ワタリガラスにカサブランカの花束を   作:櫻木ゆすら

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チャプター4です。ロケハンがS取り落下したせいで、撮れ高が少なかった……。
最後は急遽いれたイグ虐です。


チャプター4
地中探査―深度一


 解放されたAランク帯アリーナも突破し、OSチップによるチューニングの最終調整を行う。これで、行える調整が終わる。これからウォッチポイント・アルファに潜る準備は、整いつつあった。

「あとは……」

 ブリーフィングを聞いて、そこから推測される事態を考えて武装を調整するだけだ。ウォルターに、準備が出来た旨を伝える。

「よし、ブリーフィングを始めるぞ」

「うん」

 ヒビが入ったタブレット端末を手にして、ブリーフィングが始まっていく。

「これより巨大地下施設、“ウォッチポイント・アルファ”の探査を開始する」

 アーキバスのロゴと共にウォッチポイント・アルファの映像が映し出される。

「アーキバスから、先行調査の依頼を取り付けておいた。お前の話を加味しても、連中は変わらず、独立傭兵を露払いに使う方針らしい。ベイラムは先んじて、レッドガン数名とMT部隊を突入させている。動きに焦りが見られるのは、アーキバスの戦力増強に対抗する意図からだろう」

「……」

 示されたデータには、G3(ガンズ・スリー)五花海、G5(ガンズ・ファイブ)イグアス、G6(ガンズ・シックス)レッドが投入されている。ミシガン以外の、生き残っている全ての戦力が投入されているようだ。だが、まるでどこか――

(使い捨てようとしてる……)

「まずは深度一。この縦穴区画を、お前には降下してもらう。惑星封鎖機構が残していった自立防衛兵器が、道中の障害となるだろう」

 映し出される深い縦穴。通路は複雑化されておらず、これだけならばただ降下していけばいい。だが、これもウォッチポイントである以上は。名前からして最初期に作られたであろうその場所は、最も厳重な護りをしているはずだ。

「特に注意すべきは、降下した先で待ち構えている複合エネルギー砲台“ネペンテス”。突入したベイラム戦力のおよそ半数は、これに消されたと聞いている」

『恐らく、降下中に狙撃されたのでしょう。障害物の無い作りは、確実に砲台で仕留めるための構造のようです』

「ベイラムと同じ轍を踏むことはない。慎重に行け」

「わかった」

 こくりと頷いてブリーフィングが終了する。先程貰った映像を改めて確認する。縦穴区画は大型リフトが存在し、リフトを動かすためのリフトの支柱やレーンが存在している。降りる際は、これらを障害物として利用できるかもしれない。

『……ウォッチポイント・アルファ。巨大地下施設の先に、同胞たちが……』

『エア……』

 コーラル集積地点への到達。それは、彼女との旅の終わりを意味する。そして、ウォルターとの旅の終わりもすぐ近くにあるのだと。エアは同胞たちの元へと戻り、ウォルターはコーラルを手にして何かをしようとしている。自分が、不要となるその時が近くなっているのだと、改めて実感する。

(ワタシ、どうなるんだろう……)

 戦う以外、何もできない非力な人形。戦いという機能すらも取り上げられたら、何が残るのか。かぶりを振って、次の出撃のことを考えるようにした。

 

 

 強い風と少しの雪の中、ウォッチポイント・アルファの入り口付近。輸送ヘリからカサブランカが投下される。

〈621、準備はいいか〉

「うん」

 カサブランカの最終チェックを行う。いずれも異常なし、OSチューニングも反映されている。武装も、不具合を起こしていない。ガコンという音と共に、入口の開閉作業が行われる。深く、暗い縦穴が眼下に広がっていく。

〈生きて帰る保証もない、深い探査となるだろう〉

「……」

 息を呑む。この中に入ってしまえば、もう地上には戻ってくることは出来ない。そんな予感がする。それでも、やらなければならない。カサブランカのブーストを噴かせて深い穴へと降りていく。

〈……だが〉

 巨大なリフトに着地する。ふと、深く暗い地下にあるとされる冥界と呼ばれる場所へと下る、冥界下りと呼ばれる神話が存在すると脳裏を過ぎった。

〈やり遂げられるとすれば、お前だけだ。コーラルに、辿り着いて見せろ〉

 信じていると、遠回しに言葉にしてくれたウォルター。彼にここまで言われたのならば、やるしかない。カサブランカを通常モードから戦闘モードへと切り替える。

〈メインシステム、戦闘モード起動〉

〈ミッション開始だ。まずはリフトにアクセスして、降下しろ〉

「了解」

 リフトの中央に向かい、アクセスを行う。重々しい音と共にゆっくりと高度を示す計器が下へと向かっていると示している。だが、ある程度降下したところで重厚な警告音が響き渡り、アラートが灯される。

〈脅威度未測定の侵入者を検出。防衛フェーズ一.〇、対象を排除します。〉

『防衛システムが作動したようです。捕捉されています、対処を』

『だろう、ね……!』

 リフトの動きが完全に止まる。ここからは、リフトの支柱を伝って降りていくしかない。浮かぶ浮遊機雷をアサルトライフルで撃ち落としながら、リフトから飛び降りる。

『危険です! 下を!』

「……っ!」

 ブーストを噴かせて、急いでリフトの支柱へと飛び移る。後一秒滞空していれば、鋼材に当たる下からのレーザーの餌食になっていた。

『複合エネルギー砲台“ネペンテス”。尋常ではない威力が見て取れます』

『でも、ずっと撃ち続けている訳じゃない』

『はい。間隙を縫っていきましょう』

 ネペンテスのレーザー砲台は確かに脅威だ。リフトが止まり、降下しなざるを得なくなった状況でベイラムの投入部隊も多くが撃ち落とされたのだろう。味方が撃ち落とされるのを見ながら降下していく、そんな光景は地獄のような様だったのは想像に難くない。飛んでくる浮遊機雷を撃ち落としつつも、レーザーの発射が止まった一瞬を確認してから飛び降りる。等間隔に作られたリフトの支柱の足場を盾に、次の足場へと降りていく。足場と足場の間隔が大きく開いていたとしても、滞空中の動きを上手く調整すればレーザーは回避できる。だが、降下中に開けていた筒に蓋がされ始めた。

〈待て、隔壁が作動した〉

『周辺から敵性反応!』

 すんなり通してくれそうにない。スキャンを使って索敵を行う。マーキングされた無人機に向けて垂直プラズマミサイルを打ち上げていく。

〈侵入者を隔離。対象を排除します〉

 無機質なアナウンスが響き、無人機の一機がパルスブレードを振りかざして飛び込んでくる。クイックブーストで回避しつつ、数機の無人機に向けてアサルトライフルとリニアライフルを撃ちこむ。一機のパルスブレードに当たり、動きが止まる。威力こそは無いものの、強い衝撃。動きをとめて確実に撃破するという調整をされているのが見て取れた。

〈侵入者の脅威度を計測。脅威レベル4……、6……。レベル6、排除困難と測定。防衛フェーズ一.五。移行準備〉

 無機質なアナウンスは続いていく。何が何でも排除を行う。コーラルの脅威というものは、シースパイダーやアイスワームを見て来たこちらとしては、十分に理解が出来る。封鎖機構の過剰なほどの防衛戦力や強制力もいくらかの正当性があるのかもしれない。それでも、ウォルターは喧嘩を売ると決めたのだ。ならば、それに着いて行くだけ。

(それって……)

 はたしてそれは、自分の意志なのだろうか。残る無人機の一機を、パルスブレードの二撃で屠った。

〈……片付いたか。隔壁を開く方法を探る。待機しろ、621。……621?〉

「あ……、了解」

 今はミッション中だ。余計なことを考える暇はない。気を抜けば、あのレーザーの餌食になるのはこちらだ。傍らにいるエアがウィンドウを展開して操作する仕草をしている。

『……あちらです。マーカー情報を送信しました。アクセスさえできれば、ウォルターの仕事です』

『わかった』

 エアが送ってきたマーカーへと向かう。周囲に敵影はない。旧式に近い電子版にアクセスを行う。

〈アクセスポイントを見つけたのか? 大した嗅覚だが……〉

 動揺を見せるウォルター。見つけてくれたのはエアだが、そのことを話してもまた困惑させるだけだ。今は、隔壁が開くのを待つ。

〈不正アクセスを検出、フェーズ一.五、移行〉

『これは、より苛烈な攻撃を警戒した方が良さそうです』

『うん』

 これより先の降下は、ネペンテスはより苛烈な攻撃をしてくるだろう。どちらにせよ、こうして飛び込んでいる以上は無人機たちの反撃や抵抗を受ける。設定されたプログラム通りに動くだけの彼らは、より苛烈にと指令が変更されればその通りに動くだけだ。重厚な音と共に隔壁が開く。近場の足場に向けて降りていく。

『複合砲台の制御パターンが変化しました。プラズマミサイルに警戒を』

「……!」

 視界の端に、見慣れた紫の放電。リフトの支柱を盾に凌ぐ。鳴り響くアラートは鋼材に当たる熱源によるものだ。レーザーの斉射音が収まったのを確認してから、次の足場へと向かう。迫るプラズマミサイルは、数発の被弾は覚悟してブースト移動で回避を試みる。問題は、後からやって来る出力を増しただろうネペンテスのレーザーだ。アラートが鳴るそのタイミングと同時に着地する。強力なレーザーに足から焼かれることは無かった。斉射の音が六発。これが、今のネペンテスの発射回数。次の六発が撃たれる前に次の足場へと降りていく。

「……」

 迫るプラズマミサイルをクイックブーストで回避をする。なるべく、次の足場ともなる鋼材から縦軸をずらさないように、ズレても戻すことを意識する。

〈狙われているぞ、621!〉

『レイヴン、回避を!』

「狙撃……⁉」

 最初の一射は自由落下でなんとか避けれた。ここまで突破されることも想定した配置を行っていたのか、こちらが使えないルートを用いて配置換えを行っているのか。いずれにせよ、狙撃機を相手にする時間も惜しい。六発の斉射が終わり次第に次の足場へと降りていく。プラズマミサイルをクイックブーストで避け、狙撃は自由落下で射線をズラしていく。地に足を付けたと同時に次の足場へと飛び降りる。支柱が壁となる。ネペンテスの射角に自由が利かなくなってきたようだ。

〈ネペンテスが目視圏内に入った。……お前の間合いまであと一歩だ。621〉

「了解」

 眼下には、六つの砲門を持った砲台が回転しているのが見える。あれが、ネペンテス。このウォッチポイント・アルファの入口を守護する門番なのだろう。

『興味深い形状です……。ネペンテス、絶滅した植物に由来する名称のようです』

『そう言われたら、花にも見えて来た……』

 六つの砲門は、確かに花弁にも見えてくる造形をしている。レーザーを掃射する花とは想像したくもないが。足場から足場へと降下し、レーザーの斉射を待つ。六発の斉射の後に、また一段と下っていく。

〈……懐に入ったようだな。目標を破壊しろ、621〉

『レイヴン。頸部関節を狙えば、手早く無力化できそうです』

「了解」

 降下中に、とうとうレーザーを喰らうも、二発ならば耐えられた。リペアキットを使い、APを修復させてから最後の一段を降りる。これでようやく、侵入者を狩り取る魔の花の懐へと入り込めた。エアのアドバイス通りに頸部関節を、砲台の根本とも言うべき関節部分にパルスブレードを振るう。ここまでくれば、砲台もプラズマミサイルの脅威を考えなくていい。両手の射撃武器もパルスミサイルも不要だ。パルスブレードの排熱が終わるまで、ブーストキックで蹴り続けていく。

〈ネペンテス損傷拡大。当該深度での防衛プランを棄却〉

「これで……!」

 パルスブレードの排熱が終わったのを見計らって、パルスブレードを振るう。猛威を振るっていた花を手折る事に成功した。

『複合砲台ネペンテス、機能停止』

〈目標の破壊を確認した。ミッション完了だ〉

 ネペンテスから青い爆炎が広がる。それと同時に、六門の砲台が崩れ落ちて行った。

『少し休みましょう、レイヴン。先はまだ長そうです』

『……そうだね』

 ここはまだ、入口に過ぎない。冥界下りは、まだ続いていく。この先にある集積コーラル、そこには何が待ち受けているのか。今は、次のミッションが下るまで身体を休めることにした。

 

 

「クソが……! クソが、クソが!」

 リニアライフルとマシンガンで応戦する。換装したレーザーオービットの援護射撃で、迫る無人機は撃ち落とせる。だが、問題は縦横無尽に暴れまわる多脚戦車の方だ。動物の四肢のようにしなやかに飛び跳ね、高火力のレーザーとミサイルで弾幕を張っていく。数で攻めるこちら側の戦略は不利だ。回避をしようにも、味方が邪魔で機動に制限がかかる。向こうは、高火力のレーザーとミサイルをただ撃てばいい。相手からすれば、勝手に獲物が死んでいくだけだ。

〈しまっ、─!〉

〈引け! 態勢を立て直すんだ!〉

(どうにかなる訳ねえだろ……!)

 味方のMTが退却を始める。渋々と殿を引き受け、これ以上味方が死なないように。耳障りな断末魔を上げさせないようにする。閉所での多数なぞ、恰好の的であることはミシガンも分かっていたはずだ。それにも関わらず、こうしていつも通りの戦略でベイラムは侵攻することを決定した。まるで、ここで使い潰すことを目的としているかのように。

「どいつも、こいつも……!」

 気に入らない。無謀の作戦を行う上の連中も、それに従わざるを得ないミシガンの立場も、その下にいる自分たちという現実も。撃ち落とされる僚機の耳障りな断末魔も。

 気に入らない、気に入らない、気に入らない。

 こんな穴倉で無駄死にをしろと命じる上層部、言わされるミシガン、くたばっていくMT部隊。いつの間にか、五花海は消えていた。ずる賢く卑怯なあの人のことだ、すぐにこの場から離れたか。あるいは、ベイラムから抜け出す算段を考えているところだろう。レッドは、すっかり心身共に疲労して撤退している。鉄火場に慣れていない、斡旋人からのスタートとしてまだ経験を重ねる途中だったあいつすら投下したのだ。こんな極限状況に耐えられる訳がない。

「ああ、そうかよ……!」

 最後の一機が下がったのを確認してから防衛ラインを下げる。上の連中は、本当にレッドガンを潰す気なのだ。ファーロンの武装旅団を率いていた木星の英雄、歩く地獄。そんな彼を、彼の影響下にある配下を残らず使い潰したいのが連中の考えていることなのだろう。そうでなければ、ルビコン解放戦線のトップであるサム・ドルマヤンの捕縛をナイルに任せる訳がない。その結果、解放戦線についたふざけた武装の独立傭兵、エルカノ製で固めた軽タンク、旧型に等しい骨董品のACにナイルは敗北を喫した。皮肉にも、捕縛をしようとしたドルマヤンの旧型パーツで固められたAC。アストヒクのパルスブレードによって、ディープダウンはトドメを刺されたらしい。

 ハークラーが解放戦線との小競り合いで敗北してから、ヴォルタが壁越えで押しつぶされてから、ナイルがドルマヤンに切り裂かれてから。ベイラムは、レッドガンはアーキバスに圧倒され始めた。もとい、それが上の予定通りなのだろう。低いナンバーを使い潰し、意義を申し立てるパイプを持つナイルを潰して、ミシガンの立場を危うくさせる。やろうとすれば、レッドガン隊員全員を路頭に迷わせることは出来たはずだ。それでも尚、このクソッタレな現場で、未だに屋根と飯にありつけているのは、ミシガンの労力があってこそだ。

 そうすることで、嫌でもミシガンを働かせる。少なくとも、これでベイラムが敗退したとしても、アイスワームの撃破を主導したことと、レッドガンは尽力したと大義名分を得られるのだ。口も態度もクソ野郎だが、ミシガンは決して仲間を見捨てることはしない。それは、ヴォルタの言う通りだ。同時に、それはあの人の弱点でもある。

 どんな荒波でも乗り越えるような粗暴さを持ちながらも、経験から来る思慮深さとより確実性を求めるために知性を集めることをたゆまない。そこに加えて、こんなろくでなしの世界で生きていながら、決して錆びることの無かった善性――

 そんなもの、金と名誉だけを考える商売人共に、良いように利用されて使い捨てられるのがオチだ。現に、ライガーテイルは上からの圧力でろくに調整をさせて貰えていない。ようやく、ライガーテイルの調整指示を受けることが出来たとポトマックは言っていたが、それはミシガンを消費する絶好のタイミングがやってきたということだ。

 現場を見ていないクセに、世間的にドラマチックとも言うべきタイミングはよくわかっている。集積コーラルまで、木星の英雄は一歩届かず。未知の領域にてレッドガンは、ほとんどの兵力を失う程にベイラムに貢献した。なんて、感動的な悲劇だろうか。反吐が出る。

「クソッタレが……!」

 迫る無人機を撃ち落とし、隔壁まで撤退することができた。アクセスを行って隔壁を閉鎖させる。補給要請を出せば、補給シェルパの手配が返信された。落ち着いた場所での休憩に、様々な情報が入って来る。アーキバスもまた、探査を進めていること。あのいけ好かないキザ野郎の出撃は確認されていないこと。その代わりに……

「野良犬……」

 複合砲台ネペンテス。多くのMT部隊を屠ったあの食虫植物を、あの少女が破壊したらしい。自分よりもか細く小さな幼い少女。幼い少女でありながら、どこか無機質で、人形のような存在。失言には相応の仕返しをし、誰もが認める伊達男の仕草には頬を赤らめる乙女。

 だが、彼女は幾度の依頼をこなしてきた独立傭兵。壁越えを果たし、アイスワームをも殺しきったワタリガラス。最早、彼女の名を、実力を知らぬといった存在はこのルビコンではいない程に。最強とも言うべき傭兵の正体が幼い少女である、その事実はまだ知られていないかもしれないが。

「気に入らねえ……!」

 補給シェルパから弾薬を補充し、簡易修理を行う。シェルパからの物資にはパイロット用品もある。精神安定剤、疲労回復材の入った針無し注射を二の腕に突き刺していく。

 少女はどこまでも自由に飛んでいく。何者にも縛られない自由な空を、自由気ままに羽ばたいている。見上げているものたちなんぞ、気にかけることもなく。

 あの男はどこまでも地面を蹴っていく。あのカラスに追いつかんと、翼を持たぬ狼が無謀にも空を見上げて、カラスを追い続ける。

 自分はどこまでも地を這って行く。道端の蟻のように、どれだけ動いていても無関心なやつらに、簡単に踏みつぶされる。

 あの男と差をつけられるのはどうでも良い。仕方がないと、悔しいが割り切れるところがある。人当たりが良く、育ちの良いお坊ちゃん然とした満たされたヤツだ。少女に心配かけんと、少女がいなくなるその時まで限界であることを隠し通した出来た人間だ。そこまで見せつけられた上で、アイスワームの狙撃を始めとした、壁越えに、諸任務等の成し遂げた実力がある。何も言えなかった。

 だが、あの少女は。自分と同じ第四世代型である少女は、自分と異なってどこまでも強くなっていく。ストライダーの撃破、壁越え、バートラム旧宇宙港強襲、アイスワーム撃破――、無謀な依頼をこなして名声を得ていった。彼女と自分に、一体どこに差がついたというのだ。同じ、旧世代型の強化人間。アンティークだと後ろ指を指される世代であるというのに……

「畜生が……!」

 穢れを知らない白。雁字搦めになることもなく、空を舞うカラス。その強さと自由である姿は……、肩を並べることが多い伊達男で無くとも目に焼き付いて離れないものはある。悪友を失い、逆境に追いやられるこちらとは真逆に。名声も、状況も掴み取っていく少女。

 ズルいとも思う。妬ましいとも思う。ぽっと出の少女はいつしか、ステージの中央に立ち続けるアイドルとなった。無骨で粗暴で、似合っていると素直に口にできなかった不良よりも。白馬の王子様とも言うべき伊達男が傍らに立つのが、お似合いなのは分かっている。キラキラと輝く星を持つ二人とは違う、輝く星を持たないこちらが、ステージの上に立つことが無いことも。

「イラつくぜ……!」

 普段ならば考えない事ばかりが浮かんでくる。気に入らない少女が妬ましいなぞ、当然のように少女の傍らに立つ伊達男が妬ましいなぞ。そんなことは決してない。勝手に盛るなりなんなりしていればいい。

 輝く星と持つ者同士が惹かれ合うなぞ、自明の理だ。二人に並ぶことは無くとも、輝く星を手にしたいと願ったことなぞ、決して――

 極限状態とも言うべき未踏の地下領域は、青年の心と身体を蝕んでいった。

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