本編としては、次回からチャプター3です。
盗みが失敗した。盗みを働いたにも関わらず、フラットウェルと名乗る男はこちらに着いてくるように言った。いや、それしか選択肢が無かった。この男は、一体何者なのだろうか。
「お前、名前は? それとも、名前もないのか?」
「……アッシュ」
「アッシュか……。よく、今日まで生き延びたな」
そのような言葉を向けられても、困る。道すがらに、フラットウェルからこの集落について説明される。
この集落は、ルビコン解放戦線の本拠地とも言える場所。
「そう睨むな。――私は、お前ならばと見込みがあると思っているのだ」
「……見込み?」
「ああ。だが、まずはお前自身の生活を安定させる必要がある。そして、知って欲しい。この惑星の現状を。より、広い視野をもってな」
「……」
とにかく今は、フラットウェルと名乗る男に着いて行くことにする。これまでと同じ生活が出来ないというのであれば、着いて行くしか選択肢が無かった。クソッタレな生活が少しマシな形に変わるのであれば、あるいは――
これまでの家屋とは少し異なる家屋に到着する。フラットウェルが扉を開くと、ひょこっと小さな黒髪の女の子が顔を出した。フラットウェルがしゃがんで、女の子と目線を合わせた。
「……、おとうさん、このおにいちゃんは?」
「ツィイー、彼はアッシュだ。これから、一緒に暮らす新しい家族だ」
「かぞく……」
とててと女の子が目の前にやってくる。思わず後退りするも、女の子は満面の笑みを浮かべた。
「わたし、ツィイー! よろしくね、アッシュおにいちゃん!」
他人を全く疑おうとしない無垢な女の子。こうして生きていられるほど、この集落は豊かで、尚且つ治安というものが整っているのだろう。思わず、ツィイーの無邪気さに面食らってしまった。
*
フラットウェルに引き取られてからの日々は、これまでの生活と比べれば信じられない程に平穏そのものだった。寝るところに困らない、食事にも困らない。フラットウェルの家屋には、滅多に見られない紙と呼ばれる記録媒体で記録された本というものがあった。あいつだったらきっと、喜んでこの本というものを片っ端から読み漁っていただろうと、見捨ててしまった彼のことを思い出してしまう。フラットウェルの言葉に乗るつもりはないが、知らなければ何もできないのは確かだ。本と本棚のみの部屋で本を読み進めていると、扉が開いた。ツィイーは確か、外に遊びに行っていたはずだ。
「……」
「……」
驚いたような表情の、黒髪に褐色肌の同い年か年下程の少年がいた。見捨ててしまった彼の姿が脳裏に浮かぶも、目の前の少年は彼とは色味こそは似ていても、顔も雰囲気も違う他人であった。
「えっと……、初めまして。見ない人だけど……」
「……アッシュ。この間、フラットウェルに拾われた」
「ああ、君が先生が言っていた……! 僕はアーシル、よろしくね」
「……」
この少年も、人を疑うことを知らない様子だった。アーシルと名乗った少年は、本を読むということにとても熱心な様子だった。自分が借りて来た本はこういうものであるとか、今、こちらが手にしている本はこういうものであったとか。アーシルは楽しそうに語る。先生――、フラットウェルから仲良くしてくれと聞いている。と彼は話していた。
「ふふっ……。アッシュは、勉強熱心なんだね」
「バカにしてる……?」
「バカにしていないさ。こうして、先生の書庫で先生の本を読む友達が出来たの、僕も嬉しいから」
「……」
どうも、お人よしにして素直な性格らしい。この集落には、こんな性格の人間ばかりなのだろうか。少しだけ辟易してしまう。そんな性格で生きていける程の平和があるこの場所は、なんて羨ましいのだろうと。
「本を読む友達が出来たって、少し大げさじゃないか? これだけの本、知らない事を埋め合わせするには絶好の場所じゃないか。汚したり、破いたりしなきゃいいだけだし」
「……周りの子は、そうじゃないんだ」
アーシルが本を本棚にしまっていく。その声音は明るいものから暗いものへと落ちていく。
「君も、知っているだろう? ルビコン解放戦線のこと」
「……名前だけは」
「ここは、
あまりにもバカげている。これだけの知識を得られる機会がありながら、要らないとでもいうのか。これが、豊かさからくる怠惰なのか。違う。ドルマヤンの教えを信じ切っているから、それ以外のことは不要と考えているのだ。それだけで、のうのうと生きていられるなんて――
「そんなの――」
「くだらない。と思う? ……大人にとっては、そうじゃないみたいなんだ」
段々と、アーシルの表情が暗くなっていく。
「このルビコンは、僕たちが生まれるずっと前に災害が起きたのは、知ってるよね?」
「まあ……」
「災害で、何もかもがめちゃくちゃになっちゃった。食べるものも、寒さを凌ぐ家も、人間らしくあるためのルールも、全部……」
アーシルが言っていることは正しい。それは事実だ。話を聞くだけしか情報を得ることは出来なかったが、今は本を読んで詳しい内容を知る事が出来た。
ルビコンに恵みを齎していたはずのコーラル。それが、災害として牙を向いた。災害となった原因はルビコン調査技研が、私利私欲のままにしたことだと言う。ルビコン調査技研によって、コーラルを用いた兵器が作られた。その一つが、我が物顔で大地を走り続けているあのヘリアンサスだと言う。そして、コーラルによってこの惑星が灰と雪に覆われるようになり、これまでの生活全てが破壊されてしまった。災害を引き起こした罪滅ぼしをせよとばかりに、惑星封鎖機構による弾圧を受けながら、人々は生活を送るようになったのだ。
「本すらまともに読めないんだ。そんな人々を支えたのが、
「まともに、自分の頭で考えないバカな大人が増えていく、か」
「……アッシュ。話す言葉は気を付けた方がいいよ。それは、大人を怒らせる」
その通りなんだけどねと、アーシルが困ったような笑みを浮かべる。違和感を抱いているにも関わらず、周囲の肯定を自分の肯定だと誤魔化している。顔色を伺いながら生きるなど、窮屈そうだ。
「アッシュ、君が良ければ……。これからも仲良くしてくれると、僕も嬉しい」
「――勝手にすればいいよ」
ツィイーとアーシル。歳の近い子供と言う立場で、周りに居着く人間が増えていった。
*
本を読むだけでは見聞が広がらないと、片手にはアーシル、と片手にはツィイーの二人に引っ張り出されて集落の中を周る。気付けばアーシルは手を離してくれたものの、幼いツィイーは力加減をすることなくグイグイと引っ張ってあれはこうだの、これは店だのと捲し立てていく。
「それでね!」
「ツィイー、アッシュも困るだろう。ゆっくり喋って、ゆっくり歩こう」
「だって! おにいとおでかけ出来るんだもん! おにいにここ、好きになってもらいたいもん!」
曇り無き善意。あまりの無邪気さに片手をグイグイと引っ張っていく年下の女の子が眩しく見えてくる。違う、眩し過ぎて目がつぶれてしまいそうだった。
「疲れたかい? アッシュ」
「……ツィイーの無邪気さが眩し過ぎる」
「そうか……。ツィイー、少し休憩しよう。先生から、少しだけお金を貰っている。ほら、あの合成果糖の飲み物。買ってきてもいいと言っていたよ」
「ほんと!?」
ツィイーが勢いよく振り返った。アーシルの口車に引っかかったツィイーは、アーシルが案内する店へと向かう。アーシルが店員とやり取りした後、三人分の飲料が入った容器を持って来た。
「はい、ツィイー」
「ありがとう、アーシル!」
「お礼は、お金をくれたフラットウェル先生にね。アッシュも、飲んでみるといいよ。甘味料は、中々口に出来ない。だけど、口に出来た時は気分がよくなる」
アーシルから渡されたものを、恐る恐ると受け取る。誰かから施されるという経験はほとんどない。そういう時は大抵、目の前の相手を騙す時だ。ツィイーは、無邪気そうに容器に口を付けている。口にしないままは、アーシルを困らせる。それに、目の前の物質を無碍に出来ない。ゆっくりと、容器に口をつけて傾けていく。冷たく、甘い飲料が口内に入り込む。腐敗物の甘さという不快感が混ざる甘さではない、口当たりの良い甘さだ。少々、甘すぎるが。
「……どう?」
「……甘すぎる。けど、まあ。悪くない」
「おいしいでしょ! おにい! 私、これ大好きなんだ! 全然かってくれないけど……」
不満げな様子を見せるも、手に入ることが希少だというのは幼いながらも理解しているらしい。こんな希少なものを、金銭で交換する。盗みに警戒こそはしているだろうが、ほとんど起きないと考えていい。誰もが奪うのが当たり前ではなく、ルールに則って生きている。この集落は、かなりマシな場所であることを改めて思い知らされる。金銭があればの、話ではあるが……
「ああ? 誰かと思えばチビとアーシルじゃねえか! のんびりジュースなんか飲んで、良い御身分だな!」
突如として、雰囲気が打ち壊される。振り向いた先には、いかにも威張りちらかしている歳の近い少年と、少年に付きまとう年下ぽい少年たちの姿があった。
「……なに?」
「気にしなくていいよ。その、大人を信じてる子供」
「だれがチビよ!」
無視をしようとした矢先に、ツィイーが噛みついてしまった。ずんずんと小さな女の子が身体の大きい少年たちに向かっていく。
「なんだよ、チビをチビと言って何が悪い!」
「チビいうな! ツィイーって名前あるもん!」
「聞こえないなあ、チビ助!」
「むきー!」
完全に、ツィイーがからかわれている。ころころと表情が変わるツィイーを見て面白がっているようだ。その様子は、見ているこちらは愉快なものではない。憤懣を露わにしているにも関わらず、ニヤニヤと笑う姿は見ていて腹立たしくなってくる。
「……バート、もうそのくらいにしてくれないか?」
「なんだよアーシル。よわっちいお前が文句いうのかよ? 文句言うなら、強くなってからにしな」
そうだそうだと、仲裁に入ったアーシルに矛先が向き始める。アーシルは、抵抗するはずもない。バートと呼ばれた少年にうろついている少年たちがアーシルの肩を軽く突き飛ばし始める。
「ちょっと! やめなさいよ!」
「でたでた、正義のチビ助だ! まーたチビ助に守られてるぞー」
ゲラゲラと笑う少年たち。最早彼らに関心を向けること自体が無意味が気がしてきた。そう考え始めた時、彼らがこちらに気付いたのか数人が群がってくる。
「なんだ? お前。どこのどいつだ」
「ほっせー、女みてえ」
最低限の生活が保障されていようがいまいが関係なく、人間は馬鹿になる傾向があるようだ。毎日何かを口にできるだろうこの場所故か、少年たちは確かにこちらより背が高く体格もしっかりしている方だ。
「もういいだろう? 行こう、ツィイー」
「アーシル。俺はコイツに話しかけているんだ。お前じゃねえよ!」
「っ……!」
「バート! たんれん以外で乱暴しちゃダメって大人が言ってるでしょ!?」
こちらを連れて行こうとしたアーシルが突き飛ばされてしまう。そんなものを目にしてしまっては、ツィイーの感情が爆発するのは自明の理だ。彼等の体格の良さは、解放戦線の一員となるべく鍛錬を積んでいるからなのだろう。これ以上は、無視する方がリスクがある。
「――アッシュだ」
「アッシュ……!」
「なんだよ。ちゃんと話せるじゃねえか」
バートと呼ばれた一番体格がしっかりしている少年が目の前に立つ。反撃してこない。そんな慢心が態度から見て取れる。やろうと思えばいくらでも目の前の存在を痛めつけることは出来るだろうが……。これで騒ぎを大きくなる方が面倒になる。
「お前の言葉に答えるなら、僕はこことは違う集落にいた。フラットウェルに拾われて、ここにいる」
「よそもんか? 随分と偉そうな口だな。ぁあ?」
「こっちには来たばかりだ。ルールとやらは知らなくてね」
「そうか、そうか。それなら――」
バートが指を鳴らし始める。周りの少年たちも集まってきた。つまりは、そういうことなのだろう。
「バート、本当に――!」
「アーシル。ツィイーを抑えておけ。僕は大丈夫だから」
「まずは、テメェの心配をしな!」
頬に強い衝撃。顔を殴られたのは久しい感覚だった。抵抗するつもりはない。その価値すらない。痛みはあるが、目の前の相手は、殺すまでの手段を持っていない。痛みに耐えるのは、慣れている。顔だけでなく、胴にも痛みが入り、慣性に任せて地面に倒れ込んだこちらを、数人がかりで蹴り始めた。
「そらそら! 立派なのは口だけか!?」
「ワルガキ共! 店前で暴れるんじゃねえぞ!」
「……チッ」
とうとう堪忍袋の緒が切れただろう店主が怒鳴った。渋々、少年たちが暴力を振るうのをやめる。
「今日はこのくらいにしといてやる。じゃあな、よそ者」
大人に怒鳴られたからだろうか、そそくさと少年たちが立ち去っていく。飛び出しかねないツィイーを抑え込んでいたアーシルがツィイーを解放してこちらに向かった。
「おにい! 痛いよね!? えっと、えっと」
「大丈夫。痛いのは、慣れてる」
「だとしても、無茶し過ぎだ」
差し伸べられるアーシルの手。その手を掴んでゆっくりと立ち上がる。痛みはあるが、動く分は問題ない。どうしようと周りをちょろちょろと動くツィイーが、少し鬱陶しくなる。止まれと頭に手を乗せれば、大人しくなった。続きはないのかとばかりにツィイーに見上げられ……、仕方なく適当に手の平を動かせば、満足そうな表情になってようやく静かになる。
「今日のおでかけは、ここまでにしようか」
「おにい、おとうさんなら痛いのなおしてくれるよ!」
またツィイーに手を握られ、今度は引っ張ることなくゆっくりと歩いて家に戻ることにした。
*
殴られた箇所の手当てをされ、アーシルは時間だからと自宅へと戻った。食事を摂って、身体を清潔にする。ツィイーはすぐに寝入ってしまった。ツィイーが寝入った後に話があると言われ、宛がわれた自室でまだ眠らずに待っている。椅子を窓辺に向け、星と衛星が浮かぶ夜空を見上げる。こんな暗い空でも、赤は見えた。この赤は災害の名残らしく、自由だと思っていた空すらもまた、アイビスの火に囚われたままだった。ドアをノックする音に顔を上げた。
「入るぞ」
「……どうぞ」
返事をすれば、フラットウェルが入って来る。視線が、こちらの全身を見ている。
「……痛むか?」
「痛いけど、平気」
「悪童に巻き込まれたとアーシルから聞いた。無抵抗であることは英断だった。鍛錬に培われるものは私欲のために使うものではないと指導できる」
どこまでも、真っ当な考えを持つ人だ。本当に、この惑星で生きている人間なのだろうか。
「……そんなんじゃない。やり返すことすらバカらしいと思っただけ。あいつらに、殴り返す価値はない。労力が見合わない」
「……理由を聞いても?」
眼鏡越しの視線は鋭いものだ。現段階での、こちらの考えを知りたいといったそんな意志を感じ取れた。
「本で読んだこと、アーシルから聞いたこと。実際にあいつらを見たこと。しかないけど」
「構わん」
「……」
語る言葉を整理する。しばらく考え、言葉を綴る。
「どうしようもないと思った。アイビスの火で、何もかもが滅茶苦茶になったのは分かっている。家も、食べ物も、暮らしも。生きるだけで精一杯で、他人を気にすることなんてできなくて。自分の中が、なにもかもがぐちゃぐちゃになる」
そう生きて来たから分かる。生きるという止めることの出来ない身体の現象を安定させなければ、自分を制御できなくなる。
「だから、考えないようにする。ドルマヤンや、あんたたち解放戦線が唱えるコーラル信仰は都合が良い。信じることは、考えることをやめさせるから。信じているから、自分で考えることをやめて、本から学ぶことすらしなくなる」
恐らく、アーシルがこの場にいたらダメだという言葉を並べている。だが、目の前の男は怒りを露わにすることなく静かにこちらを見ている。
「そんな大人が、何も知らない、何も分からない子供をもっとバカにさせる。大人がそうしているから、子供は真似をする。大人を真似して生きるのは……、僕だってそうだったから。大人が変わらないと、子供も変わらない。大人を変えるには、生きる場所をどうにかしないといけない。結局は、この惑星自体をどうにかしないといけない。こんな、クソッタレな“今”を」
何が悪い、何が原因かと考える。辿り着く先は、この惑星の現状が原因となる。だが、それはあまりにも……
「だからって、いますぐにどうにか出来るものじゃない。だから、どうしようもない。無駄なことに無駄なことをする必要がないと思った。それが、抵抗しなかった理由」
自分の力でどうにかなるものではない。そんなことをしても無駄だと分かっていたから何もしなかった。それが、理由だった。
「……そうか」
フラットウェルは追及しない。何か、考えているようだが……
「――やはり。見込んだ通りだ」
「……は?」
「お前には、素質がある」
数歩、フラットウェルがこちらに歩み寄る。そして、膝をついてこちらと視線を合わせた。
「お前の言う通りだ。この惑星は、どうしようもない。過去の災害が原因で、今の歪な形でようやく生を繋いでいる。だからと言って、このままで良い訳が無い。このまま、教えに縋るだけではいずれこのルビコンに生きる民、ルビコニアンは絶滅するだろう。我々を殺しても良い理由を得た惑星封鎖機構か、考えの違いを許容出来ずにルビコニアン同士で殺し合うことによって」
目の前の男は、こちらの考えを正しいと肯定した。それどころか、今ある体制を正しくないと言ってのけたのだ。ルビコン解放戦線にて、重鎮にも等しい男がだ。
「アッシュ。私は、このクソッタレな“今”を変えたいと思っている。人々を教え導くのは不可能と言っていい。そもそも、人々が立つ大地すらままならないのだからな」
「……じゃあ、どうすんのさ」
「解放するのだ。この惑星を縛り付ける全ての不条理から」
黒い瞳に宿る光は、その決意は本物だった。惑星封鎖機構から、下手をすればこの惑星に生きる全ての人々を敵に回すことも構わないと。この男は、本気なのだ。明日を生きるために、そのための今日を生きるために、邪魔立てする一切合切を潰していくのだと。
あまりにも、話が大きすぎる。無理だと、馬鹿だと言うのは簡単だ。だが、そうしなければこの惑星の“今”を変えるなぞ無理だ。降りかかる不条理のせいで、人々は考えることをやめて信仰に縋っている。どこか間違っていると違和感を抱いても、正しいと信じる大勢によって潰される。大勢を動かすためには、盲目になっているこの現実を変えなければならない。
「……本当に、出来ると思ってるの」
「私一人では無理さ。だが――」
「僕がいたところで、どうしようもないだろ」
「ああ。たった二人で出来ることなぞたかが知れている。だから、長い時間をかけて準備するのだ。解放のための力と、その手段を」
途方もない話だ。だが、もし。これが成功すれば――。そう考えてしまう。目の前の男は、その気にさせるのが上手いようだ。
「計画は私が考える。お前は、そうだな……。もっと強くなれ。解放戦線は、戦士になるための鍛錬を設けている。身体を鍛え、身に付けた技術を磨け。MTやACに乗れるようになれば、もっとお前の可能性が広がるだろう」
「……」
自分の手を見る。殺しや窃盗、身売りで生きて来た身体。悪い事をしなければ生きることが出来なかった日々。どうしようもなく汚く穢れてしまった手を、もっと汚して強さとする。フラットウェルの掲げる解放に賛同した訳ではない。強くならなければ生き残れない。それは、確かだ。強さがあれば、きっと、見捨てざるを得なかったものを、見捨てることをしないで済んだのだから。
「……あんたの話を信じてはいない。でも、強くならないと、生き残れない。強くなるためのことは、歓迎するよ」
「……今は、それでいい」
数日後、新たな戦士の見習いとして青みがかった灰色の髪の少年が鍛錬に加わったのだった。