「全く……。無茶ばかりするね、あんたも」
「……ごめんなさい」
義体のメンテナンスが終わり、意識が浮上する。アリーナ制覇で譲渡された新兵装を試しに使用したところで、多い情報量に疲労した身体が追いつけず気を失ってしまっていたようだった。カーラがメンテナンスのために、わざわざ来てくれなければ危ういところだった。
「とはいえ。レーザードローンを使って気絶で済むとなると、あんたはあの武器を使う才能があるということかねえ」
「才能……?」
「使って分かっただろう? レーザードローンは嫌でも、知覚が拡張される。情報量の多さに普通の人間の脳は耐えきれない。強化人間なら尚更だね。十全に性能を発揮させずにオート操作に任せるのがあの兵装の使い方だが……。まあ、時々いる本物のバケモノは自由自在に扱える代物さね」
「……」
自在に扱うバケモノ。アリーナで見たフロイトがそれに該当するのだろうか。あの兵装を使っているのも、彼しかいなかった。
「さてと、ウォルター。もう少しだけ調整を続ける。仕事が来てるんだろう? ビジターがいつでも動けるようにしておきな」
「ああ。621、無茶は程々にしろ。いいな」
こくりと頷くのを見れば、ウォルターが医務室から出て行く。調整があるということだが、他に何かあるのだろうか。
「……ビジター」
「……なに?」
「ウォルターか伊達男に何か言われたのかい? ずっと上の空だと聞いたよ」
「……」
同じ女性故か、カーラにはお見通しのようだった。ずっと抱えているもの。部外者である彼女に告白するのは、悪くないかもしれない。
「……ウォルターに、必要とされなくなったらどうするのか、って。コーラルが手に入れば、ワタシは、要らなくなるから……」
「……確かに。あんたはウォルターの手足だ。ウォルターの目的のために、あいつの代わりに鉄火場で暴れて来た強化人間。あんたのお役御免も近いかもしれないねえ」
「……」
改めて確認される事実。旅の終着点は目の前まで来ているのだ。旅が終わったその後は、どうするべきなのか。まだ、その終わりに立っていないというのに、その不安と恐怖がずっと思考を支配していた。
「ワタシ、戦う以外のこと知らない。わからない。だから……」
「そうさねえ……。強化人間、としてはお役御免になるかもしれないが……。ウォルターの性格は知っているだろう? じゃあサヨナラってなにも分かってないあんたを、突然娑婆に放り投げる真似はしないさ。例えば、そうだねえ……。戦う以外のやりたいことが見つかるまでは、面倒をみるだろうさ」
「……」
そう言われれば、そうだ。ウォルターは、厳しく在り続けようとしながらも優しさや善性を捨てきれない人だ。全てが終わった後のことを悩んでいるとなれば、何かしらの導きくらいはしてくれるかもしれない。自分よりも、彼を良く知る彼女が言うのならば、そうなのだろう。
「まあ、それこそ。あの伊達男のところに転がり込んでもいいんじゃないかい?」
「……え」
「冗談だよ、ビジター。やりようはいくらでもある。どうしようと考える時点で、あんたは人間らしさを取り戻してきている証拠さ。終わった後のことは、終わった後で考えて、相談すればいい。それが出来るくらいに、あんたは一丁前に自分で考えて選べるようになってきているのだからさ」
偉いぞとカーラに力強く頭を撫でられる。吐き出せただけ、少しだけ気は楽になった、ような、気がする。
「……ありがとう。聞いてくれて」
「いいさ。ああ、調整のことは本当の事。レーザードローンを扱うならば、少しばかり負荷を軽減させる必要はあるからね」
「……わかった。御願い」
もう一度横になる。調整を行うと、義体が一時的に休眠状態へと移行した。
『……レイヴン』
『なに? エア』
『あなたの受ける仕事について、進言しておきたいことが……』
『……わかった。話して』
エアが語り掛けてくる。その表情は、ある種の戸惑いを持っていた。彼女がこのような表情をする時は、次の仕事はきな臭いものであることが多い。
『アーキバスからの指令に加えて、ルビコン解放戦線からも依頼が届いています』
『……このタイミングで?』
『差出人は、ミドル・フラットウェル。解放戦線の実質的指導者が……、あなたに会いたいそうです』
『……』
あまりにも、不自然なタイミングだった。今になって、解放戦線が動いたということなのだろうか。それも、実質的指導者たるミドル・フラットウェルが動くなどと……
『どちらの仕事を選ぶのかは、あなたに一任致します』
『……うん。選ばせてくれて、ありがとう。エア』
どちらの仕事を選ぶのか。それは、目が覚めてから考えることにした。
*
「体調は問題無いな? 621」
「うん。カーラから大丈夫って」
「そうか。なら、仕事を始めるぞ。アーキバスグループから依頼が入っている」
こくりと頷く。ヒビが入ったタブレット端末を操作してブリーフィング画面を開いた。
〈独立傭兵レイヴン。これは当社系列企業、シュナイダーからの依頼です〉
映し出されたのは、赤みがかった柔らかな髪を持つ若き青年ペイターだ。少しだけ、疲労の色が見えるが口調はいつもと変わらないものだった。
〈まずウォッチポイント・アルファにおける、アーキバスとベイラムの戦力状況をお伝えしましょう。先走り突入したベイラム部隊は防衛兵器による損耗で離反者も相次いでおり、直近で発生した我が方との交戦においても、敗走を続けています〉
ベイラム部隊の状況が極限状態であることは、なんとなく理解していた。交戦して分かる、彼らの必死であった状況は忘れられるものではない。
〈しかし、敵方には依然としてレッドガン総長。
「……」
思わず、ウォルターの顔を見る。彼の表情は依然と変わらない。違う。眉間の皺がより深いものになっている。
〈なお、受託なき場合はヴェスパー第四隊長がこれを代行することが決定されています〉
「……え?」
〈ブリーフィングは以上です。よろしくお願いします〉
理解が追いつかなかった。この仕事をこちらが受けなければ、ラスティが彼らの相手をするとペイターは言ったのだ。スティールヘイズは確か、そう激しい戦闘は出来ないはずだ。だと言うのに……。あるいは、数少ない出撃機会をこちらに充てたということだろうか。
「……受けるかどうかは、お前が決めろ。受けても構わん。拒否したければそう返答を出そう」
「……」
どちらも、見知った相手だ。こちらが受けなければ、ラスティが戦う。この仕事を受ければ、ミシガンを。ウォルターの友人を倒すことになる。どちらを選んでも、きっと、心に何かしらのものが残る。
「……ウォルター」
「どうした、621」
「……受ける」
「……そうか。やり遂げて戻れ。それ以上に折れから言うべきことはない」
「……わかった」
出撃準備をするために、ガレージへと向かった。
*
〈メインシステム、戦闘モード起動〉
場所は、深度一。ネペンテスが鎮座されている場所だ。投下されるのと同時に、上空からMT数機が輸送機と共に舞い降りて来た。
〈ミッション開始〉
『敵性反応。降下部隊、来ます!』
目の前の二機をアサルトライフルとリニアライフルで応戦する。高台に鎮座するロケット装備のMTはレーザードローンを放つ。カーラの調整は効いている。アリーナ直後に使用した時よりも、義体にかかる負荷は断然軽くなっていた。
〈突入しろ、役立たずども!〉
〈AC単機だと……? アーキバスめ、レッドガンを舐めやがって〉
迫るMTたちの士気というものは、探査二で遭遇した彼らとは違う。MTどころか輸送ヘリすらも。この戦場に投下されている全ての有人機が、鬼気迫る勢いでこちらに向かってきているのだ。まるで、ここでミシガンと共に死んでも良いとばかりに。
〈舐めているのは貴様だ、ケネベック! そいつは壁越えにワーム殺し……、何より
『第二波、来ます!』
最後の一機に再装填が終わったレーザードローンを向かわせる。レーダーに示される第二波。まずは、より多くのMTを抱えているヘリを落としにいく。
〈
〈イグアスだろ? 負けが込んで逃げ出したとかいう……〉
「……何も知らないで――」
ブーストを噴かせて上昇し、ヘリに向けてアサルトライフルとリニアライフルを向けるが、リロードが始まってしまう。これでは間に合わない。ブーストキックで蹴り飛ばして、MTの投下だけは阻止した。
〈無駄口を叩くな、オールバニー! イグアスは貴様らの百倍は強い。こいつは二十倍も強かったということだけだ。一体貴様らの何倍になるか……、そのスカスカな脳みそで計算してみろ!〉
滞空を意識しながら、アサルトライフルとリニアライフルでMTたちに応戦する。イグアスは、あの部隊の中では馴染めていなかったのだろうか。いや、気に入らないとなれば噛み付いてくる性格だ。緩衝材となっていただろうヴォルタを亡くしたことが、より彼を荒ませていたのかもしれない。それでも、ミシガンは正しく彼を評価している。彼は、強い。侮辱するならば、こちらも異議を申し立てたくなる。
〈ええっ……、二千倍です! 総長!〉
〈答えていないで手を動かせ!〉
〈⁉ 了解です!〉
聞こえて来た声は聞き覚えのあるものだった。確か、アイスワームを撃破した記念撮影でカメラを手にしていた隊員の声だ。彼も、MT部隊のパイロットだったようだ。最後に浮遊していた無人機を撃ち落とし、一旦はこの場を制する。一旦、深く呼吸をする。
『第三波です、レイヴン!』
〈突入するぞ!〉
〈おお!〉
近場に降りて来たMTを迎撃する。どうやら、四脚MTも投下されている。この狭い地形では単純に頑丈で高火力な四脚MTは脅威となる。
〈ライガーテイルの調整完了は近い! それまで保たせておけ!〉
(ミシガンが、もうすぐ来る……!)
輸送ヘリを撃ち落とすも、数機のMTの投下を許してしまう。ライガーテイルが本格的に投入される前に、せめて四脚だけでも撃ち落とさなければならない。まずは撃ち漏らしのMTから片付け、なるべく四脚MTとの一対一を意識した戦況を作り出す。
〈まずいな、美味しいところだけ持っていかれるぞ!〉
〈総長にはもうメダルも要らんでしょう。手柄は我々に譲ってもらいたいもんです〉
〈ならば
最大出力にチャージしたレーザードローンを放つ。四脚MTに射撃戦を続けつつ距離を詰めてパルスブレードを振るう。一打しか当たらずとも、ACS負荷は追い込めている。このまま負荷限界まで持っていけば、より多くのダメージを与えられる。
〈ライガーテイル、調整終わりました!〉
〈無理せんでくださいよ、総長!〉
『第四波! 想定より早い……! レイヴン!』
『ライガーテイルが来る前に、落とす……!』
アサルトライフルとリニアライフルと撃ち続けて、四脚MTの体勢が崩れた。すぐさまパルスブレードに換装し、二撃を与える。足りない威力はブーストキックで蹴り飛ばした。ライガーテイルが投下される直前に、四脚MTは撃破出来た。
〈遅い! このまま終わるかと思ったぞ、ポトマック!〉
ライガーテイルが投下される前に、周囲を飛び交う浮遊砲台を撃ち落としていく。
〈よく聞け、役立たずども。愉快な遠足の時間は終わった〉
浮遊砲台を撃ち落とし、上空を見上げる。
〈直近に自殺の予定がある者だけ付いてこい!〉
〈了解です! 総長!〉
『
瞬間、レーダーに多くの敵影が映りだす。ライガーテイルと共に、多くのMT部隊が投下される。今のうちに息を入れていく。周辺にMTが投下され、輸送機に吊るされている間に撃ち落とせるだけ撃ち落としていく。
〈行くぞ、ミシガン総長に続け!〉
〈ライガーテイルを援護しろ!〉
〈うおおおっ!〉
やはり、彼らの気迫というものはこれまで戦ってきた相手とは違う。解放戦線よりも、交戦した先行部隊よりも。こちらに迫らんとする気概は段違いだ。ミシガンと共に戦う、彼のためならばここで倒されるのも本望だと。これが、ベイラム流の物量で押し潰す戦い方だとでも言うべきなのだろうか。盾持ちのMTをパルスブレードで斬り払った瞬間、MTを救わんと
〈……いよいよ本命が来たか。621、押し切られるな。圧力はかわしていけ〉
「了解――、っ!」
元よりそのつもりだ。物量で来るならば、その全てを撃ち落とす。ライガーテイルと戦うのは、戦況を整えてからだ。だが、複眼の四つ足の背中に構えた小型連装グレネードがこちらの足元に着弾する。爆風を回避できず、先程の炸裂弾投射器の爆風の影響もあり、ACS負荷限界を迎える。二連八分裂ミサイルのほとんどが命中するも、なんとか機体を動かしていく。レーザードローンを飛ばし、ガトリングの斉射を受ける前に二回に機能拡張したパルスアーマーを展開してこの場を凌ぐ。
〈戦線離脱した腰抜けは物陰で亀になっていろ! 貴様らは教訓を得る必要がある。日記を付けておけ!〉
ライガーテイルをレーザードローンに任せ、近場にいたMTに向けてパルスブレードを振るう。パルスアーマーが消失するまで後数秒。もう一機の盾持ちMTには旋回してアサルトライフルとリニアライフルで撃ち抜く。パルスアーマーが消失した瞬間、四脚の回転させるブーストキックが掠める。再度振るわれる左腕からはバックステップで距離を取る。リペアキットを使って、ダメージを修復する。
〈不甲斐ないです、総長……!〉
〈その声は数学が得意なオオサワか! 貴様は近接射撃訓練を二割増やせ、半年後にはかけ算以外もできるようになる〉
周辺のMTは片付いた。反対側にいるMTが合流するまで時間はある。今の内にライガーテイルと向き合う。迫る小型連装グレネードを避け、アサルトライフルとリニアライフルを向け、レーザードローンを展開する。途中乱入してきたMTに狙いを変え、パルスブレードで薙ぎ払う。ライガーテイルと付かず離れずの距離を保ちながら、実弾とレーザーを交えた射撃戦を。爆発と弾速の早い実弾の嵐と向き合っていく。
ライガーテイルからリペアキットの排出が見えた。跳躍と滞空を交えた射撃戦をしつつ近付いていけば、ライガーテイルの四つ足がバランスを崩した。換装したパルスブレードを振るうも一打しか当てられない。二撃目をクイックブーストで回避された上に距離を取られる。チャージしたレーザードローンの一射をかわし、小型連装グレネードが飛んでくる。アラートに合わせてクイックブーストで回避する。ライガーテイルが離れた距離をアサルトブーストで詰めてくる。回転する四つ足を避ける。
『第五波! 畳みかけてきます!』
「くっ……!」
ライガーテイルは健在。いつの間にか、殲滅していない反対側の地形にまで誘導されている。だが、二つ目のリペアキットの排出。なんとか、あの
〈ひとり雇うだけで、この戦力だと……!?〉
〈オオサワ! うちの幹部にも算数の授業が必要だったようだな!〉
〈なんの、足し算で勝てばいい!〉
「っ!」
足し算の如く乱入してくるMTに遮られ、ACS負荷限界を迎える。が、辛うじてライガーテイルの強力な一打を貰う事なく体勢を立て直せた。展開と消費を繰り返すレーザードローンによって、ライガーテイルの体勢が崩れた。アサルトライフルとリニアライフルでダメージを稼いでいく。パルスブレードで斬りかかろうとするが、小型連装グレネードに迎撃され、ACS負荷限界を再度迎える。態勢を崩したこちらに、炸裂弾投射器が振るわれて一気にAPを削られる。MTからショットガンの追撃を受けるも、リペアキットとパルスアーマーを使ってなんとか息を付ける。
〈どうした
挑発、というよりはまるで怒号に見せかけた叱咤のようにも思えた。ライガーテイルからリペアキットが排出される様子はない。もう少しで、ライガーを討ち取れる。四脚の空中戦にしがみつくように滞空し、ライガーテイルにこちらの持つ銃火器やレーザードローンを向け続ける。だが、いつから合流されていたのか。四脚MTのグレネードキャノンの一射を喰らい、視界外のロケットの受けてしまう。ACS負荷限界、目の前には四脚のグレネードが砲塔を向けている。グレネードの回避は間に合わないが、辛うじてカサブランカは耐えてくれた。最後のリペアキットを使い、態勢を立て直す。
「……!」
群がられようと関係ない。数多の銃弾の雨の中を、隙間を縫って飛ぶ。カラスの一撃が、ライガーの首を獲った。
〈総長!〉
「っ、ミシガン! 脱出を!」
〈聞こえているか、役立たずども! ミシガンは転んで死んだ、伝記にはそう書いておけ!〉
ライガーテイルから爆炎が上がる。あの様子からして、脱出することなく炎の中にいることを選んだのだろう。ここが、彼が選んだ死に場所だとばかりに。
『……ACライガーテイル。
〈馬鹿な……、ミシガン隊長が……⁉〉
〈敵も消耗しているはずだ、なんとかするぞ!〉
ミシガンが倒れても尚、ミシガンに着いて来た彼らの士気が落ちることはない。戦い続けるならば、こちらも戦うまでだ。アサルトライフルとリニアライフルの弾数はまだ持つ。レーザードローンも申し分ない。まずは、四脚の周辺にいるMTから落としていく。その次は、ロケットによる援護射撃を行うMTだ。周辺がある程度落ち着いてから猛威を振るってきた四脚MTと対峙する。アサルトライフルとリニアライフルを撃ちながら距離を詰め、至近距離になったところでパルスブレードを振るう。距離を取るためにブーストキックで蹴り上げて行く。
〈右肩武器、残弾三〇%〉
〈まだだ! レッドガンの流儀を見せてやる……! 泣きを入れたら――〉
「……もう一発」
チャージしたレーザードローンを展開する。六基のレーザー砲台がそれぞれの砲台と重なり、三対となって四脚MTへと向かう。レーザーが撃ち抜き、リニアライフルの一撃が態勢を崩した。パルスブレードに切り替え、二撃を振るう。猛威を振るっていた四脚MTを狩る。
『レイヴン、残り二機です。まさか、五十機以上存在していたとは……』
『通りで、疲れる』
それでも油断ならない。パルスアーマーもリペアキットも使い切った。ここで気を抜けば、全てが無駄になる。残りがただのMTであろうと関係ない。最後の一機になったとしても果敢に向かう彼らに向けて無慈悲に銃弾を撃ち込んでいった。
『ベイラムMT部隊の殲滅を確認。ミッション、完了です』
〈……やったか。よく耐えた、621。仕事は終わりだ〉
「……うん」
ミッションが完了する。炎が消え、沈黙しているライガーテイルにゆっくりと近付く。
「……お世話に、なりました」
これが、最低限の礼儀だと思った。
*
帰投すれば、ガレージにはウォルターの姿があった。脊椎端子の接続が切れ、コクピットが開くのを待つ。開いたコクピットからゆっくりと降りて行く。レーザードローンよる負荷はほとんど無かった。単純に、圧倒的な物量を一人で捌かねばならなかった疲労感の方が強かった。
「レッドガンを……、壊滅させるまでになるとはな」
「ウォルター――」
言いかけるこちらを制止するとばかりに、ふるふるとウォルターは首を横に振った。
「……お前は仕事をした。ミシガンもそれは分かっている。むしろ、世話になった礼を言ったのだ。ウチの役立たずどもよりしっかりしていると、笑うだろうさ」
ウォルターがこちらの頭を撫でて行く。こちらよりも、ウォルターの方が辛いはずだ。だと言うのに、それを隠してこちらのフォローをしてくれる。彼の優しさを、受け入れることしか出来なかった。
「ベイラムはルビコンから手を引いた。あとは政治家たちの仕事だろうが……」
レッドガンを失ったから。というよりは、ミシガンが死んだが故に撤退を余儀無くされたのだろう。それでも、ベイラムにはアイスワームを撃破した名誉と、ここまで嗅ぎつけたという事実を手にしている。世間体としては最低限の面子は保たれているのだろう。
「コーラルが絡むと、死人が増える」
撫でる手が降り、ぽつりと呟くウォルター。見上げれば、鋼の決意を宿す灰色の瞳が鋭いものになっていた。
「過去から未来まで、変わらない事実だ」
「ウォルター……?」
「疲れただろう、良く休め。カーラから、レーザードローンはより脳を使役すると聞く。甘いものを用意してやる」
誤魔化すかのような笑みを浮かべた後、ウォルターはガレージから立ち去った。そう言えば、ウォルターについて、知らない事ばかりだった。身近にいたからこそ、聞こうともしなかった。コーラルを手にするのが目的だと言っていたが、具体的にコーラルをどうするのかは聞いていない。ミシガンやカーラとは、どのような友人関係だったのか。ハウンズたちと、どのような交流をしていたのか。家族は、いたのかと。思えば、ずっと側にいたというのに、何一つ彼のことも何も知らないままだった。
『……レイヴン』
『エア?』
傍らにいるエアが息を呑む。先程の、ウォルターの言葉が気になるのだろうか。
『私たちは……。争いの火種でしか、ありえないでしょうか……?』
『それは……』
何も、言葉を返すことは出来ない。コーラルが、本来どのようなものなのかを知らない。情報伝達物質、新たな資源エネルギー、服用できる物質――。だが、彼らもまた生命であり、こうしてエアのように交流が出来る可能性もある。それでも、可能性を求めて色んな陣営が、様々な思惑と共に手を伸ばしている。あるいは、辿り着こうとしているのだ。ミシガンも、ウォルターも、ラスティも。
『……すみません、レイヴン。ウォルターが甘味を用意しているようです。今のあなたには、休息と糖分補給が必要です』
『こっちこそ、ごめんね……。ありがとう』
少女が二人。方や宙に浮いているようなものだが、無機質なガレージから食事スペースへと向かった。