ワタリガラスにカサブランカの花束を   作:櫻木ゆすら

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この高高度で鳥じゃないって言われた時のうるせええええ!!!ってなるこの感じ。


企業勢力迎撃

 カーラがいるだろうブリーフィングルームへと向かう。軽く小さな足音だけが響く。もう、視界の端には黒髪の女性の姿は無かった。

「……いいのかい?」

「大丈夫」

 カーラを見上げる。少しだけ、カーラが驚いた表情となるがすぐに真剣な表情に戻った。こちらも選択したのだ。ウォルターの意志を継ぐ。その決断と覚悟に、気付いたのだろう。

「なら、状況を説明しよう」

 端末を操作してカーラがブリーフィング画面を開く。

「アーキバスが、ザイレムに総攻撃を仕掛けて来た。うちの連中が応戦してるが、まあ厳しい。正直言って押されてる状況だ。分かるね。そろそろ、あんたの出番だ」

 こくりと、少女は頷く。ここまで派手に動いているのだ、この巨大な船の進路なぞすぐに割り出されたのだろう。行先がバスキュラープラントだと分かれば、アーキバスが黙っている訳が無い。

「雑魚はうちのチャティと部下どもで持つ。あんたに任せたいのはこいつだ」

 映し出されたのは、青い機体。この機体には見覚えがある。アリーナにおいて、一番最後に戦った相手だ。

V.Ⅰ(ヴェスパー・ワン)フロイト。企業陣営の筆頭、文句なしのエースさ」

「……」

 強化手術を受けていない身でありながら、ただ研鑽を積み重ねて来た本物の天才。今まで投入されなかった彼が、ようやく投入された。それだけ、今回のことを重要視しているということなのだろう。

「私は……、ウォルターが託したあんたに賭けることにした。引き返せない戦いになるが……、頼まれてくれるか?」

 依頼として、カーラが語り掛けてくる。あくまで、こちらは雇われただけで、雇ったカーラたちが裁かれるべきだと気遣うように。

「……カーラ」

 金色の瞳を、空色の瞳が見上げていく。

「私、決めたの。ウォルターの意志を継いで、全てを終わらせるって」

 こちらが選んだことを、目の前の女性に告げた。

「……わかった。なら、準備をしな」

 こくりと頷いて、ガレージへと向かった。

 

 

〈メインシステム、戦闘モード起動〉

 ザイレムの市街区に投下される。戦闘は、既に始まっている。ゆっくりと降下されたポイントから降り、アサルトブーストを噴かせて前進していく。

〈始めるよ、ビジター。V.Ⅰ(ヴェスパー・ワン)の投入まで猶予がある。その間に企業の主力機体を叩いてほしい。状況をひっくり返すには、あんたの力が必要だ。頼んだよ、ビジター!〉

「了解」

 近場に浮かぶ無人兵器を、リニアライフルで撃ち落とす。そして、ビルの上を位置取る封鎖機構の鹵獲機もエネルギー切れで落ちきる前に二丁の弾丸で撃ち落とした。エネルギーの回復を確認して、マーカー地点へと向かう。そこにはRaD製のMTたちがLCを相手に応戦していた。

〈第二隊長閣下に報告。例の独立傭兵と接敵しました〉

〈ほう……。駄犬がそんなところに。私は地上の火消しに忙しい。些事は任せます。処理しておきなさい〉

〈些事とはね。舐められたものだ〉

「関係ない」

 ターゲットになっているLCに向けて、銃口を向けてレーザードローンを展開する。が、相手方の援護射撃が激しい。レーザードローンに相手を任せつつも、周囲にいるMTから処理していく。腹立たしい声に意識を向ける必要は無い。援護射撃を行うMTを処理してからLCと向き合う。レーザードローンがある程度相手のAPを削り、ACSの負荷を溜めてくれている。アサルトライフルとリニアライフルの弾丸をLCに向けて放っていく。滞空するLCに向けて、リニアライフルをパルスブレードに換装して振るうが、当たったのは二撃目のみ。だが、その二撃目は相手の体勢を崩した。すぐさま、LCに向けてブーストキックで蹴り飛ばした。

〈機体が……、持たない……!〉

〈目標の撃破を確認。次に行くよ、ビジター!〉 

「了解」

 示されたマーカーへ移動を行う。その最中、既に現場にいるチャティから通信が入った。

〈ボス、被害が広がっている。敵の主力は封鎖機構から鹵獲した高性能機だ〉

〈……聞いてのとおりだ、ビジター。右舷エリアはチャティが何とかする。目標の撃破を急いでくれ!〉

「了解」

 進行ルート上の邪魔な敵を排除しつつ、マーカー地点へと進んでいく。妨害するかのように展開されたパルシールド発生装置を撃ち落とし、狙撃型のLCも撃破した。こんなにも、冷静な――。何かが冷たくなっているような状態でミッションに挑むのは初めての感覚だった。隔壁をアクセスし、奥へと進む。ドーム状の建物の中では、トイボックスが応戦している。だが、トイボックスの健闘空しく、HCによって呆気なく撃破された。

〈報告します。独立傭兵レイヴンと接敵。……承知しました、排除します〉

〈……今度はHC機体か。アーキバスもリサイクルが得意だね。封鎖機構も喜んでいるだろうよ〉

「……全く」

 HCに向けて、アサルトライフルとリニアライフルを向ける。一対を重ねたチャージ状態での攻撃を指示したレーザードローンを展開する。盾を構えたHCとの戦闘は苦手意識がある。だが、それは密閉空間でのことだ。これだけ広さのある空間ならば、壁での戦闘のように遅れは取らせない。こちらもプラズマライフルのダメージを受けつつもACS負荷限界で体勢を崩したところを、パルスブレードを振るってダメージを与えていく。

〈やはり只者ではない……! 閣下、第一隊長殿の投入は……〉

〈また些事で煩わせる。持たせなさい〉

 HCがパルスシールドをパイルバンカー機構に変形して突撃してくる。避け損ねるも致命傷には至らない。リペアキットで修復し、再度体勢を崩すために射撃戦を続けていく。

(こんなにも、静かだったっけ……)

 HCの攻撃を避け、それでも避けられず受けてしまいながらも、HCとの射撃戦を続けていく。ただACが動く音、銃器が弾丸を放つ音、相手の機体が動く音――。こんなにも、人の声が入らない戦場というのも初めてだった。いつもならば、ウォルターの声が、エアの声が聞こえていた。もう、二人の声が聞こえることはない。

 アサルトライフルとリニアライフルでACS負荷が溜まり、レーザードローンがより多くのダメージを与えていく。もう少しで、HCを討ち取れる。リニアライフルをパルスブレードに換装し、ブレードの二撃を振るう。初弾から外すことなく、二撃目でHCを切り捨てていった。

〈化け物、め……〉

 化け物。これまで、化物と形容すべき相手と戦ってきたことがある。だが、自分が化け物と呼ばれるのは、初めてのことだった。これからコーラルを焼却し、星系規模の災害を引き起こすのだ。自分が怪物と呼ばれるようになっても、仕方がないことなのだろう。

〈……この辺りは片付いたか。今のうちに補給をしておくんだ〉

「わかった」

 示された補給ポイントへと向かい、補給シェルパの要請信号を送る。先程消耗しや弾薬及び、リペアキットを補充した。

 

 

 様々な通信が入って来る。やれ、先行した部隊との連絡が途絶えただの、鹵獲機の反応が消えただの。そういう状況報告ばかりだ。地上も、解放戦線が一斉蜂起を始めたようだがその勢いは弱い。シュナイダー製ACが投下され、シュナイダーの裏切りが明確となった訳だが……。それを考えるのは政治屋の仕事だ。パイロットであるこちらのやることではない。

〈たかが駄犬一人に、何を手間取っているのです〉

「スネイル」

 この美しい空の上に、あの傭兵がいる。先代の宵闇を撃ち落とした、祝福の花。この船で何をしでかす気かは分からないが、少なくとも、バスキュラープラントに向かっている以上はこの船を止めなければ、せっかくのアーキバスの勝利が御破算となる。アーキバスが勝つかどうかは、心底どうでもいいことではあるが。

「そろそろ出させて貰うぞ」

〈フロイト、あなたは――〉

「熱くなるなよ、お前の悪いクセだぞ? ここは、切り札の使い時だ。あのカラスを放っておく方がまずいだろう」

 整備スタッフに出撃の合図を送る。操縦桿を握る。ずっと待たせてしまっていた相棒の炉に火が点いていく。

〈……根拠を聞いても?〉

「勘だ。戦況を聞くに、あのカラスは今までと何かが違うようだ。なら、切り札の切り時を違えるな、スネイル。お前は、負けるために勝負をしているのか?」

〈……この作戦の目的を、忘れぬように〉

 沈黙の後、絞り出すように出たスネイルの声。こちらの顔が見えないことを良い事に、思わず口角が上がる。

「ああ、覚えているとも。スネイル」

〈出撃準備、完了しました!〉

 整備スタッフの通信が入る。厄災に呑まれて焼け残った、この死にかけの惑星(ほし)で。死にかけの地上とはお構い無しに、大気によって拡散された青の太陽光に満ちた空の美しさは変わらない。この美しく晴れた青と深淵のダークブルーの境界の元で、多くの人間の記憶に刻まれるようになった傭兵と相対するのだ。シチュエーションにも恵まれた絶好の機会だ。

「行くぞ、ロックスミス」

 翡翠のアイカメラが灯った相棒が、美しい空の中へと解き放たれた。

 

 

〈ボス、敵の増援だ。このままでは持たない〉

〈チッ、きりがないね……! ビジター、救援に向かってくれるか?〉

「了解」

 隔壁にアクセスを行って扉を開き、通路の奥を進んでいく。アーキバスも、中々ザイレムを落とせないことに痺れを切らしたところだろうか。フロイトの投入を予定しておきながら、切り札は最後まで取っておきたいのだと見た。

〈ボス、拘束接近する機体反応がある。この識別コードは……〉

V.Ⅰ(ヴェスパー・ワン)……。フロイトが動き出したようだね……! 急いでもらうよ、ビジター!〉

「了解」

 スネイルが投下を許可したのか。それとも、フロイトが痺れを来したのか。どちらでもいい。目標である彼が来るのであれば、こちらのやるべきことは変わらない。通路に潜んでいた、封鎖機構の電熱カッターを装備したMTを撃ち落としていく。通路の隔壁をアクセスし、外へと出る。憎たらしいほど晴れた蒼天の下では、RaD製MTとチャティがアーキバスと戦闘を繰り広げていた。

〈待ちわびたぞ……、ビジター〉

〈間に合ったみたいだね……。よく持ちこたえたよ、チャティ!〉

〈そうだな。これでようやく反撃に移れる〉

 移動しながら、進行通路上に存在するMTを撃ち落としていく。すぐにこの場を鎮圧し、飛んできているだろうフロイトとの戦いに備えなければならない。サーカスの待機地点に到達し、目の前の小隊に目を向ける。

〈LC機体が複数……。あとはプロテクション展開ドローンか〉

〈援護しよう。俺は正面で敵を引き付ける〉

「お願い。殲滅を開始する」

 サーカスが小型グレネードとバズーカの援護射撃を行ってくれる。こちらは滞空して、まずは無人兵器を撃ち落としていく。そして、盾となるプロテクション展開ドローンを、パルスの領域の中に潜り込んでからリニアライフルの弾丸で貫いていく。残るはLC機体のみ、高火力型が二機だ。まずは、片方の高火力型と対峙する。ミサイルの雨に晒されることになりつつも、アサルトライフルとリニアライフルによる牽制射撃を続けていく。なんとか、二機の高火力型を分断させる。チャティやRaD製のMTの援護もあり、高火力型の体勢が崩れた。その隙を逃さず、換装したパルスブレードを振るった。

〈……ボス、V.Ⅰ(ヴェスパー・ワン)の反応が近い〉

〈そうかい。休ませてはくれないみたいだね……!〉

「……問題ない。やれる」

 リペアキットを使い、残る一機へと向かう。が、疲労による判断力の低下は否めなかった。リニアライフルへの換装忘れや、不用意なチャージショット、体勢を崩した絶好のタイミングすらも逃している。それでも、二丁の銃撃戦、チャティの援護射撃によって二機目を撃ち落とすことはできた。

〈……どういうことだ。些事ではなかったのか?〉

 この場を鎮圧させることは出来た。困惑するスネイルの声が入って来る。

〈まあいい、そのためのV.Ⅰ(ヴェスパー・ワン)です〉

 チャティと共にレーダーが探知した先を見据える。やってくる。この惑星(ほし)で最強と謳われる存在が。

 遠くから、光る青が来る。アーキバス製品とベイラム製品が混ざった機体がやってくる。

〈お前がレイヴンか。……ウォルターの猟犬とやるのは初めてだ〉

 アサルトブーストの速度が上がっていく。彼我の距離が縮まっていく。

〈退屈させてくれるなよ〉

 相対するために、こちらも跳躍して飛んでくるV.Ⅰ(ヴェスパー・ワン)フロイトの機体――、ロックスミスに向かっていく。接敵するその瞬間、ロックスミスが速度を利用したブーストキックでカサブランカを蹴り飛ばしていく。

「なに⁉」

〈悪いな、好物は最後まで取っておくタイプなんだ。それじゃあ、安そうな方から片付けよう〉

 蹴り飛ばされたカサブランカの背後には、サーカスがいる。こちらが狙われていると気付いたのか、クラスタミサイルの打ち上げを始める。ミサイルが降り注がれる前にロックスミスが一気にサーカスと距離を詰める。グレネードを構えるも弾丸が発射されるより先に、ロックスミスのレーザーブレードがサーカスのコアを貫いていた。

〈……ボス。ビジ……、ター……〉

「チャティ!」

〈チャティ⁉ ビジター、チャティが……!〉

 切り返してアサルトブーストを噴かせるも、間に合わなかった。最後に打ち上げられたミサイルがロックスミスを追うも、クイックブーストの後退でその全弾は外れた。アサルトライフルの弾丸がカサブランカを掠めていく。こちらも、アサルトライフルとリニアライフルの銃口を向け、レーザードローンを展開する。ロックスミスもまた、レーザードローンを展開し、拡散バズーカが向けられたアラートが鳴り響く。クイックブーストで軸をずらして直撃を回避した。

〈無人ACだな。そういう動きだ〉

〈……、頼む。ビジター〉

「……!」

 レーザードローンが互いの機体に向けて飛び交っていく。合間に挟まれるアサルトライフルをクイックブーストで回避するも、その直後の硬直に合わせるかのように拡散バズーカを向けられ、数発を掠めてしまう。体勢を整えるためにパルスアーマーを、互いに展開し始めた。

〈お前もソイツの使うのか。だが、硬いな。ソイツは、もっと自由に飛ばすものだ〉

 アサルトライフルとリニアライフルでパルスアーマーの減衰を狙うところで、ぐいっとロックスミスが迫る。拡散バズーカを至近距離で撃たれパルスアーマーが大きく減衰する。先程の言葉を実践するかのように、ロックスミスからレーザードローンが展開される軌跡が見えた。ロックスミスから放たれるレーザードローンの一基一基が、こちらの動きを制限するように独特な軌道を描き始めた。その動きに翻弄される合間に、いつの間にか距離を詰めていたロックスミスのレーザーブレードの低出力の初弾の攻撃を受けてしまう。こちらもレーザードローンを展開し、AIが制御する動きではなくこちらが思い考える動きを指示する。ロックスミスから、リペアキットの排出が見えた。

〈なるほど、そういう動きもあるのか。面白いな〉

「黙って……! っ!」

 レーザードローンの動きを掻い潜り、滞空しながら見下ろすようにアサルトライフルとリニアライフルを撃つこちらを見上げるように拡散バズーカを放っていく。こちらもリペアキットを使って、APを回復していく。アサルトライフルとリニアライフル、アサルトライフルと拡散バズーカ。互いに向かって飛び交い続けるレーザードローン。大火力を誇る近接兵装の使い時を狙う射撃戦が続く中、横槍を入れるかのように通信が入る。

〈フロイト、何を遊んでいるのです。目標はあくまでザイレムの掌握です。その駄犬は無視して構いません〉

〈おっと。そうだったな、スネイル。了解した〉

 無理矢理通信を切断したかのような機械音。ロックスミスの翡翠のアイカメラが怪しく光る。

〈さて〉

 左手のレーザーブレードが、爪のような形状に変化する。リーチが伸びたそれは、回転しながら迫って来る。

〈続けようか、お嬢ちゃん〉

 まるで、この戦い自体を楽しんでいるかのような口調。ここにいる誰もが、勝利を掴まねばならぬと決死となっている中で、目の前の強者は楽しんでいるのだ。ただ、ACに乗って戦う。そのこと自体に。

「……、ふざけるな……!」

 ただ、遊びの邪魔になる。それだけで、チャティを排した。今はこちらとの戦いを楽しんでいる。より、この戦いを楽しむためにレーザードローンの扱い方を助言したとでも言うのか。からかっているような口調は、頭に血が登っていく。動かなくなったサーカスを横目に、実弾とレーザーが飛び交う射撃戦が続いていく。

〈感情が死んだ旧世代型と聞いていたが、なんだ。思った以上に感情があるじゃないか〉

 嘲笑うようにパルスアーマーが展開される。だが、これで相手のコア拡張機能は使い切った。こちらの実弾がパルスアーマーを削り、一対が重なったレーザードローンがパルスアーマーを削り切った。だが、ロックスミスのレーザードローンによってこちらの体勢が崩された。タイミングを見計らったかのように、レーザーの爪による回転斬りが迫る。最後のリペアキットを使い捨て、パルスアーマーを展開して拡散バズーカの直撃を防いだ。そして、相手もリペアキットを使ったようだった。

〈こちらを選んで正解だったな。お前の戦い方、まさに猟犬という感じだ〉

 ロックスミスのレーザードローンが並走し、レーザーの雨とともにレーザーブレードの牙が振るわれる。クイックブーストで距離を取り、アサルトライフルとリニアライフルを向け続ける。

〈この高高度で、“鳥”じゃないのが面白い〉

「お前……!」

〈ビジター!〉

 まるで、自由に羽ばたき続けるレイヴンを捨て、ウォルターの猟犬であることを選んだと知っているかのように。今の自分は鳥ではないとあの男は断言した。頭が真っ白になりかけたところで、カーラの声が現実に引き戻してくれた。

〈……指示が遅れてすまない。あんたも分かっていると思うが、レーザードローンには特に気を付けるんだ。あれを使いこなせる人間はそうはいない〉

「……了解」

 クイックブーストで拡散バズーカを避け、一息をつける。挑発に乗れば、相手の思う壺だ。思考をかき乱す感情(ノイズ)を落ち着かせ、こちらの戦い方を続けていく。こちらのレーザードローンが、ロックスミスの体勢を崩した。リニアライフルをパルスブレードに切り替えてブレードを振るうも、迎え撃つように拡散バズーカを当てられる。

〈ここは景色もいい……。お前もそう思うだろう、お嬢ちゃん。このまま、お前とやり合いたい。そういう気分だ……〉

〈こっちは遊びじゃない……。それを教えてやるんだ〉

「そのつもり」

 楽しいというだけで、その力を振るう男。こちらには、成し遂げなければならないことがある。もう、引き返すことが許されない。それでも、感情(ノイズ)の悪影響は操縦に響いている。壁際に追い詰められ、拡散バズーカの一撃を受ける。

〈AP、残り三〇%〉

〈どうする、お嬢ちゃん。もう後がないぞ〉

「もう、喋らないで」

 相手を食い破るようにパルスブレードを振るい、迎え撃つ拡散バズーカをクイックブーストで回避する。実弾とレーザードローンが互いに交錯し合う銃撃戦。APという面においては、カサブランカが圧倒的に不利だった。だが、純粋な射撃戦においては、武装に有利がある。

 ロックスミスの武装には、必ず動きを止める拡散バズーカと近接兵装のレーザーブレードがある。実際に、射撃戦を行っているのはアサルトライフルとレーザードローンだけだ。拡散バズーカを構えたその瞬間を、カサブランカのアサルトライフルが捉える。動きが止まったロックスミスを、カサブランカのレーザードローンが撃ち抜いていく。

〈くっ、ははっ……! いいぞ、お前……! もっとだ!〉

 レーザードローンでは仕留め切れなった。だが、APの差は一気に縮めた。互いに、己の持つ武器の一つでも当てれば仕留められる。その瀬戸際に、男は笑う。その次の瞬間、こちらの弾丸がロックスミスを確かに射貫いていった。

〈動け……、ロックスミス……!〉

 かふっという何かを吐き出す音と、ごぽりと何かが垂れた音。それでも尚、このふざけた男は、笑っている。

〈まだだ……! これからもっと、面白く――〉

 機体も、己の命そのものすら風前の灯火だと言うのに。最後まで最強と謳われた男は、何も縛られることなく、己のためだけに生きて、死んだのだ。

〈……。V.Ⅰ(ヴェスパー・ワン)フロイトの撃破を確認〉

 目の前には、燃え続ける物言わぬ鉄塊。静まり返った戦場は、美しい青で揺らめく水面と、蒼天の向こう側が見える空が視界に入る。

〈エイヴェリー、あんたに賭けて正解だった。私も、ウォルターも……。チャティだってそうさ〉

 もう、止まることは許されない。己の選んだ選択に進むしかないのだと、どこか、凪いだ思考がそう考え始めていた。

 

 

「……」

 ルビコン解放戦線指令室。計器と睨んでいた艶やかな黒髪をひとつに結った碧眼の女性――。隊長の戦死を契機に、ヴェスパー第四部隊からシュナイダーへと左遷されたベルタ・ウェバーがインカムを降ろす。シュナイダーに左遷された先で、シュナイダー社がルビコン解放戦線と密約を交わし、来たる時にて一斉蜂起を行うことを知った。その作戦が行われるのと同時に、この地上の遥か上。ザイレムと呼ばれる船が浮上し、バスキュラープラントへと向かった。ベルタはザイレムで起きたアーキバスとザイレムに搭乗する一派の交戦記録を傍受し、調査していた。

「ベルタ・ウェバー、状況は」

「……V.Ⅰ(ヴェスパー・ワン)フロイトが撃破されました。それから――」

 ミドル・フラットウェルに問われ彼へと振り向き、フラットウェルの更に後ろに座る男に視線が向いた。言葉にするには、難しい。だが、この事実は語らなければならなかった。

「……ザイレムを動かしているのは、RaDの一派です。ACサーカスの残骸を確認しました。そして、独立傭兵レイヴン。彼女は、健在です」

 作戦遂行中とは異なる緊張が、指令室に走る。再教育センターに捕縛されたレイヴン。彼女が脱走したらしいという情報はこちらでも掴んでいた。だが、彼女の行方は分からないままだった。それが、バスキュラープラントへと進路を向けた船にいる。そして、最強と謳われたV.Ⅰ(ヴェスパー・ワン)が倒れたのだ。彼すらも、あの少女を止めることが出来なかったのだ。

 RaD――。正確には、カーラというべきか。彼女の思惑は掴みかねている。だが、あの船を浮上させ、その進路はバスキュラープラントへと向かっている。憶測でしかないが、最悪の状況は誰もが予想出来た。もし、あのままあの船がバスキュラープラントへと向かっていくのならば……。もし、コーラルの入手以外が目的であるとするならば……。起こり得る、最悪の状況は――

「……フラットウェル」

 ぽつりと、鋼のように冷たい掠れた声が零れる。鎮座していた男が立ち上がる。橙色の瞳には、今まで見たことが無い研いだ刃のような。鋭い覚悟を抱いた光が宿っていた。

「……ああ。お前には、あの船に飛んでもらう。そして――」

「分かっている。フロイトですら止められなかったのだ。ならば、私がやるしかあるまいよ」

 浮上したザイレムに対し、解放戦線は急遽作戦を練り上げた。それは、最強たる戦士をあの船へと送るという至極単純なものだ。その役割は、彼しか担うことは出来ない。あのカラスを討ち取れるのは、解放戦線へと帰還した枷を外した狼にしか出来ぬ役割だと。

「……シュナイダーに連絡する。あいつらならば、文字通りにあの船への片道切符は用意できるだろう」

「ああ」

 短く返事をした後。男は出撃準備をするために、指令室から出て行った。

 

 

 カサブランカがガレージへと収容される。脊椎端子が外れ、コクピットから降りる。やはり、身体に限界が来ている。タラップを歩けば、カーラがいた

「エイヴェリー」

「……大丈夫。それは……」

「ああ……」

 カーラの手には、二輪の造花があった。この花を手向ける先は、恐らく――

「チャティにお別れをね」

「一輪、貰える?」

「……ああ」

 カーラから一輪を受け取る。静かにガレージを歩き、回収されたサーカスの残骸に花を添えた。

「あいつは私の作ったAIだ。知っての通り、必要に応じて身体を換えたりはするが……。バックアップは取る気になれなかった」

「……」

 それは、とても難しい感覚だ。バックアップがあれば、もう一度チャティと言葉を交わすことは出来る。だが、その新しいチャティは今まで会話し、共に戦い、フロイトに戯れに打ち倒された彼と言えるのだろうか。

「生きるってのは、そういうもんだろう?」

「よくは分からない。けど、なんとなく分かる気がする」

 新しいチャティは、今までと同じチャティとして接することは出来るか。それは、621には無理だった。例え、撃破されるまでの記憶が同じだとしても、新しいチャティはこれまでのチャティとは別“人”だと捉えてしまうからだ。

「……あんたの方も、なんだか寂しそうだね。気のせいなら、いいんだが」

「……大丈夫、だよ」

「……そうかい」

 声が震えていたことは、とっくに気付かれているだろう。だが、カーラは言及することは無かった。次の出撃までの短い時間を、取り残された女性と少女が佇んでいた。

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