ワタリガラスにカサブランカの花束を   作:櫻木ゆすら

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ロケハンを撮ってから執筆しているので、テスターくんの渾身の一撃は本当にあったことです。



輸送ヘリ破壊/テスターAC撃破

「621、仕事だ」

 ウォルターから、声をかけられる。持ち歩き用のポーチから端末を取り出して確認する。

「ベイラムグループから依頼が入っている。確認しておけ」

 端末を操作して、内容を確認する。再生する前に少しだけ音量を下げる。

〈独立傭兵レイヴン! これはベイラム同盟企業、大豊(ダーフォン)による依頼だ。我が方はこのたび、ルビコン解放戦線に対して、武力制裁を加えることを決定した〉

 再生された声は、案の定少々声が大きい青年のものだった。とうとう、企業にとっても鬱陶しく見えて来たのだろう。それだけ、解放戦線も抵抗を続けているということなのだろうが……

〈目標は、連中の補給物資を搭載した輸送ヘリ数機。これを撃破する。ゲリラ部隊による抵抗が予想されるが、所詮はBAWS社の量産MT。その寄せ集めに過ぎん〉

 偵察を行って記録しただろうターゲットたる輸送ヘリ、MT部隊が移された映像。場所はあの汚染市街だろうか。

〈独立傭兵レイヴン! 前回の働きで、貴様は一定の実力を示した。用いるに足る傭兵であることを、再び示してみせろ!〉

 ブリーフィングが終わる。下げた音量を戻した。

「……名指しの依頼が入ったな。この調子で実績を積み上げていけ」

「わかった」

 こくりと頷き、カサブランカの出撃準備を始めた。

 

 

〈メインシステム、戦闘モード起動〉

 降下されたのは汚染市街の郊外にある高台だった。眼下にはMT部隊と輸送ヘリの姿を見ることができる。

〈ミッション開始だ。ルビコン解放戦線の輸送ヘリを破壊しろ〉

「了解」

 ブーストを噴かせながら高台から降りていく。近場の目標に向かえば、護衛MTが三機、ヘリが一機を確認した。

〈敵襲! 企業の傭兵!〉

〈迎撃しろ、補給物資に近寄らせるな!〉

 MT三機をマルチロックで捕捉してミサイルを放つ。流石に、ミサイルだけでは敵機を撃ち落とせない。近場にいる被弾したMTに向けてライフルを放つ。一機の撃墜を確認した後、残る二機目、三機目もライフルで迎撃した。

(ヘリは、ブレードで十分)

 残された輸送ヘリを、パルスブレードを振るって破壊した。

〈輸送ヘリの破壊を確認した。続けろ、621〉

 レーダーに近づく機影。襲撃の報せを受け、他の場所にいたMTたちが集まってきている。輸送ヘリはまだ残っている。近寄るMTをライフルで迎撃する。今回の依頼も、撃破した敵に応じて報酬が加算されるものだ。彼らには悪いが、近付くならば迎撃するまでだ。

〈あれだ、やれ〉

 輸送ヘリの護衛としてMT数機、戦車四台、ミサイル砲台も見える。戦車四台は、マルチロックで捉えてミサイルで撃破する。

〈敵襲! ACです!〉

〈死守しろ! ストライダーの同志を……、これ以上待たせるわけにはいかん!〉

 盾持ちが前衛として飛び出してくる。クールダウンが終わったブレードで盾ごと撃破していく。そして、邪魔なミサイル砲台をライフルで破壊していく。上空からの脅威を減らした後、残るMTをライフルやブレードで対処した。高台からロケットを放つMTの弾丸を避けつつも、輸送ヘリをブレードで破壊した。

〈クソッ……! 企業め……!〉

〈目標の破壊を確認した。次へ向かえ〉

「了解」

 高台から放たれるミサイルを避けつつも、高台へ飛んでいく。そして、その場を陣取っていたMTをブレードで撃破した。

(ここは……)

 目標地点へ向かうために、更に高台へと昇る。そこは見覚えのある光景。レイヴンのライセンスを獲得したあの広場だった。

〈来たぞ、応戦しろ!〉

〈相手がACでは、分が悪い……〉

〈臆するな! 我々はコーラルと共にある……!〉

 MTをミサイルで先制攻撃しつつも、ライフルで撃破をしていく。ルビコン解放戦線にとって、コーラルは資源の他にも信仰的観点を持っている。知識として、それは把握こそはしているが……

(コーラルから、何かが返って来るワケではないのに……)

〈……BAWSの四脚タイプが混ざっているな〉

 ウォルターの声に思考を止めて目の前を見る。二脚MT数機の間に、輸送ヘリを守るかのように四脚のMTが存在している。

〈これまでのMTとは性能が違う。無理に相手をする必要はない〉

「……分かった」

 改めて、四脚MTを確認する。大きさはACを優に超えている。肩にスナイパーキャノンを背負っていて、手にはショットガンとレーザーブレードを所持している。確かに、これまで相手取ったMTとは比べ物にならない耐久と火力を持っているようだ。だが、まずは周囲の二脚MTからだ。ライフルとブレードをもって撃破していく。

(それに……)

 あの四脚MTは、ログハント対象だ。ならば、可能であれば撃破したい。周囲のMTを片付けてから、改めて四脚と向き直る。響くアラートに合わせてクイックブーストを噴かせ、スナイパーキャノンを避ける。が、直撃を避けただけで完全に避けることは出来なかった。このまま、ライフルを撃ちながら距離を詰めていく。跳弾の音に、改めてあのMTの耐久性を思い知らされる。そして、四脚MTの右腕から青い光が伸び始め、大きく振りかぶり始める。四つの脚がバネとなって飛び込んでくるが、巨体ので大振りな動きはACの機動力の前では遅い。

すれ違い様に通り過ぎ、逆に背後からパルスブレードの二撃を入れる。すぐに四脚から離れ、ライフルとミサイルで追撃を行っていく。ショットガンの一撃を受けるが、APには余裕がある。リペアキットも三個残っている以上、まだ勝ちが見込める状況だった。

〈ACSが……、負荷限界だと⁉〉

 四脚の態勢が崩れた。すかさずに排熱が終わったパルスブレードを振るう。ライフルとミサイルの追撃を続けつつも、パルスブレードの排熱状況を確認する。態勢が崩れた四脚から、ブレードもミサイルも、スナイパーキャノンの追撃もない。ブレードの排熱が終わったと同時に、四脚に向けて突貫した。

〈馬鹿な……、この傭兵……。普通じゃない……⁉〉

 乗り手と思しき女性の声と共に、四脚MTは撃破される。普通ではないと言われれば、そうかもしれない。肉体が使えぬから、機能の諸々を機体に接続、転写して操作を行っているのだ。その乗り方は歪だと言われれば、そうなのかもしれない。

〈……四脚タイプをやるか。手慣れたものだな、621〉

 ウォルターから称賛を送られる。ウォルターに評価されるというのは、悪い気分にはならない。残されたのは、防衛戦力を失った輸送ヘリのみ。このまま残るヘリをブレードで片付けていく。

〈全てやったようだな。621、仕事は終わりだ。帰投しろ〉

「了解」

 最後のヘリをブレードで破壊すれば、ミッションの終了をウォルターが告げる。ふと、見覚えのある広場のクレーターに機体を走らせる。

(……無くなっている?)

 一撃で落とされただろう輸送ヘリの残骸。ヘリの火は残っているが、輸送中だっただろう機体の姿が無かった。何者かに、あのACは回収されたのだろうか。

「……ウォルター」

〈どうした、621〉

「このライセンスを拾った機体が、無くなっている」

〈元の持ち主が回収したのか、解放戦線のゲリラが回収したのか……。ライセンス横領が発覚した場合も想定している。お前が気にする必要はない〉

「……分かった」

 ウォルターが気にするなと言えば、気にしないだけだ。オールマインドに戦闘ログを送信し、輸送ヘリの迎えを待つことにした。

 

 

「戻ったか、621」

 輸送ヘリに帰投し、カサブランカを通常モードに移行させる。コクピットから降りれば、ウォルターがタラップに立っていた。

「うん、戻った」

「調子はどうだ」

「問題ない。少し、疲れただけ」

「そうか……」

 淡々としたやり取り。621もウォルターも、何気ない日常会話というものは、あまり得意では無かった。必要なことだけのやり取りは、幼い少女と初老の男性のやり取りではなく、飼い主と飼い犬といった関係性の方が近かった。

「……企業にとってルビコン解放戦線は、コーラル調査領域を拡大するための障害となる。ルビコニアンから見れば、お前の行いは侵略への加担と映るだろうが……」

 カサブランカを見上げながら、ウォルターは語る。それに合わせるように、621もカサブランカを見上げた。曲線的なフォルムが特徴のパーツで構成された機体。鈍色だったそれは、純白と要所に黒が配色された色に染められ、ライトカラーも青く光っている。そして、カサブランカという機体名もウォルターが名付けたものだ。このカラーリングと機体の名前は、621をイメージして配色や名付けを行ったらしい。

「……それも仕事だ」

 この言葉が、現在行っていることに対する返答だった。自分たちには、目的がある。ウォルターはコーラルを手にすること、付随して621は人生を買い戻すこと。その目的を果たすために企業に雇われ、傭兵として活動をしている。それは、ルビコニアンからすればたまったものではないだろう。

 ウォルターはどこか、善性を隠しきれないところがある。感情も思考も鈍くなっている621でも、ルビコン解放戦線を相手取るにはどこか違和感を覚えている。621より、真っ当な感情や思考をしているウォルターからすれば、何も思わないは出来ないのだろう。そんな彼だからこそ、着いていくという指示を聞いているのだが……

「……今日はもう休め。今夜はグラタンだ」

「――、分かった」

 告げられる夕食のメニューに、少しだけ気分が高揚した。気がした。

 

 

「621、仕事だ。アーキバスグループから公示が出ている」

 翌日、ウォルターから告げられる。タブレット端末を取り出して確認する。アーキバスからの依頼ならば、音量は調整しなくていい。ベイラムからはこちらの働きは評価されているが、アーキバスからは評価されていないということだろう。あまり、関係の無いことだが。

〈独立傭兵各位。これは当社系列企業、シュナイダーからの依頼です〉

 落ち着いた青年の声が、淡々と内容を告げていく。

〈我々と敵対関係にあるベイラム系列企業、大豊がテスターACを導入しました〉

 表示されるのは、大豊製パーツで構成された機体だ。見た限りでは、重量二脚型だろうか。

〈外部アーキテクトへの委託によりアセンブル最適化を施したテスターACは、熟練のパイロットに渡れば無視できない脅威となります〉

 武装は見えている限りでは、バーストアサルトライフルとブレード、二連ミサイルと言ったところだ。テスターもあって、武装は乗り手にとっても扱いやすいものが選ばれているのだろう。確かに、この機体が熟練のパイロットの元に渡り、より乗り手に最適化された武装調整がされれば脅威に成り得るポテンシャルを秘めている。

〈そこで依頼です。当該機体の輸送を狙い、これを撃破していただきたい。アーキバスグループは、各位の奮闘に期待しています。ブリーフィングは以上です。よろしくお願いします〉

 ブリーフィングが終わる。今回は、これまでとは違う。相手はMTではなく、ACだ。

「相手は試供サンプルとは言え、ACには変わりない。気を引き締めていけ、621」

 ウォルターも、考えていたことは同じだったようだ。性能も同じという訳ではないが、同じACとしてカテゴライズされている同規格存在との戦いだ。少しだけ緊張しながらも、621はカサブランカの出撃準備を始めた。

 

 

〈メインシステム、戦闘モード起動〉

 汚染市街に投下される。ターゲットから見て、ほぼ高所とも言えるビルの上だ。既に、眼下の目視圏内に目標が確認できる。

〈ミッション開始だ。目標を捕捉した。621、仕掛ける好機だ〉

「了解」

 詳しい様子は見ることは出来ないが、護衛らしい戦力も無い。輸送ヘリも非武装のものだ。そして、眼下の戦場は広い。テスターACと一騎打ちを行う分は問題ない。ならば、行くまでだ。

 ブーストを噴かせて、対象と距離を詰める。一旦水辺に着地を挟んでから、再度ブーストを噴かせ、アサルトブーストで一気に距離を詰め、ライフルで先制を取りながら、ミサイルを放っていく。普段はマルチロックで分散されるが、放たれる四発は全てテスターACへと向かう。

〈てっ……、敵襲⁉〉

 着弾から回避行動に移るテスターAC。アサルトブーストを噴かせて接近したこちらと一度衝突する。すかさず、距離を取ろうとするテスターACに向けてブレードを振るって距離を詰めた。

〈解放戦線……。いや、独立傭兵か⁉〉

〈相手は輸送にアサインされた訓練生に過ぎん。だが、油断はするな〉

「了解」

 言われるまでもなく、攻撃の手は緩めない。ブレードの排熱が終わるまでの合間にライフルとミサイルで攻撃を続ける。相手の動揺も落ち着いたのか、バーストアサルトライフルの銃口をこちらに向けて来た。

〈やってやる……! 俺だって訓練は受けてるんだ!〉

 ブレードのチャージが終わる。パルスブレードを振るおうとしたが、自動追尾システムを利用された。輸送ヘリの裏にテスターACが移動する。その結果、輸送ヘリを盾にブレードの攻撃を空振りにさせられたのだ。

〈レッドガンの正規パイロットに……、この機体を届けるのが……。俺の……!〉

 やはり、ACの特性を知っている者同士の戦いは違う。MT相手には猛威を振るっていたブレードも、距離を詰めるブースト移動は自動追尾システムの補正を受けている。一度起動してしまえば、限界まで移動するまで停止させるのは難しくなる。あまり意識したことがない欠点を突かれた。

 テスターACの背中からミサイルが放たれる。二門のミサイル、その軌道はゆっくりとしたものだが、追尾性能はこちらが扱っているミサイル以上だ。回避運動のタイミング、距離、方向を気を付けなければ直撃する。

(でも……)

 相手は地形を把握する余裕が無いらしい。ところどころ、建物に引っかかって行動が阻害されている。ライフルとミサイルの攻撃を続けつつも、排熱が終わったブレードでダメージを与えていく。地形の不利から脱しようと、テスターACがブレードを振るう。こちらではあまり使わないチャージ攻撃による大振りな攻撃だ。だが、あの機体は重い重量二脚、ブースターの推力もあまりよろしくないようだった。空振りをした隙に、こちらも廃熱が終わったブレードを叩きこんだ。

〈ACS負荷限界だ。直撃を狙え〉

「了解」

 体勢が崩れた隙は逃さない。ライフルとミサイルによる追撃を行っていく。

〈畜生……、こんなところで死ねるか……!〉

「っ⁉」

 窮鼠猫を嚙むとはこのことか。クイックブーストのすれ違い様にテスターACがパルスブレードを振るってきた。チャージによる大振りではなく、こちらが普段使いしている連撃の一撃だ。その初段を受けてしまったが、二撃目は回避した。すぐさまテスターACと距離を取り、ブレードを振るった硬直状態に向けてライフルとミサイルを放っていく。そして、排熱が終わったブレードで先程の一打の仕返しをした。

(あと、少し……)

 相手の機体から火花が散っている。ライフルとミサイルによる牽制を続け、ブレードの排熱時間を稼ぐ。排熱が終わったことを確認し、テスターACに向けてブレードを振るった。この一撃は、決定打になった。斬られたテスターACの手から武装が離れて行くのが見えた。

〈ああ……、俺も……〉

 ゆっくりと、テスターACが火花を散らしながら膝を付いていく。

〈コールサインが、欲しかったなあ――〉

 ノイズが混ざった通信が途切れ、テスターACは目の前で爆炎を上げた。あの様子から、脱出は間に合わなかったようだった。

〈……敵ACの撃破を確認した。621、仕事は終わりだ。帰投しろ〉

「……了解」

 炎を上げ続けるテスターACを、帰投するまで621は見続けていた。

 

 

「……」

 就寝予定時間はとうに過ぎている。だが、621はどうしても寝付けなかった。先程のテスターACのパイロットのことが脳裏を過ぎっていく。

(人殺しは、これまでもやってきたというのに……)

 テスターACだけではない。ルビコン解放戦線や、これまで受けて来た依頼で立ち塞がった有人機全てに人間が乗って、戦っているのだ。自分の目的のために、今を生きるために彼らは武器を取って戦っているのだ。それは、分かりきっていたはずだった。そのはずなのに、今になってその全てが伸し掛かってきたのだ。

「……」

 寝台から身体を起こし、備え付けのモニターを操作し、ウォルターにコールを入れる。まだ起きていたのだろうか。すぐに繋がった。

〈どうした、621。眠れないのか〉

「……うん」

〈少し待て、そちらに向かう〉

 そういうが否や、通信が切れてしまった。壁に背を預けるようにして三角座りをして、ウォルターを待つ。先日に買ったパーカーは部屋着の上に羽織るようにして着用している。寒さは軽減され、少しは快適となっていた。暗い部屋をしばらくぼーっと眺めていれば、ドアをノックする音が聞こえた。寝台から降り、ドアを開けばそこにはティーカートを押してきただろうウォルターの姿があった。カートの上には、621とウォルターが用いているマグカップがある。ホットココアの香りがした。

「……運ぶの、手伝うのに」

「構わん。お前は休息を第一に考えろ」

 それでも、ウォルターの負担を減らすために自分のマグカップは取っていく。それを見たウォルターが自分の分も手に取った。そのまま二人は寝台の端に並んで座った。

「……お前が撃破したテスターACのことか?」

 こくりと、621は頷いた。マグカップ越しに、人造の手にホットココアの温もりを感じる。

「あれはベイラム専属AC部隊、“レッドガン”に届けられるものだったようだ。レッドガンはベイラムの主力。所属隊員の実力は折り紙付きだ。頭に入れておけ、621」

 レッドガン。先日に資料で見たベイラムが保持するAC部隊の名前だ。ならず者の集団の印象を受けていたが、ウォルターがこう言うのならば実力は確かなのだろう。

「……お前とあの訓練生、どちらも仕事を行った。その上で、生き残ったのがお前だった。それだけだ」

「……分かってる」

 そのことは、分かっているつもりだ。だが、理解はしていても、どこか違和感が残り続けるのだ。これは、ずっと引っかかっているものだった。

「……気にするなとは言わん。解放戦線や、あの訓練生に対して、思うところがあるのだろう?」

「……うん。それがなんなのかは、分からない」

「それは……。お前にも、感情が戻り始めた兆候だ。お前が抱いているそれは、罪悪感だろう。真摯に向かってきている相手を屠ることへのな」

 罪悪感。それが、ずっと引っかかっていた違和感の正体なのだろうか。相手にも、生きたい、死にたくないという理由がある。それを、仕事だからと問答無用に屠ってきた。それで、本当に良かったのだろうかと過ぎる雑念。このような傲慢が、罪悪感という感情の正体なのだろうか。

「……兵器に、感情は要らない」

「お前は強化“人間”だ、621。無人機の有機物パーツではない」

「……」

 ウォルターの灰色の目が、こちらを見ている。何かしらの、強い意志や覚悟を宿した瞳。いつもの優しい光ではなく、咎めるかのような目だ。ウォルターは、自分が兵器であると言葉にする度に、そのような目になる。彼から見たら、戦う以外の機能は無いに等しく、このような義体が無ければまともに生活の真似事が出来ない状態であっても、人間に変わりないのだろう。やはり彼は、あまりにも献身的で優し過ぎる。

「……罪悪感を抱くことは悪ではない。傲慢であると思わなくていい。このような手段でしか目的を達成できないことに対し、引け目がある。それがあるだけで良い」

 罪悪感を抱くことは、悪い事ではないらしい。そう言われ、安堵する自分がいる。ホットココアを口にする。少し冷めてしまってはいるが、それでも暖かい。寒冷地のルビコンⅢにおいて、温もりは何よりも心安らぐものだった。

「……簡易的に、死を弔うやり方もある。弔いは、一種の割り切りを行うための儀式だ。それで少しは、お前も整理がつくだろう」

「……。ありがとう、ウォルター」

 違和感に対する対処法がある。それだけでも、多少は精神面がマシになる。ホットココアを飲み切った後、簡易的だが祈りを捧げる動作を学ぶ。ようやく訪れた眠気に、完全に意識が落ちるまでウォルターは側にいてくれた。

 

 

 621を寝かしつけたことを確認してから、ウォルターはティーカートを押して彼女の個室から立ち去る。ほとんど無機質な人形のようだった彼女が、少しでも自分達が行うことに違和感を抱いてくれた。これは、兆候としては良い方向だ。少なくとも、彼女を戦場から解放させるには必要な違和感だ。酷な事を強いてしまうことに、こちらの罪悪感は増すばかりだが……

マグカップの洗浄が終わったところでコールが入る。通信相手は、懐かしい名前があった。先程送った相談についての返事だろう。

〈いつ以来だ、ハンドラー・ウォルター!〉

 G1(ガンズ・ワン)ミシガン。かつて、ウォルターが木星で暮らしていた際の友人にして、兄代わりのような存在だ。今は、レッドガンの総長を務めている。少なくとも、六十を超え始めた自分より年上のはずのミシガンだが、相変わらずのようだった。

〈貴様の猟犬にはクソほど煮え湯を飲まされた。よくも抜け抜けと連絡してこれたな〉

 思わず苦笑する。617達は、ミシガン率いるレッドガンと依頼の関係上ぶつかり合うこともあった。記憶に新しいのは、G5(ガンズ・ファイブ)に喧嘩を売られたらしい620がその喧嘩を買い、G5(ガンズ・ファイブ)諸共目標を殲滅したことだろうか。617に叱責されながらも、相手が悪いと頬を膨らませていた620。呆れる618、マイペースな619。そんな日々も、遠いものとなってしまった。

「ミシガン、こちらの提案だが……」

〈……うちの役立たずどもと同じ扱いで構わんのだな? 女子供であろうと、容赦するつもりはないぞ〉

 ミシガンに連絡を行ったのは、彼が率いるレッドガン部隊と621を共闘させることだった。事前に、ミシガンには621は二十代前後の女性であり、現在は子供の義体を用いていること、強化手術の影響で記憶、経験、感情が白紙状態となっていて精神年齢も子供の義体に影響を受けていることは伝えている。

「第四世代は感情の起伏に乏しい。あいつには外からの刺激が必要だ」

〈ならば決まりだ。うちからはヴォルタとイグアスを出す〉

 ミシガンも事前に伝えた情報から考慮してくれたのだろう。621と同じ第四世代手術を受けたG5(ガンズ・ファイブ)イグアスと、イグアスの友人たるG4(ガンズ・フォー)ヴォルタ。ミシガンが“青少年の健全育成”の名の元に身元を引き取り、手塩をかけて育てている若者たちだ。G5(ガンズ・ファイブ)イグアスは、620と同レベルかそれ以上に人間らしい感情の発露をしていると聞く。彼らから、621も何か刺激になるものがあれば良いが……

〈貴様の新しい猟犬、レッドガンの流儀で迎えよう〉

 通信が途切れる。だが、通信越しでも、あの時のミシガンの表情が分かる。ニヤリと、ほくそ笑むベイラムの歩く地獄。彼の実力、人格共に最大限に信頼できるものだ。感情の芽が出始めた物静かな621には、騒がしいくらいが丁度いい刺激になるはずだ。自分も621も、ミシガンやレッドガンのような騒がしさは無い。故に、彼らに一度預けるというのは、621の視野を広げるためにも必要なことだった。彼らに馴染むか、馴染めずに拒否感が出てきても、無反応よりはずっと良い。ミシガンも、相手が可憐な少女であろうとも加減をするようなヤツではない。

 レッドガンとの共闘、それがあの少女にどれだけの影響を与えるのか。そう考えながらウォルターも睡眠を取ることにした。

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