ワタリガラスにカサブランカの花束を   作:櫻木ゆすら

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初見の二周目、不真面目なことは出来ないという理由で実は遊ばなかったおもひで。遊んだら遊んだで、重ショ持ち出さないとダメだった……


多重ダム襲撃ALT

 少女が積み重ねて来たものを振り返っていく。このルビコンⅢに密航してから、少女は頭角を露わにしてきた。アーキバスとベイラム、両者のばら撒き依頼から彼らに認知され、ついぞ両社から指名が入るほどになった。武装採掘艦となったストライダーの撃破に指名が入ったのも、エルカノ・ファウンダリィから秘密裏に新型パーツの戦闘データ収集を依頼されるのも。その全てが、父が遺した罪の成果であると考えると、少々複雑な心境となる。

 だが、これから為さねばならぬことのためには、どうしても兵器となってしまった少女の手を借りざるを得ない。そして、少女を戦場から解放させるためにも、彼女には失われた人間性を取り戻す必要がある。これまでの戦いで、僅かだが罪悪感を感じている。再び芽を出してくれた彼女の自我というものを、摘ませる訳にはいかない。彼女の実力を磨くためにも、人間性を刺激させるためにも、兄代わりの男が率いる部隊との接触は必要だった。コールを鳴らせば、G1(ガンズ・ワン)ミシガンが応答した。

「ミシガン、621をレッドガンに預ける件だが――」

〈言い忘れたことがあった。ハンドラー・ウォルター〉

 言い忘れたこととは一体何なのだろうか。言葉の続きを待つ。

〈解放戦線の動きに変化が見られる。独立傭兵に粉をかけて回っているらしい〉

 ルビコン解放戦線が、外部の存在の力を借りようとしている。解放戦線はお世辞にも惑星封鎖機構や企業を相手取るにしては、あまりにもその勢力と実力は貧弱だ。故郷を守るというモチベーションこそは高いものの、その意志に対して現実が無情であるのも事実だ。そして、彼らは一様に外部の人間に敵意を抱いている。そんな彼らが、外部からの密航者とも言える独立傭兵の手を借りようとするなぞ……。彼らに変化が起きたのか、現実が見えている切れ者がいるのか。どちらにせよ彼らの変化というものは、あの少女に新たな仕事や経験をもたらすものだ。

「621の仕事が増えるなら、歓迎だ」

〈弱者には弱者の戦略がある。レッドガンとしては叩き潰すのみだがな〉

 彼らに変化が訪れようとも、結局はこちらのやることは変わらない。それもまた、現実の一端であった。

 

 

「621、仕事だ」

 最早通例となった文言。タブレット端末を取り出していく。

「ベイラム本社の作戦に参加する。ブリーフィングを確認しろ」

 この時、ウォルターが耳に指を当てるジェスチャーを行う。ウォルターから音量に気を付けろとジェスチャーをするのは珍しい。普段のベイラムから仕事を受ける際より音量を絞る。

〈ウォルターから話は聞いているな⁉〉

 ……音量を絞って正解だった。今まで依頼を斡旋していた青年ではなく、壮年の男性がブリーフィングの説明を行うようだ。ふと、名前を見れば、G1(ガンズ・ワン)ミシガンと書かれていた。まさか、ベイラムの専属AC部隊レッドガンの、そのリーダーたる人物からブリーフィングを受けるとは思いもしなかった。

〈では作戦内容を説明する。一字一句聞き洩らすな!〉

 ベイラム、というよりはレッドガンはこういうタイプの人間ばかりなのだろうか。少しだけ、辟易してしまう。

〈今回ベイラムは解放戦線の治水拠点、ガリア多重ダムを叩き潰すことを決定した。ライフラインの破壊により、連中が泣いて詫びる損害を与えるのが目的だ!〉

 映し出されるのは、凍った湖と雪原、電力施設だ。ライフラインを破壊するなぞ、少しばかり度が過ぎる気がするが……。ウォルターの知り合いらしい人物が、わざわざ名の売れていない傭兵に直々にブリーフィングを行っているのだ。拒否権は無いに等しい。

〈我がレッドガン部隊からはG4(ガンズ・フォー)ヴォルタとG5(ガンズ・ファイブ)イグアス、二名の役立たずが出撃する。貴様はその下、うちの役立たずに付けられた安いおまけだ!〉

 G4(ガンズ・フォー)ヴォルタとその乗機キャノンヘッド、G5(ガンズ・ファイブ)とその乗機ヘッドブリンガーが映し出される。キャノンヘッドは重装甲のタンク型ACで、その風格に合った重武装が特徴的だ。一方、ヘッドブリンガーは中量二脚型ACだ。武装からして、中距離で戦うことがコンセプトだろう。ヘッドブリンガーが前衛を勤め、キャノンヘッドが高火力で押していく。役立たずと称されているが、バディとしては理想とも言える組み合わせなのだろう。そう考えれば、確かにこちらは安いおまけに過ぎない。

〈おまけである貴様には、一昨日空きが出たラッキーナンバー。コールサインG13(ガンズ・サーティーン)を貸与する。G13(ガンズ・サーティーン)、復唱!〉

「っ……、がんず・さーてぃーん……」

 思わずG13(ガンズ・サーティーン)と復唱する。くすりと笑うウォルターの声が聞こえた。

〈復唱したか! では準備を始めろ! 愉快な遠足の始まりだ!〉

 ブリーフィングが終了する。G1(ガンズ・ワン)ミシガンに圧倒されるだけだったが、内容は理解出来た。G4(ガンズ・フォー)G5(ガンズ・ファイブ)と共に、ガリア多重ダムの変電施設を破壊する。そのついでに防衛戦力を叩けというものだ。

「……G13(ガンズ・サーティーン)か。名前が増えたな、621。レッドガンの流儀を堪能してこい」

 どこか嬉しそうな口調のウォルター。恐らく、ウォルターとミシガンは古い知り合いなのだろう。少なくとも、ベイラムが主導で行っている作戦に、空きが出来ているとはいえ捩じりこませることが出来る間柄には違いない。

「……少し、苦手」

「……やはり、レッドガンの雰囲気は苦手か?」

「悪い人、じゃないのは分かる……」

「それでいい、621」

 自分にも、苦手と認識するものがあったらしい。そんな621の様子を、ウォルターは嬉しそうにしている。ミシガンから直々に怒られる前に、カサブランカの出撃準備を進めた。

 

 

〈621、僚機との初戦闘だが、お前の方からあちらに音声が聞こえることも顔を見られることはない。そこは安心しろ〉

 投下される前に、ウォルターが説明する。こちらは十四歳程の外見にして、それぐらいの少女の声音だ。こちらが女子供であると把握された時点で、相手の対応が変わる。ならば、正体は隠したままの方がいい。相手からすれば、返事をすることもなく寡黙に淡々と任務をこなす傭兵として捉えられるだろうが……。先日のドーザーに絡まれたことを考えれば、こちらのためにも、相手のためにも必要な処置だった。

〈メインシステム、戦闘モード起動〉

 投下されたのは、ガリア多重ダム近辺の雪原だ。既にキャノンヘッドとヘッドブリンガーが待機しているようだった。

〈これより、ベイラムグループ専属AC部隊レッドガンによるい作戦行動を開始する。突入しろ、役立たずども!〉

 ミシガンの通信が入ると同時に、キャノンヘッドとヘッドブリンガーが前線へと舞い出た。慣れぬ大声に思わず面食らうが、なんとか前に出た二人に付いていく。

〈独立傭兵かよ。野良犬の世話をしろってのか、レッドガンの舐められたもんだ〉

 そう言ってきたのは、G5(ガンズ・ファイブ)イグアスだ。こちらを一瞥したかと思えば、左肩のシールドを展開しながら、リニアガンでMTたちに先制攻撃を仕掛けた。口調の割には、防御と攻撃の両立を目指した堅実的な戦い方だ。

〈関係ねえ、俺たちで終わらせればいい〉

 そうイグアスに返事をしたのは、G4(ガンズ・フォー)ヴォルタだ。中距離でヘッドブリンガーがMTたちを攪乱する合間に、重装甲で物を言わせたキャノンヘッドが突貫する。右手と左肩のグレネードでMTを蹂躙する一方、撃ち漏らしを左手のショットガンで対処する。大火力で攻めながらも、堅実的な動きは踏襲している。これが、独学ではなく専門的に訓練や学びを得たAC乗りの戦い方にして、アセンブルの組み方なのだろう。

「……すごい」

 彼らの独特な雰囲気は苦手だ。だが、彼らの戦い方やACの組み方には学びがある。自分とウォルター、敵しかいなかった世界が広がった。そんな感覚すら覚えた。自分の手が止まっていることに気付く。彼らがMTを殲滅している内に、変電施設に対してブレードを振るって撃破した。

〈目標、一基破壊だ〉

 最初に突入した施設には、MTは残っていない。変電施設も破壊した以上、次の目標地点へと向かう。

〈よう、野良犬〉

 ブーストで移動していると、ヘッドブリンガーが並走する。こちらに、何か用があるのだろうか。

〈お前のような木っ端は知らんだろうがな。俺たちレッドガンは“壁越え”アサインされている。この仕事は慣らしだ。終わったら土着どもの要塞を落としにかかるのよ〉

「“壁越え”……」

 以前に解放戦線の通信や資料から見聞きしている“壁”と言う単語。やはり、“壁”はルビコン解放戦線にとって重要な要塞の名前のようだった。そして、彼らは“壁越え”と呼ばれる重要な作戦に参加するらしい。……そんな重要機密を、こちらに話して良かったのだろうか。

G5(ガンズ・ファイブ)! おまけとの交流に余念がないようだな。ついでに仲良く刺繍でもして、その良く回る舌を縫い付けておけ!〉

 ミシガンの叱責からか、ヘッドブリンガーが速度を上げ、次の施設へと強襲をかける。その反対側を、キャノンヘッドが進軍していく。こちらは、両者の間を縫うようにして砲台やMTにライフルとミサイルを放って援護していく。MTがキャノンヘッドとヘッドブリンガーの対処をしている内に、排熱が終わったブレードで変電施設を破壊した。

〈目標、二基破壊〉

〈やるじゃねえか、ズブの素人って訳でもねえな〉

 ウォルターの報告の後、ヴォルタからの通信が入る。ミシガンやレッドガンの雰囲気に面食らって出遅れたこともある。それに、彼らは企業所属だ。彼らからすれば、独学で活動している独立傭兵は素人に見えるのだろう。

G4(ガンズ・フォー)! 一体いつ貴様が素人ではなくなった? 批評家はレッドガンには要らん、改めろ! さもなくば荷物をまとめろ!〉

 ミシガンの叱責が続いていく。やはり、彼らの独特な気配には慣れないところがあった。なんとか、残存しているMTをライフルで撃破していく。

〈前線のMTも片付いたようだな〉

〈準備運動は終わりだ、続けるぞ! 役立たずども!〉

 先行するキャノンヘッドとヘッドブリンガーに追従しようとした、その時だった。

〈……待て、621。暗号通信が入った〉

「え?」

 思わずカサブランカの動きを止める。ウォルターが通信を繋げてくる。一体、どのような相手なのだろうか。このようなタイミングで、誰が……

〈独立傭兵レイヴン、我々はルビコン解放戦線だ〉

 思いもよらない相手からの通信だった。今、レッドガンと独立傭兵によって襲撃に晒されているルビコン解放戦線からの暗号通信。このようなタイミングで、こちらにどのような話があるというのだろうか。

〈単刀直入に言おう。こちらに付き、レッドガン二名を排除してもらいたい〉

「なんですって……?」

〈報酬はベイラム提示の二倍。色好い返事を期待している〉

 このタイミングで、彼らを裏切って撃破しろ。解放戦線の状況を考えれば、確かにこれは彼らが取れる戦略の一つだろう。独立傭兵は、言ってしまえば決断も実行を行うのも本人だ。より金目のある方に流れても当然と言えば当然である。だが、既にこちらはミシガンからの依頼に応えているような状態だ。ウォルターとミシガンは旧知である可能性がある。そんな不誠実を、起こしていいものなのだろうか。

〈……なるほど。ここはお前が決めろ、621。なに、お前が粉をかけられる可能性があることは、ミシガンも理解している〉

 気にするなと言うウォルター。ここは、本当にこちらの判断で任せていいようだった。金銭を取るか、誠実を取るか。どちらでも構わないと言われてしまうと、こちらも判断に困ってしまう。

〈どうした? 野良犬。もうへばったのか〉

 動きを止めたこちらに向かって、イグアスが声をかけてくる。止まったままのこちらを不審に思ったのだろう。

〈あのジジイの知り合いだかなんだか知らねえが。お前も、“お前の飼い主”も大したことねえようだな? 野良犬〉

 この余計な一言が、決断する決定打となった。

「……ウォルター、繋げて」

〈わかった〉

 暗号通信に外部との連絡を制限している中、ウォルターが調整する。そして、こちらの決断を彼らに伝える。

「あなたたちの提案に乗る。たった今、レッドガン隊員と戦う理由が出来た」

〈っ……!? ――独立傭兵レイヴン、協力に感謝しよう〉

 こちらの声に動揺するかのような息遣いは聞こえたものの、了承したことは伝わったようだった。

〈621、解放戦線から友軍識別タグが交付された。連中の戦力を上手く使え〉

「了解」

 レーダーを見れば、レッドガンの両名がターゲットとして情報が更新されている。撃破されていない解放戦線のMTの近くを通り過ぎても彼らから銃撃を受けることはない。あの二人に狙いを定めることが出来る。アサルトブーストを噴かせてヘッドブリンガーとの距離を詰める。作戦に集中しているヘッドブリンガーに向けて、レーザードローンを放っていく。まずは、先に喧嘩を売ってきたイグアスからだ。

〈……!? てめえ、何しやがる!〉

〈抱き込まれやがったか!?〉

 レーザードローンがヘッドブリンガーを射貫いたのが見えた。友軍の位置を確認する。どうやら、右手側奥に四脚MTが待機している場所があるようだ。牽制射撃をしながら、ヘッドブリンガーを四脚MTの元へと誘導していく。高低差のある地形は、キャノンヘッドとの合流を妨げる。

〈そう来るか、ハンドラー・ウォルター……。G4(ガンズ・フォー)G5(ガンズ・ファイブ)! 応戦しろ! G13(ガンズ・サーティーン)は貴様らと“遊びたくなった”ようだ!〉

 ミシガンはすぐに切り替えて指示を出す。レーダーを見れば、先に攻撃を加えたヘッドブリンガーがこちらの後を追いかけに来ている。キャノンヘッドは、凍った河川と山々と高低差のある地形とMTたちに阻まれている。いかに高火力を持つキャノンヘッドと言えど、タンク脚による機動性を対価とした城壁は、中量二脚であるカサブランカとヘッドブリンガーに置いていかれてしまう。

〈……まさか、解放戦線の誘いに乗るとはな〉

「ワタシをバカにするのはいい。ウォルターまでバカにした。それは、許さない」

〈お前が買った喧嘩だ。しっかり相手を打ちのめしてこい〉

 言われるまでもない。ヘッドブリンガーは着いてきている。この高台の上で彼とは喧嘩に勝つ。向こうが売って来た喧嘩だ。時にはその喧嘩を買って、痛い目に合わせるのも大事だと。どこかで聞いたことがあるような気がした。

(……来た)

 ヘッドブリンガーが高台へと上がって来る。こちらへ飛んでくるマシンガンを回避しつつ、レーザードローンを先行させる。マシンガンの散弾、リニアライフルの一射、四連ミサイルの軌道の合間を縫ってレーザードローンの青の光がヘッドブリンガーへと向かう。ヘッドブリンガーのシールドの背後に回った一基が、盾で覆われていない背中を狙い撃つ。

〈クソッ! ちょこまかと、小型犬みてえなことしやがって……!〉

 解放戦線のMTの射程圏内へとヘッドブリンガーの誘導が成功した。氷床の上を滑りながら、アサルトライフルとリニアライフルをヘッドブリンガーへと向ける。ここからは、近中距離の戦いだ。堅実なヘッドブリンガー、近接兵装という強攻を持つカサブランカ。距離を詰めてくるキャノンヘッドが合流するまでの短い時間でヘッドブリンガーを打ち倒さねばならない。彼我の距離が詰まったところで、ヘッドブリンガーに向けてブーストキックで蹴り上げていく。掲げていたシールドはパルスが霧散し、ヘッドブリンガーの動きが止まる。すかさずに、リニアライフルをパルスブレードに切り替えて二撃を与えていく。ヘッドブリンガーからリペアキットが排出されたのが見えた。

〈クソッタレが……、調子に乗りやがって……! こっちはな……、毎日クソみてえなシゴキを受けてんだよ!〉

 体勢を立て直したヘッドブリンガーと中距離の撃ち合いを始めていく。互いに氷床の上を滑りながら、時にはクイックブーストで弾丸を回避していく。相手もまた、正規の訓練を受けたパイロットだ。MTどころかテスターACのパイロット以上の実力の持ち主だ。だが、負けるつもりは無い。ACS負荷限界で動きが止まったところを、アサルトブーストを噴かせてパルスブレードの一打を与える。

 距離を離され、アサルトライフルとリニアライフル、リニアライフルとマシンガンの弾丸が飛び交っていく。途中、解放戦線のMTのロケットによる援護射撃がヘッドブリンガーに向けられるくらいだ。彼らの援護射撃は、ヘッドブリンガーの挙動に制限をかけていく。その間に、放ったレーザードローンがヘッドブリンガーの盾に護られていない部位を撃ち抜いていく。だが、ヘッドブリンガーの四連ミサイルを避け損ねてこちらの動きが止まる。

〈AP、残り五〇%〉

〈ざまあねえな、野良犬! クソ、土着共! 邪魔するんじゃねえ!〉

 動きが止まったこちらをフォローするかのように、解放戦線のMTのロケットが飛び交う。リペアキットを使い、体勢を立て直す。回避に専念しているヘッドブリンガーにアサルトライフルとリニアライフルを向け、撃ち合っていく内に地形に追い詰められていたヘッドブリンガーを射貫いた。

〈クソッ。避けそこなったか……!? 野良犬ごときが……!〉

〈イグアス! 格下ナンバーにやられたぞ。数学はできるか? 相手はいくつ下だ!? 貴様はいつまで、その番号をしゃぶってるつもりだ!?〉

 あの様子からして、イグアスは無事に脱出出来ただろう。次は、地形に阻まれていたキャノンヘッドだ。あの高火力と高耐久を相手にどれだけ持つか。いや、やるしかない。キャノンヘッドに向かって行けば、攻撃力を重視したショットガンの散弾が向けられる。

〈へっ。ざまあねえな、イグアス……。熱くなりやがって、馬鹿みてえだぜ……!〉

(地の利が悪い……)

 キャノンヘッドを迎え撃つも、崖に動きが制限された狭い通路だ。距離を離そうとして、気付かぬ内に壁際に追い詰められ、体勢を崩された瞬間に小型連装グレネードの直撃を受ける。リペアキットを使って体勢を立て直し、パルスアーマーを展開する。

「……強い」

 相対して分かる。重戦車という最大積載量で物を言わせた連続する火力、重装甲――。いずれも、真正面から同じ土俵で戦う相手ではない。こちらが先に削り取られる。レーザードローンを向かわせ、キャノンヘッドを視界から外さないように後退していく。建物の高低差を交えながら、広い場所へと誘導していく。

〈右肩武器、残弾三〇%〉

 キャノンヘッドからリペアキットが排出される。あの重戦車に対して、しっかりとこちらのダメージが入っている証拠だ。だが、相手のグレネードの直撃を受けてこちらの体勢が崩れる。続くショットガンの散弾をクイックブーストを無理矢理噴かせて避けていく。最後のリペアキットを排出し、パルスアーマーを展開して耐久を稼いでいく。こちらのリニアライフルが、キャノンヘッドの動きを止める。タンク脚は体勢の立て直しも早い。それでも、換装したパルスブレードの切っ先はキャノンヘッドに喰らいついていった。

〈こいつ……、タダモンじゃねえ。ミシガンの野郎、何を拾ってきやがった……!?〉

 焦るヴォルタの声と共に、リペアキットが排出されるのが見えた。こちらのパルスアーマーは大火力を前に消し飛んでいった。こちらはもう、後がない。レーザードローンのレーザー攻撃と二脚の機動力が頼りだ。滞空を交えてキャノンヘッドと中距離を保って射撃戦を行っていく。下手に近接に持ち込めば、グレネードのカウンターを喰らう。ACS負荷限界による直撃状態であっても、射撃に集中した方が良さそうだ。焦りを抑えて射撃戦を続けて行けば、こちらのアサルトライフルの弾丸がキャノンヘッドを撃ち抜いた。

〈チッ、機体がいかれやがったか……! 離脱するしかねえ!〉

 キャノンヘッドが機能停止する。成り行きではあったがこれで、レッドガンの両名を打ち倒せた。

G4(ガンズ・フォー)およびG5(ガンズ・ファイブ)、レッドガン二名の撃破を確認した。ミシガン、機体の修理費は俺に回しておけ〉

〈ふざけた遠足にしてくれたな、ウォルター。授業料の分は差し引いておくぞ〉

 ウォルターの旧知であるミシガンには失礼を働いてしまったが、両者の間から険悪な雰囲気はない。ようやく、張りつめていた緊張の糸が解れていった。

 

 

「おい、イグアス! よせって!」

「そ、そうですよイグアス先輩!」

 ズカズカとパイロットスーツのまま、輸送ヘリへと向かう青年が一人。刈り上げをした茶髪を雑に結び、赤い双眸を片方だけ髪で隠している――、G5(ガンズ・ファイブ)イグアスだ。そのイグアスを追いかける一九〇センチメートルは超えている屈強な黒髪の男はG4(ガンズ・フォー)ヴォルタ。なんとかイグアスの前に出て止めようとしているのは、短い黒髪とソバカスが特徴的な童顔の青年G6(ガンズ・シックス)レッドだ。

 先程の多重ダム襲撃の折、ただただ無言を貫いたG13(ガンズ・サーティーン)のナンバーを貸与された独立傭兵レイヴン。それどころか、解放戦線の土着共に寝返って自分たちを撃退していった白の機体。

 イグアスはレイヴンの態度が気に入らなかった。自分たちのような訓練や学びを受けた訳ではない格下の存在。通信には一切応答せず、ただ邪魔だとばかりに自分たちを潰していき、土着共に媚びを売った。自分たちレッドガンなぞ眼中には無いとばかりで、それでいて人間味の薄い気味の悪さもある。カラスを名乗る野良犬が、どのようなツラをしているのか拝みに行くついでにその舐め腐った態度に一発入れるため、イグアスはレイヴンが使う輸送ヘリへと向かっていた。ヴォルタとレッドはそんなイグアスを止めに来たものの、意地となっているイグアスを止めることは叶わなかった。なにより、ヴォルタとレッドも、敵対したレイヴンがどのような存在か、斡旋する依頼をこなすあの傭兵の正体とは何なのか。その好奇心が無い訳ではなかった。

「るせえ! あの野良犬に一発決めねえと腹の虫が収まらねえ……」

 こうして、輸送ヘリまで到着する。出入口を蹴破って、輸送ヘリの中へと入っていく。ヘリの格納庫には、先程共に戦った白いAC――、カサブランカとかいう名前のACの姿があった。そして、蹴破った音に振り向いたとおぼしき十四歳ほどの白い髪に赤いリボン、白いブラウスと黒いスカートを身に着けた少女の姿があった。

「おい、ガキ」

「……ワタシ?」

 相手が年下の少女であろうと、イグアスの態度は変わらない。少女を見下ろしながら、イグアスは続ける。

「あのACに乗っていたレイヴンってヤローはどこだ? このヘリにいるはずだ」

 イグアスが右手の親指をカサブランカに向ける。今更ながら、何故このルビコンⅢでこのような如何にもお嬢様ぜんとした子供がいるのだろうか。少女は、少し考えるような素振りを見せる。その合間に、ヴォルタとレッドも追いついてきた。

「おい、イグアス――って、なんだ? この嬢ちゃん」

「イ、イグアス先輩! さすがに殴ったりしていませんよね⁉」

「してねえよ⁉」

 そして、少女が口を開いた。

「レイヴンは、ワタシ」

 少しだけ間が空いた。そして、怒りの感情にぷるぷるとイグアスが身体を震わせる。

「ぁあ⁉ てめえがレイヴンか!? ガキが、大人をナメてんじゃねえぞ!」

「イグアス! いくらなんでも生身のガキに当たるな情けねえ!」

「どう、どう! 先輩、どう!」

 掴みかからんとするイグアスを、なんとかヴォルタが羽交い締めしてレッドが前から抑える。自分より身長も体格も大きい男が激昂しているにも関わらず、少女の表情が一つも変わらないことに少しだけ気味の悪さを感じた。

「騒がしいぞ、何事だ」

 格納庫の奥の扉から、杖をついた初老の男性が歩いてくる。杖をついている割には、その姿勢や体格は毅然としたものがある。

「ウォルター」

「アイツらは……、レッドガン隊員か。何用か?」

「ヴォルタ、レッド! このガキがレイヴンなら、殴らねえと気が済まねえ! 離しやがれ!」

 二人に取り押さえられながらも、イグアスは少女に拳を振りかざさんとする。ウォルターとレイヴンを名乗った少女が顔を見合わせ、ウォルターはため息をついた。

「……先のダムの報復か」

「そうだ! 俺たちレッドガンを舐めて土着に媚びを売りやがって! 誰にでも尻尾振るバカ犬がよ!」

「……」

 一歩、少女がイグアスの前に出た。

「ワタシをバカにするのはいい。だけど、ウォルターをバカにするのが許せなかった。それが、あなたたちに敵対した理由」

「ンだと、てめえ――」

 ヴォルタとレッドの拘束を振りほどいていく。バカにする少女に向おうとした瞬間、頭頂部に激痛が走る。この痛みは嫌でも分かる。ミシガンの拳骨だ。

「だっ⁉」

G5(ガンズ・ファイブ)、訓練をサボってまでG13(ガンズ・サーティーン)と遊びたいようだな?」

 振り向けば、背丈こそは高くは無いがとても七十近いとは思えぬ体格をしている白髪の男――、G1(ガンズ・ワン)ミシガンの姿があった。

「ウォルター、お前が拾う女はどうも我が強いようだな」

「俺も、こいつが明確な自我を持って判断したことに驚いている」

 明らかにこんな子供に舐められた態度を取られているにも関わらず、ミシガンの対応は変わらない。自分より少しだけ背丈が低い少女へとミシガンが視線を向けた。

「貴様がウォルターの新しい猟犬、レイヴンだな?」

 ミシガンの問いに、こくりと少女は頷いた。あのミシガンを前にしても尚、少女の表情が変わることは無かった。

「貴様が我々レッドガンに楯突いた理由が、G5(ガンズ・ファイブ)の悪態に腹を立てた。そうだな?」

 こくりと、少女は頷く。そして、ミシガンが言葉を続ける。

G5(ガンズ・ファイブ)、どうやら貴様の悪態はルビコンでは通用しないようだ。ガキに舐められている? そのガキに負けたのは誰だ! 腕の方をよく磨いておけ!」

 淡々と、大声でミシガンが現実と正論を並び立てていく。ヴォルタも反論しない。自分たちが負けたという現実が、覆ることが無いからだ。

G13(ガンズ・サーティーン)! 貴様のナンバーは空けておいてやろう。それから、よくメシを食っておけ! 帰るぞ、G4(ガンズ・フォー)G5(ガンズ・ファイブ)G6(ガンズ・シックス)! 訓練時間三割増加だ!」

「りょ、了解であります!」

「嘘だろおい⁉」

 ミシガンが一喝して立ち去っていく。レッドが敬礼して答え、ヴォルタが悪態をつく。

「……お前の腕は確かだ嬢ちゃん。まあ、なんだ。こういうヤツだが、性根が腐っているわけじゃねえ。また組むことがあれば、コイツ共々よろしく頼むぜ」

 そう言い残した後、ヴォルタもミシガンに付いていった。拳骨の痛みからようやく立ち上がれたイグアスが、レイヴンとG13(ガンズ・サーティーン)と呼ばれる少女を改めて一瞥する。

「……ケッ」

 自分よりも遥かに年下の、可憐という単語が付くだろう少女。あれぐらいの子供は、表情がコロコロ変わって鬱陶しいものだ。だが、少女には一切それが無い。人間というよりは、人形の方が適切な言葉だった。

「調子に乗るなよ、野良犬。いや、てめえの場合はチワワか? まあいい。ラッキーパンチが当たっただけだ。てめえの実力じゃねえ。」

 ガンを飛ばしても尚、少女はただ無表情で見上げているだけだ。腹が立つ以上に、気味の悪さを感じる。

「俺たちレッドガンは“壁越え”を果たす。せいぜい指をくわえて見ていろ」

 少女を睨みつけた後、イグアスも輸送ヘリを後にした。

 

 

〈貴方ですか? レイヴンとかいう独立傭兵の代理人は〉

「ヴェスパー第二隊長、スネイル。知己を得て光栄だ」

 コールから返答が来た。これだけでも上々だ。着実に、彼女が実績を積み上げてきている証拠だ。

〈“壁越え”に参画したいということでしたね?〉

 そう。アーキバスに打診をしたのは、621を壁越えに参加させることだった。ミシガンにコールを飛ばすことも考えたが、先の一件がある。ならば、アーキバス側にコンタクトを取った方がいい。彼女は、独立傭兵レイヴン。ベイラムとアーキバス、なるべく双方から彼女の信頼は築いていきたい。

〈まったく。解放戦線の粗大ゴミを片付けた程度で、何を勘違いしたのやら。駄犬の飼い主ごときが、厚かましいにも程がある。お断りです〉

 断られるのは想定済みだ。ならば、揺すりをかける。神経質で生真面目、責務であればどのような外道でも淡々とこなしていくのがスネイルだ。だが、彼は若い。真面目が取り柄な若造が相手なら、痛いところに触れただけで隙が出来る。

〈今回も第一隊長が出ると聞いているが。頼れる人材が他にないことは、不幸なことだ〉

 ヴェスパーの第一隊長、フロイト。生身の人間でありながら、あらゆる戦場で戦果を残してきた正真正銘のエース。スネイルの心境としては、この切り札は最後まで温存しておきたいだろう。なにより、ACで戦うことに悦を見出し、それだけで登りつめてしまった存在だ。相当なじゃじゃ馬であることは察しがつく。

〈ほう……。貴方の駄犬に、フロイトの代わりが務まるとでも?〉

 食いついた。621を見下す発言にははらわたが煮えくり返るが、若造が予想通りに食いついたことに思わず笑みが浮かぶ。

「駄犬かどうかは試してみれば分かる」

 ヴェスパーの第一隊長と同等か近い働きを、621ならば出来る。普通であれば、大それた妄言であると片付けられるのが関の山だ。だが、若造は食いついた。これを無碍にするなぞ、この若造には出来ないことだ。あまりにも、真面目が過ぎる性格であるが故に。

「……まあいいでしょう。今回はV.Ⅳ(ヴェスパー・フォー)も出ることですし。あれも調子に乗っているようだ、併せてお手並み拝見としましょう」

 そう言い残して、スネイルからの通信が終わった。V.Ⅳ(ヴェスパー・フォー)。確か、名はラスティだったか。先日、621と接触していたあのヴェスパーの男だ。アーキバスグループ傘下のシュナイダー社の人材公募プログラムに見出され、半年に満たない短期でヴェスパー上位に昇りつめたという。彼の経歴には疑わしい物が多い。なにより、621に接触していたことが気掛かりだ。それだけの実力者であるならば、彼女がただの少女ではないことは勘付かれていてもおかしくない。自ら口枷を嵌められる事を選んだ狼に、621も妙に懐いている。彼の好青年とも言える雰囲気や、柔和な対応は確かに物静かな621にとっては接しやすいのだろうが……

(待て。どうして、彼女があの男に靡くことに警戒している……)

 思わず眉間を押さえる。違う、そのような個人的な付き合いは二の次だ。最も考えなければならないのは、あの男の脅威についてだ。とはいえ壁越えにアサインされている以上は、V.Ⅳ(ヴェスパー・フォー)の肩書は本物なのだろう。自室で休んでいる少女にコールをかける。

〈ウォルター?〉

「621、今日はよく休んでおけ。明日から、忙しくなるぞ」

〈忙しくなる?〉

 少女が聞き直してくる。今回の一件は、ミシガンに迷惑をかけてしまったが、少女がレッドガン二名を相手取れる実力があるという証明にもなった。が、その疲労感は尋常ではない。故に、ウォルターは答える。

「壁を越えるぞ、621」

 それは、次の仕事に対する宣言だった。

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