ワタリガラスにカサブランカの花束を   作:櫻木ゆすら

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今回からチャプター2です


チャプター2 二周目
一羽の考察記録[一]


「状況はどうなっている!?」

「それはこちらのセリフだ! 北西には友人がいる! あいつは無事なのか!?」

「一体何なんだ……! なんで北西部が吹っ飛んじまったんだ!?」

 それは、突然に起きたのだ。ある日の夜間。ベリウス地方北西ベイエリアが、文字通りに吹き飛んでしまった。消失してしまうという天変地異が起きた。何かしらの超巨大爆発が原因であることは分かっている。だが、それがどうして起きたのかが分からないのだ。

 企業が、対惑星兵器を持ちこんだ? あり得ない。自社のACたちを持ち込むのが限界だった企業にそんな危険物を持ち込めたとは思えない。

 惑星封鎖機構による制裁? それも違う。衛星砲では、あれだけの破壊は起こせない。

 では、なにが起きたのか。観測士の話によれば、消失したベイエリアから大量のコーラル反応があったくらいだ。ならば、考えられるのはコーラルによる局所爆発だろう。だが、なぜそれが起きたのか。地中支脈に影響を与えるような何か。それを、解放戦線は掴めずにいる。企業も、局所爆発とコーラルの流れの調査に奔放しているようだ。

 それが、軽く市場を歩いて得られた情報。ネットワークをハックして見ることが出来た情報。どの勢力も、今回の局所爆発は想定外の出来事で、真相を掴もうと奔走している。というところだろう。だが、それは――

「オリヴィア、外はどうだ?」

「例の局所爆発で話題はもちきりよ。もしかしたら、調査依頼がくるかも」

 ブランチとして確保した拠点へと戻れば、キングに問われる。恐らく、企業かフラットウェルから調査依頼を回される可能性がある。独立傭兵としての仕事が増える分は構わないが、あの事故で消失した命のことを思うと、素直には喜べない。

「OK、私たちは変わらずいつでも仕事出来るように構えておけばいい。そうでしょ?」

「ええ。キング、シャル。お願いね」

 一番の最高戦力の愛機の修理が終わってない以上は、キングとシャルトルーズにしばし現場を任せるしかない。優秀な彼らだ、街中やネットワークでは得られなかった情報やら気付きを見つけられるかもしれない。

「オリヴィア。ウチの才女様は今回のことについて、何か言っていたか?」

 キングは鋭い。今回のことについて、ソフィアが何かしらを考えているのか。それは、普段の彼女ならば例え些細なことでも考えてしまうという性格を分かっていての問いだろう。故に、こう返すしか無かった。

「――寝起きで、まだそんなに頭が回っている様子は無かったわ」

「相変わらずだな……。まあ確かにアイツなら、あんな爆音の中でも寝ていそうだ」

 メンバーとの雑談はここまでにして、肝心な才女様ことソフィアの自室へと向かう。キングとシャルトルーズは、こちらに来る様子はない。ノックをしてから部屋に入れば、タブレットやノートと言った様々な記録媒体を前に考え込んでいるソフィアの姿があった。

「……二人は」

「普段通りにしてもらってる」

「それでいい」

 ペンを握る手が止まる。そして、赤い双眸がこちらへと向けられる。

「……本当に、あなたの言った通りになった。撃破されるストライダー、“壁越え”の成功。そして、ウォッチポイントデルタへの襲撃者と、北西ベイエリアの消失」

 これらの出来事は全て、目の前の彼女が口にしたことだった。ガリア多重ダムは落とされなかった、師父ドルマヤンの救出活動が最近のタイミングに行われたこと。差異こそは生じているものの、大きな出来事に関しては変化が見られなかった。

「これで、あなたの……。こうとしか言えないからこう言わせて貰うけれど、前世の記憶は正しいことが証明された。きっと、これから起こることも。……本当に、よく我慢したわね。遠回しに伝えるでもなく、助けられる命を見捨てるなんて」

「――バタフライエフェクトは避けるべきよ。こんなチャンス、二度目は無いかもしれないから」

 良くも悪くも、目の前の才女はアウトロー(こちら側)に染まりきっていない。運命の掛け違いさえ無ければ、堅気の中で生きていた女性だ。それは、彼女の美点であり弱点でもある。そして、それはリスクであると嫌でも理解して自分を納得させてしまう天才でもあるのだと。

「……話を戻しましょう。企業の連中は――」

「コーラルの流れが中央氷原にある。そうでしょ」

 こくりと頷く。観測されたコーラルの流れというものは、爆発による拡散こそはしたものの、爆発した方向ではなく、拡散した全てのコーラルがある一定の方向へと流れている。というものだった。なぜ、コーラルがそのような挙動をするのか。それは皆目見当がつかないが……

「今頃、企業は北西ベイエリアの調査に平行して中央氷原へと向かう算段を立てているでしょうね。フラットウェルも、企業が中央氷原へと向かうのであれば、そちらへの進軍も考えているだろうし」

「それから……、あなたのライセンスを奪った傭兵のことなんだけど……」

 彼らの動きも、彼女の言う通りのものとなった。

「ウォッチポイントデルタの記録を盗み見したけれど、襲撃したのは彼らだった。彼らがウォッチポイントデルタのセンシングバルブの破壊活動を行った。そして、出撃申請を受けて飛来したバルテウスを破壊した」

 点と点を繋ぎ合わせれば、ウォッチポイントデルタのセンシングバルブが破壊されたことにより、あの施設が管理していたコーラル支脈のバランスが崩壊。その結果、北西ベイエリアが局所爆発を引き起こした。という辺りだろうか。

「……オリヴィア」

「なに?」

「ウォッチポイントデルタのコーラル密度は?」

「ウォッチポイントデルタの……? ちょっと待って」

 ネットワークに接続して、ウォッチポイントデルタの記録を調べ上げる。コーラル観測を行うプログラムは先んじて受け取っている。プログラムを通して見ると……

「……井戸ですら見ない数値ね。ここでも、コーラルの爆発が起きたのかしら。それからしばらく経っての数値。なら、納得できるかも」

「なら、考えられるのは――」

 ソフィアがノートに記し始める。真人間である彼女には、このアナログ式のやり方の方が馴染みがあるらしい。

レイヴン()を名乗る連中は、ウォッチポイントデルタを襲撃した。行動としては、センシングバルブの破壊。バルブを破壊したことによるコーラル逆流に巻き込まれ、バルテウスとひと悶着を起こした。そして、北西ベイエリアが吹き飛んだ。それが、事の経緯でしょうね」

「……? なんだか、妙ね」

 違和感を感じる。彼らの目的がセンシングバルブの破壊、であればすぐに離脱すればいいだけのことだ。バルテウスの出撃申請の信号が出されたのはその直前。バルブが破壊され、コーラル爆発が起きてからバルテウスは到着した。ならば、彼らには待つ理由が無いはずだ。

「……センシングバルブの破壊が、目的ではない?」

「でしょうね。恐らく、連中にとってもコーラル逆流現象は想定外だったと思う。壊すだけでいいなら、壊した時点でさっさと逃げればいい。バルテウスをスクラップにする理由はない」

 ソフィアの語る、彼女にとっての過去。こちらがこれから見る未来の正しさは証明された。ならば、次に行うのは、なぜこれらの現象が起きたかの考察だった。出来事を考察し、次に自分たちが取る行動を考える。そうしなければ、目の前にいる彼女は、これから先の未来で死ぬことが決まっているからだ。出来るのであれば、それは回避したいというのがこちらのワガママだ。彼女も、分かっている死を受け入れるつもりは無いらしい。

「オリヴィア、企業の動き。それだけだった?」

「……そう言えば、ハンドラー・ウォルターがベイラムとアーキバスに対してコーラルの情報の売り込みをしていたわ。ベイラムはその確証を得るために動いているようだった。アーキバスは、中央氷原入りの準備を進めているみたい」

「……わかったことが、二つある」

 今度は、タブレット端末を操作して情報を入力し始める。媒体を使い分ける器用さも、彼女の柔軟で回り過ぎる頭脳の賜物なのだろうか。

「まず、これは決めて良い前提だと思う。ハンドラー・ウォルターは、コーラルの情報を知っている。少なくとも、ベイラム以上にね。解放戦線の連中がなんとなくで掴めているけど、理屈が分かっていないその理屈を理解していると思っていいかも。推測でしかないけど、一定量のコーラルが管理されているウォッチポイントデルタのセンシングバルブを破壊することで、その一定量が流れる先を見たかったんだと思う。でなきゃ、破壊してすぐさよならをしない理由が思いつかない」

 視覚的にも分かりやすく整理されたデータが転送される。ハンドラー・ウォルターはコーラルについて理解があり、その理解の元に行動をしている可能性が高い。ならば、独立傭兵として企業たちに使われるのも、目的のための手段の一つなのだろう。彼らに雇われるということは、彼らの行動を知ることが出来るということ。彼らの動きを見て、コーラルに近付こうとしている。というところだろうか。

「そして、アーキバスが想像以上にキナ臭いことよ。こうして現場を俯瞰してわかる。あいつら、やることなすことがスムーズ過ぎる」

「それは、そうね……」

 戦況は、アーキバスの優勢になりつつある。まるで、この戦況自体がアーキバスを勝たそうとしているような。それは、考え過ぎだろうか。

「それだけ、アーキバスにはモチベーションがあるということは? コーラルを使った事業を現代に蘇らせるって、それだけでも偉業でしょうし」

「やる気があっても、あいつらはそこまで利口じゃない。余程の情報提供者がいる方が納得がいく」

「あなたと比べたら、ほとんどの人間は利口じゃないわよ」

 思わず溜息をつく。本物の天才とも言うべき彼女からすれば、アーキバスが利口ではないというのは、その通りとしか言いようがない。とはいえ、アーキバスを勝たせるための協力者がいる。それは、新しい視点だった。

「でも、アーキバスに勝って欲しいという第三者がいる。それは、考えて良い可能性かもしれないわ」

()()()()()()()()()()()()()()はまだ分からないわよ。私の記憶は、惑星封鎖機構がルビコン調査技研の遺物を起動した。までだもの。その先のことは分からない。だから、アーキバスに勝ってほしいというのは前提にしない方がいい。アーキバスに情報提供者がいるというのも、あくまで仮定だから」

 自分たちが考えていることは、あくまで全てイフでしかない。それが正しいかどうかは、その時にならないと分からない。それでも、何も考えないままその通りに進むという気はないのも事実だ。

「決定事項ではないでしょうけど……。それでも、もし、企業も、解放戦線も、レイヴンを名乗る彼らすらも。誰かの手の平の上、の可能性もあるのでしょう?」

「ちょっと、拡大解釈が過ぎるけど……。否定する材料もないし、可能性としては十分にあり得る。悲しいけど」

「だったら――」

 自然と、口角が上がる。

ブランチ(私たち)としては、変わらないんじゃない? 理不尽に対してふざけるなと喧嘩を売りに行くのだから」

「――ほんと、あんたは敵にしたくないわね。オリヴィア」

「それは私もよ、ソフィー」

 あくまで全ては、憶測でしかない。それでも、この盤面を俯瞰して見ている第三者がいる。という可能性は、どうしても捨てきることは出来なかった。

 

 

〈やるねえ、聞いていた以上だ〉

 中央氷原に向かうため、ウォルターが企業と情報の売買を行ってパトロンを得る。それまでの間、ウォッチポイントデルタの襲撃にてコーラルの逆流に巻き込まれたこちらは休息を取るようにと言われていた。だが、ウォルターが売り込んだ情報の裏付けをしようとするベイラムの調査依頼。身体を鈍らせる訳にもいかない。ウォッチポイントデルタで出会った隣人と共に調査依頼を行うことにした。

 グリッド〇八六。そこに中央氷原へ向かうための手段がある。そこを拠点としているドーザー“RaD”と、こうして銃を交えることとなった。目の前には、戦闘用に改造を施しただろう破砕機、スマートクリーナーが猛威を振るっている。

〈だが、クリーナーが笑えるのはこれからさ〉

『行動パターンが変わった……? 危険です』

 ウォッチポイントデルタで出会った隣人――、どこか懐かしい黒髪と赤目の少女の面影の姿を象ったエアが伝えてくれる。行動パターンが変わろうとも、こちらのやることは変わらない。クリーナーの破砕アームに巻き込まれないように、弱手に向けて攻撃を続けていくだけだ。

『体勢が崩れました、レイヴン!』

『うん』

 ACS負荷限界によって、スマートクリーナーが体勢を崩す。底部の開口部付近へと着地し、換装したパルスブレードを振るう。すぐにスマートクリーナーから離れ、上部の開口部に向けて上昇していく。天井も広さも狭く、障害物もあるこの一室はレーザードローンを操るのは難しい。それでも、相手が倒れるまでこちらの攻撃のペースとリズムを崩さない。それが、こちらの出来ることだった。破砕アームが回転を始め、上部の溶鉱炉から鉄塊が射出され降り注ぎ始めていくが、鉄塊の雨をなんとか潜り抜けていく。

〈AP、残り五〇%〉

『ダメージは与えています。行けます、レイヴン』

 エアのアナウンスにゆっくりと一呼吸を入れる。リペアキットを使い、残りのリペアと残弾数を確認する。レーザードローンの弾数が半分まで減っている以外は、あの破砕機を解体する分にはこちらの弾数は持ちそうだった。

『もう少しです、レイヴン!』

 上部の開口部へ再度上昇し、距離を保ったまま溶鉱炉に向けて二丁の弾丸を撃ちこんでいく。最後に撃ったリニアライフルが溶鉱炉に直撃し、スマートクリーナー全体に爆炎が奔り始めた。

『……敵機システムダウン。完全停止です』

 爆発が収まったスマートクリーナーから距離は保つ。そして、周囲への警戒を続けていく。

〈……ビジター、私たちは不幸な出会いだった。あんたとは仲良くした方が、賢明みたいだね〉

 グリッド〇八六に侵入してから、ずっと聞こえていた放送。RaDの頭目、カーラのものらしい。どこか演技がかってはいるものの、敵意を感じない。これで、本当に終わりのようだった。

〈上層に行くんだろう? 案内しようじゃないか〉

 部屋の一部の扉が開く。人間用の出入り口のようだ。カメラをズームすれば、トランシーバーを片手に持つ赤が混じった黒髪の褐色肌の女性の姿があった。

〈この、“灰かぶり”のカーラがね〉

 眼鏡をかけ、その奥には金色の瞳。荒っぽくもどこか理知的な印象を持った女性が、ニヤリと口紅のついた唇で弧を描いていた。

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