恐怖に思わず後退る。だが、こちらの肩や背中に大きく逞しい腕が回されて、後退ることが出来ない。近付いてくる整った顔に目を瞑る。こつんと、額に何かが当たる感覚がした。

「大丈夫、君ならやれる」

 当然だと言わんがばかりに、目の前から優しい声で言葉が紡がれる。雁字搦めになっていたものが、たった一言で解れて行ったような。そんな感覚を覚える。暖かいものが、胸の中から広がるような。胸の前に、両手を合わせるように握り始めていた。

「……ありがとう、ラスティ」

「大丈夫そうか?」

「……うん」

 額の暖かな感覚が離れて行く。ゆっくりと瞳を開けて、俯いていた顔を上げる。目の前のヒトは、まだ側にいる。

「……ラスティ」

「どうした? 戦友」

「……信じてる、戦友」

 橙色の瞳が見開くのが見える。だが、すぐにそれは憑き物が取れたかのような笑みへと変わった。

「君に言われてしまっては、外すかもしれないと弱気になっている場合じゃないな」

「ワタシも頑張らないと、だけど……」

「君から繋げられるもの、しっかりと役割を果たすさ」

 冷たい風が互いの髪を揺らす。雁字搦めになっていた拘束の全てが、この風に吹き飛んでいったかのような、身体が軽くなった不思議な感覚を覚えた。

「そろそろ戻ろうか。スティールヘイズの調整をしなければならないからな」

「えっと──」

「互いに、緊張して弱気になっていたんだ。それだけでお相子だ。君が気にする必要は無い」

「……わかった」

 差し出されたラスティの手を取り、スティールヘイズのコクピットへと戻る。ここに来るまでにあった緊張や疲労は、すっかりと無くなってしまった。

『脳波の安定を確認しました。非常に、悔しい、ですが……。リラックス状態であることを、認めます……』

『……怒ってる?』

『怒っては、いません。V.Ⅳ(ヴェスパー・フォー)の手腕は本物で、私は、力不足だと……』

『そんなことない。ずっと、気にかけてくれてありがとう』

 シミュレーターの間、エアは側で気にかけてくれていた。ウォルターもそうだ。ようやく、狭くなっていた視野が戻ってきた。本当に一人ではない、多くのヒトがこの作戦に参加するのだ。全員を、信じなければならない。

『大丈夫、君ならやれる』

 先程投げかけられた言葉が反芻される。魔法にかけられたとは、このようなことなのだろうか。これまで抱えていた不安が消えて行ったのは確かだった。

 

 

 輸送ヘリ前まで送られ、ラスティはスティールヘイズと共に狙撃チームの元へと戻っていった。それを見送ってから輸送ヘリへと戻れば、ウォルターが出迎えてくれた。

「少しは気を休めたか? 621」

「うん」

 こくりと頷く。気負っていたものが無くなったのは本当のことだ。誤魔化すことは何もない。

「……ウォルター」

「どうした? 621」

「……ありがとう。あと、ごめんなさい」

「……俺も配慮が足りなかった。気負うほど、お前の感情の機微が回復していることを見落としていた」

 ウォルターに言われて気付く。感情や自我と言ったものが希薄である。その自覚こそはあった。それが、今では緊張を抱いたり、口角が上がるようになったりと確かに目覚めた頃と比べれば感情が豊かになっている気がする。

「……621、今からでも作戦から降りるか?」

 その問いには、首を横に振った。

「大丈夫。やってみせる」

「……わかった。お前ならやれる」

『私も、あなたなら出来ると信じています』

 ウォルターからも、エアからも出来ると言葉を貰った。彼らから言葉を貰う。それだけで、力を得たような感覚を覚える。これが、信頼というものなのだろうか。

「もう休め、621。本番でパフォーマンスを発揮できないのは問題だ」

「そうする」

 こくりと頷いて、自室へと戻っていった。

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